試作品集   作:ひきがやもとまち

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少しぶりの更新となります。実は風邪を引いてしまいまして…書くのに時間がかかっている次第。普通に風邪みたいですので安静を優先して養生しておりますので他の作品の更新は今少しお待ちくださいませ。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第4章

 ――前回までのあらすじです。配信サービスが終了する最後に日にMMORPGをプレイしてたら、使っていたPCの体とステータスを与えられて見知らぬ異世界に転移して森の中で目覚めるお約束展開に巻き込まれた私、ネタアバターの肉弾戦ちびっ子エルフのナベ次郎でしたが。

 最初に訪れた冒険のヒントとかがもらえそうな祠の中で、ついカッとなって御神体みたいな人の顔面を半分吹っ飛ばしてしまったり、大量の死体を焼却処分しちゃったりと色々やった結果、なんか教えてもらえるイベントがありそうだった場所で何一つ手に入らないままダンジョン攻略を終える羽目になってしまったのでしたとさ―――

 

 

「・・・う~ん・・・。さて、この状況をどう説明したものでしょうかね・・・? 明らかに何言っても言い訳にすらならないような気がビンビンしてるのですけれども・・・」

 

 腕組みながら自分が入ってきた祠の入り口目指して歩を進めながらも、知らず知らずのうちに歩む速度を遅くしちゃってる自分に気づかないフリしながら私は一人つぶやいて高くもない天井を見上げておりました。

 

 取り繕うため、今モノローグ調にして思い出してみた直近の過去内容は自分でもビックリしてしまうほど衝動的で発作的で後先考えてない、現代日本で流行っている若者の犯罪の典型例パターンに満ちあふれているものばかりな気がして・・・・・・もの凄ーく恥ずかしさと後ろめたさが一杯になってしまいアクさんに顔合わせづらいことこの上ない心境になってんですけども本当に・・・・・・。

 

「いっそ、このまま旅にでも出てしまいましょうかね・・・」

 

 フッと、昔の映画とかで主人公がよくやってたニヒルな笑い方と現実逃避願望丸出しのセリフとを、無意味と承知でそのまんまロールしてみる私。

 実際問題、旅立たざるを得ないんですけどね今の私って。だって今、不法入国者状態ですからな。国籍、所属、親兄弟身よりもないけど、チートだけは昔天使が封じた牛悪魔さんをブチ殺せるぐらいにはあるという――どこの誰が放置しておけるんだ、この危険人物クラスの人間じゃなくてエルフなので旅立たなければ色々とヤバいのですよ。なんかこう、全方向的に迷惑かかりまくりそうな存在ですからさ。

 

「とは言え、アクさんに事情説明しづらいことしか、してこなったのは確かな事実。どう言い訳して取り繕ったものでしょうかねー・・・」

 

 そうつぶやいて溜息をつく私。なんか母親にイタズラを知られて怒られたくない子供の思考と似たレベルのこと考えちゃってる気がしますけど、見た目的には合ってるから問題なしです多分。ナベ次郎は肉弾特化のちびっ子エルフ。年齢は知りません。

 

 ――と、思っていたところ。

 

 

「あ、おかえりなさい魔王様。どうでした? なにかお願いして叶えてもらえましたか?」

「ぐっ、はッ!?」

 

 い、いきなりピンポイントで攻撃されてくるとは・・・意外とやる人ですねアクさんは・・・。ナベ次郎の弱点属性を突いた特攻武器による見事なまでのRPGにおける基本的な戦い方です。

 ナベ次郎にも是非見習ってほしいほどでしたね。基本的に『二人殺して死ねば黒字』で突っ込んでって特攻して死んで生き返って、また特攻して死ぬ以外の戦い方をしたことがあんましないアバターでしたからねー、コイツって。

 

「そ、それはですね・・・・・・」

「それは? なんでしょうか魔王様? 何をお願いして叶えてもらったんですか?」

「それは・・・・・・それはともかくとして!!」

 

 超無理のある強引すぎる誤魔化し方で、無理矢理にでも話をそらして無かったことにすると決めた私に迷いはありませんでした!

 特攻ヤロウは一度特攻すると決めたらまっすぐ進んでく以外に進む道が見えなくなるものなんですよ! 後は野となれ山となれ! 時代の徒花でも汚い花火でもなんとでも呼ばれる存在になれい! 吹っ飛んだ後の特攻ヤロウには関係ないのですからね!!

 

「人もエルフも大事なのは今日までの自分が何をやってきたかではなく、今日からの自分が何をして生きていくかです。過去にこだわってばかりで明日を夢見ないもに勝利はありません!

 生きてこそ得ることのできる栄光を、その手に掴むためにも今日の敗北を受け入れて明日の糧にすることこそが必要不可欠なのです!!」

「お、おおーッ!! なんだかよくわかりませんけどスゴいんですね! 魔王様は本当に!!」

「HAHAHA、それ程でもあるわけですが――」

 

 フゥ・・・なんとか誤魔化せましたか・・・。予想以上にチョロすぎる子供が相手で助かりましたけども、このキラキラした純真お目々で尊敬のまなざし向けられ続けてるとなんか痛くもなってくるんですよね。主に心が・・・。

 これが老人故の罪悪感ですか・・・。認めたくないものですねぇ、自分が歳をとって汚い大人になってしまったのだという現実というものは。

 

「ま、まぁそれはともかくとして。――アクさん、このあたりに大きな町とかはありますか? できれば人と情報が多く集まりそうな商業都市なんかがありがたいんですけども」

 

 ゲーム内の情報はNPCに聞け。RPGの基本にしたがって、ひとまずは情報収集からです。・・・なにしろ初っぱなから世界の根幹にまつわる情報とかくれそうな重要イベントのキャラっぽい御神体をぶっ壊しちゃった身ですのでね・・・。何かしら調べとかないと本気でどうしていいのか分かんにゃい・・・。

 

「それでしたら、聖光国の神都でしょうか?」

「そこで構いません。お礼はしますので、地図を書いていただくことは可能ですか?」

「えっと・・・」

 

 そこで少し躊躇いを見せてからアクさんは、私に向かって「ま、魔王様!」と大きく叫びながら頭を下げてきて、

 

「ぼ、ボクも一緒について行っちゃダメですか!?」

「?? あなたも一緒に付いてきたいのですか?」

「だ、ダメでしょうか・・・? その・・・生け贄に出されたのに、また戻って生活するわけにもいかなくて・・・」

「ああ、なるほど。確かに言われてみればそうですよねぇ」

 

 納得して、顎に指を添えてしばしの間沈思黙考。

 

「――ま、いいんじゃありませんかね? 私は付いてきてくれても一向に構いませんよ」

 

 そして三秒後に結論到達。選択肢を選んで回答する私、脳筋特攻エルフのナベ次郎。

 基本的にステータスの余りは知力や賢さよりも運の良さに割り振っていたタイプのアバターなので深く考えるのとかあんまし得意ではないというか好みじゃないのです。

 考えるより先に特攻。そして玉砕して復活させてもらってゾンビアタック。それがナベ次郎流の戦い方でしたからな。・・・つくづく【ゴッターニ・サーガ】がデスゲーム化しないで良かったなーと思わなかった日は当時なかったぐらいですよ、今思い出してみた過去話ですけれども・・・。

 

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」

「お気になさらずに。【旅は道連れ世は情け、人生楽好き苦は嫌だ】と昔の人間の偉いお爺さんが言ってたくらい人が一人で生きていくのは辛いものなのが世間様の風当たりってヤツですからね。気持ちは分かりますし、どうかお気になさらないでくださいませな」

「そ、そうなんですか・・・。やっぱり魔王様の住んでた世界の人たちは言うことが何というかこう・・・天使様が言ってらしたこととは全然違うんですね・・・」

 

 あれ? なんか間違ってましたっけか私の記憶って? おっかしいなー、そんな風なこと聞いた覚えがあったような無かったような、でもやっぱり無かったような気がしなくもないような・・・うん、全然覚えてませんでしたな私。うろ覚え知識で語って後に引けなくなったパターンの自爆特攻、乙~です。

 

「で、でしたら出発する前にボクの村へ寄ってもらってもよろしいでしょうか・・・? 少ないですけど持ち物があるので・・・」

「構いませんよ。どうせ遠くまで旅立つのですから、村一つ分までの距離が増えようが減ろうが大差ないですし」

 

 と言うか、そもそも聖光国までの距離もアクさんの村までの距離も位置さえ何一つ知りませんのでね。ナビしてもらいながら動くだけのカーナビ付き自動車もどきな今の私には、違いなどあっても無くても判りません。

 

「では、再び背中へどうぞ。何でしたら荷物運びも手伝いますが?」

「ええッ!? 流石にそれは恐れ多いというか、魔王様に悪すぎますよ!」

「お気になさらずに。・・・言っちゃ何ですが、その足の怪我してる子供に荷物持たせて歩かせる方がよっぽど精神的にくるものありますので持たせてもらった方が正直気楽なんですよね・・・」

「あう・・・。す、すいません・・・」

「いや、あなたが謝ることではないのですけれども」

 

 そんなこんなで紆余曲折あった末に、やってきましたアクさんの住んでる村に到着したみたいですね。

 

 

「あっ、魔王様。あの柵の向こうがボクの村です」

「ほう、あれがアクさんの住んでる村でしたか」

 

 私は感心しながら、自分の方から接近しつつあった彼女の指さす先にある小さな村を眺め回します。

 藁を重ねただけの安っぽい柵で周囲をぐるりと取り囲み、入り口には二本の拗くれた木がアーチ門の猿まねみたいにテキトーな縄で結ばれただけで立てられていて、中に入ればドアのない布で間仕切りしてあるだけの藁葺き家屋が一定数建ってるだけ。レンガ造りの家どころか粘土さえ使ってあるのか疑わしいレベルの村。

 

「――って、“コレ”本当に村だったんですか!? 誰も住んでいなくなって忘れられた廃村とかではなくて!? 正直人が住んでる場所には見えないぐらいボロすぎるんですけども!?」

「魔王様!? シーッ! シーッです!! 村の人たちに聞かれちゃったら怒られちゃいますよ!? 世の中には言っていいことと、言ってもどうにもならない事実があるんですから!!」

『ぐっ、はっ!?』

 

 ――あ、なんか驚きの余り衝動的に言ってしまった私の本音に、アクさんが慌てまくって思わず本音を言ってしまったのが聞こえたらしい村の人たちっぽい人数名が吐血してる姿が一瞬見えた気がしましたけど・・・まぁ別にいっか。

 どーせ年端もいかない子供に重労働押しつけた挙げ句、生け贄にまで出す人たちです。事情があろうとなかろうと私は気にくわないタイプの人たちなのでどーでもいいです。特攻エルフのナベ次郎は敵か味方かで特攻する対象を選ぶ以外に判断基準を持っておりません故に。

 

「あ、魔王様。ボクの家はこっちです」

「アイアイ・マム」

 

 ナビに従って舵を切り、自分よりも多少背が低いくらいの女の子をオンブしたまま村の中をちびっ子エルフの姿で(一応は速度を落として)早歩きし始めていた直後のこと。

 

 “ソイツら”は、家の一軒一軒から這い出すようにでてきたのでした――――

 

 

『・・・ヘッヘッヘ、ヘッ・・・・・・』

 

 子供を見下す瞳で見下ろしてきながら、妙に卑屈そうな暗い光を同時に宿したイヤラシい目つきと顔つきをした男たち数人が、その手に石を持ってお手玉みたいにポンポンさせながら登場してきたのです。

 

「おい、ゴミ人間。なんでここにいるんだぁ~?」

「まさか逃げ出してきたんじゃないだろうなぁ~?」

「しかも何だぁ~? 今度は亜人のエルフまで一緒に連れてきやがってよぉ~」

 

 分かり易く表現するならば、『格下のいじめられっ子を虐めて憂さ晴らししている』『年上のいじめっ子に虐められてる上級生のザコ小学生』と言ったところでしょうかねぇ・・・。

 自分と同格の相手たちの中では見下される程度のザコだから、格下の年下相手に強さを誇ってちっぽけな自尊心だけでも守ろうとしている形ばかりのプライドが逆に苛つかされるタイプの連中ですよ。

 

『ゴミ人間! ゴミ人間! ゴミ人間! ゴミ人間がぁぁぁっ!!!』

「痛いっ!? や、やめてください・・・ッ」

 

 挙げ句の果てに、この人数で子供二人を取り囲んでおいてやる行動は、遠巻きに石投げつけてくるだけという負け犬弱者の常套手段ですか・・・。まぁ、魔女狩りの時代とかには見せしめ目的でそういう処刑方法もあったとは聞いたことありますけど、この人たちのコレはどう見たって―――ただの【馬鹿ガキのバカ行為】です。いい歳した大人のやることじゃあありません。

 まったく・・・ここまでの醜態見せつけられたら逆に冷静にならざるを得なくなってしまって・・・・・・皆殺しにするの我慢するため全力出さなくちゃいけなくなって大変じゃないですか本当にもう。しょうがない人たちですねー本当に。

 

 とりあえず心を落ち着かせるため一服吸って、リラックス、リラ~ックスです。

 

「スパァ~~~~。・・・・・・ふぅ~~・・・・・・」

 

 あー、吸った吸った。スッキリしましたわ。とりあえず吸い終えたタバコを指先で弾いてピン、と。

 いや単に捨てる場所がなかったのでね? タバコの吸い殻入れぐらい用意しておいてくれると助かったのですけど、ないものは仕方がありません。

 

 それでも所詮は小さなタバコに付いた火です。たとえ藁葺き屋根の上に落ちたとしても、すぐに消化すれば一瞬で消し止められる程度にボヤ騒ぎにしかならないでしょうから、それで十分。その程度の騒ぎを見物できれば私の気は収まって、彼らの暴挙も事情があるからと許すことができるはず―――

 

 

『ゴミ人間めが! そぉぉぉらよッ!!!』

 

 ポトリ。

 

「【炎焼拳】レベル6です」

 

 

 ゴォォォォォォォォッ!!!!!!

 

 突き出した右手から最大火力の炎を放って、タバコが落ちた先にあった家を丸々焼き尽くし。

 音と炎の焼ける匂いに驚き慌てて飛び出してきたらしい村に住んでる他の人たちも集まってきて、口々になにか言い立ててくるのを他人事のように聞き流しながら、アクさんからは呆然としたような瞳で見上げられながら、私はまた一本シガーレットケースからタバコを取り出し口に咥えて一本吸いながら、彼らからの疑問の声にようやく答えてあげる気になれた訳でありましたとさ。

 

「な、なんだお前は!? まさかグレゴールの手下なのか!?」

「ああ、失礼。自己紹介がまだでしたね。私の名前は・・・・・・」

 

 そしてまた一本タバコを吸い終えて吸い殻弾いてから家燃やして。

 

 

 

「魔王様です。魔王様なので魔王らしく、人間界の人間たちを蹂躙しながら町や村を焼いて根絶やしにするためやって参りました。

 抵抗するだけ無駄なので大人しく死んでくださいとか言ってみましたけど、嘘ですから。できるだけ頑張って無駄なあがきの抵抗をしてみてくださいね?

 コレでも一応は魔王様なので、抵抗する弱敵を虫けらみたいに踏み潰しながら進んでいかないと魔王らしい活躍ができません。そう思われるでしょう? 貴方たちも。ねぇ? 被害者の人間の村第一号に住んでたせいで魔王の生け贄にされた皆様方♪」

 

 

 うん、やっぱ許せなかったんで思いっきし脅しまくって憂さ晴らししてから許してあげることにしますね☆ 魔王と呼ばれたからには一度はやってみたかった『ブタは死ねぇ!!』の狂った最強戦士な王様に、今日の私はなるのを目指す!!!

 

つづく

 

 

オマケ『次回で使えたら使いたいギャグ予告』

 

『ま、魔王!? 魔王だって!?』

「えぇ!? やっぱり魔王様は魔王様だったんですか!?」

 

 ――なんか守ってあげてる外野から予想外のツッコミが来てる気がしますけれども! 今はそういう雰囲気の時じゃないんで怒るのか間違い修正とかは後にしますね!!

 この雰囲気のシーンでそれやるのは流石にマズいと私でも判ってしまうレベルの愚行ですよ本当に!

 

 

 

『こ、この村には手を出さないでくれぇ! 生け贄は差し出したはずだろぉ!?』

「さて、何のことでしょうね? ひょっとしなくても、グレゴールが勝手に約束しちゃってたとかいうお遊びのことですか?

 生憎と、グレゴールは私の部下の一匹に過ぎない小物モンスターでしてね。本当の名前は【魔王の手先】という程度のザコです。あんな小物と交わした約束なんて魔王様が守ってあげる理由はありません」

『ぐ、グレオールが小物!? そんな・・・そんなバカな!?』

「本当ですよ? 考えてもみなさい。“可愛くて小さな女の子を生け贄に差し出せ”なんて変態みたいな要求してくる魔物が、そんなに大した存在のはずないでしょう!?」

『そ、それは・・・・・・確かに!!』

 

 納得するのかよ。しちゃうのかよ。

 言っておいてなんですけど、存外に物わかりが良すぎて逆に困ってしまうタイプなような気がしてならなくなってきたアクさんの村の腐った住人な方々。

 ・・・そういや正式名称なんて言うんでしょうね、この村って。

 

 

*尚、アクちゃんへの投石攻撃はナベ次郎が即座に《チャクラ》で回復してましたから事実上ノーダメージでした。そのために近くで立ってましたんでね。


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