試作品集   作:ひきがやもとまち

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順番変えたら何故か消えてしまったため投稿し直した作品です。
【コードギアス反逆のルルーシュ】と【銀河英雄伝説】のコラボ作品です。


*結局、続きを書いてみることにしたので話数の順番を変えました。
 1話と2話が離れてると読みづらかったので…(経験談)
 ただ、長く続くかどうかは不鮮明です。あくまで次話も書いてみてるだけなので。


コードギアス英雄伝説~もしも仮面の男が黄金の獅子帝だったなら・・・~

 

 ここに描かれた事事が、あなたの知っている物語に近く。

 ここに現れた人々が、あなたの知っている人に似ていたとしても。

 それは歴史の偶然であり、必然であり――あるいは人が運命と呼ぶものなのかもしれない。

 

 そのころ人類は、戦争の愚劣さを否定しながらも地球という小さな青い星一つの上だけで地ベタを這いずりながら戦うことを決してやめようとはせず、大きく三つの勢力に分かれて飽くなき勢力争いに明け暮れていた。

 

 神聖ブリタニア帝国とEU、そして帝国と同盟を結んだ中華連邦とである。

 皇歴2010年8月10日。ブリタニア帝国は日本に宣戦を布告した。

 ブリタニア軍は人型自在戦闘走行兵器《ナイトメア・フレーム》を実戦で初めて投入、既存兵器しか持たぬ日本側の本土防衛線はことごとく突破され、極東で中立を謳う島国は帝国の属領となり、自由と権利と――そして“日本人という名前”を奪われた。

 

 【AREA11】――その数字が敗戦国日本の新しい名前だった。

 これ以降、日本人だった人々は《イレヴン》と呼ばれるようになる。

 

 だが、開戦から短期に降伏したことで多数の戦力を各地に残したまま帝国の支配地となった日本では、長く続く反乱勢力の抵抗運動に統治者となった帝国軍が鎮圧のため手を焼き続けることとなっていく。

 

 全体としては帝国の優位は動かず、だが世界中に拡張戦争を続ける帝国軍に反乱鎮圧のため割ける兵力の余裕は多くないことから膠着した状況が続くも、旧日本側の抵抗運動もときの経過と共に衰退しはじめ、テロや特攻、自爆や悲壮美などを謳う自滅に走る者が続出する――そんな「何とかなってほしいが何となりようもない状況」に今日ではなってしまっていた。

 

 戦争と敗戦という悲劇の中で、膨大な量の血と涙と知恵が費やされ、様々な人の夢と野望が燃え尽くされていく。

 だが、いつの世も世界を良きにしろ悪しきにしろ変えようと野望を持った人間が生まれる。

 歴史上に名を残し、世界を変えたいと野望を燃やし、人間の歴史の中に砕け散っていった人々が生まれる。

 

 

 ブリタニアに降伏して瓦礫の山と化した都市を見下ろす山腹で一人の少年が、力なき自分の無力さを決して許さぬ誇り高きグリフォンの矜持を宿し、それらの人々の卵として産声を上げたのと同じように。

 

 

「僕は・・・スザク・・・・・・僕は――いや、“俺は”ブリタニアをぶっ壊す!

 皇帝が大事にしている全てを奪い取り、同じ苦しみを味あわせてやる!!

 近い未来に! 絶対にッ!!!」

 

 

 人は彼らを・・・・・・そんな人間たちのことを―――『英雄』と呼ぶ。

 

 

 

 

 終戦の日から7年あまりが過ぎ、今は皇歴2017年。

 ブリタニア属領《エリア11》内にあるブリタニア人居住区《トウキョウ租界》の一角にたつ高級マンションの一室で、二人の人物がチェス盤を挟んで向かい合っていた。

 

 一人はウェイター風の格好をした初老の男性で、もう一人は古風な貴族風の装束をまといながらも気品を感じさせない中年の男。

 勝負はどうやら、初老男性の方が不利な状況にあるようだった。

 

「持ち時間が切れました。ここからは一手、二十秒以内にお願いいたします」

「――だ、そうだよ?」

「う、うぅ・・・・・・」

 

 年下である相手から余裕を見せつけながら告げられた指摘に、初老のウェイターは思わずうめき声を上げて周囲を見渡し、逃亡防止役も兼ねた相手の護衛たちに取り囲まれている状況に絶望感のあまり顔中を脂汗でびっしょりと濡らしている。

 

 彼らは今、賭けチェスの真っ最中だったのである。

 それも法外な額の賭け金で、《貴族》を相手に非合法ギャンブルをだ。

 

 

 ・・・・・・とは言え、特権階級であるブリタニア貴族にとって、法外な額での違法ギャンブルは必ずしもコソコソ隠れてやる必要がある訳ではなかった。

 帝国の法は、身内に優しく外様に厳しい。特に貴族に対する法は甘く、抜け道はいくらでも探し出せるし、なければ力なり金で作らせることも可能だったろう。

 それら特権を行使する事なく、わざわざ市街地の一室まで来て負けたときのリスクを負いたがるのは、特権階級に生じやすい倒錯した心理によるものだった。

 

 絶対安全な地位や立場に就いてしまった人間ほど、リスクを求め、スリルを楽しみたがる悪癖が出やすいのだ。

 この貴族男は、そんな貴族の悪弊を体現したかのような人物だったが、ゲームの腕そのものは悪くなかった。

 

 急な依頼だったため“助っ人”のスケジュール調整が間に合わず、到着が遅れているという事情もある。

 いったい自分の腕で、あと何分持ちこたえられるだろうか・・・? 彼が内心でそんな疑念にとらわれだした、まさにその時。

 

 

 ―――ガコン。

 

 

 背後の扉が開き、関係者の身分を証明した者以外は入れるなと厳命しておいた外の護衛が通してやった人物が入室してきた事実を告げて、初老の男性は救いの神を得たかのように顔色を輝かせ、相手の貴族は逆に不審げな顔で相手を見つめ、闖入者の姿を見た途端に鼻を鳴らす。

 

「代理人のご到着かと思ったが・・・・・・なんだ、学生か」

「なんだ。“成り上がりの成金”か」

 

 カツン、と。侮蔑に対する相手からの反応を聞かされた瞬間、思わず男は持っていた爪研ぎをテーブルに音高く叩きつけ、かろうじて怒りを制御することに成功した。

 

 彼は、他人を見下すことには慣れていたが、見下されることには慣れていなかった。

 正確には、“格下の存在から”見下されることに慣れがなくなっていたのである。

 

 自分たち“力ある貴族”に対して、一般庶民という者は畏敬を持って接してくるのが当然であり、ここまで無礼な態度を取られることは貴族となってから一度も経験させられた事がない。

 

「――若者はいいな、時間がたっぷりある。後悔する時間がだがね」

「フッ・・・」

 

 感情が収まらぬ故の相手からの皮肉に対して、助っ人の学生はアメジストのような瞳で見つめ返した後、いっそ荘重なほど大仰な仕草と言い回しで「遅れた非礼」を謝罪して見せた。

 

「失礼しました。ここに来る途中で野良犬に吠えかけられまして。

 “やんごとない身分の方から、暇潰しの相手をしてやるよう頼まれた”などと、戯言をわめく躾のなっていない野良犬です」

 

 少年の言葉に、ウェイター風の男は驚いた顔で貴族の男へと向き直り、ヘルメットを片手に運転手役を務めたらしい少年の友人も怒りを込めた視線で相手の顔を睨み付ける。

 

「無視しても良かったのですが、たまには蹴飛ばしてやるのが犬のためかと思い、遅れた次第。どうか無礼をご容赦いただければ幸いです」

「・・・たしかに、どこの馬の骨かは知らんが、暇を持て余して戯言を喚くようになった若者は多いらしいな。我々と違って不幸な事だ」

 

 睨まれた当の本人は、平然としたままポーカーフェイスを崩さなかったが、内心での舌打ちを禁じ得なかった。

 ウサギを狩る獅子のつもりで打っておいた保険だったが、小細工を労しすぎた感は禁じ得ない。

 このような学生ごときが相手と知っていれば、余計なマネなどする必要はなかったろうに・・・。

 

「それで? “時間を持て余した若者たち”とは異なる、君の名は何というのかね?」

「ルルーシュ・ランペルージ」

 

 そう名乗って席に着き、最初に少年が手にした駒を見た瞬間に、貴族の男は相手の無礼を許すことを心の中で決定した。

 

 彼が手にして、自分の出番で最初に進めた駒は―――キング。

 

 余裕と安堵の笑い声を上げた彼の笑顔が、引きつった強張りを見せるのは、王の駒が動き始めてから丁度8分32秒後のことである・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「いやー、貴族サイコ~ッ♪」

 

 勝負が終わって建物の外へ出てきながら、ルルーシュの友人である『リヴァル・カルデモンド』は、満面の笑顔で喝采を上げた。

 そして、今さっき“賭けチェスに勝って”“金を巻き上げてきた貴族”のことを手放しで心から賞賛してのける。

 

「プライドあるから支払いも確実だしね! その上、8分32秒の新記録達成まで貢献してもらえるなんて、貴族サマサマってヤツ?」

「相手の持ち時間が少なかったからな。――それに緩すぎるのだ、貴族という連中は。特権に寄生しているだけだから、あの程度の挑発にも簡単に乗せられて集中を乱す。

 民衆に寄生する内実のない貴族のプライドなどに拘るから、ああいう羽目にもなる」

 

 対する友人からの反応は至って冷淡で、そして辛辣でもあった。

 残り時間が少なく、到着したばかりで相手の手の内が分からず、打ち筋も知らない。

 翻って、盤面を見ただけでも相手の手癖まで読み取れるルルーシュの側には、敵の内面まで曝け出されたも同然の状況。

 その不利な状況下の中で、たかが“キングの駒から最初に動かして見せただけ”で、あそこまで動揺を顔に出してしまうようでは、賭け事に向いているとは到底思えない為体。

 

 チェスの腕そのものは悪くなかったが、駆け引きの基礎がまるで出来ていない相手だった。

 大方、貴族の自分と裕福であっても平民でしかない相手の身分差によって、今までは萎縮した相手とばかり戦ってきた類いの手合いだったのだろう。

 

 だからこそ、緩い。覚悟がない。勝利を求めて戦いの場に赴きながらも、自分が敗北してすべてを失う可能性など微塵も感じることなく安全が確保された堀の中でのみ勝負ゴッコに興じる肥えた豚など、彼と戦うには役者不足も甚だしい。

 

「おぉ~う、相変わらずの毒舌ぶりで。じゃ、イレヴンとやってみるか?

 オレらブリタニア人と違って階級意識とか薄いから―――お?」

 

 気楽そうな軽い仕草と言い回しでルルーシュの先を歩きながら話しかけていたリヴァルが、何かに気づいたように体ごと背後に振り向いて、視線の先にあった街頭モニターに映し出された映像に僅かながら笑みを薄めさせられる。

 

『――お待たせしました。

 先日、オオサカで起きた爆破テロによってブリタニア人8名、その他51名の死傷者を出した、この事件に対してブリタニア帝国第三皇子クロヴィス殿下から会見の時間です』

 

 頂上付近から煙が上がり続け、僅かに残った赤色がビル内でも点灯し続けている映像とともに女性アナウンサーの声が、街頭モニターの見える範囲にいた一般市民達全員に聞こえるように響き渡る。

 悲しげな語調と、抑制された無表情な鉄面皮が不調和な女性アナウンサーの顔が消え、代わって映し出されたのは、秀麗な顔立ちに愁いの影を薄く浮かべた金髪碧眼のマントをまとった美少年。

 

 7年前に日本を征服して領土の一部とした、ブリタニア帝国の皇室の一員にして、エリア11と名を変えさせられた旧日本の現支配者でもある総督。

 

 それが彼、【クロヴィス・ラ・ブリタニア】

 現帝国の最高権力者たる皇帝の息子にして、三番目の帝位継承権を有する人物の名。

 

 

『帝国臣民の皆さん。そして勿論、協力いただいている大多数のイレヴンの方々。

 ・・・分かりますか? 私の心は今、二つに引き裂かれています・・・ッ! 悲しみと怒りの心にです!』

 

 美麗な顔を歪めて、眉を寄せ、心臓を鷲づかみするかの如く服の胸部を強く握りしめ、死んでいった者達への哀悼と、彼らを手にかけた憎むべきテロリスト達への怒りを露わにする画面の中のクロヴィス皇子。

 

 ・・・もはやこの時点でルルーシュには、見るに堪えない三文芝居の局地であった。

 観客達の前で悲劇の主人公を演じてみせるのは良いのだが、生憎と彼が今いる場所は占領地の総督府であって、シェイクスピア風の古典悲劇を上演しているオペラ座ではない。

 

 あまりにも演出過剰な芝居がかった語調は、見る者の心を白けさせるものと観劇においては相場が決まっているものだが―――これが国対国の問題になると、権威とか面子といった代物によって人はどのように醜悪な悲喜劇でさえ容認できてしまえるものらしい。

 周囲にいる多数のブリタニア人市民達の精神が、クロヴィスの演技に応じて昂ぶっていくのを肌で感じ取らされて、ルルーシュは不快さに顔を顰めずにはいられなくなってくる。

 

『しかし! このエリア11を預かる私がテロに屈するわけにはいきません!!

 何故なら、これが正義の戦いだからです!! すべての幸せを守る正義の!!』

 

 あるいは人に、それを容認させてしまう存在の名前こそが、【正義】というものなのかもしれない・・・。そうルルーシュは心の中で拙い皮肉を思わず零す。

 人々が国粋主義の名の下、三文芝居に酔いしれて、気持ちよく心を酔わせて、血の色をした夢を綺麗な極彩色で飾り立てさせる。

 だが結局のところ、それは性質の悪い脳内麻薬に過ぎない代物ではないか、とルルーシュは思う。

 そんなものを信じたところで、信じさせた側が信じた者たちと信仰を共にしてくれているとは限らないだろうに―――。

 

『・・・さぁ、皆さん・・・正義に殉じた8名に哀悼の意を共に捧げようではありませんか――』

 

 その言葉を最後にクロヴィスの熱演は終わり、再びアナウンサーの無味乾燥な声が戻ってきて『黙祷』と短く一言だけ機械音性のような素っ気ない言葉だけを残して記者会見は終わりを告げた。

 

「あれ? やんないの?」

 

 周囲の映像を見ていたブリタニア人たちが、一般市民・軍人の別なく死者たちに対して哀悼の意を捧げるため、黙って頭を下げている中。

 リヴァルはヘルメットをかぶり直した姿でバイクのエンジンを立ち上げながら、ルルーシュに向かって普通に質問し、自分と同じ行動をしている途中の友人から問われた質問に思わず苦笑させられながら、『リヴァルは?』と逆に問い返す。

 

 質問に質問で返された友人は、僅かに照れ笑いを浮かべながら、少しだけ反応に困ったような笑い声を上げた後。

 

「恥ずかしいでしょ?」

「そうだな。なら俺もそれということにしておこう」

 

 「あ、汚ね」と苦情の声を上げる友人に笑いかけながらルルーシュは「それに・・・」と、誤魔化すように、本音を隠すように言葉を繋げ

 

「俺たちが泣いたところで、死んだ人間が生き返ることはないし、これからも死んでいく人間が減ることもない」

「おお、刹那的ってヤツ?」

「事実だ。俺たちが泣いたところで、喜ぶのは権力に媚びを売るメディアと、安っぽい道徳業者の拝金主義者たちぐらいなものだからな・・・」

 

 言いながらルルーシュは、今一人の『イレヴンに同胞を殺された悲劇で涙したブリタニア国民』によって得をする者達の名を、立場上ひかえたまま口に出すことなく飲み干した。

 

 無関係な一般市民や外国人を巻き込む凶悪なテロを起こす、野蛮で粗暴で自分勝手な日本人――【イレヴン】

 7年前の戦争時には電撃的な奇襲であったが故に、逃げ惑う日本の一般市民もろともに日本軍を蹂躙していった征服者たちの一員とは思えぬ言い草ではあったものの、「自分たちがやられる側」になったときには手の平を返すことに羞恥心を感じなくなる人間というのは存外に多いものだ。

 

 それ故に、最近になって多発し始めた日本軍残党やゲリラたちによる自爆特攻まがいのテロ攻撃は、結果としてクロヴィスの統治を完成させることに貢献する羽目になるのだろう。

 外敵の脅威に対して内部を結束させ、以て完全併呑と領土化の口実と成す。・・・侵略する側がよく使う古典的な手法である。

 そして使い古された古典であるが故に、王道で隙がない。・・・このままでは自分の計算よりも早い時期にクロヴィスの天下が完成してしまうかもしれない。

 

 そうなればエリア11にいる自分たちに勝ち目はなくなってしまうかもしれない・・・・・・。

 

 

「――所詮は自己満足」

 

 自分の弱気をあざ笑うかのように、ルルーシュは軽い口調で、そう呟き捨てる。

 

「どれだけ背伸びしたところで、どうせ世界は何も変えられはしない・・・」

 

 口に出してそう言いながら、ルルーシュは心の中で『だが』と接続詞を続ける。

 

(だが、俺はそうは思わない。

 必ずや世界を、この手に・・・・・・ッ)

 

 決して消えることのない野望の炎を、あの日あの時その胸に宿した少年は、今なお少年の心を持ち続けたまま夢を諦めることなく追い続けていた。

 

 ――アイツらは“負け犬”だと、ルルーシュは思っている。

 帝国と戦って、祖国を解放するという誓いを諦め、自己満足の壮絶な玉砕を美徳として死んでいく道を選んだ日本人の残党たちは所詮、負け犬でしかないのだと。

 他の志を未だ失っていない日本人たちとさえ異なる、本当の意味でイレヴンに成り下がった連中なのだと、心の底から唾棄していた。

 

 

 ―――俺は違う。俺は、そうはならない。

 あの時なにもできなかった自分自身の無力さと屈辱を、俺は決して忘れはしない―――

 

 

 その野望の炎が、ブリタニア帝国に支配された世界をどう変えるかは、今の時点で誰も知るよしもない――。

 

 

 

 

 

 

 そして、その頃。

 ルルーシュが誓いを新たにしたのと同じ国内、同じ町中にある別の場所で、彼とは相反する立場にある一人の人物の元に急ぎの使者が訪れようと息せきって廊下を走り続けていた。

 

「素敵でしたわ殿下、先程までパーティーを楽しんでいた方とは思えません」 

「総督はエリア11の看板役者ですからね。このくらいの変わり身は――」

 

 会見放送を終えて壇上を降り、見学者としてゲストに招いていたエリア11に住居を持つブリタニア貴族の令嬢たちから、おべっかとも皮肉とも取れる言葉で迎えられながら、ブリタニア帝国の第三皇子クロヴィスは、『穏やかで芸術趣味の紳士という評判通り』の解釈をしたという前提での返事を返してやりながら、側仕えの者たちに儀礼用の服を着替えさせるよう指示を下す。

 

「流石でございますわ、殿下。自信がおありなのですね、」

「心構えですよ。自信など、メディアの方々が喜ぶだけです」

「い、いえいえ。わたくし共はクロヴィス殿下の治世に少しでも助けになりたいと・・・」

 

 急に矛先を向けられた、ブリタニア本国に本社を置く、帝室の覚えめでたき大手マスコミ会社のエリア11支部長が額に冷や汗を浮かべながら、なんとか「無難な返答だけをしよう」と努力した末での無個性な報答がスタジオに一部に空しく響いて消えていく。

 

 

「――ふん。ハリボテの治世か」

 

 その声をたまたま聞こえる位置にいたため聞いてしまった一人のジャーナリストが、小声でとはいえ不敬罪に該当する恐れのある発言を吐き捨てていた。

 

 如何にもジャーナリスト風の動きやすそうな格好をした三十路前の人物で、とがり気味の顎と前髪が特徴的で鋭い印象がある。

 

 『ディートハルト・ディード』というのが彼の名だ。

 大手メディアの中でも新進気鋭で知られている将来の幹部候補生の一人でありながら、上に媚びず使いづらいところのある性格が災いして、征服地であるゲリラや反政府勢力が残留しているエリア11に派遣されてきた問題児でもある男だった。

 

「イレヴンも存外にだらしがない。どーせならブリタニア軍を苦戦させ、窮地へと追い込んだ上での一大決戦にまで及んでくれたら撮り甲斐もあるってものなんだが」

 

 そう言って、さらに危険な発言を続けるディートハルト。

 彼は別段、主義者というわけではなかったし、ブリタニア乗っ取りを企む不定な反逆者になる意思も毛頭持ち合わせてはおらず、まして日本軍残党の勝利による祖国の敗亡を期待しているものでは全くない。

 

 ただ彼は、観客としては平和的な名君の治世よりも、戦争物による動乱の方をこそ好むタイプだった。

 ブリタニア軍の敗北までは求めていないまでも、日本軍にも多少の勝利と優位性が傾くことにより戦局の激化と、名将同士の激しい死闘を待ち望んでいるのである。

 

 そのため彼としては、日本残党側にも天才的な戦術家が登場してブリタニアに一矢報いてくれるような展開をこそ期待しているのだが・・・・・・現状から見て日本軍の残党にそれを求めるのは無理難題と思わざるを得ない。

 

「せめて“奇跡の藤堂”が復活するか、“厳島の奇跡の再来”でも起こしてくれたなら、面白い画が撮れそうなんだがな」

 

 7年前の日本征服戦争の際、日本軍の中で唯一ブリタニア軍側に黒星をつけさせた男の名をディートハルトは口にした。

 今となっては名前を出すことすら憚られる不文律ができてしまった感のある軍内部と違って、彼の方には遠慮する理由がない。まさに言いたい放題の立場であった。

 

 

 ディートハルトにとって、クロヴィスの統治手法は「つまらん」の一言であり、堅実すぎて面白みのない事この上ない退屈極まりないものだった。

 

 クロヴィスは、日本征服の際に早期降伏を受け入れたことから各地に戦力と拠点と物資を残したまま終戦を迎えた戦後のエリア11において、中心部を堅守し、一方で外縁部は取られるに任せ、奪われてから再度取り戻すという戦略によって時間をかけて日本残党から力を削いでいく方針をとっていた。

 

 これにより日本解放を目指す残党勢力は、一時的に故国の地を取り戻すことはできても後が続かなくなってしまい、戦線が長くなりすぎることもあって、戦力を集中されてしまった中心地区までは攻め込むことができず、結局は進軍が停止したところで総反撃を食らわされ取り戻した領土を再び失う羽目になる。その繰り返しであった。

 

 それが徐々に功を奏してきた結果として、昨今では日本軍残党の活動も大人しくなって久しく、自暴自棄に陥った一部の者たちが次々と勇敢なだけで無意味な自爆特攻まがいなテロ攻撃を散発的に仕掛けてきては無駄死にしていくという悪循環が確立される寸前まで来ている状況に今日ではなっている。

 

 

 あるいはクロヴィスは、占領地を長期間かけて属国化させていく総督としては最も有能なブリタニア皇族だったかもしれない。

 彼の統治手法は派手さがないものの堅実であり、犠牲少なく結果を出すことができる最善ではなくとも最良に近い方法論ではあったはずなのだから。

 

 だが彼の不幸は、彼の統治手法がブリタニア本国の【好み】に合わなかったことだった。

 

 ブリタニアは未だ世界中に戦線を持ち続けている拡張主義の国家で、武勇の国としても知られている。

 継承権に不満があれば、力尽くで奪うことを良しとする【力】と【覚悟】を尊び、【犠牲を恐れず敵を倒すため前へと躍り出る勇猛さ】を褒め称えて、【安全な場所に隠れて与えられたものを押し頂くだけの臆病さ】を何よりも嫌悪する。

 

 

 その気質がクロヴィスの功績を過小評価させ、正当に報われなかった不当な人事さえなければ、彼が功名心から手柄を焦り、【とある計画】に手と金を出してしまう事態は起きなかったかもしれない・・・・・・。

 

 

「殿下っ!!」

 

 そこへ、ようやく到着することができた将軍の軍服をまとった小太りの軍人が、転がるようにしてクロヴィスの元まで汗みずくで駆けつけることが出来たようだった。

 

「なんだ? 無粋な・・・」

「も、申し訳ありません。しかし―――」

 

 その姿に、またテロが起こって何人死んだから特番を、というプロパガンダの協力依頼か何かかと高をくくって興味を失い、さっさと仕事場へ戻るつもりで背を向けたディートハルトの背中に、『愚か者ッ!』とこれまでにない剣幕と語調で叫ぶクロヴィスの怒声がぶつかり、興味を持ったディートハルトが振り返った先で穏やかだった美少年の顔が怒りに歪む姿をハッキリと捉えさせてくれたのだった。

 

「警察には、ただの医療機器としか伝えていませんので、全軍を動かしての捜索をする訳にもいかず・・・・・・」

「直属を出せ! ナイトメアもだ! 旗艦も発進させるのだ、私も出るぞッ」

 

 いつになく強行的な態度でクロヴィスが、慌てたようにスタジオを飛び出していく後ろ姿を見送ってから、何があったのか訳が分からず何の指示も出されていないせいで右往左往しかできなくなってる貴族たちや他のマスコミ有力者たちを尻目にしながら、ディートハルトはこの日最後の諧謔を飛ばす。

 

 

「なにか緊急事態でもあったかな? シャルル陛下が崩御して帝位継承争いが生じ、ブリタニア史上最大規模の内乱が発生したとかなら大歓迎なんだが」

 

 主義者たちより、さらに危険で過激な独白だけを言い残してディートハルトはスタジオを去って行った。

 自分の放った独り言が、近い未来の予言になっていたことなど、今の彼には考えることすら出来ないままに・・・・・・。

 

 

 

 

 そして―――

 

 

「最初の手さぁ~」

「ん?」

 

 

 リヴァルの運転するバイクで、自分たちが通っている名門子息のための学校【アッシュフォード学園】へ向かう帰路の途中。

 リヴァルは先程から聞こうか否かを悩んでいた質問を、やはり聞いてしまおうと決断して、隣のサイドカーに腰掛けている友人に向かって声をかけていた。

 

「なんでキングから動かしたの? 本当にただの挑発だったわけ? なんか意味とかあったりとかは?」

「挑発として有効だったから使ったのは間違いないが・・・まぁ、他の意味合いを込めなかった訳でないのも確かではあるな」

「へぇ、どんなのどんなの? オレにも聞かせてよ!」

 

 予想外の答えだったからか、あるいは予想通りの答えだったこそなのか、少しだけ鼻息荒くなったリヴァルから勢い込んでそう問われ、ルルーシュはやや肩をすくめながら「簡単なことさ」と前置きした上で。

 

「王様から動かないと、部下が付いてこないのは当然だからな。単純な話だろ?」

 

 アッサリと、さも当然のように答えられてしまったリヴァルの方こそ即答が難しい、困惑して黙り込まざるを得ない回答を返された後。

 しばらくして口に出した、平凡ではあっても他にどう言い様もない感想の言葉は・・・

 

「・・・・・・あのさぁ、ルルーシュって・・・・・・社長にでもなりたいわけ?」

「まさか。変な夢は見ないようにしている。ただのマインドセットさ。自己満足だよ」

 

 

 肩をすくめながら、そう答えた瞬間。

 背後から盛大にクラクションが鳴り響いてきて、何事かと後ろを向いた彼らの視界を覆い尽くさんばかりの巨大で。

 

 

 トラックの形をした運命が、ルルーシュ・ランペルージに――――いや。

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに、望み求め続けた【力】を届けるため現れた。

 

 こうしてルルーシュの運命は動き出し、やがて彼の運命は世界を変える始まりの戦いになることを、世界も本人自身でさえ、誰も知らない――――。

 

 

 

 

 

【今作設定】

 銀河英雄伝説のキャラに近い設定を持っていた原作キャラクターの性格や考え方を、より銀英伝キャラ要素を強くさせた状態で、原作ストーリーをなぞりながら描き直しているアイデアの作品です。

 

 世界設定等にはPSP版『CODE GEASS』の『日本解放戦線編』で語られていた内容を多く用いられている(原作で語られてるだけだと「厳島の奇跡」など分かりづらい部分が多かったので)

 今のところ続けるか否かは未定なので『ブリタニア軍人編』や『黒の騎士団編』などまで使うことは考慮されていません(1話だけだと現時点でさえ長すぎる)

 

 

 

『キャラ設定』

 

【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア/ゼロ】

 原作主人公の心に「金髪の獅子帝」の魂を宿した仮面の覇王にして、天才戦略家の少年。

 原作ルルーシュよりも高くなっていたプライドが、父親にされた仕打ちと、それに対抗する力を持たない無力な自分への怒りと憎しみに転化して、誇り高過ぎな黄金のグリフォンへの覚醒を促した今作主人公。

 姉ではなく、妹が平和に暮らせる世界を手に入れるために戦う少年。

 ただし、原作よりも高くなりすぎたプライドが『ブリタニアから世界を“盗むこと”』を良しとさせずに、『奪うこと』を戦略方針とした戦い方を展開していく点で原作と分岐する部分がいくつかある。

 

 ――余談だが、ラインハルトが姉を取り戻すため銀河帝国を簒奪した過程には、『帝国の中枢に近づいて現状を知り、姉を取り戻すためにも改革が必須だ』と考えを進化させたことに起因するものです。

 

 『皇帝に奪われた姉を取り戻すため、国一つを乗っ取った』という解釈は、『真ん中にある間』を抜いて面白おかしい内容にするためのギャグですので、本気にしている方がもしいたら(いないとは思いますけど)流石に失礼すぎる勘違いですので、お改め願えたら嬉しく思います。

 

 どんな考え方や方針だろうと、『真ん中の経過を抜けば』『頭おかしい極論になる』

 それが時代を経ても変わることなく続いてきた人類の伝統・・・・・・。

 

 

 

 

『枢木朱雀(クルルギ・スザク)』

 原作における白き騎士にして、ブリタニア軍のエースパイロットであり、ルルーシュのライバル的存在でもある親友。

 「間違ったやり方で得た正しい結果に意味はない」という考え方により、今作でもルルーシュとは敵対の道を歩む。

 ・・・ただし今作のルルーシュは、原作序盤ルルーシュの「現政府アンチを掲げる敵の悪辣さに支えられた反ブリタニアの象徴」としてではなく、自らの意思で世界を欲する覇王となっているため戦略的視点で親友の話を聞いていることから、設定の解釈がやや異なる。

 

 スザクの思想には致命的な矛盾点があり、「テロなどの間違ったやり方で得た正しい結果に意味はない」として「現在の秩序を壊すことなく功績を認められて与えられた権限によって内部から変えていく」という方針をとる彼の考え方は―――日本占領などをはじめとするブリタニア帝国の『一方的な侵略戦争』を肯定した上で成り立っているもの。

 

 「間違ったやり方で得られた結果を肯定した世界」で「自分個人が間違った道を選ばなければ間違ったことにならない」という彼の考え方は、今作において独り善がりな独善としての部分を強く持つことになっていく・・・・・・。

 銀河英雄伝キャラの似た人物は、今のところ思いついておらず。

 

 

 

 

『ディートハルト・リード』

 ブリタニア人のジャーナリストでありながら後に裏切り、黒の騎士団に参加する男。

 平より乱を好み、その為なら元の所属を平然と捨て去れる人物。

 言うまでもなく完全に、銀河英雄伝説における『アントン・フェルナー』の人格が強く投影されることになるキャラクター。

 それが影響してなのか、今作では最後までルルーシュと行動を共にして、終始ゼロの血と炎に彩られた華麗さに魅了されて心酔し続けることになる予定の人物です。

 ある意味で主人公設定の変更によって一番、原作よりも幸福になれそうなキャラかもしれません・・・(苦笑)

 

 

 

 

 

『藤堂鏡四郎』

 原作における日本解放戦線の軍事面における指揮官で、組織の精神的中核を成すカリスマ的存在。「厳島の奇跡」を成した旧日本の英雄。

 今作においても役柄は変わらず、組織を維持するための神輿として重要視され、なかなか前線に出る機会を与えてもらえない不遇な武人。

 銀河英雄伝説における類似キャラクターは、『ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ』

 立場的にも活躍的にも、似たような流れを取るのが一番無理なく楽そうな人物だったので・・・(微苦笑)

 

 

 

 

 

『コーネリア皇女』

 原作におけるエリア11に派遣されてきた新総督にして、武断的なやり方で犠牲を恐れることなく反対勢力を殲滅していくブリタニア好戦的主戦派の巨魁。

 銀河英雄伝説における類似キャラは、『フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト』――ではなく。

 実は、『救国軍事会議』の魂を受け継ぐことになる美人司令官。

 クロヴィスの後任として前任者の方針を弱腰と断定して、軍国主義によって綱紀粛正を図り、反乱軍共を殲滅するため軍組織の改革を強行させるなど、ビッテンフェルトよりも救国軍事会議的な行動が多く見られたので、そうなったキャラクター。

 最後まで生き延びるという点においてなら、救国軍事会議も良い結果を迎えられた設定変更だったと言って良い・・・・・・かもしれない。

 

 

 

 

―――他は今のところ決めておりません。

あくまで現段階だと、妄想作品でしかありません故に。


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