臆病な兄と奇天烈集団   作:椿姫

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体育祭編の後編となります。
かなり時間をかけたなと自分自身で思いました。




第9話 花咲川体育祭 午後

 

 

 

 

 

午後の始まりは飯を食ったばかりなのにも関わらず『パン食い狂走』からだった。体育祭の日程表を改めて見たけど中々カオスだったな…

 

「なんで誰も不思議に思わないんだよ…」

「お兄ちゃん、もう諦めるしかないよ…あたしもこれ全部にツッコミ入れろってなると無理だよ…」

「安心しろ美咲、俺は諦めてるよ…」

「ははは…」

「はははははは…」

『あーはっはっはっはっはっは(棒)』

「り、廻寧くん…み、美咲ちゃん?どうしたの?笑ってるのに顔が怖いよ…」

 

不気味に思ったのか松原が話かけてくる。それに美咲が答える。

 

「大丈夫だよ花音さん…体育祭がカオスだなぁって話してただけですから…」

「あ、あはは…あ、たえちゃんがそろそろ出るよ?」

「花園さんが?あ、ホントだ…」

 

美咲と松原が視線を向けた先には花園と呼ばれていた奴がいた。長い髪を結んでるあいつか…?

 

「おたえー!がんばってー!」

「お、おたえちゃん…頑張ってぇ〜」

 

うぉっ!?ビックリした。横を見ると猫耳みたいな髪とショートヘアの女子がいた。なんなんだこいつら、花園の友達みたいなもんか?

 

「あっ!ビックリさせちゃってすいません!?」

「べ、別に…」

 

猫耳みたいな髪の女子に謝られたが俺はそっぽを向く。見た感じこういうのってはっちゃけてるタイプだよな?こころみたいな感じのやつだ。

 

「戸山さん…声大っきいよ?」

「ごめんごめん美咲ちゃん!」

「美咲、この猫耳と知り合いなのか?」

「あ、うん。この人は戸山さんで隣がりみだよ」

 

美咲が簡潔に紹介すると戸山はぐいぐいくる。

 

「初めましてですね!私は戸山香澄です!バンドやっててギターやってます!poppin partyって言うんです!今度ライブに来てください!」

「ひぃっ!?」

 

俺は迫られて後ずさると戸山はかなり不思議そうにしてた。

 

「な、何でそんなに青ざめてるんですか?」

「あの、戸山さん。この人あたしの兄さんで…」

「えぇっ!?美咲ちゃんのお兄さんなの!?」

「美咲ちゃん…お兄さんいたんだ…よ、よろしくお願いします…牛込りみです」

 

美咲がりみと言っていた女子が挨拶をしてくる。こいつは怖がる程でもないの、かな?

 

「ま、まぁ…よ、よろしk」

「名前!教えてくださいっ!」

 

またしても戸山が迫ってきた。俺は後ずさるとやはり不思議そうにしている。

 

「あ、あの戸山さん。あたしの兄さんは…ちょっと色々あって…だからあんまりぐいぐいいくと怖がられちゃうから…兄さん大丈夫?」

「だ…大丈夫だ美咲…」

 

俺が怯える中、美咲は牛込と戸山に事情を説明する。聞き終わったあと2人は申し訳なさそうに謝ってきたが悪気は無いって事だけは分かった。

 

「美咲ちゃんのお兄さん…ごめんなさい」

「私もはしゃいじゃってすいません…先輩」

 

牛込と戸山が頭を下げる。

 

「あ、あんまり気にすんなって…それと一応名前は教えといてやる。奥沢廻寧だ」

「よろしくお願いします!廻寧先輩!」

「廻寧さん…よろしくお願いします」

 

牛込は戸山と違って消極的なんだな。多分戸山がはっちゃけ過ぎて苦手意識があるだけだな…俺は戸山に慣れるまで絶対時間かかるだろ…。

 

『次は借り物競走になりますので出場する生徒は集まってください』

 

アナウンスが流れたってことは次の競技だな。

 

「借り物競走……そう言えば俺出るんだったな…」

「兄さん…程々にね?」

「廻寧くん…頑張って」

 

松原と美咲に応援されながら俺は出場メンバー達のところに向かった…のだが、

 

「…え?」

 

筋肉モリモリマッチョマンな3年生が数人いて強者感を醸し出していた。お前ら借り物競争ってより綱引きとか力比べでもしてろよ。そんな事を考えてると俺に気づいたのか話しかけてくる。

 

「おい若造…まだ若い命、無駄にするんじゃねぇよ…ここから先は命懸けの戦だぞ」

 

えぇ何それ…借り物競争って死人とか出る競技だったっけ?座って待ってると壇上に生徒会らしき人が来た。ルール説明でもすんのかと思ってたのも束の間、いきなり頭を下げた。

 

『えー、借り物競争担当のものです。去年の秋は…ホントすいませんでした』

 

おい去年何があった、生徒会詳しく説明しろ。

 

『今回は、あんな事が起きないようにこちらも精進しますので…ホントすいません』

 

だから何があったんだよ?そこ教えろよ。

 

『それでは借り物競争始めたいと思いますので準備お願いします…はぁ、救急隊呼んどこっと…』

 

ちょっと待ていま救急隊つったぞ?ガチでか?そんな事態になるほどなのか?そして色々な不安を抱きながらも借り物競争が始まった。次々とスタートしてゴールしていく。あれ?普通の借り物競争じゃね?安堵したのも束の間、

 

『救急隊が到着しました!負傷者を担架に乗せるので手伝ってください!』

 

そう言って救急隊が運んでいたのはボコボコにされた雅臣だった。アイツは何してんだ…。あ、そろそろ俺の番が来る。スタート位置に立つとさっきの筋肉モリモ(ryの先輩がいた。

 

「貴様と戦うとはな…容赦せんぞ?」

「…御手柔らかにお願いしたい」

 

スタートの合図がなりみんな走っていく。借り物競争はその名の通り紙に書いてあるお題を探し、持ってきてゴールするというものだ。難しいのだけはこないで欲しいと願いながら俺はお題を見る。そこに書かれてたものは…

 

『金髪美少女』

 

「……は?」

 

お題と呼べるのかどうかわからないものに困惑する。見渡すと他の奴らも苦戦してるみたいだった。

 

「誰か!ドローン持ってきてないか!?」

「保険証と実印貸してくれ!」

「エビフライのしっぽ!?食べ残しじゃねーか!」

「借り物は自分の心に聞けってどういうこと!?」

「誰かおらぬか!プロテイン持ってる者はおらぬか!?」

 

色々ツッコミしたいがまずは考えるしかない。金髪美少女っておいおい借り物じゃねーだろ人になってるだろーがそもそもこの学校に金髪の人なんて都合よくいるわけ……

 

「…あ、都合よくいるじゃねーか」

 

俺は白組陣地にいく。不思議そうに美咲やこころ達が見る。

 

「リンネー?」

「どったのお兄ちゃ…兄さん?」

「こころ…悪ぃけどちっと我慢してくれ!」

 

そう言ってこころの腕を引っ張っていく。その光景に美咲は当然だが白組陣地全員が呆気にとられていた。

 

「り、リンネー!?どうしたのよ!」

「説明はゴールしたら話す!とにかく今は走れ!」

『おおっと2年生の廻寧くんが突然弦巻さんを引っ張っていくぅ!他の奴ら何してんだ!早くあいつら止めろやぁクソボケぇぇぇぇぇ!!!!』

 

実況してる奴の私念だか妬みやらはともかく俺はこころを引っ張りゴールに向かっていく。このまま何事も無くゴールできればいいと思っていたが、

 

「待てや廻寧ごらぁ!」

 

そこにはエビフライのしっぽを手にしっかりと握りしめて追いかけてくる奴がいた。俺の名前を知ってる限り同じクラスのやつか?けど赤組だから敵だな。後ろからはムキムキの3年生がプロテインを片手に走ってくる。

 

「体育祭に乗じて女の子とイチャイチャするなぁぁ!俺はこの体育祭で活躍したら気になるあの娘に告白するんだよォ!!だから一等賞は譲れぇ!」

「全然関係ないだろ……ってかそのセリフってフラグってやつだろ?」

「悠長に言ってろ!そしてフラグとか言うな!」

 

そいつはペースを上げて走っていく。どんどんと距離が離れていく…こうなったら、

 

「こころ!」

「なにかしら?」

「おんぶしていくから乗れ!」

 

俺はしゃがんでこころに乗るように促す。

 

「だ、大丈夫なの?また吐いたりしたら…」

「吐かないようにする!早く!」

 

俺はこころが背中に乗ったのを確認すると俺は走り出した。突き放された分は取り返したいし、何より…ここまでやったら勝ちたいからな!

 

『おおっと廻寧くんが弦巻さんをおぶって走り出したァ!死ねぇ!俺はまだ1回も女子おんぶしたことないんだぞおぉごらぁ!なんて羨ま…け、けしからん!!』

 

やっぱ実況の私念まじってたな。俺は気にせず走って行く。もうちょいでまえのやつに追いつきそうだな…

 

「げっ!?もう追いつきやがったのか!」

「悪いけど一等賞狙わせてもらう」

「させるか!」

 

全く同じタイミングで俺たちはゴールテープを突破する。どちらが一等か分からなかった為スロービデオで確認するとの事。観てみると…

 

 

俺とこころの方がほんの僅かだが早かったみたいだ。

 

『ゴール!廻寧くんが弦巻さんを連れて一着だぁ!』

 

ぜえぜえと息を切らす。こころが心配して背中から降りる。

 

「リンネー大丈夫!?」

「だ、大丈夫…な、何とか耐えたぞ…」

「だ、だったらいいんだけど…それよりもなんであたしを引っ張っていったの?」

「こころしかいなかったからだよ」

 

俺は借り物のお題をこころに見せる。

 

「え…金髪美少女?」

「この学校にはこころしかいないだろーが。だからだよ」

 

俺がそう説明するとこころは何故か紅潮していた。

 

「どしたこころ?何でそんなに顔赤くしてんだ?」

「え?い、いや何でもないわ!?じ、じゃああたしは陣地に戻るわね!」

 

そう言ってこころはあたふたしながら戻っていった。

 

「…何だったんだ?」

 

 

はぐみside

 

 

『次は学年別リレーを行います。最初は3年生なので準備の方をお願い致します』

 

廻くん先輩達の借り物競争が終わって次はいよいよリレーの時間がやってくる。ちなみにはぐみ達1年生は最後になってる。緊張するなぁ…昨日のみーくんとの電話の件もあるし…うぅ。

 

「はぐみ!」

「ど、どうしたのさーや?」

 

さーや達がが話しかけてきた。

 

「もしかしてモヤモヤしてる?」

「う、うん、まぁね…やっぱりはぐみは勝ち負けがあるのはちょっと苦手なんだよね…」

「そう言えば最初の徒競走の時もだったよね?」

「う、うん。ダンスみたくみんなで楽しむのは全然いいんだけど…」

「てゆーかさ北沢さん、こんな事言うのもなんだけどたかが体育祭だぜ?いちいち気に止めてたらきりねーぞ?」

「そ、そうだけどさ…」

 

あーちゃんに言われて益々モヤモヤしちゃしそうになる。まだ1年生の出番じゃないからはぐみはみんなに言ってちょっと学校の方に行く。1人で考えたい。

 

「みんなが応援してくれてるのは嬉しいけど…やっぱり…勝ち負けつくのが苦手だな…」

 

考えれば考える程頭がパンクしそうになっちゃう。はぐみが考えてると、

 

「はぐみ」

 

誰かが話しかけてきた。振り向くと廻くん先輩とみーくんがいた。

 

「あれ?2人ともどうしたの?」

「どうしたのじゃないよ…その様子だと昨日からずっとモヤモヤしたりグルグルするんだね?」

「う、うん…」

「北沢」

 

廻くん先輩がはぐみの前に来る。よく見ると足と手が震えていた。みーくんから聞いた限りだとかなり女の子が苦手だって言ってたからそうなってるんだと思った。

 

「お前のそのモヤを払うことは出来るぞ?」

 

廻くん先輩の放った言葉にはぐみは驚く。

 

「ほ、ホントに!?」

「あぁ、簡単な話だ…

 

 

 

・・・

わざと手を抜いて白組を勝たせればいい」

 

廻くん先輩の言葉を聞いてはぐみは反論する。

 

「り、廻くん先輩ちょっと待って!はぐみは手を抜いたりなんかしないよっ!?」

「でもお前の言っていることはそういう事だ。北沢が走る時にわざと手を抜いて白組を勝たせる…つまりはそういう事だよ」

「そ、それは…」

「じゃあ例え話をしよう。もし北沢が本当に手を抜いて白組を勝たせたとした。この場合はどうなる?」

「えっ?白組が勝つよ?」

「そうだよな?白組が勝ってこっちはみんなが喜ぶ。『頑張った』ってのを実感するよ…」

 

言葉を区切って廻くん先輩の目付きが変わる。はぐみは思わずびくっとしちゃう。

 

「でもよ北沢…そんなことしたら折角ここまで頑張ってきた赤組のやつらの努力が無駄になるんだぞ?」

 

廻くん先輩はそのまま話を続ける。

 

「北沢、勝負に勝ち負けは当たり前だよ。どんな所だってそれは変わらない決定事項だ。勝ち負けがつくのが苦手なんて言ってたらきりねーぞ?それと…戸山から伝言を預かってる」

「かーくんから?」

 

廻くん先輩は紙を出して読む。

 

「『徒競走の時ははぐに負けちゃったけど最後のリレーは負けないよ!いーっぱい楽しもうね!』だとよ?」

「……かーくん」

「あとはお前次第だ、俺も美咲も後は何も言わない。決めるのは北沢、お前自身だ」

 

はぐみはその言葉を聞いてようやく分かった気がした。

 

「…ありがと廻くん先輩、みーくん!はぐみ、全力で頑張るから!」

 

廻くん先輩とみーくんにそう言ってはぐみは陣地に戻った。

 

 

美咲side

 

 

はぐみが吹っ切れたみたいで良かったよ。それにしても…

 

「さて美咲、俺達も戻ろーぜ?」

「お兄ちゃん」

「どうした?」

「何で戸山さんの伝言なんて嘘言ったの?」

「……なんのことだ?」

「だってその紙、何も書かれてない白紙の紙じゃん」

「こうでもしないと北沢の不安を取り除けないからな。後で問い詰められたらその時はその時だ」

 

そう言ってお兄ちゃんは歩いていった。

 

それから1年生のリレーが始まってはぐみは見事に一等賞でゴールした。そして赤組は総合優勝することとなりました。あんなにスッキリとしたはぐみを見れてなんかホットした気分だった。

 

 

〜放課後〜

 

 

体育祭の片付けを終えてあたしはお兄ちゃんと帰路に居る。

 

「みーくん!廻くん先輩!」

 

後ろを振り向くとはぐみが走ってくる。

 

「どうしたのはぐみ?」

 

あたしがそう聞くと、

 

「お礼を言いにきたの!」

 

と答える。お兄ちゃんは目線を逸らしながら「別に大丈夫だ」と答えていたけどこういう時のはぐみってこころみたいだからなぁ。

 

「今日リレーでちゃんと走れたのはふたりのおかげなんだよ!お礼くらい言わせてよ〜?」

 

はぐみはそう言ってあたしらを見る。

 

「はぐみのモヤモヤを払ってくれてありがとう!それと体育祭、すっっっごく楽しかった!」

 

はぐみはじゃあねといってそのまま戻って行った。

 

「北沢って面白いやつだな」

 

お兄ちゃんのその言葉を聞いてあたしは確信した。はぐみのことも克服したってことを。え?なんで分かるかって?だってお兄ちゃんがはぐみに軽くだけど手を振ってたからね。少しでも変わってくれて嬉しく思った。

 

 





廻寧は少しずつ克服していくって感じにしています!
アプリでもうすぐフレンド機能が実装されると聞いてとても嬉しく思ってます。僕なんかとフレンドになってくれるか不安がちょっとだけありますが…

次回も楽しみに待っていてくれると嬉しいです!

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