試作品集   作:ひきがやもとまち

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『魔族社会不適合者』の後篇です。本当だったらアッサリ書いてサッサと済ませてエロ作を書こうと思っていたら長くなりすぎてしまって途中で辞められなくなってしまっただけの代物ですので期待はしないでくださいませ。特に途中からは自信完全になくなってる出来ですからね。本当に…。
もう少し計画性を持つべきだったと後悔しながら大いに反省もしております……。


魔王学院の魔族社会不適合者 第2章

 ゴーン・・・、ゴーン・・・・・・。

 魔王学院ヘルゾゲートに鐘の音が弔鐘のように鳴り響き、入学試験が終了したことを街の者たちに告知している。

 夕闇に染まりつつある空に弔鐘のごとく鳴り響く鐘の音は不吉極まるものであったが、知らせている内容は超エリート名門校の入学試験終了と合否の結果をもらった生徒たちの帰宅であり、吉報なのか凶兆なのか鐘の音までよく分からない学校。それが魔王学院ヘルゾゲートであった。

 

 さて、そんな中。

 二千年前に崩御した魔王が復活する記念すべき年に、次期魔王の後継者を育て上げるため設立された学院の入学試験を受験した『復活した本物の魔王ご本人さま』はどうしていたかと言うと。

 

 

「・・・あ~、良かったー・・・。本当に良かった~・・・。なんとか受かりましたわ、九割方ダメだと思ってたのでマジでホッとしましたわ、いや本当に・・・」

 

 ゲッソリとした顔で昇降口をくぐりながら出てきて、一回だけイヤそうに校舎を振り返ってから軽く身震いして背を向ける。

 その仕草からは、『もう二度と同じ試験は受けたくない・・・』と思っていることが言葉よりも雄弁に伝わってくるほどで、こういう時によくある「いや俺マジ自信ないってマジマジ」とか言ってきてる実際には自信ありまくりの勉強しまくってからテストに臨んできてる格好つけ学生のそれとは違ってマジモンであることが誰の目にも明らかなほど憔悴しまくっているものであった。

 

「・・・まさか、あそこまで事実を美化して史実として語り継いでるとは想像の埒外でしたからねぇー・・・。当たってること期待して適当なウソを答えるぐらいしかやりようなかったですし・・・。

 魔王が復活する年に、本物の魔王がサイコロ転がして答え選ぶ方式で試験受けて落第してたら洒落にならねぇところでしたし、マジで良かったー・・・・・・」

 

 本気で洒落にならない可能性上ありえたかもしれないIFの未来について独り言ちながら、黒髪の少女はトボトボと今朝きた道を逆にたどって、光と闇に沈んでいく暮れなずむ街の中へと戻っていく。――戻っていこうとしていた。

 

「・・・あれ? 貴女たしか・・・何してるんですか? こんな所で・・・」

「待ってた」

 

 校門を出たところで、門に寄りかかりながら一人の少女が茫洋とした瞳で夕空を見上げているところと鉢合わせしてビックリして、それが今朝あったばかりの少女だと気づいて二度ビックリさせられる。

 オマケに、問いかけに対する答えの内容がよくわからない。待ってたって・・・何を? そして誰を?

 

「・・・ひょっとして・・・・・・待ってたのって私だったりしましたかね・・・?」

「ん・・・。“あとで”って言ってたから・・・」

「・・・・・・・・・あ~~・・・。それはまぁ・・・、たし、かに・・・?」

 

 周囲に今朝見かけた騒がしいオジサンの姿がなく、と言って誰か別の知り合いに心当たりもいない出会ったばかりの何も知らない少女に対して、ナンパか何かかと勘違いしてくれたら話題切り上げて帰れる口実に使えそうだと思って言っただけの言葉で見事に墓穴を掘ってしまい、言葉に詰まりまくる二千年前の旧魔王様な黒髪の少女。

 

 確かに言った。言ったときの記憶がある。

 ・・・ただ根本的な話として、別のことで頭がいっぱいなときに『テキトーな返事をしてお茶を濁しただけの記憶』としてであり、わざわざ試験終わった後に校門前で待っていてくれた相手に対して教えていい真実とは正直言ってまったく思えない。

 

「そうですね・・・それじゃえっとぉ・・・、近くで買い食いでもして二人だけの合格パーティーでも祝してみます・・・?」

 

 なので、取り敢えずそう言ってみた。

 真実を告げるのが間違いだと解ったところで正しい対処法が解るという訳でもなく、どっちかが間違いなら反対側は正しいなどと言うほど世の中は二元論でできてもおらず。

 別のことで頭がいっぱいだった時に、『テキトーに返事しただけの言葉』を今さら深い意味合いなど付与できるわけもない。

 もし仮にそれが出来たならば、そいつはある意味で魔王に相応しい才能の持ち主と言えるのかもしれない。『純真な乙女をたぶらかす悪い魔族たちの王』という意味合いでは間違いなく魔王っぽいあくどさを持っていると言えなくもない。・・・変態スケベ親父っぽいとも言えるけれども。

 

「・・・私と?」

「ええ。もちろん貴女さえ良ければの話ですけどね」

「・・・・・・いいの?」

「・・・・・・いや、聞いているのは私の方のはずな質問なんですけどねコレって・・・」

 

 なんか相手との会話に違和感というか、噛み合ってない部分を感じさせられながら、黒髪の少女は「出会ったばかりで何も知らない相手同士だとこんなものか」と割り切った気持ちで手のひらを上に出して片手を差し出し、

 

「よろしければ、お手をどうぞ。ミーシャ・ネクロンさん、エスコートさせて頂きますよ?」

 

 片目を閉じてウィンクしながら気取った仕草で一礼をする。

 一応は、生まれ変わった先の今生における両親の待つ我が家まで招待するという選択肢も考えてみたのだが、生憎と田舎である。

 一人寂しく上京してきて受験した苦学生の黒髪少女にとって、今の我が家は安宿の一室であって、とても見目麗しい年頃少女を招くのに適した環境だと思うことは出来ない。

 つい昨日と一昨日も自分みたいなチンチクリンを襲って売り飛ばすために何組かのチンピラたちが返り討ちにされにきたばかりであり、ソイツら自身の命の代価を自分たちで決めさせて脅し取ってやったばかりでもある。

 

 犯行現場に純真そうな年頃乙女を招待するのは、さすがの旧魔王様でも気が引ける。

 何より自分は、クモの巣張ったカビ臭い城のなかに初体験まだの処女を集めて乱交パーティー開きたがるヘンタイ吸血鬼どもとは種族が違う元人間で現魔族であり、性的な意味合いでの倫理観が異なっているのだ。

 無表情で茫洋としてはいるものの、胸が大きくてトロンとした瞳の庇護欲をそそらされる少女を見ると、敢えて穢したいと思うのは変態臭くて嫌だと思える程度には人間の十代乙女らしい価値基準が残っており、普通に対応して普通に楽しませあげるのが無難かなと思える程度には常識人なつもりであった。

 

 魔王が常識を語るというのも変な話だとは思うのだが、常識無視すりゃなんでも魔王らしいと言うわけでもないし、全裸でたいまつ持って踊り狂えば常識は無視できるけど単なる変態になるだけだし。

 破りたいわけでもない常識だったら守ったところで別に良かろう。そう考えた末の結論から来る行動であった。

 

「・・・行く」

 

 やや戸惑いながら返事をするまでに時間がかかったものの、誘われた少女ミーシャ・ネクロン個人の気持ちとしては承諾以外の選択肢はことの始まりから一つもなかったため、差し伸べられた手の平のうえに自分の手を乗せ、手を取り合い、二人の少女は互いの受験合格を祝い会うために夕暮れに染まって夜が近づいてきた町中へと遊びに繰り出していくのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 ―――が、しかし。

 再び根本的な話として、生まれ変わってから数日しか経過してない現代知識ガキ以下の少女魔王に案内できる町中施設など、歩いてる途中で見かけた屋台や飲食店ぐらいしかある訳もなく、経歴と受験した学校を除けばフツーの女子学生二人連れが学校終わって買い食いしてるだけの状態になってしまい、余計に魔王らしさがなくなってしまっている気もするのだが。

 

 別に魔王らしくなりたくて魔王になったわけでもない魔界の始祖こそが、暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴートの真相だったのだから別にいいと言えばいいのかもしれないし、悪いのかもしれない。どちらでもいい。

 どちらだろうと、自分に批判的な奴らの反対意見で自分が変わってやる義理も理由も一切持ち合わせてやる気が少しもない旧魔王様にとっては本気でどうでもいい事柄だったことだけが彼女にとっての事実だったから・・・・・・。

 

 

 

「すると、今朝見かけたミーシャさんを応援していたオジサンは、貴女の実のお父さんではなかったのですか?」

 

 夜のとばりが降り始めて薄暗くなってきた公園を歩きながら、黒髪の少女が隣を歩く銀髪の少女ミーシャ・ネクロンを驚いた顔で見つめ返しながらオウム返しに尋ね返す。

 一通りの屋台と店舗を買い食いし終わり、時間も遅くなり始めてきたから家まで送ってやろうと提案して承諾され、彼女の自宅まで近道になりそうな公園の道を横切りながら今日最後の世間話をしているときに、相手の少女から少しだけ家庭の事情を聞かされて僅かながら驚かされたのが、その理由だった。

 

「うん、違う。お父さんじゃない、親代わり」

「・・・実のご両親について、お伺いしても?」

「いる――けど、忙しい。お姉ちゃんは騒がしい」

「ふぅ~ん・・・?」

 

 曖昧な家庭の事情を聞かされてしまって、今日出会ったばかりで行きずりの他人として微妙な心地になりながら、軽く夜空と赤みを帯びた満月を見上げながら短く唸ってみせる黒髪の少女。

 

「・・・・・・心配?」

 

 そんな風にして空を見上げている、自分の隣を歩んでくれている黒髪の少女に対して、何かしら期待するものがあったのか無かったのか、銀髪の茫洋とした瞳の少女ミーシャ・ネクロンは意図するか否かは判断しがたい質問の言葉を発して相手の答えを待ち。

 

「人並みにはね」

 

 という、詳しい事情を知らぬ赤の他人が言える範囲の言葉で自分の気持ちを伝えてきてくれたことに対して、

 

「やっぱり、優しい・・・」

 

 と、柔らかく笑顔を浮かべて薄ら微笑むミーシャ・ネクロン。

 

「優しい? 私がですか? ・・・そんな言葉を言われたのは久方ぶりな気がしますね~、いや懐かしや懐かしや」

 

 昔を思い出し、懐かしい記憶と共に色々と言われてきた遠い過去を振り返りながら軽く笑い飛ばす仕草をしてみせる黒髪の少女。

 そんな相手の反応にミーシャ・ネクロンは、「じゃあ何て呼ばれてたの・・・?」と流れ的に当たり前の質問をして、唇を露悪的に歪めながら発せられた答えを得る。

 

「『お前が生きていると、この世のためにはならない』だの、『鬼、悪魔、外道』だのと平凡極まる悪口のバリエーション違いを千個ほど。地方限定悪口を含めれば0の数が一桁増えるのかも知れませんねぇ~」

「・・・虐められてたの・・・?」

「まさか。むしろこれは褒め言葉でしたからね、素直に喜んでただけですよ」

 

 そう言って、鼻で笑い飛ばす黒髪の少女の仕草に陰りや罪悪感や後悔は、1ミリたりとも感じさせるものはなく。

 

「悪口なのに、褒め言葉なの・・・・・・?」

「ええ。敗者が勝者に対して地ベタに這いずらされながら罵倒してくるなんて、降伏宣言と勝利を称える凱歌でしかない代物ですからねぇ。

 まして、弱い者イジメをしていたヤツらが、自分より強いヤツに負けて虐められる側になった途端に無様な姿で罵倒してくるだけになった罵り文句は、気持ちがいいほど無様すぎて逆に笑えるほどでしたよ」

 

 ククク、と忍び笑いを漏らし、遠い過去に虐めてきた連中が最期に残した無様な末期の遺言を思い出して笑い飛ばす黒髪の少女。

 そこに罪悪感は微塵もなく、自らの行為を恥じ入る気持ちなど欠片も見いだすことが出来そうもない、清々しいほど鮮烈な侮蔑の笑み・・・・・・。

 

 『殺すからには後悔するな。後悔するぐらいなら最初から殺すな』

 

 二千年前に、そう断言して殺戮を成した暴虐の魔王の信念がそこにあった。

 敵を殺した側にも事情はあるかもしれないし、虐めていた者たちにもやむを得ない理由があったかもしれない。

 だが、「殺された側」と「虐められていた側」にしてみたら、どんな事情も理由も「加害者側の都合」でしかない。

 どれほど生き延びた後で辛く苦しい人生を生きていくことになろうとも、人生を途中下車させられた側からすれば自己憐憫の涙にしか見えようがなく、自分を虐めていたことを後悔して反省してくれたところで虐められていた側にしてみたら『俺はお前が学ぶための教科書だったわけじゃない!』という怒りの主張が正しく正当性を持ってもいる。

 

 結局のところ、相手が悪人だろうと善人だろうと勝利した側は「加害者」でしかない事実に変わりはなく。

 生き延びて勝利した加害者よりは、生きる権利を奪われた敗者たちの方が不幸な現状にあるのは否定しようもない。

 ましてイジメである。

 強い者が弱い者に対して一方的に暴力を振るっている状況以外では使われることのない言い回しが適用されるような状況下で『加害者が入れ替わっただけの事』になにを感じられるというのだろう?

 それこそ、『虐められたくなければ、最初から虐めなければいい』・・・その理屈を徹底して貫きまくった人生を送った。故に後悔も罪悪感も微塵もない。

 それ故の悪名、暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴートなのだ。

 今さら己の犯した悪行を気にしたところで死者たちが生き返るわけでもなし、虐めていた連中が落ちぶれる前に虐められてた弱者たちが冥土で喜んでくれるわけもなし。

 進むと決めたら実行しながら歩むだけだ。それが魔王の生き方というものだと、黒髪の少女は二千年以上前からそう決めていた。それが故に人間をやめて魔族になった自分なのだから・・・・・・と。

 

「実際に言われた言葉通りのことをしていたのです。事実を言ってただけの彼らを恨む必要はなく、恨む理由もまたない。

 言われた原因は私にあり、言われるだけのことをすると決めたのもまた私自身。今さら後悔したところで、虐められてた側が負った傷が癒やされるわけでもなし、素直に恨み言も褒め言葉として受け取っておいた方が気持ち的にも気が楽でしょう?」

「・・・・・・」

「だからこそ私にとって、悪口は褒め言葉になる。

 虐めてやった側の元イジメっ子たちの罵声は後悔と反省の恨み言に変換されて、敗者に落ちぶれた元強さを見せつけたがるアホウからの罵り文句は敗北を認めて没落を受け入れる敗者の遺言としか聞こえなくなってしまう。

 そういう風な人生を送ってきてましたからね~。今になって方針転換って言うのも流石に馬鹿らしい・・・・・・って、ちょっと?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 テキトーに夜空見上げて、昔を懐かしみながら思い出話を語っていたら、なぜだか隣にいたはずの少女が後ろから追いかけてきて頭を撫でられてしまっていた。

 こうして見ると、わずかながら相手の方が身長が高いことに気づかされ、微妙にプライドが傷つかなくもなかったのだが、相手の行動を好きにやらせておくのを制止したいと思えるほど強い不満に至れるほどの感情論ではまったくなく。

 

「よし、よし・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 夜の公園で二人の少女が向かい合い、片方が片方の頭の上に手を乗っけてナデナデしてあげるという異様な光景を展開しながら、止めるでもなく、誰かに止められることもなく。

 ミーシャ・ネクロンは何となく可哀想に見えた気がして相手の頭を撫でてあげて慰めたい気持ちに誘われ、黒髪の少女は撫でられてる理由が分からないまでも相手の気持ちを尊重して黙ったままさせるに任せている。

 二人はすれ違ったまま、まったく相手の気持ちを理解できていないまま、それでも相手の気持ちを思い合いながら、しばらくの時間そうやって過ごし。

 

「・・・まっ、お互い合格できたみたいですし、明日から同級生としてよろしく」

「ん・・・」

 

 斯くして、二千年ぶりに復活した生後数日の魔王少女と、銀髪で茫洋とした瞳を持つ心優しい魔族少女は夜の公園で、互いにすれ違いながら『友達』になった。

 

 

 

 ――――その瞬間。

 

 

 

『『『『【アイギス】!!!!』』』』

 

 

 突如として複数人が同じ言葉で、同じ呪文を紡ぐ声が二人の周囲に響き渡り。

 突如として緑色の魔法の壁が展開されて、二人の周囲をグルリと囲い込むと別の形へと形状を変える。

 

 やがて魔法が完成したとき、光の壁の群れは巨大な円形闘技場へと真の姿を現し、複数人の高位術者によって詠唱された【創造魔法】は比類ない完成度の高さでもって周囲から物理的に閉ざされた閉鎖空間を形成して終と成す――。

 

 

「創造魔法・・・? 外へ――」

「逃げられはしない」

 

 ミーシャが何か言おうとした言葉の続きを、先回りして遮るように聞いたことのない男の声が魔法で作られた闘技場の内側に響き渡る。

 

 コツ、コツ・・・と。

 靴音と共に厳かに、威厳と権威を保った優雅な歩み方で二人の正面にあるゲートから、こちらに向かって近づいてくる魔族の青年。

 

「既にこの一帯は、我が意を受けた衛兵が封鎖した」

 

 それが自らを、この一件の主犯であることを一切の罪悪感も感じぬまま、高らかに歌い上げる朗々とした声で宣言しながら月光の下、姿を現す。

 

「魔大帝リオルグ・インドゥである。弟が世話になった」

 

 オールバックの髪型と、後ろに流した長髪。

 トカゲや蛇のように眇められた瞳が性格の悪さと偏狭さを感じさせ、エルフのように先端の尖った両耳さえダークエルフが持つ悪しき印象だけを受け継いだような、そんな青年。

 それが彼、黒髪の少女が昼間に戦って試験で勝利した男ゼペス・インドゥの兄、リオルグ・インドゥであった。

 

「ヘッヘッヘ! ベルゾゲートじゃあなぁ、ちょっと力があったって混血は皇族に勝てねぇんだよ。なんでだと思う?」

「負けたからでしょう? 都合が悪い事実はなかったことにしたがるのは人間の王族だろうと神様だろうと魔族の皇族だろうと変わりない。当たり前の話なのではないですかね」

「なっ!? くっ、あ・・・・・・ッ。て、テメェ・・・!!! つくづくムカつく野郎だなテメェってヤツは本当に・・・!!!」

 

 いきなり都合の悪い事実を正解されてしまって、早速行動によって推測を実証してくれる親切な皇族少年のゼペス・インドゥ君。

 だが、それでも尚、兄の側から黒髪の少女の側へは一歩も近づこうとせずに挑発セリフを続けてくるのは、昼間に自分の魔力を数十倍まで引き上げてもらっても勝てなかった魔剣すら今は持ってきてないからなのか、それとも痛い思いさせられた記憶がトラウマにでもなってしまっているのか。

 まぁ、結果が同じなら動機の違いに意味はない類いの問題ではあるのだが、取り敢えず昼間に負わせてあげた大怪我を夜までには表面上は完治させられたヘルゾゲートの医療スタッフ陣にはインドゥ家からも個人的臨時報酬ぐらいは支払ってやっても良いのではと思う黒髪の少女だった。

 

 要するに、兄弟そろって『その程度の驚異度』にしか感じられないと言うことである――。

 

「へ、へへへ・・・ヘヒャハハハッ!!! 強がっていられるのも今のうちだぜ、覚悟しなァッ!! 兄貴は俺より遙かに強ぇ・・・って、え? あ、兄貴・・・?」

「もう喋るな、恥知らずが」

 

 無言のままで弟の戯言を聞き流していたゼペスの兄、リオルグは喋る途中だったゼペスの胸ぐらをおもむろに掴み上げると、自分の顔正面まで近づけて眇めた目をさらに怒りで細めさせ、眉間にも瞳に険を作り上げながら実の弟を憎しみと侮蔑の視線で睨み付ける。

 

「惨めな負け姿を晒すような弱者は、インドゥ家に不要であウグウ痛痛痛ダダダダッ!?」

 

 

 そして胸ぐら掴んだまま高く掲げて親族を粛正しようとした矢先に、正面にいる敵から不意打ち食らって、一番隙だらけだった胸ぐら掴んでる方の右手を魔力のダーツで刺し貫かれて、半分以上骨が見えてるところまで切られた状態でダラリと下げさせられてしまう。

 

 ・・・戦闘開始前から利き腕を損失させられたっぽいんだけれども、コイツらは本当に闇討ちというものが解っていて実行しに来ているのだろうか・・・?

 基本的に闇討ちする側より、された側の方が数的にも状況的にも不利なので不意打ち先制攻撃で一番強そうなヤツから無力化していくのが基本な状況なのだけれども。

 そこら辺のことは、闇討ち戦術と一緒に現代まで伝わわなかったのだろうか? 本気で現代という二千年後世界の常識はたまにスゴくよく分からない時がありすぎる・・・。

 

「き、貴様!? 我が愚弟を庇おうというのか!? 貴様は弟の敵であろうに!!」

 

 ――いや、知らんし。どーせ敵の一員であることに変わりねぇし。敵を攻撃するなら下っ端のザコよりもトップを狙って先制攻撃するのは当然の戦術でしかねぇし。本気で今の時代の悪辣さというのはよく分からない。

 

「・・・失礼しました。てっきり今の時点で戦いは始まってるものとばかり思ってたもんですからつい。

 まさか闇討ちしてきた相手が、開戦の合図をするまで攻撃してはいけないなどという公式ルールを前提にしていたとは想像の埒外だったものでしてね。次からは貴方の流儀に合わせて攻撃するのは待っていてあげますから、さっさと戦いを始めちゃってください。正直言って暇です。身内同士の醜い内輪もめはお家に帰ってからドーゾ」

「貴様・・・ッ!! 言わせておけば図に乗りおって! インドゥ家の誇りを穢した報いをたっぷり思い知らせてや――」

「ああ、それから一つだけ要らぬ忠告をしておきますと」

 

 相変わらず相手の話を聞かず、聞いてやる気は微塵もなく、『敵』に対しては自分の都合を押しつけるだけしかする気のない黒髪の少女魔王は淡々と、相手が激怒すると解りきっている事実を敢えて忠告してやることにする。

 別に嫌がらせという訳ではない。ただ単に気を遣って黙っててやるほどの義理がないから、相手の心理を無視して言ってやっただけである。

 言いたいと思ったことを我慢してやることで得られるメリットを、闇討ちにより公式試合の敗北記録をなかったことにしに来た奴らに求めるのは教条的な道徳絶対主義者を通り越して現実見たがらない単なるアホガキの屁理屈でしかあるまい。

 自分はアホにはなりたくないし、ガキであることを言い訳に使えるほど魂年齢は若くないので普通に恥ずかしいしやりたくなかった。・・・割と本気でそれだけが理由の全てだったりしたのであった・・・。

 

「『惨めな負け姿を晒すような弱者は不要』という理由で弟さんを殺すのは止めといた方がいいでしょうね。

 なぜなら貴方もすぐ『同じ立場になるから』です。そうなった時に自分が弟を殺すときに唱えてた理屈で自分自身を殺すことって、貴方のようなタイプには不可能でしょう?

 貫けもしない信念や、形ばかりの誇りなら最初から持たない方が身のためというもの。悪いことは言いませんから、止めときなさい。

 プライドはあっても誇りのない自称強者が、強い理屈を唱えてても恥かくだけで得するものは何もありません」

 

 

 空気が青ざめた音を、その場にいた全員が聞いたような幻聴が響いた気がした。

 それ程までにリオルグの怒りは凄まじく、近くによって彼に守ってもらおうとしながら殺されかけたところを救われたばかりの弟ゼペス君でさえ「あわ、あわわわ・・・!?」とか喚きながら尻餅ついたまま実の兄から距離取り出す始末で、黒髪の少女の隣に立ったまま巻き込まれたミーシャ・ネクロンも無表情な顔に青ざめたような色を浮かべて「ギュッ」と傍らに立つ少女の服の袖にしがみついてきたほどのもの。

 

「貴様・・・・・・偉大なる暴虐の魔王、その尊さを受け継ぐ純血の私を雑種如きが、これ程まで侮辱するとはな・・・・・・褒めてやるぞッ!!

 貴様は今、雑種でありながら皇族たる私が全力を持って塵一つ残さず、この世から完全に消滅させるに値する非礼を犯したのだからなァァァァァァッ!!!!!」

 

 ――あ、コイツやっぱり弟の兄だわ。怒り方とか、魔力量の増大っぷりとかがソックリすぎてて赤の他人だと言われた方が疑問符浮かべそうになるレベルだわ・・・と思いはしたのだが、黒髪の少女が口に出したのは別の事柄。

 

「純血? 雑種? 何言ってんですか貴方は? いつから魔王は自らの力ではなく、先祖代々“めぐんでもらってきた”血の濃さに依存する弱者に成り下がったのですかね。

 仮にも魔王を目指す者を自称するなら、せめて自分が殺したいほど憎んでいる相手を殺す理由は自分の名と責任において実行しなさい。

 血に縋るな、頼るな、逃げるな弱者めが。自分の力だけで勝てないと思っているなら、尻尾巻いてとっとと帰れ。

 親とご先祖様がいなけりゃ、ケンカもできないガキと遊んでいるヒマは私にはない」

「~~~~~~ッッ!!!!!!」

 

 もはや、どうしようもない程に膨れ上がったリオルグ・インドゥの憎しみを糧とする負の魔力。

 あまりにも濃密すぎて、魔眼を持たない者でさえ肉眼で見えるレベルにまで膨れ上がった、彼の体から蒸気のように吹き上がっている青黒い炎を見上げながら、「もう少し挑発すれば少しぐらいはマシになるかな?」と、子供みたいなことを考えつつ、黒髪の少女はリオルグが戦い始める前に放った最後の言葉を聞かされて、丁度いいから利用してやることにする。

 

「・・・今の言葉ァ・・・ッ、我らが始祖の偉業を軽視する発言である!!!」

「馬鹿ですか? 貴方は」

 

 冷然と決めつけて、そしてハッキリと相手にも誤解なく伝わるように分かりやすく。

 

「私は今、“貴方を見下し”“貴方を馬鹿にした発言をした”のですよ。リオルグ・インドゥさん。

 貴方のことを、貴方個人のことを先祖の偉業と血に頼らなければ何もできない、雑種ごときにケンカを売る度胸すらない臆病極まるウジ虫ザコ野郎だと罵倒してあげたのです。

 どうも高尚な言い方をしたせいで分かり難かったらしく、誤解させてしまって申し訳ありませんでしたね。

 貴方の低レベルに併せてあげて言い方をガキっぽくするべきだったと反省しております、どーもすいませんでした。ほら、この通り。ペコリとね」

「ッ!! ッ!! ッッ!! ~~~~~ッッ!!!!!!!」

 

 どーでも良さそうな口調で、相手が後生大事に抱え込んでいる尊い血の誇り――いや、プライドを逆なでするだけだと分かりきっている言葉を次々と吐きまくって挑発してくる黒髪の少女。

 それは相手を怒らせることで、通常以上の魔力を発揮させるという実際的な目的に沿うものであったが、もう一つ彼女にとっての重要な理由が存在する行為でもあった。

 

 ――本当にそう思ったから、思った通りのことを言っている。嘘は一言も吐いていない。

 

 それが黒髪の少女が、他人を挑発するため貶めるときに使う毒舌の流儀だった。

 相手を傷つける目的で毒舌を振るうときならば嘘も吐こう、詭弁も弄そう。そんな目的で偽りの言葉を使いたいと思えるぐらいのクズ相手ならば躊躇うことなく実行しよう。

 だが、そこまで思っていない相手には、自分が思っていることまでしか言わない。心にもない嘘を傷つけるためだけに吐くほど嫌っている訳ではないなら、それだけで十分すぎるから。だから言わないのだ、絶対に。

 

 それに、どーせ今回の場合はリオルグ・インドゥ側に完全なる非があった。黒髪の少女の側にはない。

 ・・・もっとも悪すぎる口に対して舌禍罪ぐらいは問えるのかもしれんけど、現代魔界の法律にあるのかどうかよくわからんので今はパスしておくとして。

 

 そもそもにおいて、彼らが崇め奉っている【我らが偉大なる始祖】とやらに流れる血は、もともと人間だった者に流れていた血でしかない。

 仮に、歴史の捏造されただけではなく、魔族の皇族全体が偽りの魔王の血を受け継ぐ者たちで占められていたとしても、大して状況が変わるとも思っていない。

 

 なぜなら彼らは、自らの崇める【始祖の父親】が誰なのかを知っている可能性がほぼないからだ。

 自分たちの【始祖】と言うなら、ソイツから現代の自分たち全てが始まっており、ソイツの前に誰がソイツを生んで、ソイツに流れている血は誰から与えられたものだったのかを考えもしない連中が語る【偉大なる始祖の血】そして【始祖の血を引く選ばれた支配階級の自分たち】・・・・・・実に阿呆くさい。馬鹿らしい。

 

「・・・世迷い言をォォォ・・・ッッ!! その不敬な態度ォッ! 万死に値するッ!!

 嬲り殺してやるッッ!!! 絶対にィィ!! 嬲り殺してやるからなァァァッ!!!!」

 

 凶相を浮かべて宣言すると、怒りのあまり家に仕える兵士たちを引き連れてきたことも忘れてしまったのか、何かしら指示を出されて用意していたらしい兵士たちを置き去りにしたまま最初から切り札の使用を決意する。

 

「私は皇族として、断じて雑種ごときに敗北するわけにはいかぬッ! いかぬのだァッ!!」

 

 そう言って、最初の一撃で取れかかっていた右腕を瞬時に動ける程度まで回復させる無茶をやってのけると、痛みすら感じられなくなっているような狂った表情を浮かべながら右手を返し、

 

「特別に見せてやろう・・・ッ!! 皇族にしか伝えられぬ禁呪をなァァァッ!!!」

 

 何処からか呼び出してきたらしい邪悪な魔力を小さな球体に凝縮させて威力を極大にまで高め始める!!

 ・・・だが、その魔力球を最初に見せつけられたとき、黒髪の少女が抱いた感情は相手の期待や予測とは裏腹に真逆ですらなく、どこか不審そうな顔をしてジッと魔力の塊を見つめてきている、なんか場違いなものを見せつけられたとき特有の不快そうな其れでしかなかった。

 

「その球は・・・もしかしなくても起源魔法ですか? 術者自身と縁が深い過去の人物から血の流れを通して力の一端を借り受けて行使するとかいう、あの魔法・・・・・・それが貴方の切り札なのですか?」

「・・・そうだッ!! 貴様ら雑種には絶対に使うことができない、偉大なる存在の血を色濃く引き継いでいる我ら皇族だからこそ使用可能となる最強魔法! それがこの【ディラスト】なのだ!!

 始祖の血を引く我ら皇族だからこそ、偉大なる始祖からお力をお貸し願えるのだ! お貸しいただくことが可能になるのだ!! それこそが貴様ら雑種と我ら皇族との絶対的な格の違―――」

 

 こめかみに血管を浮かべまくりながら、それでも得意気に自分の誇りとする由縁である自らに流れる血の尊さを熱く五月蠅く語り聞かせようとしてきた、まさにその時。

 

 

「・・・・・・・・・・・・ハァ~~~~~~~~~~~アァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なッ!? なんだ、その長すぎる溜息はァァァァァァァァッ!!!???」

 

 

 思わず盛大に呆れまくっていることを示す溜息を吐かれて、同じく思わずどっかで似たような事やってたヤツがいたなーと思える反応を返してしまってセリフは途中で途切れさせてしまったリオルグ・インドゥ。

 余談だが、後ろの方に避難して見ていた色白の兄と違って日焼けしてる方のガングロ弟の方が「あれ? なんか今デジャブってたような・・・気のせいか?」とか言い出していたりするんだけど、誰も見てないし意識してないし、そもそも存在自体を今となっては覚えてる奴の方が少なくなってそうだったためガン無視されたまま、正面切って向かい合って怒鳴り合ってる(正確には片方が一方的に怒鳴られている)二人の交わす会話の方に全員の意識が集中されていく。

 

「いやまぁねぇ・・・・・・貴方と弟さんを同類扱いしたのは確かに失礼に値する行為だったんだなぁーと、それ見せられた瞬間に反省し始めてた次第でしてね。悪いことしちゃったなぁ~と、そんな風に」

「フンッ、愚か者め!! 今更気づいたところでもう遅いわ! たかが世辞程度で処刑を見逃してやるほど貴様の犯した不敬の罪は軽くはな―――」

「いや、全くもってその通りですよね。貴方なんかと一緒にしちゃって、弟さんには悪いことをしてしまいました。後でちゃんと謝っておくとしましょう。

 “出来の悪すぎるバカ兄と同類扱いしちゃってごめんなさい”――とね」

 

 

 再び、重すぎる沈黙が場に舞い降りて、リオルグ・インドゥの表情はもうこれ以上壊れようがないくらいグッチャグチャの憎しみと怒りと様々な負の感情で満たされまくってしまっていく。

 

「・・・なん、だと・・・? この私が、出来損ないの弟よりも格下の存在だと、貴様はそう言うつもりなのかこの虫ケラ雑種ヤロウめがァァァァァァァッッ!!!???」

「ええ、事実ですからね。剣の性能を使ったとはいえ、あくまで自分の魔力を増大させて体張って挑んできた弟さんと貴方では雲泥の差です。あまりにも出来が違いすぎている・・・。

 出涸らしの兄というのも奇妙な気もしますが、形式的な血統主義なんてものを崇め立てて長子存続なんて義務づけていたら、こんな無様をさらすのも仕方ないのかもしれませんね~」

「!!!!!!~~~~~ッッ!!!!!!!」

 

 もはや言葉もなく、言葉にもできず、ただただ怒り狂い、なんとか殺す前に前言を撤回させて這いつくばらせて詫びさせる手段はないものかと考え始めたリオルグに、黒髪の少女は冷たい目線を向けながらハッキリと、凍えるような感情を凍らせた冷たい声と冷たい罵声で完全否定の言葉を流れるように紡ぎ出す。

 

「起源魔法とは、自分と縁がつ深い“赤の他人”に力を分けてくださいと頭下げて頼み込んで、ほんの少しだけもらってきたものを武器として使う魔法のこと。

 ・・・上位者から力を“めぐんでもらえた事”が何故そんなに誇らしいのですか・・・? 自分のものではない力を他人から与えてもらっただけで、何故そんなに恥ずかしげもなく自慢そうに語れるのですか? 

 まるで始祖に媚びを売る乞食のように。奴隷にように。娼婦のように。這いつくばって尻尾を振って餌を投げ与えてもらえたことが、そんなにまでして何故うれしい・・・?」

「へ・・・? ヒィッ!?」

 

 相手から声をかけられて相手を見て、ようやくリオルグ・インドゥは相手の変化に気づくことができたようだった。

 黒髪の少女は、今日は今このときが初めて本気で怒りを感じる気分になっていたのである。

 あまりにも他力本願で、自分という存在がどこにもないようにしか見えることのできないリオルグ・インドゥという魔族の生き方そのものに言いようのない怒りを感じて、自分でもどうしようもないくらいに怒りと憎しみに身を焦がしたい気分に陥りかかっていたからだった。

 

「・・・思えば最初から貴方には何もなかった・・・。

 兵士たちは家に仕えている親の所有物、誇りとする血も家柄も先祖が手に入れた先祖の手柄、譲ってもらっただけの貴方は何一つとして努力も勝利もしたことを語っていない・・・」

「ヒッ・・・!? ヒィィッ!?」

「そんなに嬉しいのですか? 上位者の寵愛を得られることが。飼い主に尻尾を振って餌をもらうだけの誇りのない生き方をする自分の人生が。

 虎の威を借る狐の、そのまた威を借る鼠かゴキブリにまで成り下がっていく自分自身を自慢そうに語ることが、そんなに愉悦か? えぇ? 苦労知らずで甘ったれたお坊ちゃん。ママとパパに頼んで買ってもらえたオモチャの球は、そんなに大事で嬉しかったかい? 良かったねぇ~、リオルグ坊や」

「き、貴様・・・ッ!! 貴様貴様貴様キサマァァァァァァァァァッ!!!!!!」

 

 叫んで恐怖を振り払い、憎しみの心を増大させることによって再び戦意を取り戻し。

 リオルグ・インドゥは全身全霊で、全力全開の一撃を憎むべき目の前の雑種にぶつけて木っ端微塵に吹き飛ばし、自分にとって大事にしてきた誇りやプライド、今夜一晩で散々に傷つけられズタボロにされてしまった様々な物を取り戻すため、渾身の魔力を込めた最強魔法と彼が信じる起源魔法を相手に向かってぶちかます!!!

 

「貴様と私の格の違いを思い知るがいいィィィィッ!!!!!!」

 

 自分の誇りとする由縁。自分の縁、自分の根源、自分の全て。彼にとって絶対的なそれを叫びながら放つ、己の全てをかけた究極の起源魔法。

 

 だが、それでさえ―――

 

「“貴方と私の”ではなく、“始祖と私の格の違い”が正解でしょう? いつから貴方は先祖の力を借り受けるだけの家来から、主と同格まで成り上がっていたのです? 不敬な方ですねぇ、万死に値するとは思われませんので? 偉大なる始祖の血を引く皇族としてね・・・」

 

「~~~~~ッッ!!!! だぁぁぁまぁぁぁぁれぇぇぇぇぇッッ!!!!!」

 【ディラスト】ォォォォォォォォォォッ!!!!!!」

 

 

 

 黒髪の少女相手には、1ミリグラムの感銘を呼ぶ物ではなかったらしく淡々と否定の言葉だけを吐いて普通に食らってやり、爆発音と爆風と土煙をおこさせるに任せて特に何もせず黙ったまま、相手が気づくのを待っていてやる道を選択していた。

 

 

「ハァ、ハァ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・・ざ、ざまをみろ・・・皇族に逆らうとどうなるか思い知ったか・・・ゼヒィ、ゼヒィ・・・・・・ヘェ、ヘェ、ヘェ・・・・・・ふぇェッ!?」

「目障りな土煙でしたねぇ~。服に埃が付着してしまうところでしたよ」

 

 そして晴れてきた爆風の中から姿を現した、最強の起源魔法を食らっても掠り傷一つ負ったふうには見えない飄々とした態度で肩をすくめるだけの黒髪少女を見つけてリオルグ・インドゥもまた弟と同じように戦意を喪失して尻餅をついて後ずさりはじめて、それを見送った黒髪の少女は溜息を一つ吐くと、

 

「ここまで無様すぎると、怒っていたコッチが馬鹿に思えてくるからイヤなんですよね。こういう人たちの相手をするのは・・・・・・」

 

 と、怒りもろとも馬鹿らしさと一緒に体外へと吐き捨ててしまってから、一言だけ呟くと彼らに背を向け創造魔法で作られたコロシアムの内壁へと近づいていき。

 

 ドゴンッ!! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴゴンッ!!!

 

 そのまま避けることなく、拳も使わず、自分の体型に壁を刳り貫かせながら普通に歩いて出て行ってしまって、特に慌てた様子もないまま無表情な銀髪少女ミーシャ・ネクロンもその後を追う。

 

 残されたのは、インドゥ家の兄弟と兵士たちだけ。内輪で始まった内輪の問題だけ。

 

 

 

「・・・何だったんだ、あいつは一体・・・・・・」

 

 最初の被害者であるゼペス・インドゥが喘ぐように呟くと、散々に醜態を晒されまくって今後の家中における立場を考えざるを得なくなってしまった兄で二番目の被害者でもあるリグルグ・インドゥもやけっぱちになったような表情で吐き捨てるように、こう呟き捨てたのだった。

 

 

「・・・・・・知るものか・・・・・・。鬼か悪魔か外道のどれかだろうよ・・・。

 確かなのはアイツが生きてるだけで、この世のためにはならんという事実だけだ・・・・・・」


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