試作品集   作:ひきがやもとまち

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他の方が書かれているのを見てからずっと書きたかった「ハリー・ポッター」シリーズ。
当初はリスペクトからハリーの妹に転生したセレニアみたいな理屈っぽい女の子を想定してたのですが、リスペクトしすぎて模造品になってしまったため出すことができずフラストレーション溜まってた時に書いたのを偶然思い出したので出しときます。

電池不足から近日中の更新が難しい連載作の穴埋めとして暇つぶしにでも使い捨てで読んでいただけたら幸いです。

書いてる自分でも狂ってると感じる主人公です。モデルは「憂国のモリアーティ」。
悪の魔女による悪への裁きが主軸となった児童向けには絶対出せない作品です。
例によって原作ファンの方々は閲覧を自粛してくださいね?


ハリー・ポッターとジェーン・モリアーティ

 魔法界における一般常識として『生き残った男の子』ハリー・ポッターの生存が確認されたのは彼がホグワーツに入学したのと同じ年、1991年の事である。

 だが周知の通り彼が『名前を言ってはいけない例のあの人』ヴォルデモート卿の死後も闇の勢力残党たちによる暗殺の手を逃れ得たのはダーズリー家に掛けられていた守りの加護と、なにより真相のほとんどを知っていたと思しきホグワーツの校長ダンブルドアが秘密のほぼ全てを墓の下まで持って行ってしまった事に起因している。

 

 もしも彼の偉大な魔法使いの老人がハリーの敵に僅かなりとも情報を漏らしていた場合、生き残った男の子ハリー・ポッターが『生き残ってはいたけれど・・・』そう表現される存在になっていた可能性は残念ながら低くはない。

 

 では、ハリーの生存は本当に闇の勢力に属するすべての魔法使いたちが知るところではなかったのか?

 答えは、否だ。

 

 彼らは魔法界の悪しき伝統を重んじ、血統を尊重して劣等を侮蔑する。魔法の使えないマグルなど、彼らからすればゴミ同然だ。生きている価値もない。

 

 だがしかし。どこにでも例外というものはいるもので、更に言うなら例外の持つ可能性は善にも悪にも無限大に広がっている。

 

 彼らは悪しき伝統を重んじる闇の魔法使いでありながら例外であり、役に立ちさえすれば役に立ち続けている間だけマグルだろうと重用した。本来であれば秘すべき魔法に関する知識や情報も、場合に応じて必要な分だけ贈与した。

 

 そうして表と裏を使い分けて生活している悪の魔法使いの名門一族のひとつに『モリアーティ家』と言う名の一族がある。

 ロンドン郊外で表向きはマグルの為の私立探偵事務所を経営しながら、絶対の忠誠を誓った対象『例のあの人』ヴォルデモート卿の復讐を果たすためにポッター家の生き残りがいないかどうか虱潰しで探させ続けている復讐の鬼たちだ。

 

 十年以上にわたって続けてきた探索も梨の礫続きで、普通であるならとっくの昔に諦めていてもおかしくない復讐心を、彼らは捨て去る気などサラサラ持ち合わせてなどいなかった。

 

 必ず殺す。絶対に見つけだす。一人残らず見つけだして殺さなければ気が済まない。

 

 彼らは優秀な探偵だった。優秀な経営者であり研究者であり探求者であり魔法使いでありコンサルタントでありーーそしてなにより『犯罪者』だった。彼らには自らがやると決めた犯罪を未完成のまま放置することなど出来なかった。不可能だった。

 

 そんな美しくない犯罪を犯すぐらいなら、いっそのことロンドン全土を燃やし尽くして自分たちもろとも灰燼に帰した方がまだマシだ。

 

 そういう風に考える狂った一族であり、狂っているからこその妄執とによる執念深さでもって、彼らはついに目標の目撃情報を入手することに成功した。

 彼らは歓喜し、さっそく目標である殺害対象ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターの落とし種『生き残った男の子』ハリー・ポッターの殺害について周到すぎるほどに念入りな計画を立て始めた。

 もう二度と失敗は許されない。殺すと決めた相手は、必ず殺さなければならない。

 でなければ『完全犯罪』が成立しないから。死体が見つからない、存在しない殺人事件を完全犯罪などとは呼ばない、呼ばせない。

 

 魔法界にとって今世紀最大の殺人事件最初で最後の被害者には、生きているうちに伝説となった男の子の死体こそが最も相応しいのだから・・・・・・。

 

 

 

「重要なのは目標が外出する際には必ず、ダーズリー家の連中と行動を共にしていると言う点だ。奴らに見られることなくハリー・ポッターを殺すのは不可能だからな」

「むしろ私たち魔法族より、マグルの犯罪者に金で依頼した方が確実かもしれないわね。今ならダンブルドアによる監視の眼は緩いはず。ましてやマグル贔屓の彼は、一般人に紛れて偽装した犯罪者であるマグルの存在を知らなすぎるわ。

 彼らとコンタクトをとる手段を熟知してるのは、魔法界広しといえども私たちモリアーティだけよ。この利点を最大限活かしましょう」

「名案だ。せっかく裏家業として犯罪コンサルタント会社を経営してるんだ。使えるときに使わないのは勿体ない。今までは調査だけに使っていたが、目標を発見できた今役割を変更させるのも悪くない。さっそく社員のうち何人かをピックアップしておこう。

 もし発見できたら、そのときは・・・」

 

 殺す。それ以外の選択肢は彼らの頭の中には存在しておらず、憎むべき敵“悪の秩序”の天敵たるハリー・ポッターが誰にも知られぬまま、マグルとして生涯を終わらせるために殺人計画を押し進めていく。

 

 それは結果から見れば本末転倒なものであり、崇拝し尊敬するヴォルデモート卿が復活するために必要不可欠な存在を彼の復讐のため事前に消してしまう狂った計画であり、計画の失敗が彼を救ったと言えなくもないのだが、歴史を知る者以外に知ることの出来ない裏事情を今を生きる彼らは当然知らされてはいない。

 

 だからこれは、必然であり偶然だ。

 彼らの犯罪計画が立案されただけで、実行に移されることはなかったことも。

 彼らの計画立案が自宅の食堂で行われていたことも、家の二階にある子供部屋が食堂の真上にありマグルの家であることを疑われないため余計な傍聴阻止魔法の類はかけていなかったことも全てが偶然であり必然だ。

 

 そう、偶然だ。すべては偶然によって未然に防がれただけ。

 『生き残った男の子』が殺されるのを防いだのが、親殺しの少女であったことなどハリー・ポッターが気してやる必要性は・・・0だ。

 

 

 

「・・・つまりはそう言うことです。お父様、お母様。あなたたちの死は、魔法界を救う英雄とは一切合切関係しない。ただの焼死体、肺が吸い込んだ灼熱の煙で焼き爛れただけで、魔法による攻撃など一発たりとも受けてはいない。

 魔法族の名門がマグルと同じやり方でマグルのように殺される・・・はっ、実に相応しい死に様ですね。反吐が出ますよ。腐った血を引く死喰い人など一匹残らず焼き尽くされてしまえば良いものを・・・」

 

 上品な口調で華麗に親を罵倒してのける幼い姿の美少女は、床に横たわって口から血を流し脇腹に突き立てられた杭に手を掛けながらも、抜けば出血多量で死んでしまうのが分かり切っているから抜くことが出来ず苦しみ続けるしかない、自分の産みの親たちを地蟲でも視るような目で見下ろしながら卓上の蝋燭へと手を伸ばした。

 

「おわかりですか? お父さん。今から私はこの屋敷へ火を放ちます。細工はしてありますから、やがて炎は膨張して小爆発を起こす。

 時代錯誤な作りをした古風な屋敷ですからね。火種の飛んだ先に燃えるものがあったとしても誰も不思議には思いません。『掃除を怠ったメイドの不手際が招いた大火事』それだけで終わるお話ですよ、簡単でしょう?

 ああ、ご心配なく。メイドをはじめとした使用人たちも残らず全員あなた方と運命を共にしたさそうな奴ばかりだったので遠慮なくやれましたから、旅路は二人寂しくなんて事にはならないでしょうし安心して死んでください。選ばれし者、貴族にとっては大切な事柄なのでしょうから」

「・・・・・・」

 

 地に這い蹲りながら、それでも父は悪の陣営の一翼を担うものとして最後の矜持で娘の真意を問おうと視線をとばす。

 

“お前はあの偉大なる御方に弓引くことが、どういう結果を招く事になるか本当にわかっているのか?”と。

 

「愚問ですね」

 

 父の真意を正確に読みとった彼女は、貴族らしく優雅な笑みで冷笑し、冷然とした口調で闇の世界への宣戦布告を言ってのける。

 

「この世界にはゴミ屑で満ちている。平等なはずの命を生まれた家柄のみで査定しようとする、旧泰然とした屑どもでまだまだ満ち溢れている。

 特にこの魔法界に蔓延る血の濁りは相当に根深い。

 生まれで人を判断し、魔法族とマグルなんていう差別用語を平然と乱用して恥じ入りもしない貴族趣味のバカどもに付き合わされて、人々は階級差別という名の呪いから未だ解放される目処すら立てられてはいない。まったく、どうかしていますよ。

 こんな狂った社会は、闇の魔法使いなんて悪魔どもを一人残らず殺し尽くしでもしない限りは変わらないでしょう?

 だから殺す。一人残らず闇の魔法使いを皆殺しにする。悪魔が死に絶え、人々の心に平穏が訪れれば、この世界は今よりずっと美しい素晴らしきものとなるのですから・・・」

 

 聖者のような悪魔の笑顔で、娘は闇の陣営への抹殺宣言をすませると、彼らの血を引く者たちにとって禁忌となるワードまでもを当たり前のように言ってのけた。

 

「その綺麗な世界に、ヴォルデモートなんてゴミは必要ない。死に絶えるべきクソ虫は、地に這い蹲り命乞いをしながら一顧だにされず踏みにじられて死んで行け。

 悪は要らない。悪は殺す。僕が殺す。全部殺す。悪は悪によって裁かれるのが、尤も相応しい末路なんだ」

 

 悪の魔法使いとしての笑みを浮かべ、悪の魔法使いの根絶を宣言する悪の魔女。

 父は今ようやく気が付いた。娘は確かに自分たちの血を引く娘であったと。

 悪の魔法使いの血を引きながら、魔法使いらしくないやり方で悪を成すを良しとする正統派の邪道魔法族であることを。悪の論理で世界を見据える、悪の犯罪者であることを。

 

 そして、『自分の信じる正義のために人を殺せる、正義の側に付いただけ』の犯罪者でしかないことを。

 

 彼女の正義は矛盾している。何れは自分の身を焼き尽くすための業火に薪をくべ続けるか、滑稽な。そう嘲笑って目線を上げた父親はギョッとした。娘の顔に異様な感情が浮かんでいたからだ。

 

 喜び慈しみ褒め称える。様々な良き側の感情の満面に満たしながら、今まで愛してきた今となっては憎むべき敵の娘は笑顔のままで最後にこう宣言する。

 

「ええ、その通りですお父様。私は何れ身を焼くための炎を絶やさぬ為の燃料として、同族どもを枯れ枝代わりに投げ込み続けるつもりでおります。

 だって、そうでしょう? そうあるべきだし、そうでなければならない。

 滅びをもたらす者は、必ずや誰かの手により滅ぼされなければならない。

 悪の世界を滅ぼす者は正義によって滅ぼされ、自業自得の末路を迎える義務がある。

 ああ・・・悦しみですわぁ・・・。私はいったい誰の手によって裁かれ、殺されるのでしょう? 正義を奉ずる不死鳥の騎士団でしょうか? それとも裏切り者を処分したい死喰い人のクソどもでしょうか? 悦しみですわ楽しみですわスッゴくスッゴく愉しみですわ。

 魔法界すべてを巻き込み、悪の帝王を殺すための完全犯罪なんて・・・世界で最高のエンターティンメントの脚本を書ける私は世界一の幸せ者です!」

 

 あまりに荒唐無稽で突拍子もないイカレた発言に、狂った悪の犯罪者を自認する父親でさえ二の句が継げなくなる。

 

 いったいこいつは何を言っているのだろうか・・・?

 

 訳が分からないままの父親に向かって娘は、満面の笑顔で先程とは真逆の感謝の言葉を捧げる。「ありがとう」と。

 

「ありがとうございます、お父様。この時代に私を生んでくださって。

 私に悪の帝王は殺せないでしょうけれど、そのお手伝いぐらいは出来るでしょう。

 彼に味方する悪の陣営を殺しまくるのは、スッゴくスッゴく愉しくて良いことなのでしょうね。悦しみです。

 せめてものお礼として・・・出来るだけ長い時間生き永らえて苦しみ続けられるよう、屋敷が燃え落ちるまでの時間を調整して差し上げます。人生最後の時間を懺悔と後悔に使うことで神様にお許しいただけるよう、娘として心の底から願っておりますわ」

 

 父親に言葉はない。無駄だからだ。この娘には自分の信じる物しか目に映らず、耳には入っていも心にまでは届かない。

 自分の主観に満ちた世界しか彼女の中には存在できず、それ以外のすべての世界は焼き尽くし殺し尽くす以外の未来など与える気は毛頭ない。

 狂っている。それが父の下した娘への評価であり、きわめて正しい正答だった。

 

 悔やむべきは、悪の論理の前で『正しさ』は何の意味も持ち合わせてはいなかったと言うこと。只その一事のみだろう。

 

「ごきげんよう、お父様。魔法族には知られていない名家の当主として、マグルとして死んでください。寂しくないよう、後からお友達をいっぱいお連れいたしますわ。

 ずっとお会いしたがっていたヴォルデモートもお送りしますので二人でじっくりと悪について語り合ってください。明けない夜は長いですから。ーーさようなら」

 

 最後に寂しそうな笑顔を湛えると、躊躇う様子もなく背中を向けて歩み去り、蝋燭を利用した着火装置を点検して回る。

 

 やがて火がつき、火が回り、屋敷全部が燃え落ちていく。

 近所のマグルたちが飛び起きて駆けつけてくる中で、一際目立つローブ姿の老人が表れ驚愕のあまりキラキラした目を大きく歪ませる。

 

「これはいったい、どうしたことじゃ? モリアーティの魔法なら、この程度の火災はどうとでもなるはず・・・なのに何故脱出しない? 何故燃えるに任せておる?

 一体ぜんたいウィリアムは、何を考えておるんじゃ・・・?」

 

 その疑問は周囲で騒ぎたてる人たちの耳には届いていなかったが、唯一人だけ聞き逃さぬよう耳を傾けていた人物がいた。

 

 屋敷から助け出された唯一の生存者にして、全身大火傷による激痛に苛まれているはずの未熟な魔女の娘ジェーン・モリアーティ。

 担架で運ばれていく彼女の苦しみの視線が、一瞬だけ冷静さを取り戻した時、ローブの老人ホグワーツ魔法魔術学校の校長アルバス・ダンブルドアと目が合った。

 

 正義を守るために人を殺す、狂った悪の物語はこうして幕を開ける・・・・・・。




注:今作の主人公は多重人格障害者。

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