でも、むろみさんは6ページ連載漫画なのでこれでよし(言い訳)
ちょっとだけ昔の話。ある砂浜に一人の人魚が転がっていました。
釣り人の捨てて行った釣り糸と釣り針が身体に絡まってしまい身動きがしづらい状態だったのです。
そこにメガネをかけた男子高校生が通りがかりました。彼の名は、大橋。海岸清掃のボランティアに参加するちょっと物を考えている男。
「ちょっとそこの御方、ちょっと助けてくれんかいな?」
自力での脱出が面倒だった人魚は、大橋に助けを求めました。それに大橋が快く応じると、人魚は続けて言いました。
「ゴミ拾いのボランティア? そんな無駄な活動して」と。
助けた亀ならぬ人魚に、自分の活動をけなされては大橋もムッとします。
汚染物質や、プラスチックごみ、それらの不法投棄によってどれほどの動物が苦しみ絶滅に追いやられていると思っている。お前だって今捨てられていた糸のせいで大変だったではないか、と。
人魚は言いかえします。「食べられないものを口に入れるようなバカは滅びるのが自然。愚者は絶え、賢い者だけが生き残る、それが自然の摂理」、と。
弱者の救済。そんなお題目を並べての独善的な活動の方こそ自然の摂理に逆らう行い。人魚のそんな言葉に、大橋は唸ります。
「それでも、助け合いの精神を失くしてしまっては人間に未来はないような気がする」
大橋は続けます。この活動は動物愛護というだけではない。人が自分で出した汚れを、自分できれいにしようとしているだけ。形あるものはいつか必ず滅ぶ。
それでも、その時を少しでも伸ばしたい。
「大袈裟かもしれないけれど、このポイ捨てが人類滅亡の第一歩のような気がするんだよ」
人魚は感心しました。貶し、無駄だと言い、摂理という逃げ道を置いた。それでもどうにかしたいと言った大橋の姿に。
「いやあ、立派な考え方の持ち主やねぇ。あんたみたいのがおるんなら、
それから、およそ百年。星は汚れきっていた。
人類は自重せず、自浄できなかったのだ。
そこで神々は、汚濁に塗れた星を浄化することにした。
まず、天空より火の星が落とされ、大地の上にあった一切の不浄が焼き払われた。
次に風が逆巻いてそれらを吸い上げ、さらに水がすべてを覆いつくす。
過去、幾度も訪れた洪水伝説の再来である。
新しい大地が、新たなる神々の子らが生まれくるまで、世界は海に包まれた。
ある神がそれらの処置が終わったあとに、こう言った。
「あ、ヤッベ……海水の塩分まで消しちまった……」
◇ ◇ ◇ ◇
「なんだか、壮大なような、そうでもないような話があったような気がする……」
あれから三日、モモンガは未だに釣れていなかった。その間は、リヴァイアさんから怪しげな昔話を聞いていただけである。
それはそれで、それなりに楽しんではいたけれど。
「ユグドラシルが、ロキ神の仕組んだ人類の救済策とかウソクセー……」
リヴァイアさんは、相変わらずゴロゴロしていた。
「ウソじゃないっちゃよ。モモンガはうちが信じられんと?」
「いや、そういうワケじゃないですけど。なんか、実感が湧きませんよ……」
みんな、ずっと昔に滅んでいたなんて。
今のこの世界に居る人類は、鈴木悟たちとは異なる種類の人類だなんて。
なかなか信じられるものではない。
「昔と比べて、月が大きく見えん?」
「いえ、月ってまともに見たこと無くて」
鈴木悟の暮らしていた場所の黒くかすんだ空では、月もまともに見えはしなかった。ましてや星空なんて代物、モモンガはゲームの中で初めて知ったぐらいだ。
「そか。昔より月がおおきーんはな、ちょっと星を落としたからなんよ」
「そんな記憶ないですけどね」
「モモンガの魂はゲームの中におったんやろ?」
「ええ……そう、なるのかもしれません」
モモンガは改めて、自分の身体を見た。骸骨の、オーバーロードの肉体。肉はないが。
ゲームの中のそれと全く同じだ。だからといって神々が、ゲームの中のアバターを実体化させたんて話、そうそう信じることは出来ないけれど。
ただ、少なくとも、この身体と、鈴木悟の骨格とは全く違うことはわかる。アゴ尖りすぎ。
「あの頃の暦で、2126年やったかな。ほんとは、その年でこの星の大掃除が始まるはずやったんよ。スウィフト・タットル彗星って知っとる?」
「聞いたことはあるような気がしますね」
「あれな、その年に、ユグドラシルが始まった年に落とすハズやったんよ。でも、ちょっと待ってーって声があったき、12年延期したっちゃ」
「マジですか……」
「うちもそうやったけど、みんな結構人間の作るゲームって好きやったんよね」
「そんな理由かよ……。じゃあ、ユグドラシルの終了って……」
「あの日、あの時、人類は滅亡しました。他の動物も大半は消えておらんくなった。今はあの世界では、今の世界の新しい生き物が生きとーと」
怒ればいいのか、悲しめばいいのか、それとも喜べばいいのか。モモンガには分からなかった。
だってそれは、もうずっと前に終わってしまったことだから。
身体ばかりでなく、心までアンデッドになってしまったのだろうか。モモンガはそう考え……あることに気付いた。
「あれ、ちょっと待てよ。リヴァイアさん……ちょっと聞いてもいいですか」
「なん?」
「ユグドラシルの頃のスキルとかって、そのまま効果あるんですかね?」
「そーきーとーよ?」
「あ、ああああああっ!」
モモンガは、三日間の無駄な努力を振り返り慟哭した。
そして、〝絶望のオーラ〟を解除する。生身の目玉があったなら、涙ぐんでいたかもしれない気分だ。
絶望のオーラ。それはモモンガを中心とした周囲全体に作用する強大なアンデッドの特殊能力。
恐怖効果をはじめとし、即死や様々な能力ペナルティなどをまき散らす迷惑なだけのものだ。少なくとも、ユグドラシル時代に対100レベルとの戦闘で役に立ったことはほとんどない。モモンガの趣味、ロールプレイのためだけの力。
「まあ、魚は寄ってこんやね」
「知ってたなら教えてくださいよ!」
「これが、なかなか近くに寄るとちょっとモゾモゾ来て新触感なんよ」
「それで近くに来てたのかよ!」
ちょっとドキドキしていた気持ちを踏みにじられ、一気に盛り上がったモモンガの精神は、急速に落ち着いた。
「ふぅ」と賢者タイムである。
「どうりで、このエサのムシとかもすぐに死んでるのばっかりだと思ったよ……」
何をエサにすれば魚が釣れるか分からなかったモモンガは、そこらの岩石の下などに居たムシを釣り針にさして垂らしていた。正確には、ムシの死体を。
「モモさんや、ご飯はまだかいな?」
わざとらしく腰を曲げ、杖をついたおばあさんのような格好をするリヴァイアさん。そんな彼女に向かってモモンガは叫んだ。
「そんな堅そうな腹筋のばあさんがいるか!」
本当の所、モモンガ的には腹筋女子は割とありなのだが。
「いやーん、たれ目と腹筋がチャームポイントやん」
「自分で言うんですね」
嵐はまだ来ない。
正確には、嵐を呼ぶ人魚トリオが遅刻していた。
「いえーい、若く見られた~」
リヴァイアさんは、まだこの宇宙が混沌だった、時間すら存在していなかったころから生きている御方。