閃の軌跡SS   作:栖鈴

6 / 9
幸せ時空現パロのクリスマスクロリンです!!
実は真夏に思いついてました!(季節感)

とある方の要望のおかげで形にできたので投稿したいと思います!
ネタバレは閃の軌跡Ⅱまでです!



【クロリン】冬の日

 両手を口の前まで持ってきて、はあ、と息を吐く。

 口から出るのは白い息。その息が冷たい手のひらにかかると、一瞬とはいえじんわりとした温かさが伝わる。

 もう何度この行為を繰り返したかわからない。覚えていない。

 ああ、あと何回繰り返せばいいのだろう。

 

 

 12月も下旬。街はクリスマス一色に染まっている。

 なんといっても今日はクリスマスイヴだ。つまり24日。クリスマスの前夜祭にあたる日だ。

 公園や広場など開けた場所には巨大な即席クリスマスツリーが設置され、建物や街路樹は電飾という電飾が飾られている。

 完全に陽が落ちた夜だというのに、ライトアップされすぎてまるで昼間のような明るさだ。

 そして、あり得ないくらいの人混み。まるでテーマパークのようだ。それもそのはずで、大量のマーケットがずらりと通りに並んでいる。

 

 リィンは人が溢れかえる噴水広場に立っている。待ち合わせをしているのだ。広場の中心にある5メートルほどの噴水の周りには、リィン以外にも友人などと待ち合わせをしている人でごった返している。

 ちなみに、例にもれず広場にある噴水は、派手な電飾によって飾り付けられている。電飾の灯りが噴水の水に反射して、直視するのがまぶしいくらいだ。

 再び手を口元に近づけて手を温めながら、リィンは辺りを見渡す。

 たいていが、待ち人1人、合流する人1人。どちらかが男で、どちらかが女。つまるところ、カップルだ。

 

(だよなあ……)

 

 偏見を持っているわけではない。だが、『クリスマスを過ごすならだれと過ごすか』と聞かれると、リィンは安直に『好きな人や恋人?』と答える。周りがそうしているし、クリスマスは『特別な日』だ。『特別な日』くらいは『特別な人』と過ごしたいだろう、とも考える。

 しかしリィンには恋人はいないし、『特別な人』もいない。ただ、待ち合わせの人物はいる。男だが。

 

 もともと、クリスマスに誰かと過ごす予定だったわけではない。

 リィンが勤めている会社は『クリスマスは休業!』なところだ。入社して3年目、クリスマスの休みはこれが3度目だ。

 去年と一昨年は、特に用事もなかったので暖房で温まった家でゆっくりと過ごした。

 今年もその予定だったが、数日前にとある人物から連絡があった。『お前〇〇の辺りに住んでたよな?』と。嘘をつく理由もないので肯定の言葉と共に詳しい場所まで教えると、クリスマスの予定まで聞いてきた。これも正直に答えると、クリスマスイヴの夜、1日分の着替えを持って〇〇の噴水広場に集合と言われた。詳しいことを聞いても笑顔のスタンプだけを返され聞いても答えてくれないことを察したリィンは、薄々気づきながらも支度し、数日後、指定された時間の10分前に着くように家を出た。

 

 集合時間ぴったりになった。あいつのことだから、遅刻するだろうなと思っていたリィンは、冷たい何かを唐突に頬に当てられて思わず悲鳴を上げそうになった。

 ばっと振り返ると、『してやったり』という顔をした待ち合わせ人がいた。

 

「クロウ!」

「おう、時間ぴったりだな!」

「そうだけど、そうじゃなくて!」

 

 問い詰めると、頬に当てられた冷たいものはクロウの手で、集合場所に行くとちょうど背を向けたリィンを発見したため、犯行に及んだとのことだった。

 それでも、再会はうれしい。

 クロウはリィンの高等学校時代の1つ上の先輩だ。学校は全学寮制で、基本的に一部屋を学年に関係なく2人の生徒が使用する。入学して1年目、リィンに宛がわれた部屋はクロウとの相部屋だった。

 最初は先輩後輩という関係だったが、リィンが1年の夏のころにクロウが『タメでいこうぜ』と言って以来、2人の関係は悪友に変わった。不真面目な先輩(友人)と真面目な後輩(友人)。寮以外でも共に過ごす時間が増えた。学校内でも2人が一緒にいることが自然になったくらいだ。

 

「ちょくちょく連絡は取り合っていたけど、クロウ。久しぶりだな。卒業式以来だ」

「そうだなあ。ったく、見ないうちに随分と大人っぽくなりやがって。仕事は順調か?」

「それはクロウもだろ。まあ、『悪い癖』は相変わらずみたいだけど。ああ、職場の先輩方がよくしてくださるから」

「言うねえ。……そうか、ならよかったわ」

 

 クロウは先日、仕事の関係で一時的にこの近辺に住むことになったらしい。会社が所有しているアパートに数日泊まり込んで、年明け前にはまた元の場所に戻るらしい。ちなみにクリスマスは仕事は休みとのことだ。

 その場で少し近況報告をした後、クロウの『ぶらつくか』の一言で、店が大量に出ているクリスマスマーケットを見て回ることになった。

 

 クリスマスマーケットで売り出されているのは、お菓子などの食べもの類はもちろん、それ以外にもグラス製品や絵画、革製品など多種多様だ。フリーマーケットみたいだな、とクロウは笑うが、実際フリーマーケットのようなものだ。

 マーケットになっている通りに入ると、クロウがぴたりと足を止めた。視線の先には銀色の大鍋がある。

 さっそくか、と思いつつも、これを飲まないとクリスマスは始まらないとさえ言われている大切なものだ。リィンはクロウを促して、目当てのものを2つ注文した。

 唯一普通のフリーマーケットと違う点を挙げるとすれば、このグリューワインが売り出されていることだろう。

 グリューワインは、赤ワインに香辛料とオレンジ、レモンが入った、いわゆるホットワインだ。クリスマスマーケットが開かれると、必ずグリューワインを売っている店がある。

 わざわざ屋台で買わなくても、自宅でグリューワインを作る人もいる。それくらいグリューワインはクリスマスには欠かせない飲み物で、当たり前の飲み物なのだ。

 

「冷えた体に染み渡るねえ……」

「あぁ……。というか、クロウとお酒を飲むなんてな」

「お、確かになあ」

 

 ワインの入ったカップを片手に、マーケットを歩いていく。

 酒の話から始まり、次第に話題は卒業後の同窓生の話に移り変わっていく。

 

「そういえばあいつら。えーと……マキアスとユーシス! 最初の頃はちょっとした手違いだったってのに、傑作だったよなあ! 今どうしてるよ?」

「傑作でまとめないでほしいんだが……こっちは大変だったんだぞ。……マキアスは法科大学に進学したよ。覚えることが多すぎてしんどいってさ。ユーシスは、お兄さんがいるだろ? 将来会社の社長になるであろうお兄さんを支えるために、現場で働きながらあれこれ教えてもらってるらしい。たまにミリアムが遊びに来てうっとおしいって言ってたけど」

「2人とも真面目か! それにしてもミリアムか。2年見てきたオレとしちゃあ、好感持たれてるんだよな? うっとおしいで片付けちまうとか、もったいないねえ」

「はは……。でも本気で嫌がってるわけじゃないから。まんざらでもなさそうだし。これはひょっとして数年後に『あり得る』かもな」

「そうか。って、お前は他人のことになると鋭すぎんだろ!! 自分のことになると鈍感が過ぎるくらいだってのに……エリゼちゃんが泣くぞ?」

「なんでそこでエリゼが……。エリゼといえば、俺の卒業式を見に来てくれてさ。すっごく綺麗に成長してたよ。テオさんたちどうしてるかな……。まだまだ仕事が忙しくて、碌にご挨拶にも行けてないんだよな……」

「そうなのか? 休みに……クリスマスにでも会いに行けばよかったんじゃねぇ?」

「いや。あっちは休みが忙しいんだぞ。凰翼館のクリスマスなんか、子どもの俺でも忙殺されそうだった……。でも、ご挨拶に行くなら父さんと母さんと一緒に行きたいな。きっとあの2人もテオさんやルシアさんに会いたいだろうし」

「そうか。お袋さんはともかく、おやっさんは大変そうだもんなー。国の重鎮って、休みあんのかよ?」

「さあ……なんとなくやり取りはしているけど、そういう話は積極的にしてこない人だから。きっと俺のほうが仕事に慣れるのに忙しいと思って、気を使ってくれてるんだと思うけど……」

 

 話し込んでいると、クリスマスマーケットの通りのひとつを抜けたらしい。先ほどとは違う広場に出た。例に漏れずライトアップされているが、中央には舞台が設置されている。その舞台の上に座っているのは、合奏団。20人ほどの弦楽器を持った人たちが、真剣な表情をして座っている。周囲には舞台を囲むように人だかりができていた。

 ちょうど今から演奏が始まるらしい。指揮者が人混みをかき分けて現れ、指揮台の横に直立、丁寧な礼をした。それを合図に、今までざわめいていた観客がしんと静まり返る。

 指揮者が指揮台の上に上がり、ぴたりと構える。そして、なめらかな腕の動きと共に、弦楽器が奏でられる。

 誰もが聞いたことがあるクラシック。しかし、クリスマスという特別な日に奏でられる曲は、一味違うように感じられる。

 演奏中にふと気が付くと、観客が演奏前より明らかに増えている。マーケットの店の店主も、思わず手を止めて聞き入っている。客さえも、まるで並んでいることを忘れているかのように合奏団を注視している。

 

 あっという間だった。

 時間にして数分だったが、何時間も聞いていたような感覚だった。

 指揮者が礼をすると、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 リィンとクロウも拍手を送る。お互いに顔を見合わせ、ニカっと笑った。

 




エレボニア帝国がドイツをモチーフにしているとのことなので、『ドイツのクリスマス風』にしてみました。
作中に語られているクリスマスマーケットも検索して参考にさせていただきました。
グリューワインも、ドイツのクリスマスに欠かせない飲み物なのだそうです。グリューワインは、英語で『モルドワイン』、日本語で『ホットワイン』と称されているワインです。材料も作り方も簡単ですので、気になった方はぜひ調べてみてください! この冬おすすめです!

というか、このSSで、リィンとクロウが一緒にお酒を飲んでる……感動した(こら)


実はこのSSは、R-18予定でして……。私自身R-18ブレイカーなので「あ、無理だこれ」と思って書くのをやめていたのですが。たぶん、そのうち、R-18を……このSSの続きで……出すかと…………いや……出します……
きっと前書きがR-18注意喚起で埋まると思います♡
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。