仮面ライダーゲンム~Vengeance is mine~ 作:K/K
並び立つゲンムとレーザーターボ。二人の詳細を知る者が見たら奇妙、あり得ないと思う光景だろう。嘗て命を奪った側と奪われた側。近くに居るだけで殺し合いが起こってもおかしくない関係だが、それが奇跡的に肩を並べている。
互いに心を許していない。しかし、戦う相手は共通している。故に共闘を──
「有象無象は任せたぞ! 私の獲物は奴だぁぁぁぁ!」
──する殊勝な精神などゲンムは持ち合わせはおらず、暴走するかのように一人で勝手に突っ走る。
「おい! 元社長!」
レーザーターボの制止の声などではゲンムは止まらない。水平に構えた左手を前に出し、右手を後ろに引いた拳法のような構えのまま突き進む。
「突っ込んで来た!?」
「何何? 何かの作戦!?」
ゲンムの暴走にライドプレイヤーたちは逆に戸惑う。傍から見れば考え無しの行動にしか映らないが、相手は幻夢コーポレーションの元社長。何か策があるのではないか深読みをしてしまう。
「あの人、俺指名だから後は任せたよー」
テンは吞気な声の後、ライドプレイヤーたちの頭上を越えて前に出る。そして、自分からゲンムへ接近し二人は組み合った。
「ふはははははっ! 自分からゲームオーバーになりに来るとは愚かだな!」
「ゲームオーバーになるのはどっちかな?」
力が互角なのか互いにその場から動かない。
「──ん? 貴様……」
ゲンムは何かに気付いた様子を見せるが、それ以上は何かを言うことはなく、拮抗する力が逃げ道を求めたのか組んだ二人は示し合せたかのように横移動を開始。集団から離れていく。
「一人で行くな!」
レーザーターボは離れていくゲンムたちを追い駆けようとするが、その前に四人のライドプレイヤーが立ち塞がる。
「はいダメー」
「お兄さんの相手、僕らだから」
「テンに任されちゃったしねー」
「ガシャットをくれるなら通してあげてもいいけど?」
背丈や声からして未成年なのが嫌でも分かってしまい、レーザーターボは苛立つように後頭部を掻く。
「あの野郎……俺の方がどう見ても面倒じゃねぇか……」
相手が相手だけにレーザーターボは気が乗らない。
「あのさぁ。そこどいてくれないか?」
『やだ!』
四人が口を揃えて拒否する。
「だよなぁ」
厄介なことになったと思いながら、レーザーターボは荷物となっているプロトガシャットが入ったケースを地面に置くと戦闘態勢に入る。
レーザーターボの構えは自然体そのもの。ファイティングポーズをとる訳ではなく、右肩を前に出して半身となる。ただそれだけの立ち姿にライドプレイヤーたちはプレッシャーを感じてしまう。
「だ、誰から行く?」
「言い出しっぺから行くのは?」
「誰だよ?」
「誰だろ?」
ライドプレイヤーたちは腰が引けており、誰が先に挑むのか小声で話し合う──というより押し付けあっている。
レーザーターボからすればますます戦い辛くなる。雰囲気から察するにライドプレイヤーになってからの戦闘経験はあまり積んでおらず、それどころか喧嘩もしたことがないような少年たちである。
「ちょっといいか?」
レーザーターボは言葉に圧を込めて言う。
「戦う気が無いならどいてくれ」
威圧でライドプレイヤーたちを退かせようとする。これで退いてくれるのならレーザーターボからすれば有難い。
「な、何だよ! 脅しか!?」
「ビビらせてるつもりか!」
「怖くなんかないぞ!」
「やってやらぁ!」
だが、レーザーターボの試みは裏目に出てしまった。威圧に対してライドプレイヤーたちは年相応のプライドを奮い立たせてしまう。
「ノらせてどうすんだ……」
レーザーターボは自分の失態を後悔する。これでライドプレイヤーたちとの衝突は免れなくなってしまった。
「行くぞぉぉぉぉ!」
『おおおおおおっ!』
ライドプレイヤーたちは、剣モードになったライドウェポンを構えて突撃してくる。前方に二人、後方に二人の四角型の陣形。
ただし、そこまで完成された連携ではなく前方の二人の内の片方は足並みを乱して一人前へ突出していた。
攻撃のタイミングがズレるのが見ても分かる。
レーザーターボは突出しているライドプレイヤーの前に移動。これにより後方で銃モードのライドウェポンを構えている二人は、このライドプレイヤーが盾になって狙うことが出来ない。
「うらあ!」
ライドプレイヤーは興奮のままに叫び、ライドウェポンを振り下ろそうとする。
「遅いぞ」
だが、振り下ろされる前にレーザーターボのハイキックがそのライドプレイヤーの前に突き出された。
視界一杯に広がるレーザーターボの足裏にライドプレイヤーは反射的に急ブレーキを掛けるが、間に合わず自分からレーザーターボの足裏に顔面をぶつけ、顔を押さえながら転倒する。
「いてぇ!」
「おっと。悪いな」
寸止めをしたが当たってしまったことにレーザーターボは詫びる。そのすぐ横にはもう一人のライドプレイヤーが迫っているにも関わらず。
「見えてるぜぇ?」
レーザーターボの掲げている足が鞭のようにしなり、ライドプレイヤーの手首を打つ。
「あうっ!」
手首を強く打たれたライドプレイヤーは、手からライドウェポンを離してしまった。
先行していたライドプレイヤーが倒れたことで先程まで塞がっていた射線が開く。
銃口の先にレーザーターボが見えたので後方のライドプレイヤー二人は銃撃を行おうとする。
しかし、二人にとっては咄嗟の判断だったのかもしれないが、レーザーターボからすれば遅過ぎる。既にレーザーターボは視界の端に二人の行動を捉えていた。
蹴られたことで落ちていくライドウェポン。それが地面に着く前にレーザーターボの爪先が柄頭を蹴り上げる。
高く舞い上がるライドウェポン。銃撃しようとしていたライドプレイヤー二人の視線もそれに注目してしまった。
「ふっ」
レーザーターボの足が地面を離れ、空中で高々と振り上げられる。自分の目線の高さまで上げられた足から繰り出される上段蹴りは、再びライドウェポンの柄頭を蹴る。
今度はライドウェポンが矢のように蹴り飛ばされ、ライドプレイヤーの顔のすぐ横を高速で通過する。直撃するにはまだ距離があったが、顔の横を通り過ぎていくのは主観的に見ると迫力と実際の距離よりも近くに感じるもので、そのライドプレイヤーは驚いて仰け反りながらつい引き金を引いてしまう。
「うおっ!?」
目の前を光弾が通り過ぎていったことでもう一人のライドプレイヤーも驚いてしまい、そのまま後ろへ倒れていく。その際に隣のライドプレイヤーの肩を掴んでしまい、巻き込む形で二人は転んでしまった。
「いてて……」
「つよっ……」
レーザーターボの足技で見事にあしらわれたライドプレイヤーたちは各々の感想を零すが、殆どレーザーターボへの畏怖であった。
「どうなってんの、それ!? 何か特別なの!?」
「レベル幾つだよ! もー!」
先行していたライドプレイヤー二人は、蹴られた手を振って痛みを誤魔化したり、転倒した際に強打した腰を擦りながらレーザーターボの強さをヤケクソ気味に聞く。
「レベルは……ゼロだ」
ライドプレイヤーの問いについ答えてしまう。すると、場が静まる。そして、その沈黙はすぐに打ち破られた。
「何だそれ! カッコイイ!」
「言ってみたいなぁ! 僕も言ってみたいなぁ! 『僕のレベルは……ゼロだ』って!」
「いいなぁ! いいなぁ! レベル0でその強さってやっぱ特別じゃない!?」
「俺もそんな特別なガシャット欲しい!」
口々にレーザーターボへの羨望を言う。
(やりづれぇ……)
興奮するライドプレイヤーたちにレーザーターボはますますやり難さを覚える。憎たらしい相手──それこそゲンムぐらい──なら多少は戦い易かったが、年相応の反応をされるとレーザーターボとしても困る。否が応でも大人としての義務感や良心のせいで戦意が薄れてしまう。
エグゼイドもブレイブもそうだが、彼らは根っからの善人である。多少変わり者の部分や捻くれている部分もあるがそれは間違いない。道を外れることをしているとはいえ相手は子供。そのせいで本来の戦い方や戦闘力が発揮出来ない。脅すぐらいが精一杯の妥協である。
躊躇なく暴力を振るえるゲンムがおかしいだけなのだ。
「まあ、お兄さん滅茶苦茶強いし、やっぱ使うしかないかー」
「かっこつけんなっつーの。どう考えてもそれしか方法ないじゃん」
「やり方分かってんだよな?」
「テンからちゃんと聞いてる」
まだ戦う術があるのかライドプレイヤーたちは軽口を言い合いながら集まっていく。レーザーターボは構えながら彼らの動向を窺っていた。実力差を見せつけた。驚いていたが、恐れている様子は無い。
切り札のようなものを残しているのかもしれない、とレーザーターボが慎重に相手の出方を見ているとき、それは発動した。
『高速化!』
「何っ!?」
エナジーアイテムの音声だけが響いてライドプレイヤーたちが音声通りに高速で動き出す。
「どういうことだ!? エナジーアイテムなんて無かったぞ!? これがお前らの反則なのか!?」
彼らの情報について断片的にしか知らなかったので、ライドプレイヤーたちの仮面ライダークロニクルガシャットが、違法コピーされた改造ガシャットがここまで出来ることにレーザーターボは驚く。
「よっ!」
「はっ!」
「ほっ!」
「とおっ!」
前方から高速で来たライドプレイヤーたちの連続攻撃を辛うじて防御するレーザーターボ。
『高速化!』
『高速化!』
「まだ速くなるのかよ!」
一度だけの強化ではまだ速度が足りないと判断したライドプレイヤーたちは更にエナジーアイテムを重ね掛けする。
「がはっ!」
何かが来たと感じたときにはレーザーターボは胸部、背中などを殴打されていた。交通事故のように錐揉み回転するレーザーターボ。しかし、途中で両腕を掴まれて回転が止まる。
「っ!? お前ら……!」
レーザーターボの両腕をしっかりと掴んで彼を拘束するライドプレイヤー二人。
「離せ!」
レーザーターボは振り払おうとするが、ライドプレイヤーたちの掴む手は離れない。スペックではレーザーターボが大きく上回っているが、ライドプレイヤー二人は『マッスル化』のエナジーアイテムを使用してレーザーターボ以上の腕力を得ていた。
『伸縮化!』
その音声の後にレーザーターボの両肩が鷲掴みにされる。見れば伸びた手がレーザーターボの肩を指が食い込む程強く掴んでいた。
「やばっ!」
レーザーターボの十メートル先に立つライドプレイヤー。肩を掴んでいるのは彼の伸びた手である。
スリングショットのように限界まで引き絞って力を溜める。そして、溜め込まれた力が解放されたとき、ライドプレイヤーは高速で突っ込んできた。
『鋼鉄化!』
おまけに鋼鉄化により自身の防御力も高める。今のライドプレイヤーは等身大の弾丸である。
レーザーターボは避けようとするが、両腕をガッチリと掴まれているせいで逃れられない。
「ああ、くそ! 悪いな!」
一言謝ってから片方のライドプレイヤーの足先を思い切り踏む。神経が集う足の指先を踏まれたことでライドプレイヤーは絶叫を上げた。
「いてぇぇぇぇぇ!」
「お、おい!」
踏まれた痛みで掴んでいた力が緩む。その間にレーザーターボは腕を引き抜いた。しかし、レーザーターボが出来た抵抗はここまでであった。
突っ込んできたライドプレイヤーのドロップキックがレーザーターボに激突。伸縮化で付けた勢い+鋼鉄化による硬さが生み出す破壊力によりレーザーターボは交通事故にでもあったかのような勢いで後方へ吹っ飛んでいく。
レーザーターボは何度もコンクリートの地面を跳ねた後に背中に何かが当たってから止まる。
「い、て……」
レーザーターボは小刻みに震える自分の腕を見た。ライドプレイヤーのドロップキックが命中する寸前に引き抜いていた腕を割り込ませてガードしたことで少しだが威力を軽減させることが出来た。しかし、その代償として腕に激痛が走っている。折れてはいないが無理をすればそうなりかねない。
「あぶねぇもん使いやがって……!」
レーザーターボは体を起こしながらライドプレイヤーたちの使っている改造ガシャットについて愚痴る。ゲームのルールを無視してエナジーアイテムを使い放題出来るのは脅威である。だが、同時にレーザーターボはそれに危険性を感じていた。
安易にパワーアップすることにより加減が出来なくなるのではないか、という疑念。はしゃいでいるライドプレイヤーたちを見ていると戦闘経験や精神部分が未熟なのがすぐに分かる。そんな未熟な状態で身に余る力を使えばどのようなことが起こるか。
今も彼らよりも性能が高いレーザーターボだからこそこの程度で済んだが、もしも一般プレイヤーであったのなら、一発でゲームオーバーになりかねない。
(どうする……!)
今までは性能の差で押さえつけようとしていたが、それも難しくなってきた。レーザーターボも本気で戦うとなると──そこでレーザーターボはある物に気付く。足元に落ちているガシャット。黒いケースのそれは間違いなくプロトガシャットである。
先程蹴り飛ばされた際に何かに当たったのは知っていたが、戦う前に置いておいたプロトガシャットのケースであり、接触した拍子にケースの中から幾つか出てしまい、地面に散らばっている。
レーザーターボの前に落ちているプロトガシャットに表示されているゲーム名は『JET COMBAT』。これをレーザーターボが使えば空中を自由に飛行でき、更には頭上から弾丸の雨を降らすことが出来る。
空中戦が出来ないライドプレイヤーたちを一方的に蹂躙出来るアイテムだが、レーザーターボはつま先でそれを蹴り、廃工場の隅に追いやってしまい見なかったことにした。
(ダメだ! 火力が強過ぎる!)
一瞬ジェットコンバットでの制圧も考えたが、レーザーターボの考えのように火力が強い。下手をすれば変身解除では済まず、変身者の命まで奪いかねない。
視線を横に移動させるとまた別のプロトガシャットが落ちている。描かれているゲーム名は『SHAKARIKI SPORTS』。
使用すればレーザーターボのスペックが上がり、バイクの車輪型投擲武器を使用することが出来るプロトシャカリキスポーツガシャット。エナジーアイテム使用のライドプレイヤーたちにも勝てる可能性は高い。
それを選ぼうと思ったとき、レーザーターボの脳裏にある光景が浮かび上がる。プロトシャカリキスポーツガシャットを使ってゲンムのライフを一つ奪ったときの様子であった。
正直ゲンムに関してはどうでもいいが、ライフを奪ってしまうという考えが一瞬でも頭を過ってしまうと選ぶことに躊躇してしまう。
(これもダメだ! 一回でも考えたら使えなくなる!)
優先すべきはライドプレイヤーたちの命。それを奪う可能性があるものは出来るだけ避ける。それが例え自分の身を危険に晒すことになったとしても。
(どうする……おっ!)
レーザーターボは丁度良い物を見つけ、素早くそれを拾い上げる。拾ったのはやはりプロトガシャット。ゲーム名は──
『ギリギリチャンバラ!』
プロトギリギリチャンバラガシャットが起動するとレーザーターボの前にセレクト画面が現われ、そこから実体の武器が出現する。
弓に当たる部分が赤紫色のギザギザした突起が連なり、バイクのハンドルの形状をしたグリップが二本突き出し、弦の代わりにアーチ状の握りがある弓。
『ガシャコンスパロー!』
レーザーターボがそれを掴むと武器の名が告げられる。レーザーターボはガシャコンスパローにあるAボタンを押す。
『ス・パーン!』
ガシャコンスパローが中央から分離。弓部分は湾曲した刃となり、突き出ていたグリップを握ればガシャコンスパローは弓モードから鎌モードになる。
プロトギリギリチャンバラガシャットの効果で召喚したガシャコンスパローを構える。分かり易い凶器にライドプレイヤーたちは明らかに腰が引けている。
「う、おおお……凶器出してきた」
「こわ……でも、カッコイイ……」
「欲しいなぁ、あれ」
恐怖は確かにあった。しかし、同時に好奇心も覚えてしまっている。戦意喪失を狙ってガシャコンスパローを装備してみせたが、レーザーターボの思っていた反応とは若干異なる。
(目輝かせんなよ……)
ガシャコンスパローを構える自分が滑稽に思えてしまう。
「ってかあのガシャット使ってたよね? お兄さん。スイッチ推したらゲーム病に罹るんじゃなかったの?」
レーザーターボがプロトガシャットを使用したことに真っ当な疑問を述べる。
「あっ! そういやそうだ!」
「もしかして騙された?」
「嘘なの?」
レーザーターボにとって望ましくない流れになってきた。
(不味いな、これ)
レーザーターボこと九条貴利矢は人としての生を終え、バグスターとして復活した。故にプロトガシャットを使用してもバグスターウィルスに感染することはない。貴利矢自身がバグスターだから。
だが、そのせいでライドプレイヤーたちに『もしかしたら、プロトガシャットを使っても感染しないのでは?』という疑問を与えてしまった。
こうなってしまうとライドプレイヤーたちがレーザーターボの警告を無視してプロトガシャットを使ってしまう可能性が出て来る。そうなる前に何とかしてライドプレイヤーたちの変身解除及び違法ガシャットの回収をしなければならない。
「信じられないかもしれないが、自分はちょっと特殊なんだ」
本当のことだがライドプレイヤーたちの向けて来る視線は疑いに満ちていた。敵対している相手の言葉を易々と信じないのは当たり前としか言えない。
ライドプレイヤーの視線が一瞬動く。レーザーターボもそれに気付いて視線の先を見た。そこにはプロトガシャットが落ちている。
何をしようとしているのか嫌でも分かってしまう。レーザーターボとライドプレイヤーたちは互いを牽制するように見ている。
地面に足裏を着けたままジリジリとプロトガシャットの方へ寄っていく。両者一気には動かない。数で負けているレーザーターボは相手の出方を窺い、実力で劣っているライドプレイヤーたちもまた後手に回っている。
お互いに考えていることが一致しているので事態は膠着に近い状態となっていた。
何か切っ掛けがあればすぐにでも場は動く。或いは行けると思える距離まで近付いたら膠着状態は崩れる。そうなったとき、どちらが主導権を握れるかが勝負であった。
十秒掛けて動いた距離はほんの数センチ。どちらが先に仕掛けるのか。レーザーターボが事を慎重に進めようとした矢先──
「ああもう! じれったい!」
『高速化!』
──ライドプレイヤーの一人がこの場の緊張感に耐え切れなくなり勝手に動き出す。他三人のライドプレイヤーも仲間に意表を衝かれてしまい、動きが出遅れてしまう。
(おいおいおい!)
精神部分の未熟さが良くも悪くも事態を強引に動かす。
高速移動でプロトガシャットを拾い上げようとするライドプレイヤー。今から動いてもレーザーターボは間に合わない。
「ちぃ!」
止むを得ずレーザーターボは片方のガシャコンスパローを投げる。ガシャコンスパローは地面に突き刺さる。ライドプレイヤーはガシャコンスパローに足を引っ掛け、高速移動で付いた加速分だけ派手に転倒する。
先走った一人はどうにか出来たが、こうなってしまってはプロトガシャットの争奪が始まってしまう。
レーザーターボはライドプレイヤーたちが拾うよりも先にそのプロトガシャットを手にしなければならない。
レーザーターボは全速力でプロトガシャットの方へ向かうが──
「させないよ!」
『伸縮化!』
──伸びたライドプレイヤーの手がレーザーターボの腕を掴む。
「このっ!」
レーザーターボは掴まれた状態のまま強引に先へ進もうとする。だが、ライドプレイヤーもそうなることは分かっていた。
『鋼鉄化!』
「うおっ!?」
この瞬間、ライドプレイヤーの腕が鋼鉄化。金属製のワイヤーのように引っ張ってもびくともしない。腕を左右に振ってみるが動くだけで抜ける様子はなかった。
本来ならばエナジーアイテムはランダム性のあるアイテムであり、望み通りのエナジーアイテムが入手出来るとは限らない。だが、改造ガシャットのおかげでライドプレイヤーたちは好きなエナジーアイテムを好きなだけ使用する。それが彼らの想像力と合わさり、レーザーターボを苦しめる。
「離せ!」
ありったけの力を込めるとそのライドプレイヤーも引っ張られ始めるが──
『マッスル化!』
『マッスル化!』
「反則だろ! それ!」
──すぐにマッスル化を使用することでレーザーターボの力を拮抗してくる。
掴んでいる手を引き離すにはどうしたらいいのか。その答えはレーザーターボの手の中にあった。レーザーターボは今もう一振りのガシャコンスパローを握っている。本気で斬り付ければいくら鋼鉄化中であってもダメージは入る。
(ダメだろ! そりゃあ!)
だが、レーザーターボはそれをすぐに却下した。ガシャコンスパローで斬ったらいくら何でも無事では済まない。傍から見ればじれったい、そんなことを考える立場でもないと思われるかもしれない。しかし、それでもレーザーターボの矜持がその選択を許さなかった。
だが、レーザーターボの思いとは裏腹に思わぬ形でそれが形になる。
「この野郎……!」
ガシャコンスパローで派手に転倒させられたライドプレイヤーが起き上がろうとする。良い所を邪魔されたこと、皆の前で恥をかかされたこと、その二つのせいでレーザーターボへの怒りが頂点に達している。
そんな彼の目に入ったのは地面に刺さっているガシャコンスパロー。それが見えた瞬間、躊躇うことなく地面から引き抜く。
「おおおおおおっ!」
怒りの感情に身を委ね、後先など考えず半ば思考停止した状態でライドプレイヤーはガシャコンスパローを振り上げてレーザーターボの方へ走り出す。
レーザーターボも声に気付き、そちらに視線を向ける。鎌を振り上げて走って来るライドプレイヤーを見たら嫌でも驚いてしまう。
「くらえぇぇぇぇ!」
「やばっ!」
レーザーターボは反射的に腕を動かし防御態勢に入る。その際、意図しなかったがレーザーターボの腕を掴んでいるライドプレイヤーの腕も動く。結果としてライドプレイヤーの腕が鎌の前に差し出される恰好になってしまった。
頭に血が昇った状態のライドプレイヤーでは振り下ろしたガシャコンスパローを途中で止めることなど出来ず、腕にガシャコンスパローの刃が打ち込まれる。
「いっ!?」
鋼鉄化の効果が残っていたおかげで刃が腕に通ることはなかった。だが、体を斬られたという事実が恐怖、委縮をさせ反射的にレーザーターボの腕から手を離してしまう。
(今だ!)
レーザーターボはありったけの力を足に込める。ライドプレイヤーたちを遥かに上回る速度で出遅れた分を取り戻そうとする。
(間に合うか!?)
ライドプレイヤー二人がプロトガシャットの方に駆け寄っている。妨害されたことであと一歩足りない。
(だったら!)
リスクは承知でレーザーターボはもう片方のガシャコンスパローを投げ放つ。
「うおっ!」
「馬鹿! 急に止まるな!」
ライドプレイヤーの眼前をガシャコンスパローが通過し、驚いて立ち止まったことで壁になりもう一人のライドプレイヤーを足止めする。
(今だ!)
レーザーターボは前方へ飛び込み、地面を滑りながら落ちていたプロトガシャットを拾い上げる。
「よし!」
間一髪の所でプロトガシャットを回収したレーザーターボであったが──次の瞬間、その背中に火花が飛び散った。
「がはっ!?」
レーザーターボは膝を着く。背中からは白煙が上がっている。
「へぇ。良い威力じゃん」
「レアアイテムは一味違うなぁ」
レーザーターボは首だけ動かし背後を見る。二人のライドプレイヤーがそれぞれ握ったガシャコンスパローを合体させ、弓モードにしてレーザーターボの背中を射ったのだ。
「まっ……こうなるか……」
こうなるリスクを承知で武器を手放した。無手になる代わりにプロトガシャットを入手したが、中々に重い代償を払う羽目になった。
「形勢逆転ってやつ?」
「ギブアップする? お兄さん」
立場が変わったことでライドプレイヤーたちは調子に乗り始め、段々と口も軽くなっていく。
「じゃないと負けちゃうよ?」
「ゲームオーバーにでもなってみる?」
ケタケタと笑うライドプレイヤーたちであったが──
「──おい」
──レーザーターボの静かな、それでいて重い声に思わず口を閉じてしまう。ライドプレイヤーたちはレーザーターボに一言に震え上がっていた。
「ゲームオーバーなんて軽々しく言ってんじゃねぇよ、ガキ共。あんなもんは誰も経験するべきじゃないし、させるべきじゃない」
まるで知っているかのような口振りにライドプレイヤーたちは戸惑うが、なけなしのプライドを奮い立たせてレーザーターボに噛み付く。
「し、知るかよそんなの! もうそっちの負けだろ!」
自分たちの有利な状況なのは変わらないと吼える。すると、レーザーターボは視線を動かし、ライドプレイヤーたちの背後に目を向ける。
「──おい。終わったんなら自分に手を貸せ、元社長」
その言葉にライドプレイヤーたちは振り返った。ゲンムが来たということは、テンが敗北したことを意味する。絶対的なリーダーである彼の存在はライドプレイヤーたちにとって精神面支柱なのだ。
しかし、慌てて振り返った先には誰も立ってはいなかった。まるで間違い探しでもするかのように何もない空間をまじまじと見てしまう。
「あれ? ノせられちゃった?」
レーザーターボのその一言でライドプレイヤーたちは彼に騙されたことに気付くが、もう遅い。
レーザーターボが欲しかったのはたった一瞬の間。それだけあれば起動出来る。
『爆走バイク!』
起動したのはプロト爆走バイクガシャット。レーザーターボはそれをゲーマドライバーに挿す。
「──加速」
『ガッチャーン! レベルアップ!』
レーザーターボが何かをしようとしている。嫌な予感を覚えたライドプレイヤーたちはガシャコンスパローから光矢を放ち、中断させようとするが──光矢を射ったときにはレーザーターボはそこにいなかった。
『爆走! 独走!』
プロト爆走バイクガシャットから鳴る音声のみが聞こえるが、レーザーターボの姿は無い。
『激走! 暴走!』
より正確に言えばライドプレイヤーたちにはレーザーターボが見えなかった。変身途中でありながら視認出来ない速度で移動し続けているのだ。
『爆走バーイク!』
音声が終わったとき、甲高い摩擦音の後に見えなかったレーザーターボが姿を現す。急停止の際の摩擦で地面が熱を帯び、煙が昇っている。
モトクロスのプロテクターのような黄色の装甲が上半身に新たに装着され、肩部のアーマーはバイクのフロントディフェンダーと似た形状をしている。両手には二つの銃口が付けられた前輪、後輪型の腕部武装を装備。
同じライダーガシャットを重ね合わせることで変身したレーザーターボの速さの到達点。
仮面ライダーレーザーターボWバイクゲーマーレベル0。
「まさかこいつとはな」
スイッチを押すまでどんなゲームかは知らなかった。つくづく自分はこのゲームと縁があることを実感する。
「さーて、悪ガキ共。心の準備はいいか?」
そう言い、両手に持っているタイヤを回転させる。その回転音だけでライドプレイヤーたちは委縮してしまう。
「お仕置きだ。お尻ペンペンしてやる」
プロトガシャットがあるのならこれが出来るんじゃない? と妄想していた同じライダーガシャットの同時使用。