試作品集   作:ひきがやもとまち

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今月から始まった今季アニメの一つ『魔王様、リトライ』を見ていて思いついたネタ話です。
本当は異世界転生系アニメを基にした半オリジナル作品として「異世界に勇者としてTS転生」の方に出すつもりだったのですが、原作と大きく異なる部分まで行き着けなかったので念のため試作品集のほうに出させていただきました。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート

 ――そこは神が見放し、天使が絶望する世界。

 どうか驚かないで・・・。そして聞いてほしい。耳を澄ませば聞こえるはず。

 0時のベルは、何時だって君の始動を告げる音色なのだから・・・・・・

 

 

 ・・・その日、ゲームしながら寝落ちして。

 一日の終わりの深夜12時を迎えたときに聞こえてきた声の内容は、上記のようなものでした。

 これを聞きながら私の体は浮遊感と同時に、足下を失って果てのない底の底へと落下していくのを感じながら、それでも私は無意識の内に叫ばずにはいられなかったことを朧気ながらも記憶しています。

 

 

「――って、そりゃオーバーロードでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」

 

 

 ・・・こうして私は、自分がプレイしていたネトゲの中へ、自分が使用していたPCの体となって生まれ変わることになったのです・・・・・・が、しかし。

 

 

「・・・なんなんでしょうかね・・・? コレって・・・」

 

 私は朝目覚めると大森林の中にいて、夜の森じゃないからトブの大森林じゃなさそうだから助かったー、とか思いながら辺りを見渡し、自分の体を見下ろしてからイヤな予感に襲われて近くに流れていた小川のせせらぎに誘われるようにフラフラと近づいていって水面に映る自分の今の姿に愕然とさせられたのでした。

 

「・・・っ!! 【ゴッターニ・サーガ】で私が使っていたプレイヤーキャラクター・・・っ」

 

 の。

 

「別アカウントで作ってみたネタアバター、『ナベ次郎』・・・っ!! なんで寄りにもよってこっちのキャラで大森林に放逐されてきてるんですか私・・・!?」

 

 本気で謎な展開を前にして驚愕すること意外はできない私です! ここが仮にゲームの中か、もしくはゲームシステムが半端に通用する別時空の異世界とかだったとしても、ネタキャラで来させられる理由が全く想像できません! 何の理由で呼ぶにせよ、普段使ってるキャラで来させればいいだけですからね! ネタで呼ぶ理由がどこにも見当たりませんよ本当に!

 

「ふざけないで頂きたい・・・っ。なんで高校生男子の私が、こんな銀髪幼女エルフのチビキャラなんかにならなきゃいけないんですかっ、本当に・・・・・・!!!」

 

 わなわなと怒りに震える私です・・・っ! っていうか、一人称までロールプレイしていた頃の「私」で、敬語使いになっちゃってますし! 適応早いですねこの身体!

 

 

 日本製MMORPG『ゴッターニ・サーガ』で使っていたネタ・アバター『ナベ次郎』。

 オーバーロードに出てきた美人冒険者モードの「ナーベ」と、ガンゲイル・オンラインに登場するチビキャラの「フカ次郎」。お気に入りキャラの二人を融合させた感じで名付けてみた完全なるネタキャラアバターで、種族は一応エルフ。

 

 ただし、魔法が得意で接近戦闘が苦手な種族設定に反して、肉弾戦オンリーな武闘家クラスを極めた拳で戦うモンク・エルフな上に、外見設定として限界まで身長低くして、胸は逆にシステムで可能な限り最大限大きくしてみた結果、めちゃくちゃアンバランスな姿形と種族とステータスを持ったヘンテコリンなキャラが出来上がったんでしたよねー、たしか。

 

 髪は基本、金髪なのがエルフですけどナベ次郎は異端だったので銀髪。

 瞳の色も青か緑がポピュラーでしたけど、敢えて紫色に変えてみて(意味はありません。単に好きな色だったんです)

 服装というか、装備の方は防御ガン無視して攻撃特化型の軽装タイプ。何も考えずに突っ込んでいって玉砕して、復活させてもらって再び突っ込むというゾンビアタック上等キャラであり、猪突猛進しかしないイノシシエルフ幼女。

 

 笑い取るために普段は絶対しないような言動を意識してロールプレイしてたため、妙に格好つけた仕草をしてみたり、渋い台詞を吐いてみたりと外見に合わないこと甚だしい特徴が知り合いには受けてくれてたみたいで、ギルドにも入ってない野良PCの癖にしょっちゅう狩りに誘われてたモノです。

 そして、狩り場に着いたら特攻して玉砕して復活してもらって再び特攻して玉砕する様を『www(^Д^)』とか言われながら見物されていたんでしたよねぇ~、たしか。いやはや懐かしや懐かしや。今思うとすべては良き思い出ですよ・・・・・・。

 

 

 ・・・・・・そうです。実は私が『ゴッターニ・サーガ』を最近までプレイしていなかった卒業組プレイヤー・・・。

 ネトゲ世界に取り込まれる系の作品主人公によくある『そのゲームにすべてを捧げてきた廃人プレイヤー』などでは全くなく。

 どっちかと言うと「楽しめればそれでいいや」タイプのエンジョイプレイヤーだったのです・・・。

 なので、ぶっちゃけこのゲームやるの本当に久しぶりでよく思い出せませんですし、そもそも配信サービス終了するのが今日だって情報を偶然知ったから最後にもう一回だけログインしに来ただけの、本気で呼ばれる理由が存在しないはずの存在。それが私! ・・・そのはずなのですけども・・・・・・。

 

「・・・いやいや、落ち着きましょう・・・。まだ慌てる時間じゃありません、起きたばかりですからね。

 自分がプレイしていたゲームに入り込むなんて普通に考えてあり得ませ―――って、」

 

 いかん、これはフラグです。フラグ台詞です。言ったら一生帰れなくなるのが確定してしまう台詞ですから別のを口にしましょう、別の台詞を。

 例えばなんかこう・・・取り込まれてしまったゲーム世界から現実世界に帰ってこれた主人公たちが言ってたセリフとかを!!

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・ゲーム世界から現実世界に帰ってきたキャラクター・・・ほとんどいねぇ――っ!?

 向こうの世界に永住してチートし続けるタイプばっかりじゃないですか最近の奴って! 昔のだったら帰ってくる人の方が多いですけど、コレそういうタイプなの? ネトゲありませんよ、あの時代には!!

 

 て言うか貴方たち、なんで戻ってきてる数少ないんですか!? 貴女たちの大部分は当初の時点だと現実世界への帰還を目的として旅立ってませんでしたっけかね確か!?

 

 数少ない例外はキリトさんとか・・・? いや、あれはゲーム世界に取り込まれたとは言え機械的なモノでしたし、肉体は現実世界に置きっ放しですし。アリシゼーションの方はもう何が何だか分からなくってましたけど、それでもゲームはゲームって言う前提は守られてたみたいですし参考になりません。

 

 ログ・ホライズンは・・・・・・いつ続巻は出てくれるのでしょう・・・? ずっと続きを待ち続けているニワカ読者の私です。

 そして現状、出たとしても読めるかどうか定かでない知識0からの異世界生活はじめたばかり・・・。

 

 

「・・・どうすりゃいいんですか、こんなの・・・。

 こんな事態に陥るなら、もっと80年代アニメのDVD-BOXをたくさん買って視聴しておくべきだったのでしょうか・・・」

 

 そんな風に独り言で愚痴を言いながら、プレイしていた当時は慣れ親しんでいた仕草である、ポケットから紙タバコを取り出して一本咥えてからライターで火をつけるオッサンっぽいモーションを無意識の内に実行しつつ、近くにあった木の幹に寄りかかりながら腕を組んで「スパ~ッ」と煙を吐き出しました。

 

 別段、不良を格好いいと思い込んで勘違いしている中学生ではないですので、この手の仕草を格好付けでやっているつもりはありません。

 『格好つけて見せてるのが逆に格好悪い』を狙ってやってたのです。おかげで結構、笑いをとれたんですよね当時から。

 日常生活で考えすぎてる自覚のあった私としては、ゲームの中でくらいバカやりたくて、こういった仕草をしていたところ、なんか教育関係の人に見られていたらしく一部で物議を醸し出したのがゲームを卒業する理由の発端になってたんでしたよねー、確か。うん、思い出せましたわ。これもそれも今となっては全部良い思い出です。・・・そういう事にしておきましょう・・・。

 黒歴史なんざ掘り起こしても、碌なモノが出てこないのはムーン・レィスとディアナ・カウンターが身を以て証明してくれているのですからね・・・。

 

「しかし本当にどうしたもんですかね、この状況・・・。幸いステータスはプレイしてた当時のまま保存されてて、スキルとかも全部使えるみたいですけど、それを何にどう使えばいいのかサッパリ分かりませんし・・・」

 

 適当にいくつかの挙動を試して、ステータス欄を呼び出し確認しながら困ったように呟くしかない私。

 不幸中の幸いというか何と言いましょうか、律儀な性格だったおかげでネタで作っただけの別アカウントキャラも一応はレベルカンストまで上げてましたし、装備品もコラボイベントとかで手に入れたネタ系が多いとは言え性能自体は当時の最高水準近くのモノが揃えられています。そう簡単には殺されることはないでしょう、多分ですけれども。・・・さっきから多分多いなぁ私・・・。

 

 そうな風に考え込んでいたところ。

 

 

 ガサ、ガサガサ・・・。

 

「・・・ん? どなたかお客さんでもいらっしゃいましたので?」

 

 指でタバコをくわえてスパ~っとかやりながら、音の聞こえてきた方向を見やると少女が一人ボロボロの姿になって肩で息をしながら走ってきたところでした。

 

「えーとぉ・・・、どこのどちら様でしょう? そもそも私の言ってる言葉はお分かりになりま――」

「逃げて下さい!」

「・・・は?」

 

 私は平和ボケして危機意識に欠けると言われている日本人らしい反応を返して、ボケっと間抜け面をさらしてしまったところ。

 

 空から“ソレ”が落ちてきたのです。

 

 ズドォォォォォォッン!!!!

 

「うっ!? ぐぅ・・・っ」

 

 目の前に降下してきた巨大な物体。それによって吹き上げられた砂塵と衝撃波から視界を守るために目を手で庇ってガードしてから、改めてソレを見上げてみます。

 

 ――如何にもな悪魔さんでした。

 黒い身体で、毛がほとんどなく、頭に牛とか山羊とかバッファローみたいな角が付いてて、航空力学的に見て明らかに揚力不足で重量オーバーの蝙蝠っぽい羽を生やしてる悪魔っぽい生物のナニカさん。

 

 ソレがなんなのか断定はできませんけど、まずは話しかけてみましょう。話し合いは大事です。相手が悪魔だったとして敵対的とは限りません。兵藤イッセーに対して「悪魔だから悪とは限らない」とかそんな感じのことを言ってた露出狂の美人悪魔さんたちもいる世の中ですからねぇ。

 

「・・・あなた方はお知り合い同士の方ですかね? でしたら私としては、お邪魔虫のようですし大人しく立ち去りたいと思っているのですが如何でしょうか?」

『矮小なる人間とエルフの小娘よ。我に血肉を捧げよ』

「・・・あん?」

 

 ウワゥゥゥゥッ!!!

 

「っ!?」

 

 ぶっとい腕を振るって、問答無用で振り下ろしてくる悪魔らしく悪だった悪魔さん!

 慌てて私は両手を交差させてガードして・・・・・・・・・弱っ!?

 

 え、何この悪魔さんの攻撃。まるで痛くもなんともないんですけど・・・遊んでたりします?

 

『ウワォォォォォッウ!!!』

 

 真っ赤な目を輝かせて、口から気炎を吐き出しながら雄叫びを放つ悪魔さん。

 ・・・うん、こりゃあ遊びじゃありませんね。ガチです。完全に本気で殺しにかかってきていて――この程度のザコなのでしょう。

 

「・・・なるほど。では警戒も遠慮も無用というわけですか。話し合いを求めている相手に問答無用で襲いかかってきたのは貴方の方なんですから、死ぬ間際にみっともない言い訳とかしないで下さいね? 不快感を刺激されて余計に殺してやりたくなって仕方がなくなってしまいますので」

『ウ、ウボォワァァ・・・・・・?』

「では・・・・・・進軍を開始します!!! 突撃―――――っ!!!!!」

『ゴバァァァァァッ!?』

 

 私はナベ次郎をプレイしていた当時のことを思い出しながら、懐かしさに胸をときめかせながら、まるで乙女のような夢見心地の中で仲間たちとともに過ごした輝かしい黄金時代の記憶に浸り続けるのでした・・・・・・。

 

 

「突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃! 突撃ぃぃぃっ!!!」

『ゴバァッ!? グベァッ!? フゴハァッ!? グベバラバァッ!? ちょ、ま、助ケ・・・』

「降伏は許しません! 泣くことも泣き言も不許可です! 最後のHPが0になるまで戦って敵の攻撃に斃れるのであれば、それこそ名誉の戦死というものです! そうなれば英霊として貴方の魂は未来永劫、人々を見下す悪魔の王様と共にあることでしょう」

『フベッ!? ホゲッ!? グゲッ!? しょ、しょんな理屈が――グベハァッ!?』

「名誉でしょう? 感謝なさい。感動の涙と共に打ち震え、魔王様万歳と叫びながら頭を垂れなさい。名誉を望んで希うのです。――――そしてぇぇぇっっ!!!!!

 ヒート・エェェェェェェェェンド!! ですぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!!!」

『ギャアアアアッ!? 頭蓋骨が握りつぶされる激痛でメチャクチャ痛いぃぃぃぃっ!?

 ちょ、ま、本当にこの死に方は不味・・・・・・グゲギャァァァァァァッッ!!!???』

 

 グシャアァァァッ!!!!!

 ブッシュゥゥゥゥゥゥッッ!!!!!

 

 

「・・・ふぅ。また無益な殺生をしてしまいましたか・・・。私もつくづく業深い愚民の一人だと実感させられるのは辛いところです・・・。

 さて、娘さん。大丈夫でしたかね? 怪我とかしてらっしゃいませんでしょうか? 動けないようでしたら手をお貸ししますよ?」

「・・・ま、ま・・・」

「マ?」

「魔王様・・・殺さないで下さい・・・滅ぼさないで下さい・・・ボクは美味しくありませんから挽肉にしないでくださいぃぃぃ・・・うわぁ~ん、エンエン・・・ぐすん」

 

 なぜに? 助けてあげましたのに魔王呼ばわりされた挙げ句この扱い。

 この素晴らしい勘違いをしてくる異世界に常識を。

 

 

*注:妥当な評価です。

 

オマケ『今作の設定資料集』

 

【ナベ次郎】

 今作の主人公。ゲーム世界に取り込まれた日本の高校生。実は中の人は男だったりする。

 職業モンクで、種族はエルフ、性別は女。理不尽さと拳で戦う美幼女暴君。

 別アカウントで作って遊んでいた、いい味出してるバイプレイヤー風のネタキャラであり、普段遊んでいた本命アカウントの方だと職業ウィザードのメガネ男という、なんかどっかで見覚えのあるキャラを真似て使っていた。

 役割演劇(ロールプレイ)を最大限楽しむという目的の元、作られたキャラであるため行動がメチャクチャ。

 とにかく突撃したがり、痛い言動や『格好いいと勘違いしている格好の悪い』セリフなどを好む傾向にある。そのためのエフェクトを発生させる小道具アイテムを大量に常備してたりもする。

 基本的に、こちらのキャラで選ばれてきている以上、当然のように演じていたキャラ通りの言動を強制されてしまい、騒動を巻き起こしまくる混沌の申し子。

 見た目はカワイらしい美幼女エルフでぜんぜん魔王らしくないけど、戦い方とかセリフなんかは完全に魔王か、魔王以上なので魔王呼ばわりされても仕方がないのだが、本人は無意識にやっちゃっているアバターのせいなので断固として否定中。この矛盾が整合される日は来るのだろうか・・・?

 

 なお、セレニアと似て入るが基本別人なのでご注意を。

 

 

【ゴッターニ・サーガ】

 主人公がプレイしていたゲームの名前。いろんな国の神話やら逸話やらがゴッチャになったファンタジー世界が舞台という、いわゆる普通の王道ファンタジー世界が舞台のMMO。

 配信開始から5年が経過して終了を迎えた中堅どころの日本製MMORPGでもある。

 特にこれと言って特別なシステムは搭載されておらず、堅実で既存ユーザーを大事にする運営方針のゲームだった。

 物語が始まる日に、惜しまれつつも配信サービスを終了している。もともと小さな会社が運営してたゲームなので限界だったと、誰もが納得しながら終わりを迎えられた幸福なゲームの一つ。名作ではないが良作ではあった。

 配信開始から3年後には新規ユーザーが1人も入らなくなったことから既存プレイヤー確保へとシステムを更新し続けたため、妙にネタに走った装備やアイテムが多いのが一応の特徴。

 本人は気づいてなかったが、ナベ次郎の中身が男だと知った上でアイドル扱いされていた黒歴史が存在しているゲームでもあったりする・・・・・・。


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