試作品集   作:ひきがやもとまち

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何日か前から暇な時間を見つけて、なんとなく書き進めていたオリジナル作品を投稿させていただきました。タイムボカンシリーズの悪女キャラが好きで、他のユーザー様が書いたタツノコ的オリジナル作品に影響されたから書いただけの、しょうもない代物ですがよろしければ暇つぶしにでもどうぞ。


おとぎ話のヒロインになりたくて☆

 ここは日本のどこかにあるドコカ町。その西の方にある池名さんちのお宅の二階。

 

「鏡よ鏡よ鏡さん♪ 世界で一番カワイイのはわ・た・し☆

 ・・・イヤン! そんなホントのことを~!!」

 

 しゃべらない普通に大きな鏡の前で独り言を叫びながら、一人っきりで「イヤンイヤン」している変わり者の、でも確かにカワイイ女の子は『池名イコ』ちゃん。小学五年生。

 今見たとおり、自分を世界で一番かわいくて、いつの日か白馬の王子様が迎えに来てくれると信じ込んでる、夢見がちすぎなバカだけど可愛いいのだけは確かな女の子。

 

「さぁ~て、今日も隣に住む幼なじみのお世話をしに行かなくちゃ♪ やっぱりダメな幼なじみのお世話をしてあげるのはカワイイ女の子の定番だものね~☆・・・って、きゃあっ!?」

 

 ズガン!と爆音が轟き、鼻歌交じりに出かけようとしたイコちゃんの足を止めさせました。見るとお隣さんの家で火事に起きているではありませんか!

 いけない! 幼なじみのピンチだわ! 助けに行かなくちゃ! ――と、意外にも友情には熱いイコちゃんは大急ぎで走り出してお隣さん家の前まで行くとヤジ馬が既に群れをなして入り込めませんでした。

 でも幼なじみには会うことが出来ました。いざという時用の脱出路をつかって外に出てたからです。

 

「シズク!? 大丈夫だった!? 怪我してない!?」

「・・・う、ん・・・平気だ、よ・・・?」

 

 幼なじみの女の子、シズクちゃんは大丈夫そうでした。

 髪の毛がピンと跳ねてたり、着ている白衣がボロボロになってたりはするけど、それは何時ものことなので爆発のせいかどうか分かりません。だから気付かないフリして無視です。

 

「無事で良かったわ・・・。でも、一体何があったの?」

「う、ん・・・。なんかよくわからない理由、でマシーンを作ってた、ら、よくわからない理由で爆発し、て、よくわからない理由でおとぎ話の世界に行ける機械が出来たみた・・・い?」

「よく分からない多いわね!!」

 

 何時ものことだけど幼なじみのシズクちゃんは、よく分からない理由でトンデモナイ発明品を作り出してくれやがってました!

 

 ――でも、今回だけはナイスです!

 

「でも、よくやったわシズク! グッジョブ!」

「・・・ほ、ぇ・・・?」

 

 訳がわかってない幼なじみが小首をかしげるのを尻目にして、イコちゃんは夢見る乙女のポーズで天に向かって感謝を捧げます。

 

(神様仏様ついでにシズク! ありがとう! 私、おとぎ話の世界で幸せになっても貴女たちのこと忘れないからね!)

 

 こうしてイコちゃんは幼なじみをだまくらかし、おとぎ話のヒロイン役を自分と入れ替えさせる『おとぎ話のお姫様役はカワイイ私の方がふさわしいと思うの計画』を実行させたのです・・・・・・

 

 

 

 

 ちょうどその頃。

 ドコカ町の西の方にある、シズクちゃん家の火事が見えないお屋敷の地下室で、科学とは異なる古き時代の魔術によって、おとぎ話の世界へ行こうとしている女の子がおりました。

 

「うふふ・・・ついに完成しましたわ。我が家に伝わる伝説の大魔術『玉手箱マジック』が!

 この玉手箱マジックと、ご先祖様と互角の美しさを持つわたくしの美貌があれば西洋のおとぎ話世界を征服することなんて簡単ですわ! オーッホッホッホ!!」

 

 大きな綴り箱の前で高笑いしながら、大っきなオッパイを「バインボイン♪」と揺らしまくる、お色気過剰で黒髪美人な女の子は『竜宮城乙姫』さま。これでも小学五年生。

 日本一のお金持ち一族『竜宮城家』の跡取り娘で、その正体は浦島太郎を誘惑して玉手箱を開けさせお爺さんに変えてしまった竜宮城に住む乙姫様の十三代目子孫に当たる女の子。

 

「美しさによって東と西の世界すべてを支配しようとしたご先祖様の野望は、十三代目乙姫であるわたくしが実現してご覧に入れましょう・・・。ですからどうか復活して、お力をお貸し下さいませご先祖様! えいっ!玉手箱オープン!!」

 

 叫んだ彼女は箱を開けて、竜宮城家に伝わる忘れられた大魔術『玉手箱マジック』により初代乙姫様を復活させるための呪文を高らかに唱え出すのでした!

 

「エロイナ・エッチ~ナ・・・、エロイナ・エッチ~ナ・・・、開け箱! びびでばびでぶー!

 そして、わたくしの願いを叶えたまえー!!」

 

 ・・・変な呪文と、ヘンテコな踊りを踊らないと使えないのが、この魔術の欠点でした。

 ですが彼女は『美しい自分がやることは全て美しい』と信じ切っていますので、全然気にしません。ある意味とても幸せな女の子でした、十三代目乙姫様って。

 

 ドロロロ~~~ン。

 

『妾は竜宮城の乙姫一世。妾を蘇らせた子孫はそなたじゃな? 見事な心がけじゃ。力を貸してやる故、妾が果たせなかった西洋のおとぎ世界征服を必ずや成し遂げてくるがよい!』

「ははぁっ! ありがたき幸せでございますですわ、ご先祖様!」

『うむ! では征けい!!』

 

 そう言って、今より遙かに神秘の多かった日本昔話の時代の魔術をつかえる初代乙姫様の力により、十三代目乙姫様も西洋のおとぎ話世界の登場人物として入れ替えられたのです!

 

『ア~ブラカタブ~ラ、ムーンクリティカルアタック・パワーアーップ!!

 イデオン・シェンロン! 我が子孫をおとぎ話の世界へ飛ばしたまえ――っ!!』

 

 ・・・・・・どうやら変な呪文とヘンテコな踊りを踊らないと使えない魔術は、竜宮城家の伝統だったようですね・・・・・・。

 

 

 

 

 そしてここは、昔々の西洋ヨーロッパのどこかにある、トアル王国。

 そのトアル城下町に比較的大きな屋敷が建っておりました。

 

 屋敷には夫の財産目当てで結婚したあと殺してしまった、結婚詐欺師の継母と娘たち姉妹。それから唯一の遺産存続人である若く美しい娘のシンデレラが住んでいました。

 継母たちはシンデレラに嫌がらせをして自分から家を出て行かせて、これ以上の罪を犯すことなく合法的に遺産の全てを手に入れようと日々シンデレラに過酷な労働を強いていましたが、身も心も美しいシンデレラは彼女たちを恨むことなく耐え続ける日々を送っていたのです。

 

 なぜならシンデレラは、

 

「ああ! なんて過酷な運命なんでしょう! これもすべて私が可愛すぎるから嫉妬させてしまっているのが原因なのね! 可愛すぎることは罪!!」

 

 ――自己陶酔の局地型な性格をしたイコちゃんと、入れ替わっていたからです。

 シズクちゃんの発明したマシーンによって、まんまとシンデレラになることに成功したイコちゃんは、おとぎ話の世界に生きる女の子シンデレラとして継母たちのイジメに耐えながら、自己陶酔に浸りながら時を待ち続け。・・・やがて、その日がやってきました。

 

 王子様の花嫁になる子を探すため国中から女の子が集められ、お城で舞踏会が開かれるから、招待状がシンデレラの家にも届けられたのです。

 お金目当てで亡き夫と結婚した継母としては、夫よりも金持ちな王子様を逃す手はありません。自分はバツイチなので若い男の子は気にしそうですが、娘たちは彼氏いない歴=年齢の未婚女性なので問題ないでしょう。

 

 ただし、もちろんシンデレラには行かせないよう謀略を用います。

 自分たちより金持ちになるのが許せないと言うだけではありません。万が一シンデレラが王子様に気に入られでもしたら彼女を虐めてきた自分たちは身の破滅です。金持ち夫の財産など国家権力のまえでは塵芥にも均しい専制君主による王権政治。

 今まで虐げてきた側として、虐げられてきたシンデレラの玉の輿も立身出世も許すわけにはいかない彼女たち母娘は、舞踏会用のドレスを自分たちが着るぶん以外はすべて撤去し、お城に行くためのレンタル馬車は今日のために一台残らず予約で満杯であることを確認して、シンデレラにも来ていた招待状は川に捨てて紛失届を出しておきました。

 

 結婚詐欺師である継母は法的にも問題ない状況を作り上げられたことに満足し、シンデレラには家に残って留守番するよう言いつけてから、

 

「ああ、それから私たちが帰ってくるまでに掃除と片付けとベッドメイキングと、あとそれから・・・」

 

 念には念を入れて、朝までかけても終わらない量の仕事をこなすように命じ、やっとこさ安心して舞踏会に行くことが出来るようになったのです。

 根が小悪党なぶん、心配性なんですよね継母さんは。少しでも不安要素が残っていると怖くて仕方がないのです。

 

 そして一人だけ、お屋敷に残されたシンデレラは心優しい性格の持ち主なので、時間がかかり過ぎて舞踏会には絶対行けなくなる量の命じられた仕事だろうと真面目に――

 

「ふぅ。まっ、こんなもんでしいでしょ。どうせ私をイジメることが目的で、真面目に確認する気なんてない人たちだし。

 窓枠とか部屋の隅っことか、掃除の時にホコリを取り逃しやすい場所ばっかり見ようとして全体を見ようとしない小物の心理は、ほーんと読みやすくて楽でいいわぁ」

 

 ――こなす訳などなく。見栄えばかり気にして中身を見ようとしない小悪党の継母たちが自分をイジメるためだけに着目している場所を徹底して終わらせた後は、テキトーに見栄えを取り繕うだけで掃除終了~。

 残った時間はお茶を飲んだり、クッキーを食べたりしながら、魔法使いのお婆さんが来るのをて優雅に待ちます。

 

 家の雑用をすべて押しつけられてるシンデレラにとって、在庫数の確認も改ざんも思うがまま。味の違いも判らないのに高級茶葉を欲しがる継母には三箱一セットの安物を買ってきてあげ、本物と偽物を見分ける目も持ってないくせに高級ブランドの衣服を欲しがる義理の姉たちには大量生産されたパチモンを予定より多く買ってきては喜ばせ、差額の全てを親がくれぬお小遣いとして自分の懐に収めてしまってるシンデレラの暮らしは意外なほど優雅で豪勢だったのです。

 

 人からカワイイと思ってもらうためなら努力も金も惜しまないイコちゃんと、表面的な見栄えまでしか見ようとしない継母たちでは、見栄にかける情熱の度合いが違うのです。

 イコちゃんと入れ替わっているシンデレラと張り合うには。継母たちはザコ過ぎました。

 

「見栄っ張り力たったの5・・・ゴミのような数値しか持たないあの人たちが、エリート見栄っ張りの私に勝てるわけがないのよ。うふふふ☆」

 

 勝利の笑みと共にダージリンティーを飲みながら、継母たち用に何度かつかって味の薄くなった茶葉の量を水増しして偽装する作業をおこなっていると、玄関の方から扉をノックする音が聞こえてきました。

 

 シンデレラの瞳が「キラーン☆」と光り輝き、「はぁ~い♪ 今出ま~す♡」と甘ったるい声と共に扉を開けて来客を迎え入れたところ、お客さんはマントを広げてシンデレラに向かい礼儀正しく自己紹介してくれたのです。

 

「はじめまして、シンデレラ。私は、あなたの優しい性根と正しさに心打たれて願いを叶えに来てあげた、西の森に住む心優しく美しい美人の魔法使いのお姉さ――」

 

 

「ああ! あなたは! 魔法使いのお婆さん!!!」

 

「誰がお婆さんか! お姉さんと呼びなさいですわアホンダラ!!」

 

「ほげぇっ!?」

 

 

 バキィッ!っと、夢見る乙女ビジョンで瞳を曇らせ言ってはならない言葉を言ってしまったシンデレラの脳天に、怒り狂った美人で美しい魔法使いのお姉さんによる裁きの杖ゲンコツが振り下ろされ、失言問題で罰されてしまったシンデレラことイコちゃんは潰れたカエルのように無様な悲鳴を上げて床をのたうち回らされてしまいましたが、魔法使いのお婆さ――もとい、お姉さんは気にしようとせず、話を先に進める道を選ぶのでした。

 

「コホン。――シンデレラよ、あなたの優しく正しい性根に心打たれた私が魔法の力で貴女を舞踏会に行かせてあげましょう。

 舞踏会に着ていく用の豪華なドレスも、御者付き馬車も招待状も用意してあげます。おまけに今ならアフターケアで、ガラスの靴も付いてあげましょう。どうです? 乗らない手はないでしょう?」

「本当ですか!? 若くて美人な魔法使いのお姉さん!!」

 

 イコちゃん、即座に復活。キラキラお目々で魔法使いのお姉さんに華麗なる手の平返し。

 物質的欲望には強いんだけど、カワイさと乙女の夢見る心を刺激してくる話には激弱な彼女には、この手の美味い話には疑ってても飛びついてしまう第二の本能レベルで悪癖を持ってる女の子でもあったのです。

 

「ええ、本当です。そのためにカボチャもネズミもハイだって必要ありません。呪文一つであなたの見た目はカワイイお姫様へ早変わり」

「スゴい! スゴいです! さすがは魔法使いのお姉様!!」

 

 イコちゃん、心の底から大絶賛。嫌いだから触りたくないネズミも、思いから持ち上げたくないカボチャも、汚いから早くゴミ箱に捨ててしまいたかった竈の灰さえ必要とせずに夢のお姫様にしてもらえるだなんて、まるで本物の魔法のようです! 魔法なんですけどね!

 

「では、あなたに魔法の呪文をかけましょう。

 アーメン、ラーメン、カモン・ベイベー! ぼくイケメン!

 出でよ馬車と御者! そして彼女にドレスとガラスの靴を与えたまえ――っ!!」

 

 ボワワワ~~~ン♪♪

 魔法使いのお姉さんが魔法の呪文を唱えると、愛と煙が部屋中に振りまかれて充満し。

 

「ケホッ、ケホッ。ち、ちょっと煙いかも・・・」

「ごほっ、ごほっ。そ、それについては同感ですわね・・・。次から密閉空間で使うときには出力を押さえるようにしておきましょ・・・ゴホッ!」

 

 魔法をかけられたシンデレラと、魔法をかけた魔法使いのお姉さん本人まで巻き込んで煙幕みたいな被害をもたらしてから、ようやく煙が晴れて前が見えるようになると、そこには。

 

「スゴい! スゴいわ! スゴすぎるわ! 本当に豪華で綺麗な馬車と、立派な御者さんたちが現れてる! しかも私は綺麗なドレスと純銀製のティアラまで! スゴすぎます!」

「オーッホホホホ! まぁ、それほどのこともあるスゴすぎる力なんでございますけどね! わたくしの復活させた我が家に伝わる大魔術は!!」

 

 カボチャの馬車より豪華で綺麗な馬車と、ネズミを変化させただけの偽物とは格の違うイケメンの御者たちと、ブリリアントカットされたダイヤモンドで彩られた綺麗すぎるドレスに、混ざり物が一切入り込んでいない銀百%のティアラまでセットで付いてきた自分の姿にシンデレラ感激! 

 彼女の人生は今この時を迎えるためにこそあったと断言できる心境に、今のイコちゃんはなっていました。

 これと比べたら、魔法使いのお姉さんが口走ってた恥ずかしい呪文と、恥ずかしすぎる踊りは忘却の淵に沈めて永久封印してあげてもお釣りが出てきまくるぐらいでした。

 

「あなた本当に魔法使いさんだったんですね。ちょっとだけ疑っちゃってごめんなさい。

 変な呪文とヘンテコリンな踊りを踊り出しちゃったから頭のおかしい人かと、一瞬だけでも考えちゃった私が間違ってました!

 もー、イコちゃん悪い子! メッ! 反省! でも、カワイイから許しちゃってもいいわよいね?」

「オホホホ!! いい加減にしやがらないとぶっ飛ばしたくなりますわよ、このペチャパイ娘めが。

 まぁ、それは一先ず置いておくとしまして!

 シンデレラさん! 早く馬車に乗ってお城の舞踏会へ行ってらっしゃいませな! さぁ早く!早く!

 ハリー!ハリー! ハァァァリィィィィッ!!!」

 

 ローブに隠れた額に青筋浮かべまくった魔法使いのお姉さんに促され、シンデレラも待ちに待ってた舞踏会に参加して王子様に会いに行くためためらいなく馬車へと走り寄ろうとしました。

 

「はい! 色々ありがとう御座いました! 魔法使いのお姉さん!

 私、舞踏会の会場で幸せになってきますね! 行ってきま――うぐぅっ!?」

 

 そして、幸せの待つ舞踏会へと向かうため、最初の一歩を踏み出した瞬間。

 右足に激痛が走りました。なにかが突き刺さったような鋭い痛みに襲われて足下を見下ろしたイコちゃんに見えたのは、綺麗な綺麗なガラスの靴。

 とても外見からは細工されてるように見えないガラスの靴が、なぜだか妙に自分の足を痛めつけてくるのはなぜなのかしら? ・・・そんな疑問にかられているシンデレラの背後から、怪しげな笑みを浮かべた魔法使いのお姉さんが「にゅっ」と笑顔を覗かせてきて。

 

「あらぁ~? どうされたのですかしらシンデレラさん? わたくしの用意したガラスの靴に何か問題でもありましてぇ~?」

「い、いえその・・・なんだかガラスの靴を履いた右足が妙に痛くなってまして・・・」

 

 

「あ~ら、おかしいですわねぇ~? わたくしがその靴を作るのに使った数値は、貴女がもっとも痩せてたときに測った身体測定のデータだったのですけどもぉ~。

 もしかしてぇ~、シンデレラさんはぁ~、太っちゃったんですかしら~???」

 

 ぴしっ。

 

 その言葉を言われたとき。イコちゃんのいる世界全ての時が止まったように誰もが感じられました。

 

「・・・なん・・・ですって・・・?」

 

 怖い怖い顔で、冷たい冷たい声で聞き返すイコちゃん。

 ですが、魔法使いのお姉さんも負けておりません。ここぞとばかりに彼女の痛いところを突きまくって精神攻撃を連発してきました。

 

「ああっ! その反応はやっぱりそうだったんですのね! ごめんなさい、気がつかなくて・・・。

 そうですわよね、いくら可愛くったってシンデレラさんも所詮は人間。太りもすれば、デブにもなりますし、歳をとって醜くなったおババアさんになるときだって普通にありますものね! だって人間なんですもの! 仕方がありません!

 そんな当たり前すぎる人間の限界に気付かなかった、わたくしの罪! 魔法による永遠の若さは禁断の大罪!」

「・・・・・・・・・」

 

 ここまで言われてしまえば、イコちゃんとしても後には退けません。何が何でも意地を張り通します。見栄を張り通します。

 たとえそれが事実だったとしても女には・・・いいえ、『事実だからこそ』絶対に認めてはいけない言葉が女にはあるのです! 痛みなどに負けてはいられません! なぜならこれは自分はカワイイという絶対正義を信じ貫くための戦争なのですから!

 

「ご・・・」

「ご?」

「ご・・・ごめんなさーい! 気のせいだったみたいですー! 本当はぜ~んぜん痛くも何ともありませんでしたー! 勘違いしちゃってたみたいですね!

 も~、イコちゃんのせっかちさん☆ メッ! てへっ♡」

 

 その返事を聞かされ、ローブの下で勝利の笑みを浮かべながら魔法使いのお姉さんは「ああ、良かったですわ~」と表面だけ安心したような表情を作って見せます。

 

「舞踏会に行けば王子様の花嫁に選ばれること間違いなしなカワイさを持つシンデレラさんが、わたくしのミスのせいでお城まで行けなくなるだなんて困りますものね。だってシンデレラさんは世界で一番カワイイ女の子なのですもの! ね?ね?そうなんでございましょ~?」

「え、ええ勿論ですよ魔法使いのお姉さん。私が舞踏会に行ったら、その瞬間に王子様の花嫁は私に確定です。

 ・・・そうですよ、お城の舞踏会に行くことさえ出来れば間違いなく私で決まりなのに、それなのに・・・」

 

 悔しげな表情でうめき声を上げるシンデレラを、愉悦の笑顔で見下しながら魔法使いのお姉さんは彼女の背中をそっと教えてあげるような言葉を連発して一刻も早くお城へ向かうため馬車へと急がせました。

 その途中、一歩馬車へと近づいて右足を地面に降ろすたびにシンデレラは悲鳴を上げ続けましたが、魔法使いのお姉さんは聞こえないフリしてガン無視し続けました。

 

「ひべっ!?」「ふぎゃっ!?」「ひでぶぅっ!?」

 

 ・・・など、だんだん言ってる悲鳴が小悪党っぽくなってきちゃいましたけど、元からイコちゃんには小悪女的な部分が多かったですので問題なしって言ったらありません。

 やがて座って移動できる馬車に乗り込み、一息ついてお城へと向かうシンデレラの後ろ姿が完全に見えなくなるまで見送った後。魔法使いのお姉さんは。

 

「うふふふふ・・・・・・ふふふふはははははは・・・・・・オホ~ッホッホッホッホ!!!!!」

 

 盛大に高笑いを響かせながらバッ!とローブを脱ぎ捨てて、中から正体を現しました。

 

「引っかかりましたわね、池名イコ! 日頃からわたくしをバカにしてきた罰ですの!

 ガラスの靴の裏に忍ばせた画鋲の痛みでもがき苦しみながら、せいぜい惨めったらしく足掻きまくるといいのですわ! オーッホッホッホ!!!」

 

 長いローブで隠れていた魔法使いの中に潜んでいた人は、黒髪美人の女の子でした。

 年の割にオッパイが大きく、変装用の上げ底ブーツを脱ぎ捨てたらイコちゃんと同じくらいの身長しかなかった小学五年生のお嬢様。

 

 そう! 魔法使いのお姉さんの正体は、十三代目乙姫さまだったのです!!

 

「貴女がどうして、おとぎ話の世界に来たのか気にはなりますが・・・そんなこたぁ復讐の前では細やかすぎる問題に過ぎませんことよ! 必ず復讐して差し上げますわ!

 この美人過ぎる竜宮城乙姫の美しい美貌にかけて絶対にね!」

 

 実は彼女たち、同じ小学校で一年生の時からずっと一緒のクラスだった、近くに住んでない幼なじみ同士の女の子でした。

 カワイさ自慢のイコちゃんと、美人自慢の乙姫さまは事あるごとに対立して、どうでもいいことで対決し続けるのが二人にとっての日常風景になっていたのです。

 

 現在の戦績は665戦332勝333敗で、乙姫さまの方が“一回も多く”負けているのです。プライドの高い乙姫さまにとって絶対に許してはいけない数字です。必ずや復讐してやらなくてはいけません。そのためにお誂えの舞台も整っていることですし。

 

「見てらっしゃいませ池名イコ・・・。貴女の夢はわたくしが潰す。潰して差し上げますわ。

 この竜宮城乙姫の美しすぎる美貌をもって必ずや王子様を籠絡して、それで――」

 

 バッ!二度目のお色直しです。

 魔法の呪文を唱えようかと思わなくもなかったのですが、たまには自分で鍛えた早き替えと早化粧の能力も披露してみたくて今回は普通にお色直し。

 和風美人な着物風コスチュ-ムから、豪華で綺麗な西洋のお姫様風ドレスへと早変わり。

 

「このわたくし、乙姫シンデレラこそが本物のシンデレラとなることにより、貴女は偽物のシンデレラとなって無様に現実世界へと逃げ帰るのがよろしいのですわ! オーッホッホッホ!!」

 

 夜のトアル城下町に響く高笑い。

 こうして、二人の少女による美しさをかけた譲れない戦いは舞踏会がおこなわれているお城へと移動する。

 彼女たち二人が信じ貫く美しさの正義と真実が、現実世界だけでなくおとぎ話の世界でもぶつかり合おうとしていた!!

 

 ・・・ちなみに関係ない余談として、ヨーロッパでの人名は名前が先で名字が後ろです。

 ですのでイコちゃんは、イコ・シンデレラ。

 乙姫さまは乙姫シンデレラ。

 二人とも自己顕示欲が強く、自分の名前で王子様と結ばれたがりましたので、親とか先祖が決めて自分は受け継いだだけの名字をシンデレラにして、王子さあと結ばれるシンデレラになることを目指しているのでした。

 


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