試作品集   作:ひきがやもとまち

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久々に『超人高校生』の二次作版で次話が出来ましたので更新しました。
本当はもう少し先まで進めた内容が書けてから出したかったんですけど、前の話から時間が経ち過ぎてて不安でしたので…。

今回もマイルド風味に汚い金のお話でっす。


キチガイたちも異世界で余裕に生き抜けてるようですが何か?4章

 

「エル坊、今回の商談ではオレに主導権をよこす気はねェか?

 そうすりゃヤッコイから大金ふんだくりまくって、お前らに全額くれてやる。勝算はある」

 

 

 ・・・・・・エルム村の金庫番である少年エルクと、新たに加わった小汚い少女ルゥが、『異世界から来た』と自称している居候の一人から自信満々に言い切られて付いていった先にある市長の屋敷の前で待たされてから半時ほどが経過していた。

 

 彼としては、ガラの悪い“自称”異世界人『マサ』の言葉を信じたわけではなく、むしろ半信半疑というより二信八疑ぐらいの割合で疑う気持ちの方が強いままではあったのだが、他に方法があるわけでもなく今のままでは村の将来が危ういことも事実ではあったため、仕方なしに付いてきて仕方なしに待ってやっているだけ。

 

 ・・・・・・その程度のつもりだったのだが。

 屋敷から出てきた相手が持ってきて、彼に手渡した物を見せられた時に彼の期待は大きく裏切られることになる。

 

「『営業許可証』・・・? しかも、《エルム商会》って・・・・・・市長直筆のサインまで。

 に、偽物じゃないんだろうな? だってコレって・・・」

「あん? んなモン持ってくる奴が、なんだって市長の屋敷なんかに来たと思ってんだ。

 普通に考えて方向逆だろうが。馬鹿じゃねぇのか?」

「・・・・・・ぐ、ぐぬぅ・・・」

 

 そして即座に、またしてもバカを見下す目つきで見下されて、己の失言を恥じ入らされて唇を噛みしめる羽目になる、現時点では負け犬街道一直線な少年エルクだった。

 たしかに、市長のサインが入った許可証の偽物を手にするため訪れる場所としては、市庁舎と市長の屋敷ほど程遠い場所も他にはない。

 むしろ、偽物か本物かを判定するために訪れる場所の最たる施設だ。

 

 ここに来れば本物があり、見比べれば余程の品質でなければ本物でないことが判別可能になる数少ない場所なのだから、わざわざ偽物を作って持ってくる意味が全くない。

 むしろ逮捕されずに出てこれて、他人にも渡してしまってる時点で市長自身がニセ許可証発行の主犯確定だ。一気に立場逆転して、犯罪結社ドンの屋敷に早変わりである。

 

 

「・・・マサ殿の依頼を受け、風魔の技を用いて拙者が裏帳簿を調べた結果故に。足は付いておりませんので、ご安堵なされい」

「うわッ!? あ、アンタいつの間にっ!」

 

 いきなり“自分の背後から”声をかけられ、エルクは驚いて飛び上がって前に出る。

 一瞬前まで誰もいないと思っていた場所に、いきなり覆面で顔隠した印象薄い女の子が立っていて、ボソボソッとした口調の小声で話しかけられたら、普通は安心なんか少しも出来ないし、本能的な恐怖しか感じないのが一般的な対応だった訳であるが。

 

 しかし彼女――風魔の子孫であり『異世界から来た二番目の天才』の一人である少女『風魔紙乃』にとって、それこそが普通の日常でもあった。

 

 彼女にとって、忍びが立つべき場所は常に『背後』であって『正面』ではない。

 主の背後ではなく『主の敵の背後』こそが、彼女にとって主の背中を守る者の立つべき場所だったからだ。

 正面から挑んで勝てぬ強敵を討つためには背中から打つは、戦国乱世から変わらず続いてきた伝統であり、主を襲う敵が正面に立つ者ばかりとは限らないのも『本能寺の変』を知る日本人なら誰もが承知している常識でしかない。

 

「世界最高のジャーナリストを影から守る任務と比べれば、容易い仕事であった。ズバ抜けた監視能力を有する忍殿の護衛は、この程度のザルではなかった故に」

「・・・・・・??」

 

 言葉の途中で、なにか過去を懐かしむように遠い目になって誰かについての話を語り始める黒装束の少女だが・・・・・・知らんし。

 シノブって誰? 男?女?どっち?という程度にしか、世界一の天才ジャーナリストを知らないエルクには分かりようがない。

 

 無数の?マークを頭上に浮かべるしかないエルクだったが、当然のこととしてマサの側にいちいち細かく自分たちの世界について説明してやる気はない。その必要も意味も無い。

 自分たちが戻れるかどうかさえ判然としない世界で飛び回り続けているであろう『サルトビニンジャ』の末裔の話など異世界人にしたところで確認できる訳もなし。

 いま語るべき説明は別にある。

 

「坊主、商売のレクチャーをしてやる前に念のため基本からお復習いしとくだけだが――このドルムントとかいう豊かでデカくて整備された港もある交易都市で、流通担ってる業者が一つだけってことは無い。あり得ない。

 どこの世界だろうと国だろうと関係なく、領主とか市長って奴は企業を誘致しまくって、金を落としまくって欲しいに決まってるイキモンなんだからな」

「・・・・・・あ」

 

 ハッキリと断言されて、エルクは抵抗心はあったが内容的にはアッサリと受け入れることが可能になって、思わず声を上げることになる。

 今までは、「それしか候補がないから」「仕方ないから」という理屈で自分を納得させようと必死だったせいで目を向ける余裕がなかったが、言われてみれば妙な話ではあった。

 

 これだけ広い町で、商会はノイツェラント商会一つだけしかないドルムントの町。

 町の収入と市長の給料は、税金から得ているはずだ。市長は税金を払ってくれる商会が一つだけしか無い状況で良いと思えるものなんだろうか?

 もし一つだけしか税金を納めてくれる商会がない町でも構わないと思える理由が、市長の側にあるとしたら、それは―――

 

「まさか・・・・・・ヤッコイの野郎が市長にワイロを!?」

「ああ。“それも”ある」

 

 アッサリと頷いて、マサはエルクの達した結論に『残念賞』をくれてやる。

 あるいは、世界一の天才様なら敢えて「それをやる情報を教えない」という手段を選んだかも知れないと考えはしたのだが、生憎とマサは「それ」が大してタブーとは感じていない勢力の商売しか知らぬ高校生である。

 

「それもあるが、それだけだと不十分だ。それじゃあ別段、ヤッコイの野郎である必要性がまるでねぇって事になっちまうからな。

 極端な話、『ヤッコイの倍払うから奴の地位を俺にくれ!』とか言ってくるヤツがいた時点で破綻だ。他のとって代わりたい連中とのオークションが始まっちまって、ヤッコイの豚親父としちゃあ得がない。

 おそらく、よそから同業者が入ってこれねぇよう、事前に色々ブロックしてるって事なんだろうよ。独占市場を維持し続けたい大手にとっちゃあ、自分にとって代わりうる若き才能なんざ邪魔なだけだからな。

 吹けば飛ぶ新参の内に吸収されるか恭順か、嫌なら滅ぶの状況を作り出しとくに限る。競合の原理なんざクソ食らえ。それがまっ、既存の大手の考え方ってもんだからなァ」

 

 平然と言い切って、独占市場と「抱き込み」の流れを基礎的な部分だけとは言え簡略に解説する、営利企業の指定業者であるにはあった極道のマサ。

 資本主義の考えからみれば許しがたい部分を有している発想だったため、『資本主義の魔王』と呼ばれていた世界一の天才高校生は【大嫌いなやり方だから】という理由だけでエルクに敢えて教えることなく、教えなくても上手くやってける方法を確立する道を選べたかもしれないが・・・・・・残念だが世界で二番目でしかない自分には、そこまで上手くやれる自信は無い。

 

「だから、官憲の坊主から指示受けたとかで調べ物するため市長の屋敷に潜り込んでたコイツに、ちょっと家捜ししてくれるよう依頼したのさ。

 ノイツェランドからの不正融資受けてる分の裏帳簿あったら見つけ出し、無かった時には“造ってくれ”ってな。そーしたら案の上って訳よ」

「・・・・・・ニンニン、でござ候」

 

 マサから親指で指し示されて、両手を顎の下で合わせて人差し指だけを二本とも立てる妙な仕草をして妙な単語を口にする、見た目の個性は乏しいのに印象は濃い目のブレザー制服少女・紙乃。

 

 ただ、どこかしら仕草がギコちなく、先程より小声になって、頬も僅かに赤味が差していて、なんとなく誰かの真似をして恥ずかしそうにしている様にも見えなくはなく。

 

「――ドキッ☆」

「・・・・・・・・・(赤~~~///)」

 

 年頃の青少年エルクは思わず、肉体的な生理現象に襲われてしまいそうになって、身体の中の変化した部分を監視するため見下ろした紙乃の頬が更に赤く染まりまくり。

 

「そ、それでは私は次の任務があるので、これにて御免!

 ちょっと約束があってマジヤバいって感じだよね~! でも、結婚できたら玉の輿じゃんって思ったから~、仕方ないよねー――ではっ!!」

 

 と、混乱したのか焦ったのか、あるいは両方に色々プラスされまくった結果だったのか、変装する対象が混ざりまくった言葉で別れを告げると、「シュッ」と音を立てて姿を消して、後には影も形も残さず消えてなくなる。

 

 ・・・・・・もっとも、自分がもたらしてしまった妙な空気まではどーしようもなかったので、流石のマサでさえ白けたように頬をポリポリかく羽目になってた訳であるが・・・。

 

「・・・・・・あの嬢ちゃん、中身はあんな性格だったのか。初めて知ったわ。

 初心すぎちまって、キャバ嬢とかには使えそうもねぇが、金持ちのジジィに取り入らせるには有効か・・・?」

 

 と、仲間の一人を使ったお家のっとり計画を一瞬だけで考えついて幾つか修正案加えた後、「まっ、いっか」と呆気なく割り切り捨てると。

 

「そういう訳だ、エル坊。

 あの嬢ちゃんに探してもらった裏帳簿差し出して『俺たちにも一枚噛ませてくれや』と紳士的に提案したら、役所のトップに相応しい態度で快諾してくれたお陰で、この許可証もらえたって寸法よ。

 市長にとっても自分の実入りが減り過ぎねぇなら、支払うヤツは誰でも同じだったみてェでな。ブタ君に撤回求められた時には、はぐらかすぐらいの協力はしてくれるそうだ。もっとも残りは自己責任ってことらしいがね。

 という訳で、行こうか坊主と嬢ちゃん。商品買い付けのための準備しに」

「ちょ、え!? い、行くってどこへだよ! 俺が持ってきた商品を売るつもりじゃって、ウギャァァァァ!?

 痛い痛い痛い!! もげる! 折れるッ!? 取れちゃうから助けてホゲギャァァァッ!?」

「わっ!? わわっ!? あわッ!!」

 

 歩き出したマサを追いかけ、またエルクが馬鹿なことを口走ってしまって、お仕置きプロセスの刑に処されてしまい、目の前で十代半ば少年が涙と鼻水と色々な液体を流しまくった姿で助けを求められた幼い尻尾つき幼女を大いに慌てさせて困らせまくり。

 

「はぁ・・・、はぁ・・・・・・し、死ぬかと思った・・・・・・一瞬だけ花畑の向こうに爺ちゃんの姿が見えて、気持ちよくなってきた時は終わっちまったかと――って、そうじゃなくて!

 何すんだよ!? 痛ぇじゃねか! 痛すぎるじゃねぇか!?」

「懲りずにアホ発言でアホ晒すからだろうが阿呆。アホには言葉で言うより、まず身体に痛みを覚えさせてから教えてやるのが俺の流儀なんだよ。

 むしろ、テメェらの村には恩義があるからな。優しく教えてやってる方なんだぜ? 『恩を返す時には三倍返し、怨みを返す時は五倍返し』が、うちの組の仁義ってヤツだ。覚えとけアホウ」

 

 未成年者から涙ながらの非難を浴びても、まったく動じず人権団体もマスコミもマスゴミも動いてくれなければ存在もしない異世界において、エルクとしては涙目で恨みがましく睨んで恨むしかない中世ヨーロッパ風っぽいファンタジー世界の非情さ。

 

 まぁ、それはそれとして済んだ話とし。

 

「ったく・・・何のために許可証もらったと思ってたんだテメェは? 脅して出させた代物だぞコイツはな。

 その品物を売りてぇだけなら、コイツの代わりに領主からヤッコイの豚に高値で買うよう口利きさせりゃ済む話だろうに」

「え? ・・・あ、そっか・・・でもだったらどうして――」

「今回限りの裏取引だけなら、その場凌ぎぐらいの意味しかねェ。継続的に収入得られるようにしねぇと、遠からず飢えて死ぬしかねぇのがテメェらの村だろうが。アァン?

 自力で金稼げる状況作らねぇと死ぬぞテメェら。自分の村の問題解決したかったら、もう少し真面目にやれ真面目に」

「ぐ・・・。ぐぬぬ・・・・・・」

 

 いちいち勘に障るバカにした言い方をしてきまくる男だったが、概ねマサの言っていること自体は間違っていないことがエルクには理解できたので、余計に負け犬感が強まる一方なエルクくん。

 確かに相手の言うとおり、現状が続く限りエルム村に未来はなく、今年は良くても来年、再来年までのことを考えたら、今日持ってきた分だけを高値で買ってもらったところで焼け石に水。

 裏帳簿による脅しが何度も使える脅迫材料にはなり得ない以上、何かしら別の手段で金儲けが出来続けられるようにするための初期投資として活用した方が将来性があるというものだろう。

 その点でマサの言う意見に誤りはない。

 

 ―――もし、一つだけ大きすぎる問題点があるとしたら、それは・・・・・・。

 

 

「言いたいことは分かったけど・・・・・・いいのかよ?

 そんな話を、“コイツにも”聞かせちまって・・・・・・」

 

「―――・・・っ」

 

 

 やや剣呑さを増した瞳でエルクが見下ろした先で、「ビクッ」と彼の視線に怯えるように身体を震わせた小さな女の子。

 

 「ルゥ」と名乗った、亜人の幼い女の子だ。

 短い赤髪と、少しだけ浅黒い肌、猫のような尻尾と耳。

 

 今は薄汚れた身なりで、小汚さしか感じられないが、よく見れば容姿はそれほど悪くはなく、着飾ればそこそこ見栄えのする美少女と呼んで差し支えない姿に化けるのかも知れない。

 

 だが今のエルクにとって彼女は、ただの『よそ者』でしかなかった。

 村の浮沈と、村人達が冬を越すための必要物資を買い付けるための金稼ぎと、ヤッコイに喧嘩を売ることになるかもしれない賭けに出なきゃいけない状況下で、仲間に加えてしまった余所者の少女でしかない存在。

 

「どう考えたって、こんなドコの誰かも分かんねぇ娘を仲間にして聞かせちまってもいい話じゃないだろ?

 ・・・・・・あんま考えたくねぇけど、この子がヤッコイの手下じゃない保証だってないんだし、そうじゃなくたって途中で裏切る可能性だってある・・・」

「・・・・・・っ、――っ、」

 

 後ろめたそうに視線を逸らしながらエルクから言われた言葉に、ルゥは泣きそうな顔になって涙を浮かべ、相手の顔を真摯な瞳で見上げてくるが、顔を逸らしている彼の視界には残念ながら入ることが出来ず、意見が撤回されることもない。

 

 エルクとしては、間違っても、出身村もヤッコイの手先でないかさえも不明な少女を仲間に招き入れていい状況では全くなかったため、心を鬼にして拒絶する必要性を感じざるを得なかった。

 

「ルゥは・・・裏切ったりしない・・・よ・・・。ルゥも、金貨さん欲しいよ・・・自分の力で、生きたいだけだ、よ・・・・・・。もう、振り回されるだけなのはイヤな、の・・・・・・だから、お願い・・・。

 ルゥにも、お金さんの稼ぎ方、教えて欲しいよ・・・・・・」

「・・・・・・悪いけど・・・。言葉だけなら、誰だって何とでも言えるんだよ・・・」

「・・・・・・っ」

 

 その懸念は尤もだったし、必ずしも彼が非情だった訳でもない。

 彼自身が、一つの村の中だけで生まれ育ってきた差別種族出身と言うこともあり、やや排他的で同族意識が強くなっていた価値観の持ち主と言うこともある。

 

 村のサイフを預かる金庫番としては、疑い深いことは必ずしも間違いではなかったが・・・・・・

 

「いーじぇねぇかエル坊、固いこと言うな。嬢ちゃん一人ぐらい仲間に入れてやれよ。ケツの穴の小せぇ男だな全くよう」

「なっ!? け、ケツのって、お、オイ!?」

「~~~~っわぁ♪」

 

 平然とマサは受け入れる決定を、エルクに受け入れさせる。

 まだ異論ありそうだった彼に、笑顔で拳を握って肩の高さまで掲げて見せつけてやることで、好意的に納得してもらって了承まで得られるほど、誠意溢れる交渉で納得してもらえる『いつもニコニコ金融業者の取り立て接客マナー』も実践つきでレクチャーしてやった上で。

 

 “魔王様なら別の理由で同じ選択をしていた可能性”について一瞬だけ思いを馳せ、『相手の潜在能力を見抜く目』に天性のセンスを持っていた元同級生の人事に回しても天才的な活躍できそうな才能を半瞬ほど羨ましいと感じた後。

 

 

「今の俺たちには手駒もなけりゃツテもない。許可証一枚あるだけじゃあ、商売が可能になっただけで実質的には不可能だ。どのみち店員は必要になる。

 そういう時にゃ、誰かと繋がりあるヤツよりかは、孤立して居場所がない見下されてるヤツの方が便利なモンさ。

 誰に情報売ったところで足下見られて買い叩かれる。連絡役の仲間もいなけりゃ、守ってくれる家族も無し。

 オマケにこっちとしては、裏切った恩知らずに何やったところで心が痛む理由もねぇ・・・・・・それぐらいの覚悟はした上で仲間入りしたがってると解釈していいんだよなァ? お・嬢・ちゃ・ん?」

 

「「・・・・・・・・・・・・(ガタガタブルブル、がくがくブンブンブン!!)」」

 

 

 ニッコリ笑顔で言われた言葉に、真っ青な表情になって全力で首を縦に振るマシーンになる以外の道をすべて失うルゥ(と巻き込まれエルク)

 組織そのものは国から取り締まられていなくとも、国から認められて認可を受けて商売をしている訳でもない指定暴力団が経営している営利企業も、日本国内に何件か支店を出店して代表取締役社長を兼任している世界で二番目のマネー魔王は、裏切りや内部告発に対して世界一ほど寛容にできる余裕も才能も持ち合わせることができていない。

 

 本物の天才なら挽回できる損害でも、自分では致命傷になりかねない。

 だから最初っから、『大成功できる可能性を持った人材』よりも『駄目そうな時に責任押しつけて処分できる人材』を優先して採用しやすい。

 今回の場合は、そんな余裕すらもない以上、相手が裏切るデメリットよりも、『相手が裏切って得られるメリットの少なさ』を採用の時点で説明してやって、裏切ったときに本人が被らされるデメリットも口頭で説明して理解を得る。

 キチンと商取引の原則を守った誠実な商談に、我ながら惚れ惚れするほどだと豪快に笑い飛ばす。

 

(それに、まっ―――)

 

 とマサは、青ざめた顔色で黙り込んで震えている二人を前にして笑いながら、心の中でソッと「続き」を付け加える。

 

 ―――本音を言うよりゃあ、少しは印象的にもマシだろう―――と。

 

 実のところマサは、エルクから言われた言葉を聞かされた時。

 反射的に思ってしまったことがあったのだ。

 

 それは、助けられた恩を感じている村の一員に対して世界一の天才だったら、まず間違いなく思わなかったであろう一言。

 資本主義の魔王なら、挽回できてしまえる自信があるからこそ思うことがない、凡人じみて反吐が出そうな平凡すぎる、よくある感想。

 

 それは―――『エルクも同じようなものだ』という、言わない方がいい言葉。

 

 自分たち、地球から異世界へと飛ばされてきたらしい『世界で二番目の天才達の集団』にとって、この異世界に住む人々すべては『ドコの世界の馬の骨かも分からないヨソ者』でしかないという事実。

 

 当初のエルクにとって自分たちが、そうとしか見えなかったのと同じように、思えなかったのと同じように。

 マサにとってはエルク達こそが、そうとしか見えておらず、思うことができない立場に今はまだ立ち止まっているままなのだろいう現実。

 

 

 だからこそ、『恩を売りたい』

 そして、『自分たち無しでは成り立たない良い状況』を創り出したい。

 

 自分たちを売ることが、彼ら自身の破滅にも直結してしまう状況を作ってしまえば、信頼関係の有無など問題にもならなくすることが出来るだろう。

 最終的には自分たちの手がなくとも自活できるようになるのが、完成した社会や組織の理想型というものだが、初期の段階では自分たちへの依存度を高めさせ、中央集権体制を構築できるようにすることが、マサの考える異世界経済改造計画の第一歩だった。

 

 

(だが、コイツぁ言えねぇわな。特にエル坊みてェな若いのには、この手の話はするヤツ共々イヤがるだろう。

 資本主義の魔王様だったなら、独占市場だのワイロ経済だの西側が嫌いそうなモンは大抵ない社会を根付かせたがったんだろうが・・・・・・生憎と俺は東側のやり方しか慣れてねぇ。

 天才様がいねェ以上、疑似天才程度のショボイ才能でも出来ることやるしかねェんだろうさ)

 

 

「だ、だけどさ。やっぱもっと慎重な人選しといた方が・・・・・・店員だって俺の知り合いで別の村のヤツが何人か心当たりが―――」

 

「いいから今は俺を信じて従っときな坊主。その後で文句あるなら、お前さんの好きなようにやりゃあいい。

 その代わり、俺に今だけ主導権預けてくれりゃあ報酬として――『一月でドルムント商会をぶっ潰して、お前らのモノにしてやる』

 ・・・・・・どうだ? それでも不満かい? 坊や」

 

 

 返事はなかった。

 ただ気圧されたように驚愕した表情でマサを見つめ返す二人の少年少女達がいただけで。

 

 やがて十秒ほどの時間が過ぎた頃。エルクが遅まきながら首を縦に振って了承を伝え、幼女の方は全力で頷き返して、マサは自信ありげな表情でニヤリと笑って返すのみ。

 

 そして思うのだ。

 

 

 

 ―――敗北感と劣等感に苛まれてる連中には、自信溢れる態度で接するだけで英雄じみて見えやすいってのは、ヒトラーの時代から異世界でも変わることない真理だったのかも知れないな・・・・・・と。

 

 

 

つづく

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