閃の軌跡SS   作:栖鈴

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閃の軌跡Ⅲ発売後に書いたストーリーのため、閃の軌跡Ⅲのネタバレが含まれます。
具体的には閃の軌跡Ⅲ1章までのネタバレです。
未プレイ・未クリアの方はご注意ください。
また捏造を含みます。

以前投稿した「フィーのお話」の加筆verとなります。



閃の軌跡Ⅲ発売後SS
フィーとサラのお話(閃Ⅲver)


「ふわ……」

 噛み殺しきれなかったあくびが口からこぼれる。

 時刻は深夜を回ったころ。酒を飲んでいたサラとトヴァルも部屋に戻り眠りについた時間だ。

 ぼんやりとした灯りしか点いていない宿酒場は、活動している人がいないため静まり返っている。時期が冬ということもあって、虫の声も聞こえない。

 

 珍しく寝付けなかったフィーは、何か飲み物でも貰おうとそっと部屋を出て忍び足で宿酒場の2階を歩く。階段までたどり着いてひょっこり首を出せば、カウンターの向こうで明日の朝ごはんの仕込みをしている女将が目に入った。

 朝も早いのに、いつ休んでいるんだろうとフィーは疑問に思う。

 

 階段を降りたところで、女将がこちらに気が付いた。忍び足をせずに普通に階段を降りたので、足音で気づいたのだろう。

「あら、サラちゃんトコの。どうしたの、眠れない?」

 

 時間外だろうに、嫌な顔ひとつせずにっこりと微笑みかけてくれる。伊達に長く女将をやってないな、と思った反面、その笑顔が誰かと重なる。誰だろう。

 

「ん。何か飲み物をもらおうと思って」

「任せてちょうだい。紅茶だと逆に眠れなくなりそうだし、ホットミルクでも作りましょう」

 そこに座って、と言われ、大人しくカウンター席に座る。

 周りを見回しても誰もいない。酔いつぶれた客の1人や2人、その辺で転がっていると思った。しかし時期が時期だ。さすがに風邪を引くようなヘマはしないだろう。暗闇に包まれた空間。昼間の喧騒とは大違いの空気になぜか身震いした。人がいないだけでこんなにも違うのか。

 

 しばらくすると、猫柄のマグカップがことりとカウンターに置かれた。真っ白なホットミルクの上には、茶色い粉が少しだけかかっていた。甘い香りが漂う。

「お砂糖を入れて、シナモンパウダーをかけてみたの。お口に合えばいいんだけど」

 にこにこと笑う女将に、いただきますと言って口に含む。

「……おいしい」

 フィーは猫舌というわけではないが、それでも熱すぎない温度だ。もうひと口飲み込むと、体の芯からじわじわと温かくなっていくのを感じる。鼻から抜けるシナモンの香りもちょうどいい。

「本当? よかった。それに、ようやく笑ってくれたわね。うれしいわ」

 女将に言われ、フィーは「え」と小さく口に出す。

 ここに来てから一度も笑えていなかったのだろうか。よく思い出せない。

 

「サラちゃんたちと一緒にいたときも、笑っていないように見えたから。笑ったらすごくかわいいのに」

 それを聞いたフィーは、コト、と手に包んだままマグカップをカウンターに置く。少しだけぼんやりと考えて、フィーは「必死だったから、かも」と口にした。

 原因は、すぐに思いついた。

 

 今は《十月戦役》と言われている、内戦があった。《貴族派》と《革新派》の全面衝突だ。トールズ士官学院にも機甲兵が攻め入ってきた。仲間を守るため、そしてやるべきことを果たすために一度は離れ離れになった仲間。それでも、バラバラになっていた仲間は、クラスメイトは、厳しい内戦下の中でも再び集まることができた。

 ――――ただひとりを除いて。

 

 私たちは戦争を経験したことがなくて。きっと甘く考えていたのだ。

 

 一番仲が良かった彼の、慟哭を覚えている。涙は見せなかったけれど、心が泣き叫んでいたのを知っている。果たせなかった約束が、虚しく消えていく。“彼”の命と一緒に。

 それでもわたしたちは、前に進むのだ。一歩たりとも立ち止まったりはしない。立ち止まってしまった“彼”の分まで、必死に必死に生きて行くのだ。

 けれども、力を持ってしまった彼は、それは少し難しい。力には相応の責任が、代償が存在する。

 だからわたしたちは、自分の道を進みながら彼を支えることを決めた。今は離れ離れになってしまったけど、内戦の中でもわたしたちは、《Ⅶ組》は再会できたのだ。

 

 強くなるために、わたしは必死だったのだ。

 みんなに負けないようにと。

 

 そんな中、今日、帝国時報の最新号が発売された。

 内容は、《北方戦役》について。つまるところ、ノーザンブリア自治州併合についての記事だった。

 先月の11月3日に始まった《北方戦役》。大義名分は、内戦時においてケルディックを焼き討ちし、自治州を不当支配してきた大規模テロ集団《北の猟兵》の制圧。

 政府は、内戦時に貴族連合を率いていたオーレリア将軍とウォレス准将が指揮する最新鋭の《機甲兵師団》を現地に投入した。

 

 そして、3日から始まった戦いは、13日に――――わずか10日で、《北の猟兵》が降伏したことにより終結した。

 その後、30日にノーザンブリア自治州は帝国に帰属することが決定した。

 たったひと月で、かつて大公国だった国を帝国は手に入れたのだ。

 

 それだけではない。

 帝国時報には、今や《灰色の騎士》という英雄に祭り上げられた彼の名前も載っていた。

 具体的な内容は記されていなかったが、”ノーザンブリア自治州併合に一躍買った”ことが書かれていた。

 いつもの”要請”なのだろう。《クロスベル戦役》から帰ってきたときの彼が思い出される。優しい彼のことだ。きっと辛い思いをしたに違いない。

 

 《北方戦役》開戦を聞きつけ慌ただしくノーザンブリアに向かい、帰ってきたサラの表情は今でも覚えている。”悔しい。けど、仕方ない”。そんな表情だった。

 ノーザンブリアに行ったのなら、参加していた彼とは会えただろうか。元気だっただろうか。

 

 気が付いたら、フィーは下を向いていて、女将に頭を撫でられていた。

 その撫で方が、やけに彼に似ていて。

 

 

 少しぬるくなったホットミルクに、ぽたりと雫が落ちた。

 

 

 

 

「……」

 

 フィーが出て行ったのを確認したサラは、ベッドから起き上がった。

 改めてフィーのベッドを確認するが、姿はない。武装はベッド近くに置いてあるので、おそらく外に行くのではないだろうと結論付け、追いかけるのをやめた。

 

 今日のフィーは一段と口数が少なく、笑顔が全く見られなかった。

 なぜか。サラはすでに予想をつけていた。帝国時報である。

 

 ノーザンブリアから戻り、トヴァルとフィーに合流の連絡を取ったサラは、数日後2人に指定された町に着いた。2人は宿酒場にはおらず、合流も兼ねてここ数日の情報収集のため情報屋の知り合いを訪ねた。他愛ない話をしていたときに、帝国時報を買うのを勧められた。

 デパートに入り、本屋で帝国時報を買った。そのとき、同じデパートで薬の買い出しをしていた2人にばったり遭遇。そのまま合流した。

 

 宿酒場に戻り、情報交換をする。

 ノーザンブリアであったこと、帝国に帰属することになったこと。――――裏で、《北の猟兵》と《結社》が繋がっていたこと。

 首都ハリアスクで市民の避難誘導をしていたリィンとそのサポート兼監視役・アルティナと合流したこと。クレア率いるTMPも合流したこと。

 そして――――市内に大量に放たれていた《結社》の大型人形兵器が暴走したこと。

 なんとか、市民の被害が及ぶのを食い止めたこと。

 リィンの暴走のことについては、”できれば話さないでほしい”旨を伝えられ、2人には話さなかった。暴走した後のリィンの状態は今までに見たことがないくらい酷かった。いずれ、リィン自身が気持ちの整理をつけて話すべきだろう。

 

 リィンが気を失っている間も自治州の占領は進んだ。リィンをアルティナに任せ、サラとクレアたちTMPは避難所から避難所へ奔走した。避難所は大量の市民でごった返した。治療が必要な者は医療キャンプへと運び、届いた救援物資を捌き、何から何まで大忙しだった。

 

 そうして3日後、リィンが目覚めた。相当衰弱していたリィンだが、”休んでいた方がいい”という周囲の反対を押し切ってサラやクレアの手伝いに参加した。もちろん、側にはアルティナもいた。

 

 そして、ようやく落ち着きを取り戻したころ。すでにリィンが目覚めたときには自治州全土の占領が完了していたが、ついにノーザンブリアは帝国に帰属することが決まった。

 あっという間、といえばそうなのだろう。生身の人間が複数の機甲兵に敵うはずがないのだから。

 

 帝国の支配に憤りを感じないわけではない。

 しかし、猟兵稼業でひとつの国が成り立っていくわけがない。

 

 ノーザンブリアは復興を必要としている。

 帝国の一部になれば、人や金もそれなりに流れる。救いの手も差し伸べられる。

 それでも、故郷は失った。

 

(何とも言えないわね……)

 

 塩の杭が現れなければ。

 ノーザンブリアは、ノーザンブリア大公国は、こんなことにはならなかったのだろうか。

 

(さて)

 

 あれこれ考えている間に、数十分は経った。そろそろフィーは帰ってくる頃合いか。

 朝起きたら、女将に礼を言っておかなければ。

 そんなことを考えながら、サラは帰ってきたフィーをどうやって驚かそうか思考を巡らせた。

 

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