コルベットがメインのはずなのに最後ら辺でチラッと出てくるだけのガンダム二次創作第2弾です。
なぜだか毎回のように食料がヤバい事になっている一年戦争終結直後の砂漠地帯が舞台です。私は砂漠と食糧問題になにか拘りでも持っているのでしょうかね・・・? 謎です。
GUOOOォォォォ・・・・・・
真昼の時間帯にある地球上の南半球、砂漠地帯。
その上空を今、鋼鉄で形作られた三匹の親鳥たちが雛たちに餌を与えるため、ゆっくりと降下体勢へと移行しようとしていた。
腹を空かせて待っている子供たちを驚かせないため、親鳥たちの長は食事時の到来を告げる鐘の音を鳴らす。
『ストーク(こうのとり)リーダーより、パーチ7(とまり木)へ。着陸許可を請う』
事務的な口調で伝えたところで給料分までの仕事を果たし、唇をゆるめた親鳥たちのリーダーは、自分たちの運んできた数ヶ月ぶりの餌に群がり分不相応なほどの高待遇で接してもらえる補給作業中の数日間に思いを馳せて、サービス精神たっぷりに規定違反の私語を交えてハッピータイムの到来を大仰な口調で口にだす。
『よろこべ、欠食児童ども! 運んできてやった飯の中には久しぶりのプリンが混じっているぞ! 都市部での学校給食に一月に一度だしてもらえるかどうかのご馳走だ!
戦前に味わい尽くせてた嗜好品の味をたっぷりと思い出しやがれ!』
途端、棺桶よりも狭い地球連邦軍が保有する輸送機ミデアのコクピットルームには、通信機の向こう側で轟き渡る大歓声に包まれる。鼓膜が破れるのではないかと思えるほどに喧しい騒音を耳にした機長は、子供の頃にはじめて聞いて感動したエルビス・プレスリーの歌を思い出しながらlet it beを鼻歌で歌い出す。
地球圏全土を戦渦の渦に巻き込んだ人類規模の大戦『一年戦争』。
その終戦から一年半しか経っていないこの時期、地球の食糧事情は悲惨の一言に尽きていた。とにかく、物生がないのである。
人類の総人口の半数を死に至らしめた大戦の勝利国とは言え、もとは只の地方自治体でしかなかった宇宙都市国家ジオン公国と母なる青い星とでは元手に差がありすぎている。
ジオンの1に対して三十倍もの国力を持つ地球連邦は、たとえ損耗率が同じでも被害によって生じた飢餓人口は単純計算でさえ、敵の一人に対して三十人以上にまで跳ね上がってしまうのだから戦後の食料問題で不利になるのがどちらであのか、子供でもわかると言うものだ。
むしろ宇宙空間という特殊な環境で暮らしていかなければならないコロニー住人たちの方が、まだしも良い飯を食べられている可能性すらあった。
無味無臭なカロリーゼリーとジオン兵からは揶揄されていた不人気のレーション食でさえ、今の地球連邦軍辺境地域駐屯部隊にとっては戦友を殴り殺してでも奪い取りたい滅多には食べられない嗜好品になってしまっている昨今。
上のお偉方が急速に軍縮を進めるのも理解できなくはないと感じさせる窮乏ぶりは、補給部隊所属の運び屋でしかないアジャン大尉にとっても目に余る物があったのだから。
『・・・ガガ・・・なに? それは本当か? ・・・わかった、今伝える。
ーーパーチ7よりストークリーダー、しばらく待機されたし』
「あん? そりゃ一体全体どういうことだ? 飯食うよりも優先すべきことなんて生きてる間にそうあるとも思えんが?」
『その意見には心から賛同するが、あくまで個人間での会話に限っての事柄だな。ーー仕事だ。
三秒後にドライブレコーダーのスイッチを入れるから、以降はオフレコの会話は無しに願うぞ? 俺は餌を運んできてくれる優しい親鳥を小銭のために売り飛ばした裏切り者として吊し上げられる、真面目すぎたユダにはなりたくないんでな』
「ちっ。了解したよ・・・・・・こちらストークリーダー。パーチ7、何があった? 状況を知らせ」
『現在、当基地は所属不明の武装勢力から襲撃を受けている。122基地から報告のあったモビルスーツ持ちの奴らだ。
ジムもどきやザク頭が数の上では主力だが、少数とは言え正規品のグフとドムが確認されている。装備は連邦制の物を使っているが、純正品だ。資材備蓄エリアに戦力の半数以上を投入してくる食い詰めた盗賊集団にしては贅沢すぎている』
公式記録として残すと告げながら、必要以上に多くの有益な情報をもたらしてくれている管制官の態度から、含みをもたせて言葉にしなかった部分を正確に読みとったストークリーダーはドライブレコーダーに細工してある引っかけ棒をわずかに持ち上げて音を混ぜてから低い声でつぶやき捨てる。
「・・・ちっ・・・腹が減って親と巣穴を見放したガキどもが家出するときに装備ごと持ち逃げしているパターンかよ・・・」
『パーチ7よりストークリーダーへ。オフレコは無しと言ったはずだぞ? 加工する手間に報いてくれるなら、次からは軍人らしく真面目に戦争してくれ』
「わーってるよ、悪かったって。ーーストークリーダー了解。そちらからの指示に従いたい。誘導を頼む」
『パーチ7了解。おそらくはジオン残党と手を組んで捨て駒にされた非正規連中だと思われるが、ジオン正規軍が加わっていた場合、高速飛翔体を保有していないとは断言できず、着陸の安全は確保できそうにない。安全のためにも一時避難していてくれ。
現在、守備隊を上がらせているから20分もあれば片が付くと思われる。どのみち敵は食う物にも事欠く難民もどきに過ぎないんだ、押し切れないと分かりさえすれば勝手に退いてくれる』
「ストークリーダー了解。追撃のために出撃予定のトリアーエズ部隊が出撃し終えるまで待っていた方がよろしいか?」
『追っていったところで殲滅戦を実行するには政府に許可を仰がなければならない。先走っての独断専行は武人の恥というものだ。それに、退いていく敵を背後から撃つ悪趣味の持ち主は当基地には実在していない』
見せるため聞かせるためにのみ語られる、正しい軍人精神とやらを耳に言い続けられてきた機長としては笑止な言い分ではあったが、これが辺境を住処として指定されている連邦軍人の処世術である以上は文句も苦情もありはしない。甘んじて受け入れるだけである。
安全な避難場所の指定を求めて叶えられ、伝えられてきた座標に示されていたポイントに移動していくストーク隊だが、言うまでもなく彼らは油断など微塵たりともしていない。
辺境にある『安全な避難場所』とは他と比べたら比較的安全という程度の安全性しか持っておらず、それでさえ辺境部にあっては最大限に安全が保証されている空間なのだからマシな方とも言えるだろう。
この広漠たる砂漠の地に、敵が潜んでいないと保証してもらえて安全が確保されている場所など存在しない。あるとしたら、それは敵が手ぐすね引いて待ちかまえている絶対に安全ではない特Sランク危険地帯であると断言できるからだ。警戒しておくに越したことはないだろう。
そして非常に残念なことに、その警戒心は正しかったことは証明され、彼らの予測が的確であり正しい物だったことを誰もが認める結果が、黒い翼を広げて上空から襲いかかってきたのである!
ビーッ! ビーッ! ビーッ! 敵機接近、敵機接近!
「総員は何かに掴まって黙り込め! 生き残ったのに舌噛んで死んでましたとか言う間抜けは、ジオン残党のドブネズミどもに殺されたことにして死体を空から投げ捨ててやるから覚悟してやれ!」
「機長! 敵の機種確認ができません! ドップに似てはいますが、巨大すぎます! これではまるで戦時中のアッザムのようだ・・・まさか! ジオン残党は新型機まで開発する力を有していたのかーーぶっ!? き、機長・・・!?」
報告と憶測を二つ同時にこなす器用で無能な副長の顔に、フライトの最中オートパイロット飛行時に眺める用のご禁制アダルト雑誌を投げつけて黙らせてから、機長は随伴している残り二機を振り返り声を荒げて全速力での離脱を指示する。
「全機退避! 何でもいいしどうでもいいから全力で逃げろ! この敵はヤバいが、バラバラに逃げりゃ一機は確実に食われる代わりに残り二機は確実に逃げきれる敵だ!
敵は『コルベット』だ! ミデアハンターだ! 残党に新型を開発する力があるはずない以上、この襲撃手順は奴しかいない! 輸送機強襲揚陸占拠に特化した空のハイエナどもに狙われちまった哀れで無力な獲物なんだよ今の俺たちはな!
補給物資強奪のプロたちが相手だ! 逃げ遅れた味方を気にして足を止めたら二重遭難して腹に収まる獲物の死体が二人分になるだけだという事実を認めて受け入れろ! できなきゃ死ぬぞ! 方角とか決めてる暇があったら動きまくって逃げまくれ!
いいな!? わかったな!? 逃げ出す俺は責任とれんし通信も切るから逃げ遅れた奴は自分の知恵と力でなんとかしろ! 以上だ!」
機長が通信を終えてマイクを元あった機械に叩きつけようとする寸前、「リーダー! リーダー! こちら3番機! 食われました! 助けてください!」とスイッチを切る前だった通信機から悲痛な叫び声が聞こえてきたために機長は「ちぃっ!」と、大きく舌打ちする。
「3番機、よく聞け。我に貴官を救う手だて無し。奴らに食われて餌になれ。お前らの遺族には俺から感謝の手紙を書いといてやるから安心して逝け。『ご子息がいてくれたお陰で俺たちは今を生きられてます。有難うございました』ってな。以上だ」
「リーダー!? リーダー!? 俺たちを見捨てるのか!? このヒトデナシ野郎めが! 地獄に堕ちやがれ! ーーああっ! く、黒い翼が俺たちの真上に覆い被さってきて・・・・・・か、母ちゃーーーーっん!! 俺、死にたくねぇよーーーーっ!!!! 助けてく」
ブツンッ。
通信機のプラグを抜いて床に投げ捨てた機長の無表情な顔面を、新任の副長は蒼白になって見つめることしかできないまま数分間飛び続けてから機長はポツリと一言だけつぶやいた。
「故障だ」
「・・・え?」
「抜け掛かっていたプラグが急速反転するときの振動で抜け落ちた。戦場ではままあること・・・つまり事故だ。戦場の摩擦だよ。基地指令殿と上官殿にはそう報告しておけ。わかったな?」
操縦桿を握る彼の右手とは別に、左手に握りしめられている拳銃の銃口が微動だにせず自分の心臓を狙っていることを自覚させられた副長はただ一言だけを返事とした。
「い、イエス・サー・・・」