試作品集   作:ひきがやもとまち

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昨日の夜から今に至るまで延々と時間かけ続けてやっとこさ完成できた、私にとって初めての『ワンピース』二次作を投稿させていただきました。
少し事情がありまして、これ書かないと前に進むのが難しい状況に陥ってましたので次にようやく進めそうです。フゥー、助かった~(;'∀')

ちなみに今作で一番の元ネタは原作よりも、劇場版『ワンピース フィルムゼット』です。


海賊の正義の名のもとに

「俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる・・・探せ! この世の全てをそこに置いてきた」

 

 

 富・名声・力。

 かつて、この世のすべてを手に入れた男“海賊王”ゴールド・ロジャー。

 彼の死に際に放った一言は人々を海へと駆り立てた。

 世はまさに、大海賊時代の始まりである!!

 

 

 ・・・だが、この時代に船出した海賊たちの誰もがロジャーの意思を継いでいた訳ではない。ロジャーの残した【一つなぎの大秘宝】を目指して船出していったとは限らない。

 

 

 

「“すべての海兵を育てた男”海軍大将【黒腕のゼファー】・・・・・・う~ん、憧れるなぁ。カッコいいよなぁ・・・。

 私も早く大きくなって海軍に入れば、この人のように大きな器を持った偉大な人間に育つことが出来るだろうか? 今の名だたる将兵達と同じように、か弱い人々を悪から守る海軍の絶対正義を貫き通せる人間に自分自身を育てることが出来るだろうか・・・?」

 

「・・・・・・いや、違うな。出来るだろうかではない。“なる”のだ。

 私は彼のようになりたいと思った。ならば彼のようになる義務があるはずだからな・・・」

 

 

「海軍大将ゼファーを先生と呼べるようなデカい人間に、私はなる! そう決めた! 決定だ!

 異論反論は私以外には断固として誰にも認めない!!!」

 

 

 ・・・受け継がれる意思、時代のうねり、人の夢。これらは止めることは出来ないものだ。

 終わらぬ夢が導き手となり、自由の答えを求める少女の前に選ぶべき世界が目の前に広々と横たわっていたとき。

 受け継がれた意思が少女を動かし、夢へと駆り立て、勢力の枠組みさえ超えてゆく。

 

 

 海軍の絶対正義を貫く海賊として、己が信念の旗のもとに!!!

 

 

 ・・・・・・これは、そんな変わり者の海賊の物語である・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 ――10年後。聖地マリージョア。

 世界政府と海軍本部の世界最高権力二つが本拠地を構える世界の中心。

 そこにある海軍基地施設の一角で、中佐の階級章とコートを羽織った一人の女性士官が立ち止まり、決然として顔を上げながらついに決断の時が来たことを確信させた。

 

 

「・・・ダメだな、今の海軍は。全く以てダメすぎる・・・・・・ッ!!!」

 

 

 吐き捨てるように言い切りながら、右手に握りしめていた報告書を破り捨て、チリ一つ残さず近くに置いてあったゴミ箱にまとめて捨ててから元の位置まで戻ってくると、今しがた陳情に上がった上官の将校が放った言葉を思い出し不快さでゴミ箱を蹴飛ばしたくなる思いをギリギリまで必死に納める努力をする。

 

 くすんだ色の金髪。目つきの悪い三白眼の瞳。細身ながら筋肉がシッカリついた鍛え上げられた肉体。

 大海賊時代の名だたる剣豪たちに共通する身体的特徴を持った彼女は、見たままズバリ剣士で、腰には業物とみられる見事な刀を差していた。

 年齢は19。階級は海軍本部中佐。

 この歳では異例の出世であったが、それは彼女が地位身分に相応しい実績と成果を持つ偉大な海軍将校たり得る逸材だと誰もから認められている事実を示すものでもあった。

 

 彼女は同期の誰よりも強く海軍の絶対正義を信じて入隊してきた少女だった。

 危険な戦場でも常に部下や上官よりも先に立って突撃し、力なき民衆を守るため命を賭けて戦うことを海兵として誇りに思う生真面目すぎる少女士官だった。

 

 そんな少女だったからこそ、19歳で中佐という異例の若さで高い地位を与えられることを誰も不思議に思わず受け入れられていたのだが・・・・・・それは同時に“そんな少女だったからこそ”今現在の海軍が置かれている現実を受け入れることは不可能でもあったのだ。

 

 先ほど彼女が捨てた報告書は、【王下七武海】の一部に関して妙な動きがあることを独自に調べ上げて報告した警告を示すためのものだった。

 海賊たちを威圧する抑止戦力として雇い入れた合法的な傭兵海賊集団【王下七武海】。

 その全員が――と言うわけではなかったが、一部に怪しい動きが最近活発化してきている事実を証拠付きで提出してきたのである。

 

 それは、『サー・クロコダイル』と『ドンキホーテ・ド・フラミンゴ』、一つの国に腰を据えて本拠を構える二人の大物海賊についての怪しい動向について記したものだ。

 “どちらの国でも最近、異変が多発してきている。警戒を厳にされたし”――と。

 

 もともと彼女は【王下七武海】を良いとは思っていなかったが、必ずしも害悪とは思っていない考え方の持ち主であったため、実際に効果と成果を上げている以上そこは認めるべきと考えていたが、“いくら何でも権力を与えすぎている”と感じてもいた。

 

 抑止戦力として合法的に海賊行為を許すまでは、ギリギリ許せる。

 だが、たかが用心棒如きに国家権力まで与えてしまっては政治に悪影響を及ぼすのは当然ではないかと考えたのだ。

 

 だが、海軍本部少将の階級を有する上官は彼女からの要請を取り合わなかった。

 

 

「それだけ大きな餌を与えてやらなければ、奴らは海軍の誘いに乗ろうとは考えんではないか。忘れたのか? 王下七武海も所詮は海賊、自分勝手な連中だ。番犬として飼っておくためには美味しい餌を与え続けてやらなくてはダメなのだよ」

 

 

 ――それが彼女からの提言に少将が応じた答えだった。

 激しく憤って力任せに扉を閉めてから部屋を出て、やっぱり許せなかったから出てきたばかりの部屋に戻って上官を思いきり殴り飛ばして気絶させてしまったので、きっと自分の部屋に戻る頃には謹慎処分が届けられていることだろう。

 

 最前線に左遷させられるという可能性もあるにはあるけど、この前それやって前線の汚職海兵たちと裏で提携していた海賊たちもろとも皆殺しにして帰ってきたばかりだから可能性だけで極めて低い。

 

 事務方に回して、またぞろ必要経費に計上された多額の接待費とか暴かれたり、実は賄賂で成り上がってた直属の上官を告発されたりとかしたくないだろうし、部屋に押し込めとくのが海軍上層部の誰にも迷惑がかからない一番いい彼女への処罰方法なのでまず間違いあるまい。

 

 

 ・・・これだけメチャクチャしている彼女への対応を海軍本部が曖昧にしているのには、それなりの理由が存在している。

 第一に、現在の海軍は日増しに強くなっていく海賊共を殲滅することこそが人々に与える被害を最小限に抑えるとして、か弱い民衆を守ることより海賊の武力討伐を優先する傾向が強くなってきており、その為には『民間人に多少の被害や犠牲を強いるのはやむを得ない』とする意見が勢力を増してきてしまっていたことが上げられる。

 これは本来、海軍が掲げた絶対正義『か弱い人々を悪の脅威から守る』に相反する正義のあり方であり、彼女はこの方針に真っ向から反対意見を唱え続ける急先鋒だった。

 

 

「海賊を一刻も早く殲滅させることが民間人の被害を押さえる最善手という意見は理解できます。しかし! その過程で守るべき弱き人々を守らなくても良いと言うことにならない!

 人々を悪の被害から守るべき海軍が、人々を守れず傷つくのを見て見ぬフリして海賊退治に没頭するなど海軍の無能怠惰を自ら証明することに他なりません! 違いますか!?」

 

 

 ――これが彼女の主張である。完全無欠に正論過ぎたため海軍上層部も力尽くで押さえつけることは難しく、また現時点での海軍トップは穏健派で知られるセンゴク元帥であって超タカ派のサカザキ大将ではなかったのも大きいだろう。

 そのセンゴク元帥が彼女の正しさを認めている以上、思うところはあっても納めなければならないのが組織人というものである。

 それに彼女が反抗的になるのは、海軍自身が絶対正義に反する行為をしていたときだけであって、普段の彼女は海軍の掲げる絶対正義の名のもと命がけで任務を全うする模範的な海兵そのもので実績もあり能力も高い。

 今回のように明らかな過失があるならともかく、単なる上の決定に対して正しさを貫くだけで切り捨てられるほどに過小評価されていなかったため、彼女に対して海軍本部は「意見を採り上げない代わりに黙認する」という態度に終始せざるを得なかったのである。

 それが一番、問題なく大過なくことを納める方法だと彼らは熟知していたからだ。

 

 

 ――が、しかし。

 あくまで問題なしと捉えたのは海軍上層部であって彼女自身ではない。実際の彼女が不平不満を我慢し続け限界に達する寸前に達していたことを彼らは誰一人知らなかったから・・・。

 

「・・・もう無理だ。海軍を辞めよう。海軍を辞めて海賊になろう。自分の好きに生きていい海賊になって海軍の絶対正義を貫く分には問題ないはずだからな・・・」

 

 それが彼女が出した結論だった。突拍子もなさ過ぎる結論だったけど、これでも一応は熟考した結果だったりする。一応は。

 彼女はそもそも海軍の絶対正義を貫けていない『今の海軍の現状』が受け入れられないだけであって、海軍そのものをぶっ壊したいわけではない。あくまで自分が『今の海軍に合わせられない』と感じているだけなのである。

 

 今の海軍が掲げる正義に従いたくなくて、自分個人が信じる正義を貫きたいだけなら、自分一人が海軍を辞めて自己責任で自分の正義を貫き続ければ良いのである。

 海軍の命令に従いたくない、だが海軍には残りたい等という屁理屈は筋が通らない。最良の結果が得られるなら筋を通さなくても良いとするなら今のまま海軍に残る道を選べば良いのだから尚更だ。矛盾するのは好きではない。

 

「よし。そうと決まれば話は早い。出航する軍艦のどれかに密航して、どこかの海まで運んでもらってから、気づかれる前に海へと飛び出そう。

 組織の命令に従うことを拒否した裏切り者が、自分一人のちっぽけな正義を掲げるために出て行くのだから夜逃げみたいな脱走方法は分相応なやり方だ。良いぞ、実に良い。これぞ私の信じる筋の通し方というものだからな! ふははは!!」

 

 高笑いしてスキップしながら部屋へと戻り、謹慎処分の命令書を見ることなく無視して辞表を書いて机の上に置き去りにして、こんなこともあろうかと用意しておいた必要物資一式を持って出航しかけているテキトーな軍艦に飛び乗って脱走。

 

 

 ・・・こうして海軍本部中佐『タモン・ストフィード』は、あまりにも呆気ないほど簡単に聖地マリージョアと海軍本部から抜け出して東西南北いずこかの海へと船出していってしまったのだった・・・・・・。

 

 

 風が向かう方角は―――“東”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから約一ヶ月後。

 東の海イースト・ブルーにある町の港に、“ひとつの樽”が流れ着いてきた。

 樽は内側から勝手に蓋が開けられて、中から人がニョキッと黒づくめの姿を現す。

 

 

「ふー、よく寝たな。どうやら町に着けたようでなによりである。

 あのまま漂流し続け、どこにも辿り着けないまま海の藻屑となってしまったので洒落にもならなかったからな。ハッハッハ!!」

 

 

 目つきの悪い三白眼で、楽しそうに笑いながら樽から出てきたのは一ヶ月前に海軍本部を脱走してきたタモン中佐――いや、“元”中佐だった。

 彼女は出航寸前の軍艦に飛び乗って行き先も知らない一ヶ月の間かってに航海を共にしてきたのだが、隠れ場所に持参してきた食料が切れてしまったので三秒だけどうするか悩んだ末に、自分が食料詰め込むために持ってきていて空になったばかりの樽に入って海へと自分を漂流させる道を選んだ結果、この町まで流れ着いたのである。

 

 食料庫から少しだけ盗んでくることも考えたけど、窃盗は犯罪であり悪である。海軍辞めて海賊になったからといって、やりたいと思える行為ではない。

 だから樽に入って漂流を選んだ。やりたくないことをやらないためには、多少のリスクは覚悟しなければならない。それが彼女の信じる信念だったからだ。

 

 ・・・タモン元中佐は昔から真面目な少女海兵だったのである・・・。

 

 

「だが、しかし流石は夜の町だな。誰も起きてる気配がない。海兵までもが寝ている様に感じられるのは多少気になるが・・・祭りの残滓が残っているところから見て平和と言うことなのだろう。良いことだな。うむうむ」

 

 一人うなずき、満足そうに破顔する彼女は知らない。知るよしもない。

 ・・・この町は長らく海軍大佐“モーガン”の恐怖支配に怯え続けながら過ごしてきた過去があり、今日の昼になって一人の海賊と、もう一人の今日から海賊になった剣士の二人によってモーガンが倒されたことで力による恐怖支配の時代を過去にすることが出来たばかりの町だったことを。

 

 それを祝うため、町中が夜まで騒ぎまくって祝いまくって、海軍として軍法を守ろうとして嘘をついた海兵たちも心根は同じであったことを町人たちに悟られてしまって無理矢理祝いに参加させられ飲めや歌えの大宴会が行われ続けて先ほど終わったばかりなのだという事情を彼女は知らない。

 

 だが、町に漂う祭りの残滓から陰惨なものが感じられず、むしろ物がない中でも今日のために使い尽くして明日から再び貯め直すぞ!とする気概が感じられて心地よい気分に浸ることが出来ていた。

 彼女は祭りが特別好きではなかったが、誰かの祝い事を別の誰かが祝うために物を惜しまず後悔もしない人の意思は大好きだった。出来れば自分も明日は祭りの残りに参加したかったが、そうもいかない。

 

「残念だが、船とかコンパスとか海図とかいろいろ買わなければならんからな。無駄遣いは出来ん。海軍本部にあるのは税金で購入した備品だから私用目的で持ち出すわけにもいかんかったし・・・やれやれ。

 海賊というのは存外、金がかかるものなのだな~・・・・・・む?」

 

 真面目すぎる性格が災いして、必要とする物資は私費で現地購入するしかないと決意して町まで流れ着いてきたタモンが愚痴っていると、最後の締めの部分で口調が変わり、目つきが瞬時に鋭さを増す。

 

 ・・・夜の町からコソコソと何かを持ち出すように闇に紛れて移動してくる一団が港の方に向かってきている姿を目撃してからだ。

 その動きには妙に統一感があり、相手と気が合うから動きに合わせられているだけの海賊とは速度は同じでも中身が異なる。

 明らかに訓練を受けた者特有の集団行動による慣れが感じられた。――海軍である。

 

 夜の港に海兵たちが向かってきていること自体は不思議ではない。港に着いたばかりのタモンにさえ遠くに見えるのは、屋上に大砲を備えさせた堅牢な作りの海軍基地。

 この町には海軍が駐留しているということだろう。海軍がいる町の港を海兵たちが使うことが奇妙であるはずがない。当然である。奇妙なのは行為そのものではないからだ・・・。

 

 

「海軍基地のある町にいる海兵が、港をコソコソ使おうとしている・・・か。妙な話だ。汚職の匂いがするな・・・さて、どうしたものか」

 

 そんなことを気楽な口調で言ってる間に一団は港まで到着して、誰もいないはずの桟橋に一人たたずむ目つきの悪い黒づくめの少女を見つけ、ギョッとしたような表情で立ち止まる。

 

「だ、誰だね君は? こんな夜更けの時間になぜ港なんかにたたずんでいる?」

 

 暗がりで自分たちを待ち構えるように棒立ちしていた黒づくめの少女剣士に、海兵の一人が海兵らしい口調で詰問する。

 所詮は一中佐でしかなく、軍服を脱ぎ捨いで勲章と一緒に授与された業物の刀も海軍本部の自室に感謝の書状も添えて置いてきてしまったため、相手が誰だか判らなかったようである。

 

 それに何より彼らには、海兵らしい態度で振る舞うことで大人しく少女に道を空けさせ穏便に町を脱出したい理由があったからだ。

 

 

 ・・・実は彼らは、モーガン大佐が町を力と恐怖で支配するための実行部隊として辣腕を振るっていた直属の部下たちであり、権力と自分への敬服を絶対視する大佐の覚えめでたくなるよう忠勤に励む部下たちの中から選りすぐった精鋭部隊でもあったのだが。

 

 だが実のところ彼らは『武力バカ』の大佐にわずかな敬服度も持ち合わせておらず、モーガンを恐れて何も言えなくなっていた町の住人たちと大佐の間を縫うようにして、おこぼれを掠め取り自分のサイフに着服していただけの汚職海兵でしかなったのだ。

 裏と表の顔を使い分けることで楽に生きてきた彼らにとって、本心を偽り偽善を口にするなど赤子の手をひねるよりも簡単なことでしかない。

 

 

「――いや、君が何者かはあえて聞くまい。誰にでも言いたくないことや事情の一つぐらいあるものだから・・・だが、頼む! 今は我々を黙って通してやってくれないか!?

 我々には重要な任務が与えられている。とても重要な任務だ・・・この任務を果たせるのなら死んでもいいと思えるほどに・・・っ。だから頼む! 行かせてくれ! 町の人たちの命がかかっているんだ! 頼む!!!」

 

 ガバッと頭を下げて、一斉に少女を相手に頼み込む海兵たち。

 そうやって下を向いて、相手から見えなくした顔はニヤついている。

 

 

 ・・・彼らはモーガンが倒されたことで後任の基地司令官が着任し、今まで上官が奪ったことにしていた金の総額が合わないことに気づかれる前に着服した金を持って町から逃げ出そうとしている寸前の状態だった。

 

 既に海軍をやめて汚職した金を手土産に悪徳商人の仲間入りをしようと決めていた彼らにとって海軍の軍服は、これが最後の着納めであり海兵らしい甘ったれた正論をどれだけ吐こうとも何一つとして守ってやらなくていい使い捨ての綺麗事に過ぎなくなっていた。

 だからいくらでも正論を吐ける。綺麗事を口に出来る。形式を尊重できるしルールを守るフリだって簡単だ。

 守らなくていい約束は安っぽい商品と同じだ。使い勝手が良くて、儲かりやすい。便利な使い捨て商品の一つなのである。

 

 

 そんな彼らにタモン元中佐は――

 

「断る」

「・・・なんだと?」

 

 驚いたように顔を上げた汚職海兵たちを前にしながら、タモンは胸を反らして傲然とうそぶく。

 

「貴様らは臭いのだよ。汚職の匂いがする。だからこの町から外へ出したくない。それが私が貴様らを通せんぼしている理由だ、納得したか? したなら帰れ。私とは話すだけ時間の無駄だ」

「き、君は・・・っ」

 

 歯ぎしりしながら部下を制し、ギリギリのところで鉄砲の撃つのをやめさせる。町中の人間がバカみたいな顔して寝こけているとはいえ、鉄砲の発砲音を響かせるのはマズすぎる。

 

 ・・・それに何より彼には切り札とも呼ぶべき『殺し文句』を知っていた。

 海軍海兵という名の、権力を持つ者たちだけに言うことを許された魔法の一言を権力に寄生する者に寄生し続けて出世してきた彼は知っていたのだ・・・・・・。

 

 

「・・・海軍の作戦を邪魔すればどうなるか、判っているのかね!? 最悪の場合、海軍が敵に回ることさえあり得るんだぞ!! それでもいいのか!?

 海軍すべてを敵に回してまで我々の邪魔立てをする覚悟が、君にはあるとでも言うのか!?」

 

 

 厳しい口調で、厳しい眼光で、厳しい表情で裂帛の気合いと共に言い放った海兵は、心の中で会心の笑みを浮かべていた。

 

 ・・・これでいい。これでコイツは大人しく道を空けるしかなくなるだろう。たかが自分たち如き木っ端横領犯を証拠もなしに捕まえるため、海軍を敵に回しても構わないと思うヤツなどいるはずがない。怪しいと思ったとしても、もしかしたらのリスクが高すぎる。

 しかも自分たちは歴とした海兵。なりすまし共とでは説得力が桁違いだ。

 これでリスクをとらない大馬鹿者など、この世に実在するはずがあり得ない――――

 

 

 

「無論だ。その事態を想定せずして、誰が海兵の前に立ち塞がることなど出来ようか。

 私がお前たちのような輩の前に立つと決めた瞬間から、私には海軍と敵対する覚悟は済ましてある。今さら自分で決めた誓いを違える気は微塵もない」

 

 

 

 公然と胸を反らし、先に発言した海兵以上に自信満々な態度と口調で言い放たれ、相手の唇が激しく震えだし、冷静さを装っていた顔が大きく歪む。

 

 ――気にくわなかった。

 

 海軍がいなければ自分の身一つ守れやしない、弱っちい庶民如きが自分たちが媚びへつらってでも使い続けてきた権力に膝を屈しないのが気にくわない。

 自分たちが後ろ盾として威を借りてきた大本の海軍に平然とケンカを売るクソ度胸を見せつけてくるのが気にくわない。

 

「・・・クソ生意気な民間人如きが、下手に出てりゃいい気になりやがって・・・ッ!!」

 

 激しい怒りが建前の仮面を引っぺがし、ゲスな本性むき出しの表情を浮かべた隊長が部下たちに向かって指示を飛ばす。――コイツを殺せ!・・・と。

 

「構わん! コイツを殺せ! 出し惜しみはなしだ! アレを使って殺しちまえぇぇ!!」

『!!! アイアイ・サー!!!』

 

 隊長からの指示に部下たちが一瞬だけ驚いた後、急に愉しそうな笑顔になって敬礼して肩から提げていた“普通のライフル”を適当なところへ投げ捨てて、運んできていた箱の中から取り出しやすい位置に置かれていた一つを開いて“ある道具”を持ち出す。

 そして構える。

 

「銃構えぇぇい!! 撃てぇぇぇぇッッ!!!!」

 

 隊長の号令以下、一斉に部下たちが見た目は通常のライフルと変わらない銃をタモンに向けて引き金を引く。

 その次の瞬間。縦列から一斉発射される銃声の音が・・・・・・響かなかった。

 

 変わって聞こえてきたのは「パスン、パスン、パスン」という、間抜けな音。

 だが、その音が聞こえると共にタモンに向かって高速接近してくる物体は・・・実物の弾丸。

 勝ち誇った隊長が哄笑を上げて、自らの勝利と相手の愚かさをあざけ笑う!

 

 

「どーだ見たかバカ野郎めが! 最新式の消音装置付きライフルだぜぇ!! まだ武器商人の間でも少ししか出回ってねぇ最新科学の代物だ!

 少々値は張ったが、その価値があったと確かめるためにも試し打ちがしてぇと思ってたところなんだよ・・・だから悪いが死んでくれやクソガキャャャャッッ!!!」

 

 

 バカ笑いしながら一瞬後には蜂の巣になっているであろう相手の死と、自分の勝利を確信しつつ、敵の最期ぐらい見届けてやろうと視線を固定し、ただ弾丸が自分に向かって飛んでくるのをボーッと突っ立ったまま待ち構えているだけの間抜け野郎を見つめていたところ―――

 

 

「ぬぅんッッ!!!」

 

 

 目にもとまらぬ早業で鞘から剣を抜き放ち、何もない空間を真上めがけて刃を振り上げる。

 ただそれだけだ。弾丸はまだ届いておらず、刃の切っ先は一発の銃弾を掠めてもいない。

 ただの切り上げ。ただの斬撃。

 それだけで―――――突風が巻き起こる。

 

「な、なにィッ!? これは一体・・・う、うおわぁぁぁぁッ!?」

『ギャァァァァァッ!?』

 

 吹き荒れる暴風に弾丸をあちらこちらに弾き飛ばされ、何発かは流れ弾に当たってしまった汚職海兵が悲鳴を上げて、残りの者も突風に巻き込まれてすっ転んだ先で頭を打ったり背中に釘が刺さったりと散々な目に遭わされながら、それでも死人が出なかったのは彼らの悪人らしい悪運強さ故だろうか?

 

 それとも―――“悪に相応しい死に方は事故死ではない”と、天命が決めて彼らの運命を変えてしまった故なのか。それは判らない。

 確かなことは今の斬撃で隊長は吹き飛ばされても負傷はせず、一番最初に立ち上がって敵の少女の正体を看破したと自分自身の分析結果を高らかに宣言したことだけである。

 

「き、貴様“も”能力者だったのか!? 噂に聞く悪魔の実シリーズの何かを食べて海のバケモノとなった、“あのガキ”の同類! そうだろう!? ええ!? 見せかけだけ剣士ぶった偽物さんよゥッ!!」

 

 決めつけて、断定し、そうに違いないと隊長は思い込み、“思い込みたがる”。

 なぜなら、能力者であるなら自分たちが勝てないのは仕方がないと言い訳できるから。

 

 あの“モーガン大佐が手も足も出なかった悪魔の実の能力者が相手なら”“自分たち一介の海兵如きが勝てなくても仕方がない。むしろ当然のことだ”――そう信じ込みたかったのである。

 

 なまじ他の同僚たちより強かったせいで、相手との圧倒的な力を思い知らされて勝ち目がなくなり、せめてプライドだけでも守り抜いて負け犬にならずに死んでいこうとする卑怯者の浅知恵。

 

 だが、現実は彼が思っているよりずっとずっと残酷だった。

 元海軍中佐タモン・ストフィードは、剣を肩に担がせながら平然とした口調で相手の言葉を完全否定する。

 

「褒めてもらって恐縮だが、過大評価だな。私は悪魔の実の能力じゃない。

 ただの剣士で、今のも単なる剣の技だよ」

「嘘だァァァァァァァァァッッ!!!!!」

 

 相手の完全否定を、大声で完全否定し返して隊長は、大声でわめき散らしながら全員一緒にかかっていって数の差で一人の敵を押しつぶす以外に取るべき手段を一つも見いだすことができなくなっていた。

 

「と、突撃! 突撃しろォォッ!! いくら強かろうと敵は一人なんだ! 何人か殺されてもアイツを殺しちまえれば残りのヤツは全員助かる! 生き残ったヤツで金は山分けして構わねぇ! だから突撃するんだァァァァァッッ!!!!」

『お、オオオオォォォォォォォッ!!!!』

 

 隊長より1ランク弱かったせいで怯んでいた部下たちも、欲望に刺激されて我を失い突撃してくる。

 

 ・・・計算尽くで生きてきた彼らの、これが限界であった。

 勝てる相手としか戦ってこなかった。勝って当然の相手を倒して勝ち誇ることしかしてこなかった。

 おべっかを使って上官に取り入り利用しながら、上官の頭の悪さを内心で見下しつつも、表面上は媚びへつらって虎の威を刈るネズミでしかない自分たち自身に最後の最期まで気づくことが出来ないまま、認めることさえ出来ぬままに。

 

 彼らは海軍の掲げる絶対正義の名のもと、か弱い人々から搾取し続けてきた罪を斬首刑によって罪滅ぼされる末路へ向かって全速力で突撃していく――。

 

 

「俺たちは! 海軍大佐モーガン大佐直属の最強精鋭部隊なんだァァァァッッ!!!」

 

「なるほどな・・・よくわかった。それがお前たちの信じ貫く力の正義だというなら、信じる正義で殉死するのが望みだというならば。その望みを叶えてやろうではないか。

 直剣剣術!! 『打ち首獄門スラッガー』!!!!」

 

 

 再び振るわれる刃。巻き起こる剣風。

 そして突風によって一人残らず跳ね飛ばされた、汚職海兵たちの首と首なし死体の山。

 

 一体どういう理屈によるものなのか、十人以上いた海兵たち全員から四方八方より切りつけられたにも関わらず、タモンの振るった剣の刃は誰の体にも触れることなく全員の首を“たった一斬”によって胴体と切り離し空を舞わせる。

 吹き出す鮮血は風に乗り、天へと昇って雲散霧消して地に落ちず、地面を悪人共の地で汚すことはない。

 

 これが【裁きの剣】の二つ名を持つ、タモン・ストフィード元海軍中佐だけが使える独特の直剣術。

 刀でも反りが少ない物を好んで使い、直刀と呼ばれる変わった形の得物を用いて初めて使用可能になる彼女オリジナル剣技。

 

 そうして裁きが終わった罪人共の死体の山に目もくれず、タモン中佐は夜の闇をジッと睨み続ける。まるでそこに誰かがまだ潜んでいるのではと疑っているかのように。あるいは、誰かがいると確信しているかのように・・・・・・。

 

 

「あらあら、中尉たちったらやられちゃったのねぇだらしのない。

 やっぱり弱っちい下っ端士官だと、この程度が限界ってことなのかしらぁン?」

 

 闇から聞こえてきたのは男の声。ネチっこくて厭らしい女口調で話しかけてきた、元の自分と同じ中佐の階級章をつけた長身痩躯で目つきが悪く刀を帯びた、間違いなく自分と同じ剣士タイプの男性将校。

 

 見ただけで判る程度には、強い。少なくとも先ほど殺し尽くしたザコ共とは比べものにならない程には桁違いに強いのが一目で見て取れた。

 

「はじめまして~、私の名前はリーガン中佐。モーガン大佐直属部隊の隊長で、この子たちの上官だった海兵。

 ついでに言えば元ここの基地のナンバー2だった海軍将校でもある男なのよン。よろしくネ~♡」

「・・・上官として、部下たちの仇討ちでもしにきたと言うことか? オカマ野郎」

「アッハハハ! まっさか~♪」

 

 愉しそうに笑いながら近づいてきながら、側に落ちてた先ほどの隊長の首なし死体を軽く蹴飛ばして海へと放り込んで「フン!」と鼻で笑い飛ばす。

 

「どーせ、荷物持ちとして船までお宝運ばせた後、殺して海に捨ててお金を独り占めする腹づもりだったんだもの。

 ダ・カ・ラ☆ あなたはただ、私の手間を減らしてくれただ~け♡ 感謝こそすれ仇討ちなんてとてもとても♪

 そこまでしてあげるほど私、この子たちに愛着持ったことなんて一度もな~いし♪」

「・・・・・・」

「今の時代、この広々とした海のどこででも海軍と海賊がドンパチやってて、海兵の惨殺死体が浜辺に打ち上げられるのなんて日常茶飯事。

 誰だって海兵が斬り殺されて浜に上げられたところを見れば海賊に殺されたんだと思ってくれる。誰も味方の海兵に殺されただなんて考えようとしない・・・・・・い~い時代になったものよねェ~♪ 最高だわ、大海賊時代って☆」

「・・・・・・・・・」

「うふふふ・・・そんな怖い目つきで睨んだって、もう無意味よン? だって私、あなたの使ってた手品の種わかっちゃったんだもの」

 

 そう言って、部下たちを捨て駒として使い捨てることで敵の技を看破したと確信しているリーガン中佐は、軍服の右腕の裾をめくって見せながら怪しい笑みを浮かべて言ってくる。

 

「あなたはさっき、自分は能力者じゃないと言っていたけど、実際にはそうじゃない。さっきの技は間違いなく悪魔の実の能力によるものよ。だって、それ以外にあり得ないもの。

 ただの人間に斬撃を飛ばして敵を斬るなんてマネが出来るわけがない。中尉たちを斬るときに何か妙な能力を使ったのは間違いない・・・。

 その能力が何かまではわからなかったけど、相手が能力者だとわかってさえいれば対処法は用意してある。――コレよ」

 

 そう言って見せつけてきたのは、左手に装着させた金属製の小手。

 一見すると鋼鉄製に見えなくもないが・・・微妙に色合いの違う金属で作られたソレは、多分アレだ。

 

「ウフ♡ あなたコレが何で出来てるかご存じ? まぁ、貧乏でお金のない民間人の小娘に知っておけって言う方が無理かもしれないから特別に教えてあげましょうか。

 コレはね? 【海楼石】っていう特殊な希少鉱物でできてて、悪魔の実の能力を封じる力を持ってるの。本来だったら世界政府と海軍が厳しく管理してて、うちみたいに小さな基地には絶対配備されない超高級品なんだけど・・・世の中にはねぇ~、ボウヤ。お金さえ積めば何だって横流ししてくれる抜け道がどんな組織にだって必ず存在しているものなのヨ☆

 ――アッハハハ! 能力を封じられた能力者なんて何も出来ないカカシ同然! 私の得意とするレイピアの一突きで即死させてあげてもいいけど、それだとちょ~っと物足りないから、一回だけ私にさっきの攻撃を当てさせてア・ゲ・ル♡

 そして自慢の能力が通用しない無力感と絶望に頭の先まで沈み込みながら死んで行きなさぁ~い♪ オーッホホホホ~♪」

「・・・・・・・・・」

 

 もはや物も言えず、言う気も起きず。タモンは相手の望み通りに剣を振るって斬撃を飛ばし、リーガン中佐はそれを見て「ニヤリ」と笑ってガードするため左腕を前に出して、攻撃を防ぎ終わったらレイピアを突き刺して足を地面に縫い付けて逃げられなくしてやるため右手を後ろに下げて構えを取る。

 

 そして・・・・・・斬撃の当たった小手ごと左腕が斬り飛ばされて宙を舞う。

 鮮血と共にリーガン中佐の絶叫が天へと昇って巻き上げられて、市民たちの心地よい眠りを騒音被害から守り抜くことに成功した。

 

「ギャァアアアア!? う、う、腕がぁぁぁ!? 私のォォォッ! 私の左腕ちゃんがい、痛い痛い痛すぎぃぃぃぃるゥゥゥゥッ!?」

 

 子供みたいに泣きわめいて地面を転がり涙を流し、腕を押さえて見苦しいほど足掻く足掻く。

 

「な、なんでよぉぉ!? どうしてなのよォォォッ!? 能力だったら海楼石で防げるはずなのに! 能力なしで人間が斬撃を飛ばせるなんてあるはずないの・・・に・・・・・・ハッ!?」

 

 なぜか“海楼石を攻撃できるらしい能力を持つ”未知の敵を前に、恐怖に震えていた中佐が何かを思い出したような表情になると、今までとは異なる別種の恐怖の視線で相手を見上げて、震えながらの口調で相手の本当の正体をようやく看破することに成功できたのだった。

 

「ま、まさか・・・聞いたことがあるわ・・・。各地に突然フラリとやってきては、敵の海賊だけじゃなくて、味方のはずの海兵でさえ汚職してたら皆殺しにして帰って行く地獄の獄卒みたいな海軍将校の噂話を・・・っ!!

 アイツの見た目は確か、『くすんだ金髪をしていて、目つきの悪い三白眼で、細身の体で変わった形の剣を持った剣士タイプの海兵で』って・・・あ、ああああアンタまさか海軍本部中佐で【裁きの剣】のタモン・ストフィード様であらせられましたか―――ッ!?」

 

 

 メチャクチャ嫌な名の轟き方だったので、敢えて否定も肯定もせず黙っていたら勝手に相手の方で肯定と解釈して土下座およびお縄ちょうだいを志願し始めるリーガン中佐。

 哀れを誘うような涙目でタモンの顔色を見上げながら、拝むように頼み込むように一生懸命必死になって命乞いをし始める。

 

「ご、ごごごゴメンナサイ! 私が悪うございました! 反省しておりますですハイ!! ま、ままままさかタモン中佐殿がこんな僻地の基地へ来るだなんて思ってもおらず調子づいて悪事に手を出しすぎてしまいました! 素直に罰を受けるために牢屋へ自主的に入るつもりでいますから、どうか命ばかりはお許しを―! 平にー! 平にご容赦下さいませ―!!」

「・・・・・・・・・」

「お、お怒りはご尤もだと思われますが中佐殿! これは取引と思って下さいませ! 私は自らモーガンと同じ牢へと入り、ヤツを連行しに来た軍艦に乗せられて海軍本部に連れて行かれて罰を受けます! すべては合法!

 中佐殿の正義のお手は綺麗なまま、私に様な薄汚い木っ端汚職海兵の血で汚れる心配はございません! 中佐殿はただ、海軍の軍艦がこの町にやってくるまでの三日間の間だけ私を生かしておいていただけるだけで良いのです!

 い、如何でございますかね・・・? 悪くない取引でございましょう? エヘ、エヘ、エヘヘヘェェ~・・・」

「・・・・・・」

 

 相手の言葉を聞きながら、タモンは生まれて初めて味わう感情に身を委ねそうになりながら、必死に自分の中での妥協点を見つけ出そうと努力していた。

 アレをしたい。だが、それだとコチラと矛盾する。だがしかし、もう一つの方でもやはり矛盾は存在する。どちらを選んでも海軍の掲げる絶対正義と相容れる結末に至れそうにない・・・。

 ならば、自分はどうすべきなのか? もし自分が海軍大将【黒腕のゼファー】だったなら正しい選択を思いつくことが出来ていたのだろうか?

 

 

 やがて答えは悩んだ末に、“敵の口から”もたらされることになる・・・・・・

 

「そ、そそそそれに何より中佐殿は、かの偉大なる海軍大将【黒腕のゼファー】を尊敬していると耳にしたことがゴザイマス!

 武器を捨てて降伏してきた犯罪者を感情任せに斬り殺した海軍将校がいたなんて事実を知れたら、【全ての海兵を育て上げた男】はどう思われるでしょうか!? きっと嘆き悲しんで怒るに決まっております!

 ちゅ、中佐殿だって尊敬する憧れの人から嫌われたくはないでありましょう? で、でででですのでここはどうか穏便に、平和的な解決方法をと願うばかりでありまするー! ラブ&ピースこそが世界を救う! 戦争は何も生み出さない! ただ悲しみを増やすだけですからどうか平にーッ!!」

 

 ・・・ああ、そうか。そういうことだったのか。今ようやくハッキリした。ハッキリ出来たんだ。

 

 妙にスッキリして心の迷いが晴れたような表情を浮かべると、タモン元中佐は爽やかな笑顔でリーガン中佐を見て「にこり」と笑い、吊られて相手も「に、ニッコリ・・・」と引きつった笑顔を浮かべるのを見た直後。

 

 

「――――ダメだな」

 

 

 と、それだけ言って剣を振りかぶる。

 

「へ・・・? あの、ちょっと中佐殿・・・?」

「ダメだな、お前ら今の海軍は全然ダメだ。全くなっちゃいない。全員1からやり直させないと、いつまで経っても何一つ直せやしないんだと今ようやく解ることができた。それだけはお前に感謝しておきたい、ありがとう。お礼に苦しむことなく殺してやるから光栄に思って死んでいけい」

「ヒィッ!? ちょ、ちょっと待って待って! 意味がわからない!? なんでですか!? どうしてですか!? だって今、海軍大将ゼファーに嫌われるようなことしちゃダメだって認めたばっかりのはずじゃあ――ッ!?」

「ああ、そうだ。こんなことは許されない。海軍将校がこんな行為をするなんて絶対許されるべきことじゃない。みんな1からやり直しだ。

 私も、お前たちも。一人残らず海軍みんなゼファー先生に鍛え直してもらいながら1からやり直さないとダメなんだ! その事実を今ようやく解ることができたよありがとう!」

「ヒィィィッ!? そ、そんなそんなそんな!? やめてやめてやめて殺さないでお願いしますからァァァッ!? ゼファー先生が泣いちゃってもいいんですかぁぁぁ!?」

「もとより私はゼファー先生ではない! ゼファー先生に憧れて、あの人のように偉大な人間になりたいと思って目指して海軍に入った人間だ! 目標を目指して歩いている途中の未熟者だ!

 その私がゼファー先生を完全に猿マネしようなんて思ったこと自体ダメダメだぁ! 全然ダメだったんだぁ!

 その程度のことさえ今気づいたばかりの私が完璧なんて出来るはずない! 感情任せにお前を斬り殺してゼファー先生に叱られて反省して学び取る! それが教え子として正しい筋の通し方だと今わかった! だから私はお前を殺す!

 異論反論は思う存分あの世で言ってこ―――――っい!!!!!」

「ひ、ヒィィィッ!? ひぃぃぃっ!? イィィィィィヤァァァァッ!?

 わ、私は海軍大佐【斧手のモーガン】1の家来で! 参謀で! 副司令官で! ナンバー2で! 海軍中佐【卑剣のリーガン】です! リーガン中佐様なんですってばァァァッ!?

 だから誰か助けてェェェェェェェッッ!?」

 

 

 ズバァァァッ!!!!

 

 ・・・夜の海に響き渡った不快な音は、犯人自身の技によって風に運ばれ誰にも知られぬまま、どこへなりと消えていく。

 そして唯一生き残った真犯人は、被害者たちが逃亡用に使うつもりだった小型クルーザーを掻っ払うと、彼らが着服していた金だけ全部ぶんどって桟橋において『船代です』とだけ一筆添えて海へと船出していく。

 

 掲げる旗は海賊旗。

 そしてドクロの下には誇り高く記された『MARINE』の文字。

 

 

 

 

「さて、行くか。ようやく第一歩目だ・・・だいぶ遠回りした気もするが、これ以上遅くなるよりかは遙かに速いことだしな。――よし!

 出航だ! 己が信念の旗のもとに! 自分が信じ貫く海賊の正義の名のもとに!

 海軍大将【黒腕のゼファー】のようになれる人物に、私はなる! なってみせる!

 異論反論は死んでからしか私は私に許可しない! 絶対にだ!!!!!!」

 

 

 

 かくして、正義のヒーローに育つための少女の旅が今はじまった。

 風は東。

 海賊VS海軍という時代のうねりに逆らい続けながら、正義の意味と答えを求める彼女の航海はこうして本当の始まりの時を迎えたのである・・・・・・

 

 

 

 

オマケ『今作オリジナル設定』

「タモン・ストフィード」

 今作のオリ主で、サウス・ブルー出身の元海軍将校で現新人海賊。

 海賊王ゴールド・ロジャーではなく、海軍大将ゼファーに憧れて海へと船出した変わり種の海賊少女。

 名前の由来は、大日本帝国海軍中将『山口多門』と、陸軍の異端児『石原完爾(ストーンフィールドを省略してストフィード)』を掛け合わせたもの。

 

 何がなんでも筋を通しちゃう人。そのせいで組織の都合とか事情とかに寛容性がまるでなく、組織人としては致命的すぎる欠点を持っているが、それを組織人として致命的欠点だと自覚できていたから海軍を辞めて海賊になり、自由に海軍の絶対正義を守り抜く道を選んだ変わり者って言うか、普通に変人。

 融通が利かなない、若いクセして超石頭。ただし、形式主義者とか教条主義者という意味ではなくて、あくまで貫くべき海軍の絶対正義と海軍将校としての在り方だけに拘りまくってる。要するに、やっぱり変人と言うこと。

 

 実はかなりの気分屋で、テンションの上がり下がりで思考レベルが激変しやすい。

 楽しいことには考えるより感じることを優先して、ルフィみたいな行動に出ることが多い反面。嫌なことは頭だけで考えて本気になりたがらないから却って冷静になり優秀さが上がるという奇癖を持つ。(事務方とかで不正を暴くのが上手かったのはコレが原因)

 

武器はロングソード。

 レベッカが使っていた【刃引きされた長剣】を刃引きされてない状態で使っているところをイメージすれば良い。要するに、ごく普通の長剣と言うことである。

 海軍時代は刀とサーベルを使っていたが、その二つは『今の海軍が正義を行うため使っている道具』であるため、海軍に合わせられなくなって脱走した自分が一人で勝手に信じ貫く絶対正義のために武器として利用するのは筋が違うと、敢えて今まで使う機会の少なかった長剣に種類ごと変えてしまった。

 海軍が支給している配給品ではなく、少し前から脱走を考えていたタモンが自腹で購入しておいた代物。

 メインとなる得物が刀かサーベルだったため、いまいち長剣の目利きが出来ずに、『丈夫そうで長持ちしそうな気がする』のを選んできている。

 

 

「誰かが何かをしようとした意思は誰かの中に必ず残る。たとえ本人が知らない相手だろうと、遠くとも確かな影響を誰かにきっと与えている」

 

 ・・・というテーマでワンピースをやってみたいと思った願望が生んだオリジナル女主人公。

 元ネタは言うまでもなく『劇場版ワンピース フィルムゼット』の敵キャラ【ネオ海軍:Z】個人的には非常に好きなキャラクターでしたので採用したいと見たときからずっと思ってた人物です(^^♪


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