臆病な兄と奇天烈集団   作:椿姫

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今回は前編後編分けます。一つだと収まりませんでした。



第5話 記憶と誤解 前編

「お、お前は……」

 

家のチャイムが鳴りドアを開けるとそこに居たのは、弦巻だった。花咲川の制服を来てるあたり学校帰りなのだろう。しかも汗を掻いてる。ダッシュして来たのが分かるくらいにぜぇぜぇしてた。

 

「り…リンネー…話が…あるの……」

 

俺は危険を感じたのか急いでドアを閉めようとする。弦巻はこれにがっつく。

 

「リンネー!?どうしたの!?なんで閉めようとするの!?」

 

俺は目を合わせようともせずにドアに力を入れる。が、どうやってもこじ開けられそうになる。女手一つでは力を入れてるとはいえ俺の方が力が強いはずだ。ドアの隙間からこっそり見ると黒服の人が何人かいて弦巻のことを手伝っていた。ってかいつの間に増えたんだっ!?さっきまで居なかっただろうが!?や、やばい…これ以上は力が…

 

「ちょっとこころ!?何してんの!?黒服の人までいるし!?」

 

外から美咲の声がした。良かった。これで何とかなりそうだ。

 

「美咲!つ、弦巻を追っ払ってくれ!」

 

俺がそう言うと美咲は、

 

「そうしたいのは山々ですがお兄ちゃん……あたしはこころに頼まれて家に案内して欲しいって言われちゃってて…ホントごめん」

 

……え?

 

「マジで?」

「うん、マジ」

 

その美咲の言葉により、俺が扉にいれてた力が抜ける。弦巻はそれを逃さず思いっきり開けて家に入ってくる。俺は慌てて部屋に逃げ込む。また血を吐いてしまう。あの頭痛がまたくるかもしれない。俺はドアにもつれかかるようにしてその場に座り込む。

 

「はぁ…はぁ…何とか逃げ込めっ!?」

 

ドアをドンドン叩く音がする。十中八九弦巻だろう。

 

「リンネー!!お願い!!開けてリンネー!!あたしはあなたを怖がらせたいんじゃないのよ!?誤解を解きたいのよ!!あの時みたいに一緒に笑って欲しいから!だから開けて!リンネー!!」

 

だからあの時ってどの時だよ!俺には何のことだかわかんねーよ!!

 

「ーーっ!?」

 

またあの時と同じだっ!あ、頭がぁ…

 

(マジでなんなんだよっ!?弦巻……お前は俺の何を知ってんだ!?何者だよお前はぁ!?)

 

「こころも落ち着いて!!お、お兄ちゃん大丈夫!?」

「み、美咲…俺は、な、何とか…ううっ…」

「リンネー!!お願い!!話だけでも…み、美咲?」

「こころ、1回落ち着いて?あんたの事は分からなくもないよ、早く誤解を解きたいんだよね?だったらあんたが1番落ち着かないとダメだよ?そうじゃなきゃ…伝えたい事は上手く伝えられないよ…」

 

 

こころside

 

 

あたしは美咲に言われてようやく落ち着いた。自分がいちばん落ち着かなきゃいけないのに。これじゃあリンネーはずっとあたしに怯えてしまう。それは嫌だ!リンネーと笑っていたい。一緒にいたい!あたしにとってのヒーローと!

 

「り、リンネー……」

 

あたしは部屋にいるリンネーに声を掛ける。返事は帰ってこなかった。あたしは語りかけるようにリンネーに話す。

 

「…リンネーは覚えてないかもしれないけど、あたしはあなたと昔、会っているのよ!!」

 

 

廻寧side

 

 

は?今弦巻なんて言った…?昔、俺と会ってる?そんな訳ない!コイツを見たのはこの前のライブが初めてなんだぞ!?

 

「え?こ、こころ、それって本当なの?あたしは知らないんだけど」

 

扉の外では美咲が疑問符を浮かべているだろう。それでも弦巻は淡々と話を続けた。

 

「会ったのは中学の頃…あたしがクラスで孤立してて学校の屋上で1人でご飯を食べてた時かしら…」

「え?あんた孤立してたの?」

 

美咲は驚いてるようだった。

 

「いつもみたく屋上で食べようとしたら先客がいて……それがリンネーだったのよ?」

 

中学時代……俺がまだ女性不信と恐怖症になってない時だな…確か気分転換に屋上で飯食うかなみたいな感じになってそれで飯食っててその時に確か……金髪で背の低い後輩みたいな奴が来て…そして…目に涙を溜めて悲しい顔をしていた…

 

「……思い出した」

「え?」

「お、お兄ちゃん?思い出したってどう言う…?」

「過去の事を…思い出せた…あの時確かに俺と弦巻は会ってた!!」

「思い出せたの!?リンネー、本当なの!?」

 

弦巻は嬉しそうだった。が、しかし俺にはやはり心残り、いや忘れもしないあの日の事…俺が女性不信と恐怖症になり登校拒否になった時。

 

「でもよ弦巻、お前が俺のことを嵌めて登校拒否にした挙句恐怖症とかを植え付けた事実は変わらないだろ!?」

「それは違うのリンネー!」

「何が違うんだよ!?クラスの奴と母さん買収して俺の事陥れたくせに!さっき過去の事思い出したせいで余計なモンまで思い出しちまったじゃねーか!!ふざけんな!!これじゃ俺に追い打ちをかけてるようなもんだろうが!?」

 

弦巻は黙り込む。そして喋り出した。

 

「リンネーには言ってなかったわね…あの時あたし……お母さんに脅されてたのよっ!!」

「は?脅されてた?」

「こころ、あたしにもそれ詳しく聞かせて?」

 

美咲と俺は何を言ってるのか分からかった。弦巻は分かったわといって喋り始めた。

 

「あれはあたしとリンネーが知り合ってちょっとした頃…いや、まずは屋上の件から全部話すわ。そうじゃないと誤解を解けないもの」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

過去 中学時代

 

それはいつもみたく屋上でご飯を食べようとした時だった。たまたま先客がいた。しかもその男は●ャンプを片手にお菓子を食べてたわ。あたしは気にせず座って食べようとすると、話しかけられた。

 

 

『おいお前、何で屋上で飯食おうとしてんだ?クラスの奴らと食えよ?寂しくねぇの?』

『クラスにあたしの居場所は無いからいいのよ…』

『何でんな事分かるんだよ?お前ってもしかして苛められてるとか?』

『別にあなたには関係ないわ…あたしの事なんて放っておいてよ』

『マジか……こういうタイプの女子ってマジでいんだな?ドラマとかでしか見たことねーぞ?』

『さっきからあなたなんなの!?嫌味なの!?』

 

あたしが強くそういうとその男は頭を掻き毟る。

 

『はぁ……それはこっちのセリフだバーカ』

 

そう言うと男はあたしに近寄ってほっぺたを引っ張り出す。

 

『ちょ、な、何するのよっ!?』

『いや、シケたツラしてたからよ?ちょっと笑わせてやろうかなって思ってさ?』

『何でそんなことするのよ!?頼んでもないのに!!早く独りにさせてよ!!放っといてよあたしの事なんか!!』

『あのなぁ…人生は1度っきりなんだぞ?そんな後ろ向きで卑屈で楽しいか?独りにさせるのは簡単だろうよ…今俺がこっから立ち去るだけでいいんだからな?』

『分かってるなら早く独りに…』

『けどよ、自分から孤独を選んで心を閉ざすってのは些か腑に落ちねぇぞ?ちょっとやられただけとか嫌な事があってそんななってたら命がいくつあっても足りねーぞ?』

 

そしてそいつはあたしの頭を撫でる。

 

『な、何をっ……』

『ま、とにかく!前向きに生きてりゃなんとでもなるんだよ!取り敢えず後ろ向きな考えはやめろ!明るく!楽しく!人生なんてそれでいーんだよ!な?』

 

そのあっけらかんとした態度とセリフに思わずあたしはちょっと笑いそうになった。

 

『ぷっ、な、何それ……』

『ほら笑えんじゃん!笑った方がお前には似合うよ?そんな感じで毎日過ごせば楽しいことなんてすぐ見つかる!嫌な事なんてすぐ忘れちまうかもな?』

『あなたって面白いのね……何かモヤモヤが晴れた気がするわ…ありがと』

『ならいいんだ、ってうわ!?もう昼休み終わっちまう!次の授業めんどくさいけど行かなきゃな〜』

『ね、ねぇっ!』

『ん?どした?まだ俺になんか用か?』

『な、名前教えて!』

 

男は1拍置いてから名前を教えてくれた。

 

『…………奥沢廻寧だ』

『ありがとリンネー!!』

『おいっ!いきなり呼び捨てかよ!?ってか俺教えたんだからお前も教えるのがマナーだろっ!?』

『あたしは弦巻こころ!ヨロシクねリンネー!!』

『よろしくな……こころ!』

 

これがあたしとリンネーの出会いだった。

 

それから昼休みにリンネーと屋上で話をするようになったわ。

 

『なぁこころ、お前って何かやりたいことは無いのか?』

『やりたいこと?特には…ないわね…』

『ふ〜ん…』

『でも、あの日から毎日が楽しい…って思える様になったわ!』

『それでいいんじゃね?』

『どう言うこと?』

『ん〜何つったら良いかな…明るく振舞っているのがこころらしいって事だ、そうやって楽しい事を探していけばいいんじゃないか?』

『楽しい事を…探す…分かった!やってみるわ!!』

『頑張れよ?』

『それで、その……リンネーも一緒に探してほしいんだけど、い、いいかしら…?』

『そんなの聞かなくてもわかるだろ?』

『それって…』

『あぁ!手伝わせて貰うぜ!』

『あ、ありがとリンネー!!』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

弦巻の話は全部本当の話だ。俺がアイツに声を掛けてそれから話すようになって、楽しいことを探していけば明るくなれる。そう言った。

 

弦巻に付き合い、楽しいことを探しに街中を歩き回って帰ろうとした矢先に事件が起きた。弦巻が青信号になって歩き出した際に乗用車が信号を無視して突っ込ん出来たのだ。俺は咄嗟の反応でこころの腕を引いてなんとか事故を防いだ。それは良かったのだが…腕を引いた際に弦巻が転んで足を怪我させてしまった。当時は「大丈夫だから」って言ってたな。けどそれが大きな落とし穴だった。

 

事件のあった翌日、学校に行くといきなり先生に呼び出されて指導室に行くと

 

『廻寧、お前が弦巻こころを怪我させたというのはどういう事だ?』

 

と聞かれた。俺は必死に弁論しても誰も話を聞いてくれなかった。信じてもらえなかった。理由もわからなく2週間の謹慎処分を下された。

 

処分が終わって学校に来てみれば俺は皆から毎日ブーイング、苛め、カツアゲ、机やイスにガムや画鋲、水糊がこれでもかと言うくらいだった。俺は我慢の限界を迎え遂に、クラス中のヤツらを片っ端から殴り倒してった。男女関係なく半分以上を病院送りにした。窓ガラスも割りまくり手は血だらけだった。結局そのまま俺は中学3年の時に強制退学させられた。学校を出る際に何か呟くクラスのヤツらがいたから脅して白状させた。

 

『俺達は弦巻グループに脅されただけなんだ!』

『お前を犯人扱いすればこの先いい高校へ推薦させるし報酬額は上乗せするって!仕方なかったんだ!』

『廻寧はそんな事しないって分かってたけど…でも…』

 

教師も同じだ。

 

『私達は脅されただけだ。職を失うわけにはいかなかったんだ』

 

結局自分の保身のために俺を学校から消した。俺はもう怒りを抑えるなんて出来なかった。家に帰ってからは親に罵倒された挙句に『要らない』なんて言われたらもう無理だわ。思い出しただけでまた怒りが込み上げてくる。

 

「おい弦巻、母親に脅されたって言ってたよな?」

 

ドア越しに弦巻に話しかけると「ええ」と言った。こうなったら………

 

「案内しろ」

 

俺はドアを開けて弦巻に言い放つ。

 

「俺を弦巻家に連れてけ。…………そして母親に合わせろっ!!!!直接気かねーとなぁ…俺の人生奪った張本人にっ!!」

 

俺がそう言うと美咲は

 

「あたしも行く。理由が知りたい。それにお兄ちゃんとこころに何があったのかも…」

 

弦巻は頷いた。

 

「分かったわ…あたしの家に連れていくわ」

 

 

 

 





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