仮面ライダーゲンム~Vengeance is mine~   作:K/K

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Stage 2

 檀黎斗。この人物が如何なる者かを説明するには一言では難しい。

 ゲーマドライバー。そして、ライダーガシャットを生み出した天才的ゲームクリエイターであると同時に、バグスターウィルスによるパンデミックを引き起こし、多くの人々を消滅させた『ゼロデイ』という事件の元凶である。

 表向きは紳士。しかし、裏の顔は堂々と神を名乗り、自らの才能に絶対的自信を持つエゴイストであり極悪人そのもの。

 様々な悲劇を起こし、それを実験とし全く悪びれる様子も無ければ罪悪も持たない。

 はっきりと言えば諸悪の根源であり今すぐにでも罰すべき存在なのだが、彼が最も質の悪い理由として、彼の悲劇を起こす才能は同時にあらゆる人々を救うことが出来る救済の才能でもあるということである。

 

 

 ◇

 

 

「その話の詳細をもっと詳しく」

 

 ドレミファビートの筐体の中にいる黎斗が永夢へ話し掛ける。画面の中から外の住人に普通に話し掛けてくること自体、常人から見れば異常な事態であるが、黎斗はそれが可能な『特別』な存在であった。

 黎斗が椅子から立ち上がり画面に向かって歩いて来る。その姿が画面一杯になったとき黎斗の姿が消え、画面からオレンジ色の光の粒子が飛び出し、それが黎斗の形となる。

 檀黎斗が現在人間ではなくバグスターであるからこそ出来る能力である。自らの詰めの甘さと傲慢さのツケの代償を人間としての死で払ったが、そこから持ち前の才能によってバグスターとして復活するという、転んでもただでは起きないことを行動で証明してみせた。

 患者や他者に対し常に優しさを以て接する永夢ではあるが、この黎斗だけは例外であり過去にしたこと自分にしたことも含めて許すことの出来ない存在である。尤も彼本来の性格を知って嫌悪しない人間の方が少数ではあるが。

 本来の立場は宿敵同士だが、仮面ライダークロニクルを終わらせるという点で利害が一致しており、現在は協力関係にある。

 永夢も黎斗の人格には理解を示せないが、ゲーム関連の知識や技術は信用していた。

 

「君はそのライドプレイヤーが特殊な能力を使ったと言っていたが、具体的にはどんな能力を使ったんだい?」

「正確に言うと……向こうの攻撃が必ずこっちに当たる様になりました。全く違う方向に撃った筈の弾が全部命中したり、衝突する筈の剣がすり抜けてきたり。こっちは逆に全く攻撃が当たらなくなって――いや、当たっている筈なのに全然手応えが無かったです。あ、あと、その能力を発動した途端、急に強くなりました」

 

 永夢の情報に、黎斗の表情は険しくなる。

 

「エナジーアイテムも無しにそんなことが? ライドプレイヤーなのに永夢みたいなことが出来るの?」

 

 エナジーアイテムとは、ライダーガシャットを起動し、ゲームエリアが展開されると同時に至る所に置かれるライダーを強化または補助をするアイテムのことである。現在は『とある事情』によって使用することが出来ない。

 相手の能力を無効化する。エグゼイドもそれは使用可能ではあるが、それには永夢という特別な存在と特別なガシャットが必要になる。

 

「仮にエナジーアイテムを使用したとしても、そもそもそういった効果のアイテムは設定していない」

 

 ポッピーの疑問に黎斗は眉間に皺を寄せたまま答える。

 

「もしかしたら……」

 

 何か思い当たることがあったのか、黎斗は言葉を小さく洩らす。

 

「何? 何か分かったの? 黎斗?」

「……少し調べたいことが出来た。席を外させてもらう」

 

 そう言い残し黎斗はオレンジの光となって姿が消える。

 

「ちょ、ちょっと黎斗!」

 

 勝手な行動を咎めようとするが、その声が届く前に黎斗が何処かに行ってしまった。

 

「もう! 勝手に動いちゃダメじゃない! 衛生省の人たちに見つかったらすぐに逮捕されちゃうっていうのに!」

 

 まるで保護者の様に勝手な行動をする黎斗に怒りを見せる。そんなポッピーを永夢は苦笑しながら宥めた。

 

「黎斗さんも騒ぎを起こせばどんなことが起こるか理解している筈だし大丈夫だよ――多分」

「むぅ……そうだよね。黎斗も馬鹿なことはしないよね? ね?」

 

 二人揃ってはっきりと断言出来ないのが、檀黎斗という存在の面倒さを表しているとも言えた。

 

「――あっ。そうだ。私、院長に渡さなきゃならない資料があるんだった」

 

 ポッピーは、その場でくるりと一回転する。桃色の髪は黒のショートカットとなり、カラフルでな衣装は白一色の看護服に変わる。

 ポッピーピポパポから仮野明日那に切り替る。

 

「じゃあ。私、院長の所に行くから。ついでに黎斗のことも探してみる。病院の外には出てない筈だから」

 

 口調も落ち着いた年相応のものになる

 

「分かりました。いってらっしゃい」

 

 明日那は机に置いてあったファイルの束を取ると、CRから出て行く。CRの外にある扉の中に入る。そこはエレベーター内であり、先程明日那が入ってきた扉はCRへ行く為の隠し扉なのである。そこから普通にエレベーターから聖斗大学付属病院内に出ると院長室へと向かう。

 途中、ファイル内の資料がきちんと揃っているか確認する為にファイルを開き、軽く目を通す。

 僅かに視線を落としていた瞬間、前から軽い衝撃を受け、その場から数歩後退してしまった。

 誰かにぶつかったのだと気付き、慌てて謝罪する。

 

「ごめんなさい! 大丈夫ですか!」

 

 明日那と衝突したのは、見た目が十代後半ぐらいの少年であり、身長は平均的だがかなりの痩身であり、下手をすれば明日那よりも細い体格をしていた。

 

「いえ。こっちもちゃんと前を見ていなかったので……」

 

 目線を伏せる少年。その目線を追うと片手に携帯ゲーム機が握られていた。

 

「本当にすみません……」

 

 申し訳なさそうに肩を落とす少年の姿に、明日那は慌てて慰める。

 

「謝る必要なんてないです。こっちも不注意でしたし……あの、怪我は無いですか?」

「はい。大丈夫です。こんな見た目ですけど大きな怪我はしたことはないので」

 

 自虐なのか冗談なのかいまいち分からず、明日那は愛想笑いも浮からべれないまま複雑な表情で止まってしまう。

 このままではいけないと思い、ふとゲーム機が目に入ったので無理矢理話題をそちらに向けた。

 

「それって新作のゲームだよね? よくゲームはするの?」

「はい。と言っても趣味の範囲ですけど。天才ゲーマー『M』 とか一億プレイヤー『N』 には遠く及ばないですけど」

 

 先程よりも口調が速い。かなりのゲーム好きらしい。

 話題を逸らすことが出来たが、代わりに知人の名前が急に出てきてドキリとする。そんな明日那の反応を他所に少年は饒舌に話続ける。

 

「最近のゲームも悪くないですが、どうもいまいち熱が入らないんですよ。このゲームも面白いのことは面白いんですけど、やり込む要素が足りないというか――やっぱり幻夢コーポレーションのゲームが肌に合います。でも社長が代わってからはちょっと……檀黎斗社長のときのゲームが一番好きでした」

 

 黎斗の名前が出てきたことに更にドキリとした。黎斗自身、ゲーム作成に異常なまでの情熱を注ぎ込み、その結果多くの人を苦しめることを良しとしている。だが、それでも彼が創り出した物で目の前の少年の様に憧憬を持つ者も居ることを知ると内心複雑な心境となる。

 明日那が複雑そうな表情をしていることに気付き、少年は気まずそうな顔になる。

 

「ああ、すみません。いきなり一人で喋り続けて。しかも初対面の人に。鬱陶しかったですよね?」

「そ、そんなことないですよ。聞いいて本当にゲームが好きだってことが伝わりましたから」

 

 嫌味も皮肉も無い純粋な評価に少年は照れた表情となる。

 対照的に明日那は表情を引き締め、少年の会話で気になったことを問う。

 

「君が幻夢コーポレーションのファンらしいけど、もしかして――」

「仮面ライダークロニクルをやっていないかどうかですか? 安心して下さい。やっていません。怖いゲームらしいですからね、今は普通の店では売ってもいません」

 

 先回りして答える少年。それを聞き、明日那は安堵する。この様な若い少年が仮面ライダークロニクルのプレイヤーだったら、それだけで気が滅入ってしまう。

 

「ごめんなさい。ちょっと気になって」

「仮面ライダークロニクルは色んな人たちに広まりましたから、気になるのはしょうがないですよ」

「そうね。……あ、ごめんなさい引き留めて」

 

 自分の仕事を思い出し、明日那は少年に軽く頭を下げる。

 

「少しですけど話して楽しかったです。さよなら、お姉さん」

「貴方も体を大切にして下さいね」

 

 互いに別れを告げ、離れていく。明日那は足を止めずに院長室に向かうが少年は数歩進んで足を止め、背後を振り返り小さくなっていく明日那の背を見詰める。

 

「やっぱりそうだよな……あのお姉さん」

 

 確信を含んだ言葉。少年は明日那と話していた時以上に愉し気な笑みを浮かべると、携帯ゲームをしまい、代わりに携帯電話を取り出す。登録されている番号を選び、そこに電話をかけた。

 

「もしもし――うん。そうだよ。今、時間ある?――ああ、あと適当に二、三人程誘っておいて。――場所は聖斗大学付属病院。――うん、そうだよ」

 

 ひ弱な印象を受ける少年。だが、今の彼からは触れることを躊躇う程の気が放たれていた。

 

「ああ。ゲームをしよう」

 

 

 ◇

 

 

 とある病院の一室。その中では本をめくる音だけが一定の間隔で流れていた。

 本をめくるのはベッドの上で上半身だけ起こしている黒髪に所々白髪が混じった男性。病衣から覗く包帯が痛々しく、まだ傷が癒えていないのが分かる。

 ベッドのすぐ側では長い髪にカラフルな帽子、それに合わせたカラフルなジャケットを羽織るストリートファッションを着こなす顔立ちの整った少女がイヤホンを挿した携帯ゲームを黙々とプレイしていた。

 互いに会話が無いが、決して険悪な空気が流れている訳では無い。寧ろ逆に二人によって空間が完成されており、外部の者が入るのを躊躇わせる。

 が、そんな空気など構うことなく入って来る者が居た。

 いきなり病室内に集まり始めるオレンジ色の粒子。それを見て本を読んでいた男性は、持っていた本を投げ捨てると共に側に居る少女を庇う様に自分の後ろへ下げる。

 

「……何しに来やがった、てめぇ」

 

 粒子が人の形、檀黎斗になった途端、警戒は露骨な嫌悪に変わる。

 

「そう身構えないでくれ。君に用が会って来た訳じゃないんだ、花家先生」

「だったらとっとと消えろ」

「傷の具合はどうかな?」

「お前の顔を見るだけで悪化しそうだ」

 

 白髪混じりの男性――花家大我は表情を顰めながら辛辣な言葉を返す。敵意を隠そうともしない。事実、黎斗の無駄に爽やかな笑顔のせいで腹が立ち、宿敵との戦いで受けた傷がそのせいで疼く。

 彼は聖斗大学付属病院の元医師であり、そしてCRにも所属していた仮面ライダーだが、あることを切っ掛けに医師免許を剥奪され、CRからも追い出された。彼もまた黎斗によって人生を狂わされた一人である。敵意を見せるなという方が無理であり、寧ろ今にも襲い掛かってもおかしくはなかった。

 

「早く失せろ」

「用が済んだらさっさと出て行くさ」

 

 黎斗の目線が大我から黒髪の少女に向けられる。黎斗に見られた途端、少女は怯える様に大我の術衣の袖を掴む。

 

「西馬ニコくん。今日は君に頼みたいことがあるんだ」

「……何?」

 

 優し気に頼む黎斗に対し、野良猫の様な警戒心を剥き出しにする。

 西馬ニコ。天才ゲーマーMに匹敵する腕を持つゲーマーであり、年収一億を稼ぐゲームプレイヤー『N』という顔を持つ。ゲーム病を患った際に大我に面倒を見て貰ったことを切っ掛けに彼の患者という立場で共に行動する様になった。

 

「君のクロニクルガシャットを貸して欲しい」

「はあ? 何であんたに貸さなきゃならないの?」

 

 にこやかに頼む黎斗とは真逆で顔を嫌悪感で歪めながら黎斗の頼みを一蹴する。

 爽やか笑みが一瞬だけ引き攣る。

 

「決して悪い様にはしない。だから貸してくれないか?」

「いーやー!」

 

 舌まで出して拒否するニコ。

 

「この私がここまで頼んでいて何だその態度はぁぁぁぁぁ!」

 

 紳士の顔が一気に剥がれ落ち、中から素の性格が表に飛び出る。

 

「いいから貸せ!」

 

 ニコに詰め寄る黎斗。

 

「離れろ!」

 

 大我が読んでいた小説の角を黎斗の側頭部に叩き付ける。

 

「くぉっ!」

 

 バグスターであっても痛いものは痛い。少しの間沈黙するが、黎斗は悪鬼の如き形相で今度は大我に詰め寄った。

 

「貴様ぁぁぁぁ! 私の神の頭脳が傷ついたらどうするつもりだぁぁぁ! 私の才能は世界の財産よりも価値があるものだぞ!」

 

 怪我人でも構うことなく術衣の胸倉を掴んで揺さぶる。

 

「大我から離れろ!」

 

 ニコは背負っていたリュックサックを黎斗の後頭部目掛けでフルスイング。

 

「ぶぇっ!」

 

 リュックサックにはバッチがいくつも付けられおり、それの直撃により黎斗は悶え苦しむ。が、すぐに立ち上がってみせた。

 

「お前たちと遊んでいる暇はない! いいから出せ! 出せぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 ◇

 

 

 院長にファイルを渡した明日那は、別件の仕事の為にCRへ帰ろうとしていた。

 

「看護婦さん!」

 

 すると突如呼ばれ、すぐに声の方に目を向けると必死な形相をした見知らぬ少年が奔り込んできて、明日那の前で勢い良く転倒する。

 

「だ、大丈夫!?」

 

 突然のことに驚きつつ、少年を起こそうとすると、少年は顔を上げ半泣きの表情で起こそうとしていた明日那の腕を掴んだ。

 

「た、助けてくれ! 俺の友達が! 友達が!」

 

 半狂乱となっている少年を何とか落ち着かせようとする。

 

「どうしたの? 何があったの? 落ち着いて話して」

「い、いきなりた、倒れたと思ったら苦しみ始めて、そ、そしたら体が透けたり、変な光を出したり!」

 

 明らかにゲーム病の症状。一刻を争う事態だと分かり、明日那の表情が険しいものになる。

 

「場所は何処?」

「こ、ここからそんなには遠くないです!」

「案内してくれる?」

「はい!」

 

 少年は頷き、走り出す。その後を明日那も追う。

 このとき、明日那は疑問に思うべきであった。周りを見れば看護師の姿がちらほらと見えるというのに、何故その中で明日那のわざわざ選んだのかを。尤も少年の必死さな様子にそのことに気付くことは出来なかった。

 人を救いたいという優しさの為に。

 

 

 ◇

 

 

 少年に案内された場所は病院から走って十分程の場所であった。両脇に年季の入ったビルが建ち、日を遮っているせいか空気が冷たい。人通りから少し離れていることもあり人気も無かった。

 

「あそこです!」

 

 少年が指差す方向には蹲っている少年の姿があった。明日那は急いで駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!」

「う、うう……」

 

 返事は無く呻くだけ。明日那は首に掛けてある聴診器を向ける。

 聴診器型機器、ゲームスコープから出た光が少年に当たる。この光を当てれば、どんなバグスターウィルスに侵されているかモニターに表示される。

 

「――え?」

 

 明日那は戸惑った声を出してしまう。浮かび上がったモニターに何も表示されていない。つまりバグスターウィルスに感染していないことを意味している。

 

「へぇ。CRってそんな機械まで持ってるんだ」

 

 初めて聞く声。振り返ると明日那の顔を間近で覗き込む白色の双眸。

 

「だ、誰!?」

 

 思わず仰け反る。そこで相手の全体像が見えライドプレイヤーであることに気付いた。

 ライドプレイヤーは明日那の質問に答えるよりも先にクロニクルガシャットを取り出す。

 

「ああ、もういいよ」

「ほぉーい」

 

 気の抜けた返事と共に蹲って少年が立ち上がり、体に付いたゴミを払う。

 

「これ、約束の」

 

 ライドプレイヤーが少年に向かってクロニクルガシャットを投げ渡す。それを受け取ると少年は手の中のクロニクルガシャットを嬉しそうに眺めた。

 

「おーい、『テン』。俺の分はー?」

「分かってるよー」

 

 新たなクロニクルガシャットを取り出し、明日那を連れてきた少年に渡す。

 

「はい。特別仕様」

「うおし!」

 

 受け取ると嬉しそうにガッツポーズをとる。

 

「なんかずりーなー」

「おいおい。成功したのは俺の名演技あってこそだぜ?」

「嘘吐け。絶対下手くそだっただろ」

「はっ! 今度見せてやんよ! 俺のアカデミー級の演技を」

「言ってろ」

 

 まるで何事もなかったかのような日常会話。状況を呑み込めず取り残されていた明日那であったが、自分が嵌められたことに気付くと困惑が怒りに染まっていく。

 そのとき、改めてライドプレイヤーの姿を見て通常のライドプレイヤーとは異なる姿をしていることに気が付く。腰と腕に装着されているクロニクルガシャット。彼女が永夢から聞いていたPK行為をするライドプレイヤーと同じ特徴であった。

 

「まさか……貴方が永、エグゼイドを!」

「エグゼイドっていうんだ、あの人。格好良い名前だね」

 

 明日那の問いに答えながら正解と言わんばかりに手の中にエグゼイドから奪ったガシャコンブレイカーを出現させてみせた。

 

「貴方たち! どうしてこんな真似をしたの!」

 

 声を荒げる明日那であったが、当の少年たちは平然とした態度でマイペースに会話を続けていた。

 

「で? この女の人誰なの?」

「前に見たんだけどね、仮面ライダークロニクルのマスコットで審判みたいなことをやってたお姉さんだよ」

「え? この人、CRなんじゃないのか? 何で感染者増やしている仮面ライダークロニクルに関わってんの?」

「そんなこと知る訳ないじゃん。何かあるんじゃないの? 特別な大人の事情ってやつが」

「……やっぱり人違いなんじゃないのか?」

 

 少年二人は疑い目で明日那を見る。

 

「絶対合っているって。あの時は派手な格好していたせいで最初は気付かなかったけど。名前なんだった? パピプペポーみたいな感じのだったような」

「何それ? 変なの……」

「パッピーパピプペだったかなー?」

「ああ、何かそんな名前のキャラがドレミファビートに居たなぁ。ピッピーピポピポだったけ?」

「ポッピーピポパポッ!」

「そうそう! それそれ!」

 

 間違い続けられる自分の名に堪らず正しい名を叫んでしまう。テンと呼ばれたライドプレイヤーは、つっかえが取れた様な態度で明日那に拍手を送った。

 

「でもさぁ。会いたいのは、そっちじゃないんだよね」

 

 テンはガシャコンブレイカーで肩を軽く叩きながら明日那を見詰める。仮面越しだというのに明日那はその視線に嫌なものを感じた。

 

「変身、してたよね? 道具使ってパァっと。あれ、見せてくれないかな?」

「……そうしたら、貴方たちはどうするつもり?」

「そりゃあ、お互いに変身しているんだから戦うに決まっているでしょ?」

 

 さも当然の様に言うテンというライドプレイヤーに寒気を感じる。ライダークロニクルは決して遊びでは無い。命懸けの戦いなのである。

 

「私は……変身しない」

 

 明日那はテンの願いを拒否する。人を守る為に戦ってきた。人の命を奪う真似をすることなど彼女の良心が許さない。

 

「え? しないの? どうしよう?」

 

 本当に困った様子で周りの少年たちに意見を聞く。

 

「いや、どうしようって……。ノープランなのかよ」

「変身出来ないって言うんだったら変身させる理由を作ればいいんじゃないの?」

「変身する理由か……」

 

 少しの間、考える仕草を見せていたが急に何かを思い付いたらしく勢い良く手を打ち鳴らす。

 

「そうだ! 確かお姉さん、ルール違反にペナルティーを与えるときに変身してたよね? だったら何の問題も無いね」

 

 いまいち話が嚙み合っていないことに気付く。明日那は、この少年たちが未だに自分が仮面ライダークロニクルの運営側に関わっていると勘違いをしているのではないかと思い始めていた。

 

「ここにいる全員『ルール違反者』だから、安心して変身していいよ」

 

 彼が何を言っているのか意味が分からない。見た目は少し変わっているが一体どんなルール違反をしているのだというのか。

 重要な告白をしたというのに行動する素振り全く見せない明日那に、テンは困った様に後頭部を掻く。

 

「まだダメ? はぁ……あんまり暴力的なのは好きじゃないんだけど仕方ないか。二人とも準備」

 

 テンの指示に従い、二人の少年はクロニクルガシャットを構える。

 

「だ、ダメ!」

『仮面ライダークロニクル』

 

 止めようとする明日那の声を無視し、二人の少年はガシャットを起動させた。クロニクルガシャットから発せられた光が少年たちを包み込む。

 

『エンター・ザ・ゲーム! ライディング・ジ・エンド!』

 

 電子音声が鳴り響く中で、少年たちはライドプレイヤーに変身する。

 

「そんな……」

 

 それ以上言葉を続けることが出来なかった。クロニクルガシャットを起動させれば確実にバグスターウィルスに感染する。目の前でみすみす患者を生み出してしまったことに、明日那はショックを隠せない。

 そんな明日那の様子など気になどせず、変身した少年たちはライドプレイヤーの感触を確かめる様に、拳を振るったり、蹴りで空を裂いたりなどしてはしゃいでいた。

 

「で、こっちの準備は出来たけどお姉さんはどうする?」

 

 ガシャコンブレイカーを明日那に突き付け、挑発する様に尋ねてくるテン。明日那は、奥歯を噛み締め悔しそうな表情をしつつ決断する。

 これ以上、彼らのゲーム病が悪化する前に。そして、永夢の武器でPKなどという人を傷付ける行為をさせない為に。

 明日那の手にいつの間にかゲームパッドが握られていた。水色の筐体の中央にはモニターが備えられており、それを挟む様にAと刻まれたボタンとBと刻まれたボタンがある。これだけ見れば只のゲーム機だが、ゲーム機の両端、Aボタン側から突き出た二門の銃口。Bボタン側から伸びたチェーンソーらしき刃を見れば普通のゲーム機ではないことが分かる。

 明日那はそれを腹部に当てる。

 

『ガ・チャーン』

 

 するとベルトが現れ、それを固定した。

 続いて取り出すのはピンクの本体に女の子のキャラクターが描かれたガシャット。そこには『ときめきクライシス』とゲーム名も描かれていた。

 ガシャットに備わったスイッチを押し、ゲームを起動させる。

 

『ときめきクライシス!』

 

 装着したゲームパッド――バグルドライバーⅡのAボタンを押し、バグルドライバーⅡの上部にあるスロットへと『ときめきクライシス』のライダーガシャットを挿し込み、スロットにあるスイッチを押す。

 

「変身!」

『ガシャット! バグルアップ!』

 

 ガシャット内のデータを読み取らせ、変身プログラムを実行させる。

 

『ドリーミングガール! 恋のシミュレーション! 乙女はいつもときめきクライシス!』

 

 煌びやかに光る光の帯に包まれ、明日那の姿は変わっていく。

 ピンク色のソックスが膝まで覆い、黒のタイツを下地にして金色の装甲が腰回りにミニスカートの様に装着、胸部や両肩にも同じく装着される。頭部はピンクのボブカットの様なパーツで覆われそこにハートをあしらったカチューシャが付けてあった。その顔は青いアイパーツが輝く。

 顔を除けば『ときめきクライシス』に描かれていたキャラクターに酷似したその姿こそ仮野明日那ことポッピーピポパポが変身した仮面ライダーポッピーである。

 

「やっとプレイヤーが揃ったね。じゃあ、二人ともいってらっしゃい」

 

 テンは二人のライドプレイヤーの肩を叩く。

 

「テンはやらないのか?」

「君の試運転の邪魔もするのも何だしね。それに彼のデビュー戦にちょっかい出すのも忍びない。今回はサポートに徹しさせてもらうよ。という訳で気楽にいってくれ」

 

 テンはそう言って二人から離れていく。

 

「そういうことなら」

 

 ライドプレイヤーたちは、ライドウェポンを取り出すと振り翳しながらポッピーに向かって走り出す。

 ライドウェポンの間合いまで接近すると二人は躊躇無くそれを振り下ろした。

 

「え?」

 

 ライドプレイヤーの一人が呆けた声を出す。彼の想像では振り下ろしたライドウェポンの刃はポッピーを斬りつけている筈であった。しかし、目の前で実際に起こっているのはライドウェポンの刃を素手で掴み取っているポッピーの姿である。

 ライドプレイヤーの、それも素人同然の斬撃などポッピーに届く筈もない。文字通りレベルが違う。

 ライドウェポンを掴まれた二人は、取り戻そうと全力で引くがびくともしない。

 

「えい!」

 

 軽い掛け声と共に手を捻る。咄嗟に反応出来なかった二人は、ライドウェポンごと回転し、背中から地面に落ちてしまう。手に持っていたライドウェポンもポッピーにもぎ取られ、遠くへ投げ捨てられてしまった。

 

「いでっ!」

「あがっ!」

 

 受け身も取れず無様に着地する二人。それを見てテンは他人事の様に笑っていた。

 

「あははははは! カッコ悪いな! 凄くカッコ悪い!」

「うっせぇ!」

 

 一人が悪態を吐きながら立ち上がるとポッピーに殴り掛かる。撫でる様な動作で拳を軽々と弾くポッピー。続け様に殴るがどれも軽々と捌かれてしまう。

 

「くそ! くそ! なんだそりゃあ!」

「もう止めて! 大人しく変身を解いてCRに来て!」

 

 熱くなるライドプレイヤーとは反対にポッピーは相手のことを気遣い、冷静に対処する。彼女にとって彼らは敵では無くゲーム病に冒された患者であった。だが、そんな気遣いも彼らには舐めた態度にしか映らない。

 もう一人のライドプレイヤーも立ち上がり、戦いに加わる。二対一となり手数も増えるが、その全てをポッピーは受けるか躱すかして直撃を避けていた。

 まるで大人と子供の喧嘩の様な実力差。本気で攻めているライドプレイヤーに対し、傷付けないようポッピーは守備と説得しかしない。

 絶えず振り続ける拳も次第に振りが鈍くなり、体が思う様に動かなくなっていく。

 二人のライドプレイヤーは肩で息をする程疲れ始めていた。

 

「たあっ!」

 

 疲労する二人の隙を狙い、ポッピーは二人の胸部を強く押す。ただそれだけのことで二人の体は後ろから引っ張られたかの様に飛んで行き、背中から地面に着地。アスファルトを削りながらテンの足元で止まった。

 

「一方的だなぁ。ははははは」

 

 他人事の様に呑気な感想を漏らすテン。この状況においても一切動揺も焦りも見せない。その態度にポッピーは不気味さを覚える。

 

「笑ってんなよ! どうすんだよ! 滅茶苦茶強いぞ! あのナース!」

「まあ、きっとレベルが違うんだろうねぇ。君らがレベル1か2ぐらいだとしたら、向こうはレベル50ぐらいあるんじゃないかな?」

「反則だろ、それ……どうやっても勝てないじゃん。嫌だぜ、俺。初バトルが黒星スタートなんて」

「何言ってんだよ。反則は――」

 

 テンが仰向けになっているライドプレイヤーの一人の上に握った手を突き出す。

 

「――これからするんだから」

 

 開かれる手。その指の間には三枚のコインが挟まれており、力瘤を作るキャラクターが描かれていた。

 それを見たポッピーは、思わず叫ぶ。

 

「エナジーアイテム!」

 

 現在ゲームエリア内で入手することが出来ないエナジーアイテムを持っていることに驚きを隠せない。

 

「どうやってそれを手に入れたの!?」

「手に入れた訳じゃないよ。『創った』んだよ。お姉さん」

 

 テンの指からエナジーアイテムが落とされる。落ちていく最中に少し大きめの硬貨サイズだったのが、人の顔が隠れる程の大きさになり倒れているライドプレイヤーの体の中に吸い込まれる。

 

『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』

 

 何処からともなく鳴り響く声。エナジーアイテムを吸収したライドプレイヤーの上半身は倍以上の厚さに膨れ上がり、無機質な見た目が筋骨隆々とした姿になる。

 

「おおっ!」

 

 自分の体の変化に驚きながらライドプレイヤーを地面に手を着きながら立ち上がろうとする。すると手を置いた箇所を中心にコンクリートに亀裂が生じる。驚き手を離すとそこにはくっきりと手形が残っていた。

 

「おおおー!」

 

 体を起こすという単純な動作でここまでの破壊を生み出したことにライドプレイヤーは更なる感嘆の声を上げた。

 

「何かずるくねぇ? 俺にもそういうの無いの?」

 

 片方がパワーアップを施されたことに不満を漏らすもう一人ライドプレイヤー。

 

「言ったでしょ? そっちは特別仕様だって。そっちのには『内蔵』してあるから」

「内蔵?」

 

 テンの言葉に首を傾げ、暫しの間その場所から動かなかった。

 

『高速化!』『高速化!』『高速化!』

 

 突如としてそのライドプレイヤーの姿が声を残して消える。次の瞬間にはポッピーの背後に立っていた。その手に奪われた筈のライドウェポンを持って。

 

「成程。こりゃいい」

 

 感心しながらポッピーの背を斬りつける。ライドプレイヤーの動きについていけなったポッピーは無防備な背から火花を散らす。

 

「きゃあ!」

 

 不意打ちに悲鳴を上げながら前のめりに倒れていくが、地面に倒れ伏す前にその肩を掴まれた。顔を上げれば上半身を膨張させたライドプレイヤーがポッピーを無理矢理立たせている。

 

「お返し」

「きゃあああ!!」

 

 静かな言葉とは裏腹に強烈な右ストレートがポッピーの胸部に炸裂する。エナジーアイテムで何倍にも増幅された一撃に耐え切れず、ポッピーは変身を解除しながら地面を転がっていった。

 

「うう……」

 

 胸を押さえながら仰向けに倒れる明日那。そんな彼女にテンが近付き、その手を伸ばす。

 思わず目を瞑る。しかし、痛みも衝撃も無い。代わりに腹部にあった重みが消えた。

 目を開けるとテンの手にガシャコンバグヴァイザーⅡが握られており、それを興味深そうに眺めながら挿してあったライダーガシャットを引き抜いた。

 

「ふーん。こうなってんだー。物騒な造りしてるんだねー。で、ときめきクライシスかー。結構好きなゲームだよ。全キャラ攻略したし」

「俺はやってねー。恋愛ゲームは趣味じゃない」

「俺はやった。女キャラよりもデブナルシストの脇役のキャラが濃すぎる。まあ、それが良かったけど」

 

 口々に感想を言いながらこの場を去ろうとする。

 

「ま、待って!」

 

 明日那が呼び止めるが、彼らの足は止まらない。

 永夢のガシャコンブレイカーを取り返そうとしたが逆に自分の物が奪われた不甲斐無い結果に涙が出そうになる。

 

「彼女に何をした?」

 

 その声に去ろうとしていたテンたちの足が止まる。新たに現れた声。だが、明日那はその声の人物を良く知っていた。

 

「黎斗!」

 

 現れた人物の名を思わず叫んでしまう明日那。

 

「黎斗?」

 

 明日那の呼んだ名に聞き覚えがあるのか、テンは振り返り現れた人物を注視した。

 その人物――檀黎斗の腰にはゲーマドライバーが装着されており、その手には漆黒の外装をしたガシャットが握られている。

 皆の視線が集まる中で黎斗はガシャットを起動させた。

 

『マイティアクションX!』

 

 起動させたガシャットを薬指に引っ掛け重力に任せて垂れ下げる。

 

「グレード0――変身!」

 

 ガシャットをゲーマドライバーに挿し込み、中央にあるレバーを開く。

 

『ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ!』

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティーアクショーンエーックス!』

 

 黎斗の周囲を回転する複数のパネル。その中の一枚に向かって左手を突き出す。等身大のキャラクターが描かれた光る壁が現れ、それが黎斗を通過する。壁を通り抜けた後の黎斗は人の姿をしていなかった。

 天を突く様に鋭く尖った黒いヘアパーツ。白を中心とし黒と赤が渦巻く様な双眼。黒を主とした体に紫のショルダーパーツ。

 テンが対峙したエグゼイドとは異なる配色をした仮面ライダー。

 

「返答しだいでは君たちにはゲームオーバーになってもらう」

 

 漆黒を外と内に持つ者、仮面ライダーゲンムは敵対する者たちに殺意を込めた宣言をした。

 

 




今年最後の投稿になります。
敵は何となく察したかと思われますが、違法DLと違法改造をモチーフにした敵にしています。
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