アニメ版見るまで存在すら知らなかったニワカの書いた作品ですので原作ファンの方は読まない方がいいかもしれません。
また、作者は今のところアニメ版しか見れておりません。
二千年前・・・神話の時代。
人の国を滅亡させ、精霊の森を焼き払い、神々すら殺して魔王と恐れられた男がいた。
彼の者は暴虐の限りを尽くし、その眼前では理さえも滅ぶ・・・・・・。
その名は―――【暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴード】
【ベルゾゲートは、始祖『暴虐の魔王』の血を引く者を新たな魔王に育てるための教育機関です。
崩御の日より二千年。今年は始祖が目覚めると言われる年・・・入学予定の皆さんの中には魔王の生まれ変わりと目される【混沌の世代】もおります。
真に始祖が還られた暁には、魔界は歓喜の声に包まれる事でしょう―――】
――だが、いつの時代、あらゆる世界、全ての国において自分たちの始まりは神聖視され、英雄視され、尊崇されながらも歴史はねじ曲げられ、善意による改竄が加えられていくのが常である。
そして往々にして、偉大なる始祖王の実態なんてものは、この程度のものなのが歴史というものだろう。
「・・・え、何それ・・・。私ぜんぜん知らない事ばっかなんだけど・・・。
今の時代だと、そんな風に伝わっちゃってるものなの・・・・・・?」
斯くして、歴史は繰り返され、人間も精霊も魔族も神々だろうとも。
・・・・・・何一つ過去から学ぶことなく、同じ愚行を繰り返し続ける・・・・・・。
それが自らを【知性ある者】と称して、他者を見下し蔑みたがる者たちにとっての【始祖】という名の、自分たちの偉大さを示すのに都合が良い【偶像】に纏わる歴史である。
その日、記念すべき年に晴れの入学試験の日を迎えた【魔王学院ベルゾゲート】の校門前は、入学と次期魔王を志願する受験生の若者たちで埋め尽くされていた。
空は晴天。将来に夢と希望と野望を抱いた若者たちを天すら祝福しているかの如く、雲一つ無い気持ちの良い晴れっぷり。
・・・暴虐の限りを尽くした悪の魔王の後継者を志す者たちにとって、喜んでいいのか否か微妙すぎる天気のような気もするけれど、とりあえず傘を差して志望校への入学受験に臨まなくてよいのは良い事である。
「がんばれー! ミーシャーッ!! フレ~♪ フレ~♪ ミ・イ・シャ~~ッ!!!」
付け加えるなら、受験に望む子供の応援に来たらしいご家族の方々にとっても天気が良いのは良い事である。
がんばって暴虐の魔王になれるよう応援するのに「フレー、フレー」が適切な言葉なのかどうかは知らんけど、愛する家族が受験に合格して名門校に入学できるよう応援する行為が良くない事のはずはない。
それは次期魔王候補の一人である魔族であっても、神様候補であっても特に変わりは無い【家族に対して示す親愛の情】として正しい表し方なのだから。
「・・・あ。う、ん――て、あっ」
「皇族は試験免除できんのに、親父は考えが古くてさァ~」
「試験なんて、かったるいよなぁ~。俺たち皇族なのによォ~」
だが、いつの時代も思春期の少年少女の中には、擦れるのがカッコいいと思い込む輩の方が大多数派を形成するのも世の常である。
今もこうして、家族の暖かい応援に応えて振り返った少女が頷き返す横を、これ見よがしに肩をぶつけながら通り過ぎていき、彼女の持っていた学院試験への招待状として届けられていた羊皮紙の封筒を地面に落とさせながら拾いもせず、そのまま歩み去って行く半端な不良少年が次期魔王を育成するための教育機関への入学を許されている始末だ。
つくづく時の流れというヤツは、あらゆる物と人の心を劣化させる最悪の毒となり得る代物である。
が、しかし。
「どうぞ、落としましたよ【ミーシャ・ネクロン】さん。貴女の物であってますよね?」
「あ・・・」
時の流れが心の腐った若者たちを大量生産するようになるのと同じように、時間がもたらす腐敗を目にして反面教師にできる者たちも生まれゆくものでもある。
現に、今もこうして銀髪の茫洋とした表情の乏しいショートカットの少女が落とした、あるいは“落とさせられてしまった”封筒を黒髪の少女が拾いあげて手渡してくれている。
どんなに腐った時代の、腐った社会に生まれ育った者たちであろうとも、そこにいる全ての者たちが精神も魂も腐り落ちたクズという事などありえない。
彼女たち二人もまた、そんな少数の正しき例外たちだったということであるのだろう。
「ファイトー! ファイトファイト! ミィィシャァァッ!! 平常心だァァァッ!!!」
そんな彼女たち二人の片割れを応援する盛大なエールが、後方に立ってるオッサンから変わる事なく叫ばれ続けている。
・・・こんな人に志望校の受験まで世話してもらえる家庭で育ったなら、たしかに擦れた風には育ちそうにはない。
素直に良い事なのだろうけれど、【新たな暴虐の魔王候補】としてはどうなのだろうか?
いまいち基準がよく分からなくなっていくのもまた、始祖によって旧体制が破壊し尽くされた後に建国された王国の子孫たちが秩序を維持する側になった時代では、よく見かける光景である。
「・・・良いご家族をお持ちのようですね。羨ましいことですし、良い事です」
「え・・・・・・んっ」
言われた言葉に一瞬だけ返事に詰まり、銀髪の少女は少しだけ考えてから賛同の意を短すぎる言葉で返事として返した。
もし黒髪の少女が『良い親を』という表現を使っていたなら否定はしないまでも訂正する必要性は感じていたかもしれない。
だが、『良い家族』という表現には何らの間違いもなく、訂正する必要も感じることはない。
あの人は親ではないが、『家族』だ。それに間違いはなく、絶対だと断言できる。
だから素直に短く頷きを返した。ただ、それだけ。
・・・だが、やはり世の中というものは、綺麗なもの、正しいものを見つけると、汚したり罵倒したりして穢す言葉を吐かなければ気が済まない性格に息子を育ててしまうバカ親という存在を家族関係から根絶することも出来はしないものでもある。
「おいおい、親同伴で入学試験かァ~? いつから魔王学院は子供の遊び場になったんだァ~?」
校門に寄りかかっていた一人の少年が、二人の少女に向かって侮蔑の言葉をかけてきていた。
元いた学校の制服なのか、黒色の学ランの前面に付いたホックを全開させて、金のネックレスとピアス、イヤリングに身を包み、目の下には獣によって刻まれた傷跡のような爪みたいな下線が一本入っている。髪は脱色したのか銀髪と呼ぶには色素が薄すぎる白髪。
そんな格好をした少年が、校門に寄りかかりながら両腕を組んで、片足の先っちょだけ曲げて、親御さんに見送られながら入学試験を受けにきた少女に因縁をつけてきて・・・・・・って、オイ。
・・・・・・コイツ一体、いつの時代の悪ガキ不良モドキなんだよ・・・。
いつから魔王学院は、カッコつけで不良を気取りたいだけな子供たちの遊び場になったのだろうか? そう考えるのが普通の反応レベルの、バカ丸出し発言をしたチンピラ少年らしい言動だったのだが。
『・・・おい、見ろよ。インドゥ家のゼペスだ』
『インドゥ家って・・・始祖の血を引く皇族の一員かよ!? やべぇよ、目を合わせるな・・・』
・・・どうやら今の時代だと、権威付けと力によって魔王候補らしい悪さっぷりに見えるものらしい・・・。力の強さと血統の尊さは、精神年齢の幼さとは関係がないのだが・・・。
あと一応、周囲でざわめいて強者を恐れて距離おいている連中も【その眼前では理さえも滅ぶ暴虐の魔王候補】に立候補しにきた少年少女たちであるはずなのだが・・・・・・「皇族の権威とか血統」って「理」じゃないんかい。
「「・・・・・・」」
「あ。お、オイ! 貴様だよ貴様! オレを無視して先進もうとしてんじゃねぇ!!」
あまりにもツッコミ所が多すぎて、逆に頭痛を感じさせれてくる相手だったから敢えて無視して素通りしてやっただけなのだが、やはりこういう輩には逆効果になってしまう。つくづくメンツに拘る不良を気取りたいだけの少年は面倒くさい。
「・・・・・・・・・」
だから、そのまま無視して素通り続行。
隣に立ったまま歩く事になった、結果論的な同伴受験の少女も、理由は違うと思うけど沈黙したまま一緒に付いてくる。
「・・・フンッ! おい、テメェら! 今なら命乞いすれば許してやるぞ?」
そして、こういう態度を取られると、意地でも相手に頭を下げさせる姿を周囲に見せつけてやることで、自分の自尊心を満足させなければ気が済まなくなってしまうのが格好付けで不良やってるだけの不良少年モドキというものでもある。
左手の拳を握って前に出し、右手は心拍数でも測るときみたいに左手の頸動脈の辺りを握り込み、魔法を展開させながら左手の拳を開いて掌の上に漆黒の火球を出現させて脅しをかけてくる方針に切り替えたらしい。
・・・・・・この場合、最初に左手の拳を握っていたことに意味はあったのだろうか? とか。
暴虐の魔王が無礼を働かれて怒ったなら問答無用で焼き殺してしまうのが正しい魔王の在り方なんじゃないか? とか、色々と疑問が多く感じる行動だったが、そもそも正しい魔王の在り方なんてものがあるのか?と聞かれたら答える正答を持ってる人はいそうにないのでよく分からない。
「早くしねぇと、神々すら焼き尽くすと言われた、この闇の炎で嬢ちゃん諸共ガイコツにしちまうぞ~? ヒャッハハハハ!!」
「・・・・・・(スタスタスタ)」
「ヒャハハハ!! ――って、聞けよコラァ!?」
だから取り敢えず無視して先を急ごうとしたら、また引き留められてしまった・・・・・・。
構ってちゃんかよ・・・と、思わなくもなかったけど、流石にこれ以上引き留められるのは面倒くさ過ぎるので、一度だけ相手をしてあげることにした。
「・・・・・・・・・ハァ~~~~~~~~~~・・・・・・・・・」
「って、お前、なんだその超長すぎる溜息はッ!? ああァァァァァァッん!?」
ただし、精神的に物凄く疲労させられたので溜息だけは吐かせてもらってから、一応の形だけ礼儀作法を守って敬語を使って相手を半目で見つめ返しながら。
「・・・・・・なにか私に、ご用でもおありでしたか・・・?」
「て、テメェ・・・・・・ッ!!!」
メッチャクチャ面倒くさそうな表情で、「お前の話は最初から興味なかったから聞いてなかった発言」を返されてしまった相手の少年はブチ切れる寸前。
まぁ、展開している魔法のレベルが自分基準で見たら弱すぎるので発射されたところで別に問題はないのだが、それでもまぁ・・・・・・一応は晴れの入学受験日に参加しに来た未来を夢見る受験生少年の一人ではあるので、試験始まる前から夢を打ち砕かない程度に静かになってもらうことにして。
「こ、このオレ様をここまで侮辱しておいて、生きて帰れると思うなよテメぐほっ!?」
「申し訳ありませんが、私の方に貴方への用事は特にないですので、これだけで勘弁して見逃して下さい。お釣りは要らない代わりに、お礼参りはいつでも受け付けてあげますよ」
怒り狂って、敵がいる目の前で強力な攻撃魔法を展開し始めて隙だらけになってた苦労知らずなお坊ちゃんの隣まで、短距離限定の瞬間移動魔法【リープ】を使って一瞬で移動して、鳩尾めがけて拳を一突き。
「・・・・・・ぐふっ」
――それだけで片が付いてしまうザコだったので、派手な魔法を使う気には到底なれない。
一定時間は絶対に意識を取り戻さないよう殴る角度を調整してあるが、その代わりとして意識を取り戻したあとに後遺症は残らず、痛みは一切感じないで済む殴り方をしてある。受験にはなんらの悪影響も及ぼすまい。
「もっとも、魔王を目指していると自称する者が、強力な攻撃魔法を放つために隙だらけになってるようでは恥曝しもいいところかもしれませんけどね。
【暴虐な魔道師】を目指すならともかく、魔王になりたいのなら身体と戦闘技能の方も少しは訓練しておくことをお勧めしますよ。
・・・・・・と、この人が目覚めたときに誰か言っておいてもらって構いませんか?」
『ひぐッ!?(ビクゥッン!!)』
周囲で見物していたギャラリー共を、さり気なく巻き込んでやってから「じゃ、後よろしく」と誰一人文句を言いたくても言えない状況を作り上げた上で今度こそ悠々と学院の中へと立ち去っていく黒髪の少女と、まるで何事もなかったかのように終始無言のまま付いていくだけの銀髪少女。
――とは言え、後者のほうは心中それほど穏やかという訳でもなかったが・・・・・・。
(・・・・・・さっきの魔法は神話の時代に失われたはずの【転移魔法】・・・? いえ、それにしては距離が短すぎたし、魔法陣も発生していなかった。彼女のオリジナル魔法かなにかかもしれないし、どのみち試験のときにある程度はわかるはず・・・・・・)
そんな思考によって彼女は沈黙を守り、黒髪の少女は【当たり前の対応をしただけ】説明するほどの必要性を感じていなかったから、やはり無言のままだった。
『これより、入学実技試験を開始します』
やがて、学院内にある校庭みたいな場所に集められた受験生たちに向かって、ガイドらしい使い魔のフクロウが語りかけ、それぞれの生徒たちに割り当てられた個室に赴くよう指示されて、当たり前のように少女たちは各々の個室に向かうためバラバラになる。
『実技試験は、受験生同士の決闘です』
個室に到着した後、先ほど受験生全員に説明していたフクロウとは別の声音と喋り方をする、おそらくはこの部屋専用の説明役フクロウから試験内容そのものへの具体的な説明を聞かされた。
『敗者は不合格、五人勝ち抜いた者は魔力測定・適性検査を受けた後に魔王学院への入学を許可されます。あらゆる武具の使用が可能です。なにか質問は御座いますか?』
「・・・・・・一つだけ、質問をよろしいでしょうかね?」
説明を聞き終えてから、今の説明だと判らなかった中で唯一自分に関係しそうな箇所があり、その一点のみに付いて黒髪の少女は質問する権利と説明を求める。
「もし力加減を過って、殺すつもりはなくても対戦相手を殺してしまった場合には、失格になりますか?
それとも試験で殺されるようなザコに魔王学院は用がないからと、気にされない決まりになってたりとかするのでしょうかね?」
椅子に座りながら聞いた質問の答えは、『是』だった。
試合の勝敗は『どちらかが降伏するか行動不能になるか』で決められるため、『殺されること=行動不能』と判定されて合格となるらしい。
その回答を聞いて、黒髪の少女は軽く頷いて納得の意を示す。
「了解しました。では誤って殺してしまわないよう最大限の手加減をして試験に臨むといたしましょう。
・・・格好つけて殺して蘇生魔法かけて復活させようとした時に、また失敗して間に合わなくなったらシャレにならん・・・」
額に冷や汗を浮かべながら、四回に一回ぐらいの確率で『実在しないとされている蘇生魔法』を失敗してきた過去の苦い経験を思い出して、今日の晴れの日ぐらいは失敗する危険性のある難易度の高い魔法は全て使用禁止をマイルールとしておこうと心に決める黒髪の少女。
そんな風にして黙り込んだ少女を見つめながら、使い魔のフクロウが何を思っているのか、使い魔風情になにか思うことが出来るのかも判然としないまま時が過ぎていき―――やがて実技試験開始の時間が訪れる。
ワーッ! ワー・・・ッ!!
魔王学院入学試験の内、実技試験の決闘は学内に設置された円形闘技場の中で行われるものらしい。
周囲をリング上よりも数段高い位置にある観客席に取り囲まれた空間で、他の受験生たちが観客替わりに席について緊張した面持ちを浮かべながら眼下に現れた対戦者たちを見下ろしている。
黒色の壁と、入室してきた壁が消え去り勝負が付くまで外に出られなくする仕組みは、たしかに魔王城っぽい残忍で残虐な雰囲気を醸し出している場所ではあったのだが、しかし。
「・・・・・・どう見たって、見世物にされてる気分にしかならない位置関係ですよね、この場所の高低差って・・・。
っつか、娯楽の剣闘士奴隷みたいな戦いで優勝したヤツが入学許される、魔王候補者の育成機関ってなんじゃい・・・」
半眼になりながらツッコまざるを得ない場所と建築様式でもあったので、彼女の場合は普通に言う。最大限の配慮として小さな声でだけど、それでも言わずにはいられない。
一体この時代の魔王という存在は、どういうものとして定義されているのか本気で疑問に思えてきたのだけれど、誰か教えてくれないものだろうか? いやマジでマジで本当に・・・。
「よォ、また会ったなァ」
と、そこへ声がかけられたので、そちらを見ると対戦相手として一人の少年剣士がリング場に上がってきている姿が視界に写る。
褐色の肌に、白銀のハーフメイルみたいな防具を身に纏い、腰には赤い柄の曲刀を帯びており、髪型は銀髪のオカッパ頭。
「・・・・・・・・・????」
ハッキリ言って、『見覚えのない格好』をした少年だった。
「おっとォ、逃げられないのが、そんなに心配かァ?」
無言のまま「コテン」と首をかしげる仕草をしたのを都合良く解釈したらしい相手から嵩に掛かった嫌味ったらしい声がかけられる。
周囲を見渡してみると、なるほど、相手の言ったとおり自分たちが入ってくるのに使ったゲートも含めて四方に配置されていた門が緑色の魔力に覆われて消し去られていく最後の余光が視認できた。
「あ、本当だ。消えてっちゃいましたね。気がつきませんでしたよ」
「~~ッ!! て、てめェはつくづく・・・ッ!!!!」
特に他意はない発言だったのだが、先の発言を発した相手に気を遣ってやる義理もなかったため正直に素直な感想を口にすると案の定、相手は怒り出す。
そして、
「そのスカした面ァ・・・グチャグチャの泣きっ面に変えてから血反吐に沈めてやるよ・・・ッ」
と、放たれた次の罵声によって、相手が『誰だったか』をようやく思い出す黒髪の少女。
「ポン」と手を打ち、納得も露わに声を上げる。
「ああ、そうか。今ようやく思い出しましたよ。あなた今朝の校門で因縁をつけに来ていたチンピラさんですね?」
「なッ!? て、てめェ・・・まさかオレを忘れてたなんてことは言わねぇだろうn――」
「いえ、忘れてましたが。それが何か?」
シ―――――――――――――――ンと、闘技場内の観客たちが一斉に沈黙によって包まれる。
突然降ってきた重すぎる沈黙のムードに、むしろ一番困惑させられているのは黒髪の少女の側だったほどだ。
遅まきながら周囲をキョロキョロ見渡して、なぜ自分が相手を覚えていること前提で想定されていたのか本気を出して考えてみたけれど判らなかったので・・・・・・素直に、聞く。
「え、いやだって普通忘れるでしょう? 校門前で因縁つけてきただけで、掠り傷一つ負わされないままパンチ一発で倒せたチンピラ一匹のことなんて、その場が終わった後まで覚えている方が珍しいと思うのですが・・・・・・正直、今日中に再会してなかったら私もたぶん思い出せなかったと思いますし・・・」
「て、テメェ・・・ッ!! テメェテメェテメェテメェぇぇぇぇッ!!!!」
もはや怒り心頭に達しすぎて言語中枢にまで影響を及ぼし始めてきたのか、「テメェ」をひたすら連呼するだけで意味ある言語を成さなくなってきた相手の発言に対して「あ、そー言えばですが」と、黒髪の少女は呟いてから。
「泣き顔をしていると判別できる程度のダメージならば、グチャグチャにしたという表現は正しくないかと思われます。
原型がどんな形をしていたか判らなくなるほど滅茶苦茶に壊してしまった状態が『顔をグチャグチャにする』ということですからね。泣いて謝れる程度の軽傷では甘すぎます」
止せばいいのに要らぬ親切心を出しちゃって善意の忠告で相手を更に挑発してしまう黒髪の少女。
別に言わなくても良かったのだが、どーせ敵だし。これから戦って倒そうとしている相手に気遣いも何もない。
偽善の施しで得られるメリットなど『クズと見下す相手にも礼儀を守ってやる自分カッコイイ』という優越感ぐらいなもので、その手の感じ方とは無縁な彼女の場合はそれすら得られない。
「ついでに言えば、口から吐血させた血反吐だけではなくて、相手の全身にある穴という穴から身体中の血液を一滴残らず絞り出させて作り出させた相手自身の血の海に沈めてあげる方が見せしめとしては効果ありますよ? 敵対すると決めた相手を、泣かせて血反吐に沈めるだけで生かしておくのは中途半端というものです」
だから言う。言っても意味ないし得もないけど、損もしそうにないからだ。
余計な恨みを買うだけと言うなら、先に因縁つけてきて自業自得の撃退された相手から一方的に逆恨みされてる時点で遅すぎるし、理論も破綻している。道徳絶対主義者の現実を無視した詭弁には付き合い切れた実績が無い。
「ギぃぃッ・・・!! いつまでも減らず口をォッ!!」
そして案の定というか、当然のように相手も怒る。
自分は挑発セリフで相手を馬鹿にするのは当然の権利があると思い込んだまま、予想以上の反撃されることを想定しないで他人の悪口言ってくるヤツの行動に、道理とか整合性だか求める方が頭おかしいのでナンとも思わんからいいんだけれども。
「言っておいてやるがなァ、この【反魔の鎧】はどんな魔法も封じる一級品だ! 今朝のお前がどんな手品を使ってオレを気絶させたかは知らねぇが、もうその手は通じねぇ。
つまり、オレにお前は絶対勝てるはずねぇって言うことさ!!」
――あ、コイツ阿呆だ。・・・黒髪の少女は素直にそう思った。そう思うしかない発言だったから、そう思わざるを得なかっただけだけれども。
自分が負かされた理由もわからないまま、ただ『敵が卑怯なトリックを使ってきたから負けた。実力では負けていなかった』と言いたがる者は対策を練らないか、あるいは見当違いの対策しか練ってこれないという常識を知らないアホだと自白してきたからである。
(・・・と言うか、校門前のケンカとか言うルール無用の場外乱闘で、勝ち方に卑怯も王道もないような気がするのは気のせいなんですかね・・・? トリックだろうと奇襲だろうと勝てばいいのがケンカだったのでは・・・? この時代では違うのかな・・・。
つか、正々堂々正面からの力比べでの勝ちしか認められなくて、不意打ちトリックでの敗北はノーカンな魔王候補ってなんじゃい)
次から次へと“二千年ぶりの”ツッコミ疑問が湧きまくってきて頭痛くなってきた黒髪の少女。
・・・なるほど。たしかに今の彼は今朝の彼とは違って強敵のようだった・・・未だかつて自分にここまでの精神的疲労というダメージを蓄積させることに成功した者は片手の指を出るほどはいなかったのだから・・・・・・
【勝敗は、どちらかが行動不能になるかギブアップの宣言によって決します】
また使い魔フクロウが、レフェリー代わりに宣誓してから空高くへと飛び去って、逃げ去っていく。
巻き添え食らいたくないなら、普通に拡張魔法とかで解説席とかから全体に伝えればいいとも思うのだけれど・・・・・・まぁ皇族とかいる王制国家だし。メンツとか権威とか、気にするべきこと色々あるんだろう。“生まれてから数日”しか経ってないんで知らんけれども。
「行動不能ってことは――殺しちまってもいいってことだよなァ・・・ッ!!」
そして早速、ルールの盲点というか「当たり前の解釈」をわざわざ懇切丁寧に説明してくれるイイ奴なのかイヤな奴なのか、よくわからん不良少年の対戦相手クン。
腰に帯びていた剣の柄を掴んで握りしめるや即座に抜き放ち、その剣に込められていた魔法を発動させるため【起動ワード】にもなっている剣の銘を勝利の確信と共に叫び上げる!
「【魔剣ゼフリード】!!!」
持ち主の呼び声に目覚めた剣が即座に反応し、鍔元から赤黒い色に染まった禍々しい炎を吹き上げさせ、自らの黒刃の刀身に纏わせ覆い尽くす!!
ただ―――
「魔剣・・・・・・ゼフリード? え、ゼフ? あれ・・・?」
前提条件となる知識を共有していなかったせいにより、相手にとっては見た目より名前の方が混乱する原因になってしまっていたのは残念だったと言うしかあるまい・・・。
いや、剣には見覚えあるし、銘にも名前も聞き覚えがある武器なんだけれども。
・・・微妙に名前が違ってたような気もしてしまうのだ・・・。よく覚えていないのだが、【エフリート】とか【イヴリース】とか【イーフリート】とか、そんな感じに。
頭文字が“ゼフ”だったかなぁー・・・?と、他人が使ってた名剣の名前を久しぶりに聞かされて思い出すのに時間がかかっている知識多過ぎな長生きさん特有の現象だったのでどうしようもなし。
「そうだ! 皇族たる我がインドゥ家に受け継がれてきた神話の時代の産物だァ・・・!
オレの魔力を十数倍にも増幅させてくれる!!」
「・・・いや、そんなこと言われましてもな・・・」
考え込んでいた黒髪の少女に対して、次なる難題を与えることで思考の海から掬い上げてくれたのは対戦相手の不良少年だったという皮肉な現象。
別に武器の性能でブーストして格上の敵に勝つことが卑怯だと思ったわけではない。強力な武具を手に入れるには、それなりの力が必要不可欠であり、力の質が金であろうと権力だろうと力は力だ。
自分の持ってない力で強力な武器を手に入れて、自分に勝とうとするのは卑怯だなどと、弱者にだけ都合のいい詭弁でしかあるまい。
だが、しかし。
「剣の力で十倍まで魔力引き上げてもらわないと私には勝てませんと、正直すぎるカミングアウトをされても返事する方が困ってしまうのですが・・・・・・」
「なっ!? なぁぁぁぁッ!?」
困った表情での正直すぎる返答ダウトに、相手の方が今度は驚愕。
いやまぁ、実際問題『ドーピングしないとアンタには勝てないのがオレの本当の実力です』などという目的は、行動として実行しても口に出して言うべきではないのだ本当に。自分の言葉がブーメランにされて馬鹿にされるのに使われたくないとするならばだけれども。
「――とはいえ、正面から私に挑んできてコソコソ闇討ちしようとするのは卑怯だという弱者の気概は嫌いじゃありません。ですので特別に、ハンデをあげましょう」
「なんだとっ!? このオレにテメェ如きがハンデ・・・だとォ!?」
「ええ」
アッサリ頷いて、黒髪の少女は両手を広げ、まるで恋人の抱擁を待っている彼女でもあるかのようなポーズを取ると、
「貴方から先に一撃、斬り付けさせてあげましょう。首でも目玉でも、好きな所に斬り付けてきていいですよ?」
と、平然と相手に先制攻撃してくる権利を譲り渡してくる。
「なっ!? ふ、ふざけんな! その手には乗らねェぜ! 敵の甘い言葉なんざ信じ込んで、罠張って待ち構えてる所へ正直に突っ込んでってやるお人好しがいるものかよ・・・」
「別に罠を張るつもりもありませんし、その必要も無いでしょう? ただのサービスですよ、サービス。強者にのみ許された余裕って奴です。圧倒的に力の差がある相手から挑まれたときに魔王が取る態度として正しい対応の仕方だと思われませんか? ねぇ、暴虐の魔王の後釜を狙っている後継者“止まり”さん?」
「――ッ!!!! ・・・ゆ、許さねェ・・・ッ! 絶対に許さねェ!! テメェだけは絶対に! 絶対にこのオレの手で殺してやるゥゥゥゥッ!!!」
怒りでブーストされ、さらに魔剣ゼフリードとやらから吹き上がる黒い炎の熱量が増して自分との実力差がより縮まっていく光景を“高見から見下ろす強者の視点”で面白そうに見下した後。
「御託はいいから、とっとと斬りかかって来いよ腰抜けぇ。それとも何か? こっちから近づいてってやらないと自分から殴りに行く度胸すら湧かないのか? この根性無しのヘタレガキ。
たかが敵の張ってる罠恐れて飛び込んでくることもできず、デカい口叩くぐらいしか脳のない甘ったれたお坊ちゃんなら、尻尾巻いて逃げ帰らせてやるから早く帰れバカガキ。邪魔だ邪魔、目障りなだけだ。
敵の張った罠を力尽くで食い破って喉元まで食いちぎれる自信すら持てねぇザコ風情が、この私に挑もうなんて自惚れんじゃねぇよ!! ザコはザコらしく家でマスでも掻いてろ!
戦場はお前みたいなバカガキが遊びに来ていい場所じゃねぇんだよぉ!!」
これだけ挑発すれば、流石にそろそろブチ切れて全力以上の力で斬りかかってきてくれるカナーと期待しながら言ってみて、久しぶりの挑戦者に少しだけワクワクしながら待ち構えていたのだけれども。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(・・・・・・あれ?)
予想に反して、相手は黙り込んだまま俯いて反論の声一つだそうとせず、ただただ沈黙を保ってしまっている。
もし黒髪の少女が普通並の人間感覚、もしくは一般的魔族感覚を持っていたなら相手の少年が今、怒りを超え憎しみを超え憤怒も憎悪も超越した、負の感情の頂点に立つナニカに分類されるであろう感情論の極致に達しすぎてしまって声すら出せない状態にまで陥り、黙り込んで静かになっているのではなく『嵐の前の静けさ』になっているだけの心理状態にあることが察することができたかもしれないのだが。
「・・・・・・あの、どうかしましたか? ご気分悪いようでしたら棄権を認めますけども・・・? さすがに怪我人や病人相手に勝っても嬉しくないですから・・・」
生憎と、『戦場で倒そうとしている敵の気持ちに配慮するなど偽善』としか思っていない相手に、そんな一般論求めたところで無理であり不可能である。
もし求めるのであれば、剣を収めて先に働いた無礼を謝罪してからにすべきだっただろう。そうしたら多分、応じてくれたと思うのだけど逆にソレは不良少年にとって無理っぽそうな為。
結果的に、自然とこうなる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・コロォォォォォォォォッス・・・・・・・・・・・・・・・お前、絶対ブッ殺ォォォォォォォォッス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・おぉ・・・・・・」
大昔に色々やらかしまくってきた経験がある黒髪の少女でさえ、ちょっと引くレベルで狂眼になって、なにかもうヤバいレベルに達してしまったっぽい光を宿した瞳に正気はなくなり、言語機能さえ異常が生じ始める域にまで至れてしまった不良少年君。
見ると、手に持つ剣の柄から吹き出す炎の量と黒さと温度がさっきより遙かに増大しまくっている。三十倍ぐらいだろうか? ・・・なんか剣使わなくても剣以上の魔力を発揮できてる気がするんだけど、限界突破って大体こんなもんであろう。多分だけれども。
「死にヤガレェェェェェェェェェェェェェェェッッ!!!!!!!!!」
そして振りかぶり、斬りかかってくる速度も桁違い。最初っからその強さを発揮できていたなら多少はやる気を出してあげようという気になれたのかもしれないけれども。
しかし。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
残念ながら、戦いにおける戦力差なんてものは相対的なものでしかない。
たとえ自分が限界を超えて、本来発揮しうる力を三十倍にまで高められたとしても、ソレは所詮『自分の問題』でしかない。自分が強くなったところで『敵には関係ない』
「ウソ・・・だろ・・・なん、で・・・・・・どう、して・・・ッ!?」
急速に冷めていく熱狂、狂騒、発狂、憤怒の心。
代わって齎されるのは、ソレよりもっと性質の悪いもの――未知なるものへの恐怖心。
出来るはずのことが出来ない、起きるはずのことが起きてくれない。
勝てるはずの相手に勝てない。倒せるはずの相手を倒すことが出来ない。
殺したはずの敵が立ち上がってくる。死んだはずの相手が死なない。
そして・・・・・・
「なん、で・・・なんでだよ!? なんでゼフリードが当たったお前の身体は“斬れてない”んだ!?」
剣の刃が敵に当たっているのに、傷一つ付けることができない。・・・それは生まれ持った魔力の高さを絶対視してきた皇族の一員であるインドゥ家の彼には理解できぬこと。
絶対に理解したくない、自分が持つ血の優位性を根幹から否定する未知なる現象。
「そんなに不思議ですかぁ? 貴方の魔力を十倍にまで高めてくれる魔剣が私の身体を傷つけられなかったことが・・・」
「ひっ!?(ビクゥンッ!?)」
「簡単な理屈ですよ。自分の魔力を高めた炎で敵を斬る威力が上がるのだから、敵の魔力が自分の高めた魔力よりも遙かに高すぎてしまえば相殺されて無効化される。
魔力を高める以外に剣の性能自体が余程高くない限り、高めてもらった魔力が消えてしまった後にはナマクラ並の威力しか保つことが出来るわけもない」
「・・・・・・(ガクガクガクガクッ!?)
「まっ、要するに一言で纏めてしまうのであるならば」
面倒くさそうに右手で頭をかいて、左手を腰に当てながら、袈裟懸けに相手の刃を浴びせられた“だけ”で、掠り傷一つ負わされていない無傷のままな生身の肉体を見せつけながら、自分より高い位置にある青ざめた相手の顔を冷めた瞳で平然と見下し。
「私に比べて貴方は弱すぎるってことですよ」
「・・・・・・ッ!!!!」
「雑魚しかいない場所で最強だっただけのボス猿は、強敵しかいない場所だと標準以下のザコ以下に成り下がる。それが強さと弱さというものであり、自分の尺度など自分が測れるレベルの強さしか持たない相手までしか適用しようがない。
・・・本気で魔王を志すつもりがあるなら、その程度の常識は理解しておくことをお勧めしますよ。それができなけりゃ知らずに強敵と出会ったことも理解できないまま殺されて終わるだけですからねぇー」
「は、ハッタリだ! ハッタリも大概にしろよゴラァッ!?」
突如として息を吹き返し、ついでに言えばプライドが高かっただけな元の状態まで取り戻しちゃって大幅に憎しみと怒りの魔力を激減させまくりながら、それでも強気な挑発だけは続けたがる不良少年皇族くん。ある意味では魔王に相応しい気位の高さと言えなくもない。
「そ、そうか。この【反魔の鎧】を突破できないから言い訳をしているんだな・・・? だが無理もない、この【反魔の鎧】はどんな魔法も封じることができるのだからな。どうやら貴様は肉体のみ突出して優れていて、戦う魔法は持っていな―――」
「えい」
「い―――ってぶべはへはぁっ!?」
剣で身体を斬り付けてきた姿勢のまま、目の前でギャーギャー喚き続けて隙だらけになってた相手の鼻っ柱に魔法使わず物理攻撃の【デコピン】ぶつけて吹っ飛ばしてあげて、元の試験開始位置まで戻してやり。
「では、あらためて仕切り直して試験再開といきましょうかね・・・・・・」
戦いの始まる前まで戻してやって、今までのを全部『なかったこと』にしてあげる。
流石に無様すぎる内容だったし、相手の方でも認めたくないらしい実情でもあったようなので、これぐらいが落とし所かと割り切りながら。
「とは言え、私は弱い者イジメをするのが余り好きではないのです。他人から同類だとか罵られるのは一向に構わないんですけどね? 自分からやるのは好きではない」
「テメェ・・・!! まだ性懲りもなく減らず口を!!」
「――ですので、こういうルールにして貴方にも勝ちの目を作ってあげましょう」
相手の恨みに満ちた罵り言葉を、宣言通りに完全スルーして気にもせず、マイペースに自分の言いたいことだけ相手に伝えて皮肉な笑みを不良少年に向ける黒髪の少女。
「これから私があなたを攻撃して降伏させられたら私の勝ち。それが出来なかったときには全て貴方の勝ちということにして私の方が降参してあげるのです。・・・どうですか? このルールは。
乗っていただけませんかね? デコピン一発で尻餅つかされてる負け犬さん」
「ハッ! だったらギブアップさせてみろよ! どうせ貴様は強制の魔法さえ使うことのできない筋肉バカのカスだろうからな!! 契約書はどうす―――」
「必要なし」
ドゲシッ。
可愛らしい打撃音を響かせながら黒髪の少女はまず、相手に近づいてから蹴り倒して隙だらけの状態にさせた後。
グシャッ。
―――下手に動いて狙いを外さずに済むよう、右足の骨から踏み砕く。
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!? 俺の足!? 俺のアシ、がぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「五月蠅いですねぇ・・・たかが足の骨が一本折られたぐらいで子供みたいにギャーギャーと・・・失って惜しいと思うならサッサと生えさせるなり、再生させるなりすりゃいいだけでしょうに面倒くさい・・・・・・」
別に無茶ぶりしているつもりもなく、『魔王なら普通にやってたこと』を相手にも求め、それを相手にとって不可能事とは露とも思わぬ心理で平然と『相手にとっての無茶ぶり』を『自分の時代にとっては常識だったから』という理由だけで求め続け、押しつけ続ける【大昔に悪逆非道】と特に『極悪人共から』恐れられていたこともある黒髪の少女。
「げふっ!? ぶべほっ!? ぐげはっ!? ちょ、おま・・・契約書がまだ交わされてな・・・・・・!?」
「勘違いしないで下さい。私は貴方に勝ちの目がでるよう“恵んであげた”だけのことです。這いつくばって感謝されこそすれ、対等の立場で要求を求められるべき正当な理由も、応じてあげるだけの義理も同情心も一切もってはおりません」
「ぐべばっ!? ぶべばっ!? ひでぶッ!? ひぎひぃぃぃひぃぃひぃぃひぃっ!?」
「貴方はただ、有り難がって耐え続けてさえいればそれで宜しい。耐え続けられたなら、そのクソ度胸に免じて勝利を“譲ってあげる”と言ってあげているのです。素直に感謝しておきなさいよ・・・・・・コッチだって正直、殺さないよう手加減するため最大限まで力抑えて蹴り続けるのも結構心理的にくるモノあるんですからさぁ・・・・・・」
「ぶべぶっ!? げばぶっ!? ひぎゃはぁぁはぁぁはぁぁぁはぁぁはぁはぁッッ!?」
・・・・・・こうして、試験とは名ばかりの審判が職務放棄したとしか思えないルール合ってなき試合モドキが本当に単なるリンチの場と化してしまって、殺さないよう手加減した攻撃を受けさせられ続けたインドゥ家のお坊ちゃんは―――逆説的に『死ぬこともできない状態』で延々と蹴られ続け、骨を折られ続け、全身の骨を命に別状が出ないものは全て折られ尽くした頃。
ようやく暴虐の魔王候補を育成するための教育機関に入学するための試験場で行われていた、受験生に対する受験生の暴虐は終わりを迎えられ。
「・・・ふむ。これだけ食らわされても降伏しないとは・・・中々根性がありますね。よろしいでしょう。約束通り、私の方が降伏して差し上げます。
――この最後の一撃を試練として見事乗り越え、次の魔王へと至る階梯の最初の一歩を踏み越えてお行きなさい・・・・・・」
こうして試合結果は。
「・・・オレの負け・・・で・・・・・・いい、デス・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・あれ?」
小首をかしげながらも、黒髪の少女の勝利で幕を閉じたのだった・・・・・・・・・。
そして、最初の戦闘試験合格者のみが受けることができる魔力測定も終えた後。
・・・・・・遂に、待ちに待たざるを得なくされちまってた筆記試験ならぬ、【適性検査】を受けるときが訪れる・・・・・・。
『次は適性検査をおこないます。暴虐の魔王を基準とした適性を測り、知識の確認を行います。
言うまでもなく、魔王学院は始祖の血を引く魔王族だけが入学を許されます。そのため魔王族で魔王の適性がないと判断された者は一人もおらず、適性検査は入学を左右するものではありませんが、入学後の皆さんには大きく影響するものとなります。くれぐれも気を引き締めて油断することなく試験に臨まれることを推奨します』
使い魔のフクロウによる、有り難すぎて涙が出てきそうなほど、自分がこの学園に入学を希望しても優等生にはなれなさそうだった理由について再説明してもらい、ゲンナリしながら検査用の魔法陣へと入ってゆく少女。
あまりにも気落ちしすぎて、サーシャとかいった銀髪の少女とまた一緒になっていたことも忘れ、「じゃあ・・・」と声をかけられたときにも返事でなに言ったのいか覚えてないほどローテンションで前に進み出て魔力の光に包まれてから―――待ちに待たされてきた声が掛けられる。
『質問を始めます。――始祖は名前を呼ぶことさえ恐れ多いとされていますが、その本名をお答え下さい』
「・・・アノス・ヴォルディゴード、です・・・」
もう、1問目の時点で問い方がおかしいことに頭痛を感じさせられながら、眉をヒクヒクさせつつも質問内容自体は普通だったため何とか我慢して平静に回答し。
『神話の時代、始祖がジオ・グレイズの魔法で祖国ディルヘイドを焼いたのは何故か?』
「・・・え? そんな風に伝わってるんですか? あの事故が・・・」
2問目にして早くも諦めの極致に達しさせられてしまったことから、完全に手詰まりとなってしまって適当に答えて、次の3問目。
『力はあるが、魔王の適正に乏しい娘と、力はないが魔王の適正に長けた息子がいたとする。二人が死にかけていたとすれば、どちらを救うべきか? この時の始祖の考えを述べよ』
「・・・長子存続が前提にないと出題されることさえ有り得なさそうな質問ですね・・・」
しかも二択で救う方を選ばせた後に、救った理由について説明させるとか言う露骨すぎる男尊女卑を正当化する誘導尋問問題が、【暴虐の魔王の後継者を育成する学園】に入学する者として相応しいか否かを判定する試験で普通に出てしまうという凄まじすぎる現代事情。
「・・・・・・こりゃ、運任せで答えて半分ぐらい当たってたら、めっけもんかなぁ~・・・・・・」
一体この魔界は、人間界に存在していたどこの後進国の猿マネしているのかと疑問に思いながら答えながら。
黒髪の少女が頭ではなく、心の中で思い描いていた光景はまったく異なる別の景色。
・・・・・・そこは陰鬱な場所だった。
本来だったなら、荘厳でなければならない場所であり、少なくとも敵対する片方の陣営にとって見れば誰もが憧れ、万民が平伏し平伏させられ、ごく自然に胸の内から尊敬の念やら畏敬の想いやら、あるいは反逆の意思とかが向けられていてもおかしくはない、そんな場所。
だが今、その場所からは陰鬱さしか感じられない。
【死】が満ちているからだ。満ちすぎているからだ。
数多の人を殺め、魔族も殺し、神々すら幾柱も処刑した【暴虐の魔王】しか存在することを許されなくなってしまった魔王城に、陰鬱さ以外のナニが居るべき資格を許されるというのだろう・・・?
「和睦、だと・・・?」
そんな地獄に招かれた、唯一の客人だからこそ【魔王の敵たる勇者】には信じられるはずもない。
「今更そんな言葉を信じられると思うのか? 魔王アノス・ヴォルディゴード!」
「・・・・・・」
相手からの拒絶に対して、発言者であり和睦の提案者自身はなにも言わない。
予期していた答えだと言うかの如く平然としている。
・・・あるいは、『予想通りのつまらない答え』を聞かされて失望させられたかのような白けきった表情を浮かべたまま、黙って自ら招待してやった勇者からの糾弾に耳を傾けてやり続ける。
「貴様はこれまで、どれだけの人間を殺してきたと思っているんだ!? お前の手で、どれだけの国と人々が苦しめられてきたか判っていて言っているのか!?」
「・・・・・・はぁ~~~~ぁ・・・・・・」
勇者からの正義と義務感と人類愛に満ち満ちた糾弾という『百万人が一億回ぐらいは口にしたことがある一般論』に、いい加減辟易させられたという本心を隠すことなく、隠す気もなく魔王と呼ばれた黒髪の少女は平然と「人間界のお約束」を無視して勇者たちにハッキリと物申す。
「貴方も飽きませんねぇ-、その言い分。『自分たちの味方が今まで敵にどれだけ殺されてきたか~』なんて、敵を絶滅するか降伏して支配下に加わるかしか相手との共存する道断つときの常套句でしかないってこと、ま~だ判ってないんですか貴方は? それとも勇者という立場上、判っていても言えないから形式論唱えているだけなんですかねぇー? 『世界を平和にするため戦っている』『魔王を倒すべき使命を押しつけられた勇者様』」
「・・・っ!? ま、魔王! それは―――ッ」
「私と貴方たちだけで取引しませんか?」
昔も今と変わることなく、決まり切ってる相手の話など聞く気がなく、耳も傾けず、適当に無視して話を進めて要件だけを告げてきて相手に答えを迫るお決まりの手法。
「・・・・・・なに? 取引だと?」
「そ。私と貴方たち三人パーティー、その全員が死んで命を捧げれば魔界と人間界に精霊界と神界、今の世界を四分割して壁で隔てさせる大魔法が発動可能になります。少なくとも1000年ぐらいは完全なる壁の強度で在り続けられるでしょう。
それによって異なる種族間同士の争いは起こしたくても起こせなくなる。・・・どうです? 私としては悪い取引ではないと思うのですけどねぇ・・・?」
「・・・・・・」
魔王から持ちかけられた取引に対して、勇者からの返答はない。即答での拒絶もなければ、躊躇いながらの反問も質問もない。
単に思考が纏まっていないだけなのだろう。あるいは相手からこんな提案を持ちかけられるとは想像もしていなかったから混乱しているだけなのか・・・・・・どちらにしろ答えを急ぐ類いの質問ではないので相手が答えるのを気楽に待ってやってて構わないのだが。
とは言え暇だったので、一応は意図を説明しておいてやってもいいだろう。
「人間は・・・と言うより人間の庶民たちは私を倒せば世界が平和になると疑ってないみたいですけど、あなた方はどうなんでしょうか? 王や生臭坊主たち腐りきった権力者共の戯言を本当に信じたままでいらっしゃるのですかねぇ? えぇ? 人と世界を救うべき勇者様」
「・・・・・・」
「人間と魔族、どちらかが勝って、負けた方が根絶やしにされたところで終わるのは魔族と人間との戦いだけ。
たとえ魔族が勝って人間を根絶やしにしようとも、今度は魔族同士で反乱だの内紛だの戦争だのが起きるだけ。
逆に人間が勝ったところで、戦う相手の種族が変わるだけで戦争の形態自体が変わることは決してないでしょう。魔王が率いる魔族軍相手に行っていた戦争が、敵国の王が率いる敵対国家相手に名札と種族が変わるだけ。
もしくは自分たちの信じる神と違う神を崇めてる人間たちの崇拝する対象を魔王と呼んで罵って、その人たちを絶滅するための戦争が始まるだけでしょう。精霊でも神々でも名札は何でもいいのかもしれませんけどね。・・・・・・違いますか?」
「・・・・・・・・・・・・確かに人には弱い部分もある・・・」
苦すぎる薬を飲まされたときの表情を浮かべ、それでも勇者は心の底から信じている想いと信頼を言葉にして魔王に返さずにはいられない。
『人の優しさ』を否定されたときには擁護する言葉を放たずにはいられないのが彼であり、それ故にこそ彼は勇者なのだから。
「だが俺は人を信じたい! 人の優しさを信じたい!!」
「尊い理想であり、気高い信念ですねぇ~。・・・そして、それ故に底が浅くもある」
そして勇者が勇者として貫くべき信念と正義を貫き通したのだから、魔王もまた同じことをする。それぞれに敵対し合う立場の頂点に立道を選んだ者同士として互いが相容れる事は決してない。
「一人一人の『個人が持つ優しさ』を信じることには賛成致しましょう。ですがそれを人類全体に、この世界に生きとし生ける全ての人間たちに同じ感情を持つことを、貴方は要求するつもりなのですか?
自分と同じように全ての人が『全ての人たちに優しくなれるようになれ』と。自分と同じように悪を許さず『善行だけを行える人間だけになれ』と。正義と正しさの独裁者になるのが、そんなに崇高であり嬉しいですかぁ? 私にゃ理解できない思考法なのですが?」
「なっ!? それは違―――ッ」
「―――と、事ほど左様に私たちは違いすぎて解り合える余地がない・・・」
またしても魔王は相手の言葉を聞かずに遮り、さっさと話を進めてしまう。
どーせ聞いたところで無駄だと分かり切っているからだ。勇者は決して自分の理屈を受け入れることはないだろうし、自分もまた勇者の言葉を・・・少なくとも全面的に正しいと認めてやる気にはなれそうにもない。
異なる価値観、異なる価値基準、異なる善と、敵対し合う思想と思想。
・・・・・・だが、それでいいと魔王は思う。
それがいいと黒髪の魔王には思えるのだ。
「貴方が勇者で、私が魔王だから信じられないと言うなら信じなくて構わない。私は私の目的を達成させたいだけのこと。
この命の全てを魔力に変えて、更には貴方たちと力を合わせれば、その目的が達成できそうだから貴方たちの命を利用しようとしているだけなのですからね」
「・・・・・・」
「ですから貴方たちも貴方たちの都合で私の命を利用すれば、それで宜しいでしょうよ。
魔王は魔王、勇者は勇者。共に天が仰げないのと同じように、見ているモノ、尊んでいるモノが違いすぎている。
互いに理解し合えずとも、同じ目的のため共闘できる機会ぐらいは合ってもいいと思うのですがね・・・・・・」
「平和のために死ぬというのか?」
「貴方の解釈は貴方の勝手で、ご自由にどうぞ。それで納得して一緒に死んでくれると言うのでしたなら、私に異論も反論もありません。
どーせ魔王が言った言葉なんて勇者が信じてやる義理も理由もない代物ですからね・・・・・・断られたとしても恨みぁしませんし、今ここで決戦して殺すこともしやしません。全ては貴方の自由であり選択次第ですのでお好きにどーぞ」
「・・・・・・」
どーでも良さそうに足を組み替えながら、適当な口調で説明を終えてから魔王は、思い出したように『生まれ変わりについて』も説明しておく。
自分たちの魂的に強大すぎる存在のため、普通の人間や魔族と異なり一度死んだだけで消滅したりすることはないし、たとえ全ての命を魔力に変えて使い尽くしたとしても復活するまでの期間がベラボウに長くなりすぎるだけで転生自体は確実にすることができるだろうと。
「まぁ、ざっと概算して次に転生できるのは二千年後といったところでしょうかねぇ?
勿論それまでの間は輪廻の輪からも外れて、普通の生物のように何度も色んな人生を送ることはできなくなっちまいますから、それは嫌だと思う気持ちを罵倒するつもりもないのですけれども―――」
「・・・・・・・・・わかった」
今度は勇者が魔王の言葉を途中で遮り、聖剣の柄に手を掛けて―――そして抜かない。
「お前を信じてみよう」
「・・・信じてくれなくていいと言っておいたんですけどねぇ・・・つくづく義理堅い人だ。
――とはいえ、助かるのは事実ですのでお礼を言っておきましょう。ありがとう御座いました」
口調こそ雑なままではあっても、先ほどまでとは言葉に込められた想いが違うのを実感させる言い方をして魔王は玉座を立ち上がり、階下から見上げてくる勇者に視線を合わせるために見下ろす位置から降りてくる。
「魔王に礼を言われる日がくるとは思わなかったな・・・」
「そうなのですか? コチラは最初っから魔王とか勇者を職業としか思ってなかったから気楽なモノですが」
そう言い合って、互いは互いに儀式を始めて魔力を込め合い。
そして儀式を完成させる締めくくりとして、勇者は魔王の心臓を聖剣で穿ち、魔王は抵抗も防御も回避もすることなく、その一撃によって己の心臓を刺し貫かせる。
その場にいる四人だけでなく、魔王城の広大な敷地全体を飲み込みながら光の柱が包み込んで天へと昇り、世界を四分割させ壁で隔てる大魔法が発動してゆく・・・・・・
光に包まれ、光と共に、光の粒子となって消え去る寸前。
魔王を倒すために旅をし続け、最期には魔王と共に死ぬことによって人間界を救った勇者は・・・・・・ずっと疑問に思い続けていた問いかけを魔王に尋ねて旅の終幕を迎えさせる。
「・・・・・・魔王アノス・ヴォルデゴード、お前はなぜ魔王になったんだ・・・?
『人間として生まれたお前』が、一体なぜ魔族たちを束ねる前魔王を殺し、新たなる魔王となって人間の国々との戦争を続けさせてしまったんだ・・・・・・?」
そう、それは勇者として旅を続ける中で聞き知ってきた噂を断片的に繋げながら、遂に至ることができた勇者だけが知る魔王の正体。
その種族は『魔族』ではなく、かつては『人間だった者』という驚愕の真実。
それどころか、先代よりも更に前の魔王の時代に魔族が優勢となったとき、魔王を倒すために選ばれた勇者パーティーの一人として筆頭候補に上げられていたほどの伝説的大英雄。
その彼女が何故、勇者パーティーに参加することを拒みながらも魔族を倒し続け、遂には当時最強と謳われていた魔王を倒しながらも人類を救わず新たな魔王として君臨し、偽名を名乗り、『男の名を持つ女魔族の魔王として』人間の国々との戦争を続けさせながらも魔族の中で極悪非道と名高かった悪名高い者たちを幾匹も処刑し続ける恐怖政治を敷くようになるまで墜ちてしまったのか・・・・・・と。
その答えを聞いてから死んでいきたいと、そう思ったからこその勇者から人生最期の質問は、だがしかし。予想外の答えによって報われることになる。
「9万9千八百二十二匹です」
「・・・・・・は?」
いきなり数字だけを答えられてしまって、予想通りの答えだったと思う方が珍しそうだけれども。・・・なんの数の話しだろうか?
自分が今まで殺してきた人間の数・・・として場合には少なすぎるし、滅ぼしてきた国の数では多すぎる。・・・いや待て、そもそも『匹』って数え方はもしかしなくても・・・。
「昨日までの時点で私が殺してきたクソミソに気分の悪くなるクソ野郎だった魔族幹部の数ですよ。
あまりにも気色の悪いクソ野郎な連中でしたのでね。忘れたくても忘れられなくて覚えちゃっているのです。ちなみに人間はそれより少しだけ少なくて9万9千八百飛んで二十人でした」
「・・・・・・・・・」
「お分かりですか? 私はただ、殺したかったのですよ。余りにもクソミソに気色の悪い、ソイツが生きていると思うだけで吐き気がしてきそうなほど大嫌いなクズ野郎共を一人残らずね。
ソイツらを殺し終わったから、この世界にはもう未練がない。種族が違うからと言うだけを理由に、身内のクソ野郎を生かしたまま敵対種族のイイ奴と殺し合うのは仕方がないなんて屁理屈が通用する世界なんて虫唾が走る」
「・・・・・・・・・」
「だから終わらせたかった。完全に別けてしまいたかった。殺し合いたいのなら自分が相手を殺したいと願ったエゴだけで殺し合う、種族だの違いだのを言い訳に使えない世界にしてしまいたかった。・・・それが私が魔王になって戦争を続けさせてきた理由ですよ・・・」
「ま――あ――――」
魔王の魔王による、生まれて初めての思いがけない動機を聞かされ、勇者は自分がなにを思い、なにを答えとして言葉を掛けようとしたのかさえ分からないまま二人揃って消滅してゆく。
その答えを伝えられるのは二千年後。
その答えを聞くことができるのもまた二千年後。
今はただ、二人はすれ違ったまま、解り合えぬまま、互いが互いを理解せぬまま、なにも知ることができないままに。
ただ共に死んで消滅していき、それが人と魔族の戦争を終わらせる奇跡の光となって伝説と化す。
魔王の思いを始めて聞いた勇者が、如何なる答えを出し、如何なる言葉を黒髪の少女に掛けるのか? ・・・・・・それもまた答えを得られるのは二千年後の問題。
答えを急ぐ類いの問いかけではなく、考えるべき時間は二千年もある質問なのだった・・・。