試作品集   作:ひきがやもとまち

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『魔王様、リトライ!』の本格二次創作として書いてみた作品です。『リスタート』と違って普通の二次創作として書いてあります。
差別化を図るため、原作4巻目途中のイベントから始まって、イベントが終了してから1巻目の途中に戻るという流れになっておりますので、原作未読の方はご注意を。


別魔王様、別スタート地点からリトライ!

 かつて、「殺人鬼でも養成してるのか」と揶揄された『人殺しゲーム』が存在していた――。

 

「膨大な量の破壊と流血をもたらした魔王、九内伯斗・・・」

 

 世界の大半を支配した大帝国が征服した国々の支配を盤石にするため開始した死のGAME。

 属国となった国々からランダムで選び出した国民同士を殺し合わせて勝ち残った最後の一人は莫大な財産と神民への切符が与えられ、それ以外の者は例外なく死ぬデスゲーム・・・・・・

 

 大帝国の繁栄と絶対的権力の象徴であった、この悪辣なGAMEが今、終わろうとしている。

 

「じゃあね、九内伯斗、《INFINITY GAME》。それから・・・お疲れ様でした」

 

 そう言って、ディスプレイに映し出されていた目つきの悪い黒コート姿の男が、画面の向こう側にいる運営者の手によって削除されるのを見届けた後。

 彼女“裏背真央”もまた、自らが運営してきたネットゲーム《BLACK KNIGHT》のデータを――“《INFINITY GAME》のファンタジー版”と蔑まれたこともある『人殺しゲームの“片割れ”』の残ったデータを全て消す。

 

 ・・・運営を開始してから15年間・・・一度として接点はなく、会話を交わした事もなく、顔も本名も性別さえ知る事のなかった完全なる赤の他人で、オフ会なんて死んでもあり得ない程度の浅すぎる繋がり・・・。

 それでも彼女にとって、“彼”はライバルだった。倒すべき魔王だった。

 彼を超えるのは有象無象の増えては減って、死ねば代わりを連れてくるだけの量産型ヒーロー共ではなく自分だと確信しながら今日まで自分流のゲームを続けてきたが・・・・・・魔王がいなくなってしまった後まで続けるつもりは微塵も湧かない。

 

 所詮、自分が運営した《BLACK KNIGHT》の騎士とは“そういうモノ”だった。

 参加してくるプレイヤー個人個人のことなどどうでもよくて、所詮は『参加ユーザーの1人でしかない存在』。

 すべての判定は運営が決める。遊ばせて貰ってる側が偉そうに指図するな、自分のルールでやりたいのなら自分で作って運営しろクソ野郎共。それがイヤな奴らは出て行きやがれ! ・・・それが彼女の流儀だった。

 自己満足、欺瞞、憐憫――大いに結構、好きに呼べ。好きに罵れ。私は一向に気にしない。

 所詮、自分が好きなように作ったゲームという存在自体そのものが自慰作品に過ぎぬのだから今更だ・・・そんな風に割り切って好き放題にやってきた。

 彼女が意識したのは後にも先にも一つだけで、一人だけ。

 ・・・その一つと一人共が同時に消えた今となっては、自己満足の自慰さらし行為を続けさせていく意味も意欲も全く湧かない・・・。

 

「・・・あ~あ・・・。なんか、やる気失せたな・・・。寝てしまおう。明日仕事だけどベッドまで歩くの面倒くさいから寝てしまおう。どーせ、この世はクソみたいな現実だけで満たされている~っと。明日も明後日もそのまた先もず~っとず~っと・・・・・・グー・・・」

 

 

 こうして、《INFINITY GAME》が終わるよりも“三十秒ほど”遅れて完全に世界から消滅した別の世界の別の魔王の操り手は、『九内伯斗』が浴びるはずだった背後からの光を三十秒ほど遅れて浴びて“三十秒分の誤差を生じさせてから”始まりの声を耳にする・・・・・・。

 

 

 ――そこは神が見放し、天使が絶望“した”世界。

 どうか驚かないで。

 そして、聞いて欲しい。

 耳を澄ませば聞こえるはず。

 0時のベルは、いつだって“君たち”の始動を告げる音なのだから――――

 

 

「・・・・・・・・・ZZZZZZZ」

 

 

 ―――・・・・・・オ~イ、ちょっとー? 聞いて下さい、起きて下さい。

 寝落ちしたまま異世界転移するな、このヤロウー・・・・・・・・・――――

 

 

 

 

「・・・あん? ―――何だ、こりゃあぁぁぁっ!?」

 

 目の前にいきなり広がってた、鬱蒼とした大森林を目にして裏世真央は絶叫した。昔見たドラマのGパン履いてる刑事風に。

 余りの事態に、引きつった笑いしか浮かべられなくなるほどに。

 

「夜、寝落ちして、朝起きたら大自然のど真ん中に放置されて目覚めましたとか、半端ない無茶ぶりだなオイ・・・。

 これは、アレか? 『これから君たちには殺し合いをして貰います』になるタイプの奴か? それとも『ゲームをやろう!』とか言い出す男が謎の装置と共に待ち構えてるタイプの奴なのか? ・・・どっちにしても私、死ぬ一択の状況だぞこのヤロウ・・・」

 

 冷や汗ダラダラ滝のように垂らしまくりながら、必死で恐怖心を押さえつけようと無意味な独り言を続ける彼女。オタクでゲーマーな引きこもりは独り言が多い。コレ常識。

 

「・・・ん? てゆーか私、なんか妙に若返ってないか? エイジングケアとかした覚えないんだけど・・・。えっと、鏡鏡、身だしなみ整える用の鏡――なんてオッサレな代物をオタゲーマーが持ってるはずないわな。なんか鏡の代わりに姿写せるもんは・・・お! 泉発見! コレで見よう!」

 

 普段から会社でだけキチッとして、プライベートでの身だしなみは完全に諦めている典型的ダメゲーマーの彼女は、女性であってもコンタクトなんか持ち歩かない。手鏡なんて仕事道具の一つとしか思った事がないタイプの人間。

 公私は完全に別け、ゲームと現実は別物! 混同するなとか言う奴らの方がゴッチャに出来ると考えているガキの群れだと決めつけてやまない彼女に、一般常識的マナーなんて物は知らない。

 

「もし落ちても、泉の精とかいうキチガイは出てこないでくれよ・・・・・・って、何だぁぁぁこりゃぁぁぁぁぁッ!?」

 

 そしてまたしてもGパン刑事風に絶叫。泉の水に映し出された自分の姿にビックリ仰天し過ぎて腰が抜けそうになってしまったのである。

 だが今回のは驚きは無理もなかった。泉の水に映し出されるはずだった人物の姿が一変しすぎてしまっていたのだから驚くなという方が無理があるのだから当然の事だ。

 

「こ、これまさか私か・・・? 今の私の姿なのか・・・!?

 もしかしなくても今の私って、《BLACK KNIGHT》のラスボス『黒騎士セシル』になってしまってるのか!? ぎゃぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 確認のために念のために、もう一度だけ泉を覗いて同じ姿写して、また絶叫。・・・何やってんだと思われるのが普通の行動だったが、彼女としては無理もない。それぐらい――痛々しい姿が今の彼女がなってるキャラクターの容姿設定だったのだから・・・・・・

 

 

 目つきが悪く、悪人面したイケメン顔で、金髪を三つ編みにして垂らした男装の騎士。

 全身黒づくめのコート姿で、頭にかぶっている帽子も黒一色。

 左右の腰に一本ずつ短めの刀身の小剣を下げ、背中には身の丈よりデカい、メインウェポンの黒く染まった大剣を背負った物理攻撃一択だけのガチンコ勝負な女性魔王・・・・・・。

 

 

 自分の黒歴史を一身に集めすぎてしまったような、とんでもなく如何にも過ぎる見た目の持ち主だった。コレは痛い。痛すぎる。

 しかも、痛いのは見た目だけではない。設定までもが痛々し過ぎるのが黒騎士セシルの特徴である。

 

『人も神も魔王も【悪】と見下し否定して、全ての【悪】を自分が管理する世界を目指して今の世界全てを敵に回して戦争を挑んできた、【人から生まれて神も魔王も超えた人間の魔王】』

 

 ・・・それが《BLACK KNIGHT》のラスボス『黒騎士セシル』だった・・・。どんだけ厨二病患ってたんだと自分でも自分にツッコみたくなること請け合いなのだが、折良く《INFINITY GAME》が始まって、ツッコんでくる者たちと、そうでない者との間で意見が分かれて罵倒し始めたから、あんまし気にする機会がなかったのである。

 

 もともと《INFINITY GAME》はプレイヤーの平均年齢が高く、主に高校生から社会人が参加者たちの大半を占めていたゲームだったのに対して、《BLACK KNIGHT》は小中高生がメインのプレイヤー層を占めていたネットゲームだった。

 始めた最初の頃に出会って《INFINITY GAME》だけに勝つ事を意識し続けてきたおかげで、プレイヤー人口の差別化も、相手が仕事で運営できないらしい昼間を狙って人口数で勝つ事狙うのも戦術の一つと割り切り、《INFINITY GAME派》で《BLACK KNIGHTアンチ派》の連中が悪口雑言垂れ流してくるのも「所詮は自分好みでないものは全て非難したがる、ケツの穴と器の小さい陰険男どもの負け惜しみ」と歯牙にもかけてこなかったのが彼女だった訳ではあるが。

 

 ・・・・・・あらためて冷静になって眺めてみると痛い。痛々しい見た目だ。痛すぎる・・・。

 自分はこんな姿をして、あ~んな仕草をやらせて、こ~んな台詞を言わせてきたのかと思うと、黒歴史だけで死ねそうになってくるほどの痛みを味あわされて仕方がない。死因は恥死。

 

「い、いや・・・落ち着け私。まだ大丈夫だ、慌てるような時間じゃない、ハァ・・・ハァ・・・。

 な、名前なんて偽名を名乗ればいいんだ。『ヘミングウェイだって偽名で本出してる』と、どっかの大統領も昔なんかで訴えられたときに言ってたそうだし、民間人の私がマネしたところで問題ないはず、まだいける・・・ハァ、ハァ・・・」

 

 メチャクチャ苦しそうにしながら、メチャクチャ苦しい言い訳を一人だけの空間で述べてる時点で十分すぎるほど問題ありすぎる行為ではあったが、自己満足の魔王でしかない彼女は敢えて考えようとしない。全力で目を逸らす。

 

「だ、大丈夫だ・・・問題ない・・・。そのはず・・・だ・・・・・・ッ」

 

 そして、わざわざ自分から失敗して『大丈夫じゃなくなるフラグ』を立ててくるところはやはり彼女が、王道的な『善と悪の勢力同士に別れて最後の一体だけ生き残る最終戦争“ラグナロク”』という架空世界を作り出し、全ての善と悪を『エゴという名の悪!』と決めつけて同列に扱っていた『善なき世界の魔王』としてロールしていた16年間の経験値故の結果なのだろう。

 自分もまた悪であると知った上で『力尽くで主観を押しつけてくる完全悪の支配者』という設定が染みついているのである。

 プライベートならば表に出すことは絶対になかったけれども、ゲームが出来る家に帰り着いた瞬間から『ゲームと現実を別物』に捉えて我慢しなくなってしまうのが日常になっていた女である。

 自分の姿形が長年演じ続けてきた黒騎士そのものになってしまっている今、プライベートと外向けの社会人演技とでオンオフなんか出来そうにもない。

 

「・・・いや、そもそも今の私って、プライベートと外向けの社会人のどっちに分類される存在なんだろうか・・・?

 ゲームが現実になったって事は、今の私にとっては黒騎士セシルを演じてたとおりにやる方が現実なんじゃないのかな?

 ・・・いやでも、対外的に自分が人に見られて恥ずかしいと思う気持ちに嘘偽りはなさそうでもあるしなぁー・・・・・・」

 

 そして、森の中で腕組んでウンウン唸り出す、見た目少女黒騎士になった中身三十路入りかけの女性OL。根っからの理屈屋なため、こう言うところで変な風に融通が利かない。

 

 ――と、そこへ。

 思わぬ声がかけられる・・・・・・。

 

 

『お主かや、妾の神域で騒いでおったのは――――』

「―――ハッ!? 何奴ぅぅぅぅッ!!!!」

 

 

 突然、声かけられて黒歴史見られた恥ずかしさから一瞬だけ適切な対処法が分からず、なんかワケワカンナイままそれっぽいこと叫びながら声に向かって問いを放つ。

 声は不思議な事に、どこから届けられてきているという訳でもなく、耳に直接届いてきているのか居場所が特定できずにキョロキョロ辺りを見渡し、全周囲を警戒するより道は無し。

 

『大方、この辺りを騒がせておる侵入者であろうと思っておったが、よもや人間とはの』

「・・・・・・おおぅ・・・」

 

 ピンポイントで大ダメージを受けさせれるツッコミだった。さっきから騒ぎまくっていた覚えしかない彼女としては、流石に謝る以外の選択肢は思いつかない。

 

「これは・・・大変失礼な事をした・・・。まさか自分以外の誰かがいるとは思わなかった故に騒ぎすぎてしまったようだ。非礼は詫びる。申し訳なかった・・・」

『・・・意外と礼儀を弁えた人間なのじゃな・・・。如何にも邪悪な権化のような面をしておる癖に・・・』

「顔で人を中身まで決めつけて人格否定してくるなアホウ! この差別主義者のクソ婆!! 自分にとってイヤな奴そうだから何言ってもいいと思ってんだったら死ね! そんな偽善ヤロウの世間知らずに生きているだけの価値はない!!!」

『―――ムカッ』

 

 思わず叫び返してしまった、抑える事を知らない学生時代経験者の黒歴史持ち魔王様。

 元々彼女はこういう性格であり、自分に非があったら認めるが、相手にも非があったら責めずにはいられない部分を持っており、口の悪すぎる自分の失言を叱責する途中で言い過ぎてしまった事に気づかなかった教師とか親とかクラスメイトとか上級生とかと口論になりまくり喧嘩にまで発展したことが『百から先は覚えてない・・・』程度には経験した覚えがあるから自分を抑える術を学んでゲームにぶつけ、表向きは心の中で罵倒しまくって見下すだけで我慢してやることがギリギリ出来てきたのである。

 

 それが今、ゲームと現実が本当にゴッチャになってしまったせいで判別が付きづらくなってしまっている。

 オマケにどうやら、『肉体に心が引っ張られる』とかいうコレ系現象の影響によるものなのか、自分の性格が本来の自分よりも黒騎士セシル寄りに偏ってしまってきているらしい。

 先ほどから妙に時代がかった喋り方になっていたのは、それが原因によるものだ。

 

『全ての獣人たちの母たる妾に、そのような口を利くとは、つくづく興味深い人間じゃな。・・・お主、命が要らぬのかえ・・・?』

「知るかボケ! 赤の他人をどれだけ産んだ母親だろうと他人は他人だろうが! バカバカしい!

 だいたい他人の子供を顔で決めつけて罵倒しておいて、自分は顔すら出そうとしない母親なんざ碌でもないバカ親に決まってるだろうが! その程度の事も知らずに子供になに教育できると思ってるんだバカ親! 母親面して子供になにか教えてやる前に自分が1から学び直してこい! このバカ!!」

『―――(イライライラ・・・・・・ッ)』

 

 ・・・とまぁ、この様な事態が生じ易すぎたのが彼女の少女時代だった。言ってる事は概ね正しいのだが、言い方に問題がありすぎる上に、自己満足上等で生きてたから相手が受け入れようと受け入れまいと相手の問題、相手の責任。

 言い方が気にくわないからプライド的な理由で正論であっても受け入れられない、そんな屁理屈述べる奴らの勝手な都合なんか知るかボケ!と罵りまくりながら生きてきてしまっていた。・・・・・・そりゃ我慢する術を覚えないと高校から先は進められんわなぁー、普通に考えて・・・。

 

 そして今また、黒歴史は実体を伴って彼女の中から復活してきてしまっている。

 我慢する術を覚える必要のあった、現実社会で生きていくための必要性がなくなって、明日も会社行って言いたいこと我慢しなくちゃいけない苦痛の日々を送る理由がなくなって、言いたいこと言ったから喧嘩売り返してきた失言クソ婆が目の前に(いや、見えないけどね?)がいて。

 

 ―――だったら、戦争するしかないだろう。

 互いに信じる正義と正義、正しさと正しさがぶつかり合って、白黒つけたいんだったら、ガチンコ勝負で決着つけた方が手っ取り早い。

 

 ・・・・・・それが彼女の運営した《BLACK KNIGHT》の世界観だった。黒騎士セシルが敷いた、彼女の主観に満ちた法に支配された世界でのルールだったのである。

 

『相手を“悪”だの、“間違ってる”だの否定して罵倒しまくりたいなら正面から言いに来い。相手が拳で反撃できる目の前まで来て堂々と罵倒して否定しろ。

 正義だの悪だの屁理屈並べて飾り付けずに自分の意思で、自分の言葉で否定して罵倒して攻撃して傷つけ合えばいい!!

 所詮、そんなものは飾り付けだ! 自己正当化用の詭弁だ! 百万人が百億回使えるように作られた綺麗で汚い綺麗事とかいう武器の装飾なんざクソ食らえだ! 砕け散れ!!

 正義の味方だろうと悪党だろうと、所詮は自分の理想通りの型に他人が嵌まってないと気にくわないクソ野郎共に過ぎないんだから、クソ野郎同士でクソみたいな殺し合いでもしてりゃあいい!!』

 

 

 ・・・・・・それが黒騎士セシルの主張であり、『悪の正義に基づき正しいと信じる信念』だったのである。

 この考え方に基づいて、色々言ったりやったりしていた黒歴史が現実とゴッチャになった今、彼女という極大の悪であり正しさの権化は相手の事情に頓着することなく、相手の唱える主張に有言実行を要求してくるのは黒騎士セシルと融合しつつある彼女にとっては当たり前の行動だったのだから・・・・・・

 

 と、そこへ。

 再び第三者の声が・・・・・・いや、第三者たちの声が響いてきて、風景にも変化が訪れてくる・・・・・・

 

 

『ハロハロ~♪ なんだか面白いことやってるみたいだねぇー、原初のケモノちゃーん。遊びに来たよー♪』

「か、母様-!?」

『むッ!? しまった! 此奴に気を取られすぎて結界の綻びに気づかなんでしもうたか!?』

「・・・今度は何だ、いったい・・・・・・」

 

 三者三様、いや五者五様と言うべきなのだろうか? 姿の見えない相手と睨み合って口論を続けていた黒騎士セシルと、セシル相手に言い合いし続けていた姿の見えない誰かさんと、突然横から割り込んできて風景も変えちまったらしい黒一色でメルヘンチックな服装した死に神の鎌みたいなもの持ってる――たぶん少年だろう男の娘っぽいガキ。

 そして、そのガキに抱えられて怯えきって助けを求めているケモノ耳生やした子供たち二人組。――少なくとも片方は・・・女の子なんだろう、多分だけれども。

 

『貴様! 我が子供たちを返せ!!』

「あはは~、やーだよーっだ♪ 君んとこドア堅すぎだからさぁ-、いつもは遊びに来るのもっと大変だったんだけど今日はたまたま簡単に入れたから楽に捕まえられた戦利品を簡単に手放すわけないでしょー?」

「か、母様! アチシたちのことより早く逃げ――痛いっ!?」

「ファイヤーフォックス!? お前、妹になにかしたら許さ――ぅぎゃあッ!!」

「ひっ!? 兄様―!?」

「あっはっはー! ざーんねん♪ 青い子の背中がパックリー♪」

 

 突然に景色が移り変わって繰り広げられ始めた、神聖なはずの神社内で巫女服着た男の子と女の子をピエロじみた服装の猟奇殺人鬼少年が虐待しまくるリョナ動画な光景。

 全く以てワケガワカラナイヨなこと甚だしい状況だったが・・・・・・分かり切っていることも一つだけある。なのでそれを実行に移す。

 

「・・・・・・オイ」

「うわわっ! ちょっと、君さー。人間だから後で遊んであげようと思って見逃してあげてたんだから、身の程を考えて行動してよー。せっかく、ここ入るのを楽にしてくれた恩返しとして、あんまりは苦しまない内に殺してあげよーって優しい気持ちになってあげたんだよ、ボクは~?

 それなのに調子に乗って邪魔したりするなら、君から先に殺してあげてもい――」

「お前に一つ、いいことを教えてやろう。耳の穴かっぽじって、よく聞くがいいクソガキ。人の話は素直に聞いておくものだと親から教わったことはないのか? だとしたら親が悪いが、お前は聞け。命令だ」

 

 相手の話を聞かず、聞く気もなく、一方的に自分の話だけを話し始める《BLACK KNIGHT》時代とまったく変わらぬ黒騎士セシルの会話スタイル。

 人の話を聞かない、聞く気がない。・・・・・・そういう風に見える態度だが、否だ。

 

 正しくは、『人以下のクズに自ら成り下がるブタの言葉なんざ人間様に聞こえたところで理解できるはずがない』・・・と言う解釈が正しい。

 

 人に話を聞いて欲しいと願うなら、まずは自分が最低限『他人と同列に並べるよう努力してみてから要求してこい。それが出来たら検討してやる』・・・それが黒騎士セシルの人間に限らず全ての知性あると自称している存在に対して要求してくる最低基準。

 

「・・・君さー、いい加減にしないとマジで潰すよ? 後から後悔しても遅すぎるんだから、人に話しかけるときにはもう少しキチンとよく考えてから話しかけてだね―――」

「私は元来、あまり人嫌いな性質ではないのだが・・・これだけは許せんと思うものが三つだけあってな?」

 

 人の話を聞くフリだけして受け入れる気はなく、ただ自分の都合を語りたいだけのクズ野郎の話を聞いてやる必要はない。聞いてやる義理もない。

 ただ自分の都合を語るだけでいい。相手が聞くか聞かないかなど、相手の都合の問題だ。好きにすればいい。

 どーせ相手がどう解釈しようとも結果は何一つ変えてやる気など端から持っていないのなら、聞いてやるフリだけ示してやるのは偽善ですらない。単に『自分は手順を守って相手を責める正しい正義の味方です』とアピールしているだけに過ぎない行為だ、クソッタレ。

 

「だから、君さ――――」

「一つ目は、『招いてやった訳でもないのに客人面して偉そうに要求だけしてくる、自分の立場を理解してない馬鹿なガキ』」

「――――」

 

 相手の目がスッと細まり、周囲に拡散されていた殺気が一瞬にして濃度を増し、痛みに呻いていた狐耳の子供たちでさえ恐怖の余り痛みを忘れて声を押さえ、重苦しい沈黙だけがばの支配者として静謐なはずの神社を満たし尽くす。

 

「二つ目は、『自分が一方的に他人をいたぶれる事態しか考えないまま攻撃しに来て反撃されて、一方的にいたぶられる立場になったらギャーギャー喚き出す弱い者イジメしか取り柄のない臆病極まるザコ野郎』」

「―――~~~~~ッ」

 

 クズが間違い犯す現場に居合わせ、自分には注意する資格がないからと見て見ぬフリして黙認するのが正しいとか詭弁ほざいてる連中の語る正しさなんて大嘘だ。

 ただ、自分が面倒ごとに巻き込まれたくなくて、そんな自分を正当化するため都合のいい一般論を信じたフリして唱えているだけでしかない。

 もしくは、自分が何かしたときにキツい言葉で注意されたくないから、予防線張ってるだけでしかないのだクソ野郎共、反吐が出る。

 

「そして三つ目は・・・ハッ、『かわいい女の子を傷つけるブ男』だ。

 かわいくない女の子だったら別に気にしなかったが、かわいい女の子を傷つけて泣かせるブ男がいたら問答無用でソイツは泣かしてから殺す。例外はない。女の子の側に善悪も問わない。女の子が可愛いことは正義だからだ」

「―――テメェッ!! マジムカつくゥゥッ!!!」

 

 そして何よりの大前提、可愛いは正義。正義を傷つける男は問答無用で全部悪。女の子は見た目が可愛いだけで特別扱いされる特権を与えられてしかるべき存在。

 悪か善かの問題ではない。見た目と中身は関係がないからだ。

 心が聖女のように清らかだろうと、見た目が醜女の婆さんだったら自分は要らない。助けない。

 逆に見た目は良くても心が性悪極まる悪女だったら絶対殺さない。罰として色々エロゲー展開するのに使いたくて仕方がない。

 

 ・・・それが黒騎士セシルの価値基準だった。正義とか悪とかではなくて、『好き嫌いだけ』が問題なのである。

 所詮、正義とか正しさなんて代物は、自分が正しいと信じたがってる理屈こそ本当に正しい真実なのだと信じたがってる人間たちが勝手に作り出した自己正当化の最たるものに過ぎない。

 正義の対義語が悪だとするなら、「自分たちこそ正義だ!」と唱える者たちの敵は全て悪になる。自分たちもまた別の誰かが正義を唱えて敵になるなら悪になる。

 

 正義と正義の殺し合い、悪と悪の殺し合い、正義と悪の殺し合い。――どれも中身は全く同じもの。ただ唱えてる奴らが「自分こそ正しい! お前は間違ってる悪!」と罵り合って否定し合っているだけに過ぎない善と悪の判別基準。

 

 神とか魔王も、悪魔も天使も皆同じ。

 ガキの頃に聞いた創世神話で、魔王サタンはもともと神に仕える最高位の天使ルシフェルだったが、仕える主が自分の理想と懸け離れた決定下しやがったから反逆して地位奪おうと戦争しかけて負けたと聞かされたことがある。

 要するにあの話は、最高位の天使も、自分の願いを叶えてくれない神様なんて必要ないと判断したと言うことなんだろう? ガキのころ子供心にそう思わされた黒騎士セシルの中の人の価値基準は今も昔も変わっていない。

 

「まぁ、要するに一言にまとめてしまうとだ」

 

 だから――――つまり――――――

 

 

「・・・私はお前が気に食わん。大っ嫌いだ、反吐が出る。だから殺す。人が他人を殺そうとするのに、それ以上の理由は必要ない・・・・・・」

 

 

 狂気の大悪魔と、殻を失った悪の正義を貫く黒騎士は、決して相容れることは出来ない。

 出会った、その瞬間からこうなることは決まっていたと言うことである。

 

 主観的正義という名の悪の断罪人は、世界や社会が変わった程度で自分の中身まで変えてやる気は少しもなかったのだから・・・・・・。

 

 

 

オマケ『オリジナル主人公の紹介文』

黒騎士セシル:

原作の《INFINITY GAME》と同時期に人気を博していた『世界観の異なる人殺しゲーム』というオリジナル設定を持つゲームでの魔王。

銃とかバズーカなどの科学兵器が主力武器だった《INFINITY GAME》と異なり、聖剣エクスカリバーや神槍ヴォータンなどファンタジー武装で種族を問わず善と悪に別れて殺しあうという内容のゲームだった。

セシルは作中において、最初は正義側に属する姫騎士の一人として戦っていたが、途中で神と魔王と人間すべての都合で全ての仲間たちを失わされたことから『神も魔王も人間もすべて同じクソ野郎の群れだ!』と決めつけて、全員差別なく悪党共として悪なる自分が管理してやろうと魔界の力を吸収して魔王になった存在、という設定の持ち主。

基本的に『正義なんてものは何処にでもあるし、何処にもない。悪も正義と何ら変わらない。名乗る奴の名札が違うだけだ』と断言しながら生きている。

『正義』でもなく『悪』でもない、ただ『己』のみが自分の全てという傲慢さを極めたようなキャラクターで、自分なりの正しさと基準にしか従おうとしないが、逆に自分のルールだけは相手が誰であろうと絶対に違えない。

 

 《INFINITY GAME》と違ってファンタジー世界観のためグラフィック等がデフォルメされており、『リアルな殺し合い』では大きく間を空けられていたが有識者たちから見れば『同じ人殺しゲーム』に過ぎず、世間から攻撃されがちな《INFINITY GAME》のコアユーザーたちからすれば《BLACK KNIGHT》の子供向け描写がOKで《INFINITY GAME》の過激描写が許されないことが納得いかずに言い合いになることが多かった。

 

 

今作版《INFINITY GAME》の魔王・九内伯斗であり、別の価値基準に基づいてはいても独善的であることには変わりない存在として生み出されたオリジナル主人公キャラクターです。

最近のチート系の作品だと魔法ばっかり優遇されてたのが不満でしたため、敢えて剣のみを貫く騎士系最強チート主人公にしたかった次第です。

 

 

なお、今作のスタート地点は原作4巻目途中にあるイベントから始まっておりますが、コレが終わった後に助けてやったお礼として聖光国に転移してもらうという流れを想定して書きはじめてあります。

このため始まる時期が少しズレており、アクちゃんは結果論で助けるだけになるため本人たち同士が出会うことはなく、足長オジサンみたいな存在として終わる関係性。

主に原作ではヒロインではなかったキャラクターたちに、ヒロインの役所が回ってくる予定で、特に『ミンク』をお気に入りになるようにしたいですね。厨二同士で意見が合いそうですし♪

ある意味では、『世界を混沌に陥れる魔王が降臨して、それを討つ闇となる』ミンクの厨二妄想を実現させてくれる主人公とも言えるんだけど、本人自身がその妄想を体現しちゃっているタイプだから何とも言えない微妙な存在な主人公でッス。


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