深海棲艦・艦娘・大本営   作:ヤップ

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「艤装・装備開発に関わる開発資材の調達ガイドライン」


第六話 対潜戦闘

 第一水雷戦隊の駆逐達は外洋のうねる波を滑るように進み、白波を文字通り蹴って津軽海峡が迫る北へ進む。横からの絶え間ない海風と前からの航行風は彼女たちの髪を強くなぞって去っていく。……だが見上げる空は高く青く、眼前の海上は太陽の眩い光が波に反射し瞬いていた。

 

「尾崎灯台が見えてきたよ!!」

 皐月が風で荒れている髪を左手でかき上げながら右手で灯台を差して言う。

 

 七里浜と海峡の間には4㎞ほどの小さな半島があり、その半島の山にはモルタルで建設された10mほどの白い尾崎灯台が設置されている。この灯台は単に灯台としての役割よりは電波塔としての役目が大きく、大部分の電波帯が“水中回路”により電波妨害をされている現状では貴重な通信手段の一つ、サブミリ波が発信されており、沿岸を航行する艦娘にとっては重要な戦略拠点となっていた。

 灯台に近づくと旗艦白雪が、携帯した無線機の電源を点けてあらかじめ確認した周波数を入力後、交信を開始した。

 

「こちら、ビーチ01。どうぞ」

「…………」

 コールサインは七浜長浜鎮守府所属なのでそのままの「ビーチ」になっている。ちなみに鎮守府のコールサインは「セブンビーチ」である。

 

「こちら、ビーチ01。どうぞ」

「ビーチ01、こちら津軽KC(※津軽艦娘管制)…感度良好…送れ」

 2回コールをした後に海峡司令部が出た。無線はいわゆる『水中回路』の影響を受けて雑音が酷いが、灯台から受ける近距離からの強力なサブミリ波はそれを凌ぎかなりクリアに聞こえる。

 

「津軽KCこちらビーチ1。敵との会敵予想をお願いします。どうぞ」

「ビーチ1、こちら津軽KC…確認する…通信待て」

 数秒の後交信が再開する。

「ビーチ1、敵との会敵予想を通達する。どうぞ」

「こちらビーチ1、通信を確認」

「敵の現在地点は北緯21分39秒、東経19分47秒。西南西に向かって航行中。貴戦隊の現在状況であれば航路を北西方向に変更後10分後に接敵予定、幸運を祈る」

 

「了解!! 通信終わり」

 海峡上を進む深海棲艦の位置は羅針盤の観測による三角測定でわりだされ、艦娘も遠洋でなければ艤装に付けられたGPSにより挙動が逐次観測が行われている、それらかき集められる情報全てがリアルタイムで作戦室には送られている。

 

 第一水雷戦隊は尾崎灯台を通過後、北西方向に航路変更を行い沖合に出た。みるみる沿岸は遠くなりぼやけて見えなくなってくる頃、代わりに遠方のためゴマ粒ほどの船影が右方向からやってくるのが見え始めた。

 

――有史以来、初めて人類を海から追い出した敵――

 

――深海棲艦である――

 

「見えた!! 」

 旗艦白雪が声を張り上げ敵を発見する。すると艤装のマストに戦闘旗が躍り、深雪、皐月にも戦闘旗が挙がった。白雪が深海棲艦の方向に指をさすように砲塔を向けて合図をする。艦娘は高速航行中であり、しかも陣形の都合上10mは必ず離れているため一人一人の声が聞きとりにくい。そこでそういった時の交信には主にジェスチャーと簡単な交信旗が使われていた。

 その間にも深海棲艦と水雷戦隊は接近をして、ゴマ粒が大豆ほどの大きさまで見えており戦闘開始距離まであと3~4分という頃である。皆、この間戦闘に入る前の緊張で敵を凝視した。

 ……相手は潜水艦である。幾重にもある防衛線を突破して海峡を踏破しようとしているこの敵がツワモノであることは間違いない。相手の数も4隻でこちらは3隻と数の上でも負けている。正直、今日着任した竹林と一緒に配属される叢雲が待ち遠しかった。

 

 冷や汗か、水しぶきか、深雪の頬からホロリと玉のしずくとなって落ちる頃、皆が敵の異変に気付き始めた。敵のうち2隻が中破に値するほどの損傷を負っており、そのほかの2隻も戦闘には支障がないが多少の傷を負っているのである。しかも潜水艦であるのにこちらが近づいても中々潜水しようとしない。

 この水雷戦隊には情報が入ってきていないが連絡船襲撃の時、すでに6隻のうち1隻が撃沈、2隻が中破そして小破の損害を受けていて、さらに海峡途中では事前に仕掛けられていた対深海機雷に当たって1隻が撃沈し残る敵も何らかの損害を受けて小破以上の判定を受けていた。何分、水密を必要とする潜水艦には痛い損害をすべての敵艦が受けていたのだ。

 

「なかなか、潜水しないな……」

 深雪はこの戦闘が楽に終わることを予想し始めていた。

 潜水艦の武装といえば、魚雷と付属する機銃くらいのものである。

 魚雷は潜水艦の位置が掴めれば回避が出来るし、付属の機銃ごときでは艦娘の防御装甲を破壊などできない。そしてこちらは駆逐とは言え、水上のエキスパートである。

 

 そう思っていると白雪が単横陣から単縦陣へと陣形変換命令を出してきた。

 敵が潜水しない内にたたくらしい……。

 

――勝てる――

深雪はニヤリと口角を上げた。

 

『砲撃用意』

 単縦陣の先頭にいる白雪は声を挙げて信号旗も掲げる

 12.7㎜連装砲の安全装置は解除され、搭載された右手のレバーにはすでに指が掛かり今か今かと射撃の合図を待つ。ちなみに艦娘の砲塔は敵を設定すると、照準は砲が勝手にやってくれる。

 

 白雪は天高く左腕を挙げた。

 腕を下ろすとその瞬間から砲撃が始まる。

 

 戦隊は砲塔を敵に向け、あとは白雪の左手一点を見つめて……。

 一波を越えようとした時、バサリと腕が下がった

 

 刹那、戦隊の砲塔は敵に向かってけたたましい砲声と炎を噴き上げ思い思いに砲弾を撃ちだした。

 

 強力な駐退機が備え付けられている砲塔と艤装からの補助システムは砲塔の強い反動を小娘の体をしている艦娘にも容易に耐えられるまで抑えてくれる。おかげで艦娘は腱鞘炎にもならずに砲弾を発射していく。

 

 砲撃から2、3分もしない頃、敵の旗艦が突然炎上し黒い煙を上げ始めた。抵抗が出来ず一方的にやられる旗艦の姿を見た敵の僚艦は怯えと憎しみの表情を艦娘に向け、そう遠くない距離にいる艦娘達へなんと潜水行為もせずに自らの魚雷を“抜き取って”艦娘へと目標もつけずに投擲をしたのである。ただでさえ損傷しているのに自傷行為までもしての必死の抵抗である。

 だが、艦娘が敵本体を見ている限り、雷跡もすぐに発見される。

『雷跡発見!! 面舵!! 』

 旗艦の白雪が声を挙げて右へ腕振り回頭すると、深雪と皐月もついてゆく。左舷方向に雷跡を引いて魚雷は走っていった。

 

『取り舵戻せ!! 』

 元の進路に戻して再度砲撃を再開すると、この間に集中砲撃を受けた旗艦は撃沈し敵は残り3隻になっていた。

 

『砲撃最後尾に集中、魚雷発射用意』

 旗艦を撃沈した今、――脅威――と言える存在はすでに戦力的には低いと判断できる最後尾の小破状態である潜水艦しかない。一先ずこれを攻撃して敵艦隊の戦力を完全に消失させる。

 一方的にやられる潜水艦は、もはや腕をまえに頭を守るようにしてこちらにかざす。……まるで過去の深海棲艦に追われる人間のようで哀れだ。

 

――だが、容赦はしない――

 

『魚雷発射!! 』

 白雪の合図とともに3隻の駆逐から放たれた魚雷は敵目掛けて海中を穿つ。雷跡も見えづらく小型羅針盤を搭載した言わば追尾魚雷はそのまま敵の足元に吸い込まれるように進んでいき、大きな水柱を3つあげた。

 

「やったぁ!! 」

「よぉーし!! 」

「これで、海戦勝利三戦目だよっ!! 」

 敵の殲滅を確認後、緊張の糸が解けて戦隊は歓声を上げて喜ぶ。

敵は吹き飛ばされ跡形もなく沈んだ。だが付近には残骸も浮かんでいる

 

「…さて、やろ?」

「この作業がなければなぁ…」

「しょうがないよ。大事なことだから」

 勝利の喜びにも冷や水を浴びせるように戦闘後の作業が待っている。艦娘たちは残骸に向かっていき、浮かんでいる「使えそうなモノ」を拾っていく。

 

「げっ! 腕が付いてる! 」

 深雪が拾ったものには敵の破片がごっそりとついている。よくあることだが、深雪は苦手だ。

 

「どれどれ、ここに軟骨があるからここを切って肉を削ぐと、ほら!簡単に抜けるよ 」

「……し、白雪はどこでそんなこと覚えてくるの?」

「えっ? う~ん、料理かな?鶏とか裁くときのやり方とか勉強になるよ!! 」

 深雪は引きながら聞くと、白雪は笑いながらこう答えた。確かに白雪は料理をすることが多い反面、こういった小技を磨くことができるのかもしれないが、なんとも言えない気持ちになった。

 

 

 

 

 艦娘が深海棲艦の残骸を集めることにより、人類がまだ開発出来ていない重要資材である開発資材を得ることができる。なかには被害を受けずにそのまま使用できる鹵獲品もあることから、戦力の増強となるこの回収作業は戦闘の次に大切な作業の一つとなっていた。

 

 

 

 

 

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