試作品集   作:ひきがやもとまち

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なんか、「ハッピーシュガーライフ」の1話目を見たときに衝動で書いてしまってたらしい作品が出てきましたので投稿しておきます。
ハッキリ言って暗すぎる作品でした。自分で読んでてそう思う内容でしたから苦手な方はお控えくださいませ。


「ハッピーシュガーライフ風オリジナル作品」

 

 私は雨のなかを歩いてる。

 雨は好き。大好き。

 灰色の雲が好き。ドンヨリとした空が好き。ざーざーって言う雨音が好き。

 きたない灰色で、きれいで汚い世界を染めつくしちゃうところが好き。大好き

 

 だって・・・きれいな色で汚い中身を隠した町は、灰色一色に染めちゃった方がきれいに見えるでしょ・・・?

 

 

 

 ーー私には三歳上にお姉ちゃんがいた。

 とっても勉強ができて運動もできて、よい子でママやパパの言いつけをしっかり守れて、悪いところなんて一つもないパパやママがみんなに自慢したがるお姉ちゃん。

 

 そんなお姉ちゃんの後に生まれたからなのかな? パパもママも私にはすっごく冷たいの。

 

「お腹ペコペコだからご飯ちょうだい」って言ったら、「この問題が解けたらあげる」って、言われたの。

「お洋服きないでお外にいたから寒いの」って言ったら、「言うことを聞かなかったお前が悪い」って、言われたの。

 

 みんなには優しいお姉ちゃんも、私には優しくしてくれないの。

 

「これはあなたの為なのよ。出来の悪い妹をよい子なお姉ちゃんが優しくシドウしてあげてるだけなの。だからこれはアイジョウヒョウゲンって言うんだよ?」

 

 そう言って私のことを、ぶったりけったり殴ったりするの。「痛い痛いの、やめてほしいのお姉ちゃん」って言っても聞いてくれなかったの。たのしそうに笑いながら毎日毎日ボカリボカリしてくるの。

 

 ママたちもパパたちに「痛いの、お姉ちゃんにボカリってされたの」って泣きながら言ったのに聞いてくれなかったの。「あの子がそんな悪いことするはずない」って言って、ウソツキな悪い子って悪口を言ってくるの。

 

 誰も助けてくれなかったの。みんなお姉ちゃんの方が正しくて「正義の味方」だってほめてたの。

 

 

 だからハメツさせてあげることにしたの。

 ギャクタイされてる子供のフリして、泣きながらケーサツの人に言ったの。

 

「パパやママやお姉ちゃんたちにコロされそうなんです・・・。タスケテください・・・」

 

 言ってから大声で泣き出したら、みんなが私を見てくれたの。生まれて初めて人に見てもらえたからウレシくて、もっともっと大きな声で泣いてみたの。

 ケーサツの人たちが困った顔して「とりあえず中でハナシを・・・」って言ってきたから、ダダをこねたの。

 

「ここじゃなきゃヤだ! セマいところはもうヤなの! トジコメられるのコワいの! ヤなのーっ!」・・・って。

 

 

 ーーそしたら、みんな優しくしてくれるようになったの。お姉ちゃんの友達も、パパとママの友達もみんな私に優しくしてくれたの。「お姉ちゃんたちは悪い子だ!」ってキュウダンしてくれるようになったの。

 

 それからパパたちがどうなったのか私は知らないの。ケーサツの人にホゴされて、ずっと泣いてばかりでなにも言わなかった私にはよくわからないの。でも、ケーサツにいた女の人が

 

「大丈夫、もう怖くないのよ。悪い人たちはみんな私たち正義の味方がやっつけてあげたから、もう大丈夫! これからは幸せになってね・・・」

 

 ーーって、笑顔で優しく言ってくれたからパパたちもきっと大丈夫だよね?

 

 

 それから私は「悪い人たちをやっつけた正義の味方のリーダー」さんのヨウシになることになったの。その人はセイジカって言って、とっても偉い人らしいの。まわりの人たちから「苦しむ子供たちのキュウセイシュ」って呼ばれてたからきっとそうなの。

 

 その人たちの言ってたことはホントだったの。その人はパパやママやお姉ちゃんより優しかったの。ずっとずっと優しかったの。

 着るお洋服も食べさせてくれるゴチソウも、すっごくすっごく高くておいしいものだけ買ってきてくれたの。

 テレビにでたときオリョウリしてたから「なんでウチでは作らないの?」って聞いたら、「子供は知らなくても大丈夫な、大人の事情よ」って優しい笑顔で教えてくれたの。やっぱり大人はムズカシいの。

 

 でも、その人の名前を私は知らないの。

 「ママって呼んでいいのよ。だって今日から私はあなたのママなんだから」って言ってたから「ママ」って呼ぶことにしたの。ママって呼ばないとコワいお顔して怒られるからコワかったの。

 

 でも、1年に一回だけママがずっとコワいままになるときがあるの。

 センキョっていうのが近づくと、家にいるときのママは怒ってばかりになるの。家の外では笑ってばかりになるの。トウセンしたらいつもの優しいママに戻るけど、トウセンするまでずっとずっとコワいままになるの。

 でも、このまえラクセンしちゃったらしいの。とってもとってもコワかったの。家のなかをメチャクチャにしちゃったの。

 

 ママはコワいお顔して私のことも殴ったの。「お前なんかを拾ったせいだ!お前が悪い!」って。痛いのやめて、痛い痛いって言ってるのにやめてくれなかったの。

 

 怒って暴れて疲れちゃったママは、お酒をのんで寝ちゃったの。私は痛い痛いを飛んでけしたくてクスリを探してたの。叩かれたところにコブができちゃってて前がよく見えなくて、いろいろさわりながらクスリバコを探してたら「入っちゃっダメ」って言われてるチカシツに入っちゃってたの。見つかっちゃったら怒られるとおもってコワくてぶるぶるふるえてたら、朝になってもママは怒りにこなかったの。

 

 代わりにショーボータイのお兄さんがきたの。

 

「きみ! 大丈夫かい!?」

 

 って言ってから、小さなマイクに向かって「生存者一名発見! 小さい子供だ! 担架を持ってきてくれ!」って叫んでたから動くベッドがやってきて乗せられて、あったはずの家がなくなっててフシギそうにまわりの人を見てたらこう言ってたの。

 

 

「・・・火の不始末で事故死ですって。かわいそうにねぇ・・・」

「あら、私は落選したショックで焼身自殺したって聞いたけど?」

「どちらも違うわね。元からあの女はクズで幼児虐待してたのがバレて自暴自棄になった末に自宅に火を放ったのよ。犯罪者らしい愚かな末路って奴ね」

 

 

 子供の私にはよくわからなかったけど、クスリを探してる最中にさわったジャグチみたいにひねるのが良くなかったのかな?

 

 

 その後、私はトクベツガッキュウって言うところに行かされて育てられたの。「私と同じ子がいっぱいいる場所だよ」って言われてたのに、ちっとも同じじゃない子しかいない場所なの。

 みんなお姉ちゃんと同じことしてくるから、お姉ちゃんと同じことで返してあげたらお姉ちゃんと同じようにいなくなってくの。私じゃなくてお姉ちゃんと同じ子ばかりなの。

 

 

 

 ・・・そうこうしている内に中学生になってた私は、雨の中で恐怖に震えてる。

 子供じゃなくなる自分が怖くて震えてる。

 

 もう子供じゃない私には、守ってもらえる価値がない。無力で弱い、大人がいないと生きていけない子供じゃなくなる年齢になっちゃったら私は自分の足で立って生きていかなきゃいけなくなる。

 そのときのことを想像するのが死ぬほど怖い。怖くて怖くて仕方がない。

 

 私には何もない。人より勉強ができるわけじゃない。運動神経だって平均的だ。学歴? 親がいない私を受け入れてくれるマトモな名門校なんてあるわけがない。

 しいて言うなら顔と見た目ぐらいなもの。そんな少女が女になった後に待ってる人生なんてロクでもないもの以外にはあり得ない。

 社会と他人は、弱者と敗者以外にはやさしくしてくれない。子供は子供だから優しくしてもらえる。弱くて無力な子供らしく助けを求めれば手をさしのべてもらえる。

 私が子供だから、小賢しい罠にだまされてくれる。私自身が最大の餌として役立ってくれていた。

 

 それが無くなる。無くなってしまう。時の流れが私から、無力な子供を奪い去る。

 ーーそうなった私に価値はない。何もない。何もできない。してこなかった。

 

 そうなった私はどこに行く? どこに行ける? 行ける場所はどこにある?

 

 パパやママたちと同じケームショかな? お姉ちゃんと同じ少年院かな? それとも社会のイブンシとしてハイジョされちゃうのかな? ・・・元の閉じこめられてた場所にだけは戻してほしくないなー・・・・・・。

 

 

 ーー雨は好きだ。大好きだ。

 なにもかも灰色一色に染め上げて、私にとって都合悪い仕組みしかない現実社会を見えなくしてくれる。見なくてもよくしてくれる。一時だけの現実逃避場所を私に与えてくれるから・・・・・・。

 

 雨だけは私を甘やかしてくれる。無条件に優しくしてくれる。現実の全てを自分の色に染め変えて、汚い人間の殻も中身も見なくてよくしてくれる。

 

 そんな暴君みたいな雨を見上げながら私はつぶやく。

 普段、思ってはいても声に出すことはない本心を。

 

 

 

「あー・・・誰か私のことを自分の色に染め尽くすためだけに・・・所有してくれないかなー・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー率直に言って、私は優秀だ。

 全国模試で1位以外をとったことがないし、中学時代は国立競技場でリレーのアンカー以外は任されたことがない。高校に入学してから始めた新体操では「十年に一人の逸材」と言われてもいる。

 

 家柄もいいし、両親の評判も上々。学校では次期生徒改良に指名されてもいる。見てくれだって誉められたことは無数にあるけど、悪いと言われたことはない。

 

「このまま東大出身のエリートになって、ゆくゆくは日本を背負って立つ女性政治家! 末は総理大臣でも目指してみるか!?」

 

 そう言って機嫌良さげに笑う父のことを、世間では「旧弊に囚われない新世代の政治家。男女平等の旗手」と呼ばれている。

 

 

 でも・・・・・・だからどうだと言うのだろう。

 

 学年トップ? 全国1位? 国立競技場? 名門校で次期生徒会長? 日本でも有数の名家のお嬢様? 将来は東大を出て総理大臣か? ・・・くだらない。バカバカしいにも程がある。

 

 今の時代、東大に入ったからといって何があるというのだろう。

 「東大に在らずんば人に非ず」が通じた大蔵省時代じゃあるまいし、専門分野では地方の大学にさえ遅れを取り始めている元日本の最高学府に入ったぐらいで得られるのは職業選択時における自由度の高さぐらいなもの。

 ネームバリューが利いてる今なら学科によっては優れた教育が受けられるかもしれないけど、世界的に見て二流半の大学に進学するよりかは留学でもした方が将来のためにはなるのは確実だ。日本の経済が再活性化するにしても、私が若い頃には無理そうだからね。

 

 陸上の記録は中学時代のものでしかなく、畑違いの新体操で二年間を過ごした私が亀に抜かれたウサギになってないと信じ込める根拠はなにも持ってない。

 新体操を含め、日本にリーグのない競技でプロになっても金銭的に苦労するのは目に見えている。今いる学校も「日本でも有数の」と一番ではなく同格の他校が存在している事実を自らの口で自慢げに自白してしまっている。

 

 これらは何も特別な知識というわけじゃない。どこにでもある本屋や図書館で、適当な本でも借りて暇つぶしに読みさえすれば得られる程度の初歩知識だ。

 その程度の初歩を知っているだけで「聞くだけ馬鹿らしい」とわかる程度の質問を、大仰な名札をつけた聞いたことない名前のお爺さんがテレビの中で他人を罵倒するのに使っている。

 それを見た父がうなずき、母が共感し、日本の現状を憂いて見せながら、何もしようとしない。ただ嘆いて憂えて、自分は悲しむべき悲劇を悲しみ、怒るべき不条理に怒りを感じることができる善良な常識人だと認識して、それで満足する。

 

 その後には、常と変わらない日常が待っていてくれる。

 

 信じたいから信じて、認めたくないから否定して、他人を責めて、自分を誉めて、無力な自分の力を言い訳にして何もしようとしない。そんな日常。

 

 醜悪だ。あまりにも醜い。醜すぎる。

 親も人も世間も他人も社会も世界もーーーそして、醜いと否定している世界を壊したいとは思わない自分自身も。何もかもが醜すぎる。

 

 

 現実を認めようとしないのは醜い。自分の醜さを認めようとしない人間は醜い。

 世界は醜く、人は醜く、自分も自分の欲望も醜い。

 

 

 ・・・あまりにも理不尽な己の怒りを持て余したとき、私は決まって雨の町を歩くことにしている。

 

 雨はいい。スゴくいい。大好きだ。

 暗く沈んだ色に染まった世界はいい。きっと私の心象風景もこんな世界なのだろうと想像して楽しめる。

 地面に落ちて、染み込むように浸食していくところを目にすると快感すら覚える。

 きっと『汚らしい人間の心と体に私の体液を染み込ませていく時に感じる絶頂は、この程度ではないんだろうな』と妄想できるから。

 

 

 私は歩く。雨の中を。妄想に耽るために歩いていく。

 ーー人には見せない、見せるわけにはいかない最低最悪なサディスティックな本性を雨粒のベールで隠しながら歩いていく。

 

 ふと、口元が危険な形に歪みきっていたことに気づいて顔を伏せる。人に見られて誤魔化すことに慣れてはいても、面倒だと感じる気持ちに慣れた訳じゃないから。

 

 そして、ぶつかる。

 互いに前方不注意だったと一目瞭然なぶつかり方だったけど、私は先に謝るため素早く顔を上げて相手を見る。面倒事はごめんだ。さっさと先手をとって脱出する。その腹積もりだった私は、相手の顔を見てすべての思考と予定を放棄して黙り込む。

 

 

 一目見てわかった。解ってしまった。

 この子は・・・・・・私の同類であり、似ても似つかない対極にある真逆の存在。

 

 

“ふさわしい主以外には仕えられない、さまよう奴隷だ”と、

 

“他の誰でも換えが利かない世界に一人だけの奴隷を欲する暴君だ”と、

 

 

 今の日本では、求めても手に入らないはずの存在と出会った私たち二人の頭に「次があるかもしれない可能性」は存在しない。

 ただただ失われる前に手に入れるため算盤を弾き続けるだけだ。

 

 ーーやがて私は笑顔で笑いかける。

 

 

「ーーごめんなさい、前をよく見ていなかったのよ。今ので服が濡れてしまったみたいだし、私の家で着替えていかない? 親のことなら気にしなくて大丈夫よ。マンションで一人暮らししてるから、信頼されてるの。私って親の言うことをよく聞く、よい子だから」

 

 

 相手の少女も笑顔で返すーー。

 

「・・・・・・ありがとうございます。正直、スゴく助かります。私、親がいない孤児で、満足に服を買うお金もない貧乏施設で暮らしてるんですよ」

 

 

 ーーこうして、私は少女を合法的に“買い取った”。

 きっと今まで大人たちが彼女にしてきたのと同じように。彼女の所有権を利己的な目的のもと、お金で買う。きっと彼女にとっては日常茶飯事でしかない日常。

 

 でも、それも今日で終わり。これが最後の買い取り。自分で自分を売る最後の商売。

 

 だって。

 今日から彼女の全ては、買い取った私が一生所有するのだから。

 泣いても叫んでも助けを求めたとしても手放すことなく。

 一生イジメ続けて飼い続けて私好みに染め上げて・・・愛し続ける存在になるのだから・・・・・・。

 


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