臆病な兄と奇天烈集団   作:椿姫

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新しいことを始めようと奮闘する燐子、部活をやらずに過ごしていた廻寧。2人がどんなふうに変わっていくのでしょうか…

今回は主に廻寧視点で行きます。
もちのろん、燐子も出ますよ。



第27話 深緑と黒耀のラルゴ 〜感化と体験入部〜

「それでは今日の授業はここまで。さっき渡した英語のプリント、サボらずにちゃんとやれよー?テスト範囲だからなー?」

 

そう言って英語教師は教室から出ていくと同時に一日の授業の終わりを告げるチャイムがなった。俺はせっせと自分の道具を纏めて教室を出ようとするとクラスメイトの漣 美鶴に呼び止められる。

 

「あら廻ちゃん、もう帰るのかしら?」

「んぁ、そうだけど?」

 

眠そうに力のない返事で答える。

 

「そう言えば廻ちゃん、部活やってないの?」

「やってねーよ」

「編入してからもう随分経つわよ?何かしらやったらどう?新しくやってみたら案外楽しいと思うわよ?」

「……何かしら、か…」

 

美鶴に言われて考え込むがぶっちゃけると俺は、部活はやらないようにしてる。普通に過ごしてれば中学時代から続けていた剣道をやろうと思ってたがまぁ…色々あったからな。部活に対してちょっと萎縮してるっつーか、心のどこかで『迷惑を掛けたくない』って言う思いがあるからか極力そういう事に関わらないようにしてる節がある。

 

「…やっぱやめとくわ。じゃーな」

 

俺はそう言って教室から出ていく。

 

(帰ってネトゲだな…RinRinさん今日はログできっかな?)

 

帰ったらやるゲームのことを考えながら階段を降りて玄関まで行こうとすると揉め事なのか話し声が聞こえてきた。俺はちょっと顔を出して様子を覗き込む。

 

(んだよ…誰だよ騒いでんのはよぉ…ってうわぁ、仲裁入るのめんどくせぇな、しかも女…知らない奴かよ…でもここ行かないと帰れねぇし…)

 

 

燐子side

 

 

「お願いします燐子さん!是非、是非ともゲーム部に入部してくださいでやんす!!」

「燐子さん!どうかお願いします!」

「あ、あの……その…」

 

ゲーム部の人達の熱い気迫に押されてわたしはしどろもどろになりながら後ずさる。

 

(うぅ…ど、どうしよう。この後氷川さんに部活を紹介してもらう約束してるんだけど…)

 

どうするか戸惑ってると後ろから誰かが声を掛けてきた。

 

「…あんたら邪魔だからどいてくれる?」

 

振り向くと黒髪の男の人が不機嫌そうな態度でわたし達をみている。わたしは男の人のするどい三白眼に思わず身を震わせて急いで避けた。

 

 

廻寧side

 

 

「ったく…玄関塞ぐなってめんどくせぇな」

 

頭を掻きながら通り過ごそうとすると勧誘していたゲーム部の人間が突っかかってきた。

 

「待つでやんす!」

「…あ?何?」

「な、なんでやんすかアンタ!俺は今燐子さんを勧誘してるのに邪魔しないでほしいでやんす!」

「帰り道塞いでたやつにどうこう言われる筋合いなんてねぇよ…邪魔だから邪魔だって言ったんだよ」

「こっちはゲーム部の活動として勧誘してるんでやんすよ!」

「ゲーム部、ねぇ…」

 

ふと、ここでさっきの美鶴の言葉を思い出す。

 

『編入してからもう随分経つわよ?何かしらやったらどう?新しくやってみたら案外楽しいと思うわよ?』

 

(………)

 

別にアイツに感化されたわけじゃねえけど、まぁ…ノってみるのも悪くはないかもな。

 

「…ゲーム部って言うくらいだからお前らはそれなりの実績があるってことでいいのか?」

「当然でやんす!」

「じゃあ……俺をゲーム部に案内しろ」

『….は?』

 

俺のはなった言葉にゲーム部のメンツは揃って声を上げる。

 

「な、何を言ってるでやんすかアンタ?」

 

疑問符浮かべてるゲーム部のメンツへ俺は逆鱗に触れるような言葉を考えて言い放つ。

 

「わかんねぇか?ゲームに興味あるから案内しろって言ってるだけなんだけどな。…あぁ、そうか。お前ら【バカ】だから俺の言ってる言葉理解出来ねぇのか?」

「は、はぁぁ!?ふ、ふざけんなでやんす!」

「ちょまま部長っ!?落ち着いてください!今はこいつより燐子さんを勧誘するのが優先でしょう!?」

「そ、そうだったでやんす。り、燐子さ…」

 

勧誘を続けようと女のいる方へ身体を向けるが、燐子と呼ばれていたそいつはもうこの場にいなかった。

 

「あ、あれ?燐子さんがいない!?お前、まさか時間稼ぎを…っ!!」

「さーて、なんの事だかさっぱりだ」

 

ゲーム部の部長は我慢の限界だったのか怒りをあらわにする。

 

「燐子さんの勧誘を邪魔しただけじゃなく俺らゲーム部をバカ扱いするなんて許せないでやんす!おいお前ら!コイツを部室に案内するでやんす!」

「いいんですか部長!?」

「構わないでやんす!」

 

そう言うと部員の1人が俺に「着いてこい」と言ってゲーム部へ案内させた。案内される事数分、ゲーム部の部室に着くと部長のやつが俺を指さして約束事を取り付ける。

 

「今から俺達ゲーム部と勝負してもらうでやんす!俺達が勝ったら今後二度と邪魔しないことを約束するでやんす!」

 

俺はその条件に対して軽く頷く。

 

「りょーかい。それで?勝負の内容は?」

「勝負するのは、NFOでやんす!」

「ふーん…それで?」

「内容は至ってシンプルでやんす!現在イベントでやっている【灼邪龍・ニーズヘッグ】の討伐タイムで早く討伐した方が勝ちでやんす!!」

 

そう言いながらゲーム部と俺は向かい合うようにして席に座る。

 

「ログインしたでやんすか?」

「したぞー。ほら、さっさとやるぞ…あ、そうだ」

「?なんでやんすか?」

 

いいことを思いついた俺はゲーム部を見渡しながら更に挑発する。

 

「おい、ゲーム部からは部長サン1人で足りるか?なんならこの勝負…俺1人VS部員全員でもいいんだぜ〜?」

『なっ!?』

「どうした?1人に負けるのが怖くなったか?」

 

この発言が引き金になったのか他の部員も席に座りNFOへログインした。

 

「さて、役者も揃ったワケだ…勝負しよーぜ?」

「ここまで俺達を侮辱するなんて許せないでやんす!お前を徹底的に叩きのめしてやるでやんす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

 

(さっきの人…わたしが部室棟に行く時間を作ってくれたのかな…?)

 

そんなことを考えてながら歩いていくと部室棟の前にたどり着いた。

 

「……初めて部室棟に来たけど…氷川さん、どこにいるんだろぅ?」

「白金さん」

「ひゃあっ!?」

 

後ろから声をかけられたわたしはびっくりして思わず飛び上がる。

 

「し、白金さん?そんなにびっくりしなくても…」

「ひ、氷川さん…」

 

私はほっとして安堵のため息をもらす。

 

「先に来てたんですか。遅れてしまってすいません」

「い、いいえ…わたしもさっき来たばかりですので…」

「そうだったんですか、遅れたのかと思って心配しました。けど…『学校の部活を案内して欲しい』って言われた時は驚きましたよ?」

「はい…その、き、キーボード以外にもわたしに何か、新しい事出来ないかなって…思ったんです」

「新しい事、ですか……でしたらこれから弓道部に来ませんか?体験入部と言う形になりますけど」

「体験入部……は、はい。是非お願い、します…」

 

私は氷川さんに案内されてそのまま弓道部の部室へと向かった。

 

(これで何かきっかけを掴めれば…わたし、なにか変わることが出来るかな?)

 

 

廻寧side

 

 

「ふぅ…しつけーヤツらだった」

 

ゲーム部の部室での一悶着を後にした俺は教室に忘れ物を取りに来ていた。因みに部員全員vs俺の、ニーズヘッグ討伐タイムスコアは俺の勝ち。勝負終わらせてさっさと出ようとしたら今度は俺の事を部活に勧誘した時は驚いたぜ。部員全員して血涙懇願してたぞ?

 

「危うくヘッドフォン忘れるとこだったよ…」

 

俺はヘッドフォンを閉まって教室を出ていく。

 

「さーてと…」

 

どうすっかなこの後。家帰って寝るかネトゲと思ったけどやけに美鶴の言葉が引っかかる。新しい事ってか、部活をやってみろって言うからゲーム部行ってみたけどあそこはなんか居心地悪ぃってか俺はゲームは黙々と1人でやる事が多かったからなぁ。まぁRinRinさん達と何回かマルチはやるけどな。

 

「……ほかの部活、ちょっとだけ見てみるかな。えっと、部室棟だったかな?さっきの女が行った方に行けば何かしらあるだろ」

 

そう呟いて俺は部室棟に向かう。数分歩いていくと部活をやっている奴らの活気で溢れているのが部室に入らずとも伝わってくる。

 

「どんな部があんだろうな…まぁちょいちょいっと覗いて帰るか…」

「お兄ちゃん?ここで何してんの?」

 

声を掛けられて振り向くとそこにはテニスラケットを持って部活中の美咲がいた。

 

「お兄ちゃんって部活やってたっけ?」

「んあいや、相変わらず部活はやってねーよ。暇だからちょっとだけ部活見て回ろうかって思ったんだよ…」

「そうなんだ…だったらさ!」

 

美咲が珍しく目を光らせる。

 

「テニス部の部活見にこない?うちの部活、共学なってから男子も結構入ってるし…いっそ体験入部とか、してみない?」

 

中学の事もあってか部活とは縁を切るつもりだったけどここまで言われるとな…さっきのゲーム部の件もるからな。

 

「美咲がそこまで言ってくれたんだから…折角だし、テニス部見てくよ」

「ほんとに?じ、じゃあ部室に案内するね!」

 

何かと嬉しそうな表情を浮かべた美咲に連れられ俺はテニス部へと向かった。

 




胃腸炎が完治して良かったです…皆さんも体調管理やらなんやらにはご注意してお過ごしください。

次回第28話は、 新緑と黒耀のラルゴ 〜黒ずむ家庭科部と剣道〜 です。

ラルゴ編、ちょっとだけ続きます。

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