前回までのあらすじ。
子供を助けようとして悪魔っぽい生物さんの頭蓋骨を握り潰して殺しただけなのに、魔王呼ばわりされて泣かれてしまいました。まったく、ワケガワカリマセンヨ。
「グスッ、グスッ・・・魔王様ぁぁぁ~・・・食べないでくださ~いぃぃ・・・ボクは美味しくありませんからぁ~~~・・・・・・っ」
「落ち着いてください。私はジャングルとかに住んでそうな蛮族じゃないので、人食の習慣とかありませんから、いりませんから。そんなもの食べるぐらいだったら鶏肉の方が好きですから美味しいですから、買って食べてますから」
とりあえず相手を落ち着かせようと、当たり障りのない常識論によって説得してみる私です。
バケモノっぽいのを握り潰して殺した身とはいえ、それはあくまで殺しただけです。食べてませんし、人殺しもしたことありません。
見た目も頭が牛っぽい悪魔さんでしたから牛殺しの又従兄弟ぐらいで収まる程度の罪なはず。その程度だったらイスラムの方々以外は大した罪にはならないはず。・・・戦国時代の日本とか牛が農業するのに重要な資産だった場合は重罪になりそうな気がしなくもないですけども・・・殺した後で気にしても仕方ないですので諦めましょう、うん。なるようになれ。ケ・セラセラ。
「てゆーか、なぜに私が魔王? 見た目完全にエルフですよ? 耳とか見れば一目瞭然で」
「そ、そうなんですけど・・・あのグレオールをあっさり倒すなんて、天使様でないなら伝承に唄われる魔王としか・・・」
「グレる・・・? まぁ、何はともあれ自己紹介でもいたしましょうかね。
私の名前はナ・・・ナベ次郎と言います。あなたのお名前は?」
「ボクは・・・『アク』と言います・・・」
「ほう? アク・・・ですか・・・」
相手の名前を聞いて、思わず感心したように呟きを発してしまった私。
『魔王』に『アク』。二つ併せて順番を入れ替えたら『悪魔王』ができますね。サタン様です。もしくはルシファーです。どっちも旧約聖書の登場人物の中では超有名どころ二人なので覚えやすくて良いですよね。
「アク・・・韻を踏んでいて良い名前ですね。どうぞ、よろしく」
「そ、そうなんですか・・・? あんまり考えたことないですけど、褒めていただきありがとうございます・・・?」
なんとなく釈然としてなさそうな反応を返してくる相手の女の子――アクさん。そんな彼女に私は最低限度のことを教えてもらおうと質問させていただきました。
彼女は物知りではないようでしたが誠実な性格の持ち主なようで、知らないことは『知らない解らない』とハッキリ答えてくれて知ってることは教えてくれるためスゴく助かりました。
何事も、半端な知識でよけいな先入観もたせるようなこと言っちゃダメなものですからね。
刑事ドラマとかで少しでも人殺す動機がある人を見つけたら『つまり、こいつが◯◯を殺害したと言うことか?』と決めつけたがる素人じみた無能集団はフィクション時空のご都合主義の中だけでバカみたいな正義感に酔いしれていればよろしいのです。ド素人の無能は現実に介入してくんな役立たずぅ。
「ここは聖光国と言いまして、人々は智天使様を信仰しています」
「聖光国・・・智天使・・・」
「はい、智天使様はさっきの怪物を過去に封じた偉大なる存在です」
智天使・・・さっきの怪物を過去に封じた偉大なる存在・・・・・・。
「・・・あの程度のザコを殺さずに封じただけの役立たずさんが、偉大な存在なのですか?」
「うぐ」
一瞬、口をつぐんでしまった彼女に慌てて謝罪して説明を再開してもらった私。人もエルフも正直すぎては生きていけないのは世界が変わっても変わらないみたいですね。
何はなくとも、ここが地球でないと確証が得られただけでも一先ずは良し。『今に伝わってる歴史は偽物で真実の世界は・・・』系の話は頭こんがらがりやすいので私はパスしたい年頃なのでっス。
「聖光国では智天使様の下に三人の聖女様がいて、聖堂騎士団、聖堂教会といった組織もあります」
「ふ~む・・・」
話を聞いてるだけでもイヤな感じのする単語が連発されまくっていて、少し困ってきそうですよね・・・。
ひとまず名前だけ聞いて判断するなら、聖堂教会の方が強そうですし関わり合いにもなりたくないと思わされる名前です。代行者とか出馬されたら負けそうですし、麻婆好きな外道神父とか所属してたら塩投げつけても退散してくれそうにありませんから。
その点で聖堂騎士団の方はテンプル騎士団っぽいので安心な印象です。『ダ・ヴィンチ・コード』では強いとか言われてましたけど、セリフの中でやってた内容は墓荒らしと略奪に明け暮れた盗賊集団に過ぎませんでしたからね。その程度の外道共だったなら恐れる気はありませんし、殺してしまっても罪悪感を感じずに済みそうですから安心です。
・・・あとはせいぜい、『アルスラーン戦記』に出てくるルシタニア軍の聖堂騎士団と同じことしないことを祈るだけですかね・・・。逃げる途中でインフラ完全破壊とか洒落にならんですし、絶対にやらせるような事態には陥りたくない相手と言うことになってしまいます。
どうか、その二つの組織が今言った二つの組織と似ても似つかぬ、この世界オリジナル組織でありますよーにと願いを込めて空を見上げてから視線を戻し、アクさんの顔を見直したときに今まで気づかなかった点に気がつきました。なので言ってあげることにいたします。
「・・・すいません、気づきませんでした。逃げる途中で転んだりして汚れてたんですね。
ちょうど後ろに湖があるみたいですし、話の続きは水浴びして綺麗にしてきてからでも一向にかまいませんよ?」
「え!? いいんですか!?」
「・・・?? いや、私に許可とらなくても別にいいと思うんですけども・・・まぁ、ご自由にどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って頭を下げて、どこかで怪我なり火傷でもしているのか片足を引きずりながらではありましたが、嬉しそうな笑顔で湖に入っていくアクさん。
別にやましい気持ちはないんですけど、むしろ逆に男が女の子アバターの体を悪用して女の子の水浴び覗いちゃったらセクハラコードに引っかかりかねませんでしたし、後ろを向いて背中を向けて目を逸らしておく私。
ネカマは否定しませんし、ぶっちゃけ私自身が今それなので差別的感情はないのですけどネチケットを守ることは重要です。ゲームはルールを守ってみんなで楽しく!基本です。
「あと、どうぞコレ。なんか作ってみたら出来た石鹸とタオルです」
「え。まさかコレ・・・《シャボン》ですか!?」
「シャボン・・・? この聖光国とやらいう国では石鹸をシャボンと呼んでいるのですか?」
《ゴッターニ・サーガ》ではポイント消費してアイテム作れたため、先ほど倒したミノタウロスに羽はやしたような姿の名称不明なザコモンスター倒したことで得られたっぽい経験値使って作ってみた石鹸とタオルを渡してあげたら、なぜだか互いに疑問符浮かべながら質問し合う展開になってしまいましたね。なんですかこのRPGにはあり得ない展開。ギャグ漫画かショートコントですかい。
まっ、なにはともあれ女の子が入浴してる間の男は、外で一服が基本です。なので私は森の中へ~。そしてタバコを取り出し煙をスパ~。
ちょっとした不良気分が味わえて面白いですね、コレ。現実では出来ないことをやるための娯楽がゲームであることを考えるとヒジョーに楽しいッス。
・・・しかし、ゲーム内でさえ伝説的に有名なプレイヤーになったこともなく、ガチな廃人ゲーマーでもない、ただのエンジェイプレイを楽しんでただけの卒業組プレイヤーなんかを喚んでどうする気なんでしょうかね? 私を異世界に召喚したお方は・・・はっ!?
――ひょっとして喚ばれたのは私ではなく、私が使っていたアバターのキャラクター『ナベ次郎』だけだったという可能性も!!!・・・・・・ねぇですな、絶対に。ある意味で私個人が喚ばれるよりもっとも訳わからん理由になっちゃいそうですからね・・・。
一体どこの異世界に、拳で戦うロリ巨乳なハーフエルフとかいう、ネタアバターを必要として召喚するアホな召喚者がいると言うのでしょう・・・。もしいたとしたらハッキリと断言できます。そいつは真性のアホに間違いありませんと!
「ま、魔王様。お待たせしました。シャボン、とっても気持ちよかったです」
そんな戯言についてツラツラ考えていたところにアクさん再登場。入浴というか沐浴が終わったみたいですね。
女性のお風呂は長いのが定番ですけれども、さすがにお湯じゃなくて湖の水ですからねー。この程度の時間に絞らないとのぼせることはなくても風邪引きますわな。普通に考えて。
「いえいえ、どういたしまして。――あと、魔王言うなし」
微笑みとともに差し出してこられた、先ほど作って渡したタオルを受け取り、《悪魔のグレるさん》倒したときに使えるようになったっぽいアイテムボックス開いてポイッと放り込んで閉じます。森の中歩くのにタオルなんか片手に持ってたら邪魔でしょうがありませんからな。
あるいは少しぐらい汚れていたら汗ふきタオルとして使い捨てることも可能なのですけども、綺麗すぎて白すぎるとそういう用途では使えなくなるボクたち現代日本人。
「まぁ、その件はひとまず置いとくとしまして。先ほど倒したミノタウロスもどきのザコモンスターは、この辺りだとよくPOP・・・コホン。よく出没するザコでしたので?」
「と、とんでもない! グレオールがよく出没するようになったら国が滅びますよッ!?」
「え。あのザコって、そんなにヤバい存在でしたので?」
「・・・・・・っ!!(コクッ! コクッ!!)」
「・・・私の記憶には、情けない声で命乞いした挙げ句に脳みそ握りつぶされて血の花咲かせた噴水芸が得意な牛さんの姿しか見た覚えがないんですけども・・・?」
「そ、それはまぁ・・・えっとぉ・・・・・・魔王様が相手だったからだと思いますよ・・・?」
ナチュラルに困った顔しながら、反論しづらい気がしてくる言葉を言ってくる困った子ですね~。思わず言い訳のしようのない正論であるかのように錯覚しそうになっちゃったじゃないですか全くもう。
「ま、まぁ、その件もまた一先ず置いておきまして。――その《グレなんとかさん》とかいう暴れ牛モンスターが巣を作ってたり、縄張りにしていた場所に心当たりはありませんかね?」
「グレオールは、この森にある《願いの祠》に封印されていたと聞いてます」
「願いの祠・・・そこに案内していただくことは可能ですか? アクさん。狂牛病で暴走した牛さんモンスターを一匹残らず殺して駆除しに行きたいのですけども」
「わ、わかりました―――って、えぇぇぇっ!? 一匹残らず駆除!? グレオールをですか!?」
「そうですが、それがなにか?」
「だって、あれ! えっと・・・グレオールですよ!? あの智天使様に封印された伝説の悪魔王の仲間がいるかもしれない場所なんですよ!? その場所へ行って一匹残らず・・・駆除!?」
「そうですけど・・・なにをそんなに驚いてらっしゃるのです? 人に害をなす害獣なんて生かしておいたら危なっかしくて仕方ないじゃないですか。だいたいあの牛さん、黒かったですしね。
黒くてデカい名前の頭文字にGがつく生き物を一匹でも見かけたときには五十匹はいるものと想定して、一匹残らず絶滅あるのみが私の国では常識だった程度の当たり前の行為です。何も気にすることはありません。殺し尽くしていい存在は、一匹残らず駆除しなければダメなのですよアクさん・・・」
「あの・・・魔王様? 変な私怨かなにかでグレオールに八つ当たりしようとか考えてたりしませんか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・別に」
プイッとそっぽを向いて背中を向けて、しゃがみ込んで腕を後ろに差し出して前を見ながら後ろを見ずに、誤魔化す気はないですけれども誤魔化すようなタイミングで私は親切で適切な言葉をアクさんに向かって言ってあげるのでした。
「申し訳ありませんが、あなたの足の状態だと到着が手遅れになる可能性もあります。恥ずかしいかもしれませんけど、おんぶして移動させていただきたいのですが大丈夫でしょうかね?」
「ええ!! と、とんでもない・・・魔王様の背中にボクの穢れた身を乗せるなんて・・・っ」
「まぁ、人目を気にして恥ずかしい気持ちは理解しますし、いい歳をしてと言いたい気持ちを察しますけど、誰も見てない森の中ですし、一応は女の子同士な訳ですからお気になさらず。さぁどうぞ」
そう言いながらも、本当はプレイヤーの性別男なのは内緒な私です。恥ずかしいですからね。
ネカマキャラをやるにしても、本当の性別を告げる相手は選ばないと偶にヒドいことになるのがネットの世界。ネチケットは以下略。
「・・・ボクは昔から、村の厄介者なんです・・・」
――って、あれ? なんか別の話になってる?
「だから、いつも村のゴミを集めたり・・・糞尿を捨てる仕事をしたり・・・。自分なりに頑張ったんですけど・・・っ」
「はぁ」
「いつも村の人から汚い、臭いって・・・それでとうとうグレオールへの生け贄に出されちゃいまして・・・。
村のみんなが言うんです・・・。ボクに触ると穢れるって・・・。だから!!・・・って、ええ!?」
「よっこらしょっと」
なんか話が堂々巡りの様相を呈してきちゃったんで、問答無用で強制執行。強制おんぶして強制移動を開始です。うん、やっぱりこっちの方が大分早いですね。当たり前ですけども。
「ちょ、ちょっと待ってください。ボクに触れると・・・っ」
「さっき湖の水で洗ってきたのでしょう? だったら大丈夫です、問題ありません。少なくとも最初に出会ったときよりかはだいぶ綺麗で良い匂いがしていますからね。・・・言っときますけど慰めですから、セクハラ発言じゃないですから。お間違いのなきようにお願いいたします」
「訳がわかりませんけども!?」
「人生なんてそんなものです。割り切りなさい。それが大人になると言うことです」
「ですから先ほどから何一つとして魔王様の言ってることは、訳がわかりません!!」
なにやら背中に乗ったまま大混乱中のアクさん。
仕方がありませんね・・・少しだけわかりやすく説明してあげましょう。
「あのですね、アクさん。ゴミ拾いや汚物処理の仕事をしてる人に一定の汚れや臭いが付着してしまうのは仕方のないことなんです。
それなのに、その仕事に従事している人を『汚い』とか『臭い』とか当たり前のこと言うって、バカですか? その村の人たちは。バカの言うことなど気にしなくてよろしい。バカが移ります。バカがバカなこと言ってるだけなら無視しときなさい、馬鹿馬鹿しい」
「・・・・・・っ!!!」
「だいたい、自分よりも幼くて弱い立場の人間に対して汚い言葉で罵ってくる人間なんて、年齢や地位身分に関係なく性根が腐って汚らしく穢れきった心の持ち主に決まっているのですからね。
そんな人はクズの臭いがプンプン漂ってきて臭すぎます。死ねばいいとしか私は思ったことがありません。
その程度の人たちが言ってる言葉も信じている伝承も守り通してきた伝統だろうとも、気にしてやる価値はどこにもありません。『臭くて汚いカビ臭い悪習だ』と断言して足蹴にして燃やして浄化してあげるのが、せめてもの優しさであり敬意という程度のもの。私だったらそう言い切る程度のものに過ぎませんよ」
「で、でも! それは魔王様だから言えることで! 私は!」
「そ。よく分かってるじゃないですか、その通りですよ。
私のように『汚い言葉で他人の尊厳に汚物をなすりつけて臭い臭いと鼻つまんで見下してくる人間のクズ』は、人間のクズだからこそ、こういう言い方と考え方をするのが当たり前で、アクさんはそういう考え方も言い方も出来ない人間だと言うことです。ちゃんと分かっているようで安心しましたよ。・・・・・・いま言った意味、分かりましたよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事は返らず、ただ背中に小さな体を押しつけてくる力が強まったのみ。今はそれでいいとしておきましょう。千里の道も一歩から、夢はデカいほど追いかけ甲斐があるものです。
「つーか、糞尿が汚くて臭いんだったら人間なんて色男も美女も美少女もお腹の詰まっているのは、糞尿の詰まった肉袋だけでしょうに・・・。どうして、そこまで表面的な美醜にこだわれるのやら昔からサッパリ理解できませんよ。
どーせ美人も美男子も歳をとれば『昔は美人だった元美人』とか『半世紀前には美男子だったミイラ男』になるのは確定しているというのに。つくづくよく分からない考え方をするものですよね、その手の人たちって言う生き物はさぁ~」
「・・・すいません、魔王様・・・。ボクもさすがにそのお考えは一生わかれるようになる気が全然しないです・・・・・・」
なぜに? これほどまで当たり前の考え方のはずなのに~。プクー。
つづく
オマケ『追加設定の解説』
正式に続きが出せたので、今作オリジナルの設定をいくつか追加しようと思っております。
正確には追加ではなく、《インフィニティ・ゲーム》から喚ばれた魔王ではなく《ゴッターニ・サーガ》から喚ばれてきた他称魔王として、元いたゲームの設定と入れ替えるだけです。
基本的《ゴッターニ・サーガ》は普通のMMOのため、特有の売りになりそうなシステムなどは実装できなかった設定のため目新しいものは追加されません。むしろ癖のないよう原作より減っています。
プレイしていたゲーム世界にゲームキャラで転移系作品特有のトンデモ設定がなくなって、平凡極まるシステムに下位互換させられた。そのように解釈していただけると多分わかりやすいと思われます。
*活動報告をご覧いただいている方は知っておられるかもしれませんが、現在『ロードス島戦記』の二次作を書いております。
途中まで出来て原作見なおしたら時系列が矛盾しちゃってたので書き直し中。お待ちしておられる方がもしおられた場合には今少しお待ちください。
ちなみに現時点でのタイトルは、『ロードス島戦史~ハイエルフの転生神子~』です。