仮面ライダーゲンム~Vengeance is mine~   作:K/K

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Stage 9

「最高のデザインじゃないか、それ。幻夢コーポレーションで発売されていないゲームだよね?」

「如何にも。私が長い時間掛けて死のデータを収集し、完成させた自慢のガシャットだ! ぶはははははははは!」

 

 デンジャラスゾンビガシャットを褒められ、調子に乗ってわざわざ説明をするゲンム。

 

「そんなレアアイテムがこれから手に入るかと思うと、ワクワクとゾクゾクが止まらないなぁ」

 

 ゲンムに引けを取らない自信を見せるテンは、ついさっきゲンムによって蹴り飛ばされた腕を擦っていた。無意識の行動なのだろうが、ゲンムはその些細な行動を見逃さない。

 

「……そういえばさっきの攻撃、私のバグヴァイザーⅡでガードしていたな」

 

 ゲンムの指摘にテンは自分が腕を擦っていることに気付いてその手を止める。だが、その行動は今更であった。

 

「よくよく考えてみたらおかしな話だ。貴様は攻撃を防ぐ必要など無い。改造ガシャットの効果で攻撃判定を全てミスに出来るのだからな」

 

 得られた少ない情報からゲンムは一つの仮説を立てる。

 

「もしかしたら、クロノスのデータと改造ガシャットの能力は併用出来ないのでは? どちらもデータとして非常に繊細且つ緻密だ。下手に混ぜ合わせればどんなバグが起こるか分かったものじゃない」

 

 ゲンムはテンを指差しまるで正解のような態度で推測を語る。

 

「正解」

 

 テンははぐらかすことはせずあっさりと認めてしまう。

 

「でも、それが分かったところでねー」

『ガッチャーン!』

 

 バグヴァイザーⅡをビームガンモードからチェーンソーモードに変える。

 

「プレイヤースキルがないと攻略出来ないよ?」

 

 一定の間だけ弱点が露出するボスだと理解しても、その隙を狙える技量がなければ意味がない。テンは今度はゲンムのゲーマーとしてのスキルレベルを試しにかかる。

 

「ほう? ゲームマスターである私にゲーマーとしてのセンスを問う気か?」

「一流のゲームプログラマーが一流のゲーマーとは限らないさ。逆もね!」

『キメワザ!』

 

 バグヴァイザーⅡのボタンを押し、必殺技を発動。

 

『クリティカルサクリファイス!』

 

 チェーンソー部分から鋸刃状の光輪が出現。テンはバグヴァイザーⅡを振り抜いてそれを飛ばそうとするが──

 

「あれ?」

 

 ──本来ならば飛んで行く筈の光輪が数十センチ移動しただけで止まってしまう。

 

「くっ……ははははは! どうやらデータの抽出も完璧ではないみたいだなぁ!」

 

 ゲンムが言うように思わぬ所でバグが発生してしまい、不完全な形で必殺技が発動してしまった。

 テンはバグヴァイザーⅡを動かす。それに連動して光輪も動く。右に動かせば右に、左に動かせば左に。見えない何かで繋がっているように上下左右に動く。

 

「これはこれで」

 

 想定外の不具合だが、テンにとっては決してマイナスではない。

 

「よっ」

 

 腕を突き出す。光輪もそれに合わせてゲンムの方へ飛んで行く。

 

「むっ!」

 

 咄嗟に回避しようとしたが、光輪はゲンムの目の前で止まり高速回転を続ける。射程距離外だった模様。

 

「おりゃ」

「くっ!」

 

 テンが一歩踏む込むとその分だけ光輪が前進。タイミングを狂わされたゲンムは後方へ大きく跳んで回避するしかなかった。

 

「武器が一つ増えたって感じだ」

 

 テンが腕を下斜めに向ける。光輪が地面に突き刺さり、鋸刃で地面を削っていく。工具或いは草刈り機のような扱いでテンも段々と使い方を覚えてきた。

 

「色々と応用も効きそう──こんな風に」

 

 テンが軽く腕を動かす。地面を削っていた光輪も動く。すると、削っていた大小のコンクリート片が回転の勢いで飛ばされ、ゲンムを狙う。

 

「ちっ!」

 

 細かな礫が顔や体に当たる。大したダメージにならないが、ゲンムはそれに鬱陶しさを感じ、腕の一振りで礫を全て弾き飛ばす。

 ゲンムが動いたその瞬間、テンは腕を真横に一閃。光輪がゲンムの首を狙って飛んで来た。

 礫で意識を視界をかき乱し、腕を振るったことで一瞬出来た死角を狙っての狡猾な攻撃。

 

「ふんはっ!」

 

 ゲンムは上半身が地面とほぼ水平になるぐらい大きく仰け反らすことで光輪の下に潜り込み、死角からの攻撃を上手く躱す。

 テンの攻撃を回避すると同時にその状態のまま前進して距離を詰める。人体の可動域を超えた体勢なのだが、お構いなしに動く。ゾンビ故に多少の無茶な動きも可能なのかもしれない。

 

「うわっ。気色悪っ」

 

 上半身を仰け反らせた姿勢のまま接近してきたゲンムに、テンは鳥肌が立ちそうになる。

 その瞬間、バネ仕掛けのように上半身が起き上がり、ゲンムの額がテンの額に打ち込まれた。

 

「いった!」

 

 額を押さえながら後退するテン。ゲンムの予測不能な動きのせいでついに一発貰ってしまった。

 

「ふぅははははははは! 他愛もない!」

 

 ゲンムの予想通りクロノスの力を切り替えなければ絶対回避は発動しなかった。本人は見抜いて当然だと思っているが、それでも二つの意味で当たったことが嬉しいらしく喧しい哄笑を上げている。

 

「──一発当てたぐらいで調子に乗り過ぎじゃない?」

 

 ゲンムの哄笑にテンも流石にカチンと来たのか先程よりも低い声を発する。

 

「いくらでもやり方はあるし」

『キメワザ!』

 

 手慣れた動きでビームガンモードにするとすぐさまキメワザを発動。

 

『クリティカルジャッジメント!』

 

 バグヴァイザーⅡからばら撒かれる光弾。それらが雨のようにゲンムへ降り注ぐ──かと思われたが、発射された光弾は全て空中で静止した。

 

「また!?」

 

 再び不具合が発生し、クリティカルジャッジメントの光弾が全て止まってしまうというバグが起こってしまう。最初は上手く行ったのに二度目は思った通りの動きをしなかったので、テンは苛立った様子でバグヴァイザーⅡに挿してあるガシャットを指で叩く。

 

「く、ふはははははははっ! お粗末な結果だなぁ!」

 

 ここぞとばかりにゲンムはテンの失態を笑う。クロノスのデータを抽出したことには素直に驚いたが、結果を見ればゲンムの言う通りお粗末なもの。ライドプレイヤー状態でクロノスの技の一部を再現したのは大したことかもしれないが、所詮はその程度。クロノスの代名詞とも言うべき能力も再現出来ていない──もしくは再現不可能だったのを見ると、まだまだ青い。

 

「神の才能を持つ私の技を模倣するのには、君は遥かに力不足だということだ! ふぅぅははははははははは!」

 

 恥も外聞もなくよくここまで出来ると感心してしまうような馬鹿笑い。自分の技術が模倣されたと思っていたこともあり、反動で調子に乗り続けている。他人とは比較にならない才能を持つのは事実だが、それを誇示し続けるというゲンムの悪い癖が前面に出ていた。

 そのせいでテンに対し狙ってくれと言わんばかりの隙を晒す。

 

「……」

 

 テンはゲンムが笑い続けている間にライドウェポンをガンモードにする。そして、空中で静止している光弾をライドウェポンから発射した光弾で撃ち抜いた。

 静止していようとも技としての性質は残っている。ライドウェポンにより射抜かれたことで光弾は爆発。それが誘爆を引き起こして連鎖爆発となる。

 

「ははははは──」

 

 調子に乗っていたゲンムは連鎖爆発に呑み込まれて吹っ飛ばされ、壁面に激しく叩き付けられた。

 

「お、おのれ……!」

 

 顔面がめり込む程の勢いで叩きつけられたが、ゲンムは壁から顔面を引き抜いてテンを睨む。

 

「社長さんって結構ギャグキャラだよね」

 

 強いことは間違いないのだが、すぐに調子に乗って足元を掬われるのを見てテンは素直にそう思う。言動は間違いなく悪人寄りの筈なのだが、抜けている所もあるので憎めない。

 

「言っていることの意味が分からない!」

「自覚無しかー」

 

 ゲンムの反応にテンは笑えばいいのか迷ってしまう。本人の全力疾走が盛大に空回りしているのがおかしいのだが、無自覚となると笑うのが悪い気がした。

 

「まあいいや。寧ろ僕的にはプラスだよ。親しみやすいから。ちょっとうるさくて鬱陶しい所はあるけど」

「喧しい! 私を量るな!」

 

 上から目線の褒め言葉には流石に良い気はしないらしくテンに怒声を浴びせる。テンはゲンムのその態度に段々慣れてきたのか軽く肩を竦めるだけであった。

 

「僕はもっと社長さんのこと知りたいんだけどなー」

 

 テンはそう言いながらバグヴァイザーⅡを構える。そのとき、パキンという亀裂音が鳴った。

 

「──あっ」

 

 音源を探すテン。そして、気付く。バグヴァイザーⅡに挿してあるクロニクルガシャットに罅が入っている。破損したのかクロニクルガシャットから火花と煙も上がり出す。外装の一部も熱で変形している。

 

「あっちゃー」

 

 調子に乗ってクロノスの力を使用していたが、クロニクルガシャットへの負荷はテンが思っている以上に強いものであった。クロノスの力を無理矢理再現したせいでクロニクルガシャットが限界を迎え、壊れてしまった。元々違法改造を施していたこともあり使い物にならなくなっている。

 

「もうダメだね、これは」

 

 バグヴァイザーⅡからクロニクルガシャットを引き抜き、投げ捨てる。その行動はゲンムの怒らせるには十分であった。

 

「私の前でガシャットを粗末にするなぁぁぁ!」

 

 ゲンムは衝動のままゲーマドライバーからデンジャラスゾンビガシャットを引き抜き、叩き込むようにキメワザスロットに挿す。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 デンジャラスゾンビガシャットのデータを読み込み準備が整うと、ゲンムはもう一度スイッチを押す。

 

『デンジャラスクリティカルストライク!』

 

 走るゲンム。その両足に赤黒い光が宿り、黒い靄を纏う。

 

「はあああああっ!」

 

 最高速度に達するとゲンムは跳躍。ミサイルの如く両足からテンへ突っ込んでいく。

 

「ふっ」

 

 必殺技が発動してもテンの余裕は変わらない。クロノスの力が使用出来なくなったということは、他の改造データが使用出来ることを意味する。

 テンは体に巻き付けてあるクロニクルガシャットの一つを起動させ、違法改造を発動。これによりテンはゲームエリア内に於いて攻撃対象ではなくなり、当たり判定無しのオブジェクト同然の存在と化す。

 ゲンムの右足がテンに命中。しかし、表示されるのは『MISS』。当たっている筈なのだが当たっていない判定となりテンにダメージが入らない。

 だが、ゲンムの攻撃は一回では終わらず続けて左足を打ち込む。だが、これも『MISS』の判定。やはりテンにダメージを与えられていない。

 

「はあああああああああ!」

 

 ゲンムはやけくそのように連続キックをテンへと打ち込む。左右の足から繰り出されるキックに応じて表示されるのは『MISS』の文字のみ。

 テンはゲンムに無駄だと思い知らされる為に敢えて無防備な状態で攻撃を受け続けていたが、その内に飽きてきてゲンムに反撃しようとする。

 その時であった。『MISS』と浮かび上がった文字にノイズが走る。

 

「……ん?」

 

 異変に気付いたテン。視線がエフェクトの方に向けられ、ゲンムから離れた間にゲンムの右足が胸に当たる。何度目かになる『MISS』の文字。すると、文字に再びノイズが走ると『MISS』の文字が『HIT』へ書き換えられ、途端にテンの胸に衝撃が起こる。

 

「ぐうっ!?」

 

 テンが驚く間も無く、次々と打ち込まれるゲンムの連続キック。『MISS』と表示されなくなり全て『HIT』と表示され、テンにダメージが発生する。

 遂にはガードの体勢に入るテン。ゲンムは着地し、地面を這うような程体を低くした体勢から敢えてテンがガードを固めている箇所を狙い下から蹴り上げる。

 

「っ!?」

 

 テンの体が軽々と空中に蹴り上げられる。ゾンビアクションゲーマーレベルⅩ―0とのスペック差を考えればこれぐらいは余裕のこと。

 ゲンムはテンを追って跳躍。追撃の右キックをテンへ炸裂させようとする。

 

「ううっ!?」

 

 テンはライドウェポンとバグヴァイザーⅡを交差させて再び防御を固める。完全に防ぐことは出来ないと頭では理解しており、少しでも威力を軽減させる為の苦肉の策であった。

 

「はっはぁぁぁぁ!」

 

 ゲンムもそれを理解しており、テンのささやかな抵抗を笑いながら右足を叩き込む。

 右足を打ち込まれたライドウェポンはへし折られ、バグヴァイザーⅡはモニター部分に罅が入るもののそれ以上壊れることはなかった。しかし、ゲンムのキックを防ぐことは出来ず、テンは空中で蹴り飛ばされ、天井付近の壁に背中を強く打ち、そのまま落下。受け身をとることも出来ず無様に全身を床に叩き付ける結果となる。

 

「ごほ! ごほ! ごほ!」

 

 体を強く打ったことで苦しそうに咳き込むテン。ゲンムの必殺技を受けてその程度で済んだのは奇跡と言える。ゲームオーバーになっていてもおかしくなかった。

 

「……やられた」

 

 テンは自分の身に何が起きたのか察する。

 

「いつの間にアップデートしたの……?」

 

 途中で攻撃判定が復活したのは、テンの改造データをアップデートにより無効化したからである。問題はそれがいつ行われたのか。

 

「ふふっ」

 

 ゲンムはゲーマドライバーからプロトマイティアクションXガシャットオリジンを抜き、得意気な様子でテンに見せる。

 

「このガシャットに対改造用のプロテクトコードを仕込んでいたのさ」

 

 永夢にはセキュリティ専用のガシャットを渡し、自分のガシャットにはプロテクト用のデータを直接入力していた。

 

「ゲンムが触れている間に不正なデータは修正されるようにしておいた! 私の攻撃を受けている間に君の不正ガシャットは使用不可能になったということだ!」

 

 ゲンムに言われ、テンは体に巻き付けてある不正コピーしたクロニクルガシャットの起動を試みる。ゲンムが言っている通り何個かのガシャットはスイッチを押しても起動しなかった。

 

「別に触らなくてもゲームエリアとかに直接干渉するようなこと出来たんじゃない?」

 

 修正するのに触れるという条件を設けたゲンムにテンは素直な疑問を投げ掛ける。

 

「そんなことをしてもゲームとしてはつまらない! 様々な条件をつけることでゲームはより楽しく、面白くなるのだ!」

 

 全てはゲーム。ゲームを全てにおいて優先するゲンムの思考に、テンも尊敬するべきか呆れるべきか迷ってしまい結果として言葉に詰まってしまった。

 

「──さあ、最早君に勝ち目は無い。大人しく私にバグヴァイザーⅡを返しなさい」

 

 先程までのハイテンションとは打って変わって落ち着いた雰囲気で話し掛けてくる。声だけ聞けば降参すれば見逃してくれそうな気になるが、テンは今までのゲンムの言動からその言葉を全く信じていなかった。

 

(多分素直に返したら殺されるな、僕)

 

 そんなことを内心で思うテン。ゲンムは傲慢でありゲームの為なら人の命など何とも思わない現代の人間の倫理観の外に居る者。しかし、彼とて心はある──

 

(バグヴァイザーⅡを渡した瞬間、自分が行った過ちを後悔させてやろう! ふはははははははは!)

 

 ──が、そんなものなど些細なことでありテンが懸念していた通りのことを心の中で思っていた。

 

「悪いようにはしない。君の安全は保証しよう」

 

 ゲンムが何かを言う度にテンは胡散臭いという感想しか抱かなかった。

 

(絶対何かしてくるな……どうしよう)

 

 絶体絶命な状況に追い詰められているが、テンは冷静であった。命の危機だというのに他人事のように今の状況を見ている。彼の生きてきた環境が特殊であった為に生死について鈍感を通り越して無関心であった。

 しかし、そんな彼でも抗おうとしている。命が惜しい訳ではない。足搔く理由は、ゲームという勝負に負けたくないという一点のみ。彼にとってゲームは唯一無二の生き甲斐なのだ。

 

(……そうだ)

 

 テンはあることを思い出す。

 仲間と一緒に違法ガシャットを使って遊んでいたとき彼らは一度だけバグスターの襲撃を受けた。

 あの時は全員身構えたが、何故かバグスターはテンたちを見て嫌悪するような態度をとり、触れることすら拒んで何処かへ行ってしまった。

 何故あんな反応をしたのかテンたちが話し合った結果、推測として挙げられたのは違法改造を施したガシャットに本能的な嫌悪感を抱いていたのかもしれないというもの。

 その推測に至ったテンはまたバグスターに襲われるかもしれないと思い、御守り代わりにとびっきりの改造ガシャットを用意していた。

 残念ながらバグスター相手に使う機会はなかったが、その代わりに相応しい相手がすぐ傍にいる。

 どんなことが起こるのかテンにも分からないが、やらないよりかはましである。

 テンは密かにバグヴァイザーⅡに改造ガシャットを挿入。すると、バグヴァイザーⅡから警告音のようなものが鳴り出す。これはテンにとっても予想外のことであった。

 

「ッ貴様! 私のバグヴァイザーⅡに何をした!」

 

 テンが怪しい行動をしていることに気付き、ゲンムは激昂しながら駆け寄って来る。

 こうなってしまうと後は破れかぶれであった。

 

「もうどうにでもなれ!」

 

 テンはなりふり構わず腕に装備していたバグヴァイザーⅡを外して両手持ちにすると思い切り前へ突き出す。全てのタイミングが奇跡的に噛み合った結果なのか突き出されたバグヴァイザーⅡはゲンムの胸に押し当てられた。

 

「──あぁ?」

 

 油断していたゲンムは胸に当てられたバグヴァイザーⅡを見下ろす。すると、バグヴァイザーⅡにセットされていた改造ガシャットのデータがゲンムへと流し込まれる。

 

「あぼびゃぼばばばばばばば!」

 

 ゲンムは奇声を発して仰け反る。同時にその体がノイズが走ったかのように崩れては戻るを繰り返す。

 

「うびょあぶらららららら!」

 

 最早人の声ではなく電子音に等しい叫び声を上げながら激しく痙攣するゲンム。

 電流のような光を発し、体の至る箇所がブレ始める。

 

「何だこれ……」

 

 やった本人も困惑してしまう程の劇的な反応。テンがゲンムに流し込んだ改造ガシャットは、テンがガシャットに違法改造をする過程で様々な改竄を試みたガシャットであった。色々と弄り過ぎたせいでテン本人ですらもうどうなっているのか分からない代物であり、ゲームとして遊ぶことの出来ない物と化していた。

 そんな滅茶苦茶にされたガシャットのデータがゲンムに直接注入されたのだ。バグスターである彼にとっては劇物を流し込まれたに等しい。

 

「%$##$%#“”“”##!」

 

 ほぼ電子音声と変わらない奇声を発しながらゲンムが仰け反る。すると、ゲーマドライバーから火花が出てスロットから二本のガシャットが強制排出される。ついでにゲーマドライバーも黎斗から弾かれるように外れてしまった。

 

「$**‘$#&&&&……!」

 

 変身が解除され人の姿へ戻った黎斗。しかし、発する声はやはり人のものではなく電子音そのもの。体の異変もまだ続いており、画面の乱れのような現象が黎斗の体に起こっていた。

 

「どうなっているの……?」

 

 バグ塗れのデータを流しただけなのに変身が解除されても異常な反応をする黎斗を見て、テンは一つの考えに至る。

 

「もしかして……社長さん、人間じゃないの?」

 

 黎斗がバグスターであることに薄々気付き始めるテン。

 

「100011111000000100!」

 

 人語を発していない今の黎斗にそれを答える余裕は無かった。ただ、体の一部がテクスチャーのようにバラバラに剥がれた後、元に戻るという現象を見れば答えは自然に分かってしまう。

 

「00011111000000100001!」

 

 黎斗は体を激しくブレさせながら黎斗は落ちているゲーマドライバーを拾い上げる。その間、動きの一つ一つが残像のように残り、複数の黎斗がワンテンポ遅れながら行動している。

 這うような動きでプロトマイティアクションXガシャットオリジンも拾い、ゲーマドライバーを装着してガシャットもスロットに入れる。

 

「#$%&!」

 

 恐らく変身と言いながらゲーマドライバーのレバーを開く。しかし、ゲーマドライバーは反応しない。黎斗はガチャガチャとレバーを動かし何度か同じ事を繰り返すがゲーマドライバーは機能せず、変身出来なかった。

 改造データを取り込んでしまった影響は変身能力にも及んでいるらしく、黎斗はゲンムへの変身が出来なくなっている。

 

「&%5##“”!!!!」

 

 雑音と変わらない絶叫を上げながら激昂する黎斗。

 

「どうやら……僕の勝ち?」

 

 苦し紛れの反撃が予想外のクリティカルヒットを発生させたことにテンは笑いを堪え切れない様子。

 計算と技術の果てに得られる勝利も格別だが、偶然に偶然が重なったことで得られる幸運の勝利にも他とは違う勝利の味わいがあった。

 

「&###!!!!」

 

 テンの勝利宣言に異議を唱えていると思われる黎斗は、凄まじい形相でテンに駆け寄ろうとし──転倒した。

 這いつくばった黎斗は後ろを見る。地面に残された自分の足。それが倒れた黎斗の足首から先と紐のようなテクスチャーで繋がっている。

 改造ガシャットにより体の一部が不具合を起こし、バグにより黎斗の片足がおかしなことになっていた。

 バグは片足だけでは収まらず、片腕も伸び縮みをし出し細くなったり太くなったり或いは色が滅茶苦茶になるなどの現象が起こっている。

 

「もうダメみたいだね」

 

 バグの浸食によりおかしくなっていく黎斗を見下ろしながらテンは少し寂しげに呟く。

 黎斗の戦いは怖く、苦しく、驚きが詰まった楽しい時間であった。それを終わらせたのはテン自身だが、ゲームを終わらせるのはいつだってゲームプレイヤー自身である。それは仕方がないことだと割り切る。

 手段はどうであれ勝ったと確信したテン。それによって出てしまった。経験不足から来る青さと未熟さが。

 黎斗の目はまだ死んでいない。

 

「%&|**+#%!」

 

 黎斗が目一杯手を伸ばす。黎斗の意思に反応するようにバグを起こした手が射出されるように伸び、テンの腕にあるバグヴァイザーⅡを掴む。

 

「──あっ」

 

 テンが驚いたときには既に手遅れ。バグヴァイザーⅡを掴んだ手はゴムのように縮み、テンの腕からバグヴァイザーⅡを奪い返す。

 

「#$って$$たな……!」

 

 辛うじて聞こえる言葉を吐きながら黎斗は立ち上がる。その拍子で装着していたゲーマドライバーが外れたが黎斗は気にもしない。その手には既に代替手段が握られていた。

 黎斗は腹部にバグスターバックルを巻き付ける。もしもの場合を想定して事前に用意したものである。

 バグスターバックルにバグヴァイザーⅡをセットすることで武器からバグルドライバーⅡという変身の為のドライバーとなる。

 

「覚悟%#……!」

『デンジャラスゾンビ!』

 

 黎斗はいつの間にか回収していたデンジャラスゾンビガシャットのスイッチを押し、バグルドライバーⅡのスロットに挿し込む。しかし、本来ならばある筈の反応が無い。

 そのままスロットの反対側にあるスイッチを押す。やはり無反応であった。

 不純物と言える改造データが混じってしまったことでゲーマドライバー同様にバグルドライバーⅡも起動しない。

 

「%&$! %&$!」

 

 黎斗は叫びながら何度もスイッチを押す──というか殴り付けている。だが、無情にもバグルドライバーⅡは沈黙を続けていた。

 

「ちゃんと終わらせようか」

 

 いつまでも黎斗の足掻きを眺めるつもりはなく、テンは黎斗に向かって歩き出す。全ての武器を失ってしまったが、今の黎斗ならば素手で十分。

 黎斗はテンの接近に目もくれずバグルドライバーⅡを必死な形相で起動させようと悪足搔きし続ける。

 拳が壊れるのではと思えるぐらいの勢いでスイッチを殴り続ける黎斗。

 

「%&$ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 魂の底から吐き出される絶叫と共に振り上げられた拳がバグルドライバーⅡに叩き付けられた。

 

『バグル──』

「え?」

 

 黎斗の執念が遂に実ったのかバグルドライバーⅡが音声を発する。その事にテンは驚き、黎斗は顔を喜びで歪めるが──

 

『バグルバグルバグルバグルバグルバグルバグルバグルバグルバグルバグルバグル』

 

 正しい起動音声は鳴らずひたすら同じ音声が繰り返される。

 

『バグルバグルバグルバグルバグルバグルバグル』

『デンジャーデンジャーデンジャーデンジャーデンジャーデンジャー』

 

 ガシャットの音声もおかしくなり、さながら警告音であった。

 

『バグルバグルバグルバグルバグルバグルバグル』

『デンジャーデンジャーデンジャーデンジャーデンジャーデンジャー』

『デスデスデスデスデスデスデスデスデスデス』

 

 音声が二重、三重に合わさり喧しいものと化す。また、これ以上続けたらどうなるかを示すかのようであった。

 騒がし続けるバグルドライバーⅡとデンジャラスゾンビガシャットの音声。だが、それが不意に止まり──

 

『バグル』

『ゾンビ』

 

 ──その音声の後、黎斗の全身が解像度の低いモザイクのような姿と化す。黒色のピクセルが無数に蠢くとそれらが一斉に裏返しになっていく。

 黒は白に反転すると突如として解像度が上がってモザイク姿が解除された。

 その姿は原型となったゾンビアクションゲーマーレベルⅩ-0に近いが、改造データでバグってしまったせいで所々がおかしくなっている。

 腕や脚、肩など部位のテクスチャーが剥がれたり戻ったりし、顔の右半分はまだ解像度の低くドット絵のような状態になっている。左胸にライダーゲージがあるのだが、そのゲージは増減を繰り返し1と100の間を右往左往している。

 変身していることが不思議に思えるぐらいにバグに塗れた姿。黎斗の底知れない執念が為した奇跡のようなその姿の名は──仮面ライダーゲンムバグルゾンビゲーマー

 




あと2話で完結させる予定です。
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