時期としては、ユン老師にリィンさんがまだ指事していた頃。
ネタバレに関しては、閃の軌跡Ⅲをクリアしている人なら大丈夫だと思います。創の軌跡ネタバレはありません。
1日で書きなぐったものになりますので、校閲も推敲もしていません。誤字脱字などありましたら申し訳ありません。
(いつか校閲と推敲はします……たぶん)
太刀と父
帝国は北東部。四大名門が一角、ログナー侯爵家が治めるノルティア州にユミルと呼ばれる郷がある。
標高高いアイゼンガルド連峰の麓に位置するその郷は、秋から春先にかけ帝国内で最も雪が降る地域といってもいい。
とある男爵が治めるユミルは、冬が深まると観光客――それも国の重鎮など――が多く訪れる。なぜならユミルは帝国では珍しい温泉が湧き、かつその温泉を利用し皇族から下賜された《凰翼館》と呼ばれる宿泊施設がある。銀世界に染まったユミルを眺めながら、体の芯から温まる温泉に身を浸すひと時の極楽は、ユミルを《温泉郷》と言わしめる要素のひとつでもある。
しかし現在、ユミルは白銀ではなく、山々に生えた木々が齎す紅に包まれていた。
温泉郷ユミルに降り立った一団あり。
「ようこそお運びくださいました」
出迎えるのは、ユミルを治める男爵、テオ・シュバルツァー。そしてその妻、ルシア。
「出迎え感謝する。久方ぶりに訪ねるが、ここは変わらず良いところだな」
「ええ。何度訪れても素晴らしい場所です」
紅葉に染まったユミルを眺め頬を綻ばせたのは、エレボニア帝国皇帝ユーゲント三世。その隣には、皇妃プリシラが付き添っている。
麓の町からケーブルカーに乗り紅葉の中を進む小さな旅は、普段皇城にいるばかりの二人の目には新鮮に映ったことだろう。だが、紅葉に染まった眼下の景色もそうそう見れるものではない。駅から降り立った両陛下は、しばし見晴台から赤々と染まる大地を堪能した。
「お気に召していただけてなによりです。秋にいらっしゃるのは初めてでしたか。……やはり今回、殿下がたはご一緒ではないのですね」
「騒がしくしてしまうのも忍びなくて……。セドリックたちはオリヴァルト殿下が見てくださっているのです」
今ここにいない小さな双子のことを思い、テオは残念そうに眉を下げた。同伴したのであれば息子と娘に紹介し、自分とユーゲントのような縁を築いていけたらと思っていたのだ。
「こちらとしては構わないのですが、ご配慮、痛み入ります。聞けば、今回のご旅行もオリヴァルト殿下が企画されたのだとか」
「図体ばかり大きくなったと思っていたのだがな」
「まあ。思ってもいないことを口にするものではありませんよ」
「ははは、オリヴァルト殿下もご立派になられたようでなによりです。さあ、お疲れでしょう。凰翼館へご案内いたします」
親し気な会話を経て、テオは来訪者たちを宿泊施設へと案内を始める。帝都からユミルまで長旅だったのは間違いない。それに標高の高いこの地は秋でもよく冷える。ああ、と頷いて両陛下や護衛が歩き出す。
動き出した一行の中で、未だ静止している人物に気づき、テオはふとその人物と視線を交わし合った。ユミルに降り立ったのは両陛下だけではない。護衛や、その最たるものとして皇族と領主の会話を見守っていた人物がいた。
「――宰相閣下もお疲れでしょう。あたたかいお飲み物を用意いたします」
「感謝する、シュバルツァー男爵」
僅かな言葉を交わし、ふっと笑みをこぼしたギリアス・オズボーン宰相は、一行から間を置き、歩き始めた。
*
ディナーを食べ終え、グラスを片手に歓待していると、ユーゲントに「久方ぶりに存分に語らうと良い」と背中を押されたテオは、ギリアス・オズボーンと二人で酒を交わし合っていた。
最初は、取り留めのない時事について。今年は気温が少し低いこともあり、動物たちが早めの冬眠の準備をしていることも相まって、狩りが捗っていること。今と昔のユミルについて、変わったもの、変わらないもの。よく遊んでいた場所の現在など。
「あの子は今、太刀を習っているのです」
不意に会話が途切れたとき、テオは脈絡もなく切り出した。
今ユミルには、東方剣術の集大成ともいえる《八葉一刀流》をつくり上げた開祖にして《剣仙》ユン・カーファイが滞在している。
そしてテオの息子は今、ユンに指事してもらっている。
「ほう。てっきり狩りの技法を仕込むかと思っていたが」
宰相の口から飛び出した冗談に、テオはぱちりと瞬いた。
「確かに狩りにも連れていくことはありますよ。もう馬にだって乗れますし、猟銃の扱いや宮廷剣術もひと通り教えましたが」
テオはいったん話を区切った。そこでふと、頬を緩める。
「あの子が振るうのは太刀こそが相応しい」
テオは一度、息子に内緒でユンに修行を見せてもらったことがある。
体力づくりから筋力トレーニング、太刀の素振りに、教えられた《型》の確認、ユンとの打ち合い。そして魔獣を使った実践。
その日の修行の終わり、見ていたぞと顔を出せば、顔を赤く染めおっかなびっくりといった様子でとても愛らしかった。修行時の、小さな魔獣如きであれば殺気のみで追い払えるような鋭い視線とは真逆の、いとけないその表情に、愛おしいなあと小さな体を力いっぱい抱きしめたこともあったか。
「あの子がどうして《八葉一刀流》にこだわるのか、詳しくは教えてくれません。ですがあなたとも無関係とは思えないのです」
これは親としての意地でもなんでもなく、ただの勘。記憶を無くし自信なさげだった子どもが唯一見つけた、自分からやりたいと申し出たことなのだ。無意識に何かを感じ取っているのではないかと思わずにはいられない。それがあの子にとって良いことであれ悪いことであれ、小さな体で前に進もうとする姿は美しい。いずれその剣でもってあなたの前に現れ、乗り越えるのではないかと思うのだ。
「あの子はもうじき、初伝を賜るそうです。親としてではなくても、宰相としてでもいい。ひとこえだけかけてあげませんか」
それはテオからの懇願だ。親としての責務は自分達が果たす。しかしどう否定しようと、ギリアス・オズボーンが一人の子どもの親であることは変わらない。だから自分の子どもが頑張って生きている姿を一目だけでも見て欲しいと思う。子どもの成長は、親が思うより早いのだ。
そんなテオに、ギリアス・オズボーンはふ、と笑う。常に悠然とした態度をとる彼からすれば、笑みが音になるまで、長い沈黙があった。
「私とあれに言葉など不要。親はあなただ、シュバルツァー男爵」
*
やがて、リィンが初伝の証とともに老師から渡されたのは、艶やかな黒い鞘に収まった太刀だった。
しかし、鍔の辺りに見慣れない装飾がある。老師が持っている太刀とも違う、どこか機械味を帯びたデザインだ。
そして
*
(ギリアス兄さん……。側にいられないからって、自分の色を太刀に取り入れるのは親馬鹿だよ……。とんぼ玉なんて、自分の瞳の色じゃないか)
リィンさんの太刀、鍔の辺りはお守り?として、かつて前世の自分が駆ったヴァリマールを模した装飾をつけたんじゃないかって思ったり、
赤い紐(手貫緒)は、鉄血宰相が右肩から掛けている布の色に酷似しているし、とんぼ玉?の色なんてパパの瞳の色じゃん! ひょっとしなくてもあの太刀、用意したのは老師でも、リィンさんの手に渡る前にギリアス父さんが手を加えたんじゃないか――――
という疑惑が私の中で浮上しまして、このような……。
今より1日前にハッと気づき、太刀の手貫緒ととんぼ玉??の色を宰相の顔面をアップにして色を比べていました。思ったより似ていたのでびっくりです。カラーリングに何か意図があると思わざるを得ませんでした。
10月1日の遺品整理エピより前に書かないといけない気がして書きました。やられる前に、やれ! 触れられる前に触れるのだ! の精神です。
既出ネタでしたら申し訳ありません。でも、拙くても自分の文でどうしても書きたかったです。
(おそらく)リィンさんが生涯使い続ける太刀が実父からの贈り物で、その太刀で父を乗り越えていくとかエモすぎます。。。ただでさえ親子ものに弱いのに。