臆病な兄と奇天烈集団   作:椿姫

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イベストのラルゴとはだいぶアレンジを施してます。
次回で30話…随分書いたモンですねぇ…
そしてハロハピイベお疲れ様でした。


第29話 深緑と黒耀のラルゴ 〜懐かしき剣道、変えたい自分〜

 

「リンネイさんじゃないですか!!」

 

剣道着を着たイヴが俺を見かけて駆け寄ってくる。

 

「イヴは剣道部に入ってたんだな?」

「今は剣道着です!」剣道部では?

「は?『今は』?」

「実は剣道着の他に華道部と茶道部にも所属しているんです!!」

 

イヴはめちゃくちゃ誇らしげに胸をはる。ってか3つも掛け持ちしてよく出来るよな…俺だったら身体もたねぇよ。

 

「リンネイさんは何をしてるんですか?」

「俺か?俺は部活を見て回ってただけだぞ」

「そうだったんですか!良かったら剣道部も見ていきませんか!?」

 

目を輝かせるイヴに押されたのか二つ返事でOKしてしまう。押しによえぇな俺…そう思ってるとイヴと一緒にいた女…さっきゲーム部とモメてた白金燐子が俺に声を掛けようとしていた。何か怯えてるような感じがするがそれは俺も一緒だ。俺の女性恐怖症と女性不信は治ってきてるものの、いざ対面して話せって言うのは全く話は別問題だ。

 

「……あ、あのっ!さ、さっきはありがとうございます」

 

俺の前に出てきた白金燐子は俺に向かって深くお辞儀した。俺は感謝される覚えはなく、思わずポカンとする。

 

「……は?」

「あ…その…」

 

…よくわかんねぇなぁ…ってかもうちょいハッキリ喋って欲しいんだが…

 

「……何が言いたい?」

「えっと…さ、さっきゲーム部のみなさんと玄関で色々あって通れなかったのを通してくれてありがとうございまひゅっ!?」

 

……あ、今こいつ舌噛んだぞ。なんかよくわからんが心配になった俺は声を掛ける。

 

「…一応聞くけど、大丈夫か?」

「だ、大丈夫で…す。そ、それよりえっと…な、名前聞いておきたくて…」

 

名前教えるくらいなら多分問題ないだろうと思った俺はそれに応じて名前を教えた。

 

「廻寧。奥沢廻寧だ」

「奥沢……っあ、奥沢さんのお兄さんなんですね?」

「な、なんだ。あんた、美咲のこと知ってたのか?」

 

美咲のことを知ってるなら多少警戒は解いても大丈夫かもな…今までの俺だったら女子に話しかけられてすぐに警戒態勢に入ったけど少しずつ治ってきてるお陰でそこまで敵意をむき出しにする必要も無いってのがよく分かった。

 

「は、はい…以前話す機会があって…それで」

「ふーん…」

 

イヴ達剣道部の部活動を見ながら話を聞く事にした。

 

「それであんたは何してんの?」

「わ、わたしは…なにか新しいこと始めれたらなって思って…部活動を見て回ってました。さっきまで氷川さんに案内してもらってたんです」

 

氷川…聞いたことあるな。確か…白鷺の代理マネした時に一緒にいたような気がするぞ…もしかして氷川日菜の事言ってんのか?あのよく分からない感性と本能で動いてるようなヤツか!?アイツ苦手なんだよな…今度あったら目合わせないですぐに逃げよう、うん。

 

「へぇ…"新しいことを"かぁ…なんでそう思ったんだ?」

 

俺が興味本位で聞いてみると白金燐子はおずおずしながらも話してくれた。

 

「…わたし、新しいことを始めるとか思い切って挑戦だったりすることが苦手で…このままでいいのかな?って思ったんです。その時あこちゃんに部活動とか入ってみたら?って言われたんです。いきなり入部はちょっと難しいのでまずは仮入部とか体験入部でも…って思っててそれで…」

「それで部活動を見て回ってたってわけか。俺と似てるな」

「え?」

「俺は部活をやるのが苦手って言うか…まぁ、中学時代色々あってそれからずっと帰宅部なんだよ。家帰ってずーっとネトゲばっかりしてた、で、今日美鶴のやつに『部活動やってみたらどうかしら』って勧められて…こうなってるってわけ」

「そ、そうだったんですね…って奥沢さん?何してるんですか?」

 

立ち上がって荷物を置いてる俺を見て白金燐子は困惑の表所をみせる。

 

「見てたら久々に剣道したくなっただけだ…おーいイヴ、ちょっといいか?」

 

俺はイヴの元に駆け寄り少しだけ剣道やることを伝えたらものすごく喜んでくれた。

 

「本当ですかリンネイさん!」

「ちょっとだけだけどな」

「嬉しいです!!早速道着持ってきま…」

「竹刀だけでいい。道着は必要ねぇ」

 

イヴが取りに行ってきた竹刀を受け取りイヴの前に立つ。イヴも周りの剣道部員も俺の行動に困惑する。

 

「手合わせしてやるよ。かかってこい」

「リンネイさん!?いくらリンネイさんでも道着を着てないと危ないですよ!怪我する可能性も…」

「当たる寸止めまで追い詰めたらイヴの勝ちだ。安心しろ、俺も寸止めで終わらせる」

 

少し考えたイヴがもう一度改めて俺に確認をとる。

 

「……い、いいんですか?」

 

俺は構わんぞと言わんばりに軽く頷いた。イヴはそれを確認し覚悟を決めて強く竹刀を握り締める。

 

「…分かりましたリンネイさん、いざ…尋常に勝負っ!です!」

 

イヴは気合と共に俺に向かって勢い良く竹刀を振り下ろす。俺はそうしてくると分かっていたかのように紙一重で回避する。

 

「そんなんだとかすりもしないぞ?」

「つ、次は当てます!ていやぁ!」

 

イヴは体制を整えて、俺に当てようとしてくるがそれも交わす。そのやり取りが何回か続くとイヴの表情にだんだんと焦りが募り始める。それを見続ける剣道部員達はただ、どうなるか結果を待っているだけだった。

 

「ふぅ…ふぅ…」

 

イヴの額からはぽたぽたと汗が垂れ落ちる。

 

「はぁ…はぁ…」

 

そろそろ体力的にも決着をつけるべきかもな…表情に出てないとはいえ俺もちょっとキツくなってきた…

 

「……っおし、そろそろ動くか」

 

言い終わると同時に俺は一瞬でイヴのいるところまで間合いを詰める。

 

「…………え?」

 

イヴは驚き、思わずその場に竹刀を落として座り込む。俺はイヴに向かって竹刀を振り下ろすがその竹刀が当たるギリギリで止めた。

 

「勝負あったな。お疲れさん」

 

勝負を観てたギャラリー達は反応が遅れたがおぉ…と息を漏らす。

 

「凄いです…やっぱりリンネイさんは凄い人ですっ!!」

 

さっきまで疲れていたはずのイヴが一気に立ち上がり俺を尊敬の眼差しで見つめる。…そんな目で見つめられるとなんか恥ずいんだけど…

 

「俺は凄くねぇよ。感覚的に覚えてただけだから。じゃあな」

「ちょっと待ってくれないか!」

 

目を合わせるのが恥ずかしくなった俺はそっぽを向いて帰ろうとすると部長らしき人物に呼び止められてしまう。

 

「な、なんすか?」

「名前を聞いて確信したよ…君は中学時代剣道最強と呼ばれた奥沢廻寧くん…だよね?」

 

そいつの発言に剣道部の人間とギャラリー達がざわめく。…あんまり目立ちたくないからさっさと帰るか。

 

「……昔の話だよ。イヴ、竹刀サンキューな」

 

俺はそう言ってイヴに竹刀を返して部室から出て行こうとするとまたしても部長にとめられる。

 

「…はぁ、今度は何すか?」

「奥沢廻寧くん…剣道部に入ってくれないか?」

「…わりーけど俺はもう剣道は続けねぇから」

 

俺は勧誘を一蹴して荷物を持って、今度こそ部室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、見学のつもりがだいぶ時間くっち待ったよ」

 

時間はっと…うわ、もう17時30分か。さっさと帰って飯だ飯!

 

「……あ、あのっ!」

 

チャリを押しながら校門から出ようとすると声を掛けられる。またさっきの剣道部部長か?呆れながらそう思って振り向くとそこにはさっきまで剣道部の見学をしていた白金燐子だった。俺を追って走って来たのか息を切らしている。

 

「どした?なんか用か?」

「….えっと、途中まで帰り道が同じなので…それに、き、聞きたいこともあるんです…」

「ふーん。別にいいけど」

 

そう言うと白金燐子はチャリを押す俺の隣に入ってくる。

 

「あ、ありがとうございます…それで、聞きたいことなんですけど、な、なんで部活勧誘を断ったんですか?剣道……やられていたんですよね?」

 

あんまり詳しく話す訳にも行かねぇし、面倒いから端折って話すか……自分で傷口抉って向こうに変な顔されてもこっちが大変だからな。

 

「ちょっと中学時代に色々あってな…詳しいことは話せない」

「そ、そうなんですか…」

「?もしかして詳しく聞きたかったのか?」

「い、いいえっ!無理強いするなんて事はしませんっ…気になっただけなので…」

「ふーん。そっか、それはそうとあんたも部活動見学してたみたいだったけどなんか見つかったか?」

「それは…ま、まだなんです。あ、明日も見て回ろうかなっては思ってます…」

 

そんなことを話しながら歩き進めること数分、別れた帰路に到着する。

 

「あ、わたしこっちなのでここで失礼します。今日は、その…ありがとうございました」

 

そう言って歩こうとする白金燐子を俺は呼び止める。

 

「ちょっといいか?もしかして明日も部活見て回るのか?」

「は、はい…」

「……新しいことを探すのはいい事だけど変わらないことが悪いって事ではないからな」

「?それってどう言う…」

「言葉通りの意味だ」

 

俺はチャリを漕いでそのまま家に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

 

〜白金家 燐子の部屋〜

 

 

『新しいことを探すのはいい事だけど変わらないことが悪いって事ではないからな』

 

家に帰ってから奥沢くんのあの言葉がどうしても引っかかる。前のわたしだったら…

 

『わたし…このままでいいのかな…?』

 

なんて事を思っていた。あこちゃんや今井さん達みたいにやってみたいことに挑戦したりするのに憧れや、尊敬の眼差しを向けていたわたしは勧められて色々な部活を回ってみた。茶道部、華道部、テニス部、弓道部…けど、色々見て回って思ったのはやっぱりわたしにはちょっと難しそうなことばかり…

 

「っあ!もしかして…」

 

そこでわたしは奥沢くんの言葉の意味を理解した。

 

「変わらないことが悪いことじゃないって…そういう事だったんだ…」

 

明日学校行ったら奥沢くんに感謝しないと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日 花咲川学園〜

 

 

「お、奥沢くんっ…」

「ん?どした?」

「えっと…昨日言ってくれた事ありましたよね?」

「あぁ、あれか」

 

奥沢くんは頭を掻きながら答える。

 

「あの言葉の意味…わたしなりに考えたんです。苦手な事や新しい事に挑戦したりするのはもちろん大切だけど無理して変わろうとしなくてもいい…自分の長所とか得意な分野があるならばそっちを伸ばすことも成長や挑戦する事に繋がる事じゃないかって思ったんです…あ、もちろん部活見て回るのはもうちょっとだけやってみようかなって考えてますよ?」

 

それを聞いた奥沢くんはふふっと少しだけ笑う。

 

「まさかそこまで考えてたとは…まぁ、そこまで分かってんならあとは実行に移すだけだな」

「あ、ありがとうございます…?」

 

奥澤くんはそのまま自分の教室に向かっていく。わたしは最後に奥沢くんが少しだけ笑った意味が分からなかないまま教室に行った。

 

 

廻寧side

 

 

「昨日のアレからまさかあそこまで結論導き出すとはなぁ…」

 

大したもんだよ。そんなことを思いながら携帯ゲームをしてるとクラスメイトの美鶴がなにやら沢山の紙とペンやら何だかよく分からないものを持って入ってくる。他の奴らは待ってましたと言わんばりに美鶴を見る。

 

「お・待・た・せ〜♪今日から学園祭期間って事でいーっぱい持ってきたわよ♪さ、張り切って行くわよぉ〜!!」

『おー!!』

 

俺には何が始まるのかさっぱり分からなかった。




次回第30話 廻寧・初めての学園祭

学園祭編はこころやイヴが廻寧に急接近!?けど2人の好意に全く気づかぬ廻寧がドッタンバッタン振り回されたり(ry的な事を考えてます。

それが終わったら2章のストーリーに入れたらなぁって思ってます。

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