仮面ライダーゲンム~Vengeance is mine~   作:K/K

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Stage 11

 黎斗とテンの戦いが終わりを迎えた頃、離れた場所で行われているエグゼイドたちの戦いも終わりを迎えようとしていた。

 違法コピーガシャットも黎斗が用意したマイティセキュリティXガシャットの力でもう使用することは出来ない。

 後は変身者である少年の処遇についてなのだが、二度とコピーガシャットを使えないことを知り、すっかり落ち込んでしまっている。

 そんな姿を見てエグゼイドは、周りから『甘い』と言われると分かっていても彼を強く責める気がなくなってしまう。

 少年の処遇については一先ず少年の事情を聞いてからにしようと思い、駆け寄って来るポッピーたちを待つ。

 その刹那、エグゼイドは聞いてしまった。

 

『ポーズ』

「なっ──」

『リスタート』

 

 その音が聞こえてしまった瞬間には手遅れであった。エグゼイドの体に複数の衝撃が走り、駆け寄っていたブレイブもいつの間にか発射されていた緑の光弾に撃たれて転倒。その際にポッピーも巻き込まれてしまう。

 

「がはっ!」

 

 地面に崩れ落ちるエグゼイドとブレイブ。変身が解除され、生身の姿に戻ってしまう。

 

「我が社のゲームを楽しむのは結構だが、こういう形で楽しむのは良くないなぁ」

 

 

 コツコツと足音を立てながら現れたのは最強にして神の名を持つ仮面ライダー。

 額周りから伸びる複数の角は頭部を王冠のように飾り付け、歩く度に腰に付けたローブが揺れる。

漆黒のボディを緑のラインや紋様で彩った仮面ライダーに伏していた永夢が言う。

 

「クロノス……!」

 

 永夢が苦しそうに吐き出すその名こそその仮面ライダーの名。神と同じ名を持つ仮面ライダークロノス。

 辿り着く者は開発者本人である黎斗ですら不可能に近いと言われた存在であり、仮面ライダークロニクル内に於いて最強の戦士。

 その正体は幻夢コーポレーションの現社長であり檀黎斗の実父である檀正宗。

 

「幻夢コーポレーションでも非常に悩ましい問題だと思っていた。違法にコピーされたガシャットの存在は」

 

 クロノスは足元に転がっているコピーガシャットに視線を下すと、忌々しそうにそれを踏み砕く。

 

「素晴らしい商品というものは常に誰かしらに模倣されるものだ。その事自体は私は咎めない。時としては粗悪な模倣品がオリジナルの価値を高めてくれる場合もある。何よりもたかがコピー品如きに負けないというプライドが我が社にはある。しかし──」

 

 クロノスは踏み砕いてガシャットを念入りに踏み潰す。

 

「これは流石に見過ごせない。我が社のゲームのデータをそのままコピーしただけのものを許せば、我が社はそういう輩に舐められることになる」

 

 一度でも例外を許してしまえば後続が絶えなくなる。必要なのは初動で完全に潰すこと。

 

「──そして、罪を犯した者には審判の下相応の罰が下されることを知らしめなければならない」

 

 その為に罪人を吊し上げる。古今東西、罪にはそれに見合った罰が与えられる。そうすることで次の罪人が出ないようにするのだ。

 

「──さて、どういう罰が相応しいかな?」

 

 クロノスの一言に少年は震え上がった。今まで見てきた大人の中でクロノスが最も危険であると本能がかつてないほどの警鐘を鳴らす。やると言ったらやる、冷徹なまでの有言実行。クロノスの存在感が説得力を与える。

 少年は恐怖で喉が引き攣り泣き叫ぶことも出来ず、また身体も言うことを利かない。圧倒的な捕食者を前に小動物にように惨めに震えるしかなかった。

 

「待て……!」

 

 声を振り絞りながらクロノスを止めようとするのは永夢であった。現状彼だけが真っ向からクロノスに対抗出来る力を有しているが、クロノスからの不意打ちにより大きなダメージを受けてしまった。しかし、それでも永夢は這うようにしてクロノスの許へ行こうとする。

 その姿に戸惑ったのはクロノスではなく少年の方であった。さっきまで戦っていた自分を必死になって助けようとする永夢の行動が理解できない。だが、どういう訳か自然と目頭が熱くなってくる。

 

「この子に……罰を与えても意味は無い……! 彼は貰ったコピーガシャットを使っていただけだ……!」

 

 今回の件の首謀者はテンであり、彼は仲間の一人に過ぎない。そんな彼を見せしめにしても首謀者をどうにかしなければ無意味だと主張する。

 

「──だとしても関わった者たちに相応の報いを与えるべきだと思うが? 彼らが行ってきたことはどれだけの不利益を我が社に与えたか」

 

 クロノスの返答は変わらない。社長という立場故に全て会社第一に考える。情に訴えても意味は無い。クロノスは会社の為ならば何処までも非道で冷徹に振る舞える。

 言葉では説得出来ない。クロノスの心を動かすには先程言ったように会社にとって利益になることを示さなければ耳も貸さない。

 どうやってクロノスの考えを変えようかと苦悩する間にもクロノスはベルトからバグヴァイザーⅡを外し、その銃口を少年に向けようとしていた。

 時間は残されていない。永夢は考え、考え抜いた末に一つだけクロノスと取引をすることが出来る方法を閃く。

 

「檀正宗さん!」

 

 永夢が取り出したのはマイティセキュリティXのガシャット。

 

「それは?」

「これは黎斗さんが作った仮面ライダークロニクルの新しいプロテクトコードです。これを使えば二度コピーガシャットは作られない」

「ほう」

 

 クロノスの興味が明らかにマイティセキュリティXへと向けられる。

 

「……これをお渡します」

「その見返りとして私にこの子を見逃せと?」

「……はい」

 

 永夢が頷くとクロノスは顎に手を当て思案するポーズをとる。

 

「悪くない話だ。しかし、モラルの問題としては良いのかな? 彼のやったことは立派な犯罪だ。」

 

 自分の事を棚に上げてチクチクと永夢の良心を突くようなことを言う。

 

「……本音を言えば僕も一ゲーマーとして彼らがやったことを快く思っていない所もあります」

 

 ゲーマーМとしてゲームを心から楽しんできた彼にとって、それらを嘲笑うかのようなテンたちの行為に何も思わない訳ではない。

 しかし──

 

「過ちを犯したのならきちんとそれに向き合い心から反省させる機会を与えるべきです。ただ、罰を与えて終わるだけじゃ意味がない!」

 

 罪を憎んで人を憎まず。青臭いと笑う者がいるかもしれない。だが、永夢とその仲間たちはそうすることべきだと本気で思っている。

 

「ふむ……」

 

 クロノスはまだ思案している。その気になればクロノスが永夢からガシャットを奪うことは容易い。

 神の名を持つクロノスは、時を操れる。『ポーズ』による時間停止。永夢らが不意打ちを受けたのもその能力によるもの。

 時間停止している間に永夢の手からガシャットを取ってしまえば交渉する理由もなくなる。しかし、そうなると永夢の激しい怒りを買うことになる。永夢も厄介だが、今もクロノスのことを睨んでいる飛彩の存在も侮れない。以前、クロノスはこの二人の共闘により撤退に追い込まれた。

 下手に争ったところでこの戦いが幻夢コーポレーションにとって利益に繋がらない。

 未だに敵対関係だが、戦うにしてもタイミングや準備が必要である。

そもそも不正を起こした少年たちの存在もマイティセキュリティXのガシャットを知った今となっては殆ど興味が失せた。場合によっては処罰するつもりであったが、最早どうでもいい存在に成り下がっている。

 

「──分かった。交渉成立だ。君の言う通りにしよう」

 

 クロノスはバグヴァイザーⅡをベルトに戻し、構えを解く。そして、少年から数歩後退した。

 永夢はクロノスが下がったのを見てヨロヨロと立ち上がり、おぼつかない足取りで少年の傍まで移動し、いつでも彼を守れる状態になってからクロノスへマイティセキュリティXを投げ渡す。

 

「確かに受け取った」

 

 投げ渡されたそれをキャッチし、クロノスは満足そうに頷く。

 クロノスは振り返り、そのまま去っていくかと思われたが数歩移動した後に足を止めた。

 

「言っておくが」

 

 視線だけ永夢たちへ向ける。

 

「子供だから、未成年だからといって何の罰も与えずに放り出すのは無しだ。もし、そんなことになればこの交渉は取り消させてもらう。私は彼らを見逃したのではない。あくまで罰する権利を君たちに譲っただけだ」

 

 クロノスが念を押して来る。しかし、言っている内容自体は間違っている訳ではない。永夢たちが情に流され、少年たちはお咎め無しになった瞬間再びクロノスが彼らの前に現れる。今度はきちんと制裁を下す為に。

 

「……分かっています」

 

 永夢の気乗りしない答えにクロノスは一笑する。

 

「せいぜい悩みたまえ。人に裁きを下すことに」

 

 クロノスは鼻歌を歌いながら今度こそ去っていく。因みに鼻歌の曲は『犬のおまわりさん』。色々な皮肉を込めた鼻歌であった。

 クロノスが完全に去り、永夢は深い溜息を吐く。

 

「エムゥゥゥゥ!」

 

 明日那が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫!? 怪我してない!?」

「──大丈夫。でも……」

「……渡しちゃったね、黎斗のガシャット」

「……うん」

 

 仕方がないとはいえ気まずそうに永夢は頷く。

 自分のガシャットに対して並々ならぬ情を抱いている黎斗。それを渡してしまったと言えば烈火の如く怒るだろう。しかも渡した相手が実父の正宗だと知ればどれ程怒り狂うか。

 

『勝手に私のガシャットを渡すなぁぁぁぁぁぁ!』

 

 という幻聴が聞こえてくる。普段は迷惑を掛けられたり、黎斗の唯我独尊の行動に振り回されている永夢たちだが、今回は黎斗のガシャットに助けられたこともあって申し訳ない気持ちになっていた。

 

「エム……私も一緒に黎斗に謝るから」

「……ありがとう」

「それで? この少年はどうするつもりだ? 研修医?」

 

 ひと段落した所に掛けられる冷めた言葉。飛彩は声と同じ温度の眼差しを腰が抜けている少年へ向けている。

 

「それは……すみません。まだちゃんと考えていません」

 

 永夢の素直な言葉に飛彩は呆れたように溜息を吐いた。

 

「──まあいい。すぐに出せられるものでもない。だが、この少年はこのままCRへ連れて行くぞ。バグスターウィルスに感染していないかきちんと検査する必要がある。……処遇については検査の後もう一度話し合う」

「はい……」

 

 結果的に見れば少年を救うことは出来たが、その後の問題は山積みである。しかし、永夢はそのことを表に出さず、呆けている少年の傍に行く。

 

「大丈夫?」

 

 心配する永夢の声に少年は呆けたまま顔だけ永夢の方へ向けた。

 

「どうして……」

「え?」

「どうして、あんな……俺なんかの為に……必死になって……」

 

 言葉を詰まらせながら永夢に問う。大人に対する不信感に満ちていた彼にとって永夢の行動は理解出来ないのだ。

 

「……僕は君について殆ど知らない。君の過去に何があったかもね。それが原因で今回の事を起こしたとなれば、僕は君についてもっと知らなければならない。知って、理解して、それを解決出来れば未来に希望が持てるようになれば君を救えるかもしれない」

 

 今の永夢にとってこの少年は最早戦うべき相手ではない。ドクターとして救うべき患者として診ている。

 

「君や君の仲間がやったことは危険で許されることじゃない。でも、少しでもそれが罪だと思い、償いたいと思うなら僕たちはそんな君を助けたいんだ」

 

 会って間もない自分に対し、恥ずかしがることなく本音で語る永夢。少年にとって永夢という大人は今まで会った事がないタイプの大人であった。

 少年のやることを頭から否定し、自我を認めず、自由を認めず、自分が敷いたレールが絶対だと思っている傲慢さが無い。

 

「……さい」

「え?」

 

 だからだろうか。その言葉が自然と、口から滑るように出てきたのは。

 

「……ごめんなさい」

 

 謝罪の言葉を言ったのはいつ以来なのか少年にも分からない。一時期は毎日のように言っていたが、ある日を境に言わなくなった。思えばその時から自分の両親──大人に敵意を自覚したのかもしれない。

少年は自分がやったことを後悔した訳ではない。しかし、信じてもいいかもしれないと思えた大人たちが報われるとしたらどうすればいいのかと思った時、その言葉が出てきた。自分が報われない側だったからこそそれを強く思った。

 永夢は一瞬ポカンとした後、笑みを浮かべ少年に手を差し伸べる。

 

「──行こう」

 

 

 

 

 自分の設定を語ると言ったテンは、徐に上着の裾を掴み、捲り上げる。外気に晒されるテンの素肌。日光を殆ど浴びてないせいかかなり色白であったが、黎斗はそれを見ると眉間に皺を寄せた。

 テンの上半身には無数の手術痕が残っており、身体の至る箇所に蚯蚓腫れのような傷痕や皮膚がよれている痕がある。その傷痕で大きな手術を一度や二度では済まない程経験しているのが見て分かってしまう。

 

「僕ってさ、生まれた時から病弱でねぇ。人生三分の二は病院で過ごしてきたんだ」

 

 テンという命がこの世界に生み落とされた時、最初に言われたのは余命宣告であった。

 

『この子は五歳まで生きているのは難しいでしょう』

 

 先天性疾患により内臓の殆どに問題がある状態で生まれたテン。普通ならば両親は絶望に見舞われるだろうが、テンの両親は違った。

 テンの両親は資産家であり莫大な資金を使い、テンを生き長らえさせることを選んだのだ。

 

「内臓に問題があるなら取り替えてしまえばいい。そう思ったんだろうね。最初に移植したのは……一歳の頃らしいよ。記憶に無いけど」

 

 臓器移植。それにより問題のある臓器を健康な臓器に変える。そうすれば問題解決──と言いたい所だがそう簡単にはいかない。臓器移植を希望する人たちは多い。テンの順番に巡って来る頃にはテンの寿命が尽きるぐらいに

 そこで両親は裏技を使った。コネと金を使った決してやってはいけない裏技を。

 

「世の中には違法な方法があるらしいね。僕もそれを使って手術をしたんだ」

 

 真っ当な医者ならば知りたくも関わりたくもない方法による違法手術。テンですらどんなものか断片的にしか知らない。その断片ですら悍ましいと感じてテンは調べるのを止めた。

 

「それを何度も何度もやったんだ……お陰で体の内側は殆ど他人さ」

 

 自虐し年不相応の笑えないジョークを言うテン。黎斗はそれを憐れむことも同情することも怒ることもせず無表情のまま聞いていた。

 

「移植して健康な臓器になってもそこで終わりじゃないんだ。お腹が一杯になりそうなぐらい免疫抑制剤を飲むんだ、それも一生」

 

 早死にすることはなくなったが、その代償として死ぬまで薬を飲み続ける人生。それによって得た体も五十メートルも満足に走れない貧弱な体。

 

「死ぬことはなくなってもまともに運動は出来なかったな……ほんの二、三年前まではずっと勉強をするか、ベッドの上でゲームをしているかの人生だったよ」

 

 そこまで言ってテンはニヤリと笑った。

 

「幻夢コーポレーションのゲームにハマったのはすぐだったよ。家が金持ちって有り難いよねー。お陰で新作も買えるし、過去作も買えた。因みに幻夢コーポレーションのゲームは全部持っているよ」

「ほう? それは感心だ」

 

 テンの話を表情一つ変えずに聞いていた黎斗であったが、その発言には傲慢を含ませてはいるが笑っている。尤も、それは彼なりの謙遜であり心の裡では『買って当然』という思いがあった。

 

「ゲームを改造するのはその時に覚えたよ。不思議なものでゲームをやっていると段々と中身も知りたくなって、中身を知ったら今度はそれをあれこれいじりたくなるんだ」

 

 黎斗の笑みが一転して険しい表情になる。

 

「……感心しないな」

「幻夢コーポレーションのゲームは色々とプロテクトが強かったから何もしていないよ。いじくって遊んでいたのはそれ以外のメーカーのゲーム。でも、いつかは幻夢コーポレーションのゲームでもやってやろうと思ってた──仮面ライダークロニクルが発売して色々と夢が叶った」

 

 皮肉のような言い回しに黎斗の表情がますます険しくなるが、テンは恐れることなく話を続ける。

 

「ゲーム病になったはその時だった。仮面ライダークロニクルを調べている時に感染したんだ。でも、特に苦しくは無かった。そういうのに慣れているせいかな?」

 

 バグスターウィルスは感染者のストレスにより増殖する性質を持っているが、テンに感染したバグスターウィルスは増殖する傾向がなかった。それは幼年期より強いストレスを感じる生活を送っていた為にストレスについての耐性が出来ており、並大抵のことではストレスを感じなくなってしまった。

テンの精神は十代にして擦り切れてしまったのだ。

 

「ゲーム病が発症すればいずれ消滅する。その事実を知っても君は恐怖を感じないのか?」

「別に。寧ろその方がいいんじゃないかな? 僕の両親にとっては」

「何?」

 

 テンの言葉に黎斗の表情は再び険しくなる。

 

「毎日が辛かったけど……ゲームとこんな自分を必死になって生かそうとする両親の想いがあったから耐えられる……そう思ってた」

 

 テンは自虐的な笑みで顔を歪める。

 

「──ある日、両親が言ったんだ『弟が出来た』って。初めは僕も喜んださ。弟が出来たことに。こんな体でも精一杯兄らしいことをしようって……」

 

 しかし、それはテンの人生においての最大の転換点であった。

 

「弟が生まれた日から両親が僕の見舞いに来る回数が減った。赤ちゃんの世話が忙しいせいだって最初は思っていたよ……でも、見舞いの数が減ることはあっても増えることはなかった」

 

 テンは愚鈍ではない。入院中に薄々と両親の考えに気付き始めていた。でも、まさか、そんなことは、という思いでその答えから目を背け続けていた。

 

「……ある程度体が回復して退院するときに久しぶりに両親の顔を見たよ」

 

 その目は完全にテンへの関心が失せており、他人でも見るかのような眼差しであった。

 

「弟が生まれた瞬間から僕の存在価値は無くなったんだ。よくある話でしょ? 跡継ぎ問題。そこで分かっちゃったんだ。僕の両親が必死になって僕を生かそうとしていた理由を」

 

 そこにあるのは親の愛情からというものではなかった。家の血を絶やさないという使命感と義務感。それだけの理由。

 それ以降テンの両親はテンに干渉してくることはなくなった。まるで最初から居なかったかのように。

 

「残機が増えたんだ。死に掛けの最初の一機なんてどうでもいいよね? あははははは」

 

 テンは笑う。その笑いは自らの傷を抉るような酷く惨めな笑いであった。笑うテンとは対照的に黎斗は表情筋一つ動かしていない。哄笑することが多い彼を知っているのなら別人のような印象を与える。

 

「どうでもいい命なら、僕の好き勝手やらせてもらうだけさ。バグスターウィルスの感染なんて怖くもなかった。生き死になんて僕にはどうでもいいことだし」

 

 死や病に対する恐怖が微塵も無い故に仮面ライダークロニクルガシャットを平気でいじることが出来た。その過程でバグスターウィルスに感染してもテンは構うことなく仮面ライダークロニクルガシャットを解析し、プロテクトが甘いことに気付いてそこからデータを抜き取り、違法だと知って仮面ライダークロニクルガシャットをコピーしたりプログラムを違法改造したガシャットも製造した。

 

「一人でやっても良かったけど、今までずっと一人でゲームをしてたから、多人数プレイもいいかもと思ってゲーム仲間を探した。そしたら結構居たね、僕と同じで人生どうでもいいと思っている同世代が」

 

 親からの殴る、蹴るなどの虐待。将来の為と言って一切の自由を奪う教育という名の虐待。子供など居ないかのように扱うネグレクトなど理由は異なるが未来に希望を抱かず刹那の瞬間を楽しもうとするゲーム仲間たち。誰もが互いの境遇に共感を抱いたのですぐに友達になれた。

 

「そういう意味じゃ仮面ライダークロニクルは僕らにとっては最高のゲームだよ。強くなれるし、リアルな戦いを体験出来るし、ゲームオーバーになったら色々と楽になれるしね」

 

 仮面ライダークロニクルの危険性が発覚し回収や禁止により容易に入手出来なくなってもテンは既に仮面ライダークロニクルガシャットの内部解析を完了していたので容易にコピーを作れた。

 作ったコピーガシャットを餌にして新たな仲間を招き入れた。テンも驚くぐらいに似たような境遇の者たち、同じような気持ちを抱く者たちが居た。

 仲間が増えたテンはひたすらに遊んだ。時を忘れてしまうぐらいに。自分たちの時間を遊んだ。仲間の中には親にあれこれと言われる者も居た。そんな時はライドプレイヤーの力を見せつけた。傷付けるような真似をしなくとも軽く脅せば顔を蒼くして拍子抜けするぐらいあっさりと退いていった。

 痛快だった。心が晴れやかになる気分であった。虐げられた自分たちが大人に反逆する。それだけで気持ちが良かった。

 いつまでも続いて欲しい楽しい時間であった。いつまで続いて欲しい幸せな時間であった。

 だが、どんなに長く続いて欲しいと願っても終わりはいつか来る。そして、テンは知った。今日がその終わりの日だと。

 

「あーあ……調子に乗っちゃったかなー……」

 

 全ての切っ掛けは永夢との出会いと交戦。それにより因縁が出来た。そして、その因縁によりテンと仲間たちはゲームを取り上げられてしまう。

 

「ねぇ……仮面ライダークロニクルはこの先どうなるの?」

「──恐らく近いうちにアップデートが入る。それにより二度とガシャットの不正コピーや違法改造が行われなくなるだろう」

 

 テンは上体を起こし、黎斗を見る。その表情は無表情であったがすぐに諦念の表情へと変わり、その表情も微笑によって覆い隠される。

 

「まあ……そうなるよね」

 

 檀黎斗にゲームを挑んだ時からこうなることは予想出来ていた。しかし、いざ現実を突き付けてられてしまうと半ば諦めて受け入れている自分とそれに抗おうとする自分が居る。

 

「しょうがないか……ゲームに負けたし」

 

 だが、それでもテンは敗北を受け入れる方を選んだ。ゲームには必ず勝者と敗者が存在する。引き分けでお互い勝者敗者などテンのプライドが認めない。自分は負けた、だからこそ全てを引き受けた上でそれを受け入れる。

 

「あのさ……今回のことなんだけど首謀者は僕だけで他の皆は僕に巻き込まれただけなんだよ。従った理由は……そうだ、逆らったらゲーム病に感染させるって脅されたからってのはどう?」

「──ふん。全部自分一人のせいにするつもりか? 下らない」

 

 全ての責任を背負うとするテンに黎斗はその自己犠牲を下らないと吐き捨てた。

 

「そうそのつもり……でも、償う気持ちなんてさらさら無いよ」

 

 テンの体の透明化が進む。ゲーム病が進行しているのだ。

 

「別に生きていることにしがみつく理由もないし……それにもう仮面ライダークロニクルも出来ないみたいだし……」

 

 ゲーム病が悪化した最大の理由は黎斗が言うように仮面ライダークロニクルのアップデートにより今まで彼らが使っていた不正ガシャットが使用不可能になること。

 未成年の彼らに正規に仮面ライダークロニクルガシャットを手にする術はほぼ無い。ただでさえ親の目を盗んで遊んでいたが、この騒動でテンたちの行いがバレたら間違いなく今まで以上に自由が無くなる。そうなると彼らは二度と仮面ライダークロニクルで遊べなくなる。

 

「ゲームも遊べない人生を過ごしてもね……考えただけで死にそうだ」

 

 生き甲斐を奪われたらどうなるか。テンにとって想像するだけで苦痛であり、それにより今までなかったストレスが発生し、ゲーム病を加速度的に進行させていく。

 どんどん透明になっていくテンの体。本来ならばかなりの苦痛がテンの体を蝕んでいる筈なのだが、テンは表情一つ変わらない。彼の言葉を借りるなら『慣れている』のであろう。

 黎斗が見ている前で病魔は進行していく。だが、黎斗はそれを助けようとはしなかった。ゲーム病による消滅。それが黎斗が望んだテンに対する罰なのであろうか。しかし、黎斗の表情は少なくとも罪人を罰するようなものではない。

 

「ねぇ。最後に一つ頼んでいい?」

「図々しい……神に頼むとは」

「神様なら願い事の一つも聞いてもいいんじゃない? それとも昔話とかにある嫌なことばっかりする神様なタイプ?」

 

 テンの言葉に黎斗は分かりやすく不機嫌になる。しかし、あくまで態度だけであり何かを言うことはなかった。言いたいことがあるのなら言え、と態度で促す。

 

「僕のパソコンにさ……皆から集めた色んなデータが入っているんだ。それを貰ってくれない? 使うか使わないかは神様の気まぐれに任せるよ」

 

 黎斗は返事をしなかったが、テンは言うべきことを言い残せたので満足している。

 

「──さて、じゃあ……消えようかな」

 

 全てを受け入れ、自らが消滅することに抗わない。テンの言葉を待っていたかのようにゲーム病は進行を早めていく。

 黎斗の見ている前で存在が薄れていくテン。後少しすれば完全に消滅するという間際に──

 

「……ゲーム病に感染し、消滅した者は──」

「え?」

 

 黎斗が突如として話し始め、テンは思わず間の抜けた声を出してしまう。

 

「完全に消滅する事はなく感染したウィルスと同じプロトガシャットに保存される」

 

 それは永夢たちも知らされていない情報であった。消滅したゲーム病患者を救け出せる可能性を見出すことが出来る重要な情報。

万が一の時に備えて交渉に使う為に隠しておいた秘密を黎斗はテンに教えた。何故そんな重要な情報をテンに教えたのか。それは黎斗自身にしか分からない。もしかしたら、黎斗も分かっておらず、つい口を滑らせてしまったのかもしれない。

 不意打ちのように自分の未来を聞かされたテンは、目を丸くしてポカンとした表情になる。とっくに覚悟を決めていたので生への可能性が出て来るとは思ってもみなかった。

 暫くの間、その表情のまま固まっていたが不意にニヤリと笑う。

 

「ゲームの中に入れるなんて最高だね」

 

 願ってもないと言わんばかりの晴れやかな顔。元々薄かった死への恐怖は、黎斗の言葉によって全て無くなった。

 

「あ、そうだ社長さん。一幻夢コーポレーションのファンとして最後に言っていい?」

「何だね?」

「もう少しゲームの難易度下げた方がいいよ。初心者ゲーマーには結構ハードルが高いから。そしたらもっと売れるかも」

 

 その言葉を最後にテンの体は完全に消えてしまう。最後の瞬間まで黎斗にとっては憎たらしい子供であった。

 

「──余計なお世話だ」

 

 テンが消滅して少し経って永夢たちが来た。

 

「黎斗さん!」

「黎斗!」

 

 佇む黎斗を見て、永夢たちが声を掛ける。

 

「やっと来たか」

 

 永夢たちの遅い到着に黎斗は小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

 

「黎斗さん……すみません。貴方に渡されたガシャットを正宗さんに渡してしまいました」

「ごめん! 黎斗!」

 

 永夢の口から出たのは謝罪の言葉。取引の為に止むを得ない状況であったが、折角作ってくれたガシャットをみすみす手放してしまったことを真摯に謝る。

 

「ほう? あの男の手に渡ったのか……私の狙い通りに……!」

「──え?」

「どういうこと? 黎斗」

 

 思いもよらない言葉に永夢たちは戸惑う。

 

「幾らプログラムを強化しても肝心の仮面ライダークロニクル本体をアップデートしなければ意味がない。その為には管理者権限を持つマスターガシャットがどうしても必要だ。そして、マスターガシャットはあの男が持っている」

 

 そこまで言えば黎斗が何をしたのか嫌でも理解してしまう。

 

「貴様……俺たちの情報を流したな?」

 

 飛彩が表情を険しくする。

 

「その通り! あくまで自然に耳に入るよう何重もの偽装をしてだ! あの男が素直に私のデータを受け取る筈がないからなぁ!」

 

 まんまと黎斗の掌の上で転がされた永夢たち。利用されたことに腹が立つ気持ちがあるが、黎斗の言っていることも一理あるので責められない。結果としてコピーガシャットが今後出ることはないと考えれば我慢も出来る。

 

「──そういえば、彼らはどうしたんですか?」

 

 黎斗一人だけ居ることに疑問を覚える。聞いた話ではテンとその仲間たちも居る筈である。

 

「──テンという少年の仲間たちは九条貴利矢に任せた。直に来るだろう、ゲームオーバーになっていなければ」

 

 過去に貴利矢をゲームオーバーにした相手が言うと嫌味にしか聞こえない。物申したくなる気持ちを抑えて更に詳細を訊ねる。

 

「彼は──テンという子はどうしたんですか?」

 

 質問した瞬間、問われた黎斗の顔を見て永夢は背筋に冷たいものを感じた。

 

「彼は──ゲームオーバーになって消滅した」

 

 その答えに誰もが一瞬言葉を失う。

 

「コピーガシャットはバグスターウィルスに感染していない筈です!」

「そのコピーガシャットを作成する過程で本物の仮面ライダークロニクルガシャットのバグスターウィルスに感染したと本人は言っていた」

「そんな……」

 

 見す見すゲーム病患者を消滅させてしまったことに強いショックを受ける永夢。

 

「本当にそうなのか?」

 

 疑問を呈したのは飛彩。

 

「──お前がバグスターウィルスを感染させたんじゃないのか?」

 

 飛彩の疑問は真実を知る者からすれば的外れなもの。しかし、黎斗には過去に同じようなことをした前科がある。ましてや、今回の件で黎斗は首謀者に強い怒りを向けていた。今はCRに協力しているが、完全に改心した訳ではない。それどころかエゴイストな部分を露骨に出しているので悪化したまである。

 ゲームに対して異常なこだわりとプライドを持つ檀黎斗という存在を少しでも知っている者ならば同然の疑惑と言えた。

 

「待って! 確かに前にバグスターウィルスをばら撒くことはしたけど……今はちゃんと反省している筈だから!」

 

 まるで保護者のように明日那が黎斗を庇う。

 

「……どうなんですか? 黎斗さん?」

 

 永夢が黎斗へ問う。だが、永夢の問いは最初から黎斗を疑ったものではなく、黎斗の意見に耳を傾けようとする真摯なもの。

 

「──彼らにバグスターウィルスを感染させようとしたのは事実だ。九条貴利矢の横槍で未遂に終わったがね。だが、それだけだ。私はテンという少年にバグスターウィルスを感染させていない」

 

 する気はあったと認めつつ飛彩の指摘は否定する。その段階で永夢たちは黎斗の態度に違和感を覚えた。普段ならばもっと声を荒げ、感情的になり、ヒステリックに喚くというイメージだが、今はどういう訳か妙に落ち着いている。

 

「黎斗?」

「──話は以上だ。私にはまだやることが残っている」

 

 そう言い、黎斗はバグスターの能力であるワープにより何処かへ行ってしまう。

 

「ちょっと黎斗!?」

 

 流石に勝手に動くのを見過ごせないのでポッピーも急いで黎斗の後を追う。

 残された永夢と飛彩は狐につままれたような表情になっている。

 

「一体どうしたんだ……?」

「黎斗さん……やけに落ち着いていたというか……もしかして落ち込んでいたのでしょうか?」

「あいつがか? まさか……」

 

 永夢の推測を一蹴しようとしたが、言われてみるとそういう風に飛彩にも見えてきたので口を閉ざしてしまう。

 

「あれ? 来てたのか」

「貴利矢さん!」

 

 貴利矢がアタッシュケースを肩に担ぎながらやって来た。その背後に意気消沈して大人しくなった少年たちを連れている。

 永夢たちを見つけた後、貴利矢はキョロキョロと周囲を見回す。

 

「──元社長を見なかったか? 勝手な真似した挙句に人に色々と押しつけていったあの野郎は?」

 

 不満に満ちた声を出しながら黎斗の姿を探すが、一歩遅かったので当然見つかる筈もなかった。

 

「黎斗さんは──」

 

 永夢が分かっている範囲での事情を話す。話を聞いている内に貴利矢の表情はどんどん険しいものと化していった。

 

「……じゃあ、そのテンって子はゲーム病で消滅したんだな?」

「……はい」

 

 場にはやるせない空気が流れる。医者としてゲーム病患者を消滅させてしまったことに無力感を覚えてしまう。それが永夢たちにとって目も手も届かない場所で起こったことだとしても。

 

「テン……」

 

 

 二人の会話を聞いてしまった少年の一人がその名を呟き、静かに涙を流す。それに呼応して他の少年たちも泣き出し、小さな嗚咽が鳴り響く。

 

「この子たちは?」

「テンって子の仲間だよ……コピーガシャットを使っていた」

「そうですか……」

 

 複雑な心境になる。彼らが行ったことは許されることではないが、だからといって泣いている子供を叱る気にはなれない。

 

「……まずは検査だ。バグスターウィルスに感染していないかの」

「……そうですね」

 

 飛彩に同意し、永夢らは彼らを病院へ連れて行く。

 永夢は連れて行く道中で思った。これは問題の先延ばしに過ぎないと。

 

『せいぜい悩みたまえ。人に裁きを下すことに』

 

 クロノスの言葉が永夢の頭の中で何度も繰り返された。

 

 

 

 

 CRの休憩室の椅子に座り、永夢は長く息を吐く。

 テンとその仲間の少年たちが起こした今回の騒動。巻き込まれた人がかなりの数居たが、結果からすると驚くぐらいに静かに終息した。

 まず今回の件で巻き込まれた被害者たちが殆ど名乗り出ることをしなかった。

 理由は想像が付く。彼らは全員仮面ライダークロニクルのライドプレイヤー。衛生省は仮面ライダークロニクルの回収と使用禁止を発表している。もし、被害を訴えたら仮面ライダークロニクルガシャットを没収されるかもしれないと思ったのであろう。

現在のプレイヤーの殆どは仮面ライダークロニクルで消滅したプレイヤーを救うことを目的としている。仮面ライダークロニクルガシャットはそれを叶える為の唯一の手段だった。

 そして、この騒動を引き起こした少年たちのことだが、当然ながらその事は彼らの保護者にも伝えられた。そして、保護者たちが行ったことは少年たちと一緒に謝罪することではなく、知らぬ存ぜぬ、子供は関わっていないと認めずヒステリックに喚くことであった。

 子供の過ちを親が認めず、それどころか子供の将来云々を理由に切り抜けようとしたり、終いには言い掛かりと言って名誉棄損で病院を法的に訴えようとしてくる親も居た。

 それを解決したのは黎斗であった。親たちとの話し合いの場に突如乱入し、ある映像を親たちに見せた。それはテンたちが自ら撮影した彼らの遊びの記録。そこには違法コピーした仮面ライダークロニクルガシャットで変身する様子や改造ガシャットで起こるバグで遊ぶ様子、他のライドプレイヤーを襲う様子が映されていた。

 自分たちの子が関わっている証拠に親たちは最初の勢いを無くし言葉を失うが、黎斗が持ってきた映像には続きがあった。

 それは画角から隠し撮りをされた映像であり映っていたのは各々の家庭の様子。親が我が子に対する教育を超えた虐待の映像。

 望んだ通りの成績を取らなかったことで人格を否定する程に罵倒する親。罵声だけでなく手も出す親。脅迫同然の説教で追い詰めていく親。子供の自由と尊厳が悉く蹂躙されていく様が記録されていた。

 それを見た親たちの顔色は死人のような土気色になっていた。

 恐らくは隠し撮りしているのは少年たちであり、万が一仮面ライダークロニクルで遊んでいることがバレたときに親を黙らせる為の保険として撮っていたものと思われる。

 黎斗はそれをテンの最期の頼みとして聞き届け、公開した。

 この映像により子供の両親らは全員沈黙する。外面や面子を大事にしているので公になることを恐れたからであった。

 結局黎斗が用意した証拠により半ば脅迫染みた強引な解決法で今回の件はうやむやにになった。

 少年たちは暫くの間衛生省の監察下に置かれることになったが、明確な罰則などはない。

 そして、今回の件の首謀者であり唯一の犠牲者であるテンの両親に関しては終始無関心であった。

 何を聞いても、何を言われても機械的な反応で模範的な答えしか返さず涙一つ見せない。まるで最初から居ない者のような扱いであり、終ぞ両親の口からテンの名が出ることはなかった。

 何とも後味の悪い結末に永夢はもう一度溜息を吐く。

 

「本当にこれで良かったのかな……」

 

 誰かを救ったという手応えを感じず永夢はどうしても納得が出来ない。もっと上手くやれたのでは? もっと少年たちに歩み寄れたのではないか? という後悔だけが積もっていく。

 

『随分と下らないことで悩んでいるようだな?』

 

 休憩室に置かれたゲーム筐体から永夢を嘲笑する声。中に閉じ込められている黎斗が永夢を見て口の端を吊り上げて笑っている。

 

「……下らないことですか?」

 

 普段は温厚な永夢の目が細められ、鋭さを帯びる。本気で考えていることをその一言で一蹴されれば気分も害する。

 

『彼らは罪を犯し、そして裁かれた。既に終わったことを悩んでも仕方がない。まあ、犯した罪に対しての罰が軽いというのなら一考する価値はあるかもしれないがな』

 

 終わったことを悩むこと自体無駄と断じる黎斗。永夢も黎斗の言っていることは理解出来る。だが、納得には至らない。

 

「……犠牲者が出ているのにですか?」

 

 黎斗を責めるような口調になってしまったことを永夢は内心後悔した。テンはゲーム病で消滅したが、感染源となった仮面ライダークロニクルガシャットがテンの家で発見された。黎斗が感染させた疑いが完全に払拭出来た訳ではないが状況証拠として見れば、黎斗は白に近い。

 

『ふん。私の仮面ライダークロニクルに無粋な真似をした罰が下ったに過ぎない。確かに私とあの少年は戦ったが、これは私にとっての正当な権利だ。寧ろ、私にしか出来ない!』

 

 言い切る黎斗。永夢は常々この自身は何処から来るのか不思議に思う。

 

『昔から言うだろう? 『復讐するは我にあり』と! まさに私に相応しい言葉だ!』

 

 それは聖書に記された言葉。この場合の我とは神を指すものであり、日頃から自分を神の才能或いは神と豪語する黎斗の傲慢さに相応しいと言えば相応しいのかもしれない。

 しかし、その傲慢な台詞を聞いた永夢は怒ることもせず、寧ろ驚いたような表情になる。

 聞くだけならば自分と神を重ね合わせたように思うかもしれない。しかし、その言葉には別の側面もある。

 人を裁くことや復讐することは神に任せ、人は愛や救うことに生きるべきという戒める言葉。

 非常に分かり難いかもしれないが、黎斗は遠回しに今回の件を引き摺っている永夢を励ましているのかもしれない。

 黎斗の過去の所業を思えば都合の良い解釈と思われるだろう。だが、永夢はそれでも今の言葉に黎斗なりの情があったと信じてみたかった。

 

「それでも僕は悩み続けます……それが医者として生きる道を選んだ僕の責任ですから」

 

 黎斗に全てを背負わせることはせず、背負うべきものを自らに課す。

 

『──好きにしたまえ』

 

 黎斗はそれだけ言うと筐体の中でゲーム作りに没頭し出す。

 今回の事で両者の距離が縮まった訳ではない。しかし、永夢は思う。

人並み外れた才能を持つ黎斗といつか分かり合える日が来るのではないか、と。

それこそ神のみぞ知ることであろうが、

 




これで話は完結となります。投稿していなかった期間もあった終わるのに数年かかりました。
また新しいライダー作品の準備をしていきます。
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