仮面ライダーゲンム~Vengeance is mine~   作:K/K

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久し振りの投稿となります。


Stage 3

「おお!」

 

 鋭く尖ったくの字が連なったヘッドパーツ。

 

「おお?」

 

 黒のボディースーツに流れる様に走る銀のライン。

 

「……おお」

 

 ライドプレイヤーのリーダー格であるテンが戦ったエグゼイドとは対照的に暗い色を主とした仮面ライダー。

 その名もゲンム

 

「……」

 

 檀黎斗が変身し、その後の姿を見せるまで興奮した様子を見せたテンであったが、何故か変身後の姿を見ると消沈したかの様に黙ってしまう。

 

「何だ? その反応は?」

 

 相手の露骨な態度が気になったのか思わず問う。

 

「いや、何ていうかさ……レアキャラと会えたー! って思ったらさ、ただの色違いだったからさー」

「何だと……?」

 

 明らかに失望した態度。それに反応し、ゲンムの言葉に熱が込められ始める。

 

「いっぱいゲームキャラクターを創るのは大変だと思うよ? でもさー折角のレアキャラが手抜きだと、ゲームしている側としては残念というか悲しいというか……せめてあのエグゼイドとかいうキャラと明確な違いがあったらー」

「勘違いをするなぁぁぁぁ! ゲンムはエグゼイドよりも先に生み出されたライダーだっ! ゲンムこそがオリジナルでありエグゼイドの方が二番煎じだ!」

「本当?」

 

 只の色違い扱いされたことに激昂するゲンム。それを疑う様に小生意気な態度で真偽を疑うテン。

 するとゲンムはゲーマドライバーに挿してあるライダーガシャットを引き抜き、テンたちに見せつける。

 

「このガシャットこそ私が最初に作ったα版であり、プロトタイプのゲームガシャットだ!」

 

 黒のガシャットにモノクロのキャラクターが描かれている。

 

「プロトタイプ! いいねー。そういう響きは大好きだ――ところで」

 

 子供の様に一瞬はしゃいだ後、急に大人しくなる。ゲンムはその反応で怒りが冷めたのか、見せつけたライダーガシャットをドライバーに挿し戻す。

 

「そこのお姉さんが、貴方のことを黎斗って呼んだけど。もしかして貴方の名前は檀黎斗で合ってる?」

 

 期待が込められた質問にゲンムは一笑する。

 

「違うな」

「え! そうなんだ……」

 

 否定され肩を落とす。ライドプレイヤーの姿でもがっかりした様子が分かる。しかし、次の言葉でそれも一変する。

 

「私の名は新・檀黎斗だっ!」

『……』

 

 ゲンムの名乗りにテンを含むライドプレイヤーたちは沈黙した後、ひそひそと小声で話し始めた。

 

「え? 急に何言ってんのあの人?」

「なあなあ。会って少ししか経ってないけど、絶対あの人頭が変な人だよ。何か俺、関わりたくねぇよ」

「雑誌のインタビュー記事では普通の大人って感じだったんだけどねー。結構ユーモラスな人だね」

 

 黎斗に対する第一印象をそれぞれ口に出す。

 

「……まあいいや。この際、檀黎斗でも新檀黎斗でも。俺、貴方が創るゲームのファンなんですよ」

「ほう?」

 

 自らファンを名乗るテンに、ゲンムは少しだけ関心を持つ。

 

「ゲンムコーポレーションが出したゲームは全部やったしクリアもしました。当然全部やり込みましたよ」

「感心だな」

 

 如何にファンであるかをアピールする。

 

「だから、一ファンとして当然ゲームクリアをしたいんですよね。仮面ライダークロニクルも」

 

 テンが手を振ると、それに従い二人のライドプレイヤーが構えた。

 

「レアキャラの貴方を倒せば新しい武器も手に入るみたいですし、これとこれみたいに貰いますね?」

 

 バグヴァイザーⅡやガシャコンブレイカーを見せつける。

 

「ゲームマスターである私に勝てると思っているのか?」

「それはやってみなければ分かりません。――じゃあ、行こうか」

 

 それを合図にし、ライドプレイヤー二人が走り出す。

 ライドプレイヤーの一人が拳を大きく振り上げ、ゲンムの顔目掛け横から振るう。

 ゲンムは身を低くしてそれを躱しつつ前進し、ライドプレイヤーの胴体に素早く左右の拳を当てる。計五発のパンチを受け、ライドプレイヤーは大きく後退した。

 ゲンムが攻撃を繰り出している内にもう一人のライドプレイヤーが背後へと回り、拾い上げたライドウェポンで斬り付ける。

 

『ガシャコンブレイカー!』

『ジャ・キィーン!』

 

 しかし、ゲンムはそれを出現させたガシャコンブレイカー・ブレードモードの刃で難なく受け止める。

 鍔迫り合いをする両者。だが、ライドプレイヤーは両手で、ゲンムは片手で武器を握られた状態であり、二人の力の差が現れている。

 

「はっ!」

 

 ガシャコンブレイカーを切り上げると、ライドプレイヤーは力負けをし両手を天に向ける姿となる。

 無防備となった腹部に、ガシャコンブレイカーを一閃させるゲンム。

 

『鋼鉄化!』

 

 刃が届く前に音声が鳴ると同時にライドプレイヤーの体が一瞬銀色の光に包まれた。その直後に横薙ぎの一撃がライドプレイヤーの腹部を直撃する。

 甲高い金属音が鳴り、火花が飛び散る。しかし、ライドプレイヤーの腹部は傷一つ負っていなかった。

 

「黎斗! 気を付けて! その子たち、どういう訳か使えない筈のエナジーアイテムが使えるの!」

 

 明日那が黎斗に声を飛ばす。テンと呼ばれたライドプレイヤーはエナジーアイテムを生み出し、別のライドプレイヤーはエナジーアイテムの効果だけ使用することが出来る。それは今までに無い能力の相手であった。

 ゲンムはそんな明日那の忠告を聞いたか聞いていないか分からないが、ガシャコンブレイカーのブレードを折り畳みハンマーモードにすると、ライドプレイヤーに向かって振りながら素早くBボタンを連打する。

 ガシャコンブレイカーがライドプレイヤーの胸部を叩く。すると浮かび上がる『HIT』の文字。それも一回だけでなく立て続けに数回浮かび上がり、その文字が浮かぶ度にライドプレイヤーの体は衝撃で跳ねる。

 

「うがっ!」

 

 数回の打撃をまとめて受けたことで、防御を高めていたライドプレイヤーも苦しそうな声を上げながら受けた打撃の回数分後退していく。

 二人のライドプレイヤーたちと一定の距離が開いたこの時を狙い、ゲーマドライバーに挿していたライダーガシャットを抜き、ベルト側面にあるキメワザスロットホルダーに挿し込み、すぐ側のスイッチを押す。

 

『ガシャット!』

『キメワザ!』

 

 ゲンムが今から何をしようとしているのかが分かり、明日那は叫んだ。

 

「ダメっ! 黎斗っ!」

 

 その必死の声も無視し、ゲンムは跳び上がる。

 

『マイティクリティカルストライク!』

 

 ゲンムの両足が発光する。黒と紫の入り混じった光を纏わせゲンムは空中で右足を突き出す格好をとる。

 狙う先には先程ガシャコンブレイカーを叩き付けたライドプレイヤー。受けた箇所を押さえてまだ苦しんでいる。

 

「避けろっ!」

 

 味方のライドプレイヤーが叫んだとき、彼はそこでゲンムに狙われていることに気付くが時既に遅し。

 ゲンムの右足が彼の胸元に炸裂。纏ったエネルギーを一気に流し込まれた。

 

「ぐあああああああ!」

 

 だがゲンムはそこで止まらない。続いて左足でライドプレイヤーを蹴り付け、その反動でもう一人のライドプレイヤーに目掛け跳ぶ。

 

「え?」

 

 後転しながら迫るゲンム。その動きにライドプレイヤーは咄嗟に反応出来ず、頭上から打ち下ろされるゲンムの右足を脳天に受け、地面に向かって叩き付けられた。

 

「あうっ!」

『会心の一発っ!』

 

 響き渡る音声と共にライドプレイヤーたちの変身は解除される。その姿を見て明日那は表情を蒼褪めさせた。

 仮面ライダークロニクルで負けるということは、その存在の消滅つまり死に等しい。目の前でこれから消え行くであろう少年たちの命。そして、それを躊躇無く奪った黎斗に呆然とするしかなかった。

 

『ゲームオーバー』

 

 ダメ押しの様に絶望的な一言が添えられ、少年たちはこれから消えていく。

 ――かに思われた。

 パキン、という乾いた音が鳴る。

 明日那が反射的にその音の方へと目を向けると、そこには砕けて壊れたライダークロニクルガシャットが白煙を上げて散らばっていた。

 今まで見たことの無い現象。更には――

 

「う、うぐぐ……いってぇー」

「人に本気で蹴られたの、初めてかもしれない……」

 

 蹴られた箇所を押さえながら、少年たちがヨロヨロと立ち上がる。消滅する所か喋る余裕さえあった。

 

「え? え? どういうこと? 何で無事なの!? もうピプペポパニックだよー!」

 

 事態が呑み込めず明日那姿でポッピーの口調で混乱する。それほどまでに目の前の光景は理解不能なものであった。

 

「やはり……」

 

 黎斗だけはこの事態に落ち着いた様子を見せる。彼には何が起きたのか理解してい態度であったが、心なしかその声に怒気が含まれている様に聞こえる。

 

「貴様ら……!」

 

 今度は分かり易い程の怒りや怨嗟、殺気をテンや少年たちに向ける。

 

「もしやと思っていたが、よくも私のゲームで! それも仮面ライダークロニクルで汚らわしい真似をしてくれたなぁ!」

 

 キメワザスロットホルダーから抜いたライダーガシャットを、今度はガシャコンブレイカーに挿し込み、刃を展開させる。

 マイティクリティカルストライクを放ったときと同じ光を刀身に纏わせ、テンに向かって斬りかかる。

 

「怖いなぁー」

 

 余裕の態度を崩さないまま、テンは体に巻き付けてあるクロニクルガシャットを起動させた。

 

『仮面ライダークロニクル』

 

 音声が鳴る同時にゲンムはテンの胴体を斬り付けた。しかし――

 

『MISS』

 

 直撃かと思われた必殺の斬撃は浮かび上がったエフェクトの通り、テンに対し一切のダメージを与えられなかった。

 手応えの無さに舌打ちをするゲンム。するとテンは飛び下がりながらゲンムに向け、数枚のコインを投げつける。

 反射的に切り払おうとするゲンム。だが、刃がそのコインに触れる前に空中で停止し、巨大化する。

 

『発光!』

 

 視界を焼く強烈な閃光を目の前で放たれた。離れて見ていた明日那ですらその光に目を瞑ってしまう。間近でそれを見たゲンムの目は一時的に見えなくなってしまう。

 

「があっ! 目がぁ! 貴様ぁぁぁ!」

 

 闇雲にガシャコンブレイカーを振り回す。テンには当たらず、ビルの壁やコンクリートの地面を斬り付けるだけであった。

 

「じゃあ、これ貰っていくね」

 

 それだけ言い残すと離れていく足音。

 少し経ってようやく視力が回復したゲンムは辺りを見回す。テンの姿も倒れていた少年たちの姿は無く、更にライダーガシャットごとバグヴァイザーⅡも持ち去られていた。

 

「返せぇぇぇぇぇ! 私のガシャットとバグヴァイザーを!」

 

 怒りが頂点に達したゲンムは、空に向け怨念染みた咆哮を上げるのであった。

 

 

 ◇

 

 

「それでガシャットとバグヴァイザーを盗られちゃったの?」

「ごめーん!」

 

 CRに戻り何があったのか事情を説明する明日那ことポッピーは、永夢の言葉に泣きそうな表情で謝罪する。

 

「永夢のガシャコンブレイカーを取り返したかったのにー!」

 

 自分の無力さを嘆くポッピーに永夢は慰め様に肩に手を置いた。

 

「ありがとう。でも、ポッピーが怪我をせずに戻ってきてくれた良かった」

「永夢ぅー!」

「しかし、ゲームオーバーをしても消滅しないライドプレイヤーとは……今までに無かったケースだな」

 

 飛彩は特異な事態に眉根を潜める。変身中のライダーがライダーゲージ即ち体力がゼロになりゲームオーバーとなったとき、その体は消滅する。絶対に等しいルールであったが、それを捻じ曲げる事態は彼らにとって予想外であった。

 

「そのことなら、今黎斗が調べてるよ」

 

 ポッピーの視線が自分の家であるドレミファビートの筐体に向けられる。画面にはドレミファビートの待機画面――ではなく、画面越しからでも分かる程の鬼気を放つ黎斗が憤怒の表情をしながら滅茶苦茶な勢いでキーボードを叩いていた。

 下手に声を掛ければ凄まじい勢いで噛み付いてくるのが目に見えているので、作業が終わるまで静観することにした。

 と一同思っていると――

 

「あ! いた!」

 

 CRの扉が開きニコが現れ、筐体に映る黎斗を指差す。

 

「アタシのガシャット返せ!」

 

 筐体に近付き、画面をガンガンと叩き始めた。

 

「ちょっとニコちゃん! 止めて! そこは私の家でもあるの!」

「放してポッピー! こいつ嫌だって言ったのにガシャットを無理矢理持っていったの!」

 

 ポッピーに羽交い締めにされても構わず筐体の画面を叩き続けるニコ。

 

「ニコちゃんのクロニクルガシャットを?」

「そう! ひったくって姿を消したの!」

「ちょっと黎斗!」

 

 聞き捨てならずポッピーも画面の向こうにいる黎斗に呼び掛ける。

 すると、キーボードを打つのを止め筐体から黎斗が飛び出してきた。その手に筐体内で使用していたノートパソコンを持って。

 

「うるさいぞ。私に何か用かね?」

「アタシのガシャットを返せ!」

「ほら」

「え! ――うん」

 

 抵抗されるかと思いきやあっさりとガシャットを差し出され、面食らった様子でニコはガシャットを受け取った。

 

「何か分かったんですか?」

「当然だ。私にとっては容易いこと」

 

 いつもならばそこで高笑いの一つでもする筈だが、今の黎斗は苦虫を嚙み潰したような表情をしており、非常に不愉快そうであった。

 その表情のまま黎斗は椅子に座り、ノートパソコンを操作し出す。

 

「先程の戦いで彼らが使用していたガシャットを回収した。殆ど壊れていたが、何とかデータを抜き出すことが出来た。それがこれだ」

 

 黎斗は破損したガシャットを、ガシャット用の機械に挿し込む。そして、皆に見える様にパソコンの画面を見せる。しかし、映っているのはプログラムの羅列であり知識が無い者が見ても全く分からない。

 そこでポッピーがあることに気付く。

 

「あれ? もしかしてこれ、バグスターウイルスに感染して無い?」

 

 同じバグスターだからこそ感覚で分かる。クロニクルガシャットで変身した者は必ずゲーム病に感染する。つまりクロニクルガシャット内に発症させる為のバグスターウイルスにガシャットが汚染されている筈なのだが、そんな形跡が一切無い。

 

「その通りだ」

 

 ポッピーの指摘を黎斗が肯定する。

 

「バグスターウイルスが居ないクロニクルガシャットだなんて……一体何故なんですか? 黎斗さん」

 

 すると黎斗の表情がより一層険しいものとなる。口に出すことすら汚らわしいと言わんばかりに。

 

「このガシャットは通常のガシャットとは違う。……これはコピーされた不正なガシャットだっ!」

 

 湧き出す怒りにじっとしていられないのか、机を叩き付けながら立ち上がり黎斗が吼える。

 

「コピーされたガシャットって……え! それってクロニクルガシャットのプロテクトが破られたってことですか!?」

 

 通常、データを守る為にゲームにコピープロテクトというプログラムが施されている。これによって外部からの解析を不正・違法コピーから守るのだが、黎斗の言葉を信じればそのプロテクトが無効化されたという。

 ポッピーや飛彩はいまいちピンときていない様子であったが、永夢と同等にゲームに詳しいニコも永夢と同じく驚いた表情をしている。

 そこらで売られているゲームのプロテクトが破られたのならこんなには驚かない。ゲンムコーポレーションから発売されたゲームのプロテクトが破られたことに驚愕しているのだ。

 ゲンムコーポレーションは様々なゲームを発売しどれも大ヒットさせてきたが、それに加えて不正・違法行為に対しての対策が他のゲーム会社より頭一つ以上抜けていると評されるほど強固且つ絶対的なものであった。

 ゲンムコーポレーションから発売されたゲームがネットなどで違法に配布されたことなど今まで一度も無く、ゲンムコーポレーションゲームデータは不可侵の領域とまで呼ばれていた。

 

「永夢やポッピーが苦戦したのもこれで納得出来た。彼らのガシャットは不正な改造が施されている!」

 

 攻撃が急に当たらなくなる。逆に外れた筈の攻撃が当たる。使用出来ない筈のエナジーアイテムを生み出したり、エナジーアイテムを使用せずにその効果を得るなどの通常ならば有り得ない現象。だが、中のデータを解析出来ていればそれも可能になる。

 

「おのれぇ……! 私のゲームをチートコードで穢す様な真似を……!」

「でも、それが出来るってことはこのガシャットを人に挙げてたテンって人、かなりの知識を持っているってことだよね?」

 

 いくらプロテクトが甘かろうとそれを破る知識。データを解析出来ようともそれに手を加える技術が無ければ意味が無い。そうなるとあのテンと呼ばれたライドプレイヤーは、黎斗に迫るプログラマーなのかもしれない。

 

「じゃあ、どうしてあの子たちはゲームオーバーになってもデータ化しなかったの?」

「簡単なことだ。このコピーされたクロニクルガシャットは不完全なんだ」

 

 パソコンのキーを叩く。表示された二種類のプログラムコード。よく見ると片方には幾つか欠損している箇所があった。

 

「見たまえ。ゲームオーバーする際、装着者をデータ化するプログラムが入力されていない。このせいで蓄積されたダメージがプレイヤーではなく全てガシャットに向けられる様だ。このクロニクルガシャットのように」

「つまり、クロニクルガシャットが二度と使えない代わりに身代わりになってくれるという訳ですか」

「皮肉だな。正規品よりも模造品の方の安全性が高いとは……」

「私はこんな中途半端なガシャットなど決して認めないっ! 私が目指した仮面ライダークロニクルはこんな子供騙しでは無い!」

 

 使用すれば命に関わるゲームを肯定し、命を奪わないゲームを否定する黎斗に不快感を覚える永夢たちだが、どんなに話し合ってもこの話題に関しては平行線を辿るしかないことが分かっていたので、話を進めることを優先した。

 

「それで、どうしてこんなことに?」

 

 その瞬間、黎斗は机を激しく叩く。

 

「パラドたちのせいだっ!」

「パラドたちの?」

「彼女のクロニクルガシャットを分析して分かった。このガシャットのプロテクトは私が想定していたよりも三十パーセントも守りが甘いっ! これではデータを盗み放題だ!」

 

 歯ぎしりをし、全身から憤怒を溢れさせる。

 

「あのバグスターどもめぇ……ゲームマスターの私を差し置いて仮面ライダークロニクルを奪っただけに飽き足らず、こんな杜撰な管理までしていたとは……!」

 

 黎斗はバグスターになる前にバグスターであるパラドによって消滅させられていた。その後バグスターたちによってゲンムコーポレーションから仮面ライダークロニクルが発売される。その二つに対して黎斗はいまだに強い恨みを持っているが、今回の件でその怨恨は更に深まる。

 

「それだった今のゲンムコーポレーションの社長がどうにかしてくれるんじゃ……」

 

 今、ゲンムコーポレーションはバグスターたちの手から離れある男の支配下にある。より正確に元に戻った、と言うべきだが。

 

「確かに利益を重視するあの男ならばすぐに手を打つだろう。だが! 今のゲンムコーポレーションでは完璧なプロテクトを施すのは無理だ。何故ならこの神の才能を持つ私が居ないのだからなぁ!」

「じゃあ、黎斗さんがプロテクトを作れば……」

「そんなものは既に組んである!」

 

 パソコンのキーを叩くと、画面にプログラムコードの羅列が並ぶ。その仕事の早さは神と自称するだけのことはあった。

 

「それならこれを!」

「どうする? あの男に渡すのか? 素直に受け取ると思うのか?」

 

 その指摘に閉口してしまう。黎斗の言う様に相手の性格を考えると、このプログラムを素直に受け取るとは考えにくい。何か仕込んでいないかと勘繰られる可能性があった。

 

「まあ、プログラムが出来ていることをちらつかせるだけでもいいかもしれないな。時間は掛かるが、我慢出来ずに向こうがこちらに擦り寄ってくるだろう。ゲーム会社にとって不正コピーなど癌に等しいからな!」

 

 恨みを吐き捨てる。未だに黎斗の怒りは収まらない。

 

「ついでに改造コードを打ち消すコードも作っておく! 暫く私の邪魔はしないでくれ!」

 

 黎斗はパソコンを持つと筐体の中へ戻っていった。

 

「……それで、これからどうする? 研修医」

「どうするって……どうしましょう?」

 

 これまでの様なバグスターとは違い、コピーガシャットを使用する者たちの詳細は殆ど知らない。どれだけの規模、数など不明。唯一分かっていることはコピーガシャットをばら撒いているのがテンと呼ばれているだけである。

 ガシャコンブレイカーだけでなく、バグヴァイザーⅡとときめきクライシスのライダーガシャットも奪われた。この三つは玩具に出来るものでは無い。特にバグヴァイザーⅡなど一般人が使用すれば致死量のバグスターウイルスに感染し死亡してしまう危険がある。

 命に携わる者たちとして一刻も早く彼らから取り戻さなければならない。

 しかし、肝心の手段が見つからなかった。

 

「黎斗ー! 何かいい方法は無い?」

 

 筐体に向かってポッピーが呼び掛ける。こういった医療外の分野では黎斗の力を借りるしかない。が、筐体からの返事は無い。

 

「くーろーとーっ!」

 

 声量を先程の倍にしてもう一度呼び掛ける。

 

「静かにしてくれっ! 私のクリエイティブな時間を邪魔するなっ! そっちはそっちで対策しておく! 大人しく待っていろ!」

 

 筐体から頭だけ出し、ポッピー以上の大声で怒鳴る。裏返った怒声にCRの面々はうるさそうに顔を顰め、ニコなど耳を押さえて露骨な態度をしていた。

 怒鳴るだけ怒鳴って黎斗は筐体の中に戻っていく。

 

「……とりあえず僕らで出来るだけのことはしましょう」

「そうだな」

 

 効率的な策は黎斗に任せ、永夢たちは地道な聞き込みから情報を探す方針となった。

 

 

 ◇

 

 

 病院内では老若男女問わず多くの人たちが出入りする。

 

「ちょっといいかな?」

 

 永夢は十代前半の子供を呼び止めた。

 

「何?」

「実は――」

 

 コピークロニクルガシャットのことはなるべく詳細には語らず、最近身近にゲームガシャットを売る、もしくは配っている様な怪しい人物の噂は無いか質問する。コピークロニクルガシャットのことを敢えて隠しておくのは、何も知らない子供が逆に興味を持たない様にする為の配慮である。

 

「ごめんなさい。知らないです」

 

 その子供は心当たりが無いと首を横に振った。

 

「答えてくれてありがとう。呼び止めてごめんね」

 

 礼を言い、手を振りながら去って行く少年を見送る。

 

「すみませーん」

 

 後ろから声を掛けられ、永夢は振り返る。そこには見送った子と同じ年頃の少年が居た。

 

「宝生永夢先生って知ってますかー?」

「え? 宝生永夢は僕ですけど……」

「ああ! いきなり当たりだ! 丁度良かった!」

 

 少年は笑うが、その笑みは無邪気というにはどこか黒いものが含まれていると永夢は感じた。

 

「実は、CRに案内してほしいんですけど」

「CRに? どうして?」

「テンからのメッセージを届けに」

 

 少年の言葉に、暫しの間永夢は硬直した。手掛かりどころか、向こうの方から現れたことに思考が一瞬追い付かなった。

「メ、メッセージって!」

「それはCRに案内してくれたら教えますよー」

「だったら僕が皆に――」

「テンからは、CRの先生方に直接伝えたいって言われているですよねー。だから連れていって下さい」

「……もし、断るって言ったら?」

「このまま帰るだけです」

 

 永夢は強い意志を込めた目で少年を凝視する。普段は温厚な青年から放たれる鋭さと冷たさが伴った眼光。しかし、少年が怯む様子は無い。優位な立場という精神的余裕があるせいか、あるいは並みの神経を持ち主ではないのか。

 見る永夢とそれを受け止める少年。静かな根比べが病院の隅で行われていた。

 やがて、永夢は眉間に皺を寄せ、苦渋の選択だと言わんばかりの表情となると、少年から視線を離す。

 

「……こっちだよ」

「ありがとう。永夢先生」

 

 礼を言う少年の声だけは、本当に無邪気なものであり、この少年がPKと関係しているのかと思うと、永夢を複雑な気持ちにさせた。

 

 

 ◇

 

 

「……研修医。ここは部外者以外立ち入り禁止だぞ?」

 

 少年を連れてきた永夢を見て、飛彩は静かな怒りを飛ばす。

 

「すみません。彼は――」

「もしかして、その先生もレアキャラ?」

 

 会って早々、少年は飛彩を見て、永夢に質問する。

 

「それは……」

 

 正直に答えず口ごもるが、その反応が答えを言っている様なものであった。

 

「研修医!」

 

 更に強い言葉を飛ばし、連れて来た理由を催促する。

 

「この子が、テンという人のメッセージを届けに来たんです」

「何だと?」

 

 飛彩は、疑う様な鋭い眼差しを少年に向けるが、その眼力に、少年は恐れもせず薄ら笑いを浮かべていた。

 

「教えて! テンって人は私たちに何を伝えたいの!」

「ちょっと待って。えーと」

 

 少年がズボンのポケットに手を入れ、中から年季の入った折り畳み式の古い携帯電話を取り出す。そして、携帯電話を操作しある番号に繋げる。

 

「もしもし? うん。僕。うん。ちゃんと入れてくれたよ。人数? 三人。――いや、居ないよ。代わりに別のレアキャラっぽい人はいる」

 

 電話の向こうの人物と会話した後、永夢たちにその携帯電話を差し出した。

 

「代わってくれって。誰が出る?」

 

 差し出された携帯電話を永夢が受け取る。

 

「――もしもし」

『あー。その声はあのときのお医者さん?』

 

 電話越しから聞こえる声。それはあのとき戦ったライドプレイヤーの声。即ち、テンという人物のものであった。

 

「貴方がテンですね?」

『その呼び方ってあんまり好きじゃないんだよね。体にクロニクルガシャット十個付けていたから、っていう単純な理由だから。でも、フランス語とかドイツ語読みだとちょっと痛々しいよね? 先生はどっちがカッコイイと思う? お医者さんだからドイツ語?』

 

 いきなり話を脱線させてくるテンに、永夢は少し怒りを混ぜた口調で話を元に戻す。

 

「ふざけないで下さい! 不正にコピーしたガシャットを配って、貴方は一体何が目的なんですか!」

『ああ、もうばれてたか。流石はゲンムの元社長』

 

 一人ケラケラ笑うテン。人の神経を逆撫でする笑い声であった。

 

「質問に答えて下さい!」

『そりゃあ、ゲームをする為に決まっているでしょ?』

「ゲームを?」

『衛生省が仮面ライダークロニクルについて注意したから、プレイヤー人口は減った。表向きはね。それでもやっぱり裏じゃプレイヤーは結構居るんだよ。それにクロニクルガシャットが欲しい人も。消えた人を助けたい、とか純粋に刺激が欲しいとか。だからそういった人たちの為に提供しているのさ』

 

 あっさりと目的を語るテン。その内容に永夢は言葉を失う。

 

『今も先生たちのおかげで盛り上がりそうなんだ。貰ったこの武器やガシャットを賞品にして、ちょっと大きめの遊びを、ね』

 

 自分たちの物が、プレイヤーを釣る為の餌にされることに永夢は強い怒りを覚える。

 

「そんなこと絶対にさせない! 阻止してみせる!」

『無理だね。絶対に無理』

「そんなことは無い!」

『無理だよ。もう始まっちゃているから』

 

 その言葉に永夢は絶句した。

 

『中断させたいならどうぞご自由に。場所は教えるよ。場所はね――』

 

 開催場所を躊躇なく教えてくるテン。その思考は永夢には測れなかった。

 

「どうして……」

『先生たちが来たらもっと盛り上がると思ったから。じゃあね。待ってるよ』

「待っ」

 

 通話は切られ、向こう側からは沈黙しか流れて来なくなる。

 

「終わった? じゃあ、僕はこれで」

 

 連絡が終わったのを見て、少年は立ち去ろうとする。

 

「待て」

 

 その前に飛彩が立ち塞がった。

 

「このまま黙って帰すと思ったか?」

「黙って帰した方が良いと思うよ?」

「何?」

「病院に居たのが、本当に僕一人だけって思い込んでない?」

「なっ」

「このまま僕が戻られなかったら。どうなるかなー? 先生はどうなると思う?」

 

 少年の言葉が、はったりか本当かは調べる術が無い。だが、患者たちに危害が及ぶ可能性が一パーセントでも有るのなら、それを無視することなど出来なかった。

 苦渋に満ちた表情のまま、飛彩は少年に道を譲る。

 

「いい人だね、先生は。……うちの両親も見習って欲しいぐらいだ」

 

 引っ掛かる言葉を残して少年はCRから去っていった。

 

「僕たちも急がないと!」

「待て、研修医。一体どんな内容だったんだ?」

 

 通話内容は永夢しか聞けていない。永夢は口早に聞かされた内容を飛彩たちに伝える。聞かされた飛彩とポッピーも、先程永夢と同じく絶句していた。

 

「早く止めないと!」

「場所は分かっているんだな? 研修医」

「はい! ……ポッピーはここで待ってて」

「う、うん……」

 

 変身出来ない自分が向かっても足手まといになることは分かっていたので、永夢の言葉に大人しく従う。同時に何も出来ない自分に対し不甲斐なさを強く感じていた。

 

「早く行くぞ、研修医」

「は、はい!」

 

 落ち込むポッピーにまだ声を掛けてあげたいと思っていた永夢だったが、飛彩に急かされ後ろ髪を引かれる思いで、CRを後にする。

 

「頑張ってね。二人とも……」

 

 二人の無事を祈るポッピー。するとドレミファビートの筐体から黎斗が飛び出して来た。

 

「ん? 彼らは何処に?」

「え? さっきの全く気付いていて無かったの!?」

「私の神聖且つクリエイティブな時間には、些末なことなど耳にも目にも入ってこないのでね」

 

 悪びれる様子もなく逆に誇らしげな表情をする黎斗に、ポッピーは溜息を吐きたくなるのを堪えて、何があったのかを説明した。

 説明を聞き終えた途端、誇らしげな表情が不快の感情で曇る。

 

「私の居ない間にそんなことがあったとは……」

「黎斗も永夢たちと一緒に戦って!」

「いいのかポッピー? ――私のゲームを不正にプレイしている輩などバグスター以上に容赦するつもりはない」

 

 言われてポッピーは思い出す。黎斗とあのライドプレイヤーたちが戦ったときのことを。不正プレイヤーだと知らない状態でも、黎斗は容赦なく相手をゲームオーバーにした。運良く消滅しなかったが。

 黎斗の倫理観は下手をすればバグスター以上に人から離れている。もし、仮に黎斗をライドプレイヤーたちの戦いに参戦させたら――

 そこまで考えてポッピーは頭を激しく振るう。これ以上考えても碌な想像にはならない。

 

「全く。あと少し待てば彼らに神の恵みを授けられたものを……」

 

 嘆息する黎斗の手には、ポッピーが見たことの無いガシャットが握られていた。

 

「まさか、それって!」

「対コピーガシャット用に創った新たなライダーガシャットだ」

 

 そのガシャットをポッピーに手渡す。

 ワインレッドの外装パーツのガシャット。だが、手にしたポッピーは一つの疑問を浮かべる。

 

「これって何のゲームなの? 何も貼られてないよ?」

 

 ライダーガシャットの外装パーツには、それがどんなゲームか一目で分かる様にゲームタイトルと登場キャラクターが描かれたシールが貼られている。しかし、このガシャットにはそれが無い。

 

「そのガシャットはゲームではない」

「え?」

「早くそれを永夢に届けてくれ。使えばすぐに分かる」

 

 これ以上説明する気は無いとポッピーに早く行くよう促す。

 納得し切れ無い様子のポッピーだが、黎斗が創り出す物には一定の信用があったこと、永夢たちが心配だったこともあり、それ以上言及せず現場に向かうことに決めた。

 

「私、永夢たちにこれを渡してくる! 黎斗はここで大人しくしていてね!」

 

 母親が子供に言うような台詞を残し、ポッピーは急いで永夢たちを追いかけていった。

 元より行く気の無かった黎斗は、ポッピーの去っていく姿を一瞥した後、再び創作活動に入ろうと筐体に向かう。

 

 チャチャチャーチャチャチャーチャーチャーチャーチャー。

 

 着信音。見ると机の上に古い機種の携帯電話が置かれていることに気付く。

 予感するものがあったのか、黎斗はその携帯電話を手にし、通話ボタンを押す。

 

『もしもしー。今出ているのは誰ですかー?』

 

 その声の主は黎斗も知っている。間違いなくテンである。

 

「貴様……」

『あ、その声! 檀黎斗さん?』

「新・檀黎斗だっ!」

『ああ、間違いなく社長さんだ』

 

 黎斗の反応に確信し、笑い声を上げる。

 

「何故もう一度掛けてきた? 永夢たちは既に君たちの下に向かったぞ」

『なーんとくっていうやつですかね? もし、もう一度電話をして貴方が出なかったら、そのまま向かおうと思っていたけど予定変更』

「何?」

『社長さん。僕と取引しない?』

「取引だと?」

『僕が奪ったあの武器二つと、ガシャットを返すよ。代わりに社長さんが持ってるレアなガシャットが在ったら交換しない?』

 

 テンの要求に、黎斗の表情が歪む。神と自負する自分に対等の取引を持ち掛けくること自体が不快の極みであった。が、すぐにその表情を不気味な笑みに変える。

 

「いいだろう。とっておきのガシャットと交換してあげよう」

『話が早いねー。楽しみにしていまーす。取引場所は――』

 

 場所だけ聞くとこれ以上話す事は無いと言わんばかり通話を一方的に切る。

 黎斗は笑みを張り付けたまま、ある場所に向かう。

 厳重に施錠された扉。だが、黎斗が少し本気を出せば鍵など無いに等しい。ほんの数秒で扉を開け、中から黒のケースを取り出した。

 ケースには『GD』といマーク記されている。

 ケースを開くと、そこにはケースと同じく黒の外装パーツのガシャットたちが収納されている。

 これこそが五年前のゼロデイを引き起こし元凶。プロトガシャットである。

 

「彼らには、神の罰を与える必要があるなぁ」

 

 並ぶプロトガシャットを見て、加虐的な笑みを深める黎斗。これを使用したときの彼らの反応を想像し、哄笑する。

 

「フハハハハハハハハハハハ!」

 

 このとき彼は気付いていなかった。その笑い上げる黎斗の背を陰から覗く存在のことを。

 

「何か知らないが、ノってるねぇ……」

 

 

 




二次創作ですから、やっぱりオリジナルフォームを出そうと思っています。
一つは次の話で出す予定です。

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