試作品集   作:ひきがやもとまち

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夜なべ(死語?)して書きました。FFタクティクス平民派DQN最新話を更新いたしました。書きたいものが多いと寝る時間が減るのは不思議ですよね♪ 昔そんな歌詞の歌があって好きだった作者です(^^♪


平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 6章

 ゼクラス砂漠――。昼間は摂氏50度にも上昇し、夜間には一気に氷点下まで気温が下がる地方固有の独特な気候から別名を『死の砂漠』とも呼ばれている不毛の地。

 

 その地にある集落跡で今、複数人の武装した男たちが誰に聞かれる心配もない不毛の砂漠であるにもかかわらず声を潜めた小声で話し合いを行っている・・・・・・。

 

 

「・・・おい、聞いたか? 北天騎士団が本格的に動き出したらしいぜ」

 

 騎士風の風体をした男が、隣の男に話題を振った。

 身なりこそ立派な騎士そのものであったが、身にまとう装備には所々ペンキを塗った跡があり、その下には質屋で買った安物の中古鎧が見え隠れしている。

 彼は騎士ではあったが没落しており、支給品の鎧兜まで売って生活の足しにしていた没落騎士階級でしかない存在だった。

 外見は騎士階級たる貴族だが、中身はとっくの昔に騎士を失って『空っぽ』だ。

 

「ああ、聞いたよ。・・・オレたちはいったいどうなるんだ?」

 

 隣に立つ、弓使いらしき男が胸の前で腕を組みながら唸るような声で返事を返す。

 その声にあるのは不安だけ。元が猟師出身である彼には騎士風の男と違って職を失っても自然から糧を得て生きていける術の心得があるはずだったが、山で暮らす獣から動かぬ敵を背後から狙い撃つ仕事に生業を変えて数年が経過し腕がなまっている。今さら元の猟師に戻ったところで暮らしていける自信は今の彼には残っていない。

 

「殺される前に足を洗って、どこかへ逃げるしかないだろうな」

「ウィーグラフに従っても死ぬだけだしな」

「ああ、その通りだ」

 

 モンク風の外見をした、修行をおろそかにして随分と経ち腹が出てきた男が肩をすくめて両手を広げながら呆れたように言った言葉に没落騎士は大きくうなずき、結論を口にする。

 

「ギュスタヴの計画通りに侯爵の身代金さえ手に入れれば、こんな生活ともおさらばさ・・・」

 

 どこか自信なさげにつぶやかれるその言葉。そこには隠しても隠しきれない『疲労』が込められており、彼らの内心を言葉よりも的確に表現してくれていた。

 彼らはすでに疲れ切っていたのである。

 貴族たちから民衆の権利と自由を得るための『戦い』に・・・・・・ではない。

 

 

 貧しい今の暮らしにウンザリして、他人の金で楽が出来る暮らしに早く『戻りたくて』仕方がなくなった者たち。それが彼らギュスタヴ率いる骸旅団から分派した勢力だったからである―――

 

 

 

 

 ・・・骸旅団はもともと、貴族支配に反対して反旗を翻した『骸騎士団』が、貴族支配打倒を掲げて解放戦争を挑む際に名を改めた組織である。

 掲げるスローガンから、貴族やそれに仕える者たち以外に手を出さないことを絶対の規律としているアナーキストの集団であるため活動のための資金源と呼べるものはほとんどなく、志に賛同してくれた民間からの寄付と、困窮した貴族領主が領地内の治安維持に金を出し渋るようになって放置されてしまっていた盗賊集団を討伐した際に謝礼金としてもらえる僅かな報酬だけが、その全てだったと言っていい。

 

 まるで絵物語に出てくる王道騎士のごとき在り方だが、それが彼ら『骸旅団』を民間が広く受け入れた一因であり、平民出身の義勇騎士でしかなかった彼らを正規軍と互角以上に戦うことのできる精鋭騎士団へと成長させた要因にもなっていたのは皮肉な話と言うしかない。

 

 領地の奥深くにある居城でふんぞり返ったまま動こうとしない主からの命令を待つばかりでは、五十年戦争を生き抜いた正規軍の新鋭騎士たちであっても腕が落ちるのは必然の結果でしかなく、民衆たちにとってみても税金を納めさせるだけで自分たちを守ってくれない役立たずの騎士たちよりかは骸騎士団に報酬として支払った方が今後の生活を守るうえで利があったのは事実なのだから。

 

 平民を見下す貴族たちは決して認めようとしないであろうが、彼らに支配される民衆にとって法と制度で金をむしり取るだけで外敵と戦いもしない騎士や貴族や王族たちなど『着飾った盗賊集団』としか思っていない。尊さや威厳などまるで感じてはいないのである。『働かない役立たずは必要ない』・・・それがいつの時代も民衆の本心なのだから・・・。

 

 やがて貴族たち、支配者階層にとっても骸旅団は厄介な脅威となっていき討伐軍が組織され―――完膚なきまでに敗北させられることになる。

 戦意も装備も十分に満ち足りた上流貴族の騎士隊長に率いられ、質屋に支給品の装備を売って見た目だけ安物でごまかした下級騎士たちで編成された貴族直属の騎士団では、終戦後も変わることなく戦い続けてきた骸騎士団を相手にも勝負にさえならなかったのである。

 

 

 こうして―――『骸旅団の崩壊』がはじまる・・・・・・。

 

 貴族軍を撃退した正義の義勇騎士団『骸騎士団』の名はイヴァリース全土に知れ渡り、無数の模倣犯を誕生させていく。イヴァリースの各所で骸旅団を『名乗る者たち』による襲撃や略奪、放火や強盗、横暴な貴族領主への報復攻撃やテロ活動、闇討ちによる天誅などが玉石混合で展開されまくっていく。

 摘発する側にとっても、襲撃の実行犯は『骸旅団』であった方が都合がよかった。

 なにしろ貴族に仕える直属騎士団が撃退された盗賊集団である。彼らの仕業と報告すれば犯人を捕らえられずとも責任を問われることはなく処罰されることもほとんどない。

 犯行側と政府側双方の利害一致によって『骸旅団』の名は、免罪符の代名詞となっていってしまったのだ・・・・・・

 

 それが今日の志を失いつつある骸旅団没落の始まりであり、ギュスタヴに寝返った者たちが金で釣られて楽をしたがっている理由である。

 最初から彼らが骸旅団に入った目的は、弱い者たちから一方的に奪うためであり、骸旅団と名乗りさえすれば弱腰になって逃げていく正規軍兵士たちを笑いながら虐殺する愉しみを味わうのに必要だったからというだけでしかなかったのだ。

 

 それが、北天騎士団をはじめとして正規の騎士団たちが骸旅団討伐に本腰を入れて動き始め、骸旅団と名乗っていた者たちを一人残らず根絶やしにする勢いで襲いかかってきたことから慌ててアジトを引き払い本隊と合流するという名目で逃げ込んできただけの彼らにとっては、本気で殺される覚悟をしての革命戦争など冗談ではなく、再び安楽な生活を手に入れ楽に遊び暮らせる生活に早く戻りたくて仕方がなかっただけなのだから。

 

 たしかに、今までほどは贅沢で楽な暮らしはできないかもしれない。だが、当座の生活基盤を新しく築くには十分すぎるはずだ。

 その後に落ち着いてから今までの経験を活かして新たな商売でも始めればいい。金さえあれば、大して難しいことじゃない。

 イヴァリース最大の盗賊集団『骸旅団』として、弱い者たちから手に入れてきた生きるための術と技術は大抵の場所で通用するはずなのだから・・・・・・

 

 そう思い、そう考え、至近の未来に迫った温かい食い物と寝床に困らない生活を夢見ていた矢先のこと。

 

 唯一、外に目を向けていた見張りの男から発せられた警告の声と言葉に、心と視界を甘い夢から現実の地平線上へと引きずり戻される!!

 

 

「た、大変だッ!! 北天騎士団のヤツラが現れたぞォッ!!」

『な、なにぃッ!?』

 

 

 彼らは一様に驚き慌てて、装備を手に取り持ち場へ戻るために走りはじめる!!

 彼らは皆、自分たちの置かれた立場を今ようやく思い出していたのである。

 今の自分たちは今までのように獲物を追い立て、誘拐した人質を盾に身代金で遊び暮らしていられる凶悪犯罪者集団ではなく。

 

 『砂ネズミの穴ぐら』に逃げ込んで隠れ潜んでいるだけの、追い詰められて落ちぶれた逃亡犯の群れに過ぎなくなっているのだという現実の姿を・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠の丘陵地帯にある、一部だけ凹んだ地域に風から家屋を守るために建てられたと思しき小さな廃屋の中で動き出す敵影の姿を視認しながら、私はちょっとばかし小首をかしげていました。

 

「なんか敵さん、妙に慌てすぎてやしませんか・・・? まるでコチラの襲撃をぜんぜん予測していなかったみたいに慌てふためきまくってるように見えるんですけども・・・」

 

 一応、こちらも人質の安全優先で敵拠点を攻撃しているわけですから最低限度の技巧は凝らしており、ただでさえ少ない部隊の人員を二隊に別けて片方を陽動にしながら接近してきた訳なのですけれども。

 いくら何でも慌てすぎです。逃げる側の心理として、追ってくる敵への恐怖感がまるでなかったような狼狽えっぷり・・・。これじゃまるで絶対刃向かってこないと見下していた飼い犬から背かれたことを知らされたロンウェー公爵みたいにしか見えないんですけどね・・・。

 

 ちなみにですが、今のは『タクティクス・オウガ』が元ネタです。タクティクス繋がりで使ってみました。韻を踏んでいていいですよね?

 

「よし、他の奴らに悟られる前に見張りを倒せッ!!」

 

 ラムザ兄様が、味方に対して指示を出されている声が聞こえてきました。

 いやまぁ、うん。言ってる内容自体は正しいんですけども・・・・・・“それ大声出して言っちゃったら意味ないんじゃないのかなぁー”・・・っという心の本音は、そっと心にしまって無かったことにしておいて差し上げる私はラムダ・ベオルブ。ラムザ兄様思いのできた妹だと自負しております。

 

「ラムダ・・・気にするな。ラムザのあれは病気みたいなもんで、どうにもならない。諦めるんだ・・・オレたちには諦めることしかできないんだからな・・・」

「兄様、騎士道英雄とか大好きそうな人ですもんね~・・・」

 

 隣に並んだまま敵陣へと進んでいく私とディリータさんの、しょーもない会話内容がコレ。

 ぶっちゃけ、だだっ広い無人の砂漠にある一軒家に接近するまで気づかれることなく見張りを倒し、他の者にも気づかれることなく籠城する側の敵を殺し尽くして人質救出したいなら夜まで待って夜陰に紛れて夜襲しかけましょうよと提案してみようかと何度思ったか分からない私ですけども、結局は兄様の人柄をおもんばかって言い出せぬまま今に至っている時点で同じ穴の狢状態。

 言う資格なくなっちゃいましたので、せめて行動あるのみです。よッと!!!

 

 

「『岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち集いて赤き炎となれ! ファイア!』」

 

『うッ!?』

 

 私が唱えた呪文が終わってしばらくして、「ボォンっ!」と小さな爆発音と共に地中から火を噴き出させる炎属性の攻撃魔法【ファイア】を食らわされた敵の一人が小さく悲鳴を上げるのが聞こえてきました。

 

 と言っても、所詮は炎属性の中では最低ランクの威力しかない攻撃魔法であり、まだ距離もあったため効果範囲に巻き込めたのは狙った対象一人だけのショボいものでしかないわけですが。

 

 とは言え別段、威力自体で攻撃しようと思ったわけでもないですのでねぇ~。

 

『う・・・くっ! 吹き上がった炎で砂が巻き上がって視界が悪く・・・しまった煙幕にするのが狙いだったのか!?』

 

 ピンポーン、その通り大正解です。ただでさえ足場が悪い砂地での戦いの中で視界まで奪われたらまともに戦う事なんてできません。窓ガラスのなくなった窓枠から弓で狙い撃とうとしていた弓使いさんたちにとっても目障りな土煙となっていることでしょう。まして一度吹き上がった煙は突然の突風でも吹かない限りは晴れてくれ難い砂漠の土煙なら尚更です。

 よし、コレで接近するまで時間が稼げますね。味方の被害が減らせそうで良かった良かった。

 

「さすがだな! ラムダ! 相変わらず卑怯でえげつない戦術だ! 見事だったぞ! 後は任せろ!!」

「あなたいい加減にしないと、本気で訴えますからね本当に!?」

 

 横を走りすぎながら、いい笑顔で要らんこと言い残して敵陣へと切り込んでいくディリータさん。

 まったく! なんだって一応は武門の頭領ベオルブ家の長女に生まれ変わったはずの私が、平民出身の青年にここまで悪口に満ちた褒め言葉のみを言われなくちゃならないんでしょうかね!? ぜんっぜんチート転生してきた気がしないんですけども! これでも一応はチート転生の部類に入るはずなんですけれども!!

 

 ホントの本当に貴族社会のベオルブ家長女舐めんなッ!?

 

 

 ・・・まぁ、そんな感じで色々ありながらも戦闘自体はそれほどたいした損害も負わないまま、無難な勝ち方で普通に勝ちました。

 敵は最初から終わりまで穴ぐらに引き込んだまま時間稼ぎでもするかの如く、しぶとく粘りながらも無駄な悪あがきとしか表現しようのない戦術ばかりに終始し続けて結果的にコールドゲームで勝ってしまった・・・そんな戦いだったのです。

 

 なぜ、追い詰められて目の前の敵を突破できなければ生き残れる道がなくなっていたはずの敵たちが、ここまで消極的な延命療法じみた判断を繰り返し続けたのか、それは分かりませんでしたけども、とにかく予想外に粘り続けた敵の足掻きによって予定してたよりずっと長い時間を表での戦闘に費やしてしまったのは事実であり、そうなると何故いっこうに敵の援軍が現れないのかが気になっても来るわけでして。

 

「予想外に手間取ったな・・・これじゃ他の敵に気付かれてもよさそうなものだけど・・・?」

 

 兄様も私と同じ疑問を抱いたらしくそうつぶやくのが聞こえ、次の瞬間にはおそらくディリータさんも含めた私たち三人ともが一つの同じ結論に達していたでしょう。

 

 

 敵の注意を片方に引きつけ、二手に別れて挟撃する今回選んだ戦法は、

 別に“味方同士でなくても成立可能だ”という当たり前の事実を。

 “敵の敵は味方でなくても、倒したい敵は同じだ”という常識的な戦略的判断基準を。

 

 そして、それをやりそうな人をこの前ドーターで目撃したばかりだったという直近の過去に起きた出来事を―――

 

 

「・・・??? お前らどうしたんだ? なんでそんな怖い顔して表情硬くしてんだ――って、オイ!? いきなり走り出してどこ行くんだよコラ!

 チッ! 待てチクショウ! オレ一人だけ置いていこうとしてんじゃねえ!!」

 

 

 

 

 

 

 ・・・そこは今では『砂ネズミの穴ぐら』と呼ばれるようになった集落跡が、実際に使われていた頃には食料保管庫として使われていた広大な地下室だった。

 砂漠で生きる民たちにとって、いざという時の備えは生きていくために必要不可欠なものであり、今このときの生活だけを考えて消費し尽くしてしまっては未来の自分たちの絶滅を確定させてしまいかねない。

 だからこそ彼らは集落に住む者たち全体が利用するための広大な地下空間を作って、そこに長期保存が可能な食べ物や、寒さ暑さから身を守ってくれる毛布などを保管しておき、安全に眠って翌日の朝を迎えられるところを確保していた。

 

 

 この民族史について、骸騎士団副団長である『ギュスタヴ・マルゲリフ』が知っていたかどうかについて歴史は沈黙している。

 だが少なくとも、敵が侯爵救出のため奇襲をかけてくることを警戒して、倒壊した家屋が目立つ集落の中では唯一と言っていいほど出入り口がひとつしかなく、正面突破してくるバカ以外は警戒しなくてすむ安全な侯爵と自分の身の置き所にこの場所を選んだ事実についてだけ見れば、歴史上の皮肉が大量にまぶしかけられた出来事だったと言えなくもなかったであるだろう。

 

 

 そのギュスタヴは今、かつての上司で自分たちの騎士団長でもある男と一人対峙していた。

 自分と同じ部屋に詰めていた部下たちはいない。もう殺されて死体になっている。

 いざという時には、侯爵を連れて人質にしたまま逃げられるよう身軽なシーフを側近として採用していた彼であったが、肝心の敵が『貴族社会の打倒』を掲げるアナーキストの集団『骸騎士団』の団長ウィーグラフだったのでは侯爵に人質としての価値は一切なくなってしまい、戦闘力の低い側近のシーフたちが倒された後では、「副団長」の自分が「騎士団長」を相手に一対一で勝負を挑んで倒す以外に生き残れる道は残されていなかった。

 

 即ち―――『詰み』である。

 

 

「どうだ、ギュスタヴ。いい加減に観念したらどうだ?」

 

 ウィーグラフが、かつての腹心に剣を突きつけながら最後に、そう語りかけてくる。

 

 ラムザたちが来るより少しだけ早く到着していた彼は、自分一人で乗り込んで裏切り者たちの地で集落跡を赤い海に沈めることは確実にできるだけの自信と実力を有していたが、その隙にギュスタヴが逃げ出さないという確信までは得られていなかったから、ラムザたちの到着を待ち、彼らと見張りたちと派手に戦闘をはじめてから混乱に乗じて室内へと突入し、ここまで一人でたどり着いたのだった。

 

 目的の違いが、彼にこの選択を選ばせたとも言えるだろう。

 ラムザたちの目的は侯爵が殺されるより早く生きてる間に救出することだったが、ウィーグラフにとってはエルムドア侯爵もまたいずれは倒さなくてはならない敵である。

 今はギュスタヴの非道から救い出すため動くとはいえ、優先目標は恥知らずな裏切り者ギュスタヴを抹殺する方が上なのである。

 

 だからこそ、ラムザたちを彼は使った。利用した。

 その謝礼としてエルムドア侯爵を『出来るだけ』生かしたまま彼らの手で救い出させてやれるよう侯爵を巻き込むことなく粛正を終わらせられるよう努力してやろうと心に決めながら――

 

 

「・・・貴様の革命など、うまくいくものかッ!!」

 

 追い詰められ、逃げ道を失い、部下も殺され尽くしたギュスタヴは、ウィーグラフの言うとおり遂に観念した。観念して・・・“最期に思いっきり罵声をぶつけてやろう”と決意せざるを得なくなっていた。

 ここで終わるならせめて! コイツに! この小綺麗な理想論ばかりを並べ立てる綺麗事大好きな坊や騎士サマに現実の厳しさってヤツを教えてやってから死んでいきたい!

 見にくく歪んで屈辱と怒りに染まったウィーグラフの顔を見て、せせら笑いながら殺されていく自分自身・・・そんな未来の自分を幻視しながら彼は人生最後になるであろう弁舌と詭弁と毒舌とを相手の心を傷つけるため最大限使い尽くしまくりにくる!!

 

「オレたちに必要なのは思想じゃない。食い物や寝る所なんだッ! それも今すぐになッ!」

 

 だが、ウィーグラフは動じない。さらに言葉を接ごうとする相手を制して、自己の信じる正義をハッキリと主張して相手の考えを否定する。 

 

「お前は目先のことしか見ていない。重要なのは根本を正すことだ!」

「・・・貴様にそれができるというのか? 無理だよ、ウィーグラフ! 貴様には絶対にできないッ! 甘すぎるお前の理想では現実に勝つ事なんて決してできるはずがないんだ!!」

 

 こんな事態に至ってもなお、揺らぐ事なく綺麗事を口にしてくる相手を言い負かすことは不可能であると悟らされたギュスタヴは、脆くも崩れ去った自分の人生最期の幻想をかき集めながら、せめて、せめて、最後の最期に自分が命をかけて信じて、命を捨てる羽目になってしまった信念だけは正しいと信じながら逝くために絶叫を放ち、相手の正義を否定することで自分の信じる現実主義こそ正しかったのだと認めさせようとする。

 

 だが、しかし―――

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

 厳然と、昂然と、泰然と。ウィーグラフの理想は揺らぐことなくギュスタヴの言葉による弾劾を受け止めて弾き返し、物理的にも一歩前へと進み出た。

 それは終わりを告げる意思の表れであり、この距離まで近づいてもギュスタヴの腕では自分を倒すことなど“絶対にできない事実”を思い知らせるための自慰行為をも兼ねたものだった。

 

「ギュスタヴ、おわかれだ」

 

 何の感慨も感じさせない、怒りや憎しみすらもない、ただ『終わってしまった出来事』として自分の死と、自分という存在までを定義したウィーグラフの言葉を聞かされて、ギュスタヴの顔が屈辱と怒りに醜く歪む。

 

 ・・・思い出されるのは自分自身の過去の出来事・・・。

 

 

 もとはイヴァリース最強の騎士団と称された北天騎士団に所属するエリート騎士の一員だったにもかかわらず、敵兵を皆殺しにしたり、占領した村などで強姦や強盗などの非道な戦い方をしてしまったことが騎士団内部で問題視されて骸騎士団の副団長に左遷させられる決定が言い渡された、エリートとして歩んできた彼の前半生が終わりを告げた日の記憶。

 

“なぜ、自分だけがこんな目に遭わされなければいけないのかッ!?

 敵国の兵士を殺して、何がいけない!?

 敵国人の女を犯して金を奪ったことが、なんで非道扱いされる!?

 皆やっていることじゃないか! 国がやらせている事じゃないか!!

 所詮、英雄なんてものは大量殺人者でしかないのに、どうして自分みたいな子悪党が犯罪者扱いされて、血塗れの英雄サマが凱旋パレードで美姫たちと笑顔でダンスを踊ってやがるのか!?

 世の中は! 社会は! 正義とか悪とか綺麗事とかは全部全部全部、間違っている!!”

 

 

「この俺が・・・・・・この俺様が! お前みたいに綺麗事ばかり抜かす、苦労知らずのガキ騎士に負けてなどやるものかぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

 激高し、ウィーグラフへ向け全力で斬りかかっていくギュスタヴ。

 その斬撃は間違いなく彼の人生の中で最高にして最強の威力と速度と完成度を誇った神速の一斬だった。厳しい選抜基準を勝ち抜いて北天騎士団に入隊を認められた時でさえ、これほどの必死さと真剣さで全力を出し切ったことはない。

 紛れもなく、ギュスタヴに繰り出せる全ての可能性を発揮し尽くした必殺の一撃。

 

 

 ・・・だがそれは、骸騎士団団長の評価基準には合格にはほど遠い、あまりにも信念と覚悟が籠もっていない無謀と勇気をはき違えている、速くて重いだけの単調な剣としか映ることはなかった。

 

 完全に距離と速度と間合いとを見極めた上で、完璧な身体コントロールで制御された体捌きを駆使して容易にギュスタヴ最期の一撃をよけきった後、全力での突撃が徒となって隙だらけになっていた彼の心臓に狙い澄ました刺突が正確に突き込まれて死命を制する。

 

 グサァァァッ!!!

 

 ・・・自分の心臓が鉄の刃で貫かれる音を聞かされながら、ギュスタヴはそれでも最期に何かを言い残そうと動かぬ唇を必死に動かし続け・・・

 

「うあ・・・・・・う・・・・・・」

 

 ・・・事切れた。

 人生の中で何かを成そうとして何もなせず、何をしようとしていたのかさえ判然としないまま骸騎士団副団長だった男ギュスタヴ・マルゲリフは35年の生涯を元の上官の手で終わらせられたのだった・・・。

 

 

「ウィーグラフッ!!」

 

 その時になって、ようやく外で見張りたちと戦っていたラムザたちが駆けつけてきて、彼とはじめて言葉を交わし対峙する距離にまで近づくことができたのだった。

 

「侯爵様ッ!!」

「動くなッ!!」

 

 先ほど亡くなったギュスタヴに縛られ床に転がされていたままになっているエルムドア侯爵を見つめて走り寄ろうとしたアルガスの動きを制するために、敢えてウィーグラフはギュスタヴの猿真似をして侯爵の首筋に剣の切っ先を突きつけて脅しをかけた。

 

 既にこの場で自分の成すべき事は終わった。

 ならば次は、彼らに真実を持ち帰って報告してもらわなければならないのだから・・・。

 

「貴様ッ!!!」

「よせッ、アルガス!」

 

「侯爵殿は無事だ。イグーロスへ連れて帰るといい」

 

「・・・どういうことだ?」

「侯爵殿の誘拐は我々の本意ではない。我々は卑怯な手段は使わないのだ。

 このまま私を行かせてくれたら、侯爵殿をお返しするが、どうかね?」

 

 お互いに妥協案となるよう、そう提案してみたのだが。

 どこにでも血気にはやる若く未熟な騎士というのはいるものだった。

 

「ふざけるなッ! オレたちに敵うとでも思うのかッ!!」

 

 先ほど誰より先に侯爵に駆け寄ろうとしてウィーグラフに止められた少年騎士が、身の程知らずな挑戦を勝てると思い込んだまま吠え猛って挑もうとしてくる。

 

 “若いな”と、苦笑で済ませてやりたくなくもなかったが、こちらも余裕のある戦況とは言えない。急いで戻らなければ各地から本隊に合流するため駆けつけてきている支部員たちに無駄な損害を強いてしまいかねないだろうから。

 

「よせッ、アルガス。彼は本気だ!」

「くッ・・・!」

 

 互いに互いを牽制し合いながら距離を取り、最終的にはウィーグラフが逃げることで手打ちとする。

 もし追ってくるような身の程知らずな若者がいた場合には、哀れだとは思うが己の未熟と無謀を死によって購わせようと決意していたウィーグラフの耳に、よく澄んだ静かな女声が響き渡り、彼から見ても思わぬ一言で事態を終息させてくれる一言を放ってくれたのだった。

 

 

「了解しました。その提案、ベオルブ家長女ラムダ・ベオルブが、ベオルブの名において了承いたします。

 双方、合意の上で剣を納めてください。これはベオルブ家の決定です」

 

 

『ラムダッ!?』

 

 くすんだ金髪の、どことなく先頭に立って部屋に入ってきた少年と似た印象を感じさせる少女が放った衝撃的な一言。

 その言葉に含まれていた単語は、さしものウィーグラフをして驚嘆せしむるに値した。

 

「・・・ベオルブ家だと? 君は、あの“ベオルブ”の名を継ぐ者なのか?」

「まさか」

 

 質問に肩をすくめて返事をし、軽く自分の胸を揺すって答え代わりに返してくる“彼女”。

 “女では家を継げない”。・・・下級貴族ならまだしも、大貴族に生まれた者の宿命を彼女は己の体格で表現してウィーグラフの質問の答えにしてきたのだ。

 面白い返し方だとは思うが、いささか少女として恥じらいに欠けていると思わなくもない。

 

「ラムダッ! てめぇ、なぜオレたちがソイツを殺すのを止めやがるッ!」

「勝てないからですよ。私たち全員でかかってもなお、彼には及ばない。行かせてあげた方が無傷で帰れるのですから素直に喜んどきましょうよ。

 第一、あなたの目的は侯爵様を取り戻すことだったんでしょう? だとしたら無事送り届けるまでは油断して危ない橋を渡ったりしちゃダメです。生きてお城まで連れ帰れるまでが救出策戦というものですよ」

「・・・ぐッ!!」

「――それにね、アルガスさん? こんな言い方好きじゃないんですけど・・・あんまり命令違反と独断専行が過ぎると、あなたの手柄を私たちで独占することになっても知りませんからね?

 ベオルブの名前さえ出せば、たかが騎士見習い一人の立てた手柄を全部無かったことにして、私たちだけで成し遂げたことにしてしまうぐらい簡単だって事はお忘れなきように」

「ぐッ!? ・・・ぐぬぅぅぅ・・・ッ!!!」

 

 如何にも貴族らしい傲慢な言い分を、あまり貴族らしくない“はすっぱな口調”で、どことなく特権を行使するのがイヤそーに感じているような声音で、同じ貴族であるはずの少年騎士に向け言い放った少女騎士。

 

 どうやら貴族たちの側にも、自分たちと同じように不協和音があるらしいことがわかり多少愉快な気持ちになりながら、ウィーグラフは騎士らしく礼には礼を以て遇するため剣を鞘に収めて少女に向かって一礼する。

 

 

「ベオルブ家の英断に正義あれ。骸旅団団長ウィーグラフが感謝を申し上げる。

 騎士として、互いの決着は戦場にて決するものとしよう。では、御免」

 

 

 そう告げて背を向け去って行くウィーグラフ。

 こうなってしまうと騎士見習いのアルガスには、どうすることもできない。

 ラムダの越権行為を責めるにしても、自分にはその権限もなければ資格もない。

 大貴族の非を責められるのは、同じ大貴族のみであり。イヴァリースの騎士たちの中で最高の地位と名誉を誇る武門の頭領ベオルブ家の一員が犯した過ちを糾弾するためには、同じベオルブ家の一員で、彼女よりも各上の二人の内どちらかに取り入り、権利を与えてもらうしかないであろう。

 

 それが、身分制度というものであり、アルガスもラムダも身分制度の中にいる限りにおいてはその縛りを超えて行動することは許されていないのだ。

 たとえ、その利用法が同じであっても、真逆の理由であったとしても。

 

 全ては家柄が決するのが、現在のイヴァリース貴族社会における絶対原則なのだから――

 

 

「う・・・うう・・・・・・」

 

 重苦しい沈黙で満たされていた地下室内に、エルムドア侯爵の弱々しい嗚咽が響き渡る。

 軽く診察したラムザが、命に別状はなく弱っているだけで外傷もないことを確認すると、ディリータが場を締めくくるように、問題解決を先延ばしにするように、常識的な一言でもって終わりの言葉に代える。

 

 

「イグーロスへ戻ろう・・・・・・」

 

 

 反対する者は誰もいなかった。

 ただ、アルガスだけがその瞳に宿しはじめた暗く燃える赤い炎で、一人の少女の横顔を沈黙したまま強く強く睨み続け。

 睨まれている少女もまた、その視線に気付いている事実を彼に伝えることなく、そのまま流しイグーロスへと戻るための道を歩み始める。

 

 誰かにとって破滅へのカウントダウンは既にこのとき、どうしようもないほどに始まっていたことを今はまだ誰も知らない。未来の歴史を知るものは現在の時点では誰もいない。

 

 たとえそれが、自分自身に近い将来訪れる死の未来であろうとも・・・・・・。

 

 

つづく




注:書き忘れていましたが、今作には多分に独自解釈によるオリジナル設定が含まれています。

 今話の場合だと、金目的で動かないアナーキストの集団である『躯旅団』がどんな手段で巨大に膨れ上がった組織を維持していたかの金銭的事情を作者なりに想像で補填してみた結果に過ぎませんので本気になさいませぬようお願い致します。

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