試作品集   作:ひきがやもとまち

144 / 213
単に次話の出だしだけ書いて終わらせる予定だったのが予定より遥かに長い内容になってしまったせいで、気がついたら1話分の長さができちゃってました…。
流石にこれを出だしとして使うのは無理がありますので次話ってことにして更新することにいたしました。想定外で予定になかった更新で申し訳ありません。


魔王学院の魔族社会不適合者 第7章

「――そうだ。お二人とも私の家に寄って行きませんか? 三人目の班員も加わってくれた事ですし、自己紹介もかねて祝勝会と洒落込むのも悪くないと思うのですけれども」

 

 黒髪の少女がミーシャと、新たに班員になったサーシャの二人共に向けてそう言ったのは、サーシャ班との試合に勝った日の放課後でのこと。学園前の校門での出来事だった。

 

「・・・え? わ、私も行っていいの・・・?」

「構いませんよ? 私の方が誘った身ですし、どーせ1人暮らしの苦学生ですからねぇ~」

 

 気楽にそう言って、サーシャに向かって下心も裏も感じさせない笑顔で返す黒髪の少女。

 実際、特に思惑があっての言葉ではなく、探りを入れようと思って言った言葉でもない、ただ思いついたから言ってみただけの言葉であったのだから当然の返答ではあったのだ。

 

 サーシャが何か隠しているにせよ、何者かがサーシャたちに何か仕込んでいるにせよ、事を起こすとすれば後日となるのは明白であり、負けたその日に事を起こしたところで今日の出来事が無駄になるだけで意味など微塵も生じさせられない。

 それに、一時的であったとしてもサーシャが今の時点で仲間になってくれたのは事実なのだから親睦を深めるため何かしらの催しを企画するのは班長として当然の責務でもあるだろう。

 

 ――だが、しかし。

 もし彼女が先日引っ越したばかりの、女の子を招いたところで何の問題も起きないレベルの新居に対して、絶対の安全性を信じ切れていなかった場合には、この誘いはなかったかもしれないし、彼女自身も悲劇に見舞われる不幸を避ける事ができていたのかもしれない。

 だが、それでも未来は容赦なく訪れるもの。暴虐の魔王であっても予期し得ない未来の不幸までは避けられぬもの。あまりにも意外すぎる伏兵には油断してしまって隙を突かれてしまうものなのだ。

 そう・・・・・・たとえば、【彼らの襲来】を黒髪の少女が意外すぎる心の伏兵として、油断しまくっていた相手だったからこそ意表を突かれずにはいられなかったのと同じように・・・・・・。

 それは本当に、突然やってきていた。

 

 

 

「あ! お帰りなさ~~~ッい♪♪♪ アノスちゃ~~~~~~ッッん♡♡♡」

 

 

 ゆるふわした長い髪。たれ目ガチでオットリした顔立ち。幼いとはいえ一児の子供がいるとは思えない幼すぎる言動。

 いきなり自分の新居の玄関前で待ってた女性に飛びかかられて満面の笑顔で頬ずりされて、流石の元魔王な黒髪少女でさえ思わずドン引きせざるを得ないほどの過剰すぎる『母娘同士によるスキンシップ』

 

「う、うわぁ・・・」

 

 と呻く声も、今日ばかりは本気で気まずさと周囲の視線を気にせずには済ませる事ができそうにない。――特に後ろで呆然としながら待たされてる美少女二人の視線が痛い。痛すぎるので気になりすぎます本当に・・・。

 

「連絡見たわよ~! スゴいわー♪ 生まれて一ヶ月で学院に合格しちゃうなんて、本当にどうしてそんなに賢いのアノスちゃんわ~♡ もう本当にスリスリスリ~~♪♪♪」

「お、お母さん・・・・・・」

『お母さんッ!?』

 

 あまりにも意外する単語と、似てないにも程がある親子同士の関係性に、血の繋がりに対する信仰心が一瞬にして崩壊しかける音を確かに聞いたような気になりながらミーシャ・ネクロンとサーシャ・ネクロンの訳あり姉妹二人は揃って驚愕の声を上げ、その声が聞こえて反応して、黒髪の少女に飛びついてきていた嬉しさの余り子供に事前の連絡も入れないまま勝手に上京して着ちゃっていた今生における肉体の産みのママは二人の少女たちに一瞬にして気が引かれたらしい。

 

「あら~? この子たちはどなた~??」

「えっとぉ・・・・・・紹介が遅れましたが、お客さん達です。ミーシャ・ネクロンさんと、サーシャ・ネクロンさん。学園で知り合ったお友達です」

「・・・どうも、よろしく」

「は、初めまして・・・サーシャ・ネクロンです。以後お見知りおきを・・・」

「――――ッ!!??」

 

 多少――というか正直かなりドン引きしながら、それでも名家出身者と優しい育ての親に育てられてた二人の少女達は挨拶を忘れる事なく順して頭を下げて、礼儀正しく自己紹介した・・・・・・のだけれども。

 

「な・・・っ!? そ、そんな・・・!? あ、あ、アノ、アノ、アノスちゃんが・・・・・・ッ!?」

 

 世の中には現実よりも幻想を、客観的事実や一般論的常識よりも夢のある主観をこそ好む者も多くおり、中には行き過ぎてしまっている人たちも時にはいて。

 

「アノスちゃんが二人も一度にお嫁さんをゲットして来ちゃったよーッ!!!

 いや~ん♡♡ 百合よ!百合よ! 百合なのよ~~~~ッッ♡♡♡♡」

 

 ・・・こういう人も、中にはいる・・・。

 いやもう本当に、例外中の例外でしかないとは思うんだけども事実として実在しちゃっているから黒髪の娘少女としては本気で否定しようのない過酷な現実が母親の形を取って体現されちゃってたりするのであった・・・・・・。

 

「・・・ねぇ・・・なんなの? この状況って・・・?」

「すいません・・・。母は昔、女の子同士の恋愛に憧れていた人でして・・・・・・今でもソレッぽそうな人を見るとぶり返しちゃうときがあるものでして・・・」

「・・・・・・アノスのところの家庭は、それで大丈夫なの・・・?」

 

 無表情のままミーシャからまで心配されてしまう始末。

 失礼とは承知してはいるものの、それでも家族の事情と家庭の問題で彼女から心配されてしまった事は結構ショックが大きい黒髪の少女の精神でありましたとさ。

 

「なんだとー!? アノスが同時に二人の嫁を連れてきただとーッ!?」

 

 そして続いて、お父さんも登場。

 鍵かけて登校してきたはずなのだけども、新居の玄関を盛大に音を響かせながら思い切り開いて外へと飛び出してくる。

 中肉中背で黒髪の人物。絶世の美男子と言うほどではなくとも美形の範囲には間違いなく入り、熱血漢な性格と一途な思いが強そうな人格が一目見ただけで伝わってくる熱血好青年な顔と髪型と服装をした男性。

 

「二人もなんて、お父さんだってした事ないのにッ! 羨ましすぎるぞ、この愛しき愛娘よーッ!!」

 

 ――そして、夫婦揃って変な人カップルだった変人父母・・・・・・。

 

「・・・・・・ねぇ。本当になんなの? この状況・・・」

「すいません・・・父は昔、ハーレムを目指して冒険していた時期があるらしく、今でも二人以上の女性と仲良くしている人を見かけるとぶり返しちゃう時があるものでして・・・」

「・・・・・・アノスのところの家庭は、本当に大丈夫なの・・・・・・?」

 

 そしてまたもミーシャに心配されてしまう、愛しき我が家な家族の肖像。

 ・・・・だから人に見られたくなくて、一人だけで上京してきたって言うのに――ッ!! 何故こうなってしまったのか二千年後の自分の産みの家族なお父さんお母さんたちよ・・・ッ!!

 

 

 

 

 まぁ、そんなこんなで初対面の時には大抵の人が驚きまくらされる両親たちとの初顔合わせも、予期せぬイベントだったとはいえ無事に終わり。

 もともと入学を祝ってくれるために地方から金かけて出てきてくれてた両親からの優しさ訪問だった為に、食事は最初からお替わり様も含めて用意されており今からやる事はほとんどなく。

 結果的に親睦会は円満に終わって、家族は明日の朝に帰るとしても、ミーシャ達を泊めるスペースがなくなった事は事実であり、また最初から宿泊を予定して提案したわけでもない突発的な思いつきイベントでしかなかったために、夜遅くなってから少女達二人だけを家に帰すのは招いた側としてマナーに欠けるからと両親からも本人からも強い要望があって送っていってあげる事となり。

 

「私は別にいいんだけど・・・アンタも一応は女の子じゃなかったっけ? 帰り道どうするのよ・・・?」

「そういう家族なのが、我が家だということですよ」

「・・・反論しづらいこと言わないでよ・・・。聞いた私の方が返事に困るじゃないの・・・」

 

 

 そんな感じの展開になった。

 

 

 

 ―――街が暗くなってから点灯し始めた街灯の下、ネクロン家の性を持ち、白色の制服と黒色の制服を纏った、同じ学校に通い同じクラスに所属している同い年の美少女姉妹は肩を並べて外で待ち、頼りあるのかないのか微妙なナイト様が送り迎えしてくれるための準備を終えるのをノンビリと待ち続けていた。

 

 そんな中、ふとサーシャが妹に向かって、こう尋ねる。

 

「ミーシャは・・・・・・アノスのことが好きなの?」

「・・・・・・好き」

「――っ」

 

 妹の癖で、答える前に間が空いたとはいえ控えめな彼女にとっては即答で回答されたのと同義の返しに、思わずサーシャは戸惑いを覚えて心を揺り動かされ、一瞬だけ魔眼の制御を失いかけた音だけが周囲に響き――そして何も起きぬまま壊さぬままに消え去っていく。

 

「お待たせしましたね。行きましょうか?」

 

 そう言いながら待ち人が出てきてくれたことで、今夜のこの話題はここまでとなり、二人の少女は久しぶりに人目を憚る必要もなく手を繋いで夜の街を歩いて家路を辿る。

 仲のいい姉妹同士の他人が口を出すべき言葉もなければ、子供っぽいなどという野暮も言う気にはなれぬまま、ただ三歩後ろに下がって後方から二人の後を等距離を保ちながらついて行く、甲斐甲斐しいお嫁さんのような気分を悪くないこことで味あわされながら数十分後。

 

 

「――ここでいいわ。送ってくれてありがとう」

 

 ネクロン家の邸宅らしい、豪奢な屋敷の前でサーシャが少女に向けて声をかけて立ち止まる。

 告げられた側である黒髪の少女は、頭に思い浮かべた街の地図と歩いてきた経路を重ね見たイメージを想像し、明らかな遠回りしていた小道を何本か選んで自宅へと戻ってきていたネクロン姉妹の事実に気づいて言及することもなく。

 母から持って行くようにと渡された土産物をミーシャに渡すために、身体ごと彼女の身も元に唇を近づけて小さな声で一言だけ。

 

「仲直りできたみたいで、良かったですね?」

「・・・・・・ん。明日話す。だから聞いて欲しい・・・」

 

 珍しく自慢したそうな班員の頼みを快く承諾し、班長としての義務を果たした直後。

 

「なにコソコソ話してるの? やーらし」

 

 もう一人の班員に誤解されてしまって、せっかく治りかけた姉妹仲に水を差してしまいかねない結果となってしまったため、やむなく班長一人だけが泥をかぶって姉妹仲を良くするため貢献する自己犠牲精神を発揮せざるを得なくなってしまった。責任者というものは何かと辛い。

 

「なに、気にしないでください。貴女のことを話してただけですからね」

「いや、気にするわよソレ!? なに!? なに話してたのアンタ!? 私の妹になに吹き込んでたのよ話しなさいよこの性悪ひねくれ悪魔ーっ!?」

 

 夜遅くに嫌われ役を演じ終えてから片手をあげて別れの挨拶を交わし合い。

 

「はあ・・・まぁいいわ。わざわざありがとね、ご機嫌よう」

「・・・じゃあ、さようなら・・・」

「ええ、また明日学校でね」

 

 普通に挨拶を交わし合い、二人が屋敷の中へ消えていくのをマナーとして見届けてから背を向けて、今度は自分の家に向かって帰り始めた黒髪の少女だったが――

 

 ふと、気配を感じて振り返り、少しだけ予想外だった人物が門扉に寄りかかっている姿を見つけて声をかけるのを僅かにためらう。

 

「・・・どうしたのですか? サーシャさん。なにか私に用事でも?」

「・・・・・・別に・・・・・・」

 

 サーシャ・ネクロンが微かに頬を赤らめながら戻ってきており、その隣に妹の銀髪は見当たらない。

 仮契約でしかない姉一人だけが戻ってきた理由が判然としないまま、ただ疑問を呈しただけの質問だったのだが。

 

「――ありがとう」

 

 思いもかけぬ感謝の言葉に、一瞬だけ意表を突かれて思考が止まる。

 

「貴女のおかげでミーシャと仲直りできたわ・・・本当に感謝しているの・・・本当よ?」

「・・・お気になさらず。その件で私は何もやれてはおりませんでしたからね」

 

 少しだけ、居心地の悪さを感じさせられながら、後ろめたさと共にそう答えるしかない黒髪の少女。

 実際彼女は、自分では彼女たち姉妹のために何もやれていないと思っている。

 自分がやったことと言えば、せいぜいサーシャ達の班を完膚なきまでに敗北させて、言葉責めしてダメ出しして。悪口ばっかり言って意地悪しかした覚えがなく、本気で姉妹の仲直りのため何かやれたという認識はどこにも見つけられそうにない。

 

 すべては彼女たち自身が癒やしたことで、彼女たち自身の手柄でしかなく、自分は切っ掛けさえ作れていたとは到底思えない。

 何もしていないし、何もできていない。・・・もとより魔王とは、そういうものだ。

 ただ壊し、ただ殺し、全てを否定して自分だけの我を貫くだけの存在でしかない身の上。圧倒的に強い力しか持ってないから――壊すことと殺すことしかできゃあしない。

 『治す』なんて作業には、生まれてこのかた適正持ってたことなんて一度もない。

 

「そんなことないわ。

 私に向かって“配下になれ”なんて命知らずなこと言う人は、貴女以外にいないもの」

 

 だからこそ、こう言うのは困る。返事に困るし、反応にも困るしかなくなってしまって・・・結局、露悪的な返ししかできなくなって困ってしまうパターンなのだから。

 

「そうですかねぇ~? 私にとっては命を失う心配はない発言だと知っていたからこそ言えただけなんですけどなぁ? 実際に掠り傷一つ負わされなかったわけですし~」

「~~・・・ッ、う、うう、うっさい! 蒸し返すな! この性悪ひねくれ外道悪魔!!」

 

 さっきよりも接続詞が一つ多めに付け足されたことを頭の中でカウントしながら、やはりこちらの方が自分的には合っていると実感しながら。

 黒髪の少女が一人、安心したように一息ついていると――

 

「ねぇ・・・おかしな質問だけど・・・聞いていい?」

「なにか?」

 

 サーシャから何か言いたそうな態度でモジモジしながら問われた質問。

 それに対して、ひとまずは聞かせて貰ってから考えようと続きを促し、教えて貰った質問内容は些か抽象的で奇妙なもの。

 

 

「もしも運命が決まっていたら、貴女ならどうする・・・?」

 

 

 どこか縋るような瞳で、自分の答えを否定してほしいと願っている瞳で。

 あるいは相手の言葉で、自分の中の何かを諦め、別の何かを諦めないための決意を決める切っ掛けとして使わせて欲しいと願っているかのような声と瞳で問いかけられて。

 

 黒髪の少女は「そうですねぇ・・・」と顎にてをやり、夜空を見上げて小首をかしげ。

 

「生憎と、運命なんてものを信じたことがない身ですので確かなことは言えませんが・・・。

 でもまぁ普通に考えて、どうでもいい運命だったら気にしないでしょうし、気に入らない運命だったなら変えるために動き出すんじゃないですかねぇ? 多分ですが」

 

 どこかテキトーで大雑把な返事の内容。

 もとより彼女にとって、『運命』とか『宿命』といった存在も定義も確定して久しい身の上。今さら考え直したい気持ちになれるほどの純粋さは保つことができていない。

 

 ―――だが、しかし。

 

 

「・・・運命が変えられると思うの・・・?」

 

 

 そのミーシャの言葉を聞かされて、熱のなかった少女の黒い両眼に二千年前の元魔王が浮かべていた黒い炎が微かに、だが確実に灯を点させる。

 

「サーシャさん・・・貴女はなにか勘違いをされておられるようですね・・・」

「え・・・、勘違い・・・?」

「そうです」

 

 戸惑う相手に身体ごと向き直って両目を向けて、理由は分からないまま思わず一歩後ろに後ずさられてしまうナニカを纏わせた黒髪の少女から、年頃の少女の声を使ってナニカが、何処かから、時の彼方に忘れ去れて今では誰も名前さえ覚えていない時代となった『誰かの言葉』を『信念』を。

 二千年の時を超えて今、披瀝する。

 

 

「――魔王学院が後継者を育てている暴虐の魔王とは、【全てを支配する者】のことです。

 何者にも【支配されることを許さぬ者】のことなのですよ、サーシャさん。

 誰にも支配されない、支配させない、従わされない、常に従わさせる側に立ち続ける存在。

 魔王の上に立って支配しようとする者がいれば殺す。ただ殺す。魔王の敷いた摂理に力尽くで従わせる。魔王の上に君臨する者など何人たりとも生かしておかない。生かしておく価値などどこにも認めてやらない。

 そいつの名前が運命だろうと神様だろうと、大魔王とやらだったとしても関係ありません。

 自分を支配して、従わせようとする者は皆殺しにしなさい。それが暴虐の魔王の後継者になろうとする者が背負う絶対義務だ。忘れるなよ、不肖の子孫共」

 

 

「ぐ・・・、あ・・・あ・・・・・・っ」

 

 

 圧倒的な眼力。圧倒的な存在感。我こそが全てに勝る者と豪語して、魔族も人間も神々も精霊をも気にくわない奴らを殺して殺して殺しまくった主観の権化。

 やりたいことをやり尽くして満足したから消え去る道を自ら選んだ、くだらないと感じた連中を魂まで燃やし尽くした憎しみと殺意の炎、その残り火を宿した瞳を持つ存在に射すくめられてサーシャ・ネクロンは立ち続けていることさえ叶わないまま、自分でも気づかぬうちにへたり込み、腰を抜かした姿で相手の顔をただ見上げるだけになる。

 

 運命よりも、宿命よりも、神や理や世界の全てよりも自分一人の方が上。

 自分だけが上だ。自分以外は全て下だ。

 

 ―――対等なのは、たった一人だけの友人でいてくれた“彼”だけでいい―――。

 

 そう定義していたからこそ、二千年前に自分は神を殺し、理すらも焼き尽くし、元々自分が属していた人間サイドを裏切って、人であることすら辞めて魔族になり、魔族の王たる魔王を殺して魔王となった。

 

 年若いサーシャが抱いている悩みや矛盾、葛藤など……暴虐の魔王と恐れられるまで長い年月を過ごしすぎてきた少女にとっては、とっくの昔に結論は出ている。

 二度と覆す気のない、決意と覚悟を死体の山を築くことで体現してきた信念という名の結論を……。

 

 そんな彼女が心も体も若く幼い純粋な子孫を見下ろしながら、どこか照れたように表情を崩し、ムキになってしまった自分をごまかすように口添えしながら、それでも自分の思いだけはハッキリと相手に告げて。

 今夜の会話は本当にお開きとなる―――。

 

 

「まぁ、要するに魔王っていうのはワガママを言う子供と同じようなものでしてね。

 欲しいものを欲しがって叫き、力尽くで奪おうとするだけで、理非も道理もありゃしない存在のことなんですよ。

 そんなのになりたいと望むんでしたら、運命だから仕方ないだだとかどーとか物わかりの良いこと言ってないで、ワガママを押し通して運命だろうと何だろうと変えちゃいなさい。

 なにしろ子供相手に理屈を説いたところで無駄だと、大人の皆さんもよく言っていることですからね~。無駄なんだったら仕方がありません。

 気にすることなく、無駄なことでも、どーにかするため無茶しちゃいましょう?

 子供に向かって『無駄だ』『諦めろ』とか偉そうな顔して宣ってくる自称大人どもの屁理屈に唾吐きかけて罵倒してやって、覆したときに見せてくれるガキっぽい言い草と表情をバカにしてやるために無駄な努力してみる価値は結構あるもんですよ。

 効果は保証しましょう。ええ、絶対に。経験者として太鼓判付きで・・・・・・ね?」

 

 

 そう言って、夜空と満月を背景にウィンクして見せた小悪魔のような元魔王の笑顔をサーシャは見上げ、一体その胸になにを去来させていたのか?

 今の時点では、まだ誰も知る由もない・・・・・・。

 

 

つづく




*投稿したときは眠かったため書き忘れていた補足説明です:

今作版アノス(黒髪の少女)の両親の性格が一部変更されているのは本人たちではないからです。子供の性別が変わったのに合わせて、ご両親にも変化が訪れている設定。
言ってみれば『歴史IF』な作品でしたので、彼女たちも同じには生まれなかったという感じですね。
それでも結ばれ合ってるところに絆の深さを表現してみた感じです。

ミーシャとサーシャから主人公に向ける好意が曖昧に描かれているのも同じ理由で、性別が同じなため『友達として好き』なのか『女の子同士でも好き』なのかが本人たちの中でも解っていない状態ですので曖昧に描いてます。
loveとWithの違いは結構好きな作者だったり♡

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。