試作品集   作:ひきがやもとまち

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オバロ言霊です。遥か昔に思い付いてたのを今の私の思想も含めて清書してみました。
書くのは久々過ぎる原作なので知識面では多少手加減して読んで頂けると助かります。


リ・エステリーゼ王国の『白銀』

 

 冴え冴えと怪しく光る月光の下、深い夜の森という絶好のシチュエーションで登場してきた主演女優が血塗れの残酷吸血物語をこれ以上なくリアルに演じきっているのを横目で眺めながら“彼女”は思う。

 

(この人は一体、どう使うのが正しい選択なのかな?)・・・・・・と。

 

 

「な、なんなんだよ、あいつらは! あんな奴らがいるなら、いるっていえば良かっただろ!」

 

 “彼”が喚く。

 それを聞いた彼女はより深く考えなければならなくなり、思わず頭を抱えたい気持ちになってしまう。

 

(いや、そもそもあなたの方から野盗さんたちがこの道に伏せていることを伝えられてなかった以上、こちらからお伝えするのは不自然すぎるわけで。

 ついでに言うのであれば、野盗さんたちがいなかった場合にはシャルティアさんたちの出番は別の人たち相手に向かっていたはずですし、貴男が彼らに私たちのことを教えなければ彼らが私たちを襲うことはなく、逆説的に彼らが私たちに殺されるルートに進んで夜の支配者ヴァンパイアに襲われるENDを心配する必要もなかったわけでして・・・・・・ああ、もう! こんがらがっていて面倒くさいですね全くもう)

 

 普通であるなら中途で思考を中断しても全く一切問題ないところで考えるのを止めようとしない彼女の悪癖は“世界と種族が変わった今”なお健在であり、この時も慌てふためく相手をほったらかしにして至って冷静に思考を進めていたせいで向こうを誤解させてしまったらしい。

 

「黙ってないで、なんとか言えよ。全部お前のせいだろうがぁ!」

 

 ーー怒らせてしまい、怒られてしまった。

 

 彼女は「こういう場合、誤解させてしまったことを謝罪すべきなのか否か?」について考えながら甲高い声で怒鳴り散らす相手の顔を見上げて思案し続ける。「自主的に生き餌となって大勢の獲物を釣り上げるのに貢献してくれた彼を逃がすことで計画が破綻しないで済む可能性」について。

 

 実際に其れを行うかどうかは自分たちのリーダーであるギルドマスターが決めること。自分はただ可能性を検討してさえいれば其れでよい、そういう役所に長年安住してきたせいで急激な環境の変化に未だついていけておらず、激しい思考力の低下が見られる彼女としては結構な難事なのだが相手は其れを頓着する気はないらしい。耳障りな声でわめき続けて、彼女を苛立たせ続けてくる。

 

 ザック・サン。ーー確かそんな名前の男性だったはずだ。

 もとより人名を覚えられないことには定評のある彼女には、『条件だけで見定めた相手』の名前はおろか顔だって覚えておくのは一苦労なのだが、今回はこちらの都合で餌になってもらう相手だったこともあり何とか忘れずにいられたようで安堵してしまう。

 やはり人の名前を間違えて覚えるのは良くないと思うのです。

 

「・・・・・・了解しました。こちらへどうぞ」

「た、助けてくれるのか!」

「いえ。せめて苦しまずに最期を迎えられるよう、吸血鬼さんたちではなく凄腕の介錯人に一瞬で首を切り落とさせてあげたいなと思いましたので」

 

 ザックの顔を舞台に、焦りの赤と恐怖の青で二分されていた赤青合戦の勢力図が一気に塗り替えられ、白一色に染め尽くされた色となる。

 

 ガタガタ震え出す身体を抑えることが出来なくなり、自分だけ違うところに連れて行かれるという事態が、ただ処刑場所と殺す手段が変わるだけなのだと事件の主犯自身の口から告げられたことで僅かに見えた気がした生存の糸が、今際の際にみる都合の良い幻想にすぎなかったという事実を思い知らされ絶望する。

 

 

「それでは、セバスさん。嫌な役目を押しつけて申し訳ないですけど、お願いしちゃって宜しいですか?」

「セレニア様。お願いなどと、滅相も御座いません。私どもは至高の御方々に尽くすために生み出されたシモベに過ぎず、如何なる命令でありましょうとも命を捨てて成し遂げるのは当然の義務と心得ておりますれば、どうか遠慮も配慮も無用に願い奉ります」

「・・・そう言うところをモモンガさーーーーアインズ様は憂慮してらっしゃるんですけどね・・・。ーーあと、なんで私に対するときだけ過剰すぎる敬語? 微妙に時代劇っぽかったんですけども・・・」

 

 理解不能な状況にある中で、さらに訳の分からない会話を穏やかに繰り広げている老執事と『世間知らずで汚れのない、深窓のご令嬢』とのやりとりを前に、ザックの神経は遂に限界を超えさせられた。

 

「ぎぃいいいいいいっ!!!!!」

 

 言語として成り立っていない、意味不明な騒音一歩手前の奇声を発しながら懐に隠し持っていた短剣を抜き払い、目の前に迫る銀髪の貴族令嬢の左胸めがけて深々と突き立てた。

 

「ざまぁみやがれ!」

 

 驚いたように自分の左胸を見下ろしている幼さを残した美貌に唾でも吐きかけたい思いと共に、そう叫ぼうとしていたザックだったが実行するのは不可能だった。

 他の誰でもない、彼自身の左胸が急激に痛み出し、激痛による悲鳴と助けを求める自分の声により罵倒は夜の闇に吸い込まれるようにかき消えてしまったからである。

 

「い、いい、痛い痛い痛いいでぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!?

 なんだこれ? なんだこれ? なんなんだよこれはよぉぉぉぉぉぉっ!?

 なんで俺が刺されたコイツじゃなくて、刺した俺の心臓が刺されたみたいに痛みまくるんだよぉぉぉぉっ!? ああ、痛いいだいイダイいダい・・・!!!!」

 

 本来ならばショック死していておかしくない激痛に身体をくねらせ、悶え苦しみ、それでも死ぬことを許されない『ザック自身が選んだ選択肢』その自業自得な結末が彼を苛み苦しませる。

 

「ーーそれはセレニア様の種族特性を、装備しておられるご愛用のゴッズ・アイテムによって増強された結果によるものです。愚か者が、己自身の愚かさによって滅びるようにね・・・・・・。

 つまりは、今あなたを攻め苛んでいる痛みのすべてはあなたの愚かしさが自身に元に帰ってきた。ただそれだけの結果に過ぎないのですよ」

 

 そんな彼を静かな瞳で見下ろしながら、守るべきお嬢様の盾にもならずに黙って棒立ちしていた老執事が穏やかな声音で優しく、静かに、だが巌のように厳しい表情を浮かべながら彼の身に起きている現象を冷厳と解説してくれている。

 

「アイテム名は《猫の履いていた長靴》。本来であればどうということのない性能しか持ち得ない品ですが、特定の条件がそろった場合に限り条件付きでのダメージ反射という因果応報なアイテムで御座いますよザックさん」

 

 相手の惨状を見定めて「言うだけ無駄か」と断じながらも、自分から言い出したことを途中で投げ捨てられる性格ではないセバスは丁寧な口調で詳細を省き、短く簡潔に結果だけを相手に教えてやる。

 

 

 至高の41人の一人にして、最後に加入してきた最年少メンバー。参謀格のセレニア。種族名は《ラッテンフェンガー(ネズミ捕りの道化)》。

 グリム童話にもある『ハーメルンの笛吹き男』を意味する種族で、人を騙す偽装系のスキルや魔法等に補正を得ることが出来る。

 一番の特徴はカルマ値が高くなければ選べない上位種族でありながら、最大値まで高めて《極悪》になってしまうと逆に別種族への転生を余儀なくされるという異質さだろう。

 

 原典にあるとおり、人を騙しにはくるものの相手が礼儀と誠意を守って応じてくれる限りにおいては最初に求めた以上の欲を出してはいけない。欲をかけばカルマ値が一気に上昇し、戻すのに一苦労させられなければならなくなるからだ。

 

 また、装備しているアイテム《猫の履いていた長靴》は、その名の如く『長靴を履いた猫』に出てくる相手の欲につけ込む形で取り入っては最終的に破滅させてしまう歪な逸話と設定を持つ童話系イベント参加者にのみ配られていた限定アイテムである。

 その効果は、自分よりも一定以上レベルが低い者からの攻撃を反射し、レベル差によっては本来与えられるダメージの限界を超えた大ダメージを相手に向かって送り返すというもの。

 反面、自分よりもレベルが1つでも上な相手にはダメージ軽減程度の力しか持っていない。

 一方で、レベル差に開きがあればあるほど反射するダメージ量は増大し、10以上のレベル差がある相手からの攻撃が当たった場合には十倍近いダメージが送り返され、オーバーキルだった場合にはMPも同時に削られていき、他の味方が仲間の死を利用して回復する類のスキル使用を防いでくれる。

 

 

 ゲームだった頃のユグドラシル時代、この二つの能力とアイテムはさして重要視されておらず、セレニア自身もモモンガも特に意味があって装備させていたわけではない。雰囲気重視のロールプレイヤーだった二人にとって相性よく見えてたから変えなかっただけである。

 

 が、しかし。ユグドラシルサービス終了と同時に飛ばされてきた異世界において、この二つは思ってもいなかった効果を発揮してしまっていた。

 

 

 ゲームが現実に変わったことで変化が生じた一つに、この二つともが入っていて『因果応報』の代名詞じみた効果が付与されてしまってるっぽいのである。これにはさしものモモンガも驚かされたが、逆を言えば高レベルのプレイヤー自身で違いを調査できる最高の実験体でもある。

 仲間を生け贄に使いたいたくないモモンガとしては無理強いなど死んでもしたくなかったのでセレニアの判断に任せてしまったわけであるが、其れがこのような形で『出張任務』のい役に立ちそうなものになるとは大いなる誤算であったと言うしかない。

 

 

 

「あなたが感じるその痛みは精神面から同時に肉体を苛むもの。肉体の死とともに終わるようバランス配分されていますので、わたくしめにはどうすることも出来ません。どうかお許しくださいませ」

「いでぇよぉぉぉっ!! いだいんだよぉぉぉっ!! 誰かお願い助けてくれよぉぉっ!!」

 

 セバスの説明など、今のザックの耳には届いていない。よしんば届いていたとしても雑音程度にしか認識できないだろう。

 彼はただただ救われることを望み、求めている。生き足掻いてはいるものの、それは自分の不幸を他人のせいにして他人に責任をとってもらおうとする足掻き方。

 生にしがみつくのではない、死を恐れて死を避けるため悪知恵を巡らすのとも違っている。

 ただただ“してもらいたい”のだ。

 他人を苦しませて喜ぶ趣味はないだろう。だが、他人を陥れることで自分の懐が暖まるなら其れをやる。

 その上で被害者が無惨に殺されていくのを見ながら義憤に駆られるだけで何もしないと言うなら、それは只の保身でしかない。「自分は非道な行いを見て心を痛めにような極悪人ではない」と思いたいだけだ。悪に落ちる覚悟もないくせに、弱肉強食の摂理だけを言い訳にして楽したいだけの欺瞞に過ぎない愚かな心の持ち主なのだ。

 

 きっと今、セバスの口から「楽になりたいですか?」と聞けば彼はきっと飛びついてくるだろう。

 そして、続く言葉である「死ねば楽になれる。痛みという苦しみからだけは救われる」と言えば、全力で首を振って拒絶するに違いないのだ。

 結果は見えている。言うだけ無駄だ。やるだけ時間と労力の浪費でしかない。そんなことよりも今はまず至高の御方のお一人から今後の方針を聞くべきなのは間違いない。

 

 

 ・・・・・・だが、それでも彼は聞かずにはいられない。尋ねてしまわずにはいられない性格だから。

 

(これは呪いなんでしょうかねぇ・・・)

 

 と、心の中でつぶやきながらーーー。

 

「ザックさんーーー」

「いだいいだいいだいいだい! たずげでぐだざぁぁぁっい!!!」

「ーーー楽になりたいですか?」

「だずげで!だじゅべで!じんでじまいまず! ・・・・・・へっ?」

 

 一瞬、ザックの目に理性の光が戻った。

 それと同時に身体から急速に痛みが引いていくのを、果たして彼は実感できていたのだろうか?

 

 セレニアの能力に付与された効果は《因果応報》。

 それは罪人を裁くという意味ではない。罪を認めて悔い改めてほしいという願いが込められている。

 人は決して善なる生き物ではない。だが決して悪だけで出来ている存在でもない。善と悪が同居している生き物こそが人間であり、それを理解し受け入れた上で自分の罪と向き合いながら言い訳せずに生きてほしいという、原典とはやや異なるテーマがセレニアの能力には付与されてしまっているのだった。

 

 その為なのか、セレニアの能力の追加効果《善因善果》《悪因悪果》はダメージを帰した相手の精神性に大きく効果を振り回されてしまう特質を持っている。

 相手が犯した罪を意識すればするほど痛みは大きくなり、理性を取り戻し別のことを考えはじめると痛みが和らぐ仕様になっていることが漆黒聖典を捕らえた際に行った実験によって実証されている。

 だからこそ自分の犯して罪の痛みに苦しめられ、その原因について無意識のうちに考えてしまっていたザックの頭が『救われるかもしれない』という光に満たされたことにより痛みは大きく軽減したのである。

 

 

 ここにセバスは《たっち・みー》の意志を見た。

 自分を創り出し、「困っている人を見たら助けるのが当たり前」と常日頃から言っておられたあの方ならば、このような人間相手にでも更正の可能性が僅かでもある内は見捨てたりするはずがない、と。

 

 

 ーーーーしかしーーーーーーー。

 

「た、助けてくれるんですか? ・・・・・・本当に!?」

「ええ、無論です。私は主に名にかけて嘘をつくようなことはしないと約束いたしましょう」

「だ、だったら助けてください! お願いします! 何でもします! なんでも差し上げますからお願い助けて!」

「・・・わかりました。では、苦しみを終わらす為にも、今すぐこの場で死なせてあげれば宜しいのですね?」

「助けてくださーーーーえ?」

「聞こえませんでしたか? ではもう一度だけ言いましょう。苦しみから救ってあげるためにも、今すぐこの場であなたを殺して差し上げれば良いのですねと、聞いているのです」

 

 氷のように冷たい声音で、絶対の死という定めと共に舞い降りてきた救いの手。

 どのみち死という運命からは免れない状況にある以上、ザックが選びべき最良の選択肢はセバスの提案に乗ることで間違いはない。

 

 だが、ザックにはそう思えなかった。思いたくなかったし信じたくもなかった。

 自分が死ぬのは間違いだと世界に向かって叫びたかったし、かわいそうな自分は今を切り抜け生き残りさえすれば今度こそまっとうに生きて見せますからと、天に向かって助命を願う敬虔さも存在していた。

 

 だが彼には、致命的すぎるほど『自分が抱いている思いを証明し認めてもらおう』とする発想が存在していなかったのだーーーー。

 

 

「・・・ち、違う! 俺は生きて救われたいんだ! 殺されて楽になりたいんじゃない! だいたいそんなの救いでもなんでもないだろう!?

 あんたさっき俺のこと救ってくれるって言ったんだから責任とって最後までーーーぐ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!? い、痛みが! 痛みがぶり返してきーーーぐびぁあああああっ!!!」

 

「・・・先ほども、申し上げたはずではないですか。今あなたの感じている痛みはすべてあなた自身の愚かしさが帰ってきているだけだと。

 あなた自身が為してきた罪にまで私は手を出すことは出来ません。それはあなた自身が背負い、立ち向かってゆかねばならなかったもの・・・。

 他人には手を貸す程度のことしかできない、根本的な部分で自分自身が強くあろうとならない限り誰にもどうすることの出来ない領分なのですよ・・・」

 

 悲しげにつぶやき立ち上がったセバスは、再び苦しみだしたザックに背を向けて主の元へと帰還する。

 

 そして深く頭を下げながら罪を謝する。「この不忠者に罰をお与えください」と。

 

「・・・は?」

「先ほどわたくしはセレニア様が彼に襲われそうになっているとき、身を盾にして庇おうともせず、相手の穢れた刃がお召し物を汚す前に首をはめることすらしないまま、ただ黙って事態を傍観しておりました。

 至高の御方々にお仕えすべく生み出されたナザリックに属する者として万死に値する不忠です。どうか、その御手でもって無能きわまる不忠者に断罪の刃をいただきたく存じます・・・」

「・・・・・・いや、そんなことぐらいで処刑してたら、人材なんて幾らいても足りなくなりそうなんで別にいいんですけど・・・でも、一つだけ聞かせてください。

 なぜ、動かず見ているだけにとどめられたのですか?」

「・・・・・・」

 

 この質問にセバスは即答することができなかった。本来であるなら主からの質問を無視するなど無礼な行為であり、常のセバスであるなら犯すはずのない凡ミスである。

 それをやった。普段は犯すはずのない失敗を、犯すはずのない有能な人材が。

 

(つまりは『普段と同じ基準で考えちゃいけないこと』って訳ですねー)

 

 セレニアはそう考える。伊達に癖が強くて能力面でも偏りのあるアインズ・ウール・ゴウンにおいて、最年少メンバーでありながら参謀格を務めあげてた訳じゃない。前提に囚われない柔軟性ならモモンガ先輩以上にできる自信がある。

 

 もっとも、自慢だった思考力も種族変化とカルマ値の追加によってバランスを欠いており、リハビリも兼ねて人と接しやすく対人関係の経験値を積みやすいリ・エスティーゼ王国への買い付けおよび情報収集任務を志願してソリュシャンがやるはずだった『帝国貴族令嬢』の役割を代わってもらった訳なのであるが。

 

 

 ・・・しばらく逡巡していたセバスだが、やがて全てを諦めたようなため息をついてから事情を説明する。この許し難い愚か者に罰を与えてもらうためにーーー。

 

「先ほどわたくしはセレニア様が彼に情けをお掛けになられましたとき、“叶うなら、この人物には相応の報いを受けさせてから死なせて頂きたかった”・・・・・・と。その思いが邪魔をして、私が動く際に出遅れてしまいました。ナザリックの一員として許される価値のない不敬の極みでございます。慚愧の念に耐えません」

「・・・・・・・・・」

「それだけではありません。わたくしは偉大なる『たっち・みー』様の語っておられた正義を根拠として用いた説教を垂れながら、そのじつ内心では断罪こそふさわしいと二心を抱いたのです。

 主を謀るだけでなく、己が創造主たる方の理想までエゴのために利用した不忠者がわたくしなのです。セレニア様、どうか至高の御方々の一人として無能なる不忠者に相応の裁きと鉄槌を・・・・・・」

 

 これに対してセレニアは、片手を振って一笑に付した。むしろ「あなたの方が正しい」と賞賛しながら。

 

「至高の41人に仕えるのであれば、当然たっち・みーさんも含まれるのでしょう? だとしたら今回の決断はあなたの方が彼の意に添っていたものと判断します。なにも問題はありません」

「しかし、セレニア様。それでは・・・・・・」

「彼の考え方は私も好きです。ですが、むやみやたらと人を助命するだけの行為を彼の心事貫き続けた正義と混同されるのは私にとっても不愉快きわまる行為でもあります。

 今回のこれは私の方がそれに近いことをしてしまってました・・・たっち・みーさんの教えを守れなかったのは私も同罪です。ですので裁くならセバスさん自身の手で私のことをどうぞ」

「い、いえ!そんな滅相もない! 至高の御方々に手を出すなど天が許しても私ども誰一人として決して許す気のない行為でありますので、どうかご容赦を!」

「ーーそうですか。では、今回のこれ諸共に無かったことにしてしまうと言うことで」

 

 茶目っ気のある台詞を言いながら片目を瞑ってみせる主にセバスは、なんと言っていいか分からないまま呆然としていたら横合いから声がかけられた。シャルティアである。どうやら野盗を殺し尽くして遊び飽きたらしい。

 

「こっちは終わりんしたが、そちらの方はどうなのかえ?」

「もうじき勝手に終わるところで御座います、シャルティア様。セレニア様ご自身のお力により直接とどめを刺されましたので」

「まぁ、セレニア様ご自身のお力で直接? ・・・なるほど、あれはこの手の輩には効果抜群でありんしょうからねぇ。さぞかし見応えのある無様にもがき苦しむ見苦しい最期を迎えてくれるんでありんしょうね。悦しみでありんす」

「・・・・・・」

 

 主の意を無に帰するような相手の解釈にセバスは思うところを感じるが、セレニア自身の口から尊重するよう命じられてる事柄だったため、当たり障りのない返答でスルーした。

 

「ーーでは、その口振りから察しまして野盗の塒が見つかったようですね」

「ええ。これから襲撃をかけて、アインズ様が気に入られるような情報を持ってる奴を探すつもりでありんすぇ」

「そうですか。では今回の旅はここで一旦お別れということになりますね。ご一緒できて楽しかったです、シャルティア様」

「それはありがとう。ーーところでセレニア様は、この後どう行動されるおつもりなのか聞いても宜しかったでありんしょうか?」

「構いませんよ? 結構ふつうの行動ですからね、しばらくの間はですが」

 

 そう言って二人に伝えてきたセレニアの予定する今後の方針は、確かにふつうで平々凡々な行動としか言い様のないものばかりだった。

 

「まずは一旦、エ・ランテルに戻るつもりでいます。野盗のことをギルドに報告しておきたいですし、もし使わせていただけるなら極秘の情報として有力商人の誰かに伝えて恩を売っておきたい。新しい御者を雇う必要性もありますしね。

 さすがに国の中心にして文化の発信地に赴いておきながら、従者が執事だけというのは嘗められかねませんので」

「まぁ・・・それはそうでしょうしょう・・・ねぇ?」

 

 貴族設定があるから何となくは分かるものの、シャルティアには人間社会の王都と普通の町との格式の違いまではよく把握できてない。どちらもナザリックに比べたらゴミ溜めと対して変わらない場所だと思ってるから。

 

「町まで戻る手段としましては、通りかかった適当な馬車に便乗させてもらえたことにしてゲートで戻ろうと思ってます。

 そんな馬車が本当に存在するのかと言う疑問はわくでしょうけど、現に戻ってきている私たちという物的証拠があるのですから状況証拠の方に重きを置く物好きさんもそう多くはいないでしょう」

「「・・・・・・」」

「あと、一番大事で忘れちゃいけないのはバルドさんに今回のことで謝罪をし、代わりの御者さんを見繕ってもらうことです。その際に予算は定価の倍払います。

 先に向こうからの気遣いを無視してゴロツキを雇い入れたのはこちらなのですから当然の賠償額ですよ。

 まぁ、その際についでとして王都の商人に知り合いがいるようでしたら紹介状か、もしくは届けたい手紙があるようなら受け渡す役を担わせてもらえると更にありがたいんですけどね。

 格は低くてもいいので、新規事業が地元企業とつなぎを得る際に切っ掛けとなってくれるだけでも有り難すぎますから」

「「・・・・・・・・・」」

「王都に着いたら着いたで、やることいっぱいありますし人手を用意してくれそうな知り合いができるのはスゴく助かりますし、コスト的にもありがたい。

 あきらかに階級差別がヒドそうな場所で新参者が商売するわけですから、役人の皆様方にも最低限顔合わせして袖の下握らせなきゃなりませんし、その際に相手の好みや好物とかを聞いておけるとなお有り難い。・・・うん、そう考えたなら裕福な商人よりも格下の零細商人さんたちのほうが良い気がしてきましたね。賄賂とかに慣れてそうです。要チェックです」

「「・・・・・・・・・」」

「後はーーー」

「・・・・・・もう結構でございますでありんすぇ・・・なんかどっと疲れてきたので・・・」

 

 セレニアによる怒濤の商売始める手順の説明攻撃を前に、最強吸血鬼シャルティア・ブラッドフォールン、敢え無くリタイア。人間社会って、超メンドクセーと思いながら。

 

 

「あ、そうでした忘れてました。一旦街に戻る前にナザリックに帰還して人員選んでもらわないといけないんでしたっけ」

「・・・今度はなんの人選でありんしょうか? 先に申し上げておきんすが、ナザリックに商売上手な人間種は存在していないでありんすよ・・・?」

「それは分かってます」

 

 大きくうなずいて見せてから、「じゃあ何を?」と視線で問いかけてくるシャルティアにセレニアは意外と大きい胸を軽く張りながら答えた。「メイドさんです」ーーと。

 

「「・・・は?」」

 

 両目をまん丸にして自分を見つめてくる老執事の龍人と真祖吸血鬼ドS少女。

 それらを意に介することなくセレニアは少しだけ赤面しながら、自分のしでかしてしまったミスについて語り始める。「忘れちゃってました」と詫び入れながら。

 

「いやね、よく考えてみたら年頃の貴族の娘に、忠実な執事とは言え異性一人だけを世話役に任じる貴族って実在するのかなーと。ですので最低限一人だけでもメイドさんを連れて行かなきゃ嘗められそうなんで、プレアデスの内誰か一人だけでも貸してもらえたら嬉しいなーと、そう思ったものですから」

「はぁ・・・」

「ですので、シャルティアさん。名残惜しいですが私たちはこの辺で失礼します。やる事いっぱいありますのでね」

「さようでございんすか・・・頑張ってくださいでおくんなまし・・・」

 

 片手を振りながら去っていく小さい背中を見送りながら、肉体は疲れなくても心は疲れることもある異業種であるシャルティアは、なんか色々とどうでもいい気分になってきてた。

 

 

「・・・・・・疲れんした・・・。いっそこのままナザリックに帰って棺の中に引きこもりたいと心底から願ってやまなくなるほどにーーーー」

「リリアーーーーっ!!!!!!」

「うぅぅぅぅるせぇぇぇぇぇぇぇですわ、この半死体がぁぁぁぁぁぁっ!!!! 目障りだからとっとと死にやがれでありんすわーーーーーーーーっ!!!!!」

「びでぼぶっ!?」

 

 グシャっ!!

 

 ・・・・・・欠片一つ残さず踏み砕いてやったザックの死体を、苛立ち紛れに何度も何度も踏みつけながらシャルティアは、このやり場のない心労と言う名のストレスを『罪はあるけど苦しんでない。だけど虐殺されるほどの事はしていない』野盗たち相手にぶつけて八つ当たりすることを決意する。

 

 

「・・・皆殺しでありんす、八つ裂きでありんす・・・。アインズ様のお望みになった人材以外、塒に潜む鼠どもは一人残らず皆殺しにしてやりんすぇぇぇ・・・・・・っっ!!!!」

 

 

 ーー後日、エ・ランテルを騒がせることになる『吸血鬼ホニュペニョコ事件』だが、討伐に成功する『漆黒の英雄』が登場するまでは街の者たちに詳細は開かされておらず、仮に開かされていたとしても帝国との国境に接するが故の商業が盛んなエ・ランテルの商人たちが「外は危険だから」と引きこもってしまったのでは早々に街は干上がってしまうのもあり、外出禁止令が徹底されるにはギリギリまで待たなくてはならない事情があった。

 

 更には登場した未来の大英雄『漆黒のモモン』がいきなりとんでもない高レベルの代物だしてきたため情報秘匿はより厳重にしなければならなくなったりと、変な事情も重なり合った結果として、セレニアが街を出てから1時間後にエ・ランテルは非常事態宣言を完全に発動。それまでより数ランク上の完全警戒態勢へと移行する。

 

 ホニョペニュコがシャルティアであり、ナザリックを裏切った可能性が騒がれていた頃には王都近くまで迫っていたセレニアたちの乗る馬に今更きた道を戻る選択肢などある訳もなく、ついでに言えば御者は普通の人間であるためゲートどころかメッセージの使用にも気を使わなければならなかったと言うのも関係して特に予定が変わることなくタイムスケジュール通りに王都へ到着することができたのだった。

 

 

 

「・・・で、それはいいとして、ついてきてくれたプレアデスさんが貴女であることに不安を抱いてしまうのは、私の偏見故なのでしょうか・・・? なんか同類臭がスゴいんですけど・・・・・・」

「・・・・・・・・・びくとりー(特に意味のない無表情メイドのVサイン)」

 

 

 

 

至高の41人の一人:セレニアの設定

 

 アインズ・ウール・ゴウンに加入した最後のメンバーであり、最年少メンバーでもある。

 当時はまだ社会人になりたての新米社員でありながら、たっち・みーが発起人となって結成されたギルド《アインズ・ウール・ゴウン》の前身《ナインズ・オウン・ゴール(九人の自殺点》の存在を知った学生の頃よりあこがれ続けており、強い熱意とたっち・みーへの尊敬の念によってモモンガ等の一部メンバーから推薦も得られたため加入が決定した経緯を持つ。

 実生活よりゲームの方に肩入れする傾向をモモンガに次いで強く持ち、ユグドラシル最後の日にも無理を押して駆けつけてきてくれた結果として巻き込まれて現在に至る。

 たっち・みーの理想については「自分ができないこと」として素直に憧れて尊敬もしている。できるならば自分も「当たり前のこととして人に言えるようになりたい」と願って日々を生きている。

 理想は理想として「尊い想い」と捉えているため、バカにする気持ちは些かもない。が、言い訳として利用されるのは大嫌い。種族特性としてカルマ値が悪寄りでありながら善の面も内包した行動をとるなど善と悪がハッキリしている異世界では少しだけ微妙な存在。

 

 

 

役職:ナザリック作戦参謀格

   事務・経理・在庫管理など雑務担当。「最年少で下っ端でしてからね(セレ)」

 

住居:作っていいとは言われてたけど、あちこち確認のために動き回っていることの方が多いため作らなかった。だから無い。

 

属性:悪【カルマ値:80】

 

種族レベル:ラッテンフェンガー  5Iv

      長靴を履いた猫    5Iv

      パック        1Iv

      ピクシー       1Iv

 

職業レベル:詐欺師        6Iv

      吟遊詩人       4Iv

      交易商人       5Iv

      情報屋        3Iv

 

*ギルドに加入したときには既に他のメンバーが全員レベルカンストしており、戦闘面では役に立つ必要が全くなかったため職業のほとんどはシャレで選んでる。

 異世界に飛ばされてきたせいで全部本当の職業になってしまったせいで少しだけ焦ってる。


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