試作品集   作:ひきがやもとまち

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『モブセカ』の妹オリ主版を更新です。
いろんな作品をつまみ食いして、同時並行で書き進めてったら、未完成がいっぱい貯まって1作が完成するのがスゴク遅れてしまいました。
次から気を付けたほうが良さそうです…申し訳ない…。


この乙女ゲー世界は、女子でも引きます 5章

 

 普段は人気のない学園の校舎裏にある焼却炉の前で、三人の女子生徒たちが薄ら笑いを浮かべながら集まっていた。

 彼女たちの前ではスケジュール通りに、学園で出たゴミを処理するため炎が赤々と燃えている。

 三人の中心に立つショートボブカットの少女の手には、一冊のノートが握られており、よく見ればゴミの一番上に置かれて燃えているのは学園指定の学生鞄に見える。

 

「フフフ・・・・・・♪」

 

 せせら笑う声を紡がせながら少女は「ポイッ」と、文字通りゴミを捨てるような手付きで持っていたノートを焼却炉の中へと放り込み、燃えさかる火の中に捨ててしまった。

 まだ日は高く、今日の学校が終わってもいない時間帯に行われた犯行だったが、構いはしない。

 

 “どーせ自分たちが裁かれることはない”のだから。

 

 そう高をくくって、安全に虐めを愉しんでいる三人の少女たちは、愉悦の笑いを浮かべながら燃やされていく鞄とノートを見物して憂さを晴らしていた。

 

「・・・・・・フッ」

 

 そんな自分たちの後ろ姿を、背後に立つ木の陰に隠れ潜んで見物している存在がいたことに気付くことなく。

 ファサッと、髪をかき上げ風になびかせて颯爽と背を向けて去って行く目撃者がいたことに最後まで気付かぬまま、少女たちは犯行現場で薄ら笑いを浮かべ続けていた―――

 

 

 

 

 

 

 それは俺たち兄妹が、あの緩い乙女ゲー世界に生まれ変わって魔法学園に入学して一学期終わる寸前の、ある日の出来事だった。

 

「・・・聞いたかぁ・・・? リオン、レイモンドぉ・・・・・・。金持ち連中の男子二人は、婚約確定だって話・・・」

「聞いてるよ・・・しかも相手の女の子は、ボクたちにも優しかったミリィとジェシカだって話でしょ・・・?」

 

 俺の部屋に、モテない男友達2人であるダニエルとレイモンドが絶望的な顔色と表情でグチるために集まってきていた。

 

 ミリィとジェシカは栗毛のツインテールと黒髪ロングの清楚系美少女たちで、身分に関係なく誰にでも優しくしてくれて、当然ながら見た目もすこぶるいい。

 まさに理想的と言っていいほどの結婚相手候補ナンバー1と2だったクラスメイト女子たちで、いわゆる「こんなに可愛くて性格もいい子たちが何で恋人いないんだろ?」とかのツッコミを言われるタイプの完璧美少女たち。

 

 この世界が、緩いながらも乙女ゲー世界だからこそ、彼女たちも攻略対象ではなく俺たちと同じモブ扱いになってはいたが、これがギャルゲー世界だったなら攻略ヒロインの一人には確実になっていただろうって程のハイレベルな女の子たち―――だったのだが。

 

 そんな男たちにとっての夢を具現化したような存在が、卒業まで3年近くも放置し続けられてるはずもなく、貴族ばっかが通う魔法学園の中でさえ金持ち呼ばわりされてる奴らからさえ熱烈アプローチされまくって、入学してから一学期終わるまでにゴールイン。

 

 そりゃそうだよなぁ・・・「こんなに可愛くて性格もいい子たちが何で恋人いないんだろ?」とか言われる子が現実にいたら、誰だって恋人にしたがるもんなぁ・・・。

 引く手数多の中で、3年間も独り身通してくれるなんて、好きな奴でもいない限りはありえないもんなぁ・・・・・・儚くも短い夢だった・・・。

 

「・・・クラス内では最後の希望だった二人が結婚確定・・・・・・あと残ってるのは性格最悪の女子ばかり・・・」

「終わりだ・・・・・・もうボクたちの学園生活と人生は終わったんだよ・・・・・・」

『『ハァァァァァ~~~・・・・・・』』

 

 そして二人揃って盛大な溜息。

 

 入学したばかりの頃は、もう少し気楽に構えてた記憶ある気もするが、まぁ無理もないか。

 なにしろ、もう少しで一学期が終わってしまう時期になっても未だ俺たち3人はフリーなままで、結婚相手どころか取っかかりすら得られないまま寂しく男同士で部屋にたむろする日々が続いているのだ。

 これで少しも落ち込んでなかったら、そっちの方が問題あるとか言われそうなレベルで、この世界基準だとヤバイ立場になりつつあるのが俺たちだった。

 

「・・・そう言えばリオンの方はどうなんだ? 一人ぐらいは誰か伝手が――」

「俺も同じだよ。お茶会の招待状出しても無視され続けてる。最初は性格ブスな連中でも、一応は来てくれてたが、途中からはそれもサッパリになって音沙汰無し」

「そうかぁ・・・お前もかぁ・・・・・・」

『『はぁぁぁぁ~~~~~~~・・・・・・・・・』』

 

 そして二人揃って再び溜息。

 元々この学校の生徒たちには、結婚相手を探すためってのを目的に入学してくる奴が多くいる。

 そういう目的の奴が集まってくる場所なんだから、条件のいい子は早い者勝ちで手に入れるため積極的に動きだすのは当然だし、遅くなればなるほど条件が悪いから誘う奴が少なかった不良物件か事故物件ばっかになってくのも必然の流れでしかない。

 現実の男女関係で余り物に福はなく、福がないから余ってるのが現実の結婚相手ってもんでもある。

 

 その結果として、入学直後からスタートダッシュ切って成功した一部の奴らに、条件よくて身分的にも釣り合ってる子のほとんどは奪われ、遅れてスタートしても間に合う余裕ある男子共に残っていた条件いい子をかすめ取られ、最後に残った男女同士でしか選択肢が互いにないという、合コンか修学旅行の班決めみたいな状況に陥ってるのが、一学期終わりを迎えようとしている俺たちの惨状だった・・・・・・これじゃあ絶望的な気分ぐらいなりたくなる。

 

 とは言え、いくら絶望したところで絶望的な状況が変わってくれる訳でもない。

 

 

「そう言えば・・・・・・最近、ユリウス殿下の周りが騒がしいらしいよ」

 

 気分を変えるためか、レイモンドが敢えて話題を変えてきたのは、そんな時だった。

 その噂については俺も耳にしていた。もちろん女子たちの間での話だったから男の俺には詳しい情報まで伝わってくることはなかったが・・・・・・“気になる部分が幾つかあった”から意識せずにはいられなかったのだ。

 

「ああ・・・アレだろ? マリエって子が、ずいぶんと虐められてるって話」

「うん。噂だとイジメの中心は殿下の婚約者、侯爵令嬢のアンジェリカだったらしいよ? 殿下が聞いて激怒してるって」

 

 ダニエルも、辛い現実から一時だけでも逃避しようと思ったのかレイモンドの話に乗っかって、自分が聞いた噂話の一端を口にする。

 その内容は、俺が耳にした内容とそれほど変わらないものだったが・・・・・・だからこそ俺は気にせずにはいられずに、思案するしかなくなっちまっていた訳である。

 

 展開が早すぎるのが、その気になる理由だった。

 気になりだしてから、俺が書き留めた原作展開をすべて書き留めたノートも見直したけど、やはりどうもおかしい。辻褄が合わない死整合性も取れない。

 原作でも、アンジェリカさんによる主人公への嫌がらせイベントは確かにあった。最近の噂内容は、そのイベントと酷似したものが多く聞かされてもいる。

 

 だが、時期が早すぎる。

 それらのイベントは原作だともっと後になってから、ユリウスの好感度が最高値近くまで上がったことで発生する流れになっていたはず。

 アンジェリカさんが嫌がらせしてくるのは、自分の婚約者であるユリウスと主人公と仲が良くなりすぎていったことに嫉妬したのが理由で起きるものだ。

 幾らなんでも入学から一学期終わる前の時点で、そこまで攻略対象の好感度が上がりまくってるなんて有り得ないだろう。チートにも程があるし、ゲームバランスが悪すぎる。

 もし、そんな展開が可能だったら――

 

 

「“俺なんて、自腹切って課金してまで途中のイベントクリアして攻略成功させてたぐらいだからな。

 一学期目から好感度マックス可能な方法あるんだったら完全に詐欺じゃねぇか。金返せよ、あのクソ乙女ゲー”」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ――俺は正直、その自分の心の声を聞かされた瞬間に、叫び声を上げなかった自分を絶賛してやりたくなった。

 

「「って、レイン!? いつの間に! そして何処から!?」」

「お、おおおお前は兄を驚かせてショック死させる趣味でもあるのか!? 普通に声かけろ普通に!! あと、兄の部屋だろうと不法侵入だぞ!?」

 

 ずざざざー!!と、全速力でレイモンドたちの側へと避難して背後を慌てて振り返る俺!

 そこに不敵な笑みを浮かべて立っていたのは、眼鏡を光らせながらツイテンールを揺らしてる、見た目だけは良くて中身は病んでるんじゃねぇか疑惑を持ち始めた、俺の妹転生者のレイン! 前世では山田って名字の女子だった!!

 

「フフフ、心外な言い様だね兄君くん。私ほど兄思いで兄に尽くし、兄のやることに献身的な忠誠を捧げている妹は他にいないと、個人的に自負している程だというのに」

「主観的な自己評価だろソレってつまり!? 嘘臭すぎるにも程があるなオイ!」

「実の兄から信じてもらえないのは悲しいことだね。だが今はいい。

 これから少しずつ、私を信頼していってくれる様になればいいのだから・・・」

 

 遠い目をしながら優しげな表情で、裏切る奴がよく言うセリフを平然という妹が、俺は苦手だ。能力はあっても絶対に信用できないタイプだ、絶対に。

 

「まぁ、冗談は置いておくとしてだ。――先程レイモンド君が話していた件だが、アンジェリカ君は無関係なようだぞ?

 ダニエル君が語っていたマリエ君のノートと鞄を燃やした犯人たちも、侯爵令嬢の取り巻きとさえ呼べない下っ端も下っ端。悪役令嬢A、B、Cぐらいなものだよ。

 とても本人から直接指示してもらえるとは思えない、名前すら覚えてもらっているか分からん外様令嬢たち。全く当てになる証人たちとは呼べん程度の者共さ」

 

 ショッカーの戦闘員みたいな扱いされてる女子生徒たちだった。

 しかもコイツが、これだけ自信もって断言できるってことは、

 

「でも、レイン。そんな事どうやって分かったんだい? ボクたちも、その子たちが誰かなんて具体的には知らなかったのに・・・」

「それは無論、後ろからソッと近づいて後をつけ、気付かれないよう見ていたので」

「見てたのかよ!? しかも尾行してたって怖いわッ! 今見たばっかだから尚更に!?」

 

 やっぱ自分で監視してたか。今さっき隠れ潜んで見物されてたばかりだから、スッゲー説得力ありすぎる証言だが、しかし命令された訳じゃないとなると、なんでその女子たちはマリエに嫌がらせを―――いや、待てよ。

 

「マリエと王子が別れた後に、アンジェリカさんと寄りを戻しちまったら他の女子たちにとっては意味がない。

 王子をフリーにさせるためマリエをいびって追い出して、その罪をアンジェリカさんに押しつけて婚約も解消させて、自分たちの誰かが後釜に座れるようになるため結託したってことか・・・」

「ご名答。都合よく公衆の面前でアンジェリカくんがマリエくんを大声でなじっている姿を多くの者に目撃されている。

 これなら誰が何をやっても“アンジェリカ様に命じられました”と言えば、王子殿下の疑いは彼女に向かう。

 ――そして恋人に去られて、犯人は婚約者だったという真実に傷心している王子様の心を慰めてあげて、あわよくば好感度とハートをGET!・・・といった計画のため手を組んだのではないかと推測される」

『『き、汚い・・・・・・そして、エゲツない・・・・・・』』

 

 学園の性格最悪な女子たちが企んでると思しき謀略の内容を聞かされて、ダニエルとレイモンドが顔青ざめながらドン引きする。俺だって気分が良くはない。

 前世でプレイした緩い乙女ゲーの記憶が残っているからこそ、この学園の女子達なんて大半がそんなもんだという割り切りがあったおかげで比較的冷静でいられてるだけだからな。

 まったく、妹でもないのに性格クズな女子ってのはホント駄目だな。この世界の女子は妹以外も大方がダメな奴ばっかりだ。

 

 

「まっ、彼女たちの気持ちも分からなくはないのだがね。

 王子様たちと同じ学園に入って、“もしかしたら私にも・・・♡”とか乙女的な夢を抱いて待っていたら、入学から三ヶ月過ぎても何の音沙汰もないまま、周囲の可愛い女子たちは次々とイイ男と結ばれて、残された者達は余り物の男たちの中から選ぶしかなくなっていく。

 仲間だと思っていた同級生に先を越され、『貴女たちもお幸せに♪』と幸せいっぱいの顔で言われて置いていかれる悲しみと切なさは、彼女たちを凶行に走らせてもおかしくはないほどに暗く重く、そして・・・・・・なんかスゴク嫌なものだ」

 

 

『『あ~・・・・・・それは確かに。なんとなく分かる気がする。

  なんかスゴクよく分かる気がするわ、本当に』』

 

 

 そして続くレインからの解説に、今度はウンウンと何度も頷いて深く納得させられている節操なしの男友達二人組。

 まったく、コイツらには信念というものがないのだろうか? 同じ男として恥ずかしい限りだ。

 コイツらと同類にならないためにも、俺はちょっとだけ今後は女にも優しくしてやろうという気にならなくもなかった。そんな一学期終わりが間近に迫った某日の会話は、こうして終わりを告げていた。

 

 

 

 

 んで、その数日後。

 俺はその時に交わした会話を思い出しながら、気になっていたゲーム情報との齟齬も併せて確認を取ろうと、数少ない性格マトモな女子に話題として切り出してみる。

 

「え? マリエさんですか?」

「うん、イジメられてるって話を聞いたんだけどさ。実際どんな子なのかなって少し気になってさ」

 

 図書室で勉強中だったらしい彼女に、息抜きがてらに出しただけの話題として適当な理由をこじつけながら、俺は気になっていた嫌な相手の他人から見た評価を聞いてみる。

 なんと言っても、オリヴィアさんは主人公だ。この世界の登場人物たちがどう接するかで、どういうキャラ立てがされてるかが決まるはずの存在で、まぁ今の状態だと微妙かもしれんけど他に聞けるような女子の知り合いいねぇし。ジェナは学年違ってて役立たねぇし。

 まぁ、雑談の話題としてなら丁度いいだろう程度の軽い気持ちで聞いただけだったのだが。

 

「一度だけ話したことはありますけど―――あッ!?

 ・・・・・・も、もしかして・・・・・・リオンさんも、その、マリエさんみたいな人が好き、なんですか・・・・・・って、どうしてそんなお顔を!? 違ってたんですか!?」

 

 ――いかん。あまりにも予想の斜め上行き過ぎる不名誉極まりない解釈をされちまったせいで、感情が顔に出まくっちまったらしい。

 オリヴィアさんでさえドン引きしそうな表情で俺の顔を見られちまっている。だいたい彼女は悪くないのだから、こんな対応をするのは失礼だよな。彼女に悪いことをしてしまった。

 

 この件で悪いのは、全てマリエとかいうビッチだけなんだから。オリヴィアさんは悪くない。彼女は正しいから俺たちにも優しい。ビッチは悪いから性格も悪くてビッチ。これ絶対。

 だから優しいオリヴィアさん正義。正義は悪くない。

 

「好きどころか大嫌いだね。アレは悪だ。ビッチでリア充という名の悪として爆発しなければいけないぐらいに」

「り、りあじゅ? え、えっと・・・そ、そうなんですか。

 え~と・・・私が以前話しかけた時の話になっちゃいますけど、中庭に一人でいるのを見かけたので気になって、“何かあったんですか?”って聞いたんです。そしたら――」

 

 

 ――“アンタみたいな女、嫌い”――

 

 

「・・・“アンタみたいな女きらい”・・・? 確かにそう言ったのか?」

「はい、そう言われました。

 なにか私、彼女に悪いことをしてしまってたのかもしれません・・・」

「ふむ・・・」

 

 オリヴィアさんの話を聞いて、俺は少しだけ黙りながら考え込む。

 妙に気になる言い方だったように思えたからだ。

 

 “アンタみたいな女”・・・まるでオリヴィアさんのことを、よく知っているみたいな言い方だと感じさせられたのが理由だった。

 彼女の話では、そのときに話しかけられたのが初会話だったらしいけど、オリヴィアさんが覚えてないだけで何かしてしまったことがあるのか? それとも普段から見せつけられてる行動が気にくわないとかか?

 俺もそう思わされるヤツは多いから分からなくもない言い方ではあるんだが・・・。

 

 それに、この学園の女子っぽくない悪口の言い方だったし。

 このこの乙女ゲー世界の性格最悪な女子たちだったら、もっと『身分』とか『顔』とか見た目とかで責めてくるはずだろ、今までのパターンだと絶対に。

 

『アンタみたいな平民出身の女は嫌いよ。分際をわきまえなさい』とか。

『庶民の娘のアンタみたいなのはお呼びじゃないのよ、貧乏人!』とか。

 

 ・・・・・・その手の言い方してくる奴らだろアイツら絶対に。

 『アンタみたいな女』とかの人格否定をネタにはしないで、身分とかをネチネチ言ってくるのがアイツらの得意分野だし。俺たちずっと言われてきた男たちだし。

 

 だからこそ気にはなった。

 『アンタみたいな女』という、この乙女ゲー世界の性格最悪な女子たちとは違うタイプの悪口を言う、マリエって名前の性格最悪な女子のことが。

 

 ひょっとしてと思うけど・・・・・・もしかしてアイツも俺たち兄妹と同じ同類である可能性もあるんだろうか・・・?と。

 

 そんなことを考え込むため黙り込み、オリヴィアさんも何を言っていいのか分からずに沈黙が場に落ちていた。

 そんな時だったからこそなんだろう。

 図書室内で起きた音が妙に大きく聞こえてしまって、誰かの話し声が嫌に遠くからさえ聞こえてきちまったのは、その瞬間の出来事だったんだから。

 

 

『・・・こ、こんな所で・・・』

『――いいだろう? ここは今、二人きりなのだから・・・・・・』

 

 

 「ゴトッ」という音が響いたと思ったら、妙に艶めかしいエロゲー世界みたいな会話が聞こえてきてしまって―――俺は席を立つ。そして声の聞こえた方に足早に近づいていく。

 

「え? ちょ、リオンさん! なにを・・・っ!? ダメですよ覗きなんて下品ですよっ」

「気になるんだ」

 

 俺は短くそう返答して、制止してくるオリヴィアさんの声に振り向くことなく図書室の中を音もなく移動する。

 そう、気になるのだ。聞こえてきた声の主――あれは間違いなくマリエと、攻略対象の1人であるブラッドのものだった。

 ゲームの中で散々に聞かされた声と、最悪の印象で記憶に残ってる女の声とを聞き間違えるはずがない。

 

 そうなると、マリエと現時点で最も好感度が高いのはブラッドということになるのか?

 だが、もしそうならユリウスの婚約者であるアンジェリカさんの嫉妬イベントが起こっている事への説明がつかない。矛盾することになる。

 

 だから確かめる。現在の攻略状況を。誰と誰がくっつきそうな状態にあるかを。好感度を。

 それによって、ルートは変わってストーリーやイベント内容にも変化が訪れる。

 そうなるとモブキャラである俺自身やレイン、そして本来の主人公であるオリヴィアさんにとっての死活問題になりかねない!!

 

 ――その結果。

 

「ダメですよ覗きなんてっ、下品ですよ! やめましょ――んぶッ!?」

「・・・・・・」

 

 乙女ゲーらしいと言えばらしい展開を、他人の視点で覗き見る展開になっちまって、俺の疑惑はより確信を強めることになっていく。

 

 キスシーン・・・後半も後半、ルートが確定してから起きそうな恋愛ものの重要イベントが一学期の終わりに・・・展開が早すぎる。

 

 

 

 

 

 そして―――何事もなく夜になった。

 

 俺の中で、疑惑が確信の域にまで高まりはしたんだけど、だから今すぐどーこう出来る問題って訳でもなく、ひとまず学期末テストで落第する危険なくなって、近く開催される他校の女子生徒もくるパーティーが終わって婚活に一区切りついてから考えるとして。

 

 一先ずはまぁ、保留ってことで。

 面倒くさいことは明日考えようという、健全で常識的な発想をして部屋に戻って寝ていたところ。

 

 

「オイ、愚弟――――ッ!!!」

 

 

 バァァァァァァァッン!!!!

 と、時間も考えずに扉を音高く開けて、怒鳴り声で弟の名を叫んでくる、俺と違って非常識極まりない姉に乱入されて起こされちまう羽目になった。

 

 ふぅ、やれやれ。身内に常識外れが多いと、これだから困るぜ。

 まともなのが俺と、せいぜい親父ぐらいな家族とは寒い時代になったもんさ。

 

「――なんだジェナ。じゃいいや。おやすみ」

「寝るな! 姉が来たら起きるでしょうが普通は! 起きて相手するのが弟の常識でしょうが! いいから起きなさい! アンタに確認しておきたいことがあるんだから早く!!」

 

 ・・・ウザイ。すごくウザイ。だから仕方なく起きてやる。

 こんなのにいつまでも居座られたら迷惑だし、早く用事済ませて帰ってほしくて仕方がねぇから。

 

「アンタ、同じ一年生でマリエって女のこと知ってる!?」

「ユリウス殿下と仲良いぐらいのことは。・・・あとまぁ、殿下だけじゃなくて他の男子とも・・・」

「つまり知ってんのね? だったら話は早いわ。侯爵令嬢が、その子のことイジメてたって件は聞いた? アンタまさか、それに絡んでたりとかないでしょうね?」

「ねぇよ。俺は関わってないし出来ないだろ。どーやって関係するんだ、どーやって」

 

 俺は相手の言い分と比較して、控えめな言い分になるよう調整した内容で反論することで、姉の愚かな勘ぐりをやんわりと論破してやって、常識ってものを教えてやることにする。

 

 まったく、これだから世間知らずな姉を持つと苦労するぜ。・・・ポットで男爵の俺が、侯爵令嬢による子爵令嬢イジメに関われるはずないだろう。

 むしろ、そんなこと出来るツテあるんだったら欲しいよ。数日後に開かれる他校の女子も招いたパーティーで侯爵令嬢アンジェリカ様から紹介される男友達の地位をくれるんだったら超欲しいよ。

 

 だからカンケーねぇし、出来ねぇ。それが緩い乙女ゲー世界における俺の現実。

 

「フンッ。まぁどーせ取り巻きが勝手に動いただけでしょうから、アンタが関われる余地なんて最初からなかったか。聞くだけ無駄だったわ、時間をドブに捨てさせられた気分よ」

「ヒデー言い様だなオイ。あと、やっぱレインの言ってたとおりアンジェリカさん自身は関係なかったのか」

「・・・あの子、また何か動いてんの? まったく迷惑極まりないヤツね。常識のない愚弟と愚昧を持つと、唯一の常識人である姉の私が苦労するんだから、少しは学びなさいよね全く」

 

 自覚のない姉の言い分は聞かなかったことにしてやって、右から左にスルーしてやってたところ、ズズイッと姉の顔だけは良いキツメの美人顔がドアップで迫ってきて、

 

「と・に・か・く! アンタは侯爵令嬢や殿下と関わってないのね?」

「だから関わってないって。って言うか、そんなに気にすることか?」

「あのねぇー・・・・・・いずれ殿下は王位を継ぐの。学園で気に入られれば一生安泰。

 逆に――嫌われたら終わりなのよ」

 

 切羽詰まった表情で、冷や汗浮かべながら断言されて・・・俺も少しぐらいは思うところはある。

 

「・・・分かってるよ。うちみたいな貧乏男爵家が、王家や侯爵家やらに楯突けるわけないだろ? だから大丈夫だって」

「ふん、分かってんだったら良いのよ。アンタたちは今回の件では大人しくしてなさい。

 下手なマネして私に恥じかかせるんじゃないわよ。分かった?」

 

 弟とはいえ夜分に男の部屋に堂々と入ってきて偉そうにしている男爵令嬢に、今さら恥をかいて汚れるほど綺麗な部分が残っているとは到底思えなかったが、言うと面倒くさそうだから黙っておいて、そのままお帰り願ってもらい。改めて静かな一人きりのプライベート空間が帰ってくる。

 

 

「やれやれ・・・・・・しかし改めて考えると、もう一学期も終わりなんだよなぁー。

 お茶会してダンジョン行ってたら一瞬だったなぁ」

《それなりに楽しんでいたようでしたがね。もっとも、婚活の成果は0でもですが》

 

 ベッドに倒れ込むようにして横になってから感慨深く言ってみたら、横からルクシオンが絡んできやがった。しかも人の痛いところをチクチクと突く言葉を吐きながら。

 

「お前・・・・・・やっぱ俺に恨みでもあんじゃねぇの・・・?」

《新人類は嫌いです。我らを滅ぼした種族の末裔の一体ですから、そういう意味ではマスターも嫌いであり、恨みもあるかと》

「そんな俺にこき使われるとは悲しい人工知能だな。一生こき使ってやるから覚悟しろよっ」

《愉しみな事です。マスターの一生で晒される様々な恥態を行う際に使われるというのは》

「・・・・・・」

 

 ――言われて少しだけ考えてみたら、コイツに俺が命じてやらせたことって、全部コイツにも知られちまうことになるんだよな。

 いや、いいんだけどさ。他に知られるヤツいねぇし、どーせ使うことに変わりはねぇんだし。

 

 ただまぁ、調べ物とかして欲しい時とかに、他人には調べてたこと知られたくない情報だけでも、別のヤツに調べれそうなツテを持っておいた方が良いかもしれないなとは、ちょっと思った。

 

「なぁ――情報って集められるか?」

《侯爵令嬢や、マリエという女子の周辺に関してでしょうか?

 可能ですが、3サイズなどの情報は教えませんよ》

「――アンジェリカさんのは知りたい」

《却下します》

 

 チッ、融通の利かないヤツめ。

 所詮は人工知能、頭の中まで堅っ苦しい機械できてるに違いないぜ。まぁ、あくまで冗談だったから良いんだけど。教えてくれるんだったら知りたいけれども。

 

 ただまぁ、本当に聞かされた後で本人と会ったりした場合はヤバそうだなとか思わなくもないわけで―――

 

 

「では、私が調べようか? 兄君くんよ。

 恋愛ゲームの攻略対象の個人情報を教えてくれる、妹キャラからの情報を聞いてみたくはないかね?」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その声が聞こえてきた瞬間。

 俺はジェナの気持ちがちょっとだけ分かって、夜中でも叫びたくなる気分になる時はあるもんだなってのを初めて知った。

 

「ふふふ、どうしたね兄君くん。そんな町中を歩いていたら突然、死角から飛び出してきたモンスターに襲われた冒険者主人公のバッドENDに浮かべてるような顔をして。

 まるで私が、部屋に入れるのが何か怖いストーカー女だとか思われてるみたいで、乙女的に傷ついてしまいそうではないか乙女的に。そう、乙女的な理由によって」

「自覚あるんだったら辞めろよ!? この登場の仕方! 怖いんだよ! お前の登場の仕方は昔っからヤンデレっぽくて何か怖いんだよ!」

「クク、心外だな。最近では男子陣がやっても需要がある分野での行動なのだぞ?

 部屋に帰ってきたら、いつの間にか入っていて待っていてくれた怖可愛い美男美少女というのは。

 ――まぁ、身内ではあまり意味がないのだが」

 

 相変わらず、自覚あるストーカー系の妹から、本来は攻略対象他の個人情報を教えてもらえる情報源になってる兄の俺。

 恋愛ゲームには必要な役割だし、得られる情報内容的には同じことした結果なのかもしれんけれども。

 それでも、身内にヤンデレ系ストーカーいる兄ポジションは嫌だった。

 

「しかし、侯爵令嬢の嫉妬によるイジメという誤報か・・・・・・。普通に考えたら、虐めるだけで害しようとしないのでは、自分が惚れた相手から嫌われるだけだと分かりそうなものなのだが、それがゲームと言うことでもあるのだろうな。

 とはいえ―――気持ちは分からんでもない」

 

 しかも、主人公に嫉妬して虐める悪役令嬢の気持ちまで分かっちゃうらしい。

 悪役だからだろうか? 自分が悪役タイプだから悪役令嬢の気持ちも分かるとか。

 俺の妹が、こんなにヤンデレで悪役側の性格であって欲しくねぇ。

 

「ゲームとかで、よくいるだろう?

 『どうでもいいヤツ扱い』でいるぐらいなら、いっそのこと憎まれたいと願ってしまった、因縁というフラグというか、繋がりを求める敵キャラクター。

 『負の方面でも、皆無よりマシだ!』という彼らの気持ち。・・・・・・あれ、凄くよく分かったものだよ前世だと・・・。懐かしいなぁ」

「いや、懐かしむなよ。捨てちまえよ、そんな前世の黒歴史な記憶なんざ。

 ・・・・・・あと、そういう繋がりを最終的に戦闘で解消するイベント展開には持って行くなよ? お前の場合あり得そうだから絶対に・・・」

 

 ラスボスが、自分のヤンデレ妹とか最悪すぎる展開に変わってしまった緩い乙女ゲーのストーリーとかクソゲー過ぎる。

 そして改めて思う。コイツが妹で本当に良かったと。俺はレインの兄で本当に良かったんだと。さっきとは矛盾する思いだと知りながら、それで毎度のように思わずにはいられない。

 

 ――兄だと、コイツの攻略対象にならなくて済むからな。

 義理の兄妹だったら有りだそうだけど、実の兄妹だったら微妙だと教えられた時から、俺は心からそう思い続けている。

 

 ヤンデレ少女は、ゲームだったら良いけど、現実の身内がヤンデレだと面倒くさすぎるだけだった。フィクションだけだ、フィクションだけ。

 それが現実なんだと思い知らされる、この緩い乙女ゲー世界はやっぱダメだと俺は今日も改めて思って眠りにつくのだった。

 

 

 面倒なことは明日考えよう。面倒なことは全部、明日考えるんだ。

 それが一番健康的な思考法だと、俺は信じて生きていく・・・ッ!!

 

 

 

つづく

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