臆病な兄と奇天烈集団 作:椿姫
※今回の話は過去に何があったのかが太一から語られます。廻寧と太一の過去…狂気に満ちた太一…では、どうぞ。
俺は太一に思いっきり殴り掛かる。
「1発で終わらせてやるよ!!」
けど太一は殴り掛かる事を読んでいたのかひらりと避けて腰のポーチから注射器を取り出して腕に注入した。
「廻寧…昔からせっかちな所あるよね〜……オラァ!!」
太一の拳は俺の腹部にめり込む。俺はそのまま勢いよく書斎のデスクに叩きつけられた。割れたガラスの破片や落ちてきたぶ厚い参考書が身体にあたり所々出血の痕やアザが増える。
「痛てぇ…」
「ほら、立ってよ廻寧」
太一は倒れている俺を無理やり起こして間髪入れずに蹴りをいれてきた。
「ほら、ほら、ほらぁ!」
「があっ!?あ…うぇ…ぐはっ…」
美咲たちの方にまで投げつけられた俺は頭をぶつける。心配した美咲とイヴが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!!」
「リンネイさん!」
「くるな…俺と太一のタイマンだ…」
「で、でも…」
「だいじょーぶ…ぜってぇ勝つから…黙って見てろ…」
美咲達に下がるように促し、フラフラしながらも起き上がり太一に問いかける。
「太一…なんでこんな事してんだよ…お前病院を継ぐから医学の専門校に行ってたんじゃないのかよ!?」
「あぁ…その事はねぇ…」
説明をしようとした太一だったが言葉を区切り後ろで繋がれてるこころや俺の後ろにいるみてから達をみてから俺を見て言い放つ。
「こんなに役者も揃ってるわけだ。廻寧もいるんだし話してあげるよ…僕と廻寧が友達だったあの頃を……いなくなったあの日から今日まで何があったのか…」
太一は淡々と語り始めた。
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太一side
〜過去 中学時代〜
彼はいつも、クラスの輪の中心でみんなを盛り上げていた。
『俺がやるって言ってるんだから俺に任せとけって!!な!?』
『おおっ!廻寧自信満々だなぁ!?』
『奥沢くんってナルシストだよねー!』
『ちげーよ、俺は自信家なだけだってーの!!』
『キモいな!』
『誰だ俺の事キモいって言ったやつ!お前か!』
彼が誰かと喋ると周りもそれに便乗してどんどん明るくなっていく。名前は奥沢廻寧、クラスの中心人物だ。天真爛漫で誰よりも明るく男女隔たりなく接するし成績優秀、中学2年生にして剣道部を日本一に導くほどのカリスマ性とその実力、学年問わずに好かれている人気者。僕みたいに家を継ぐ為に勉強ばっかりのガリ勉とは正反対、まるで光と影だ。彼みたいな人に僕もなりたいなぁ…そんな事を思いながら自分の机と睨めっこをするように勉強を続ける。
『おい』
すると、声を掛けられる。顔を上げるとそこには奥沢廻寧が僕の目の前に立っていた。
『え?ぼ、僕?』
『いや、お前以外誰がいるんだよ?』
奥沢くんが僕に話しかけていた。クラスのみんなはその光景に驚いていた。無理もないよ、基本ぼっちのガリ勉と人気者が話してるんだもん。その時さっきまで奥沢くんと話していたクラスメイトの何人かが奥沢くんに寄ってきた。
『廻寧、半田に関わらねぇ方がいいぞー?こいつ根っからのガリ勉だから』
『そーそー、実家の病院継ぐために毎日勉強ばっかりしてるつまんない奴だし。何より友達いねーじゃん』
彼らの言うことはまさしくその通りだった。僕は友達1人も作らないで今までずっと過ごして来た。勉強しかしてないし、そして何より、親の期待に応えるために。誰とも遊ばずに親しい関係を持たずに。
『ふーん…』
奥沢くんは僕の顔をじーっとみる。
『な、何?君も僕の事『勉強オタク』とか言ってバカにする気かい?』
『いや、誰もそんな事言ってねーよ…』
奥沢くんは引き気味に答える。そして次に発した彼の言葉が僕の心を軽くしてくれた。
『むしろスゲーと思うぞ?家継ぐ為に勉強してんだろ?1つのことに一生懸命ってめっちゃいい事だと俺は思うがなぁ。何も恥じる必要も怖がることもねーじゃん?お前はお前らしくいればいいんだって、な?』
あっけらかんとした態度で放った奥沢くんのその言葉に思わず笑いそうになってしまう。
『ちょ、お前!そこは笑うとこじゃねぇだろ!』
『いや、だって…ふふ、セリフがクサいんだもん…ふふ』
『んだとこの野郎ぅー!』
『奥沢くん!頭ぐりぐりしないでよ!?』
この日、僕に人生初めての友達ができた。それが嬉しくてたまらなかった。家に帰ってから親に報告すると親は怒るどころか『友達との付き合いもいいがちゃんと勉強もしろよ?』と応援してくれたことには思わず涙が出そうになった。
その翌日、コンタクトにして髪もちょっとだけ整えたらみんなが度肝を抜かしたのは今でもいい記憶だよ…『どなたですか?』って言われた時はホントびっくりしたからね…。彼のお陰でクラスにも馴染むことが出来たので感謝しきれないほどだった。しばらく経ったある日…
『なぁ太一、なんで俺のこと奥沢くんって呼ぶんだ?名前でいいだろ?』
一緒に帰っている時、奥沢くんは僕に話しかける。
『え?でも』
『なーんかしっくりこねぇんだよ。女子とか部活の後輩に言われるのはいい。でもなんかなぁ…って思うんだよ』
『随分と、無茶苦茶だね…』
『無茶ではねーだろ?』
僕は何度目かわからない溜息をつき降参だと言わんばりに『分かったよ…廻寧』と返事した。
『お前も呼び捨てかよ。ま、いいけどさ』
『も?他にもいるの?』
『あ、いや、何でもない』
こんなことがありながら僕と廻寧は3年生になったと同時に僕と廻寧はある約束をした。『もしどっちかが困ったり挫折したりしたらお互い助け合おう!』『ずっと友達でいたい』と。このまま交友関係が長くずっと続けばいいなとこの時の僕は思っていた。あの事件が起きるまでは。
何気なく学校に登校していた僕は自分の教室に向かっていると教室の方から悲鳴と怒号が聞こえてきたのだ。僕は急いで駆け上がって教室を覗き込む。
『……え?』
そこで目にしたのは…血まみれの教室、割れた窓ガラス、倒れているクラスメイト、そしてそこには…絶望しきった顔で顔や拳に血がついでいる廻寧の姿があった。なにがなんだかわからない状況に陥ってると先生達がやってきて廻寧を拘束して連れていった。僕は荷物をその場に置いて先生達に向かって走っていく。
話を聞くと、いつからか分からない程のイジメを受けていた廻寧が激昂してクラスメイトの半分を病院送り、教室の破壊行為をしたということだった。そんなことするはずがないと、何かの間違いだと抗議するも聞く耳すら持ってくれなかった。連れていかれる時に廻寧は僕に目で『助けて』と言っているような、そんな目をしていた。廻寧は強制的に学校を追い出されそれ以来、廻寧のことを1度も見ることなく僕は学校を卒業した。
卒業した後は医学の専門学校に通い、ごく普通の生活を送っていた。そして学校の帰り道に僕は偶然コンビニから出てきた廻寧を見つけた。僕は廻寧に駆け寄るとすごく怯えているように見えたが、僕だとわかると安堵の息を漏らす。
『心配したんだよ!?いきなりいなくなるから心配したんだよ!?どうしたのさ!』
そう聞くと廻寧は虚ろな目で『…弦巻家』と言って重い足取りのまま歩いていってしまった。
『弦巻家…?』
聞きなれない言葉とあれほど活発だった廻寧が絶望しきってしまった様子を目の当たりにした僕は急いで家に帰る。そして部屋のPCを付けて弦巻家の事と当時の廻寧が起こした事件について調べてみた。
『なるほど…弦巻家って金持ちなんだ、他には…っ!?』
新聞紙の記事を漁り観るとそこには
『ご令嬢弦巻こころを怪我させた男!校内で暴力事件多発!!』
という記事があった。詳しく観ていくと廻寧が怪我させただの悪人だ罪人だとバッシングすることしか書かれてなかった。
『なにこれ…酷すぎるっ!』
廻寧はそんなことする人じゃないっ!?一体周りの人間は何考えてんだよ!?記事の写真は加工してあるしどう考えても偽物じゃないかっ!!
『……まさか、廻寧が学校から消えたのも弦巻家の仕業じゃ…』
僕はその時に確信してしまった。廻寧は何らかのことがあり弦巻家によって消されたのだと。それと同時に気づいてやることが出来なかった自分に腹が立って仕方がなかった。
『………弦巻家、貴様ら絶対許さねぇ…廻寧の敵は僕が撃つ!!』
その日から僕は調べ物をしたり実験室に篭ったりと弦巻家への復讐の為に毎日を費やした。廻寧がいた剣道部のメンバーにもこのことを伝えると案の定弦巻家への復讐…いや、抹消計画にのってくれた。誰も彼もが廻寧の事を心底大切に思ってくれたいたらしい。しかもそのメンバーの中から有力な情報を聞くことが出来た。それは、クラスメイトが弦巻家に買収されていた。という事だ。僕は中学時代のクラスメイトに話がしたいと言って呼び出して白状させた。
『し、仕方なかったんだ!?だって…あんな大量の金渡されたら味方しようにもできなかったんだ!!本当だ!』
『そっか…そうだったんだ…』
『な、なぁ太一!買収されてないお前だからこそ言っておく!こ、この事はばらさないでくれ!?な!?』
『安心しして。バラシはしないから』
『ほ、本当か!?』
『うん。ただし…』
喜ぶクラスメイトだったやつの脇腹を思いっきり殴る。
『……え?』
『廻寧を見捨てたから償ってもらわないと、ね?』
腰のポーチから注射器を取り出した僕はそいつの首筋に刺して中身の液体を注入した。
『な、なに…を…』
『死ね………このクズが』
そいつを蹴り倒して転がっていくのを見る。僕はその様子を笑いながら見送った。
『ばいばーい♡』
さ、家に帰って抹消計画を練らないとな…余計なことに時間使っちゃったよ。
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廻寧side
「だから僕はね…誓ったんだ。廻寧の敵は僕がとる!弦巻家に復讐して廻寧を解放するって!」
太一は話し終わると甲高い声で笑いながら俺に向かってくる。俺は太一の腕を掴んでそのまま投げ飛ばした。
「は…?」
ガシャーン!とガラスが割れる音と共に太一は倒れ込むがすぐに起き上がる。俺は太一の胸ぐらを掴んで言い聞かせるように言い放った。
「俺がいつそんなことして欲しいって言ったんだよ?何が俺のためだふざけるな!!お前がやってるのはただの人殺しだ!!四ノ原の件と言い昔のことといい、随分ちいせぇやつになったもんだな、まだガリ勉してた方がマシだったんじゃねぇのか?」
太一はすかさず俺の事を蹴り飛ばす。
「確かに僕のやってる事はそういうことになる…けどねぇ、それは僕のためでもあってきみの為でもあるんだ、脅されてるきみを弦巻家から解放しないとこと計画の意味が無いからね…」
太一の言葉に疑問を感じた。
「俺がこころに脅されてる?お前何言ってんだ?」
「は?え?」
「俺はそんなことされた事なんか1度もねぇぞ?なぁ、こころ」
俺はこころに問いかける。
「え?え、えぇ。あたしはリンネーの事を脅したことなんて全くないわよ?」
「な?」
太一に振り向くと太一は頭を抱える。余程困惑しているのが分かる。
「え?そんな訳ない!だって…へ?あれ?」
よく分からないが太一は俺とこころの事を勘違いしてたみたいだなぁ…
「嘘だ!僕を騙そうとしてる…り、廻寧は弦巻こころに騙されてるんだ!あは、あはは、あははは!!」
3本の注射器を取り出した太一は躊躇いなくそれを腕に注入した。太一の息は荒くなり敵意がさっきよりむき出しになる。
「た、太一…」
「ご、ごうなっだらぁぁ…づるまぎごごろぉぉぉぉ!?ぎざまだげでもごろじでみぜじめにじでやるぅぅぅ!!!!」
太一はこころに向かってナイフを持って襲いかかる。俺は間合いを詰めて横から太一を蹴り飛ばした。
「がぁぁ!り、り"ん"ね"ぇ"ぇ"ぇ"!邪魔をずる"な"ぁ"ァ"ァ"!」
「ありゃりゃ、もう正気じゃねぇなぁ…こころ。もうちょっとだけ待ってくれるか?すぐにお前を助けてやるよ」
こころはそれを聞いて嬉しかったのか涙を流す。
「あ、ありがどっ…り、リンネー!負けないで!」
「当たり前だ…太一、決着つけるぞ?お前の目を覚まさせてやる」
俺はこころを背にして太一に向き合い拳を構えた。
次回で太一編終了となります。
最後まで見ていただきありがとうございます。久しぶりの投稿なもんで駄文に逆戻りですわ…感覚を取り戻したいです。