タイトル通り、ある作品のオマージュです。
「好きな娘を選んでください」
隣に立っている――彼女は私の部下になるらしい――女性がそう言った。
「彼女たちの中から一人、秘書官を選べと」
「先程からそう申し上げているつもりですが」
柔らげな口調で語りかけてくるがその顔は笑っていない。
こちらを試しているかのようであったが、本心は……分からない。
「名前を聞きそびれていたが 」
「大淀と申します。これから宜しくお願いしますね」
凛とした声に伸びた背筋、いかにも仕事ができるといったような風貌だ。
「聞きたいことがあれば遠慮なくおっしゃってください。こちらの声は彼女たちに聞こえませんし、マジックミラーになっているので見えもしませんよ。どうしても決めかねるのなら、気になる娘と面会していただいても――」
「いや、この場で決める。変に情が沸いても困るので」
何か言いたげな表情をしていたが、大淀は言葉を発しなかった。
鏡の向こうには少女たちがいた。
第二次性徴期前後の未発達な体に、目を覆いたくなるような傷。
ほんの少し何かが違えばきっと太陽のもとで健やかに過ごしていたであろう。
だがそうはならなかった。
ここにいる彼女たちには大事なものが欠けていた。
それは先天的なものではなく後天的に失われた。
突如海に現れた異形のモノによって、人類はその生存を脅かされることになった。
対になるように、過去の戦争を彷彿とさせる艦に似た鋼鉄の武装を身にまとい、やつらとの戦いに身を投じる少女たちの姿が各地で目撃された。
やがて、異形のモノは深海棲艦、戦乙女は艦娘と呼ばれ、世界は戦争へと突き進んでいった。
深海棲艦に立ち向かうべく、彼女たちは軍人として扱われ、住まう場所は鎮守府、指揮するものは提督と、歴史に習いそう名付けられた。
提督は鎮守府に着任する前に、秘書官、最初の艦娘を選ぶことが義務付けられている。
しかし今回は事情が少し違う。
本来、艦娘になる者は専門教育を経てから艦娘となる。
そもそも艦娘希望者は、訓練所に入る前に――適性があるのは当然のことである――身体検査が実施される。まずはそれをパスしなければならない。
しかし、目の前にいる子達は、最初の段階にたどり着けもしない娘ばかりだ。
いくら適性があろうと彼女たちは艦娘になれない。
ではどうすればいいのか。
簡単なことだ、欠けているなら補えばいい。
動乱のさなか、艦娘の情報と引き換えに、某国との取引によって生体工学やロボティクスといった技術の粋、通称『義体』が我が国に導入された。
本物と何ら変わらない人工の肉体を作り出す、誰もが夢見る技術が手に入ったのだ。そのノウハウの蓄積のため、臨床試験体として彼女たちが選ばれたということだ。
「反吐が出る」
思わずつぶやく。彼女たちは二度殺されるようなものだ。
目の前で大切なものを奪われ、今度は肉体も奪われ戦いの道具として扱われようとしている。
となりの彼女は何も言わず、まるでこちらの心の奥底を見透かすように、鏡に映る私を見ていた。
「……反吐が出る」
どれが一番役に立ちそうか、冷静に値踏みをしている自分に。
『この技術がどれだけ世の中に貢献できるか考えろ。なにも傷痍軍人のためだけではない。彼女たちと同じような境遇の子どもだって、日常に戻ることが出来るかもしれないんだ』
体のいい話だと思う。そのために犠牲になれと言っているようなものだ。
上層部の言葉に憤り反論しようとするが、頭の隅ではその有用さを評価している自分がいた。
結局はその話に乗ってしまった。
そして、今に至る。
「……?」
自己嫌悪に陥りかけ、意識を戻そうと顔を上げたとき、ガラス越しに目があった気がした。
こちらの姿は見えないはずだ。いや、そもそも彼女は目が見えていないではないか。
しかし、彼女の双眸はまっすぐこちらの瞳を捉えているかのようであった。
「あの子にしよう」
そう言って人差し指を向けた。
運命なんて小奇麗な言葉は似つかわしくないが、たしかな感じるものがあった。
「――ちゃんですか。念のため確認しますが、あの子でいいんですね」
「ああ、あの子がいい」
彼女は一礼し、手続きをしてきますねと言いながら奥へと去っていった。
あれから2週間が過ぎた。
そして今日、この鎮守府にあの子が艦娘としてやってくる。
一体どんな思いでやってくるのだろう。
正式に面と向かうのは今日が初めてになる。
もっとも、事前情報として名前と艦種、簡単なプロフィールぐらいは目を通している。
扉を叩く音が聞こえた。続いて大淀の声がする。
「提督、新しい艦娘着任しました」
「入れ」
ぎぃと音を立てながら扉が開かれた。
そこには、真っ赤な目の少女がいた。
今度は、しっかりと私の両目を捉えているのが分かる。
胸の奥に宿る焔を映したかのような、生き生きとした瞳を持つ少女が。
この子ならやっていけるだろう。無論そうでなくては困る。
「
声をかけると、自信たっぷりといった表情で答えた。
「叢雲よ。あんたが指令官? せいぜい頑張りなさい」
それが私と少女との出会いだった。
何番煎じか分からないけど書いてみたかった。