試作品集   作:ひきがやもとまち

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最近どうにも上手く書けない自分を自覚して苛立ってるみたいでして…気分転換が必要かなと思って色々書いてる最中なのですが、最後まで書きあがることがほとんどありません。そこらへんが最近の不調と関係してそうな気がしております。
少し換気したくなりましたので書き途中のを何個かまとめて投稿させてくださいませ。


気分転換用のネタ集

【正史の方が好きで演義は読んだことない私が主役の恋姫無双】

 

「――つまり・・・」

 

 私は供された茶の残りをすすって一息ついて。

 

「貴女たちは、国が腐敗して世が乱れ弱き人々が苦しむ姿を見てられないから世直し旅に出たけれど、状況が悪化しすぎてしまって三人だけでは救いきることができなくなってきている・・・という訳ですか?」

 

 確認のため問いかけた質問に、机の対面に座ってこちらを見ていた三人はそれぞれの個性に合わせた真剣な表情でうなずきを返して肯定し、“今朝この地に着いたばかりでなにも知らない”『異世界人の私』に向かって自分たちが置かれた状況を事細かに説明してくれたのでした。

 

 ・・・ある朝、目が覚めたら現代日本とはとても思えない広大な大自然の中で一人だけで横になっていた私は、なにが何だかよく分からない間にチビとおデブさんとノッポさんの三人組の盗賊団っぽいのに襲われてしまい、そこを前に座っている三人組に助けていただいて町まで連れてきてもらって食事を出してもらいながら彼女たちの事情について教えてもらっていた次第。

 その彼女たちの名前をそのときになって聞かされて、驚愕したのはつい先ほどの出来事。

 

 

 【劉備】【関羽】【張飛】の三人組―――

 

 

(三国志じゃん・・・・・・)

 

 現代日本に生まれた者なら誰もが一度は名前を耳にしたことがあるでしょう、ゲームでもアニメでも大人気な古代中国を舞台にした一大戦記モノ『三国志』

 その中でも特に主人公格として人気が高いのが、この主役お三方。

 その彼らが“彼女たち”となって、今私の前で私に向かい、『自分たちの旗頭になってほしい』と頼まれに来ている訳なのですが・・・・・・。

 

 とは言っても。

 

(そもそも、“三国志そのものを読んだことない”ですからねぇ~私って・・・・・・)

 

 

 誰でも知ってるくらい有名だから知っていた。だけど三国志という本自体は読んだことが一度もない。

 興味なかったわけじゃないんですけど、ヨーロッパ史の方が性に合っていたから今んところノータッチだった私であります。ぶっちゃけ、横山光輝先生の『三国志』も名前だけしか聞いたことないですからね本当に。

 

 一応、『正史・三国志』の方はゲーム雑誌とかに載ってる「史実での彼らは・・・」的な紹介文に載って多分だけ読んだことあるんですけど、後は知りません。

 

 

「さっきも説明した通り、私たちは弱い人たちが傷つき、無念を抱いて倒れることに我慢が出来なくて、少しでも力になれるのならって、そう思って今まで旅を続けていたの」

 

 ピンク色の豊かな髪をした真面目そうな、それでいてどこかノンビリした印象もある穏やかな感じの美少女は【劉備元徳】さん。

 またの名をと言いますか、本当の名と書いて“真名”とやらでは【桃香】さんと言うそうです。

 

「でも・・・三人だけじゃもう、何の力にもなれない。そんな時代になってきてる・・・」

 

 そう言って、悲しそうに目を伏せる彼女の姿からは真摯に民のことを思って苦しみ悩む聖君タイプの清廉さが滲み出ているかのようでした。

 

 ――正史だと、『儒学者のもとで学んでいたが学問はさっぱりで、派手な衣装に身を包み女の子たちを遊び、伊達者を気取って任侠の徒たちと親しく交流していた』とされているらしい、「アニキ」的な印象を抱いていた人だったんですけどね・・・。

 『三国志演義』の方では、こちらがデフォルトなのでしょうか? それとも演技をもとにして描いたらしい『横山光輝の三国志』だとこういう風に人格改変されてる設定だったのでしょうか? 見たことないので判りません。

 

「官匪の横行、太守の暴政、・・・そして弱い人間が群れをなし、更に弱い人間を叩く。そういった負の連鎖が強大なうねりを帯びて、この大陸を覆っている」

「三人じゃ、もう何も出来なくなってるのだ・・・・・・」

 

 劉備さんに続いて、黒髪巨乳でサイドテールの関羽さん。真名【愛紗】さんと、ロリで元気っ子な自分の名前よびキャラの張飛さん。真名は【鈴々】さんがそれぞれの性格による感想を口にされます。

 

 この二人に関しては直接は載ってる巻数を見れなかったので、間接的評価になりますけれども。

 関羽さんの方には特にこれと言って違和感は感じられませんでした。質実剛健でいかにも武人で豪傑な人って感じです。

 尤も、これから見えてくるときがあるのかもしれませんけどね。その時になってみないことにはなんとも言えません。

 張飛さんの方は・・・・・・すいません、たぶん言わない方がまだマシな類いの知識になっちゃいますけど、【演義】の方では彼(この世界だと彼女)の役どころだった『役人めった打ち事件』が実は劉備さんがやったことだったという程度の知識しかないです。全然知らない人なのですよ、ホントーにごめんなさい。そのぶん先入観なしで評価しますので許してください。本気ですみませんでした!

 

「でも、そんなことで挫けたくない。無力な私たちにだって、何か出来ることはあるはず。・・・だから本庄様!」

「え? あ、はい」

 

 罪悪感で胸いっぱいだったところに、いきなり叫び声を上げられて名を呼ばれ、一応話の内容だけは聞いていた私は劉備さんに目を合わせて返事を返し。

 

「私たちに力を貸してください!」

「・・・・・・どゆことですか? それって・・・」

 

 意味が分からず訪ね返した私に、三人の歴史に名だたる英雄様たち(未来形)は懇切丁寧に事情を説明してくださいました。

 

「我ら三人、憚りながらそれなりの力はある。しかし我らに足りないものがある。・・・それは」

「名声、風評、知名度・・・・・・そういった人を引きつけるに足る実績がないの」

「山賊を倒したり賞金首を捕まえたりしても、それは一部の地域での評判しか得ることができないのだ」

「そう。本来ならば、その評判を積み重ねていかなければならない。・・・しかし大陸の状況は、すでにその時間を私たちにくれそうにもないのです」

「一つの村を救えても、その間に他の村の人たちが泣いている。・・・もう、私たちの力だけじゃ限界が来てるんです」

「なるほど・・・」

 

 だからこそ、今民草の間で噂になってる“天の御使い”っぽく見える未来人だか異世界人を客寄せの広告塔として神輿に使わせて欲しい、とそういう内容のお願いだったわけですね。

 

「そういう事でしたら、どうぞご自由に使っちゃってくださいませ。どんな風に使われようとも私から文句を言うことだけはあり得ませんので気楽にどうぞ」

「い、いいんですか!? ・・・いえ、私たちにはありがたいですけど本庄様にとって迷惑なんじゃ・・・」

「別に? どうせ他人がつけてた名前ですし、それで私がどうこう変わるわけでもありませんのでご自由にどーぞ」

 

 もともと自分が知らない間につけられてた呼び名で、しかも自分のことなのかどーかもよく分からん名前なんてどう使われようと興味ないですし。人助けのために使ってもらえるのなら名前の方も光栄でしょうし、箔も付くことでしょうよ。

 

 ついでに言えば、ぬるま湯に頭の先まで浸かって生きてきたような現代日本人の私に、彼女たちの頼みを断って置いてかれたら野垂れ死にするしか道はないですからね・・・。死ぬよりはなんだってマシです。他人の名前使って生き残れるなら、これほど嬉しいことはありません。名前の方にも後でお供え物しとくの忘れないよう気をつけよーと。

 

「それで最初はどこに向かわれる予定なのでしょうかね?」

 

 

 

【常識を貫く私がチートな大貴族の娘に転生させられた話です・・・】

 

 地球には現在、六十億人の人間が暮らしていると言われている。

 だが、そのほとんどの人々は平凡だ。特別ではない。

 自分の代わりはいくらでもいて、地を這いながら空を行く鳥を見上げて、夜空に輝く星を掴みたいと手を伸ばす。――それが決して届くはずがないと承知の上で。

 

 だからこそ世の中に転生チート物のラノベは受け入れられやすいのであろう。

 地球では平凡でしかない自分でも、異世界に行ったら換えの利かない唯一無二の特別な存在になれるという異世界チート転生物は、人なら誰しも憧れを抱く夢を叶えてくれるドリームマシーンなのだから。

 

 ・・・が、しかし。

 特別な存在に憧れを抱く人間誰しもが、『自分も特別になりたい』と思っているとは限らない。中には特別な才能を与えられなかった自分に安堵している者たちもいる。

 

 それは『平凡なのがいい』などという謙虚な思いから来る言葉ではない。

 『普通が一番』などといった傲慢極まる尊大な見下しの主張でもない。

 

 それは『自分が特別な才能を与えられても、彼らのようになれたとは到底思えない』という、リアリズムに満ちた自己客観視から来る自己評価。

 特別な人たちに対する憧れから、彼らを正しく理解させて自分の至れら未熟さを痛感する。・・・そういう人間もたまにいる

 

「チートを与えてもらっても驕り高ぶるだけで逆効果でしょうから、結構です」

 

 そう言って、自分のミスから死なせてしまったお詫びに異世界転生と転生特典を選ばせてあげようとした転生の神様からのチートを謝絶してくる人間も、ホントーに極々たまにはいるものなのである。

 

 そして、この手の人間は往々にして気付かない。

 自分の“そういう所”が神々の目には『英雄の兆し』として見られやすい当たり前の現実に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「セレニアよ。お前も今年で十五歳。王都の魔法学院に入学する歳になった」

 

 お爺様が私にそう告げてきたのは、家族そろって夕食のときでした。

 

「お前も知ってのここと思うが、この国では十五歳になった貴族の子弟は男女の別なく王立魔法学院に入学して将来のために魔法を学ばなければならん決まりがある。

 魔法学院は貴族の権威を一切認めておらず、完全実力主義であり、校内で権力を振りかざす者には厳罰が下されることが王命によって義務づけられておるが・・・言うまでもなく、こんな決まりは只の方便。

 そもそも神から授かった魔法が使える者だけが貴族に叙されている時点で、魔法学院が貴族子弟の社交場に過ぎぬことは一目瞭然じゃ。

 故に、セレニアよ。くれぐれも言動には気をつけるようにな? 貴族共に普通の常識は通用しない。貴族社会のみのローカル常識こそが貴族として生きる道であると心得て明日からの魔法学院生活を楽しんできなさい」

「・・・お爺様・・・」

 

 私はスプーンを置き、スープを飲む手を止めて溜息を吐くと相手の顔をジッと見つめて厳かだと自分では信じる口調で静かに、そして責めるように強い態度でお爺様の主張に非難を浴びせました!

 

「・・・そう言うことは、もっと早めに言ってくれませんかね・・・っ。私、明日が十五歳の誕生日で、反骨心旺盛すぎるのが悩みの種な生意気すぎる若造に育っちゃってるんですけれども・・・!!」

 

 

 激しく祖父を睨み付ける私の名前はセレニア・ショート。アルフォード王国に仕える大貴族ショート公爵家の令嬢です。

 私には生まれつき特殊だった要素が三つありました。

 

 一つは地球という別の星にある日本という国で生きて死んだ別人としての記憶を持つ転生者と呼ばれる存在だと言うこと。

 二つ目は、記憶を持ったまま生まれ変わる際に転生の神様から『チート』という名の高すぎる魔力を与えられて(押しつけられたとも言いますけれども)生まれてきたと言うこと。

 

 そして最後の三つは、『前世においてどうしようもなくクズな人生を送ってしまった自分を憎んで、少しでもマシな人間になろうと怠惰や傲慢さを嫌悪する心が人一倍強く育ってしまった』こと。

 

 この三者の内、前二つはお約束だから良いとしても最後の一つは立場によっては大問題に発展する恐れを孕んだ超厄介ごとなのは言うまでもありません。

 

 今の私は、自分が何も成せていないのに偉大なる先祖の名を騙ることは虎の威を借りた小物に過ぎず、誰かを蔑むことで自らを偉く見せようとする権威主義は虚仮威しの張ったりとしか見ることが叶わなくなっており、相手が下なら自分は上とか言う子供っぽい二元論には分かり易い溜息しか出てこない性格になっており。

 

 ・・・要するに、これ以上ないほど貴族らしい貴族と相性悪すぎると言うことです・・・っ。

 なんでこんなのを貴族子女だからって理由だけで入学させようとしてんですか・・・! この国の政治家たちはバカ共ですか!!

 

「いやー、スマンスマン。あんまりにもワシら好みの性格と価値観しとったから直し忘れてたんじゃわい。そう言えば今年セレニア15歳だったな~、15歳になったら王都の魔法学院通わせる法律あったような気がするなーと、昨日思い出したものでな。後のフェスティバルじゃったのよ」

 

 昨日!? 前世の話なんでよく覚えてないですけど、入学準備とかって一日半で出来ちゃうもんでしたっけ!?

 

「まぁ、別に良いではないか。

 ワシら夫婦は、いざという時に民草を守って死ぬのが貴族の勤め、貴族はその時の為に平時から農民に養われとるとしか思っとらん貴族じゃから、昔から疎まれ続けてたし。こんな風に自分の領地にある居城で孫娘が生まれからずっと引きこもっとる社交界嫌いのジジババ夫婦じゃし。

 じゃからお前は、ショート公爵家のことなど気にせんでいい。お前が正しいと信じて行ったことの結果として滅びるならワシらにとっては本望じゃよ」

「・・・・・・仮にも国内に二家しか無い公爵家の現当主様が、孫娘の失言問題で滅んじゃダメでしょ。絶対、国内の勢力バランスが崩壊しますから・・・」

 

 むしろ、悪くしなくても周辺諸国が介入してくるのは確実! どうしようもない末期情勢が私の失言で始まってしまう可能性がぁぁぁっ!? い、胃が痛いぃぃぃぃ・・・・・・っ!!

 

 ・・・チクソぅ・・・。ぶっちゃけ、おかしいとは思っていたんですよねずっと。

 

 貴族の割には辺境の田舎暮らしで、でも屋敷は豪華で生活には不自由したことなくて、他の貴族の話は聞くのに子供の頃から会ったことなかったですし。

 てっきり、ドラクエみたいな牧歌的世界観の異世界に生まれ変わったとばかり思ってきたのに! 実際には『ゼロの使い魔』の酷いバージョン的世界観だったなんて!

 

 裏切りましたね! 私からの信頼を裏切りましたね御ジジイさま!!

 

 

「まぁまぁ、そう怒るでないセレニアよ。実際問題どうせお前、そう言う手合いと出会ったときに貴族だからと容赦してやれる性格はしとらんじゃろう? 出来もしないことは最初から考慮する必要性ないと思うんじゃよワシ」

「うぐ・・・。い、痛いところを突いてきますねお爺様・・・」

 

 確かに私がそう言う方々と出会ったときには、たぶん我慢しないで突っ走っちゃうと自分でも思います。どうせ最終的に対決するしかないこと丸わかりな相手に今だけ我慢するのは時間の無駄、先手必勝で宣戦布告して反撃不可能なまで徹底的に叩きのめすことをよしとしちゃう可能性がバカ高い。

 

 生まれ変わってから自然豊かな土地柄と、純朴な領民たちに囲まれて育ってきたが故の弊害です。見習わなければならない人としての長所がありすぎて、逆に人を豚に成り下がらせるような言動には耐性がメチャクチャ低下しまくってる可能性が高すぎますし!

 

「・・・いいのよ、セレニア。あなたが私たち祖父母のことを心配してくれる優しい女の子なのはよくわかってる・・・。

 でも、だからといって私たちの存在があなたの生きる足かせになるのは不本意でしかない。私たちのことやショート公爵家のことは気にすることなく、むしろ道具として使って生きる道を広げて欲しい・・・。それが私たち老い先短い老貴族夫婦にとって一番の親孝行だと思ってくれていいのよ・・・」

「お婆さま・・・」

 

 優しい瞳で私を見つめ、優しい手つきで私の両手を握りしめて包んでくれた、一見しただけならマリーンドルフ伯並に好々爺然とした良いご老人なお二方。・・・でもですね?

 

「その優しさを、もう少しお父様にも示して差し上げた方がよろしかったのでは・・・?」

「「権力に驕り高ぶり、貴族の外道に走ってしまったバカ息子などワシらの息子ではない(わ)」」

 

 ・・・厳しいなーオイ、自分の血を分けた実の息子に対してはよぅ・・・。

 てゆーか、王都にある貴族の通う魔法学校に入学するなら問答無用で私の下宿先はお父様が居住している王都屋敷に確定しちゃうんですけど、その点は?

 

 ――割と本気で波風立てることなく入学まではいけることを切に願います。

 いやもう、ホントの本気で大本当に・・・・・・。

 

 

 

 

 

 心の底から、そう思ってたんですけどね~。

 

 

「なんだお前クソガキ、正義の味方のつもりかこのヤロウ?」

「俺たちハンター、魔物狩り専門の大ベテラン。街守ってやってる正義のヒーロー。むしろ俺たちが正義の味方で、お前が悪党だってばよこのヤロウ」

「ちんちくりんは引っ込んでな! 俺たちは紳士的な大人だから、お前みたいなガキにはブラ下げてるご立派なデカパイ以外に興味ないぜ!」

 

 うん、無理ですねコレ。正義の味方とか私の前で言うのマジ止めとけ、大っ嫌いすぎる単語ですよこのヤロウ。

 

「俺たちは正義の味方として当然の権利を要求してるだけであって、それを邪魔するお前の方が悪だって世界の常識で決まってる―――」

「わかりました。私が悪でいいですので、悪として正義味方を殲滅させて頂きます」

「「「・・・・・・へ? 今なんて―――」」」

 

 ぱちん。

 

 ・・・・・・ずどぉぉぉぉぉぉぉっん!!!!!

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

「どうしました? あなた方は正義の味方なのでしょう? 悪は倒される前に倒してしまわないと全滅させられてしまいますよ。早く私という悪を倒しなさい。

 私という悪に倒されないために・・・さぁ早く!! ハリーッ、ハリーッ、ハリーッです」

「「「・・・・・・(ガクガクぶくぶく・・・・・・)」」」

 

 

【ジジイ武将、異世界貴族になって女体化する。】

 

「・・・ほぇ~・・・こいつぁ、たまげたわい・・・」

 

 干からびた老魔女に唖然とされながら、貴族の少年レイ・クラウスはもっと驚いていた。

 見下ろした胸に微かな膨らみが見えている。昨日まで真っ平らだった自分の胸板を覚えていなければ分からないだろう細やかすぎる変化ではあったが、そこには確かに昨日まではなかった隆起が生じている。

 子供故に初めから丸みのあった身体は更に柔らかみを増しており、股間に至っては昨日まであったモノが無い。

 

 自身の身体が男から女に変わってしまったことを体感によって理解しながらも、レイ・クラウスが驚いていたのは別のことだった。

 それは変化する身体に合わせて徐々に徐々に思い出されてくる古い記憶。自分が剣と魔法の世界ハルミニアで生まれ育った貴族の息子レイ・クラウスだった“だけではない”前世で過ごした異世界人としての記憶に困惑していたからだった。

 

 それは『センゴクニホン』と言う名の異世界で『センゴクブショー』として駆け抜けた戦人生で体験した様々な出来事。

 群雄割拠した戦の世が終わり、武士が飾り物となる時代の寸前に最後の戦場を追い求めて縋った戦場『テンカワケメノセキガハラ』。

 それが叶わぬと知り、畳の上で取り逃した大将首を追いかけながら逝く夢と共に永久の眠りについた異世界の記憶。

 

 自分が異世界人の生まれ変わりで、ファンタジー異世界貴族になってる事実に驚きの余り言葉を失い茫然自失しているクラウスだったが、驚愕していたのは彼もとい彼女だけでは無い。

 自分たちの息子が娘になってしまった辺境伯のテオドラ・クラウスと、その妻で元傭兵の美女マリナも同様だったのだ。

 

 身分違いの妻とで会って一目惚れして求婚し、周囲の反対を押し切って結婚した自分を憎んだ一族の誰かによって雇われた魔道師が、殺される直前に己が命を代価とする強力な魔法を唱えたことで『お家断絶』の呪いをかけられてしまったクラウス伯爵家は嫡男であるレイの命と妻マリナの子宮が犯され危険な状態に陥り、テオドラは命懸けの大冒険の末に伝説の魔女ユリアナを探し出して十の試練をこなして屋敷まで連れてきて治療を行って貰うことまでやってのけたのだが、歴代最高の魔力を持つ伝説の魔女の力でさえ呪いを完全に解くことは叶わなかったのだった。半分は解けたが、半分は残ってしまった。

 

 レイの命を蝕んでいた死の呪いは解呪できたが、お家断絶の呪いは半端に残って子孫繁栄に必須となるナニを喪失させてしまっていた。男だった身体は死に、女として生きていくことを強制されてしまったのだ。

 

 嫡子存続が基本のこの国にあって、これではお家断絶の呪いは解呪されていないも同然。

 骨折り損のくたびれもうけだったと嘆くべき所であったが、テオドラは転ばされてもタダで起きるような男ではなかった。戦場にあって敵から「諦めが悪い」と見下される粘り強さで逆転勝利した歴戦の武官貴族は娘となって変わり果てた息子を見ても絶望など抱かない。

 むしろ別の感情に満たされた胸に湧き上がってくるモノを感じて、思うさまに叫び声を上げていた。

 

 

「女体化美幼女キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

 

 

 両手を天に向かって突き上げながら、侍女も家令も使用人も娘も妻も発言者である本人自身にさえ、どこの国の言葉なのか意味不明な叫び声を本能の赴くままに絶叫したテオドラは娘になった息子のカワイらしい姿を目にした瞬間トリコとなってしまっていたのだった。

 

 青みがかった黒い髪も、赤みがかった紫色の瞳も、夜の光を受けると妖艶さを増す青白い肌もすべて。この国だと古来から吉凶の象徴とされてきた不吉な色のオンパレードだったのだけど、カワイイ娘の身体に凝縮されて使われてるのを見た今となっては全部どうでも良くなってしまっていたのだ。

 

 こんなにカワイイ娘の色を否定する伝統なんて迷信だ、言い伝えだ、古くさいカビの生えた伝統だ。カワイイは正しい。それを否定するモノは全て間違っている。カワイイこそ絶対正義! これぞ世界の真理なり!

 

 ・・・最後のはともかく、テオドラはこの時この世界の賢者たちが長い時間をかけて追い求めてきた真理の幾つかに手が届いていた。娘となった息子のカワイさを見た瞬間に真理へと手が届いてしまっていたのだった。存外に賢者たちが追い求めている真理というのは安っぽいものなのかもしれない。

 

 

「あー、レイちゃーん! パパでちゅよー! 私がキミのテオドラパパでちゅよー! 今日からよろしくねレイちゅわーーーん♪♪♪」

 

 

 中年の渋い美形貴族が幼い娘となった息子のホッペタにヤニ崩れた笑顔で頬ずりしながら無精髭をジョリジョリ擦りつけながら戦国武将が前世だから気にもならない幼女となった幼子という奇妙奇天烈な現象を発生させながらテオドラは妻によって鉄拳制裁で黙らせられて気絶させられ、別室へと引き摺られながら去って行ってしまい、置いて行かれて放置された貴族令息あらため貴族令嬢となったレイは、ようやく蘇ってきた記憶と今までの自分が生きてきた五年間分とを統合することができ、自分という人間が今どういう状態にあるのかを自覚していた。

 

 

 

 ――関ヶ原で死に損なった老いぼれの自分は、戦国の世ではない異なる世界で生まれ変わったのだ。幼い童の身体を与えられて・・・・・・。

 

 

 

 

 ―――後世。異世界の歴史に大きく影響を与えることになる貴族令嬢レイ・クラウスの物語はここから始まる・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 死の運命から解き放たれ、理解がありすぎる父にも恵まれ、レイは元気に成長していったが、男が女に変わって何も問題が起きないほど貴族社会の中世ヨーロッパ風異世界も甘くはない。

 

 まず、事実は完全に秘匿が義務づけられた。使用人はおろか、出入りの商人、小間使いに雇っていた幼子に至るまで関係者は一人残らず全員にだ。

 

「他言は無用。言えば殺す。されど、言わぬ限りは親類縁者に連なる者すべてに至るまで全員の無事と安全を保証しよう」

 

 仕える主にギロリと睨まれ、何も知らされずに広間へ集められていた使用人たちは心底から震え上がり黙秘の制約を交わし合った。

 密告も許され、誤認であっても許すこと。知っていて告げ口しなかった者は諸共に罰すること等の容赦ない秘密厳守が徹底されたことによりレイが女になった事実は他の貴族に知られることは無かったが、その分つき合いの数と貴族としての評価が格段に下がったのも又事実。

 

 国境の要衝に位置する地の領主がこれで悪評が立たないはずはなく、テオドラと「息子の」レイ親子の間にはなにか重大な秘密があるのではないか・・・? と、勘ぐる者が無数にでたことも有りクラウス伯爵家には隣国との間で問題が起きる前に自体解決を計ることが暗黙の契約として成立させられたのだった。

 

 

 ――とはいえ。

 傭兵の妻を娶る際に起きた一族内でのゴタゴタは広く知られるところであったし、

 

 

、前世の自分がどこの誰に仕えたなんと言う名の武将かなどの知識だけは一切思い出すことができなかった。

 魔女が言うところによれば、

 

「器は本来、入れられる中身に合わせて作られるモノじゃが、入れられた器に合わせて形を変えるのが中身でもある。然るに、おそらくは後付けで蘇った記憶は新しい入れ物である今の自分に適合してしまっておるから、前の入れ物のことなど消し去っちまっておるんではないのかのう」

 

 との事だった。「死ねばそれで終わり、その先はない」を信条とする織田信長の考え方に触れた事があるらしい戦国武将のレイにはどうでもよいことだったのでアッサリ割り切れる程度のモノでしかなかった。

 

 戦国日本と中世風ファンタジー異世界では、文化や伝統など様々な面で違いはあったが、北条早雲により室町の世が終わらされ、便利なら何でもいい信長や、知られざる革命家・上杉謙信などの無益有害な伝統はノーサンキュー武将が多く存在していた戦国の世で生きてきた記憶のある彼女は変化を受け入れられずとも、否定に意味を見いだせない考え方をするのは慣れていた。

 正しかろうと間違っていようと負けて死んだら意味はないのだ。武士にとっては勝ちこそ全て。負けて屍拾うモノなし。

 

 そう言う考え方が当たり前にできる貴族というのは、この世界にとっても結構レアで希少なのだけど、辺境伯の名が示すがごとくクラウス伯爵領は相対敵国との国境沿いにある国防の要。つまりは国の辺境にある辺鄙な地だ、他の貴族がどういうモノなのかなど知る機会はほとんどない。

 

 知る事が出来ないから知ろうとはせず、日々自分なりに楽しみながら異世界について学びながら第二の人生を満喫していた矢先のこと。

 少女となった元少年貴族のレイ・クラウスは、其の事件に出会した。

 

 

 

「悪く思わないでくれよ? 元はと言えばお前がおとなしく店を俺に譲っておけば平和的に済む話だったんだからな」

「・・・ちっ。盗人猛々しい連中ね・・・魔女の婆さんに呪われて、地獄に落ちなさい」

 

 

 

 質素だが仕立てのいい服を着た幼い少女が、恰幅のいい商人風の男と護衛の私兵とおぼしきゴロツキに取り囲まれて窮地に立たされていた。

 

 

「ふむ・・・」

 

 その情景を眺めやりながらレイは、頭の中で思い出された言葉『カンゼンチョウアクジダイゲキ』と言う単語に首を捻っていた。

 知らないし聞いたこともない言葉のはずだが、妙に心に馴染んでいる気がする。もしかしたら今の異世界に来る前にも何度か別の誰かになって生きていた前世があるのかもしれない。 そんなどうでもいいことを考えながら、近くに手頃な石がないか見渡しながら。

 

 

 少女となった彼女は、街中を一人で散策するのが好きな子供に育っていた。前世の知識と今生の知識が混ざり合い、一緒独特の性格と価値観を有する少女となったレイは見るモノ聞くモノ全てに対して何らかの面白みを見いだす変わり者に成長してしまったらしく、あまり一般論が通用しなくなってきている今日この頃だった。

 

 そのため、仮にも貴族の長男ならぬ長女が城下とはいえ一人で出歩き回るなど有り得ない地位身分と家柄なのだが、女の子になってしまった嫡子の長男など他の貴族たちに見せて回る訳にはいかない。

 結果として元最凶傭兵で現在も腕は衰えてない母のしごきに付き合う以外はやることなくて暇になり、延々と二人で修行ばかりしていたせいでクラウス伯爵領でレイの護衛役を果たして足手まといにならないと断言できる者など母ぐらいなものという物凄い状況になってしまってもいる。


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