試作品集   作:ひきがやもとまち

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書き途中で放置しちゃってたのが気になりましたので、『魔王様、リトライ!』のネタエルフ版最新話を完成させて投稿させて頂きました。次は何の作品を書こうかなーっと♪


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第8章

 ――前回までのあらすじ。

 ゲームで使っていたネタエルフキャラの身体で異世界転移してしまったナベ次郎は、聖光国の聖女ルナ・エレガントに魔王ロールしていた恥ずかしい黒歴史を知られてしまったと勘違いして脅しをかけて口封じをしようと魔王ロールする本末転倒な選択を選び、相手を威圧するスキルを使用したのだった! ―――だが、しかし!!

 

 

『ひ、ヒィィィィッ!? か、神様~ッ!!!』

「・・・っ、みんな! 落ち着きなさい! 正気に戻って! 【ブレイブ・ハート】!!!」

「なにィッ!?」

 

 聖女ルナに精神異常回復系の魔法を唱えられてしまった!

 モンクスキル《雄叫び》の効果はすべて打ち消されてしまった!!

 

『・・・お? おおぉ・・・。我らは一体何を・・・』

 

 聖女ルナ指揮下の騎馬隊が正気を取り戻してしまった!

 脅しの効果は絶望的だ!!

 

「お、おのれぇぇぇぇッい!?」

 

 それらの光景を見て、ナベ次郎は大いに慌てる。脅しで済ませつつもりだった相手に正気を取り戻されてしまったことでヒドく取り乱してしまった程に。

 

(い、いけません! これでは私が魔王ロールをしていた黒歴史が大勢の人にバレてしまいます! これほどの人数を殺すことなく口止めするには他に方法がなかったのに!)

 

 黒歴史を広められないための演技で、新たな黒歴史伝説を作り出してしまっている自分に気づけていない、賢さ低めの物理バカ設定を持つ脳筋モンクなロリエルフは相変わらずバカな思考を独りよがりで続けながら、一人心の中で狼狽え続ける。

 

 

 ――対してルナの方は、自分の的確な判断と行動によって味方の騎士たちを恐慌状態から救い出し、自分の属性とは異なる一番上の姉が使える魔法を改良した自己アレンジのオリジナル魔法の効果までもを実証できて、鼻高々な上位に立てていた。

 ここまでは彼女が行った行為は自称魔王の比ではなく、ぶっちゃけ勘違いから暴走して失敗ばかりしている魔王に対して計算で目論見を打破した時点でオツムの出来では圧倒的に上だと主張することも許されたであろう。

 

 ・・・・・・だが、そこで止めときゃいいのに、止まらないのが聖女ルナのルナたる由縁であり・・・。

 

「さぁ、みんな! もう大丈夫よ! 助けてあげた私に心から感謝して立ち上がりなさい! そして私を称えなさい! 魔王を倒した三聖女最強のルナ・エレガントの名を高らかにね!!」

『・・・お、オオオォォォォッ!! 流石だ! 流石は聖女様だ! ルナ様だ!!』

『ルナ様万歳! 貴女こそ我らの救い主! 最強の救世主! ルナ・エレガント様ーッ!!』

『ルーナッ! ルーナッ!! ルーナッ!!!』

「・・・・・・・・・・・・ふっ!!」

 

 おいバカやめろと、言っても遅く。なまじ信仰心豊かで、天使信仰に対して誠実な実力ある騎士たちを伴ってきちまったばっかりに裏表のない賞賛と、救ってもらえた感謝の言葉を浴びせられまくられて、もともと調子乗りやすいところを持つ聖女の末っ子ルナ・エレガントは本気で思い上がり始めてしまっていくようになっていき。

 

「次はアンタの番よ魔王! 観念なさい! 手品のタネが割れてしまった今のアンタなんか、私たちの敵でも何でもないんだからね!!」

 

 聖女ルナ、自分の頭の中に思い浮かべてた魔王のイメージに正当性を得て確定しちゃったの図。

 

 彼女の中で、魔王という存在は誇張されたものであり、天使最高、天使に選ばれた才能ある自分は超最強、魔王なんて詐欺師まがいの実物小物に過ぎないに決まっているわ! だって悪の魔王なんだもの! 魔王は神に選ばれた聖女に倒されるヤラレ役なのが当然でしょう!?

 

 ・・・というような思考法で成り立っていた存在だったからである・・・。

 案外アホの魔王エルフと気が合いそうなレベルのアホ思考であったが、もともとが魔法の才能を認められて実力で聖女の地位を勝ち取った、審査基準に人格とか他の勉学とかが考慮されていたわけではない少女のため、そこら辺はまぁ仕方があるまい。

 

 

 むしろ問題なのは、こちらの方―――

 

(くっ、クソゥ! こうなったら魔王ロールの黒歴史を誤魔化すために使える、何か別の魔王はいなかったでしょうかね!? 別の魔王はッ! なんか他の魔王キャラはッ!?)

 

 ・・・魔王ロールを誤魔化すための魔王ロールが途中で阻害されたからと、次の魔王候補を記憶の中から探し始めてたゾンビアタック上等な脳筋バカエルフ娘の方が大問題だっただろう。

 何度やられても復活させてもらって、また突撃していく死に覚えのゲーム脳が裏目に出たか・・・。

 

「フッ! だいたい魔王のクセして聖女の私に楯突こうだなんて生意気なのよ。悪しき存在である魔王が、天使様に選ばれた聖女に討たれるなんて当たり前の話じゃない」

「――ふっ・・・」

 

 そして、その結果。

 脳筋ネタエルフの自称魔王様は・・・・・・

 

「ふっはっはっはっはっは、ハーッハッハッハッハッハ!!! ―――下らぬ!!」

「なっ!?」

 

 新たな魔王ロールする“魔王キャラ”を思い出す。思い出してしまいやがった・・・!!!

 

「その程度の理由で聖なる存在になれたつもりか? 天使に選ばれた力ある者が聖女ならば、それは天使に選ばれ与えられた圧倒的な力で世界を支配しようとする私のことだァッ!!」

「なっ!? ま、魔王の分際でなに言ってんのアンタ! 魔王が聖女を自称するなんて智天使様を侮辱するにも限度ってものがあるでしょうが!!」

「何をつまらぬことを言っている! 強い者が弱い者の上に立って支配する、それが当たり前の世界だ! 聖女も魔王も変わりあるものかァッ!!」

「うっ、ぐっ!?」

 

 自称魔王のネタエルフ、そんなつもり無かったセリフで聖女ルナの精神的急所をブッ刺して大ダメージを与えてしまった。効果は抜群だ!! 精神面だけだけど! 肉体的にはノーダメージだけれども!!

 なにしろ自分自身が『魔法の才能ある』ってだけを理由に聖女に選ばれただけで、生まれた家が聖女様の家系だった訳でもないし、聖女だって言ってきてるのは聖光教会の偉そうな連中だけで、天使様達から指名してもらえたわけじゃないし、そもそも座天使さまや熾天使さまは人前に姿を現さなくなってから数百年経ってるから自分が会えてるはずないし。

 

 そして、過去にあった出来事から教会のお偉いさんが『聖女と言うから自分は聖女なんだ』と教会のジジイ共の言うことを素直に信じ込めるほど連中のことが好きでもないルナにとってみれば、なんとも答えにくいタイプの問いかけ罵声。

 

 だからこそ、こういう時には仲間を頼るのが聖なる存在!

 自分の心が痛くて苦しくて戦えない時には、代わりに仲間だけで戦ってもらいましょう! それが優しさ重視で一人だけの支配を否定する聖なる正義パーティーの方針というもの。

 

「あ、アンタ達ぃ!! この口先だけの間抜け女を捕らえなさい!」

『お、オオォ・・・?』

「生かしたまま捕らえるのよ! 絶対に殺しちゃダメなんだからね! 生かしたまま捕らえて聖女である私自ら悪に正義の鉄槌を下してやるんだから! アンタ達は捕らえてくればそれでいいわ! 行きなさい!!」

『お、オオオォォォォォォッッ!!!』

 

 聖女ルナ、私怨目的で言っただけのセリフで結果論的にはファインプレイ。

 ぶっちゃけ、さっき自分たちが心底恐怖させられたばかりの魔王に特攻するのは怖かったので、「捕らえるだけでいい」とか言ってもらえると難易度下がったような気がして突撃しやすくなってた下っ端騎士達の心理事情。

 強敵を倒してくる『討伐依頼』よりかは、捕らえてくるだけの『捕獲依頼』の方がなんとなく戦闘面では楽な気がするし、ミニゲーム的な内容を連想しがちな人間心理だけど、実際には殺さずに捕まえる方がよっぽど難易度高いのは言うまでも無し。

 ただ単に、突撃しろと命令されたらイヤでもしなきゃ行けない、しがないサラリー騎士マンたちによる心の中の自分納得させる用の言い訳でしかなかった訳なんだけれども。

 

 

 ――彼らに突撃されてきてる、敵と定められた魔王の側にそんな事情は関係ない。

 

 

(よっしゃ! なんか知らんですけど自分から突撃してきてくれましたよ! ラッキー♪)

 

 ただ心の中で快哉あげて、敵が自ら墓穴掘ってくれたと感謝したくなってるだけである。

 モンクという職業は基本的に一対一の戦いで能力を発揮するタイプのジョブで、多対一に効果をもたらす全体攻撃系のスキルは他の接近戦用ジョブより圧倒的に数が少なく、威力も低い特徴を持っている。

 別に一人一殺ずつで倒してしまっても良いのだが・・・・・・それだと何となく魔王っぽさが減るイメージがナベ次郎の中には存在していたからだ。

 

 魔王と言えば、何となく強力無比な全体攻撃持っていて、パーティー全員を単独で一度に圧倒できる存在のことを言うと彼だった頃から彼女は思い浮かべ続けており、接近格闘で超強い魔王も否定する訳ではなかったが、それだけだと埋没してしまいそうな気がして微妙なような気がしていた。

 

 せめて、口から怪光線吐いたり、ドテッ腹ブチ貫かれた状態で卵はいて次の魔王の息子誕生させたりしておかないと、その内に「そう言えばアイツって敵だったんだよなぁ~」とかツルッ禿げの味方になったキャラから言われるキャラになって魔王感ぜんぜんなくなっちゃいそうな気がして、なんかイヤだった次第である。

 ・・・いや、味方は味方で好きなんだけど、魔王っぽさも維持したくはある厨二思考に過ぎないんだけれども。

 

 まっ、何はともあれ丁度いい状況を敵の方から作ってくれた時には、ありがたく便乗させてもらいましょ♪

 

「小賢しい・・・雑魚は引っ込んでいろッ!!!」

『なっ!? う、うわぁぁぁぁぁッ!?』

「あ、アンタ達ぃぃぃぃぃっ!?」

 

 叫ぶと同時に右手を突き出し、開いた手のひらからオーラを放ち、周囲の敵すべてにぶつけるモンクスキル《吹き飛ばし》

 《ゴッターニ・サーガ》では接近しないと使える攻撃スキルが少ないモンクが、一旦仕切り直しする時だけに使う特殊スキルで、使用した時に自分の周囲にいた敵たち全てをフィールドの反対側の壁まで飛ばして叩きつけるという中々便利なようにも見えるスキルなのだが、見た目が派手な割に『与えられるダメージは0』なので、あんまし使いたがる人はいなかったネタ向けのスキルでもあったりする。

 

 あと、基本的に接近され過ぎてること前提での吹き飛ばしなので、近くに寄って来てもらわないと効果がなく、手の平を前に突き出すモーションだけやって硬直時間が発生してしまう欠陥スキルになっちまう類の能力なので多用は禁物が常識。

 

 

 ―――余談だが、特攻ネタ系エルフのナベ次郎は、敵に接近しないと殺されるぐらいしか出来ることないビルドのキャラなので、本気でなんの役にも立たないスキルだったのに多用しまくっていた過去を持ち、笑いは取れたが経験値は減りまくっていたアホエルフでもあったりもした。

 ・・・・・・それが今この状況に影響与えていないと保証できる者は誰もいない・・・。

 

 

 ドガァッン!! ドシャッ!!!

 

『ぐわぁッ!?』

「な、なんなのよ!? コイツはッ! アンタ今一体なにしたの!?」

「フッハッハッハ・・・・・・」

 

 突然、目の前で空間がゆがんだように見えたと思ったら、物凄い勢いで魔王に突っ込んでいってた騎士達が逆に跳ね飛ばされて自分たちが向かっていた方向とは逆に壁に叩きつけられて地に伏す光景を見せつけられ、聖女ルナ・エレガントは恐慌を来す寸前に陥っていた。

 

 意味がわからない。コイツの力がなんなのかが全く解らない・・・。

 こんなことはあり得ない、天使様に選ばれた自分たち聖女を超える力を天使様から与えられてる存在が他にいるなんてこと、絶対にあり得ないんだと信じたい!!

 ――けれど!!!

 

「ファッハッハッハ・・・・・・潰れてしまえぇぇぇぇッい!!!!」

「ひ、ヒィッ!?」

 

 生まれて初めて目にする圧倒的存在の強大な力を前にして、聖女ルナは戦意を失い、右手に持ったラムダの杖という強力なマジックアイテムも手放して取り落としてしまい、迫り来る魔王を目前にしながら両手で頭を抱えて縮こまってしまうことしか出来なくなってしまったのだった・・・・・・。

 

「フッフッフ・・・どうしたァ? 遙々こんな土地まで辿り着いたというのに、何もせずに消えるつもりか?」

「あ、ああ、ぁ・・・・・・」

「それで聖女のつもりか? 偽りの聖女よ。自らの間違いを認め、悔い改めて我が配下に加わると誓うのなら見逃してやらんこともないが?」

「ううぅ・・・そんなこと・・・っ、聖女が悪しき存在である魔王の手下になるだなんて・・・そんなのだけは絶対に、イヤよっ」

 

(えー・・・? ダメなのぉ~・・・。じゃあどうすれば交渉成立させられるんだよぉ、この状況になっちゃってからさぁー・・・・・・)

 

 自称魔王なロリネタエルフ、ようやく今さっき冷静さを取り戻してしまって内心で焦りまくってるの図。

 見切り発車が基本の特攻戦法で、ここまで来ちゃったけど勝った後のこと考えてない連中が使いやすい戦法が特攻なので、当然のようにナベ次郎も勝てた後の事なんて考えて使ってきておらず、実際に勝っちゃった今になって慌てまくるアホ魔王というか、アホ大帝国戦争指導者みたいになっちまってて大いに困りまくっていたりします。

 

「フッ・・・よかろう。我も取るに足らぬ虫ケラを潰して悦に入るほど邪悪な存在ではない。貴様ごとき矮小な偽物程度の詭弁であれば、女子供のやることとして特に許し、見逃してやるのも吝かではない・・・・・・」

「う、ぐ・・・・・・チクショウ・・・っ、言いたいこと言ってくれちゃってぇ・・・(ビクビクッ)」

「だが、我に歯向かった者になんの罰も与えないというのも癪ではある。さて、どうするべきだろうか・・・・・・」

「うぅ・・・、ううぅぅう・・・・・・(ビクビクッ、びくんびくんッ)」

 

 とりあえず冷静さを取り戻せてきたので、魔王じゃなく傲慢なAU王様のセリフも取り入れて、色々と誤魔化せるような話のもって生き方考えてみてはいるんだけれども。

 

 ――なんも思い浮かばない。これっぽっちも思い浮かばない。何一つとして良いアイデアが浮かんでこない。

 このまま無為に時間だけ過ぎさせるため、無意味な長広舌で時間稼ぎセリフ言い続けるのも限界あるし本気の本気でどうすれば・・・!?

 

「・・・そうだな。アレを使ってみるとしようか。女子供を殴るのは好きではないが、そうしないと貴様本来の輝きは取り戻せぬものと信じるが故に・・・・・・」

「な、何をする気よアンタ!? や、や、やめてぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

(ええぇーい! こうなったら、なるようになれです! 行けるところまで行ってやりましょう!! 出でよアイテムボーックス!!!)

 

 

 

「どん! 魔王アイテム!!(今作った造語)

 【銀のルーレット】ぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!」

 

 

 

 こうして自称魔王は今回もまた、ゲーム内では設定だけ書いてあって実際には使い道無くて売るしかなかったアイテムの一つを取り出して、効果わからないまま使ってみて。

 

 ・・・・・・再び、悲鳴と恐怖に満ちた悲劇の幕を開いてしまったのである・・・・・・。

 

 

 

 

 高い崖に挟まれた峡谷の中を貫く広い路に、先ほどから女の子の悲鳴が響き渡り続けている・・・・・・。

 

 バシーン!! バシーン!!

 

「痛ーい!? やめてやめて! もうやめてよーッ!?」

 

 悲鳴を上げさせている者に、人の心と呼びうる者は一切無く。

 悲鳴を上げさせている女の子が、泣こうが叫ぼうが怒鳴ろうが関係なく。

 たとえ許しを請おうとも、苦痛を与えて悲鳴を上げさせる作業を止めようとする意思は欠片も見いだすことなど出来そうもない。

 

 バシーン! バシンバシン!! バシーン!

 

「痛ぁいぃ!? お尻ィッ!? お尻やめてェッ!?」

『・・・・・・・・・』

 

 部下である騎士達の見ている前で、敵の手下に抱えられ、尻をたたかれ悲鳴を上げさせられて許しを請うても許してもらえず、冷酷非情に罰を与え続ける心を持たない機械人形のごとく冷徹なる断罪者。 

 

 バシンバシンバシン!!! ベチンベチンベチン!!!

 

『る、ルナ様・・・ッ、くっ! お労しい・・・!!』

 

 彼女の部下である騎士達も、下唇を噛みしめて悔しさに震え、聖なる存在を助けに行くことの出来ない自分たちの無力を嘆くことしかできない・・・・・・まさに聖なる勢力にとっては絶望的としか表現することの出来ない悲惨な現状。

 

 ・・・だが、それもまた仕方が無いことだったかもしれない。

 何故なら、それ程までに圧倒的すぎる存在感を放つ強敵だったのだから、レベルの上で遙かに格下であることを思い知らされた騎士達には何一つとして出来ることはなかったのだから・・・。

 

 バシーン! バシーン!! バシンペチンバチーン!!

 

「痛い!? 痛い!? やめて許してお尻もうぶたないでー!?」

『・・・・・・・・・』

 

 ・・・聖女ルナ・エレガントの胴体を、片手だけで鷲掴みにし水平に持ち上げてしまえる巨大すぎる右腕を持ち。

 左手に持った巨大な鉄の板を、何度も何度もルナの尻に叩きつけては悲鳴を上げさせペースを一切乱そうとしない、正確無比な腕を振る速度を持つ左腕。

 そして、人一人を軽々と抱え上げて尻をたたき、助けようとした騎士達の攻撃など蚊に刺された程度にさえ感じていないかのように視線すら向けることなくルナの尻を叩き続けている、鋼鉄の精神力と肉体強度を誇る未知の怪物。もしくは―――【バケモノ熊】

 

 

 そんな自分たち全ての想像を超える、圧倒的存在を前にして異世界の常識の範疇に収まる存在である騎士達に出来ることなど見ていることしか出来るはずもない・・・・・・そんな絶望的すぎる状況を眺めながら。

 この状況を生み出してしまった張本人である魔王は、唇を歪めて密かに笑う。

 

 

 

 

 ウィ~ン、ガッチャン。――ベチン!!

 ウィ~ン、ガッチャン。――ベチン!!

 ウィ~ン、ガッチャン。――ベチン!!

 

 痛い! 痛い! 痛~ッい!? もうやめてーっ!!

 

 

 ・・・・・・目の前で、巨大な熊さんに虐められて悲鳴上げてる女の子がいます。

 熊さんの後ろから見てると解るんですけど、背中にグルグル回って動力を生み出している巨大なゼンマイが付いた姿は妙に懐かしく感じられ、ノスタルジックな雰囲気漂う見た目がとっても・・・・・・おもちゃ屋さんな気がして私的には非常に好み♪

 

 思わず笑みが浮かびそうになってしまって、女の子が虐められてるのを笑うのは失礼だと気づき、慌てて引き締めようとして微妙な形に唇がなってしまうほどに・・・・・・懐かしい・・・。

 

「なかなか良いものを見せていただきましたね。懐かしくて非常によろしいです」

「だ、大丈夫なんでしょうか・・・? 聖女様のお尻は・・・。

 あと、聖女様のお尻を叩き続けている、あのクマさんは一体なんなのでしょう・・・?」

「見ての通りですよ、アクさん。タンバリンを叩いて、お客さんを呼んでいる働き者の熊さん店員さんです」

「タンバ・・・? 私には聖女様のお尻を無表情に叩き続けている、拷問クマさん人形にしか見えないんですけども・・・」

「ジェネレーションギャップという奴でしょうね。ですからアクさんも大人になるまで成長した後なら分かるようになっていることでしょう。子供にはそれが分からんのです」

「は、はぁ・・・・・・」

 

 昔懐かしき、おもちゃ屋さんの前でゼンマイが切れるまでタンバリンを叩き続けていた客寄せクマさんが(何でかは知らないですけど)アイテム使ったら呼び出され、有無を言わさず何も命じられることもされない内から自称聖女の胴体つかんで抱え上げると、左手だけ持っていて右手にだけ持っていなかったタンバリンの代わりに延々と、彼女のお尻を叩き続ける役目を実行してくれています。

 おかげで私が何か拷問とかする必要がなくなってくれて、すごく楽チン♪ 人生楽あり苦は嫌だとはよく言ったものですねぇ~。

 

「ところであの・・・魔王様? あのクマさんは、いつになったら聖女様のお尻を叩くのを止めてもらえるんでしょうか・・・? さっきからず~~~~っと叩き続けているみたいに見えるんですが・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・さて、ね・・・・・・」

 

 意味深そうに聞こえなくもない、意味ない台詞を言いながら私はそっぽを向いて誤魔化しました。

 ・・・たぶん、ゼンマイ切れたら止まるんじゃないかと思いますよ・・・。おもちゃの熊さんですし、多分ですけれども・・・。

 

 ――それが、いつ止まってくれるかまではゼンマイ巻いた本人にしか知りようないので私は全く責任持ちようがございません!!!(キッパリと無責任発言)

 

 

「や、やめて――――――――ッッ!!!!!

 いぃぃぃぃぃぃぃヤァァァァァァァァァッッ!!!!????」

 

 

 

 

 ――余談。今回の事件のオリジナル解決方法。

 クマのおもちゃの隣に出現していた箱に、コイン入れたら止まりました。

 そのために必要だった代金は、聖女ルナが今もってた財産の全額でした。

 

 熊さんおもちゃの保釈金高けぇですなオイ!? 

 

 PS:・・・まっ、儲かったからいいですけれども・・・。byナベ次郎


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