吹雪と名乗った彼女は、セーラ服を着ているからか年相応の中学生のように見えた。きっと、由紀ちゃんが中学生になっていたらこんな感じだったのだろう……。
「な、なるほど、吹雪“さん”か……。その、特型駆逐艦というのはなんだね? 」
「はいっ!! 私は艦船として戦前、日本海軍の駆逐艦として建造されました!! 特型駆逐艦というのは、私が艦船時代だった頃の名残です!! 」
……この常軌を逸した回答は何だろうか?一般的な面接の場だったらこの時点で不採用決定だ。だが、私は隣にいる案内人の様子を窺うと、ニコニコしてさも当然かのようにしている。
「君は……、どこかの娘さんだよね。出生場所と本名を教えてくれないかい?今後、上官として親御さんに連絡することもあるだろうから……。」
「……えっと……」
彼女は回答に困っているようだ。すると隣にいた案内人が喋り始めた。
「吹雪ちゃんは、吹雪ちゃんだよ。舞鶴で生まれて、本名は特型駆逐艦一番艦「吹雪」だ。で、その艦船が人間として現世に蘇ったんだ。それが艦娘。そしてその一人が吹雪ちゃんなんだよ。わかるかな~。」
「……いや、しかしッ!! 」
「深海棲艦がッ!! どんなものであったかッ!君は知っているかい?……深海棲艦はね。沈没した船の魂と残骸が現世に現れたものなんだよ。艦娘も深海棲艦と原理は同じさ。だけど、艦娘は突然あわれて人類の味方をしてくれたんだ。これが事実。だ・か・ら、君が考えているような浅はかなものじゃない。今起こっていることはね。科学技術では証明できない事ばかりなんだ。 」
突然、案内人は怒鳴り始めた。詮索はするなという事らしい。
「……わかり、ました……。」
「フフッ、解ってくれたようで何よりだ……。じゃ、吹雪ちゃんと君は……そうだなぁ~。第一軍管区の新設第34鎮守府に行ってもらおう。 」
第34鎮守府とは何処だろうか。第一というと、北海道のはずだが……。
「了解しました!! 」
「…………」
吹雪さんはニコニコしている。私は無言で敬礼をした。すると案内人は、ニタァと笑い「じゃ、お開きね。」と言った。
軍隊における上官からの命令は絶対である。余計な詮索は自分の進退を傷つけることになるのはわかっていた。だが、流石にあれはどういうことなのか。そして、吹雪さんが由紀ちゃんとそっくりなのは他人の空似か、それとも何かあるのだろうか。
私は吹雪さんとこれから行う生活を、非常に不安に感じる事になった。
翌日
大本営のある松代からは、東京まで新幹線が走っている。そこで大宮まで行き、東北新幹線に乗り換え、青森まで着くと連絡船に乗って函館へ。それから列車で移動し、札幌を経由して我が鎮守府となる留萌まで行く予定である。……これは左遷なのだろうか。
長旅になるので航空機でいけないのかと尋ねると、燃料の問題で一般輸送は行っていないようだ。鎮守府に配属されるというのに私は一般なのか?という疑問は出てきたが、何はともあれ、出来るだけ地上輸送を使うしかない。
長旅では昨日就任式であった10人うち5人と東京まで同行し、青森までに3人と別れ以降は単独となる。
これからは吹雪さんの上官となり、或いは歳が結構離れているように見えるので、保護者ともいえるのではないだろうか。だからこそ、これから長旅というのに吹雪さんは前回と同じくセーラー服できたことに少し苦言を言いたかった。因みに他の艦娘も似た格好をしていた。
「吹雪さん……もう少しスカートを下げることは出来ないかい?」
「いえ……、これは大本営からの支給なので、丈を伸ばすことはできません。司令官!! 」
朝っぱらから元気が良くていいが流石にこれはなぁ~。パンツ見えちゃうでしょ……これを支給しているとか大本営は変態なのか?
「君のバックの中にそれより長いスカートはないのかい?」
吹雪さんのバックパックはパンパンで、開けることは忍びないと思っていたが、仕方がない。
「いえっ、寝間着しかありません!! 」
即答かよ。まあ、しょうがないか……。
辞令書を見ると何か問題が無い限り、3日間で鎮守府に着任すべしということが書かれている。他の代表もそれなりに時間はあるから、大宮付近で一旦おり他の代表も一緒に降りて丈のあるスカートを買うことにした。
松代駅からは男衆が一列に、その前に艦娘が一列に乗車した。
5人には一人づつ艦娘が付いているが、この先彼女たちが、一堂に会することはもう無いかもしれない。きっと長い間、どこかの教育機関で寝食を共にしてきたのだろうから。この時を大事にしてほしいと思い、だからこの配置にした。
……新幹線が松代駅をゆっくり滑り出すと、艦娘たちはジッと窓を向いている。
私も、もうこの場所に来ることはないかもしれないと思いつつ、街が流れゆくのを見ることにした。
車窓に映る景色はまだ長野の平野部で、他の地域から疎開して来た住民の住宅群がひしめいてはいるものの、比較的安定しているように見えた。だが、高崎を超えて、大宮付近まで来ると、ぽつりぽつりと被害が出て来ているよう見えてきており、スカートは買えるだろうか不安になる。
駅員に付近で衣料品を売っているところはないかと聞くと、近くにあるといって地図を書いてくれたのだが、駅前を歩くと、破壊されたビルやプレハブ、そして段ボールでできた家が広がっていた。こんなところに服屋があるのかと思ったが地図通りに行くと、半壊したビルの中に服を取り扱っている店があったのである。正直驚いた。
ただ、品ぞろいは悪い。吹雪さんや他の艦娘の制服にも似合うようなスカートはなかった。そこで少しでもと思い艦娘の服に合うように、学生用のセーラ―服のスカートを買うことにした。どこぞの学校のスカートかわからないが、そこから艦娘に選ばせることにしたのである。
艦娘が選びながらキャッキャ騒いでいるのを見ていた代表達は、少し遠くで彼女らを見ていた。
「……あの子たちはこれからバラバラになって、自分の任務を務めなきゃならない。新幹線の時もそうだったが、俺は教育隊時代を思い出したよ。」
と田中中尉が言うと、佐藤少尉が
「大石中尉も粋な事をしますよね。最後に服を選ばせるなんて。彼女達今までこんな経験したことないんじゃないですか?」
と言うので、私は
「こんな事になるとは思っていなかったけども、彼女らのスカートって短いじゃん。あれは流石に不味いと思ったんだよ」と返した。
しかし、艦娘が選んでいたスカートを最後まで見ていた竹林中尉が言った言葉で4人は凍り付く。
「我々が軍人だと解ったのか、店員は喜んで上物の服を出したようだぞ。値段を見たんだが、一番高いもので五万している。」
「ごッ!五万!? 」
我々軍人の月収は月々手取りで5万である。最近関東を解放したため、物価が高くなっているが、そのくせ、賃金は据え置きのままなのだ。やってられっかと思う。
「さあ、誰が五万を掴むか賭けでもしようか? 」
「お前、そんなことをしてられるのか!?」
主に財布の事情で、である。
「えっ!!俺、電車賃含めて7万しか持ってきてないぞ!! 」
買えないとかと言って面子を潰されることは恥ずかしいはずだ……。
私の財布の中には、幸い現地では銀行が機能していないとの話があったため、20万は持ってきていた。だが五万はいたい。吹雪さんよ5万を選ぶな!選ぶな!!
「司令官!! 」
おおっ!!吹雪さんが選び終わったので私の元にやって来た。それこそ満面の笑みでやって来た!!
「フッ!フフッ!」
吹雪さんのスカートを見て、息を殺すかのように竹林の奴が笑っている!! これ五万するのか!?
みんなが見守る中、カウンターまで持って行く……。小さい頃、寝小便をしたことをお袋に言う時みたいに、凄くドキドキする。これ久しぶりの感覚だ!!
「5万5千円になります!! 」
店員が隠された値札を見て無慈悲な笑顔で言った。……きっと、ふ、吹雪さんは破れにくい上等な服を買ったに違いない。
「うん。よし。買ってあげよう……。」
「ありがとうございます。司令官、大事にしますね!! 」
もう~大事にしてくれないとホントに困るんだからね!
「じゃあ、膝ぐらいの長さで仕付けをしてもらって、試着室で着替えてきなさい。」
私は店員に、高い買い物をしたんだから、仕付けぐらいしてくれよなと目で言うと、苦笑いで店員は対応した。
吹雪さんが試着室に行った後、私は代表達のもとに向かった。彼らからはまるで勇者の如く迎えられた。