試作品集   作:ひきがやもとまち

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失礼、コッチの方でも迷走してた分を出しておきます…。
書いては消しを繰り返してたので、コッチは一作分しか残っていませんけれども…。


魔王学院の魔族社会不適合者 第12章

 その場所に足を踏み込んだとき、サーシャ・ネクロンとミーシャ・ネクロンは交互に思わず感嘆の呟きを漏らさずにはいられなかった。

 

「これって・・・・・・」

「太陽の光・・・・・・」

 

 そこは二千年もの長きに渡って地下深くに秘匿され続けてきた、光溢れる場所だった。

 複数の外光取り入れ口から、日光と月光を少量ずつ取り入れて放射させ、最終的に一カ所に集約したものを天井から太陽光代わりに降り注ぐよう設計された人工的な自然に満ちた地下空間。

 

「この部屋・・・魔法のための触媒になっているわね。自然魔法陣発動のため、かしら・・・?」

 

 優等生で、理屈に基づく分析は得意なサーシャが部屋の造りを見ただけで瞬時に部屋の設計コンセプトを見抜いて、黒髪の少女「ご名答。よくお分かりで」と軽い口調で賞賛される。

 

 ――実際、この場所は二千年前に『刻を止めた物だけ』で満たされている。

 植えてある木々も、小川に見立てた水路に浮かぶ蓮の葉も全て。

 ・・・二千年前に過ごした“あの日々のまま”変わることなく同じ物を再現して地中深く埋めてから、そのまま時が止まれるよう現状のまま維持できるよう魔法を掛けた、黒髪の少女にとっての巨大すぎるタイムカプセル。そういう場所だった。

 

 そして、だからこそ黒髪の少女は“気がつかない”

 

「・・・・・・、―――?」

「・・・どうかした?」

 

 いつもと変わらぬ無表情ながらも、若干怪訝そうにミーシャから問われ、それに返そうとして答えに詰まり、何を答えれば良いのか一瞬の間悩む魔王少女。

 

 それは、その場所に配置されている品々が僅かに移動された痕跡から感じられる、記憶との食い違いから生じた違和感。――そう感じるはずのものだった。

 この場所のオリジナルを造ってくれた『自分の友人』であったなら、まず間違いなく気づいたであろう『自分が丹精込めて造った作品を穢した痕跡』

 

 だが、『彼の友人だった少女』には気づけない。

 友人と過ごせた最期の【時間】を保存しておきたいと願った彼女にとって、【友人が造ってくれた終の場所】には極めて重要な価値を見いだせてはいたものの、『場所そのもの』には特になんの意味もなかったからだ。

 

「―――いえ、なんでもありません。先に進むことにいたしましょう」

 

 そう言って、頭に浮かんでいた直感的な違和感を振り払い、その場所の向こう側に再現した【終の棲家に“なるはずだった”部屋】を目指して歩みを再開する彼女たち。

 

 『友人が造ってくれた場所』だから、この場所には価値があった。

 『友人と過ごした最期の時を思い出させてくれる場所』だからこそ、この場所を残しておきたいと彼女は願った。

 

 地中深く埋めて、変わることなく保存し続けたいと願ったのは【時間】

 友と過ごした最期の時を、記憶だけでなく形としても感じられる場所として、この場所を再現した、『場所そのもの』には大した価値のない『思い出の時間』が埋まっていた場所。

 

 あるいは、それこそが同じ名を持つ『彼女』と『彼』の致命的にして決定的な違いであったのかもしれない。

 彼の代理として、彼がやりそうなことを、彼の名のもと幾ら再現しようと、『黒髪の少女』は『黒髪の少女の友人』にはなれず、黒髪の少女魔王は黒髪の少女魔王にしかなりようがない。

 彼なら正確に感じ取れたかもしれない違和感も、彼女はただ「なんとなく」で足を一瞬止める程度が関の山。

 

 そういうものだった。それが人であれ魔族であれ、自我という心を持った異なる存在同士の関係性。

 だからこそ黒髪の少女は、自分と異なる優しい気質を持った『彼』の事が好きだったし、彼もまた自分が選ばない道で自分以上の成果を上げ続ける『彼女』のことが大事だと感じられていたのだから・・・・・・。

 

 

 

 そして広場を通り過ぎ、通路をしばらく進んでいったその先で、“其れ”は突然、姿を現す。

 

「これが祭壇へと続いている扉です。コレさえ抜ければ目指す目的地は目の前ですよ」

 

 目の前に突如として現れた、巨大すぎる上に重厚すぎる拵えの威圧感に溢れまくった超巨大な門扉。

 それを振り返って指さしながら柔らかい笑みとともに告げてくる自分たちの班リーダーに、若干引きつった表情を浮かべて半歩後ずさっていたサーシャ・ネクロンは、魔眼による分析にかけては自分より遙かに格上の妹から、より以上に驚くべき事実を聞かされる羽目になる。

 

「・・・反魔法がかかってる。《ジオ・グレイズ》級でも破壊できない・・・」

「ちょっ!? それじゃ、どうやって中に入るのよコレはぁ!?」

 

 先日の対抗試合で、自分が選び抜いた今のクラスで最高の人材たちの力を結集して、ようやく成功させることが出来た最高レベルの攻撃魔法をもってさえ破壊不可能と太鼓判を押されてしまった、先日のジオ・グレイズ発射時に責任者だったサーシャが悲鳴じみた声を上げさせられてしまうしかない。

 

 扉の素材は、希少ではあっても高価ではない使い道が限定され過ぎてしまう特殊金属が用いられ、それで造った上から徹底的に防御用の反魔法を重ね掛けしてある強力無比で超頑丈な扉。

 

 無論、ジオ・グレイズ級の攻撃魔法を何発も平然と発射できる、【自分たちクラスの化け物共】なら、十分に破ることが可能な代物ではあるが、こんな狭苦しい地下空間でジオ・グレイズを何発も撃ってしまえば扉が壊れるより先に天井が崩落してきて全てを押し潰してしまう方が先になるだろう。

 術者が死んだ後も効果が維持できるよう、魔力供給の先も扉の向こう側である奥に設置させている。

 

 要するに、壊して侵入することは不可能であり、開けることさえ普通レベルの魔法では不可能に近い。そういう風に設計した部屋の入り口まで、ようやく到着したのだった。

 

「・・・《ジオ・グレイズ》でも無理ってことは、攻撃魔法で破壊するのは諦めて、他の魔法で反魔法を打ち消す方法を考えるしかない・・・だけど、そこまで強力な反魔法なんて聞いたことないし、解除魔法だって威力の限界が―――」

「たまには魔力だけじゃなく、頭も使いなさいよ。サーシャさん」

「なっ!?」

 

 真剣に悩み始めて、開錠方法を模索しはじめていたサーシャから見れば、失礼と呼ぶだけでは足りなすぎる暴言にしか聞こえないレベルの悪口を言いながら、彼女に代わって前に出たのは黒髪の少女。

 

「扉に反魔法が掛けてあるだけで、壊そうと考えてしまって、勝手に行き詰まってしまうのですよ。別に開けたい扉に反魔法がかかっていたって、魔法を使って開けなければいけないという道理は特に誰も決めちゃいないのですけどね」

 

 そう告げて、「重すぎる重量」が理由になって使用方法が限定されすぎている素材だけを使った巨大な扉に両手を掛ける。

 

「よいしょ、っと」

 

 そして力を込めて内側へと押し開く。

 重々しい金属音を立てながら内側へと開いてゆく扉を見ながら、サーシャとしては驚くを通り越して呆れる以外の選択肢が全く思いつかなくさせられる。

 

「魔法が効かない敵は、魔法以外の手段で突破すれば済む話ですよ。基本でしょう?」

「・・・・・・馬鹿力ね・・・・・・」

 

 呻くように、ネクロン本家の令嬢が愚痴る。

 アイビス・ネクロンを祖として、魔術師系の力と戦い方こそ尊んで、学び納めてきた彼女が生まれ育った立場的には、そう言いたくなる気持ち自体には理解できなくもないのだが。

 

 ――しかし、まだ甘い。

 

「ふむ? では、超強力な攻撃魔法でブッ壊そうとするばかりの人は『バカ魔法力』とでも呼ぶべきなんでしょうかね?」

「うぐぅッ!? そ、それは・・・・・・っ」

 

 アッサリと切り替えされて、思わず口籠もることしか出来なくなってしまうサーシャ・ネクロン。

 流石にここまで来ると、自分が魔法に偏りすぎた思考をしていることに気づかないのは無理になってくるし、改善した方がいい部分も多々あるような気になってもきてしまうもの。

 

 

 

 

「さて。では中へどうぞ、レディーたち。エスコートさせて頂きますよ?」

 

 そう言って、笑顔で差し伸べられた片手は今までの行為が仇となり、自業自得で無視されながら脇をすり抜け部屋の中へと入られてしまったサーシャの反応に肩をすくさせられながら後を追う。

 すると中から「うわぁ~!」という、ひねくれ者のサーシャにしては珍しく素直な簡単の叫び声が聞こえてきて、探し求めるダンジョンに置かれた満点評価確定の魔法具が残っていたことを知らせてくれた。

 

「あれって・・・王錫!?」

「そうみたいですねぇ~。これで満点は確実そうで何よりです」

「さ、触ってもいいかしら・・・?」

「・・・いや、そっちの方は私に聞かれましてね・・・。別にいいんじゃありません? ダンジョンに置かれてる宝物だったら誰が触っても別にどうだって・・・」

 

 と言うより、触ることなく出入り口までどうやって持って行くつもりだったんだろう? このお嬢様・・・。

 そんな野暮すぎるツッコミが思いつきはしたものの、子供みたいに目をキラキラさせて王錫に見入っているサーシャの姿を見ていると、流石に野暮すぎるにも程があるかと思い直し。

 

「ミーシャさん、ミーシャさん」

「・・・?」

「ちょっと、ちょっと」

 

 姉には聞こえぬよう妹の方だけ小声で呼びかけ、手招きしながら壁の一部に偽装してあった『終の棲家のレプリカ』へと初めてのお客様を招いてあげることにした。

 

「・・・・・・?」

 

 無論のこと二千年前の、それも人目に触れぬよう隠れ潜んでいた魔族になる前の魔王の事情など知るよしもないミーシャには、不思議そうに相手の招きに応じるしかない。

 部屋の中へと招き入れられた彼女は歓待され歓迎され――そして驚愕させられる。

 

「・・・うわ」

 

 普段は感情表現の乏しい銀髪の少女が、思わず目と口で三つのOを形作ってしまうほど、そこは光と魔力に包まれた眩いばかりの空間だったから・・・。

 

 大小の宝石が埋め込まれた黄金の指輪、黄金の柄とエメラルドの柄を持つ長剣、黄金の鏡、黄金の食器類。

 ・・・そのどれもに強大な魔力と呪力が込められた曰く付きの貴金属が使われていることは明らかに逸品だけが飾られ尽くした王侯貴族の居室と遜色ない贅と魔法を惜しみなく投じまくった絢爛豪華な・・・・・・だが不思議と華美さを感じさせない、穏やかな気持ちにさせてくれる内装の小さな隠し部屋。

 

 かつて魔族領に潜伏し、強いだけしか取り柄のない暴虐な支配者だった数多の外道領主たちを殺して回っていた人間の少女魔術師が、誰にも邪魔されずに穏やかな最期を迎えるための隠れ家として造られた部屋としては余りにもそこは不似合いで、もしかしたら友人には自分がこういう場所に相応しいと思われていたのかと考えると気恥ずかしでいっぱいになってしまいそうに微妙な場所。

 

 そこが黒髪の少女自身が最期の時を過ごした、『終の棲家』―――。

 

「この中から、貴女がサーシャさんに似合うと思ったものを選ぶといいでしょう。気に入るものがあれば良いのですが」

 

 そう言って部屋の中を指し示し、最初に送ってくれた友人にも声をかける。

 

 ――折角もらっておきながら、私が使わず申し訳ありません。

 せめて部屋に飾ってしまい込んでおくだけじゃなく、誰かの役に立たせる方が道具のためだと思いました。私はともかく彼女たちは許してくれると有り難いですね―――

 

 心の中で友に向かってそう詫びながら、彼がそれを聞かされたら『愚か者め』と笑って叱ってくれたであろう思い出の幻影に一瞬だけ浸かってから意識を現代へと巻き戻し、今を生きるミーシャを見つめて目を細める。

 

「・・・あ。アレがいい」

「ほう・・・《不死鳥の法衣》ですか・・・」

 

 相手が選んだ真紅色の豪奢なコートの名と由来―――そして自分がそれをプレゼントしてもらった時に相手が選んでくれた理由を思い出し、ほんの少しだけ運命じみたものを感じさせられ目を細める。

 

 普段は信じてもいない運命という名の呪いの言葉。

 ・・・只たまには、ロマンチシズムとして尊ぶだけなら許されてもいいだろうと、心の中で自分自身に苦笑して、

 

「身にまとった者に不死なる炎の恩恵をもたらすとされている代物ですね。たしかにサーシャさんの相性的に最も相応しいのは其れでしょうね。

 それで良いのでしたなら、貴女から直接渡してあげなさい。きっと喜んでくれますよ、“お姉さんも”」

「・・・・・・うんっ」

 

 ほんの少しだけ声を弾ませながら法衣を手に取り、大事そうに抱きしめながら、「・・・ん?」と、何かに気づいたように顔を上げて視線を傾け―――其れを見つける。

 

「・・・指輪?」

「《アスハ氷の指輪》ですね。その冷気で七つの海を氷で埋め尽くすと言われている魔法の宝物です」

 

 ―――おやおや、今度はそっちですかい。

 思わず相手のチョイスに意図的なものが混じってないかと疑ってしまうほど、過去の思い出と重なり合ってしまう宝物ばかりが選ばれることに偶然と言い続けることは不可能になってきたことを認めざるを得なくなってきたようだ。

 

「どうやら指輪の方も、貴女に使ってほしいと呼んでいるようですね。いりますか?」

「・・・・・・」

 

 黒髪の少女から、そう問われ。

 ミーシャは嬉しそうな笑顔で、“首を振って”“拒絶する”

 

「・・・・・・大丈夫」

 

 ―――贈り物をされて謝絶するには、いささか奇妙な言い回しだったことに果たして彼女たち二人のどちらかは気づいていただろうか…?

 

 

 

つづく


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