原作は「魔法少女 俺」。アニメ版しか知らないので1話だけしか参考に出来ていませんが、あれを隣町でも似たようなことが起こっていて当事者をセレニアに変更した感じの作品となっております。
地の文の書き方を丁寧語にしようかメルヘンチックにしようか普通で行くかで迷いに迷い、最後まで決められないままズルズルと来てしまったために超読み辛くなってしまいましたが、『試作品』と言うことで妥協していただけると助かります。
もしも本気で連載目指すとしたらオリジナルでの清書を心がけるつもりでいますので何とぞ今回ばかりはお許しのほどを。
ぴぴぴぴぴぴぴぴっ!
ーー朝、目覚めの時間。早寝早起きは大事だよと教えられた良い子のみんなが布団から起きあがってご飯を食べて学校に行く時間帯。
その時間が終わる間際になった頃にようやく薄目を開いて自分の部屋の天井のシミを数え始めている女の子がいました。
その子の名前は『異住セレニア』ちゃん。銀色の髪に寸胴気味で背の低い、オッパイだけが大っきいハーフの女の子で齢は16歳。高校一年生になったばかりの女子高生!
当然、春も明け切らぬこの時期に遅刻は厳禁! 新しい学校での生活を楽しいものにするためにも、友達と出会う機会を減らすべきじゃないよね! たとえ寝坊して遅刻寸前の時間になってたって諦めずにパンをくわえて走り出すのが青春ドストライクな今を生きてる女子高生という生き物なんだよ!
さぁ、セレニアちゃん! 今こそ立ち上がってキッチンへGO!!
「・・・・・・もう一度寝ますかね。次起きたときに「今起きたのだ」と言い張って、今現在起きてることは無かったことにしてしまえば自動的に遅刻確定。焦って走る必要性は皆無になるので楽でいいです。おやすみさい」
・・・二度寝してしまいました。セレニアちゃんは無理なくできること以外は積極的にやりたがらない女の子なのです。
当然ながら将来の夢も「かわいいお嫁さん」だなんて無茶振りしたりなんかしない。
自分を「かわいい」と思うかどうかは結婚相手の美意識の問題であって、芸術的感性が物を言う課題に、図工の成績「3」だった自分が口出ししても禄なことにはならないだろうって考えてる女の子だからね!
・・・・・・この子って一応『魔法少女』に変身して悪と戦ってもらう予定なんだけど・・・大丈夫なのかな? 本当に・・・。
キーン、コーン、カーン、コーン・・・・・・。
「おはようございます。そして、こんにちは久遠さん。今日も機嫌よさそうで安心しましたよ」
「・・・うん、おはよう。そして、こんにちはセレニア。今日も私たち二人は元気いっぱいで仲良しこよし・・・」
一時間目が終わって二時間目が始まるまでの中間に当たる時間に登校してきたセレニアちゃんは自分の席へと向かい、前の席の級友に時候の挨拶を交わしあう。
相手の女の子は、短めの黒髪とふつうの背丈を持つ、学生が主人公の物語にはジャンルを問わず必ず一人はでてくる優等生でお金持ちの娘でもある黒髪美人。
短めのベリーショートと、やや無表情でローテンションが通常モードの『どこにでもいる普通の女の子という設定の主人公に恋している百合ヤンデレ美少女』な外見を有している、どこの世界にでもいる普通のお嬢様優等生の女の子。
強いて特別な点を上げるとするならば、少しばかり他の同世代の子達よりも胸が大きいことぐらいだろうか? まぁ、大きいと言っても飛び跳ねたら揺れてるのが確実にわかる程度の大きさであり人間の限界を超えすぎてる化け物おっぱいサイズではない。
分かり易くたとえるなら『魔法科高校の劣等生』に出てくる『北山雫』の巨乳バージョンだとでも思っておけばいいだろう。とりあえずは、無自覚にエロい女の子である。主人公セレニアちゃんの親友に関する説明終わり。
「・・・セレニア。今日はお昼ご飯はどこで食べるの? 中庭? 屋上? グラウンド?
それとも・・・わ・た・し?」
「・・・朝っぱらからではなくとも、二時間目の時点で昼食の話て・・・まぁ、いいですけどね別に。
でも、まだ季節は春ですから。中庭も屋上もグラウンドも寒いですから食べてられませんから。
あと、最後の奴に関しては無表情のままテンポを変えずに淡々と言われても、どう答えればわからないんですけれども・・・」
「・・・難しいんだね・・・」
今日も今日とてローテンションで盛り上がりに欠ける平坦な声音でのやりとりを終えると、二人は早速次の授業の準備に取りかかります。
雫ちゃんは優等生であり優良学生でもある真面目な子。セレニアも今日は遅刻しましたが、普段は真面目に授業を受けて反抗期でもない至って正常な学生同士。授業の合間に入れられてる小休止が次の授業に向けて準備を整えておく時間であることを熟知しているのです。
基本は真面目で礼儀正しいので、周りの一般的な思春期まっただ中にいる学生達の中では極端に浮きまくっている変人二人はいつも通りに誰とも話すことなく、話しかけられることもなく一日の授業を終えて帰路へつきます。
その間、大した会話はありません。必要最小限度の単語のやり取りがあっただけで、それ以外はひたすら黙りこくったまま二人一緒に行動してました。トイレとか以外は余り離れることとてなく、かといってベタベタするでもなく、ただ沈黙したままの巨乳美少女二人が並んで黙々と行動を共にしている姿に「お前らデキてんじゃねーのか~?」などとはやし立てたがるバカなどいません。どこをどう見ればそう見えるのか発言者自身が説明できないし分からないのではマジで言いだし様がない。
むしろ少しだけ不気味な光景が自分たちの視界から消えてくれてホッとしているクラスメイトたちに背を向けながら、二人が向かっているのはセレニアの住む家である『異住家』。
特に用事はないし、来たとしても茶菓子を囲んでボーッとしあうだけなのだが、二人にとっては其れで良いため気にしていない彼女たちなりの『友達の家に遊びに行く』行為だった・・・はずだったのだ。今この時この場所で、この生き物に出会うことさえなかったならば・・・!!!
「アッハ~ン♪ ミレニアちゃーん、いるのは分かっているわよぉ~ん。大人しく出てきなさぁーい、アッハ~ン♪」
ーー人間の限界を超えすぎている化け物おっぱいサイズの胸を両手で片方づつ持ち上げながら、金髪碧眼ウェーブヘアーの外国人ケバい美女が異住家の前で恥態を晒しまくっていた。
「「・・・・・・」」
二人の真面目な変人達は即座にカバンの中から携帯電話を取り出して110番通報をかけようと思ったが、同時にあることに思い至り断念する。
先ほど彼女は確かに「ミレニアちゃん」と言っていた。ミレニアはセレニアの母の名前である。ならば彼女は母の友人・・・な訳はあり得ないので知人か知り合いか親戚と言ったところだろう。だって場所が日本の住宅街で、金髪碧眼だし。
これで日本が国際色豊かなサバイバー電脳都市とかに発展していたなら話は別だが、あいにくと日本は今も昔も多分これからもしばらくの間はずっと極東に浮かぶちっぽけで閉鎖的な島国のまま居続けていることだろう。
そんな狭苦しくて噂が一人歩きしやすくて、「聞いて楽しく語って楽しい」内容に忖度した上で伝えあってる無関係な赤の他人共が大勢ひしめき合ってる猫の額並の国土しかない空間で実母の悪評を被るのできる限り避けなければならない。
まして警察沙汰である。
噂は大好きだけど真実は大嫌いなマダム達がこぞって飛びつきたがりそうなネタをわざわざ提供してやる必要性をセレニアも雫も認めていなかったし、得もない。今しばらく様子を見てから対応を決めようと思い直した二人は隠れながらこっそりと変態の言動に耳をそばだてる。
「アハ~ン♪ ミレニアちゃん。今また再びあなたの力が必要になる時が近づいてきているのよ~ん。だ・か・ら~☆ おねがぁ~い、力を貸してぇ~ん。
ミレニアちゃんが以前みたいな力を取り戻せば世界最強の座は私たちの物なのよぉ~ん。あんなグラサン893になんか負けたりなんか絶対しないわぁ~」
・・・ふむ。なるほど。
ーー言ってる意味がまったく分からん。
「仕方がないですね・・・」
ふぅと、ため息を付きつつ頭を抑えつつセレニアは隠れて見ているのに使用していた遮蔽物のブロック塀から身体を出すと、変態恥女のいる方に向かって歩き出す。
「・・・行くのセレニア? ・・・・・・大丈夫?」
「心配いりません。・・・とまでは言いませんがね。あのまま方って置くと、うちが社会的に殺されてしまいそうですから対して危険度的には代わり映えしませんよ。
コンクリ漬けでの海中散歩も日にちがズレるだけでしかないのかも知れませんし、やらずに後悔するよりかはやって後悔した方がマシだと思ったのだと言い訳ぐらいは出来ますから」
「・・・うん、わかった。じゃあ、生きて戻ってこれたら私と結婚する約束をしてから逝こう」
「・・・あなた、わざとやってません? それとも、地で其れなのですか? 幼稚園からの幼馴染みの中で、私はあなたのことだけは良く分かってないんですけども・・・」
ぼやくセレニア。無表情に小首を傾げる雫ちゃん。
ちなみに二人は幼稚園で知り合って以来ずっと今の調子で仲良くやってきて、それ以外の連中は長続くしたことが一度もない。幼馴染みとは彼女たちにとっては読んで字の如く『幼い頃に馴染みだった家の近い連中』のことを指す言葉でしかありません。
「・・・じゃ、グッドラック」
無表情でビシッと親指を立ててサムズアップしてくる親友に対してもため息をつかされながらセレニアは、件のオッパイお化けに会話交渉を試みに向かうのであった。
「お母さん、よろしいですか? 今少し時間あったりします?」
「んん~? なにか私に用なのかセレニア? おやつは戸棚の上に置いておいたぞー・・・。・・・って、何だよお前かよバカオッパイ・・・。また来ていたのかよ・・・」
「んっふっふ~ん。ひっさしぶりねぇー、ミレニアちゃん。元気だったかしらぁ~ん?
まさかとは思うけどぉ~、私から逃げられるだなんて思ってなかったわよねぇ~ん?
私たち二人は、そんな浅い関係じゃなかったはずよぉ~ん★」
女子高生にしては背が低くて童顔な少女、セレニアに呼ばれて出てきた彼女のお母さんは、彼女よりも更に背が低くて童顔でオッパイまでも小さい真性の合法ロリばばあキャラであるにも関わらず、態度と口調からものすごい迫力とプレッシャーを感じさせる『ただ者ではないオーラ』を全身の穴という穴から噴出しまくっているスーパーロリおばちゃんキャラだったのです!
それに対して身長差は優に50センチ以上ありそうな上から視点で見下ろしてくる化け物おっぱいバカ女は、胸を持ち上げてる腕の位置そのものは変えないまま器用に身体を揺り動かして様々なお色気ポージングを連発している。
それら全てを「目にとっての毒物」と見なして戸棚から取り出してきたオヤツを食べ始めているセレニアも含めて、この場にいるメンツに一般的な常識人が一人も存在していないことは良いことだろうか? 悪いことなのだろうか? よく分からない。
「・・・この場合、私の方からお二人の仲についてお訊ねしない限り、話が進まないパターンなのでしょうか? レヌール城のお化け王様みたいに」
「そうだな。こいつは化け物と言うより悪霊みたいに取り付く系の妖怪だから、セレニアにも私の黒歴史について話しておくことで被害軽減が見込めるかも知れないし話しておくか」
「・・・保身的な・・・別にいいんですけどもぉ・・・・・・」
「母さんな、実は昔『魔法少女』やらされてたんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「魔法少女だよ。知っているだろう? あの日曜朝の9時頃から再放送している奴」
「ああ、あの八幡先生が毎週見ては涙しているという伝説の・・・」
「そう。あれに私も中学生の頃スカウトされるという『まどか☆マギカ』的展開を体験させられたんだ。若く幼く純真無垢なあのころの私にはキューベーじみた化け物おっぱいの口車に乗せられるより他に選べる選択肢は存在していなかったんだよ・・・。
そう! まるで国を救いたいという崇高で純粋な願いから聖剣を岩より引き抜いてしまった末に破滅した伝説の騎士王セイバーの様に・・・!」
「ちょ~~~~~~っと待ちなさいミレニアちゃん! ものすっごい拡大解釈しまくった説明やめていただけないかしら!? 風評被害で訴えるわよ! そして勝つわよ!裁判で!
あと、当時のあなたはセイバーはセイバーでもオルタみたいな戦い方しかしていなかったじゃないの! 持ち主みずから黒く染めた聖剣で斬り伏せられた魔王の無念に満ちた断末魔の叫び声、私未だにエコーしまちゃってってるんですけどもぉ!?」
「ーー終わったことをいつまでもグチグチと・・・・・・だからお前は取り付く系の悪霊タイプだと言ったのだ、このバカマスコットめが。反吐がでる」
「ヒドい! 扱いが今も昔もヒドすぎる! 本当になんで私この子を魔法少女に選んじゃったのかしら! 未だに理解に苦しむところだわ! どうせ、強いからだったんだろけどね!」
「はぁ・・・・・・」
会話だけで粗方の主旨は理解できたセレニアだったが、今度は別の疑問が出てくる。
このバカオッ・・・マスコット(?)は何だって今頃うちに押し掛けてきたのかということが。
「ところでミレニアちゃ~ん、なんで最近になって急に魔法少女やめちゃったのかしらぁ~ん? 退職届には『腰を痛めたから』って書いてあったけど、あれって本当の理由なのかしら~ん? 出来ればお姉さんに話してみてぇ~ん」
「いや、私ももう既に子持ちの四十代だし。魔法少女じゃなくて魔法熟女だし。20過ぎたらオバサン認定されるラノベ業界よりも年齢制限厳しい魔法少女コスチューム業界的には完全にアウトだろうと思ったのでな。自主退職して普通のオバサンに戻ろうかなと」
「自虐的すぎる!? それに、普通のオバサンに戻るって何!?」
「まぁ、時代の移り変わりに伴って魔法少女の年齢幅もコスチュームもバトルスタイルも変わってきてるが、魔法熟女だけはどう足掻いてもエロゲかエロ同人かエロ漫画の世界でしか活躍できない職種だからな。
老兵はただ去りゆくのみさ」
「・・・あれ? 魔法少女が言った台詞・・・だよね今のは? お、おかしいわねぇ~ん。なんだか夢と魔法のマジカルみらくる少女が口にしてはいけない台詞を吐いてた気がするわぁ~・・・」
目の前の現実から目を逸らし、夢と希望の世界に旅立ちたそうにしている妖怪のことは放っておいて・・・と行きたいところだったが、不覚にもこいつから用件を聞き出し忘れていたことを思いだし、ミレニアお母さんは小さく「ちっ」と舌打ちすると、仕方なさそうに気怠げな態度で元マスコット兼旧使えない使い魔の妖怪を見下しながら問いを投げかける。
「・・・・・・で? 何のようだ。用件だけ言ってさっさと帰れ。三秒以上黙ったまま突っ立てた場合は首を差し出せ。私が与えた選択肢以外を選んだ場合にも首を差し出せ。答える気がないのに居座り続けるつもりだったら・・・首だな。物理的に」
「この子ほんとうに強さ以外で魔法少女に選ばれる素質がないわねぇ~ん!」
化け物おっぱい大絶叫。
嘆息するセレニア。
表情筋一本動かすことなく、どこかに隠し持ってた長大な剣を引き抜いて化け物の眉間に突きつけたまま微動だにしないミレニアお母さん。
・・・・・・・・・・・・混沌である。混沌状況きわまれりである。誰かタステケー。
「ま、待ってミレニアちゃん! 出たのよ! 遂に出てきたのよ!」
「お通じがか?」
「そうそう、溜まり溜まってたのが三日ぶりに・・・って、違う! そうじゃないのよぉーん!
妖魔よ! かつて伝説の魔法少女が時空の狭間に封印した妖魔の復活が解かれて、この地上に溢れかえろうとし始めているのよぉ~ん!
だから今こそ世界中すべての魔法少女の力を集めて、強大な悪に対抗しなくちゃいけないのよぉ~ん!!!」
・・・妖魔? 聞き慣れないようでいて、ゲームでもアニメでも漫画でもお馴染みとなっている単語を耳にし、セレニアが僅かながら妖怪の話に興味を持ったことを目敏い理解者ミレニアは、魔法とか関係なく取得している自前スキル『観察眼:A』で正確に見抜いて意図までもを読みとった。
ちなみに娘のセレニアの観察眼は『B+』。まだまだ修行中の未熟者である。
「よし、セレニア。お前私の代わりにいってこい。給与とか待遇とか休暇とか危険手当とかの細々とした雑務は私が引き受けといてやる。偶にはインドア趣味ばかりに精を出してないで運動してこい。手頃な相手だ」
「・・・さっきこの人、世界の危機的表現を用いてた様な気がしますけど・・・?」
「世界規模で進む大プロジェクトを少数人数の町単位でしか行えない上に、兵力は多くても百かそこら、武器に至っては刃物を持ってたら良い方のチャンバラもどきなバトルをこなせばいいだけだよ。語るに足らん。適当に蹂躙して夕飯までには帰ってこい。私が許す」
「・・・何様・・・って、お母さんでしたね。我が家のヒエラルキー頂点の」
娘のつぶやきを聞き、満足そうにうなずいて見せたもため息をつかされながら立ち上がったセレニアは、妖怪さんに「で? どこに向かえばよいのです?」と訊ねて目をまん丸にさせてしまうのだった。
「ーーあれが、『妖魔』よん。人間界から異界へと人を連れ去り、怪しげな魔術儀式の生け贄に使っているとかいないとか・・・とにかく正体不明で理解不能の謎生命体が彼らなのよん。普通の武器では傷つけられなくて、唯一倒すことが出来るのは魔法少女だけが使える魔法のみ」
「はぁ」
「・・・張り合い無いやる気の乏しい態度ねぇ~ん。隣町のグラサンとこより妖魔っぽいビジュアルしてんだからいいじゃないの、やってること自体は同じくらいしょうもなくたって」
「癖みたいなものです。気にしないでください。
ーーところで・・・」
そう言ってセレニアは『変身アイテム』として渡された子供のオモチャみたいなステッキを取り出すと訝しそうな瞳で見据えながら。
「結局、魔法というのはどの様にして使うものなのです? 適当に杖振り回しながら意味のない単語を繋ぎ合わせることで、それっぽい内容の呪文っぽく聞こえそうな台詞を大声で叫べば発動するものなんですかね?」
「・・・ミレニアちゃん以上の夢のないこという子が来ちゃったわねぇー・・・。コホン。
魔法は想いの力を具現化したものよ。そして魔法少女は誰かを思う優しい気持ち・・・『愛のパワー』で変身できる者なのよ。だからセレニアちゃんが強く願い、胸に想いを抱きさえすれば自然と変身に使う言葉が頭の仲に浮かんでくるはずよん」
「なるほど。曖昧で概念的で抽象的で解釈の自由に富んだ、まるで新興宗教の勧誘文句みたいな解説をありがとうございました。全く理解できなかったので、自分なりの独自解釈でやってみます」
「ほんっとーーーーーーーーーっに、カワイ気が無い子キタコレ━(・∀・)━!!!!」
はしゃいで奇声を発する妖怪のことは、今度こそ本当に置いて置いて。
ーーセレニアは魔法という物を自分なりに理解しようとして・・・・・・・・・・・・諦める。
理屈屋であり頭でっかちでもあることを自覚している彼女にとって、『愛の力で戦う云々』は理解できなさすぎた。せいぜい思いついたのはバーサーカー・ナイチンゲールぐらいなものだったので頭を振ってかき消した後。
もう何でもいいから適当に言ってみよう、と言う愛も想いも一欠片も存在してないいい加減な手法で思い付いたというよりかは思い出しただけの古いゲームの呪文を唱えてみる。
「『混乱の時、天使の掌より雫落ち、悪魔の光宿る。暗黒の光、地の底を照らし、土に眠る巨人は蘇る』・・・」
きらきらきららん☆
「・・・できましたね、魔法少女への変身」
「なんでよぉんっ!?」
「さぁ? 私は畑違いにもほどがある分野の人間なのでサッパリです。まぁ宜しいんじゃありません? 使えさえすれば何だって。どのみち敵倒すのに使う道具なんですから素材が想いで出来ていようと適当な呪文で出来ていようと、やること自体に大差ないでしょうから」
「ううう・・・つくづく強さ以外に魔法少女の素質が微塵も感じられないわぁ~・・・」
過剰にヒラヒラした戦闘には向いてないことこの上ない衣装へとお色直しを果たしたセレニアだったが、どうやら彼女にだけは専用装備のオプションが付いてくるらしくアイテムボックスぽい入れ物にはまだカーソルが付いたままだった。
「どうやら私の場合には戦争装備が付属するようですね。・・・よいしょっと。
はい、装着し終わりました。《ナチスSS将校の軍用コート》です」
「だから何でよぉぉっん!?」
「だから知りませんって。許可だしてるのもコレ送ってきてるのも貴女のとこのお偉いさんなんでしょうから聞きに行ってみたら如何です?」
平然と異常事態を受け入れたセレニアは、次に戦闘用の魔法装備を求め出す。
「で、これから戦ってみようと思うんですけど・・・・・・魔法で戦うってどうやるんです? 普通に杖つきだして呪文唱えて禍々しい色のビームでビビビビで宜しいので?」
「なんで魔法使いの戦闘方法やる気でいるのかしらぁん!? 魔法少女なんだから想いの力で戦いなさいよ! お・も・い・の・ち・か・ら・で! それが魔法少女の心意気ってものでしょぉ~!?」
「想いの力で戦うて。出来れば、もう少し具体的に言ってもらえませんかね? あまりにも漠然としすぎてて全然全くイメージ出来ないのですが・・・」
「ああもう! 理屈臭いし夢がない! そう言うときは自分の使いたい武器を頭の中でイメージして出すのが定番でしょ~!?」
なるほど、確かに。
セレニアは納得し、自分の使ってみたいと思っていた武器を出すため、魔法と聞いてとりあえず持ってきてみてたフォークを一本取り出して右手に構えると呪文を唱えだします。
「ビビデバビデブー」
呪文を唱え終わるとフォークは光に包まれて、それが収まったときにはフォークの姿などドコにもなく、代わりとしてセレニアの手の中には魔法のベルギー製サブマシンガン《P90》がしっかりと握られておりました。
「なんで!? どうしてなの!? 魔法は!? マジカルは!?ミラクルは!?愛と勇気と友情の合体技は!?」
「愛と友情て・・・・・・敵を倒すための武器を頭の中で思い描いているときに、なんでそんな綺麗なモンを詰め込もうとしてるんですか貴女は・・・。友に何か恨みでも?」
「冤罪だ! 事実無根の冤罪を、尤もすぎる正論を根拠に問われてしまったわぁん!」
「ま、罪も罰も生きて戦場から平和な日常へと帰りつけた者だけが受けられる特権ですからね。
今はただ生きて帰れることを願いながら敵を撃つと致しましょう。ファイヤー」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダっ!!!!!!
・・・・・・不意打ちによる5、7×28ミリ弾を50発フルオートで発砲された妖魔達はバタバタとなぎ倒されていき、残ったのは最初にいたときの半分ほど。
戦力比はだいぶ減らせましたが、やはり二対百・・・いえ、実質的には一対百立った戦闘から始まっているので対した違いは生じさせられていません。数を揃えている時点で敵は戦略的優勢を確立しており、たかだか敵半数を撃破程度の戦術的勝利では覆せなかったのです!
ここは何か特別な魔法で一発逆転を狙うしかありません!
そうです! 魔法少女とはピンチに陥ってこそ最強魔法に目覚めるものなのです!
「いやまぁ、ピンチと言っても初撃を撃って戦闘開始したばかりなのですがね」
「しっ!そういうのはいいの! 夢がないから!
ーーまずいわセレニアちゃん! 敵の数が多すぎる・・・このままだとジリ貧よ! 何とか反撃しなければ・・・」
どうやら敵からもおそうべき敵と認識されたことで、自らも舞台に上がった魔法少女の相方であるマスコットとしての役柄を演じきることを決意したらしい妖怪はお約束の台詞をテンプレ顔で言った後で、最後に決意と希望を込めた真顔になって高らかと空に歌い上げる!
「こうなったら、今こそ伝説の魔法を試すしかないわ!
世界を救うため、人々の夢と希望を守り抜くため、この空に全ての人間達の想いを届けるために! 今こそ禁じられてきた伝説の力を解き放つとき!」
「『星の屑成就のために』?」
「そう! 生きてこそ得ることの出来る栄光を、この手に掴むまで・・・って、違う!
核の炎で艦隊は焼かなくていいの! 敵はあっち! あっちだから! 地上にいる敵を倒せてピンチを脱出できる魔法少女らしい魔法を希望します!」
どんなんやねん。
セレニアは心の中でツッコみましたが、律儀な彼女は考えるだけは考えてみます。魔法少女らしい魔法というものを。
ーー先ほどまでの展開を省みると、どうやら科学っぽいのは魔法少女らしくないないみたいですね。ついでに言えばドイツの神秘研究機関アーネンエルベも科学に分類されちゃうぽいですし、それでいて数の差を一発逆転で覆せる魔法となると数が限られ・・・あ。
セレニアは思い付きました。と言うよりも思い出しました。
数の差を補えて、しかも今の状況にはピッタリな魔法らしい魔法を。
そうして彼女は呪文を唱え始めます。魔法少女らしく、魔法を使って・・・そう、魔法だけを使って戦う古めかしくも懐かしい正統派の魔法バトルに回帰することを夢見ながら・・・・・・。
「『暗黒の淵より悪鬼よ出でい。《サモン・ダークネス》』
ーー敵の死体がアンデッド・モンスターとして蘇り、残っていた敵達に襲いかかって行きました。偽りの魂を与えられただけの仮初めの住人達に意志など無く、生前の記憶など持ち合わせてなどおらず、ただただ使役者の命じるがままに疲れることなく戦い続け、殺し殺され続けるだけの哀れな半死人の奴隷ども。
それが地球の人々を襲って悪い魔術の生け贄に用いようとした彼らの末路でした・・・。
「既に死んでいるゾンビ兵による無作為な敵への粛正・・・誰の良心も痛めることがない、良い作戦でした・・・」
「貴女にこの魔法を使える力を与えてしまった私の心はロンギヌスが針千本になってるわよぉんっ!?」
「戦う以上、犠牲が皆無と言うことはあり得ません。ですが、犠牲に反比例して先勝の効果は薄れていくものでもあります。最小の犠牲で最大の効果を・・・ならば妖怪さん一人の心が痛んだだけで他すべての地球に住んでる皆様方が平穏無事で過ごせるのであれば安い犠牲かな・・・と」
「鬼かあんたは!?」
「・・・と、それよりも今は戦闘に集中を。残っていた敵の大ボスっぽい人が突っ込んできましたよ。どうやら最後の一騎打ちがお望みのようです」
それはコウモリの羽と山羊の頭をした魔人バフォメットみたいな姿をしている妖魔だった。本物かどうかは知らない、分からない。分かる必要も存在しない。
これから殺し合う敵について知るべきなのは只一つだけ。どうすれば殺せるか? 冷酷すぎる現実論、それ以外には存在してはいなかったのだから・・・。
『ブホォォォォォッン!!!』
「はい。戦う前の礼儀として握手握手。敵同士とはいえ礼節は守らなければいけません。違いますか? 敵部隊の指揮官さん」
『ブホゥッ?』
「はい、どうも有り難うございました。では、礼儀正しく握手に応じていただいたお礼として、ことらも誠意を示しましょう。
互いに背中を向けあって、十歩歩いたら振り返りながら魔法を放つ。これで如何です? 由緒正しい一対一の決闘様式ですよ?」
『ブホゥ・・・・・・! ブッホ♪ ブッホ♪』
「良かった。お受けいただけるのですね。では、互いに背中を向けあって・・・。
1歩・・・2歩・・・3歩・・・4歩・・・5歩・・・6歩・・・7歩・・・8歩・・・9歩・・・じゅっーー」
『ブッホーーーーーーーーーーッ!!!!(バカめ! 敵が礼儀正しく約束など守ってくれると本気で思ったのkーー』
ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッン!!!!!!!!
「・・・手に触れた物質を爆発物に変えてしまう《紅蓮の錬金術》・・・使えるものなら一度使ってみたいと長年思い続けていました・・・。ようやく夢の一つが叶えられましたね・・・」
『ブ、ブホォォォ・・・・・・(ひ、卑怯な・・・)』
「敵が差し伸べてきた握手など信じて油断した、あなたが悪いのですよ」
『ブ・・・ホォォォォ・・・・・・(この、魔王めが・・・)』
「・・・苦しい戦いでしたね・・・主に年甲斐もなく少女趣味なコスプレしながら戦闘させられてた私の羞恥心的に」
「私の良識と常識と倫理的によぉぉぉっん!?」
この作品の異住家は両親と娘の三人家族ですので妹がいません。ですのでお母さんの名前をミレニアに変えさせてもらってます。純粋に思い出しづらかったので・・・。