試作品集   作:ひきがやもとまち

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『超人高校生たちは異世界で』の最新話となります。
出来あがったのは実はけっこう前だったのですが……ちょうど世相が変わってしまった時期だったため出していい内容か不安になり、お蔵入りしながら調整してたんですけど…。

さいきん新しい話がなかなか書けない状態が続いてましたので、仕方なくストックから出してきた次第。今の世相的に大丈夫なのかビクビクしてる内容が踏まれてますので、ご注意を…。


キチガイたちも異世界で余裕に生き抜けてるようですが何か?3章

 フレアガルド帝国フィンドルフ領にある貿易都市ドルムントの街。

 この街で唯一の商会であるノイツェラント商会の本館ロビーで今、一人の若者の冷静な声が冷たく響き渡っていた。

 

「――だったら、交渉決裂だな」

 

 エルム村の財布を預かる金庫番で、肝っ玉の太い美女フィノナの息子でもある、十代半ばで生意気そうなビューマの少年『エルク』

 彼は越冬準備のため必要物資を購入しようと、今年分の収穫を持って貿易都市ドルムントへとやってきて値段交渉を行おうとしていたのである。

 

 相手も自分たちから商品を売ってもらわねば商売に響くはず――そう考えて譲歩を引き出すためエルクが使った、初歩的な脅しによるブラフ。

 

 だが・・・・・・、

 

「我々、ノイツェランド商会の値付けが不満なら、ド~ゾ~? 他へ行けばいいねェ」

「――え? あ、い、いやその・・・・・・」

 

 たった一言、普通の返しをされただけで虚勢は崩れ去り、露骨な怯えと不安を態度にも声にも尻尾にまで現してしまう未熟すぎる少年のエルク。

 これでは交渉もなにもあったものではないのだが・・・・・・仕方がない。

 何しろ彼には他に“選択肢が与えられていない”のだから。

 ポーンだけで、全ての駒を揃えた相手と対局するハンディマッチのチェスのような状況下で、年齢的にも経験的にも未熟な交渉人エルクがどうにか挽回できる余地など微塵もなかったのだ。

 

 商会の長であるブタ面の大商人ヤッコイは、エルクの醜態ぶりに見た目通りブタのように下卑た笑い声を上げるが――今の彼は一銭の得にもならない弱い者イジメよりも気になる存在があって、先程からソチラに目と意識が向いたまま話せなくなっていた。

 

 新参の客らしき、“見たこともない服を着た外国人”の商人。

 “純金の指輪やネックレス”をジャラジャラ付けまくった、見るからに金の臭いを漂わせた成金としか思えない、黒髪黒目をもつ一人の青年・・・・・・この男を決して他の町に渡してはならない。

 

 そう思ったヤッコイは、まだ無意味な交渉ゴッコを続けたがっているエルクに対して、一応は取引相手で納品相手のお得意様“ではある”立場に対する仕方なしの礼儀から妥協案を提示。

 

「どうだろうエルクくん。そんなに納得がいかないのなら、町を一回りして今の相場を見て来た上で、改めて交渉しようじゃないか。その方が君的にも納得できるんじゃないのかな~?」

「それは・・・・・・わかった。そうさせてもらう」

 

 町を見て回ったところで何が変わる訳ではないと承知しているエルクだったが、一先ずの交渉先延ばし策として相手の手に乗っかり、席を譲る。

 厄介払いに成功して、目当ての新参客の相手がようやくできるようになったヤッコイだったが・・・・・・去って行こうとする相手の後ろ姿に余計なことを言って、権威と力を見せつけたい欲求を我慢できないのが彼という人間でもあったのだろう。

 

「た・だ・し、エルクく~ん。

 もーし、町を見て回ったときにドルムントの町中で他に買い手が見つかった時には、教えてくれると助かるねぇ~。

 なにしろ、この許可証なしで商売してるところは通報しなきゃいけないのでねェ~? 私も大事なお得意様の君を、密輸の罪で犬小屋ならぬ豚小屋に入れたくはないからさァ~。ブヒヒヒ♪」

「~~~っ!! さいですかッ!!」

 

 あからさまな挑発と見下し、そして額縁入りで壁に飾られた紙切れの「自慢話」をしたかっただけのヤッコイに、肩を怒らせながら乱暴な足取りで商会の門を潜って出て行くビューマの少年エルク。

 

 そう。このドルムントの町にはノイツェランド商会以外の商会がなく、別の誰かが商売を行うことは法律によって許可されていないのである。

 外国から来た大商会というならまだしも、エルクのようにフレアガルド帝国の国民で差別種族のビューマでもある吹けば飛ぶような寒村の金庫番ごときが、生きるためとは言え法を破ってしまえば仲間たち全員が処罰の対象になってしまうしかない。

 受け入れられずとも、村の皆が冬を越すには量が足りないとしても、この商会で売って手に入れた額でやり繰りする以外、彼には金庫番として村を食わせていく手段を与えられていなかったから・・・・・・

 

 その背後では、急に愛想良く揉み手をしながら新参客の対応を開始して、相手の男も慣れた調子でおべっかを言いながら、挨拶代わりに黄金色の菓子折を渡して親睦を深めていく汚い金の話をし始めたようであったが、エルクはこれ以上この建物内にいたくない気持ちになっていたから聞こうともせず商会を出て行っていた。

 

 

 

 

 

 

 ―――交渉は不首尾に終わり、冬を越すためには幾つかの生活必需品を諦めるか、他の同胞達に融通してもらうしかない去年や今までと同じ結果しか出せなかった己の未熟さに打ちひしがれながらエルクは、ノイツェランド商会の建物を出てトボトボとした足取りで歩き出す。

 馬車を引く手も嘘偽りなく落ち込んでおり、町の中央にある広場の噴水近くまで歩いてきたときにも驚いた顔を見せて、意図的にやってきた場所ではないことを体現してから噴水の辺に座り込んで天を仰ぐ。

 

 ・・・・・・そして、普段はこのまま夜の酒場まで落ち込み続けられるのが今までのパターンだった彼に、今回は陽気な声で話しかけてくる変わり種がいてくれたために色々な錯誤が生まれ始める切っ掛けとなってしまうのだった。

 

 

「よう。出迎えご苦労、忠犬エル公。褒美に菓子でも買ってやろうか?」

 

 

 ――と、横柄としか表現しようのない口調と風体で片手を挙げながら彼に近づいてくる、黒髪黒目で黄色い肌をした外国人の男。

 

「それと、演技の方もごくろーさん。」

「・・・別にお前を待ってたわけじゃねぇ。置いてくと母ちゃんにドヤされるから仕方なくだ」

 

 仏頂面でエルクは男に、そう返す。

 さきほどノイツェランド商会で入れ違いになった外国商人であり、自分たちの村が助けてやった「異世界からきた」と“自称している”「無駄飯ぐらいの厄介者たち7人」の一人で、その中でも一番ガラの悪い印象を与える人物。

 たしか、お仲間からは、「マサ」と呼ばれていた日本人青年――『鮫田雅俊』がそこに立ち、エルクに笑いかけていたのである。

 

 彼はエルクが村を出立するとき勝手についてきてしまって、何を言っても罵っても怒鳴ってもヘラヘラ笑って聞き流すだけで真面目に相手にしようとせず、面倒になったから自分の仕事を邪魔しないことだけを絶対条件として同行を許可し、今に至っている。

 

「・・・ったく。勝手についてきた挙げ句、あんな小芝居まで打たせやがって・・・。一体何だったんだよ? あの猿芝居は・・・」

 

 そして、その時。

 相手からも要求を飲むための条件として一つ提示されたものがある。

 

 

“お前が交渉するとき、後ろで見ている俺とは関係ない赤の他人のフリをしろ”

 

 

 それがマサが、エルクに求めてきた条件の全てだった。

 何がしたいのか全く分からなかったが、エルクの果たすべき役割と矛盾しないものだったし、こんな奴と知り合いだと思われるのは彼としても不本意だったので、渡りに船とばかりに深く考えることなく飲んでしまったため、彼には未だに相手の意図がよく分かっていなかった。

 

 そんな彼からの反応に対して、逆にマサは急に笑顔を引っ込めて顔をしかめ、まるで「バカ」を見下すような表情へと変わったためエルクの方が微かに戸惑いを覚えてしまった。

 

「な、なんだよ・・・そんな顔して・・・」

「お前ひょっとしなくても、バカか? 最初からお前とつるんで入っちまったら、向こうさんにお仲間だと思われちまって情報収集できねぇだろうが。

 どこの世界に自分が買い叩こうとしてるカモネギに、自分にとって都合の悪い正しい知識あったら教えてくれる正直者な悪徳商人がいると思ってんだよ。バ~カ」

「ぐっ!? ・・・ぐぬぅ・・・」

 

 馬鹿にされるように言われて初めて気づき、悔しげに唸るしかなくなってしまうエルク少年。

 だが、こればかりは相手の言い分が正しすぎて噛み付くわけにもいかない。むしろ今の今まで何で気づかなかったのかと、自分でも自分はバカなような気がしてくるほど当たり前すぎる意見だったから反論しようがなかったのだ。

 

 たしかに、マサの言うとおりなのだ。

 異世界から来た、という言葉が眉唾だったとしても彼らが外国人であることは服装などから見ても疑いようがなく、この国に関して無知すぎる反応から見て法律や制度などの知識が欠落していることも明白。

 法律について何も知らぬまま、違う国で商売はできない。最低限、なにが違法で合法かぐらいは知っておく必要があり、それを知るには現地の先輩商人から教えを請うのが一番手っ取り早い。

 

 だがヤッコイにとって、エルム村とエルクは殿様商売相手のお得意様だ。商売の知識に詳しくなられて得する点は何一つない。

 利益の共有だの全体の向上だのといった、資本主義経済の概念が普及しているならいざ知らず、一方的な搾取経済を望んでいる者にとって、フェアで対等な勝負になり得る相手との知識共有など歓迎されるはずがない。

 まして、あのヤッコイの性格ならば尚更に。

 

 ――とは言え、相手の言い分と指摘を素直に認めて、浅はかさを反省するのは些か以上に癪になる相手。

 それが異世界から来た、経済界で二番目の天才に与えられやすい評価の定番だったのも事実ではあり。

 

「・・・うるさい。そんなもの知ったところで、どーせ意味なんかねぇよ。来るときにも言っただろ?

 この町には、あそこしか商会はないんだ。あそこで売るしかねぇんだよ! 情報なんか手に入れても仕方ねぇだろう!?」

 

 相手への反感も手伝って、文字通り犬歯をむき出しにして噛み付くような勢いでマサに対し、自分では正論もしくは現実論と信じている言葉を突きつけてやった狼の尻尾を持つ少年エルクであったが・・・・・・それは相手の商売を知っている者から見れば蛮勇と評していたかも知れない自業自得な結末を招くことになってしまうだけだった。

 

「なにが仕方ねぇんだ?

 お前がブタに言い負かされて尻尾巻いて逃げるしかねぇ負け犬の癖して、プライドだけはバカ高ぇから、俺に八つ当たりしてケンカ売るのは仕方ねぇんで許せとでも言いてェのか?」

「なっ!? なッ!? なななんだとテメェ!? なんも知らねぇ癖して勝手なことを!!」

「っつか、仕方ねーもなにも、お前さっきアイツとの交渉でなんかしてたのか?」

 

 自分の言い方と選んだ言葉の悪さが理由の大半以上で激しまくったエルクとは裏腹に、淡々とした口調で至極冷静にマサは先程のエルクが行っていた交渉“ゴッコ”の内容を冷徹に酷評してのける。

 

「相手の言い値で村の収穫物売り払って、相手に言われた通りにサインしようとした。それだけじゃねぇか。

 せいぜい村からドルムントまで荷物運んできてやっただけが、お前さんのやったことの全て。ガキの使いと大して変わらねぇ簡単すぎるお使いだ。

 届けろって言われた物を、言われた通りの場所まで持ってくだけでいいなら、どんなクソガキでも下っ端のチンピラでも出来らぁな。

 ハッ! 無駄飯ぐらいの居候ってのは、どっちの事を言ってた言葉なのかねぇ~? クハハハッ!!」

「て・・・・・・テンメェェェェェェッ!!!!」

 

 流石に堪忍袋の緒が切れたエルクは思わず、相手の長身に向かって殴りかかる!!

 もともと気が長い方ではなく、ヤッコイに言いくるめられたことに不満や怒りを感じていない訳もない。

 ちょうど我慢が効きづらい状態の時に、やってもいいなら八つ当たりしてクサクサした気分を発散させたい! そういう想いを抱かずにはいられないエルクの若さ故の感情発露だったのだが・・・・・・しかし。

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ―――って、痛い!?

 痛い痛いッて! 痛痛痛ァァァァァッ!?

 折れるッ!? もげるッ!? アウチ! ぼうデンばうッ!?

 ぎぶぎぶぎぶぎ――――ッぶるしゅゥゥゥ!?!?」

 

 

 

 ・・・・・・アッサリと殴りかかった腕をねじ上げられて、骨が折れない程度に加減しながら関節技決められて、命の危機感から自分たちの知らない「降伏」を意味する異世界言語を涙と鼻水垂らしまくりながら連呼させられまくる立場へと、自ら突っ込んでいっただけで終わりましたとさ・・・・・・。

 

「・・・あのなぁ。老婆心で忠告しといてやるが、堅気の人間が怒りまくって感情バーストしただけで、スジモンに喧嘩売るのは辞めといた方がいいと思うぞ? 危ねぇからよォ~。

 ったく、俺たちの世界にある俺の国でもそうらしいが・・・最近の若いもんとかジャパニメーションだかハリウッド映画の中とかだと、人道的理由で非人道な奴らに怒りさえすりゃ碌な訓練も受けてねぇ庶民でも拳が届くもんだと思い込んでるヤツが増えてるみてぇだが。

 困ったもんだぜ、まったくよォ。命は大事にするもんだ」

「ぜひぃ・・・、ぜひぃ・・・・・・、し、死ぬかと思った・・・・・・」

 

 たっぷり数分間ぐらい痛みを耐え忍んで我慢してから解放され、四つん這いになって痛みで涙で顔がグチャグチャになってるエルクに対して呆れたように忠告してくれる。

 

 世界一の天才でもあり資本主義の魔王でもあった男に地位を追われて逆恨みしてそうな負け犬共が、楽して一攫千金できそうな弱者を力で食い物にしてるだけでいい治安の悪い地域の経済を、碌でなし共とセットで管理していたヤの付く商売の人間に、夢見る少年少女が好みそうな幻想は通じづらい。

 

 殴りかかってきた人間は、三倍返し、四倍返しの報復によってリスクの巨大さを思い知らせて再発を防ぐ犯罪業界のやり口に慣れているマサにとって、エルクや現代日本の若者達が好みそうな生き方は、死に急いでるようにしか見えなかった訳だが・・・・・・そんな彼だからこそ、世界一の天才には気付くのが遅れそうな部分に、素早く到達できてしまうこともたまにはあり。

 

「それにだ。―――このままだと、お前らの村は絶滅するぞ?

 いや、お前の村だけじゃない。お前らの種族全体が死に絶えて地上から消えてなくなる日が必ず来る。その第一歩目を、お前が進ませてやらんでも良かろうに」

「ふぅー、ふぅー。・・・・・・って、え? な、なに言ってんだアンタ・・・死ぬって、一体どういう事だよ!?」

 

 痛む腕に息を吹きかけていたエルクだったが、聞き捨てならない話を聞かされたことで再びマサに掴みかかる。

 マサも今度は反撃しようとはせず、素直に掴まってやった後、「ニヤリ」と笑ってから静かな声音で語り始める。

 

 

 ――『資本主義の魔王』と呼ばれた天才だったなら、経済をそんな風に使うことを決して許さず、許さないからこそ気づくのが遅れたかもしれない方法論を。

 経済は使い方次第で、戦争よりも容易に、戦争よりも多くの人間を、戦争よりも効率よく楽に、大量虐殺できる道具にもなれるという現実の説明を――

 

 

 

「コイツぁ、俺の世界で実際にあった国がやってたことのある昔話だ。

 ――あるところに、悲願の独立を達成したばかりの小国があったんだが、傍若無人な隣国に悩まされていた。革命を成し遂げて独裁的な支配体制での安定を取り戻した大国だ。

 あるとき大国は、小国に対して要求をしてきた。

 曰く、『壁越しの部屋の音が気になるから玄関と壁に面する部屋を俺に寄こせ。代わりに北風は吹き込むが見晴らしの良いバルコニーをくれてやる』と。

 暴論だったが、小国が大国相手に逆らっても勝てるわけがないので、仕方なく玄関をくれてやってバルコニーを受け取ることで当面の争いは避けられた。

 だが一端譲らせちまえばアッチのもんなのが、交渉って業界さね。次は居間を寄こせ、トイレを寄こせ、台所を寄こせと言われる。

 そして住む場所を狭められながら、今夜の食事になに食べるか隣人の意思に従うことも要求されるようになる。掃除の仕方も喋る言葉も全部だな。

 そんな生活に我慢できなくなってきた奴らが、ようやっと拒否したときには、もう手遅れ。

 大国相手に戦い挑んでも勝負にならねぇ。一瞬で潰され、住民たちは冷たい風が吹きすさぶ真冬の路頭に放り出されて強制労働。ああ、こんな事なら最初っから抵抗しとけば良かったのに――そう思ったところで後の祭りご苦労さん、と」

 

 

 

 ・・・ニヤけ笑いを浮かべながら、淡々とした口調でマサが語る『異世界に来る前にいた自分の所属勢力の昔話』を聞かされて、エルクの顔色は徐々に悪いものへとなっていくのを気配だけで観察しつつ、“前振り”を終えて本命であるエルクたちの現状を告げる。

 

「お前さんはヤッコイの商会でしか買い取ってくれねぇから仕方なく奴の店で物を売る。

 だが足りない分は足りないままじゃ村の仲間が死ぬから、どっかから補填しなきゃならん。

 金がない奴らが頼る相手は決まって、高利貸しか同じ同族の他の村人かの、どっちかだけだ。お前さんなら間違いなく後者だろう。

 んで、そいつらの方も苦しいから互いの足りない部分を補い合い、余裕のある部分を分け合って融通し合い難を乗りきる。

 一見いいことのように見えるが、実際にはジリ貧だな。

 無い者同士で融通し合ったところで、全体としちゃあ足りてねぇから分け合ってんだし、最終的には失血死まったなし。

 ヤッコイとしちゃあ、同じ品を別の村からも買いまくったって意味はねぇから、村ごとの収穫物で買い取るモンを別けとくだけで、後はオメェらの方で勝手に融通し合って勝手に衰弱していくだけだから楽でいい。

 やがて融通し合っても足りなくなってきたが、冬は越さにゃならないって状況に陥った時に寒村が仲間を生かすため、ナニ売ると思う? ――仲間だよ。

 身売りだ。家族やら娘やらを売りに出して日々を食いつなぐ金に換える。それしかねェ。

 売れるモンがなく、売れる先も持ってねぇんだから仕方がない」

「なッ!? そんなこと許され――」

「そのために国がバックに付いてんのさ。差別民族で、差別階級なんだろ? お前らビューマは帝国にとって。

 それでもヤッコイみてェな下っ端の端末にとっちゃあ、今んとこは良い金ヅルだろうからな。できるだけ長く、少しずつ追い詰めながら、徐々に徐々に首絞めてって搾り取りながら最終的に死なせれば、国の方針に背いたことにはならねェし自分も儲かれる。

 国としても体面は傷一つ付かず威光も知らしめられ、失敗したらヤッコイ一人を切り捨て後釜を宛がうだけでいい。

 ・・・・・・楽じゃあねェか。この上なく楽な『民族浄化』の基本的なやり方の一つ。平凡な手法が通じて羨ましいことだな、この帝国様よォ。ヤハハハッ」

 

 もはやエルクは声もなかった。

 相手の言っている内容が、実現可能な『自分たちの滅ぼし方』であることを彼自身がよく分かっている立場にあったからだ。

 

 そしてもし、マサの言うとおりの事態になった時に、自分たちが我慢できなくなって反乱なり一揆なりを起こしたとしても、自分たちは勝てないだろう。

 ただでさえ、今の時点でも勝てないからこそ従うしかない現実を受け入れているのに、今より更に数が減らされ、種族全体の力まで奪われた後になった状態では却って反乱軍として滅ぼす口実を帝国軍に与えるだけになるに決まっているのだ。

 

「覚えときな、エル坊。取引ってのは、目的を達成するための手段でしかねェもんだ。目的が果たせねぇ取引は本来やる意味がねェ。

 奴さんの言った額で、お前さんの目的が達成できちまったら、ヤッコイ側としちゃあ取引は失敗だ。お前らに冬越えのため、他の店やら他の村まで巻き込んで種族全体から巻き上げ続けられなけりゃあ、売る側・買う側としちゃあ意味がねぇんだよ。

 “払う金がなけりゃあ、家でも土地でも売り払り払え”――暴利で買い取る悪徳業者の基本だ。忘れんな」

 

 自分が粋がってるだけで何も知らないガキでしかなかった事実を思い知らされ、打ちひしがれているエルクを見下す視線で見下ろしながら、マサは『天才様が言いそうな商売の基本中の基本』を冷徹に『逆側の視点から見た場合』の用法を未熟な少年相手にたたき込む。

 

 それが一寒村の金庫番を任されているだけだった、相手の限界だと。

 所詮は、オラが村の神童レベルでしかないのがお前だと。

 自分たちが住まう狭いコミュニティ内でしか物事を考える基準を持たない人物が考えつく現実論など、大した現実性など持ち合わせることが出来るわけもない。

 世界が狭いのだから、それこそ『仕方がない』

 

 ――そして、言われる。

 共に一時だけ机を並べて学んでいたことのある、『資本主義経済の魔王』と呼ばれることになる真の天才様が、こういう立場の少年に言いそうなセリフを自分なりに言い換えて使ってみた表現によって。

 

「――で? どーすんだ?」

「・・・・・・・・・え? ど、どうするって何を・・・・・・」

「俺が今言ったのは、お前らが今置かれてる状況の説明と裏側の仕組みだ。理解できてねぇみてェだったから教えてやっただけさ。

 お前らは、そんだけ“馬鹿にされて”、“他人の豚に言いように扱き使われている”それを、“仕方ねぇだけで済ませてやっている”。それが今のテメェらと、ヤッコイとの関係性だってな。

 まぁ、よくて飼い主と家畜の関係性だな。ご主人様と奴隷の主従関係さ。

 それでもいいっつーなら、確かに他人のオレが口出しする性質の話でもねーんだがな」

 

 そこまでコっ酷く言われまくってエルクは、ふと気づく。

 相手の言葉の中に含まれていた、分かり辛すぎる言い方ながらも、自分たちへの『忠告』を多く含んでいた言葉の部分を・・・・・・。

 

「アンタ・・・・・・ひょっとして、俺たちのために怒ってくれ――」

「いんや別に。オレ個人としては、弱い奴が食い物にされるのは当然だと思ってるヤクザ者なんでな。正直言ってどーでもいい」

「んじゃなんで言ってたんだよ! さっきの言葉はさぁッ!!」

 

 エルク激怒! 尻尾を逆立てての大激怒である!!

 あれだけ色々言っておいて、最終的にこの始末!

 

 これだけバカにされまくって虚仮にされて、相手の言ってることが正しいのだからから“仕方がない”で済ませてやれるほどエルク少年は大人じゃねぇ!! むしろ大人でも出来るヤツ多くねぇ!!

 

「オレは別にどーだっていいと思ってんだが―――気にしそうな天才様がいたのを思い出したんでな。

 ソイツだったら、オメェらみたいのを見つけた時には放っておけねぇだろうと思ってよ。

 んで、柄にもなくチッとばかし、弱い者虐めする悪徳商人こらしめて金ふんだくって弱者を助ける、正義の人助けヒーロー魔王でも真似したくなっちまった。・・・そういうこった」

 

 どこか遠くを見つめながら、誰か懐かしい存在を思い出しているような視線を向け――苦い屈辱の記憶から目を背けたくなるような色を瞳に宿しながら。

 

 マサはエルクに向かって、ハッキリと宣言する。

 

「エル坊、今回の商談ではオレに主導権をよこす気はねェか?

 そうすりゃヤッコイから大金ふんだくりまくって、お前らに全額くれてやる。勝算はある。

 各国政府さま御用達の経営コンサルタントとして、お前らの村に特別経済顧問としてにタダで雇われてやるよ。金のふんだくり方ってもんを、たっぷりレクチャーしてやる。

 俺に任せるだけで両手で持ちきれねぇほどの大金が、お前のモノ! どうせ代金はヤッコイ持ちで構わねぇんだからなァ。

 サイン一つで頑張ってる苦労人な百姓は御大尽さまに、ブタは豚箱に。どうだ?

 一口乗ってみる気はねぇか? こんな機会は今を逃すと二度とねぇかもしれねぇぜ~?」

 

 そう言って笑い、メフィストフェレスめいた笑みを浮かべながら、キャッチセールスの誘い口調で手を差し伸べてくる、世界で二番目の天才からの『悪魔の誘惑』

 

 その怪しすぎる誘い文句に、乗るべきか乗らざるべきなのか、判断に迷い躊躇い、良心の呵責とか何やらに苛まれているエルクの背中を――ポンッと、気軽に押してしまった存在は、意外な場所から意外な姿で現れる。

 

 

「あ、あの・・・・・・それ、本当? 両手いっぱいのお金さん、ルゥも欲しいよ・・・。

 ルゥも、金貨さん欲しいよ・・・自分の力で生きたいよ・・・もう、振り回されるだけはヤなのぉ・・・だから・・・ッ!

 ルゥにも――ルゥにもお金さんの稼ぎ方おしえて・・・ッッ!!」

 

 

 そう言いながら、涙目でしがみついてきた、尻尾と獣耳を生やしてボロ服をまとった幼い幼女の姿を、マサは奇妙な視線を向けることになる。

 

 資本主義の申し子のような、大資本による独占を嫌う魔王に適わないと自覚させられ、商人魔王による経済支配を支えるための、熱く燃えた魔王の情熱に既得権益を奪われ追いやられてきた負け犬どもを管理していた、立場だけ見れば【魔王の手下の悪魔】のようなヤクザ者に成長していた少年は。 

 

 真の天才と同じに出来ない二番目として、魔王が見ていたなら別の視線を向けていたであろう相手に対し、魔王とは違う感情・違う理由で違う視線を向けることになったのだった。

 

 曰く、

 

 

 

「・・・美人局のサクラが、向こうからタダでやって来た!!」

 

 

 

 

 ――である。

 こうしてドルムントの町を舞台にして、悪徳商人による、悪徳商人の独占市場からの“抱き込み”が始まる。

 

 悪徳商人ヤッコイVS世界で二番目の経済の天才である悪徳商人マサの、市場の奪い合いはこうして幕を開けていた。

 

 

 

つづく

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