試作品集   作:ひきがやもとまち

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現在、作風を取り戻すため色々書いてみてる最中です。最近書きたいものを書きたいように書けなくなってる状態にありましたので脱現状のリハビリ作品と捉えてくれたら嬉しく思います。
今回の話はPSソフト『ヴァンダルハーツ~失われた古代文明~』の二次作です。
例によって例の如く、主人公が生別と一緒に反転した性格になってたらバージョンの話ですので適当にどうぞ~。


ヴァンダルハーツ~失われゆく祖国のために・・・~

 サステガリア大陸、中央部に広がる肥沃な地域は古の救世主トロアの末裔である『神聖アッシャー王朝』によって、千余年もの長きにわたり統治されてきた。

 未来永劫続くかと思われた王国の繁栄・・・その中で王侯貴族たちは徐々に退廃的な享楽へと身を沈めるようになり、かつて神聖視されたトロアの教えもいつしか忘れ去られていった。

 この世紀末的状況に於いて、圧政に苦しむ民衆は賢者アレスの指導のもと解放軍を組織して王国に反旗を翻す。

 後世、革命戦争と呼ばれる内乱の勃発である。

 王国軍の反攻は苛烈を極めたが、知略に長けた賢者アレスと不退転の意思を持って前進する解放軍の前に敗走を重ね、ついに崩壊の憂き目を見る。

 

 その後、勝利した革命軍によって議会制を柱とした大陸初の共和制国家『イシュタリア』が誕生する。

 

 ・・・だが新政府盟主の座を嘱望された賢者アレスは戦後いずこかへと姿を消し、帝国打倒という旗印のもと邁進していた民衆も悲願を成就したことで寄るべき価値観を見失い、享楽と退廃に身を沈めるようになっていき、いつしか自由と平等をもたらすはずだったイシュタリアの共和制は一部の政治家と悪徳商人たちが結託して利益をむさぼるだけの衆愚政治へと墜ちていった・・・・・・。

 

 そして十五年後、新たな動乱の陰がイシュタリアを包み込もうとしていた。

 

 そんな中。

 若き女剣士が、愛する祖国に終わりの時が近づいているを肌で感じながら、一人グラスを傾ける。

 

 

「乾杯。滅び行く祖国への義務を果たすために」

 

 

 

 

 ・・・ガタゴト、ガタゴト・・・

 街道を行く荷馬車の上で、フードに顔を隠した若い人物が一定間隔で揺れる振動に心地よい眠気を誘われながらウトウトしていると、近くから自分の名を呼ぶ声が聞こえて目を覚ます。

 

「・・・アーシェ・・・、

 ・・・・・・アーシェ!!・・・」

「・・・・・・・・・んぅ?」

 

 寝ぼけ眼で薄目を開けると、如何にも行商人然とした格好“に見えるような服装をした”若い男が自分に向かって声をかけてきている姿が視界に入り、どうやら目的地に到着していたらしいことを彼女、『アーシェ・ラッセル』に教えてくれたようであった。

 

「ああ、すまない。ちょっと眠くなってしまったものでな・・・ふぁ~あ・・・」

「・・・オイオイ、しっかりしてくれよ本当に・・・。そろそろヤバい地帯なんだからよ・・・」

 

 自分と同じ、行商人風の格好をしたアーシェの暢気すぎる反応に、相手の男は逆に毒気を抜かれて今に置かれた状況を一瞬だけ忘れそうになってしまう。

 その緩んだ空気を引き締めるかのごとく、この場にいた行商人の一団最後の人物である後頭部で髪をまとめた異国風な男が二人に警告するように鋭い声を発した。

 

「むっ、来るようだぞ!!」

 

 その声が呼び寄せたわけでもないであろうが、タイミングとしては言葉が終わった直後の時点から周囲の岩場や大木の陰よりワラワラと十数人の武装した男たちが躍り出てきて、瞬時に荷馬車の周囲を取り囲んでしまってから弓矢を構えて警告の言葉を・・・・・・否、脅迫セリフを荷馬車に乗って荷を運ぶ途中だった行商隊に勝ち誇った笑顔と態度で偉そうに語ってきた。

 

「くっくっくっ・・・・・・悪ぃがオメェら、もう逃げ道はないぜぇー。

 この谷が、今をときめく盗賊団“ウンババの牙”の縄張りだって事を知らなかったのかぁ?」

 

 ときめきく盗賊団を自ら名乗り、かわいらしい名前を自称しながら自らの見た目は全然かわいくない不潔そうな長髪の男が汚い歯を剥き出しにしながらあざけ笑うと、近くにいた別の肥満気味な男も同じ種類の笑みを浮かべて似たようなセリフを似たような口調で吐きはじめる。

 

「大方、この辺りは不案内な田舎商人だろうぜ。けけけっ! 無知は災いの元って言うよな」

「そういうことよ。命が惜しかったら、大人しく荷と金目のものを差し出しな! もっとも、全部差し出しても命は取るけどな!

 ・・・そうでやんしょ、親方?」

「ギャハハハハ・・・ちげぇねぇぜっ!!」

 

 最後だけ妙に卑屈な態度でボスにお伺いを立て、聞かれたボスは得意満面なアホ面を、丸々太って前に突き出た腹とともに大きく揺らして笑い転げる。

 

「・・・・・・・・・」

 

 これらお調子者どもの蛮行に対して、行商人たちはなにも答えない。返事もしなければ逃げ出そうともせず、ただ何かを落ち着き払ったまま待ち続けているかのようにも見える商人の反応としては異質すぎるソレ。

 だが、子悪党の頭の中身は自分たちに都合のいい解釈以外は成立しづらく出来ているらしい。

 

「オラオラ、どうしたどうした。びびって声も出ねぇのか?」

 

 と、脅迫に対する答えが『沈黙=おびえて声も出ない』という頭の悪い直結思考をたどった末に、まるで反撃を警戒せぬまま不要に近づいていき、

 

「へへっ、せめて最後に顔ぐらい拝んでから殺してやるよ。運さえ良けりゃ、お前の死に顔を教えてやることが小銭になる遺族とかに会えるかも知れねぇからn――」

 

 今度の言葉は最後まで言い終えることが出来なかった。言い終えることを相手の方が許さなかったからである。

 フードの下に見えないよう隠していた鞘から剣を引き抜いて、躊躇うことなく一閃。頸動脈を切断したたため、大量の血を吹き出しながら倒れていったし、苦しまずに済むよう楽に殺してやるといった『軍隊ではなく警備隊員らしい戦い方』で、小うるさい相手の口を永遠に閉じさせることが出来て良かった良かったと自己完結しはじめる行商人を装った若い女性剣士。

 

 逆に、仲間を一方的に葬り去られた相手の手腕に度肝を抜かれた盗賊団“ウンババの牙”たちは激しく動揺して嗤いを納め、無力な行商人だと思って侮っていた相手の正体を計ることが出来ずに武器を構えたまま警戒を強める。・・・ただそれだけ。逃げも隠れもする者は一人も現れておらず・・・。

 

「かーっ! どいつもこいつもアホヅラ下げて、のこのこ現れやがって。あったま悪いんじゃねーのか? お前さんたち」

「まったくだ。逃げられぬのは貴様らの方なのだぞ!」

「なんだとっ!?」

 

 “与えられていた情報”と違う相手の反応にボスは慌てさせられ、思わず相手の正体を相手の方から名乗らせるため、この手の演劇における悪役のお約束セリフを自ら口にしてしまていった。

 

「てっ・・・てめえら・・・・・・一体何者だっ!?」

 

 この質問を待ってましたとばかりに行商人に化けてた男女たち三人の内、左右の二人が勢いよくフードを脱いで投げ捨てて、高らかに自らの所属と誇りの由縁たる名を謳いあげる!

 

「イシュタリア警備兵団第18小隊、ホセ・カルロス」

「同じく、キース・バルドー。任務により貴様らを捕縛させてもらう!!」

「・・・・・・」

 

 最後に残った中央に立つ一人だけは、いまいち敵を前にして名乗りを上げることに抵抗があるのか、黙ったまま二人が名乗るのを聞き流していたのだけれど。

 さすがに役儀の上で、自分が言わなければならない言葉もあるにはある。やる気は出ないがやるとしよう。

 

「イシュタリア警備兵団第18小隊隊長のアーシェ・ラッセル。言っても無駄だろうが一応言っておいてやる。大人しく投降しろ。

 私たちは貴様らと違って、無駄な抵抗をしないのなら命まで取らん。せいぜい無い知恵絞って少しでもマシな不幸を選ぶことだな」

 

 この人を食った降伏勧告に対して、盗賊団のザコたちは頭に血管浮かべて怒り狂いかけたが、ボスだけは女が名乗った名前だけは無視できなかった。あまりにも有名な名だったからである。

 

「!!・・・アーシェ・・・! てめぇは、【血煙のアーシェ】か!?」

 

 国内でも有数の剣の使い手にして、『裏切り者の騎士の娘』。

 その汚れた出自と、情けを知らぬ剣の腕から奉られた渾名が【血煙のアーシェ】

 よりにもよって警備兵団の中でも指折りの最精鋭と出くわしちまうとは自分たちもついてない!!

 

 ・・・いや、逆だ。ついてないんじゃなく、ツいているんだ。今この場でコイツらを倒せば自分の悪名と畏怖はいや増す。そうなれば今みたいに貧弱な弱小盗賊団の頭なんてショボい地位じゃなく、もっと上のデケぇ組織の幹部に入れてもらえるのだって夢じゃあない。

 

 なにより敵はまだ気づいていないようだが、彼には個人的理由から彼らに対して恨みがある。

 この機を利用して部下たち全員を捨て駒として使って体力を消耗させたところを襲いかかれば自分にだって勝機は出てくるはず!!!

 

 ・・・その為なら、寄せ集まってきただけの子分どもなんざ全員使い捨てちまっても構やしねぇ!!

 

「たった三人ばかりで舐めた口叩いてくれるじゃねぇか! 野郎ども、殺っちまえ! 特に血煙のアーシェには他の盗賊団の連中からも賞金がかけられてんだ! 討ち取った奴には半分くれてやる! 気合い入れて殺せぇい!!」

『う、うおおおおおおっ!!!』

 

 圧倒的数の優位。それに欲望を刺激しての発破がけは正しく成功して、手下どもは我先にと味方を押しのけて肉の盾にしてでもアーシェを殺すため躍起になって追い詰めに掛かっていく。

 

 ―――口約束ってのは便利なものだぜ! いくらしてもタダなんだからな!!―――

 

 自分たちのボスが、自分たちにどういう感情を抱いてるかを知らぬまま、手下たちは欲望に突き動かされながら血煙のアーシェを殺そうとして襲いかかり。

 やがて――すぐにでも【血煙】の二つ名の意味を知ることになる・・・・・・。

 

 

 

 

 ズバッ!! ブシュゥゥゥゥッ!!!

 

「ぐはぁっ!?」

「つ、強い・・・っ、強すぎる・・・・・・っ!! な、なんなんだよコイツらは一体よぉー!?」

 

 向かってゆく味方を死体の山へと変えながら、自分の方へと向かってくる『血煙の死神』を前にして、悲鳴を上げることしかできない武器を持った無力な盗賊団の一人。

 

 次々と敵を斬り倒し、血飛沫を舞い散らかせながら歩いてくるその様は、まるで血煙の中を歩いてきているかのように錯覚してしまいそうになるほどのもの。

 味方の犠牲を次々と出しながら、自分自身は大した傷も負わされないまま問答無用で盗賊たちを片付けながらボスの方へと歩み寄っていく。

 

「ち、ちくしょう! バケモノ野郎めが! 簡単に殺されて堪るか! テメェも道連れにしてや――ギャァァァッ!?」

 

 ズバッ!!

 ・・・最後に残っていた手下の一人も斬り殺されたことで孤立無援。

 ボスは「ひぃぃっ!?」と一声ブタのように喚いてから武器を捨てて、降伏の意思があることをアーシェたちに示すしかなくなってしまったのである。

 

「ま、まいった! 降伏する!! 頼むから殺さないくれーっ!?」

「・・・フンッ」

 

 つまらなそうに鼻を鳴らしながら剣を納め、残る二人が担当していた戦いの方でも決着がついていたことを確認してから二人に対して荷馬車に持ってきていた縄で降伏したボスのことをふん縛るよう命令して、実行されてから彼の前に改めて立つ。

 そして詰問を開始する。

 

 

「手こずらせやがって・・・って、あれ?」

 

 ホセが忌々しげに吐き捨てた直後に、あることに気づいて――さらに忌々しそうな苦虫を噛みつぶしたような表情になって怒鳴りつけた。

 

「てめぇ! どこかで見た顔だと思ったら、ズー・ガッハ! 俺達が二ヶ月前に強盗の現行犯で捕まえたズー・ガッハじゃねぇか! その下品な顔立ちは間違いないぜ!!」

「へへへ・・・毎度どーも」

 

 相手が気づかず、自分だけが知っていた真実に相手も気づいてもズー・ガッハは悪びれない。自分が彼らに殺されない事実を知っているからだ。

 

「おぃおぃおぃ!! まさか押し込み強盗の刑期が、たったの二ヶ月なんて事はないよなぁ? と言っててめえが自力で脱獄できるタマとも思えねぇ・・・どういうこった!?」

「へへっ、蛇の道は蛇ってヤツでしてね。あっしの価値を認めてくれてるお方もいるのさ・・・」

 

 わざわざ自分を捕縛した治安維持側に正確な情報を与えてやるズー・ガッハの心理は、シンプルである。

 彼はこのとき、意趣返しをしたかっただけだった。どう足掻いても自分では勝てない相手・・・ソイツらを、ソイツらよりも遙か上にいる奴らの威を借りて安全な場所から一方的に上から目線で見下せる・・・こんなチャンスを見逃す手は彼にはない。惨めったらしく捕縛されて縄でグルグル巻きにされている今の状態なら尚更に。

 

「あんだとぉ? てめえ、そりゃどういう意味だ!」

「おっといけねぇ。へへっ・・・・・・ただの独り言でさぁ」

「なる程・・・・・・大方の察しはつく」

 

 自分は知っている、相手は知らない。だからこそ優位に立てる情報の有無を使って、相手を小馬鹿にすることによりちっぽけなプライドと自尊心を回復していたズーの言葉に、キースが静かな声で相手の放った言葉の断片から真実へと到達していく。

 

「交易上の要衝にあるこの谷が、山賊の横行で不通となる。それによって得をする輩が、裏で手を回してこの男を釈放させたのだろう。

 悪徳商人や腐敗した政治屋が、犯罪者と結託して不当な利益をむさぼる・・・最近じゃあ珍しくない話だ」

「かーっ、やってらんねぇなー!」

 

 身も蓋もなく、おまけに仕事からやり甲斐までなくさせてくれた同僚の言葉にホセが悲鳴にも似た怒りの叫び声を上げ、勢い任せながらも半ば本気の意思をこめて自分たちの隊長である先ほどから沈黙したままの女剣士に物騒な提案を持ちかけてしまったほど救いようのない現実の一端が今目の前にロープで縛られて転がされている。

 

「よおアーシェ! この野郎、いっそここで斬っちまおうか!? どうせ牢にぶち込んでも数ヶ月もしないで出てきて、また平民に迷惑かけるんだったら捕まえるだけ無駄ってものだぜ!!」

「ちょっ!? ま、待ってくれよオイ!?」

 

 さすがのズーも、この反応には僅かながらも本気で慌てざるを得なくされる。

 言葉だけなら、出来もしないことを喚く負け犬の遠吠えと笑うことも出来たのだが、このときのホセが放った叫びには感情が込められていた。・・・この男、今自分を殺すべきだと本気で思って殺すと言ってきているのが分かる。慌てるなという方が無理な状況だ。

 

「やめておけ、ホセ。こんな小物を斬ったところでなんにもならんし、降伏して武器を捨てた者を警備隊が殺すわけにもいかんだろう?」

「くっ・・・、そりゃあそうなんですが・・・・・・」

 

 アーシェの正論に不承不承ホセは矛を収めて、ズーは卑屈に笑って命の恩人であるアーシェに頭を下げながら、内心では嘲り笑っている。

 

(ヘッ・・・相変わらず優等生な言いようだこって・・・)

 

 士官学校時代から成績優秀者として知られていた彼女のことは、ズーもある程度は情報を得ている。優等生な正論家で法律と規則絶対主義者な頑固者なところも情報を得た頃から変わっていないらしい。

 

(とはいえ、その甘さが俺を助けて、アンタにとっては命取り・・・・・・って、あれ?)

 

 ふと気づいた時、アーシェは彼のロープをナイフで切って戒めを解き自由を与え、近くにあった盗賊団の一人が使っていたらしい得物の剣も拾ってズーの方へと投げてやり、おもむろに自らの剣を抜き放ちながら静かな声でこう宣言してきたのだった。

 

 

「盗賊団の頭目、ズー・ガッハ。一度は降伏して捕縛されたフリをして我らを欺き、油断したところで戒めを断ち切ると脱走して逃亡を図ろうとした罪により現行犯で処罰させてもらう! 言い訳は不要だ。どうせ聞く気は最初から持っていないのだからな」

『・・・はぁ!? ちょ、ちょっと待ってくれ! 意味が・・・意味が分からん!? 説明してくれぇ!?』

「察しの悪い奴だ。どうせ捕まえても、すぐに釈放されるから無駄な相手を合法的に処刑するため、逃げだそうとして抵抗されたから止むをえず殺したことにする、とそう言っているのだよ。それぐらい分からんか? アホウめが」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 あまりにも、あんまりすぎる事態にズー・ガッハどころかキースとホセまで唖然茫然自失かして、自分たちの隊長が行おうとしている不正行為になにも言うことが出来ずにただただ見ていることしか出来なくなってしまった中で、当事者だけが静かな声と冷静な態度で相手に最期の慈悲をくれてやっている。

 

「剣を抜け。せめて反撃の機会だけは与えてやる」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんな無法がまかり通るわけがない! 俺を殺してしまったら、お偉いさんが黙っていないからな!? アンタらすぐにでも飛ばされちまうぞ! それでもいいのか!?」

「かもしれんな。だが、おそらく大丈夫だろう。たとえお前がソイツにとってどれほど価値のある技能を有していようとも・・・・・・殺ってしまった後でなにを言っても遅すぎるのだからな。

 死人に口なし、腕もなし。動かない死体は、ただの役立たずさ・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 本当に、あまりにもあまりな言い分に言葉もないズー・ガッハ。

 こうなると彼としては、どうにかして生き残るための策を考えなければいけない。詭弁方便なんでも使って、何とかこの場を切り抜けなければ・・・・・・殺されちまう!!

 

「へっ、ヘヘ・・・・・・っ、待ってくれ・・・俺はアンタに売る。俺に情報を与えてた政治家の情報も、悪徳商人どもの裏帳簿の数字改竄もぜんぶ正直にすべて話す! だから頼む! 殺さないでくれ! 

 そ、それにホラ? 俺はまだ剣を握っちゃいねぇんだし、このままじゃ俺が抵抗しようとした証拠としちゃ不十分―――」

 

 

 ズバァァァッ!!!!

 

 

「アホウか貴様は。十分な証拠とか、法律とか正当な裁きとか、そういうものが正常に機能しなくなった状態にあるから、お前が官憲に殺されるような事態に陥っているのだろうが。少しは都合のいい幻想ではなく現実を見ろ、このド阿呆」

 

 

 

 冷たく言い放ち、自分が手にかけた犯罪者の死体に適当な握り方で剣を持たせて放置させてから蹴飛ばして岩に叩きつけ、とにかく死体が死んだ時の状態を残せなくしたまま野ざらしにする方針を断行する隊長に、さすがの部下二人も制止の声をかけようとして、そして。

 

「・・・言っておくが、お前たちが私を罰して殺すのは非常に正しい。だから私はお前たちがそうすべきだと判断したなら大人しく刺されよう。後ろからいつでも刺し殺してくれて構わない。

 ただし、前からはやめておけ。今の私は法律で罰されてやる気には少しもなれない状態にあるからな。

 法律を守らせるだけで守ろうとしない政治家どもの作った法律になど、殺されても従ってやる気は少しもないのが今の私なのだからな・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・動けなくなってしまった。止めるために伸びようとした手が途中で止まり、行き場を失って下ろすことも出来ずあげることも出来ぬまま、ただただ彷徨い続けることしか出来なくなってしまってる・・・・・・。

 

 

 そんな部下に聞かせるための言葉なのか、あるいは自分自身に言い聞かせるための言葉だったのか。

 背中を向けたまま正面から見れない彼女の顔が今どんな表情でハッしているのか分からない言葉ではあったものの。

 それでも彼らの心に何らかの影響を与えて、今日の一件を胸の内にしまっておこうと決意させたナニカをもたらす。

 

 

「志を失って名ばかりとなった共和制国家・・・・・・国に正義はなく秩序もなく、政治家に国を治める気は少しもなく・・・。

 もう大して長くない国でしかないのだとしたら、せめて最期まで付き合ってやるさ、この泥船の警備兵として乗客たちの身の安全を守りながらな。

 それが私にとって失われゆく祖国に対して果たす最期の義務と責任ってヤツだと思うから・・・」

 

 

 

今作オリキャラ設定

『アーシェ・ラッセル』

 

 原作主人公の「アッシュ・ランバート」の位置にいる、今作主人公のオリジナル女剣士。

 父親が革命戦争終結寸前に味方を裏切って敵に走ったと蔑まれているアッシュと真逆で、終戦直前に帝国軍から解放軍に寝返った「裏切りの騎士」を父に持つ娘という設定。

 有能な敵将の首を手土産にしてきたことから厚遇されたが、一方で変節家呼ばわりされていたのも事実であり、生活的には裕福だったが周囲からの反感はアッシュの子供時代よりキツかった。

 国の現体制に疑念を抱きながらも滅びを回避するために尽力していたアッシュとは真逆に、今の時点でイシュタリアは遠からず滅びるものと断定し、亡国を前提として生きている。

 警備隊の仕事をやっているのは、滅びゆく国に仕える者としての義理を果たすため。

 国と政府に守る価値がなかろうとも、市民を守る警備隊の義務と責任まで投げ出す気は少しもない性格の持ち主。

 やたらと自他共に厳しすぎる性格で半端を知らない。変なところでツッコミを入れてしまう癖もあり、相手によってはコントのような会話になってしまう場合もある。

 本人自身はいたって生真面目な性格&空気読めないし読まないし読む気もない性格の持ち主でもある。

 端的に言って、凄まじいレベルの社会不適合者。

 

 外見は、盾を持たず金髪になったアッシュ・ランバート。

 私服として裏地が赤く、表面が黒のジャケットを鎧の上から羽織っている。

 色違いの2Pカラーとも言う。

 

 【血煙】の異名は『裏切り』や『穢れた血』など暗い色をした血にまつわる印象が強く彼女の人生に影響を与えてきた結果としてつけられたものであり、アッシュには存在しないジャケットの色はそれらを表したもの。

 

 基本クラス=邪道ヒーロー。 


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