仮面ライダーゲンム~Vengeance is mine~ 作:K/K
街から少し離れた場所にある廃棄された工場。
永夢と飛彩が、病院で教えられた場所に辿り着いたとき、既にそこは戦場と化していた。
「うああああ!」
半狂乱になりながらライドウェポンを振り下ろすライドプレイヤー。
「あぐっ!」
その刃は別のライドプレイヤーの胸元を斬り付け、火花を散らしながら悲鳴を上げて転倒させる。
「うう……!」
斬られた箇所を押さえ悶えるライドプレイヤー。追い打ちを掛けるには絶好の機会であったが、斬り付けた方のライドプレイヤーは何故か動かない。
「はっ! はっ! はっ!」
区切る様な荒い呼吸。ライドウェポンの柄を両手で固く握り締めており、その力があまりに強いせいかライドウェポンが腕ごと震えていた。
自分も相手も見た目は人では無く、デフォルトされたゲームキャラクターそのもの。しかし、震えるライドプレイヤーには、飛び散る火花が鮮血の様に映って見えていた。
人を本気で斬った。生まれて初めて経験する限りなく殺人に近い行為。その現実が、今までに積み上げられてきたそのライドプレイヤーの倫理観を激しく揺さぶり、動揺させる。
圧し掛かる罪悪感で、地面の上で苦しがっているライドプレイヤーを襲うことを躊躇させる。
「隙だらけー」
己の罪悪感と向き合っているライドプレイヤーを嘲笑うかの様に、別のライドプレイヤーが横顔を殴りつける。
「あがっ!」
よろめくライドプレイヤー。すると地面に倒れていたライドプレイヤーが不慣れな手付きでライドウェポンを剣モードから銃モードへと変え、その銃口をよろめいているライドプレイヤーに向ける。
「う、うああああああ!」
銃声。そして、湧き立つだろう罪悪感を塗り潰す様な叫び。撃っているのに撃たれている様な絶叫。
「うぐ! あう! ああっ!」
碌に狙いも定めずに放たれた光弾は、見当違いの場所に飛んで行くが、それでも滅茶苦茶に引き金を引いているせいで、何発かは命中する。
光弾を数発受けたライドプレイヤーは、堪らず地面に倒れ伏してしまう。
「うう、うう……」
「はあ……はあ……はあ……」
互いに地面に倒れ、苦しそうな息を洩らす両者。勝者も敗者も無く、ただ互いに苦しめ合い、痛めつけているだけの光景であった。
だが、この場所では同じような光景が至る所で起きている。
「うあ!」
「くらええええええ!」
「痛い……痛いよ……」
「お願いだ……お願いだから負けてくれぇぇぇ!」
永夢も飛彩も繰り広げられる悲惨な戦いに言葉を失うしかなかった。
バグスターによるライドプレイヤーたちへの一方的な戦いとは違う、同じ力の持った同じ人間同士が命懸けで争う姿には悲痛さと陰惨しか感じられない。
だが、苦鳴と叫びが混じり合う戦場の中で明らかに動きが違うライドプレイヤーが何名か居た。
「ふっ!」
「うわっ!」
剣を振り下ろすことを躊躇っているライドプレイヤーの背を斬り付けるライドプレイヤー。
「ほらほら! 痛いでしょ? 反撃しないと」
「あがっ! つぅ! やめ! あう!」
既に戦意喪失しているライドプレイヤーの首元を掴み、ライドウェポンを握り締めた手で何度も殴打し続けるライドプレイヤー。
「も、もう こ、降参を づあっ!」
震える手を撃たれ悶絶するライドプレイヤー。撃ったライドプレイヤーは言葉一つ発さず、体の一部が動くのを見る度にそこを撃っていた。
最初に殴りつけたライドプレイヤーと同様に、彼らには他者を攻撃することに一切の躊躇いが無い。そして、動きも完成されたものであり明らかに仮面ライダークロニクルをやり慣れていた。
しかし、彼らはある程度攻撃を加えると別のプレイヤーに狙いを定め、攻撃を加え始める。倒すことが目的では無い。
彼らの目的はすぐに分かった。
攻撃をされていたライドプレイヤーたちは、攻撃が止んで暫くすると人が変わったかの様に他のプレイヤーに襲い掛かり始めたのだ。
彼らの目的は、この戦いを煽ること。執拗に攻撃し、降参など一切無意味だということを体に痛みという形で教え、戦わなければ生き残れないことを否が応でも分からせることであったのだ。
戦いが戦いを呼び。痛みが痛みを呼び。苦しみが苦しみを呼ぶ。
衛生省が仮面ライダークロニクルの危険性を訴えて尚戦いに挑むライドプレイヤーが絶えないのは、仮面ライダークロニクルが発売し、その危険性を知らずゲームに敗れ消滅してしまったプレイヤーを取り戻す為に戦う者たちが大半である。
善意ある者たちを、一部の悪意ある者たちによって傷付けられることを見過ごすことなど、人として、医者として、そして仮面ライダーとして見過ごすことなど出来ない。
永夢と飛彩は言葉を発さずも同時に動き出していた。
ゲーマドライバーを腹部に押し当てるとベルトが伸び、自動的に締まる。
永夢は『マイティアクションX』のライダーガシャットを取り出し、飛彩は青を基調としたライダーガシャットを取り出す。青のガシャットの側面に描かれるのは、炎と冷気を宿した剣を持つ騎士のキャラクターが描かれ、そこに描かれるタイトルは『タドルクエスト』。
『マイティアクションX!』
『タドルクエスト!』
「大変身!」
「術式レベル2・変身」
掛け声と共にライダーガシャットをゲーマドライバーへ挿し込み──
『ガシャット! ガッチャーン!』
中央のバックルを展開させる。
『レベルアップ!』
永夢と飛彩の周囲を回転するキャラクターが描かれたパネル。永夢は中央にエグゼイドのキャラクターが来た時に右手を突き出して触れ、飛彩は真横にそれが来たときに左手を横に突き出して触れた。
『マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションエーックス!』
ショッキングピンクの尖ったヘアパーツが目を惹く、仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2.
『タドルメグル、タドルメグル、タドルクエスト!』
水色を基調とした西洋の鎧を模したボディーパーツ。フルフェイスマスクから覗かせる黄色の双眼。左腕には小型の盾を装着し、右手には剣身は炎を留めた形をし、柄本にはAとBのボタンが備わった剣──ガシャコンソードを握る。
仮面ライダーブレイブクエストゲーマーレベル2。それが天才外科医、鏡飛彩が変身した姿の名である。
バグスターウィルスを切り離す為に必要なレベル1を通り越して直接レベル2になる。
この変身は、二人にとっては不本意と言えた。それは、この場に病で苦しむ患者が居ないことを意味するからだ。
「来た来た来た!」
ライドプレイヤーの一人が、エグゼイドたちの姿を見つけて嬉しそうな声を出す。
「おーい! ちゅうもーく!」
傷つけ、傷つけられる戦いの中で響き渡る声。エグゼイドたちには、それが酷く吞気に聞こえた。
がむしゃらに戦い合っているライドプレイヤーたちもその手を止め、声の主に目を向ける。この緊張感の無い迂闊な行動が、改めて彼らが戦いの素人であると認識させられる。
「あそこに居る二人が見えるー?」
ライドプレイヤーが指差す方向へ一斉に視線が集まる。視線の先にはエグゼイドとブレイブが立っていた。
「本日最大のメインイベント! 打倒仮面ライダー! あの二人を倒せば、武器も力も纏めて手に入るよ! そうしたら一気に攻略が楽になる!」
断言するライドプレイヤーだったが、それが出任せであることはエグゼイドたちには良く分かっていた。
ゲーマドライバーへの適合、即ち仮面ライダーへの変身には、微量のバグスターウィルスに感染し、抗体を作る適合手術を受けなければならない。
ただの人間にはゲーマドライバーでの変身は不可能。下手をすれば命を危険に晒すことになる。
しかし、それを知っている人間は一握り。この場に居るライドプレイヤーたちが、それを知っている筈など無かった。
仮面越しでもライドプレイヤーの眼の色が変わったのを感じる。ライドウェポンを握り締めながらじりじりと詰め寄り始めるライドプレイヤーたち。誰も彼もが腰が引け、基本が無い構えをしている。
それを見ると、詰め寄られる重圧や緊張感よりも先に、目の前のライドプレイヤーたちが、戦いを全く知らない者たちであるという理解と、そんな人たちが戦わなければならないほど追い詰められているという悲壮感を覚えた。
「う、うああああああああああ!」
ライドプレイヤーの一人が堰を切った様に叫び、ライドウェポンを振り回しながらエグゼイドたちに接近してくる。それを切っ掛けにして他のライドプレイヤーたちも次々と迫ってきた。
体ごと振る様な素人の振り下ろし。無駄な動きの多いそれを、エグゼイドは横に移動するだけであっさりと躱して見せた。
「止めろ! こんなことをしても意味なんてない!」
振り下ろされた武器を掴み取り、エグゼイドは説得を試みる。
「離せ! 離せ! 離せぇぇぇ!」
エグゼイドの手を振り払おうと滅茶苦茶に武器を振り回すライドプレイヤー。興奮状態にあるせいか、エグゼイドの説得に耳を貸そうとしない。
一方でブレイブの方も苦戦を強いられていた。相手が強いからでは無い。弱過ぎる為に手加減が難しいのである。
まず振るう剣。基礎も何も無い、ただの手数だけの滅茶苦茶な棒振りに等しいそれだが、ブレイブならば簡単にその刃をいなすことが出来る。だが、その直後に無謀な突進や、武器に振り回されて体が前に出るなどのイレギュラーな行動のせいで、一々ブレイブは急停止しなければならない。
このまま暴れさせ続けたら同士討ちによる犠牲者が出るかもしれない。故にブレイブは、多少強引な手でもライドプレイヤーたちを止めることにした。
ガシャコンソードのAボタンを押す。
『コ・チーン』
炎が燃える形の剣身が回転し、真逆の凍て付く冷気の様な剣身に変わる。続けてBボタンを三回押す。
逆手に持ち替え、ガシャコンソードを地面に突き立てた。
ガシャコンソードを中心に、冷気が発生し、地面を瞬時に凍結させていく。
エグゼイドは、ブレイブがガシャコンソードを操作していたことを音で把握していたので、地面にソードが突き立てられる前に跳び上がった。
凍結させた地面に足をつけていたライドプレイヤーたちは、地面ごと足を氷漬けにされ、その場から動けなくなる。
「今のうちに──」
「させないよ」
いつの間にかブレイブに接近していたライドプレイヤー。ブレイブに銃形態にしたライドウェポンを押し当てる。
その声は、エグゼイドたちにとって聞き覚えがあった。
「あんたは病院の!」
「当たり」
正解と告げると同時にライドウェポンの引き金が引かれ、ブレイブは火花を上げながら地面を転がっていく。
「ブレイブ!」
エグゼイドがブレイブの下に駆け寄ろうとするが、足元に光弾を撃ち込まれ急停止させられる。
「ゲームはまだまだこれからさ」
ライドプレイヤーはそう言いながら、氷漬けにされているライドプレイヤーたちに銃口を向ける。
自分たちに凶器を向けられ、怯えて身を守る様に銃口に向けて背を向けるか、両腕を前に翳す。
ライドウェポンから光弾が放たれるが、狙う先は彼らの足元。光弾の熱によって氷が溶かされ、自由となる。
「そんなにビビッてちゃあ、勝つもんも勝てないよ? だーかーらー」
ライドプレイヤーは見せつける様に手を閉じ、開く。その指の間には同じ絵柄のコインが挟まれていた。
それを見て、エグゼイドたちは驚く。ライドプレイヤーの指に挟まれていたのは間違いなくエナジーアイテム。
彼もまたテンと同じく違法改造されたガシャットを使用したライドプレイヤーだとこのとき知った。
「それを取っ払ってあげるよ」
エナジーアイテムをライドプレイヤーたちの方へ弾く。その最中にエナジーアイテムは大きくなり、人の顔が隠れる程度の大きさになる。尤も本来ならばこのサイズが正しいのだが。
ライドプレイヤーたちの体の中にエナジーアイテムが吸い込まれる。
『混乱!』
与えられたエナジーアイテムは、身体能力を上昇させたり、特殊能力を付与するものではなく、デメリットを生じさせるもの。
『混乱』はその名の通り、取ればまともな行動がとれなくなる。その結果──
「あああああ!」
「だあ! だあ! だあ!」
「きいぃぃぃぃぃぃ!」
各ライドプレイヤーは、奇声を発しながら目に映る者、またはすぐ近くにいる者に襲い掛かり始める。
「くっ!」
真上から振り下ろされるライドウェポンを下がって避けるエグゼイド。混乱の効果で人を斬ることに躊躇いが無くなり、先程よりも剣速が上がっている。
空振りしたライドウェポンは、地面をひび割れさせるが、すぐにまた振り上げてエグゼイドへ斬りかかる。
斜め、振り下ろし、斬り上げという滅茶苦茶に振り回されるライドウェポンを後退しながら巧みに避けていくが、次に下がったときに背部に固い感触を受ける。
いつの間にか壁際にまで追いやられていた。
「ほらほらー。反撃しないとやられちゃうよー?」
背後に控えているライドプレイヤーが煽る。
その態度に怒りを覚えないと言えば嘘になるが、だからといってエグゼイドたちは混乱するライドプレイヤーたちを傷付けるという選択肢は無かった。
「俺たちはドクターだ! 決して人を傷付けるつもりはない! 人を救うことが使命だ!」
「その通りだ。俺が切除するのは病魔とバグスターのみ。人を、ましてや救いを求められている者を切るつもりはない」
追い詰められても自らの信念に従う二人。そんな二人の態度にライドプレイヤーはパチパチと拍手を送った。
「何かすっごいなぁ。周りにそういうことを言う人居ないから素直に感動しちゃった」
一見すると揶揄しているようだが、二人はライドプレイヤーの発言に本心のようなものを感じ取った。
「やれ人を踏み台にしろとか、やれ人を利用しろとか、将来を考えて友達を作れとか、イヤーなことばっかり言ってくるウチの親も見習って欲しいよ」
今までおどけた態度をとっていたライドプレイヤーから漏れ出す闇。
「お前……」
ブレイブは困惑している様子だったが、エグゼイドはライドプレイヤーに何か感じるものがあったのか、何かを言い掛ける。
「でも、口じゃあ何とでも言えるしねぇ?」
一瞬見えた陰が消え、無邪気で残忍な面で覆い隠される。
「俺が試してあげるよ」
銃モードのライドウェポンを掲げる。そして、反対側の手に持っていたエナジーアイテムを指で弾き、吸収。
『分身!』
エナジーアイテム使用の音声が流れる。その効果によりライドプレイヤーは数体に分身した。
『まだまだぁ!』
分身したライドプレイヤーは更なるエナジーアイテムを使用。今度は自身ではなくライドウェポンに吸収させる。
『高速化!』
『混乱!』
その状態からライドプレイヤーはライドウェポンを発射。銃口から飛び出す光弾。高速化の効果によりエグゼイドたちでも視認出来ない。そして、ここで混乱の効果も発動。通常ならば先程見せたようにプレイヤーを混乱状態にするエナジーアイテムだが、ライドウェポンに使用したことで効果が変化する。
真上に飛んで行く複数の光弾が突如として軌道を変え、四方八方を滅茶苦茶な軌道で飛び回り出す。
「何だこれは!?」
迷走する光弾。規則性など欠片も無い軌道にブレイブは困惑してしまう。
「危ない!」
エグゼイドがブレイブを突き飛ばす。二人の間を光弾が通り抜け、壁を抜いて外へ飛び出していく。
「ぐあっ!」
「うぐっ!」
「あうっ!」
一方で他のライドプレイヤーたちは無軌道な光弾によって撃たれ、地面に倒れ伏していく。そのまま床に這いつくばった状態で呻くライドプレイヤーたち。光弾が命中したことで混乱が解けていたが、今度はダメージの重さで動けない。
「このままじゃ!」
これ以上のダメージを受ければゲームオーバーとなり消滅してしまう危険がある。彼らを守る為に動こうとするが、それを阻むように光弾が飛び交い中々近寄れない。
「厄介な……!」
混乱を付与された光弾の不規則な動きにエグゼイドは仮面の下で悔しそうに表情を歪める。天才ゲーマーМとして名を馳せた彼だが、光弾の回避には苦戦を強いられる。ゲームにはある程度の規則性があり、ゲーマーである彼はいち早くその規則性を見抜いて攻略に繋げるのだが、ゲーマーとしての直感と経験則が光弾の動きが規則性の無い完全なランダムであることを告げていた。
それだけで一気に難易度が上がるが、エグゼイドは足を止めない。そんな彼の横顔目掛けてジグザグで動く光弾が迫って来るが──
「はぁ!」
──それをギリギリまで見極めて回避してみせた。磨き上げられた直感だけでなく鍛えられた反射神経を以て避けるエグゼイド。
巧みな体捌きでランダムに動いている筈の光弾を避け続ける。
「っ!? ブレイブ!」
攻撃を躱し続ける中でエグゼイドは場の混沌に乗じてブレイブに忍び寄るライドプレイヤーに気付き、声を上げる。
ブレイブはエグゼイドの声でライドプレイヤーの攻撃に反応する。
「貰ったよ!」
両手で握り、上段に構えたソードモードのライドウェポンを今まさに振り下ろそうとするライドプレイヤー。
「くっ……!」
ブレイブはガシャコンソードで斬り払おうとするが、その直前に相手がまだ未成年であることを思い出す。不正コピーされ違法改造を施された仮面ライダークロニクルガシャットなので仮に攻撃し、ゲームオーバーにしても消滅はしない。だが、仮面ライダーとして、大人として、そしてドクターとして病でない相手を斬ることを拒絶する。
「ブレイブ!」
エグゼイドが見ている前でブレイブはガシャコンソードを振り抜く──のではなく柄を握り締めたまま柄を用いて直線で突く。
最短距離を最速で突き出された柄がライドプレイヤーの鳩尾を直撃。ライドプレイヤーの動きが止まった。その瞬間、データ片となって消滅する。
「何!?」
「しまった! 分身だ!」
消えた分身の背後から現れる本体。囮と目晦ましを兼ねた二重の罠。
腕を振り上げている姿が見えたのでブレイブは咄嗟に左腕に装着してある盾を構えた。
「ダメだブレイブ! 逃げろ!」
正面からライドプレイヤーを見ているブレイブは気付かなかったが、側面から見ていたエグゼイドには見えていた。ライドプレイヤーはただ腕を振り上げている訳では無い。手首から先がゴムのように伸びており、伸びた先の手が廃工場の支柱を掴んでいる。エナジーアイテムの『伸縮化』による効果。
手足を伸ばす理由をエグゼイドはすぐに察する。ゴムのような弾力性と伸縮性を持つのでその伸び縮みする力を利用し、攻撃力を上げる為。
手が支柱から放され、一気に縮む。ライドプレイヤーは一気に収縮する腕を前方に突き出した。
『鋼鉄化!』
そこにエナジーアイテム『鋼鉄化』の効果を付与することで文字通り手を鋼鉄にする。
伸縮化の破壊力×鋼鉄化の破壊力。そこから生み出される一撃はブレイブの盾を容易く貫き、ブレイブ本体を殴り飛ばす。
「ぐあああっ!」
コンクリートの地面を何度も跳ねながら転がっていくブレイブ。
「く、うっ……」
胸を押えながら立ち上がるが、左胸に表示されているゲージのメモリが減っている。ライダーゲージと呼ばれるそれは、変身者の残存体力を可視化したものであり、これが無くなれば変身者の命に危険が及ぶ。ブレイブの盾は相手からのダメージを軽減させる効果があったが、それを貫いてブレイブに大ダメージを与えていた。
「クリティカルヒットってやつ?」
元に戻った腕を振り回して嬉しそうにするライドプレイヤー。
「どう? 今のは中々だったでしょ?」
エグゼイドに自分の評価を尋ねる。
「……確かに今のは悪くない動きだった」
意外なことにエグゼイドは激昂せずライドプレイヤーのプレイングセンスを素直に評価する。
エナジーアイテムのシナジーを存分に発揮し、尚且つ相手の意表を衝く攻め。リスクを承知で攻め込む様もゲーマーとしての視点から嫌いではない。
「でも、チートなんて使わないお前のプレイが見たかった。それに手を出した時点で俺はお前を認める訳にはいかない」
しかし、ゲーマーとして決してライドプレイヤーのプレイを肯定しない。違法改造を認めることはゲーマーとしてプライドが許さなかった。
「まあ、そうなるよね」
ライドプレイヤーは肩を竦める。エグゼイドの答えに反発することはしない。
「でもさぁ、ルールで決められた中で楽しむのも良いけど、ルールを超えた先にある楽しさってのもあると思うんだよねぇ? 裏技使って無敵モードになって雑魚を蹴散らす時って爽快感を覚えない? あれと一緒だよ」
「それは……」
今度はエグゼイドの方がライドプレイヤーの答えに強く反発しなかった。実はライドプレイヤーが言ったようなフォームをエグゼイドは持っている。その力を持っているが故にエグゼイドは答えを詰まらせてしまう。
「まっ、プレイングスタイルは人それぞれってことで」
ライドプレイヤーはライドウェポンをペン回しのようにして遊ぶ。
「今はゲームを楽しまない? 先生?」
年端も行かない少年と戦うのは気が引けるが、彼を止めないと被害が広まる。どうにかして変身を解除させないといけない。そうしなければ、周りの人たちも──そこまで考えてエグゼイドはあることを見落としていることに気が付いた。
「居ない……」
エグゼイドたちをここへ招いた張本人であるテンの姿が無い。殆どのライドプレイヤーは戦闘不能状態になっており、残っているのは目の前のライドプレイヤーのみ。
「あ、もしかしてテンのこと探してる?」
エグゼイドの挙動からその内心を読む。
「ざーんねん! ここには居ないよー」
「そんな!?」
元凶であるテンが居ないことにエグゼイドは仮面の下で蒼褪める。そして、テンにまんまと嵌められたことを理解した。
「あー、信じるか信じないかは自由だけどテンの奴、マジでここに来るつもりだったよ。先生たちとゲームする為にさ」
「じゃあ、何で居ない!」
「直前になってもっと面白いことを見つけたから」
「面白いこと? それは一体!?」
「秘密」
ライドプレイヤーは揶揄うように掲げたライドウェポンを口の前に持って来る。
「知りたい? 知りたいよねぇ? じゃあよくあるやつだ」
手の中で回していたライドウェポンを握り、その刃先をエグゼイドへ向ける。
「俺を倒したら教えてあげるよ」
エグゼイドにとってそれは苦渋の選択。ライドプレイヤーを傷付けることは彼の矜持が簡単に許さない。
「来ないの? だったらこっちから行くよ!」
ライドプレイヤーは跳躍し、ライドウェポンを振り上げながらエグゼイドへ飛び掛かる。
◇
テンに指定された場所へ向かう檀黎斗。その手にはプロトガシャットが収納されたケースを持っている。
場所はエグゼイドたちが戦っている廃工場から少し離れた場所にある廃墟。
「さあ! 言われた通りに来たぞ! 姿を見せたらどうだ!」
廃墟の中心で黎斗は叫ぶ。すると、柱や瓦礫の陰から次々とライドプレイヤーたちが現れる。
「やあ。待ってたよ、社長さん」
彼らを率いて中心に立つのは首謀者のテン。
黎斗は鼻を鳴らし、持っていたケースを開いて中身を見せる。綺麗に並べられたガシャットを見てライドプレイヤーたちは感嘆の声を上げた。
「約束通りのレアアイテム──プロトガシャットだ。これなら君たちも納得出来る代物だと思うが?」
「やっぱり良いねぇ、プロトタイプって響きは」
「そう言う君は約束の物を持って来たのかね?」
テンは腰の後ろに両手を回した後、左右に広げる。その手にはガシャコンブレイカーとバグヴァイザーⅡが装備されていた。
「この通り」
「早速交換だ」
「待った。その前に本物かどうかを確かめさせてよ」
もしかしたら見た目だけの偽物かもしれないと疑うテン。黎斗は数瞬黙った後に持っていたケースを滑らせ、テンの足元まで移動させる。
「確認したまえ」
あっさりとプロトガシャットを手放したことに若干の違和感を覚えるテンだったが──
「早く使ってみてよ!」
「なあなあ! 当然山分けだよな!」
「俺も使ってみたい!」
「僕も僕も!」
──仲間のライドプレイヤーたちが彼を急かすので深く疑うことが出来ず、取り敢えずスイッチだけでも押してみようとする。
そのとき、多色の光が集まって人型となりテンが手に取る筈だったプロトガシャットをケースごと取り上げる。
「……誰?」
ケースを持っているのは、カラフルなシャツの上にレザージャケットを羽織った青年。その眉間には皺が寄っており、明らかに怒っている。
「これを使ったら感染するぞ?」
「感染?」
青年の怒りの対象はテンたちではなかった。その矛先は忌々しそうに表情を歪めている黎斗へ向けられる。
「何か企んでいるとは思っていたが、随分な真似をしてくれるなぁ、元社長」
「九条貴利矢……!」
黎斗は青年──九条貴利矢に対し黎斗は憤怒の感情を放っていた。
「また同じ事をするなんてなぁ」
貴利矢は嫌悪感を露にする。かつて自分も同じように嵌められたことを思い出していた。
「感染するって、もしかして……」
「こいつはバグスターウィルスに感染している。使っただけでゲーム病が発症するぞ。危うくあいつにノせられるところだったな」
それこそが黎斗の企み。何も知らないテンたちにプロトガシャットを使用させ、全員ゲーム病に侵させ消滅させようとしていたのだ。
「余計な真似を……!」
「危ない真似をしなけりゃ俺も出しゃばらなかったよ、元社長」
仲間同士とは思えない険呑な空気を出し、敵意の火花を散らせる両者。
「……ふっ」
そんな危うい空気を変えるような一笑。
「あっはっはっは! 怖いなぁ、ゲンムの社長さんは!」
テンは笑う。命の危機だったというのに気にした様子もなく心底楽しそうに笑っていた。
「俺、ゲーム病になりそうだったよ」
「マジあぶねー。危機一髪じゃね?」
「あの社長、エグゥ」
「っていうか俺たちも危機一髪だったってこと?」
テンを始めとして他のライドプレイヤーたちは吞気に会話していた。ゲーム病に罹ることなど恐れていないかのように。
「何だ……?」
普通ではない反応に貴利矢は眉根を潜める。黎斗も訝しむ表情をしていた。
「──まあ、普通に使ったら危ないってことは分かったよ。だから改めて言うね。それ頂戴?」
貴利矢へ向け手を差し出すテン。
「……話、聞いていたのか?」
「聞いてたよ。その上で頂戴って言ってる」
バグスターウィルスに感染しているプロトガシャットの危険性を知った上で欲しがるテンに貴利矢は不気味さを覚える。
「別に直接使わなくてもさぁ、調べたらコピーとか出来るかもしれないじゃん? プロトタイプなら色々とプロテクトも緩そうだし」
テンはそう言いながらチラリと黎斗を見る。
「貴様ぁぁ! この期に及んで私のゲームを! ガシャットを! 不正コピーするつもりかぁぁ!」
激怒する黎斗であったが、テンは黎斗の態度からある答えを導き出す。
「へぇ……そんなの不可能って言わないんだ」
解析しコピーすることを怒ったことからテンはプロトガシャットならば複製が可能であると推測。
「態度に出過ぎだろ」
「黙れぇぇぇ!」
揉める二人を見ながらテンはガシャコンブレイカーとバグヴァイザーⅡを構え、他のライドプレイヤーたちはライドウェポンを構える。
「……言い合いは後だ。こいつらをどうにかするぞ」
「ふん! 纏めてゲームオーバーにしてやる!」
『マイティアクションX!』
黎斗と貴利矢は同時にゲーマドライバーを腹部に装着。黎斗は『プロトマイティアクションXガシャットオリジン』を起動。そして、貴利矢は──
『爆走バイク!』
『BAKUSOU BIKE』とバイクレーサーが描かれたライダーガシャットのスイッチを入れた。
「グレード0──変身!」
「ゼロ速──変身!」
『ガシャット!』
ライダーガシャットが挿し込まれたゲーマドライバーのレバーを開く。
『ガッチャーン! レベルアップ!』
二人の周囲に展開されるキャラクターセレクト画面。黎斗は画面に手を突き出して選択、貴利矢は画面を蹴り上げて選択した。
『マイティジャンプ! マイティキック! マイティーアクショーンエーックス!』
『爆走独走激走暴走! 爆走バイク!』
黎斗は仮面ライダーゲンムアクションゲーマーレベル0へ。そして、貴利矢もまた仮面ライダーへ変身する。
ボディスーツはゲンムと共通しているが、両肩と脚部を覆うプロテクターの色は黄色。また、手首、腕、脚にピンクカラーの装飾が施されている。
頭頂部にはモヒカンのようにピンクのスパイクが連なったヘッドパーツ。ゴーグルの中のデフォルメされた目もとい視覚センサーの色は水色、黒色、白色の順に重なっている。その下のにはレギュレーターのようなパーツが突き出ており、それが口部を覆っていた。
バイクレーサーを模したその姿の名は仮面ライダーレーザーターボバイクゲーマーレベル0。
『おおおぉ……!』
テンたちは貴利矢が変身したレーザーターボを見て感嘆の声を上げた。ゲンムのときと違って新鮮味のある姿であったからだ。
「何だそのリアクションは!? 何故私のときにその反応を見せなかった!」
レーザーターボと比べられたことが癪に障り、変身早々にゲンムは怒鳴る。
「人気ねぇなー、ゲンムは」
「黙っていろっ!」
レーザーターボはゲンムを鼻で笑いながら彼の怒声は聞き流す。
「それで? 攻略法はあるのか? 聞いた話じゃ色々と反則しているみたいじゃねぇか」
「当然だ」
「……いつものようにライフを消費してのコンティニューゴリ押しじゃないだろうな?」
ゲンムは『プロトマイティアクションXガシャットオリジン』の特別な仕様であるコンティニュー機能により99個のライフを持っていた。
命の複製という彼が豪語する神の才能と呼ぶに相応しい発明。だが、同時に踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまった命への冒涜とも言える。
これまでの戦いでライフを消費し、残りは70。テンたちを相手にするには十分過ぎる数。
しかし、ゲンムの考えは違った。
「バカを言うな」
「あん?」
「私のゲームを穢すような連中にくれてやるライフなど一つもない! 故に!」
ゲンムは胸に表示されているライダーゲージを親指でなぞる。
「ノーコンティニューでクリアするっ!」
残り2話で完結する予定です。