臆病な兄と奇天烈集団   作:椿姫

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人を感動させたりするエピソードは改めて考えると難しいと感じます。




第6話 記憶と誤解 後編

弦巻が手配した車に乗って俺と美咲は弦巻家に付いた。とばして数分もかからなかったな…

 

「リンネー、美咲、ついたわ」

 

そう言われて俺は車を降りて弦巻の家を見渡す。

 

「………でけぇ…」

 

漣が言ってたことはマジだった。弦巻家のご令嬢ですっげー金持ちだって聞いてたが…

 

「いつ来てもこころの家はすごいよ…」

「美咲、来たことあるのか?」

「まぁ、ね?ハロハピの集まりでさ……」

 

そんな事を話しながら俺達は弦巻家に入った。ここに来た目的は弦巻の母親にあることを俺は忘れてない。

 

母親の部屋の前まで案内されて弦巻に待っててと言われる。ちょっと待つと弦巻が入っていいわよと言ってきたので俺と美咲が入ると弦巻の母親がいた。俺のことを見ると申し訳なさそうに目をそらすあたり俺の事を知ってるようだ。むしろ知らないとは言わせない。

 

「アンタが弦巻の母親だな……やっと話が出来るぜ…」

 

俺は怒りを露わにして近づく。そしてトーンを低くしてデスクを思いっきり叩きつけて問いかける。

 

「単刀直入に聞くぞ…中学時代に俺と弦巻を無理やり引き剥がして事件を俺に全部擦り付けて大切な時間を奪ったのは…アンタだろ?」

 

俺は間髪入れずに続ける。

 

「それだけじゃないぜ?俺の女性不信と恐怖症は元はと言えばアンタのせいでもある…知らなかったとは言わせないぜ?」

 

俺がそう言うと弦巻の母親が喋り出す。

 

「……えぇ…私が張本人よ…」

 

デスクから乗り上げて俺の横に来て深々と頭を下げた。黒服の人や美咲達はその光景に驚きを隠すことが出来なかった。

 

「私がちゃんとこころの話を聞いてれば…勘違いしないで脅してなければ…本当にごめんなさい!私のした事は許されないことだってのは分かってるわ!」

「じゃあ俺からいくつか質問させてくれ」

 

俺がそう言うと分かったわと言った。

 

「中学時代にクラスメイトと教師を金で買収したのは知ってる。けど何で母さんまで買収した?」

「あの時の私はすごく過保護で娘に何かあったらとにかくヒステリックに喚き散らしてたわ。廻寧って言う人…あなたの名前をこころが出した時に考えたのよ。怪我をさせたのをそいつのせいにしてしまえばいいって…そして学校の教師やクラスメイト、あなたのお母さんも買収してこの事件は奥沢廻寧が起こしたことにするって…」

 

俺はそれを聞いて納得した。弦巻を守るために俺は消されたわけだ。怒りがこみ上げてくる…勘違いと過保護なせいで俺の時間がなくなった、女性不信と恐怖症になったのかと思うと尚更である。

 

「あんたの言い分は分かった。要するに娘が大事だったから…ってことだろ?」

「えぇ…」

「分からなくもないさ、あんたの言い分はもっともな意見だ。みんな大事な人や家族を守りたいからな。俺だって美咲や美葉が嫌な目にあうのは許せないからな」

「じゃあ…」

「でもなぁ…」

 

俺は顔を上げた弦巻の母親の胸倉を掴んで顔を寄せて言い放つ。

 

「それは他人の人生を奪っていい理由にはならねぇよ!!!!」

 

俺の怒号で後ろにいた美咲達はビクッとした。俺はそのまま続ける。

 

「あんたの目を見りゃ分かるんだよ!反省してるのは上辺だけで内心ではムカついてんだろ!?自分の娘が俺といる事が許せねぇんだろ!?未だに俺のこと『雑種』だって思ってんだろ!?」

 

弦巻の母親は俺から目を逸らして黙り込む。何かを考えたのか俺に懇願してくる。

 

「勘違いと早とちりであなたの人生を奪って恐怖症を与えたのは本当に悪い事だと思ってるわ…その印にあなたには謝礼を渡そうと思っていたのよ…」

「謝礼?」

 

俺がそう言うと胸倉を掴んでいた腕を話して自分のデスクからアタッシュケースを取り出す。そして開けると中には、10,000円の札束がこれでもかと言うくらいにギッシリと詰め込まれていた。

 

「何だこれ?」

「見ての通り…1千万よ…これだけあればあなたの失った時間に足りるかどうかはわからないけど…受け取ってくれないかしら?」

 

俺は目の前に札束に目もくれずに再び弦巻の母親の胸倉を掴んだ。

 

「な、何するのよ!?謝礼金はわ、渡したじゃない!」

「………」

「黙ってないでないか言いなさいよ!」

「………う」

「?」

 

俺は大きく息を吸って顔を近づけて言う。

 

 

 

 

 

 

「……なんでも金で買えると思ったら大間違いなんだよバカ野郎!!この後に及んでまだ買収する気でいるのか!?呆れを通り越して滑稽だわ!調子に乗るなよ!?」

「結局世の中はお金なのよ!?それくらい分かるでしょ!?お金されあれば何だってできるのよ!?人の心だって簡単に動かせるじゃない!?」

「ふざけるな!!開き直ってんじゃねーよ!!」

 

ここまで俺がキレたことはそうそうないだろう。しかも相手は俺を女性不信と恐怖症に陥れた張本人なのに。正直また吐血しそうな気分だし足はガクガク、立っているのもやっとなくらいだ。

 

「いいかよく聞け!!世の中には金よりももっと大事なものがあるんだよ!!夢や友達……そして何よりは自分のことを思ってくれる家族だ!!あんたにはいるか!?心の底から『家族』と呼べる人間が!!いるのか!?」

 

俺がそう言うと弦巻の母親はこころや黒服の人を見て泣き崩れてしまった。

 

「……ごめんなさい…本当にごめんなさい……私は……なんてことしてしまったの…うぅっ…」

「顔上げろ弦巻母」

 

俺がそう言うと泣きながらこっちを見る。

 

「ねぇ……お金ってなんのためにあるのよ…お金のせいでこんな事になるなら…要らないわよ…」

「………金は、金よりも大事なモンを守る為にあるんだよ…最後にこれだけ言っておくぞ?耳穴かっぽじって聞けよ?」

 

そういうと弦巻母は頷く。

 

「今度また買収するような事があったらその時は…マジで許さねーからな!?金で人の心は買えないことをしっかり叩き込んどけよ!?心を動かすのはソイツがどんくらい頑張ったか、努力したかなんだぞ!?」

 

その言葉が響いたのか弦巻母はまた、深々と頭を下げた。俺はその場をあとにして部屋を出ようとすると美咲が駆け寄って来る。

 

「お、お兄ちゃん…」

「大丈夫だ美咲、あれだけキツく言っておけばやってこないだろうよ?」

「いや、そ、そうじゃなくてさ…」

「?」

「……口から血が……出てる…」

「……え?」

 

俺は自分の口を拭う。すると手には血がついた。それを見て黒服達は少し怯えていた。

 

「大丈夫だ、家まではもつよ…話はついたから帰ろーぜ…」

 

俺はガクガクの足で部屋を出ようとするが、またしても膝と手をついてしまう。そしてそのまま

 

「がはぁっ!う、ぅぐぁぅ、うえぇ」

 

以前と量は少ないが俺は血を吐いて倒れてしまう。

 

「り、リンネー!!」

「お兄ちゃん!!」

 

それを見た弦巻と美咲が心配してる。

 

「だ、大丈夫だって……」

「無理しないでよ……ずっと腕も足も震えてたんだからさ」

「ごめんな美咲…心配させちゃって…」

「リンネー、しっかりして!」

「……ばーか。こんなんで死なねーよ」

 

美咲と弦巻の肩に俺の腕を回された状態で部屋を出た。部屋を出て用意してあった車に乗せられて家まで戻る。その後は部屋まで行き俺はベッドに横たわってと言われた。

 

「待っててお兄ちゃん、お粥作ってくるから」

 

美咲はそう言って部屋を出た。俺の部屋には俺と弦巻の二人きりとなった。

 

「……リンネー」

「どうした……?がふっ」

 

血を吐きそうになりながらベッドから起き上がる。

 

「誤解って…解けたのよね…?」

「まぁ、そうだろうな…」

 

それを聞いて安心したのか弦巻は胸をなでおろす。

 

「ね、ねぇリンネー…ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…いいかしら?」

「何だ?」

「あのね…明日からまた学校来るのよね…?」

「そうだが…」

「それでね……中学の時見たく一緒にご飯食べたり出来ないかなって……ダメかしら…?」

 

俺は弦巻の目を見る。美咲達と同じ目をしている。前まではあんなに拒絶していたのに今はちゃんと見ることが出来る。

 

「俺なんかで良いなら……」

 

俺がそう言うと弦巻は抱きついてきた。

 

「お、おい!いきなり何をっ……」

「ありがと…嬉しい」

 

俺は弦巻の頭を撫でようとすると部屋の外から美咲の声がした。

 

「お兄ちゃーん?大丈夫?」

 

弦巻は急いで離れてテーブルの近くに座る。

 

「大丈夫だぞ!?」

「だったら良いんだけど…お粥作ってきたよ」

 

そう言って美咲が部屋に入ってくる。

 

「サンキューな美咲…あとは自分で何とかするよ…」

「熱いから覚ましてあげるよ、無理しないで」

 

美咲はそう言ってお粥を木のスプーンでひとくち掬いふぅふぅと息を吹きかける。

 

「はいお兄ちゃん、口開けて」

「お、おう」

 

俺はひとくちお粥を食べる。

 

「ど、どう?」

「美味い…ありがとな美咲…それに……こころも」

「!?り、リンネー、今あたしの事名前でっ!?」

 

こころは驚いていた。

 

「昔見たく名前で呼んでみたんだけど…嫌だったか?」

「ぜ、全然いいわよ!」

「そっか。ありがとな。じゃあこれからもよろしくな、こころ」

 

 

俺はそのままお粥を食べながら話をすすめる。

 

「……今はまだ完全に克服したとは言えないけど…少しずつでいい。少しずつでいいから俺は自分と……女性不信と恐怖症に向き合って行きたいって思う」

 

そう言って美咲とこころを見る。

 

「だからさ……こんなこと言うのは不躾かも知んないけど…俺が挫けたりしそうになったら……支えてくれないか?俺も…2人に協力したいからさ…ダメかな?」

 

俺がそう言うとこころと美咲は

 

「当たり前でしょ?あたしのお兄ちゃんなんだからさ?辛くなったら…話聞いてあげるよ…」

「リンネー、今度はあたしがリンネーを助けるわ!そしてみんなで笑顔に、ハッピーになれる日を迎えたいわ!」

 

ちょっと顔を赤くしたけどちゃんと答えてくれた。俺はそんな2人の頭に手を置く。そして精一杯の感謝の気持ちを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ありがとう」

 




今回から新しいイベントが始まりました!皆さん新規メンバーは当てることが出来ましたか?僕は勿論(ry
ロメオが追加されてやってみたら薫Voiceがスゴいです!

次回は今やってるイベントにしようかと思ってたりします!
今日いっぱいで番外編アンケートが終わります!まだ投票していない方は投票受け付けておりますので〜

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