フィーのお話
「ふわ……」
噛み殺しきれなかったあくびが口からこぼれる。
時刻は深夜を回ったころ。酒を飲んでいたサラとトヴァルも眠りについた時間だ。
ぼんやりとした灯りしか点いていない宿酒場は活動している人がいないため静まり返っている。時期が冬ということもあって、虫の声も聞こえない。
珍しく寝付けなかったフィーは、何か飲み物でも貰おうとそっと忍び足で宿酒場の2階を歩く。階段までたどり着いてひょっこり首を出せば、カウンターの向こうで明日の朝ごはんの仕込みをしている女将が目に入った。
階段を降り切ったところで、女将がこちらに気が付いた。
「あら、サラちゃんトコの。どうしたの、眠れない?」
「ん。何か飲み物をもらおうと思って」
「任せてちょうだい。紅茶だと逆に眠れなくなりそうだし、ホットミルクでも作りましょう」
そこに座って、と言われ、大人しくカウンター席に座る。
周りを見回してもフィーと女将しか1階におらず、昼間の喧騒とは大違いの空気になぜか身震いした。
しばらくすると、猫柄のマグカップがことりとカウンターに置かれた。真っ白なホットミルクの上には、茶色い粉が少しだけかかっていた。
「お砂糖を入れてシナモンパウダーをかけてみたの。お口に合えばいいんだけど」
にこにこと笑う女将に、いただきますと言って口に含む。
「……おいしい」
フィーは猫舌というわけではないが、それでも熱すぎない温度だ。ごくりと飲み込むと、体の芯からじわじわと温かくなっていくのを感じる。鼻から抜けるシナモンの香りもちょうどいい。
「本当? よかった。それに、ようやく笑ってくれたわね。うれしいわ」
女将に言われ、フィーは え、と小さく口に出す。
「サラちゃんたちと一緒にいたときも、笑っていないように見えたから。笑ったらすごくかわいいのに」
コト、と手に包んだままマグカップをカウンターに置く。少しだけぼんやりと考えて、フィーは「必死だったから、かも」と口にした。
内戦が、あった。それでも、バラバラになっていた仲間は、クラスメイトは、厳しい内戦下の中でも再び集まることができた。ただひとりを除いて。
一番仲が良かった彼の、慟哭を覚えている。涙は見せなかったけれど、心が泣き叫んでいたのを知っている。果たせなかった約束が、虚しく消えていく。“彼”の命と一緒に。
それでもわたしたちは、前に進むのだ。一歩たりとも立ち止まったりはしない。立ち止まってしまった“彼”の分まで、必死に必死に生きて行くのだ。
けれども、力を持ってしまった彼は、それは少し難しい。力には相応の責任が、代償が存在する。
だからわたしたちは、自分の道を進みながら彼を支えることを決めた。今は離れ離れになってしまったけど、内戦の中でもわたしたちは、《Ⅶ組》は再開できたのだ。
強くなるために、わたしは必死だったのだ。
気が付いたら、フィーは下を向いていて、女将に頭を撫でられていた。
その撫で方が、やけに彼に似ていて。
少しぬるくなったホットミルクに、ぽたりと雫が落ちた。