臆病な兄と奇天烈集団 作:椿姫
忘れられてないか心配ですが頑張ります!
新しい小説 Bitter Sweet 〜消えた記憶の行方〜 の方も更新していこうかなと思ってます!
今回はイヴ回です
「………ふぁぁ、眠ぃ…」
大きな欠伸をしながら階段を降りて行く。
「おはよ、お兄ちゃん」
「おぉ美咲、もう起きてたのか」
1階まで降りていくと美咲が朝食を食べていた。
「今日もバンドの練習あるのか?」
「今日はないよ。髪伸びてきたから切りに行ってそれからは花音さんたちとのんびり過ごそうかなって」
そういう美咲の髪は伸び放題になっていた。太一との騒動もあって出掛ける機会がなかったからな。
「と言うかさ、お兄ちゃんも髪伸びてるよ?一緒に切りに行く?」
俺は鏡を見て確認する。確かに髪は長くなってるが別に俺は長いのは気にしないっていうか…後ろ髪は束ねて横に下ろしてるし前髪はちょっと分けて眼鏡すれば問題ないんだよな…まぁでも、折角美咲が誘ってくれたんだし、久々にこういうことするのも悪くは無いな。
「じゃあ俺も行くかな」
「ほんと?」
美咲が立ち上がって俺の事をじっと見る。そんなに嬉しいのか?
「あ、あぁ…」
俺の返事を聞くなり美咲は朝食を食べ終え階段を上がっていった。
「なんだぁ?あれ?」
「おねーちゃんはね、お兄ちゃんと出掛けるのがうれしーんだよー!」
もう1人の妹、美葉が俺の所によって来てそう言った。
「俺と出掛けるのが嬉しい?何で?」
「お兄ちゃんは鈍感だー!」
「は?ど、鈍感?」
結局意味もわからぬまま美葉は母さんの部屋に突貫していき数分後、部屋からタックルの音と母さんの呻き声が聞こえてきたのは聞かなかったことにした。
美咲side
着替えてからお兄ちゃんとあたしは床屋に向かって歩いて行く。近所にあるからそんなに時間はかからないけど…
(久しぶりにお兄ちゃんと休日過ごせる…嬉しぃ)
「美咲、やけに上機嫌だな。なんかいい事あったのか?」
「別に何も無いよ」
(お兄ちゃんと出掛けるのが嬉しいなんて恥ずかしくて言えないじゃん…)
そんなことを思いながらあたしとお兄ちゃんは床屋まで来たのはいいんだけど店の前に『休業』と立て札がかけられていた。
『え?』
あたしとお兄ちゃんは揃って口をあける。
「あれ?ここって日曜日もやってるんじゃなかったか美咲?」
「そ、そうだよね…なんで」
立て札の裏を見るとそこには「現在家族旅行の為誰もいません。テヘペロ」と書かれていた。いや、テヘペロってちょっと…軽すぎやしませんかね?
「まさかのやってないって…おいおい……」
お兄ちゃんも呆れているというかなんというか…そんな顔をしていた。
「どうしよう…」
あたしとお兄ちゃんは引き返して家に帰ろうとする。あたしはそこでふと思ったことがあった。
「ねぇお兄ちゃん」
「なんだ?」
「お兄ちゃんのクラスにさ、理髪店とかが家の人いない?」
「はぁ?そんな都合よくいるわけ………いやいる!」
お兄ちゃんは携帯を取り出し誰かに電話を掛け始めた。
「おい美鶴!お前の家って理髪店だったよな!?」
『な、何よ廻ちゃん…大きな声出さないでぇ…』
「あ、悪ぃ。でさ、今からお前ん家に髪切りに行くけど……」
それから数分間の通話を終えてお兄ちゃんは電話を切った。
「どうだった?」
「美鶴に声かけたけど…アイツとその身内、揃いも揃って風邪だとよ、しかもインフル」
「えぇ…どうすんの?」
「どうするって言われても…明日学校帰りにでも行くしかねぇか…」
「まぁ…それが一番無難かな…」
あたしはヘアゴムとピンを使って髪を整える。
「取り敢えず今日は帰ろっか…」
「そうだな…」
そう言って諦めてお兄ちゃんと家に帰ろうとすると、
「ミサキさーん!リンネイさーん!」
若宮さんが勢いよくあたし達の方に向かって走ってきた。そしてあたし達にぶつかる手前で急ブレーキをかける。
「い、イヴ?どうしたんだ?」
お兄ちゃんが恐る恐る聞くと若宮さんは「お2人を見かけたのであっちの方から走ってきました!」とのことらしい。結構遠くだよ、スタミナあるなぁ…
「ま、待ってイヴちゃん…早いわよ…ケホケホ」
「うぅ…ち、千聖ちゃん、イヴちゃ〜ん、まって〜」
後からは息切れしている花音さんと千聖さんが今にも限界を迎えそうな顔でやってきた…うわー、めっちゃ疲れてるのが遠目でもわかるよ。そんなことを思いながら2人があたし達のところに到着した。
「ってあれ?花音さんと千聖さん、いつもと髪型が…」
あたしがそう言うとお兄ちゃんも「そう言えばそうだな」と相槌を打つ。それもそのはず、2人とも若宮さんと同じ髪型だったからね。
「これは『イヴ編み』ですよミサキさん!リンネイさん!」
「『イヴ編み』?」
あたしとお兄ちゃんは揃って首を捻る。詳しく話を聞くとSNSで今若宮さんの髪型、通称『イヴ編み』を真似して投稿するファンの人達やらが多くて花音さん達もやってみようということでやったらしい。しっかしまぁ花音さんも千聖さんもよぅ似合ってること…
「白鷺がどう見てもお忍び芸能人オーラハンパねぇな…メガネまでしてるし」
「私もここまでフィットするとは思ってなかったわ…イヴちゃんに進められてやってみたのよ」
「さすが"芸能人"って感じだな」
「…それは褒めてるってことでいいのかしら?」
「どう捉えるかはお前次第だ」
千聖さんとお兄ちゃんがそんな話をしてると若宮さんが話に入ってくる。
「リンネイさん!」
「ん、どうした?」
若宮さんがお兄ちゃんとあたしを見てなにか思いついたのか、ふっふっふと笑っていた。なんだろう。嫌な予感がする…
「リンネイさん!ミサキさん!折角ですので『イヴ編み』してみませんか!?」
廻寧side
イヴの提案に俺は間を開けて「はああぁぁぁぁ!?」と声を荒らげた。
「いや、ちょ、え?なんで?」
「お2人とも似合うと思ったんです!!」
「いやいやいや、美咲ならともかく俺がやるなんて変だろ!?」
「やって見ないとわかりませんよ!」
「これ俺が恥ずかしい思いするやつだろ…」
俺は頬を掻きながら目線をそらす。それでもイヴは負けじと迫ってくる。
「お願いしますリンネイさん…」
「い、いや俺は絶対似合わないしやるような奴じゃないだろ…」
何とかして断ろうとする俺にイヴはトドメを指しに来た。
「……ダメですかぁ?」
上目遣いと涙目、白鷺達の視線は俺にトドメをさすどころかオーバーキルに等しかった。多分これ断ったら後々なんて言われるか分からないことを悟った。
「……わかった!分かったから!『イヴ編み』やるから!」
俺はイヴにそう言うとイヴはぱあっと顔を明るくした。
「ホントですかっ!?」
「1回だけだからなっ!」
「ありがとうございますっ!では行きましょう!」
そう言うイヴは俺と美咲の腕を引っ張りそのまま連れて走っていく。
「ちょ、イヴ!?どこに行くんだよっ!?」
「わ、若宮さんっ!?」
「行きますよ〜!」
『だからどこにっ!?』
行先伝えられぬまま俺と美咲はイヴに連れ去られていった。遠目で白鷺と松原が合掌してたからあとであの二人には尋問しようと俺は思った。
しばらく走り回され、着いたのはイヴの家だった。俺と美咲はぜえぜえと息を切らしてる面、イヴは全くと言っていいほど余裕の表情をしていた。
「はぁ、はぁ…イヴ、お前どんだけ元気あるんだよ…」
「お、お兄ちゃん…流石に運動部のあたしもこんなに息切れするとは思わなかった…」
「お二人共、早く入ってください♪」
イヴに促されて俺と美咲はイヴの家に入り、そのまま部屋まで案内される。
「座って待っててください♪今クッキーとか持ってきますので」
「おいおい…そこまで気ぃ使う事ないだろ。だいたい髪編むのにそんな時間ってかかるのか?」
「かかりますぅ!」
「お、おう…」
ちょっと頬を膨らませたイヴはそのまま部屋を出た。
「…もしかして俺、怒らせちまったか?」
俺は美咲に問いかける。
「…そういう時だけ敏感なのはずるぃ…」
「?なんか言ったか?」
「何でもない」
な、なんで美咲まで不貞腐れてんだ?んんん…女心とかって言うのか?良くわかんねぇなぁ。しっかし部屋広いな…俺の部屋以上だなこりゃ。そんな事を思ってると携帯の着信音が鳴った。
「あ、電話だ。ごめんお兄ちゃん、ちょっと外すね…はいもしもし、何?こころ…」
美咲はこころから電話がきたから一旦部屋を外す。そして部屋は俺一人になった……ってあれ?俺、今…女の部屋に一人でいるっ!?
(…………やべぇ、くつろごうにもそんなことできる状況じゃねぇぇっ!!)
何したらいいかわからない、そんな状況に陥った。だって女子の部屋に入るなんて全くと言っていいほど無いんだぞっ!?と、とにかく落ち着け俺……
「リンネイさんミサキさんお待たせしま…ってあれ?リンネイさんどうしたんですか?」
落ち着かせようとしてるとイヴがクッキーやら紅茶を乗せたお盆を持って入ってきた。
「お、おぉイヴ…何でもないぞ」
「そうですか?何か落ち着かない様子だったような気が…ところでミサキさんはどちらへ?」
「ん?美咲ならこころから電話かかってきたって言って今対応してるぞ?」
「そうなんですか…じゃあ先にリンネイさんからやりましょう!」
そう言ってイヴは俺の横に座り髪を触り始める。
「リンネイさんの髪…すごくサラサラで綺麗ですね」
「そんなに触るなよ…なんかくすぐったい」
「す、すいません……つい夢中になっちゃいました」
少し頬を赤らめてそんな事を言いながらもイヴは俺の長い髪を結び始めた。慣れた手つきで俺の髪を結んでいく。
「手際いいな」
「えっへん!もーっと褒めてもいいんですよ?」
「どうすっかな」
「むぅ…」
そんな話をしながらクッキーを摘む。そして紅茶を1口…
「…この紅茶イヴがいれたんだな、クッキーも美味いぞ」
「あ、ありがとうございますっ…できましたよっ!」
一瞬だけ慌てた様子を見せたイヴだったけど何とか完成したようだ。俺は部屋に置いてある鏡を見て確認すると見事なイヴ編みに仕上がっていた。思わず「おぉ…」と、声に出てしまうほどに。
「どうですかリンネイさん?」
「ん?あ、あぁ…その、すごいな」
鏡を見てその出来上がりに感心してるとカシャッとカメラの音が聞こえた。よく見るとイヴがケータイのカメラで撮ってるではないか。
「ちょ、イヴっ!今すぐ消せぇ!?」
俺はイヴのスマホに手をかけるがイヴはそれをひらりとかわしてスカートのポッケにしまった。
「い、嫌ですっ!」
「なんでだよ!?」
「こんなリンネイさんをみるのはもう二度とないかもしれないんですよっ!?」
「だからって撮んじゃねぇよ!?」
「それに…可愛いじゃないですかぁ!お願いしますリンネイさんっ!ハグさせてください!!」
「なんでそうなるっ!?」
唐突のイヴの発言に俺は驚く。イヴの方は今にもハグしたそうにうずうずしている。ってかその手の動きはなんだっ!?
「リンネイさ〜ん」
「うぐっ……」
ここで俺はふと考えた。依然にあった太一の件で、あれはイヴや美咲達のおかげでこころを助けることが出来たんだから少しくらいは"お礼"をさせてあげるのも俺が女性不信とか恐怖心を完全に克服して誰とでも話せる様になるかもしれない。そう思ったのか口が勝手に開く。
「イヴ」
俺は恥ずかしい気持ちを抑えながらイヴの方を向いて言い放つ。
「ハグ…したいならしてもいいぞ?」
「ほ、ほんとですかっ!?」
予想だにしなかった返答にイヴは驚きの声をあげる。
「ただし…美咲が戻ってくるまでの間だけだk」
言い終わる前にイヴは俺に抱き着き、腕を回した。言っておきながらなんだがやはり恥ずかしいな、これ…
「おい…まだ言ってる途中なんだけど…」
「リンネイさん〜♪」
イヴは俺の胸の中で頭をうずめて犬みたくスリスリしだした。
「だから…くすぐったいか、ら…」
「んふふ〜♪リンネイさんもハグハグ〜♪」
イヴは顔を上げて笑顔で俺のことを見つめてくる。
「どうした?」
「あ、あの…頭、撫でてもらっても…いいですか?」
「…わかった」
よくわからないまま俺はイヴの頭を優しく撫でる。美咲とかこころのことを撫でたことがあったから抵抗は無かった。
「リンネイさんの手…あったかいです!」
イヴの頬が赤くなっているのがわかる。
「…撫でられて、嬉しいのか?」
「はいっ!だってワタシはリンネイさんの事が…」
イヴの言葉を遮るようにドアが開けられる。イヴが急いで離れようとするが…
「はうぁっ!?」
「ってうぇ?イヴ…」
『うわあああっ!?』
ドタバタしてしまい、イヴが俺の上に覆いかぶさってきた。
「イタタタ…リンネイさん、大丈夫ですか?」
「んぐっ…な、なんとか…」
「お兄ちゃんごめん、こころと電話が長引いちゃって…ゑ?」
部屋に入ってきた美咲は俺とイヴを見て唖然としていた。無理もないかもな…だって今、イヴが俺を押し倒している状況みたいになってるし。美咲は今、一生懸命頭の中で言うことを考えてるのだろう。そしてたどり着いたのが…
「…く」
『く?』
「くぁwせdrftgyふじこlpっ!?」
美咲はよくわからない言葉を放って気絶してしまった。
「み、美咲っ!?」
「ミサキさんっ!?どうしたんですかっ!?しっかりしてください!!」
「……ん、あれ?」
「やっと起きたか美咲」
美咲をおぶって家に向かって歩いていくこと数十分、ようやく美咲が目を覚ました。
「お前部屋に入ってくるなり何故か気絶したんだぞ?大丈夫だったか?」
「あ、ごめん…そ、そう言えばお兄ちゃん、あたしがこころと話してる間、若宮さんと何かあったの?」
「えっ?いや、特に何も無かったぞ…」
「…ホントに?」
「ほ、ホントだぞ……?」
美咲が疑いの眼差しを向けてくる。
「ふーん…じゃあ若宮さんとハグしたのはどういう事?」
「おまっ!?聞こえてたんじゃねぇかっ!?」
「そりゃ聞こえてるよ…説明して?」
俺は美咲になんでそういう行になったのか洗いざらい説明した。説明し終わると美咲は案外、すんなりと納得してくれた。
「そっか…そういうことだったんだ」
「悪ぃな、勘違いさせて」
「誰だってあんなの見たら勘違いはするでしょ…若宮さん羨ましいなぁ…」
「?美咲、イヴの何が羨ましいんだ?」
「…何でもない、それよりもさ」
「?」
美咲は周りをキョロキョロしてもう一度俺を見る。
「ど、どうした…?」
「…いつまでその髪型なのかなーって」
「は?髪型?」
歩いてる途中、窓ガラスが見えて姿が映り込む。
「……ゑ?」
右目は髪で隠れてるのはいつも通り、けどそこに映っていたのは…イヴ編みしたまんまの俺の姿だった。俺は今になってめっちゃ恥ずかしくなった。
「……美咲、これほどいてくれないか?」
「やだ」
「なんでっ!?」
「しばらくこの状態のお兄ちゃんを見て楽しむ。若宮さんから画像もらってるし♪」
「おいいぃ!?消せ!いや消してくださいぃぃぃっ!!」
「〜♪」
美咲の鼻歌を目尻に俺の恥ずかしさと悔しさの入り交じった声が商店街に響き渡った。…………あ、そう言えばあの時イヴが、
(『はいっ!だってワタシはリンネイさんの事が…』)
何て言おうとしたんだろうな………まいっか。それよりも、
「お兄ちゃんのイヴ編み似合ってるよ〜♪」
「茶化すなぁ!それと編んでる髪を持つなぁ!似合ってなんかねぇよ!!」
さっさと家に帰って髪ほどきてぇぇぇ!!この恥辱から解放されてぇよぉぉ!!
イヴside
「うぅ〜」
ワタシは枕に顔を埋めてさっきのことを思い出す。頭をナデナデしてくれたのはすごく嬉しかったです、まだ微かにリンネイさんの手の熱が残ってる。それはいいとして問題はそのあとです。
『はいっ!だってワタシはリンネイさんが…』
「……はうぅぅ/////」
思い出しただけで顔がみるみる紅潮していく。あ、危なかったです…あのまま好きだって言うところでした。いや、言ってもいいんですけどもしそれでリンネイさんもワタシが好きだって言った後のことを考えたら…
「…いつかはリンネイさんにちゃんと伝えなきゃいけないんですよね/////」
ワタシはしばらくの間、恥ずかしくて枕から顔を上げることが出来ませんでした。
最後まで読んでいただきありがとうございます!社会人なので暇を見つけて編集することしか出来ませんが長く、暖かい目で見守ってくれると幸いです。
次回 第25話 開催!ふわキャラ選手権!