試作品集   作:ひきがやもとまち

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昨晩から夜なべして書き進めてたのが先程やっと仕上がりましたので更新です。
コードギアスと銀河英雄伝のコラボ作の最新話です。

それから、最近いろんな作品が更新できず申し訳ありません。
書いてはいるんですけど体力とか色んな理由で完成まで行くのに時間がかかってる次第。どうかお許しを…


コードギアス英雄伝説~もしも仮面の男が黄金の獅子帝だったなら・・・~第5章

 後の歴史から振り返れば、ブリタニア軍を代表するエースパイロットの一人として、日本ゲリラの象徴ともされる《仮面の革命家》となった親友同士とが、運命の再会を果たした瞬間だったとまで称される一連の事件。

 

 だが未来の可能性はともかく、現時点でのクルルギ・スザクは《名誉ブリタニア人》として一等兵の階級を与えられただけの一兵卒でしかなった。

 ブリタニア軍全体からすれば、蚊ほどにも思われていない小さな存在に過ぎなかったことだろう。

 当然のこととして、軍という巨大組織は一兵士の思惑や事情など関係なく組織の都合を優先して動きだし、一方で動き出してしまえば一個人の意思だけでは止まることすら難しくなるのが組織というものが持たざるをえない構造的な欠陥でもあった。

 

 スザクを隊の一員として含めた《名誉ブリタニア人部隊》が、ゲリラに奪われた物資の捜索のためシンジュクゲットーへと輸送機からの“降陸”作戦を開始せんとしていた頃。

 エリア11を統治するブリタニア総督府軍の本体もまた、着々と出撃の準備を完了しつつあった。

 

 ルルーシュ個人からの評価はともかく、世界中に征服戦争を行っているブリタニア軍の将兵たちは客観的に見て、それほど無能という訳ではない。特に皇室直属の部隊は装備でも兵の質でも選抜されただけあって、その動きの良さは他の部隊と比べものにならない。

 

 前線から離れ、占領地の首都防衛にあたって長いことから臨機応変さに欠けるようになっていたのは仕方がないが、そのぶん訓練によって培われた教本通りの出撃用意における手際の良さは賞賛に値した。

 総督自身の政治的事情から情報の多くが秘匿されている状況で行われた出撃準備は、だが上官からの命令に疑問なく従って実行する兵士たちによって遺漏なく進んでいく中。

 

 ――動き回る兵士たちの中で一人の人物が、やや所在なさげにウロウロしながら、居場所を失ったように困惑した表情で歩き回っていた。

 他の一兵士や士官級の物とも異なる豪奢な軍服をまとっている、小太りで禿頭に片眼鏡をかけた初老の男性将校だった。

 将軍の肩書を示す階級章を付けてはいるものの、体つきは前線で鍛えられた筋肉とは程遠く、たるんだ贅肉が腹回りで目立つ。

 

 『バトレー・アスプリウス将軍』というのが彼の名であり、称号名だった。

 

 クロヴィス総督に召し抱えられた高級軍人ではあるものの、見た目通り前線軍人ではなく技術畑の人間である。

 技術者としては決して無能な人物ではなかったが、こういう状況下で役立つ人物では全くなく、出撃準備でごった返す総督府軍の駐屯地内では居場所というものが全くない。

 それでいて、ゲリラたちに奪われた物資を『どうしても無事に取り返したい』という事情を抱えており、反面その為にはどうすれば良いのか分からず意味もなく右往左往していた。

 

 そんな苦悩する将軍を呼ぶ声がして、振り返った先にいた若い男の顔を確認した彼が示した反応は、決して好意的とは言えない渋面でのものとなる。

 

「やァやァ、お忙しそうですねェ将軍。なにか大変な事態でも起きましたァ?」

「・・・・・・ロイド伯爵」

 

 渋面を作って相手の顔を見上げながら告げられた返答は、甚だ不機嫌そうな声音でのものであったが、それが相手から話す意欲を失わせる理由には繋がらなかったようである。

 

 “うさん臭い男”だった。

 おそらく彼と出会った者の中で、十人中七人くらいは同じ感想を抱くことだろう。

 

 歳は二十代の半ばか後半の中間といったところで、バトレーと比べて身体の幅は棒のように細く、身長は頭二つ分ほど高い。

 「ひょろりとした長身」という形容句がピッタリ当てはまるような体格の持ち主だった。

 軍事科学者なのか、軍服姿の軍人たちが入り乱れる場にありながら、平然と白衣を着込んだまま人の良さそうな笑顔を浮かべたままだ。

 

 『ロイド・アスプルンド伯爵』

 

 「プリン伯爵」などとふざけた愛称で呼ばれることもある人物だが、歴としたブリタニア貴族名門の一員であり、一方で技術者として名を馳せた変わり種でもある。

 主に新型の高性能ナイトメア開発での功績が大きい人物だが、性格的に癖のある人物としても知られている。

 

「そう言えばさっき、“医療機器を盗んだ泥棒のトラックが発見された”って警察のヘリが発進してってましたけどォ、それと関係あるんでしょうかねェ? この緊急アラートの発令ってェ~」

「・・・・・・なんでもない。いや、エリア11に居住する三等国民たちが起こした馬鹿騒ぎに過ぎんよ。すぐにカタはつく。特派の方々には安心して、皇室より与えられた任務を遂行していただけるよう微力を尽くそう」

 

 鬱陶しそうな口調と表情でバトレーは、苦手な相手からの追及をかわすため詭弁を弄する。

 軽薄そうな外見に反して妙に目端が利いて、鋭い観察眼を発揮してくることが一再ならずあり、単なる研究所に引きこもっている技術畑一辺倒かと思えば、政治に関する事柄にも丸きり無知という訳でもない。

 表面的な頭の悪そうなイメージだけに振り回されて油断しては、痛い目を見かねない人物なのである。

 余計なことを嗅ぎつかれる前に、さっさと会話を打ち切って遠ざかった方が懸命な相手だと思わざるを得ない。

 

「なるほど~。つまりボクたち《特派》の手助けは必要ないから大人しくしていろ、と?」

「・・・・・・少なくとも現時点での状況は、そこまでの必要はない程度だと判断している」

「ふゥ~~~ん?」

 

 将軍からの目線を逸らしながらの返答に、名門貴族であり科学者でもある男は、なにが面白いのか興味深そうな視線で自分のことを見つめてくるばかりで、一向に離れていく気配を見せようとしてくれない。

 

 正直うっとうしい相手ではあるのだが、無碍にはできない理由が彼らにはあり、それが相手の厄介さと将軍の不快感と警戒心をさらに高めずにはいられない。

 

「――ウソ、ですね」

「な、なに?」

「あなたたちは最初、物資を奪った連中をわざと見逃して一網打尽にするつもりだった。けど思ったより手強かったから、慌てて本格的な増援を送らなくちゃいけなくなって焦っている。そうしようとした理由がクロヴィス殿下直属のあなたたちにはあったから・・・・・・違いまス?」

「な、何故それを!? 一体どこから・・・っ!!」

 

 図星を言い当てられた将軍は慌てて周囲を見渡し、相手が語った内容を誰かに聞かれていなかったか警戒せずにはいられない窮地に立たされることになる。

 一方で、相手の反応から推理が的中していたことを教えられただけで、自分たちには何の非もない“よそ者”の側は気楽なもので「あ、当たっちゃってました?」と楽しそうな口調で鎌をかけていただけだった種明かしを語り。

 

「良かったねェ~、セシルくん。君の予想、当たってたみたいだよ~?」

「そ、そんな・・・・・・私はただ状況の流れから見て、軍の動きがおかしいと思っただけで・・・」

 

 そう言って振り返りながら語りかけた先に、いつの間にやら立っていた一人の女性兵士に話題を振って恥ずかしそうに赤面させる。

 一見すると、楚々として奥ゆかしい態度に見える仕草を取って見せたのは、ロイド伯爵より更に若い女性兵士で、こちらは明らかに技術士官だと分かる技術者用の軍服を着用している。

 

 たしか名前は『セシル・クルーミー』と紹介された、ロイド伯爵付きのチーフオペレーターだ。

 およそ軍人には似つかわしくない穏やかな容貌の美女で、いっそ技術士官ではなく看護兵にでもなっていた方が似合っているのではないかとさえ思える。

 だが今の会話から察するに、状況変化からコチラの意図を見抜いたのは、この軍人らしい服装をしている方の彼女であったらしい。

 

 ・・・・・・てっきり伯爵の秘書兼“夜の仕事を補佐する係”を任地まで連れ込んできただけだと軽視していたのだが、とんだ食わせ物を侮ってしまっていたらしい・・・。

 

(――くそッ! だからシュナイゼル殿下お付きの者共は厄介なのだ!

 まったく、面倒なときに面倒な者共を押しつけられたものだが、どうすれば・・・・・・)

 

 《特別派遣嚮導技術部》

 通称《特派》――それがロイド伯爵らが所属する部隊の名だ。

 正確には読んで字の如く、軍に属する技術チームの一つに過ぎないのだが、厄介なのが彼らの後ろ盾になっている人物で、帝位継承権を持った他の皇族の直属機関が彼らだった。

 

 《シュナイゼル・エル・ブリタニア第二皇子》が、彼ら特派の後ろ盾になっている人物なのである。

 彼らがエリア11へ派遣されてきているのも、皇子からの要請をクロヴィス総督が受け入れた結果として成立している。

 

 『完成した新型ナイトメアのデータ収集のため実戦データが必要』そういう理由で、反ブリタニアゲリラが多く活動しているエリア11へと送られてきた彼らであったが・・・・・・正直、現場の人間としては、迷惑以外の何物でもないのが彼らのような“お客様”だった。

 

 新型機の試作機ともども下手に傷物にして、上司よりも更に目上の相手の機嫌を損ねるわけにもいかず、かと言って要請を蹴るには相手の身分が高すぎる。無碍に扱って上司のあらぬ噂を本国の殿下に告げ口されたくもない・・・・・・。

 

 お偉方から派遣されてくる直属の部下という存在は、身分の上下にかかわらず厄介なものだという認識で共通しやすい。バトレー将軍にとってのロイド伯爵ら特派はそういう存在の典型だった。

 受け入れたは良いが、扱いに困っていたのである。

 

「よくある反帝国ゲリラたちのテロってことで片付けたかったんでしょうけどネ、やり過ぎですって。ここまで妙な点が多いとボクらじゃなくても不思議がる人も出てきてたでしょ。

 ――将軍とクロヴィス殿下がナイショにしていた“ナニカ”をテロリストに奪われてしまった。“ナニカ”って言うのが何なのかはボクにも分かりませんけどね?

 で、奪い返す必要が生じたけど、なにしろナイショのナニカですからねェ~。そんな秘密のモノがあったこと自体なかったことにしなきゃいけない。

 取り戻すのは簡単だけど、ことを知ってる他の仲間も一緒に始末して掃除をしたい。秘密を知ってるかも知れない人間は一人も生かしておいちゃ危ないですものネェ~。

 テロリストを泳がせれば連中のアジトがわかる、その場所を突き止めてから一挙に一網打尽に―――でもザンネンでした~!!

 この盛大な緊急出動で全部台無しになっちゃいそうですね~♪ いやー、途中までは予定が当たりそうで悪くない計画だったんですけどネ~、残念残~念♪」

「もういいッ!!」

 

 短い怒声で遮って、バトレー将軍は途中から声を高めた相手の口を封じて黙らせる。

 ちっとも残念そうではない満面の笑顔で言われたところで、バトレーとしては相手の本心が見え透いている立場にある者として苛立ちが増すことにしか役立つ要素は一つもない。

 

 完全に的中とまでは言えないものの、それだけの推測と状況証拠が揃っているならシュナイゼル殿下にご報告申し上げるのがブリタニア帝国に仕える臣下としての職責だろう。

 それをせずに、わざわざ秘密を抱えて隠そうとしている張本人たちの片割れに推理を語ってきたと言うことは―――相手側にも聞いて欲しい『要求』があるということの証明でしかないのだから。

 

「――で? 面倒な能書きはやめにして、ハッキリと聞こう。今回の一件について特派はどうしたいと思っているのだ?

 第二帝位継承者直属の技術チームとしてではなく、“特派として”の思惑をだ」

「だから~、掃除を手伝いたいんデスよ」

「手伝い?」

「ええ、データが欲しいんです。“ランスロット”の実戦データが」

 

 相手の居丈高な口調に合わせるように、ロイドの側も急に口調を変えて、らしくもなく大真面目で切羽詰まったような声音で自分たちの事情を早口で説明する。

 

 実のところ彼ら特派が開発した新型は高性能を追求するあまり、造るのに金がかかりすぎてしまったことと、パイロットを選ばざるを得ないピーキー過ぎる仕様が財務関係の官僚たちを中心に問題視する声が大きくなっている窮状に陥っていた。

 

 大金をかけて造っておきながら、使えるパイロットがいないせいで役に立ちません。というのでは、彼らとしても寛容な態度でい続けられないのも当然である。

 ブリタニア帝国は世界唯一の超大国で、拡張主義のもと世界中に戦線を広げているが、そのために莫大な軍事費の負担が重くのしかかっているのも確かな事実であり、財務関係の省としては無駄な内部組織を省いて他の予算に充てたいところなのだ。

 

 また、彼ら特派が《第二帝位継承者シュナイゼル直属》の技術試験隊という立ち位置も、この問題に関しては不利に働く条件になってしまっていた。

 シュナイゼルの継承順位引き下げを狙う他の皇族と、彼らの派閥に属する貴族たちが影ながら財務官僚たちの主張を後押ししていたのが、その理由だった。

 

 純粋に、と呼ぶには邪気がありすぎるものの、基本的には研究一筋のロイド伯爵としては、予算の消化を口実にして自分たち潰しを謀ろうとする煩型の口を封じるために、分かりやすい実績を上げて新型機の性能と必要性を証明する必要がある。――それがロイドの語った特派が将軍たちの偽装工作に協力する理由だった。

 

「ぶっちゃけボクたちも結構ヤバい立場になっちゃってきてまして。このままだとシュナイゼル殿下からも見捨てられかねませんので、なんかしら目だった手柄が欲しかったところなんですよ。

 ですので、どーか将軍のお力でもって、そこん所どーにかしてもらえたりしませんかねェ?」

「・・・・・・ふん、なるほどな。技術試験隊と言えど宮仕えの身は、楽ではないと言うことか」

 

 鼻を鳴らして見下すような視線をロイドたちに向けながら、一方で将軍の顔には明らかな“安堵”と歪な“信用”の色が急速に広がりつつあった。

 人は自分より欲望の強いものは理解できても、欲のない人間は理解できず、却って恐怖心ばかりが増していく悪癖がある。分からないと言うことは、それだけで不安を掻き立てる理由になるものだった。

 

 そのことを生まれは貴族である変わり者ロイド伯爵は知っていた。

 だから敢えて俗っぽい理由のみを将軍に語って、自分たちの“欲”を示して見せたのである。

 案の定、将軍の瞳には明らかな嘲りが浮かび始めながら、一方で警戒心は薄れつつあった。

 

 どのみち彼としては研究素材回収のため、本体とは別の戦力が必要であり、本国からクロヴィス護衛のため送られていた皇族親衛隊だけで事足りなかった場合に備えて保険をかけておくに越したことはなかったのだ。

 

 先ほど語られたロイドの推理をシュナイゼル殿下に伝えさせないためにも、相手から《共犯》になってくれると言うなら、乗っておいて損はない。

 

「よかろう。貴官らの同行を許可していただけるよう、クロヴィス殿下に私からお願い申し上げておく。それで取引は成立と言うことで良いのだな?」

「はい。――ああ、いえ。もう一つ聞いて欲しいお願いがあるんですよ。そんな嫌そうな顔しなくたって大したことじゃないですから大丈夫ですって。

 ただ、殿下の配下にいる名誉ブリタニア人部隊の一人を、こっちに回して欲しいっていう、ただそれだけの事でして」

「名誉ブリタニア人のイレヴン如きを、シュナイゼル殿下直属の貴官らにか? 何故だ?」

「詳しい事を申し上げると人聞き悪いんですが・・・・・・“モルモット”が必要なものでして。

 彼がボクの求めたデータで尤も最適な数値をたたき出してたものですから、是非にも新型機のパーツに欲しいな、と」

 

 相手から説明を付け加えられ、顔をしかめていたバトラーは納得した。

 もともと大して価値のない占領国の三等国民の、それもたった一人の一兵士程度に過ぎない問題なのだ。

 下の者達のなかには「イレヴン如き」というだけで過剰に反応したがる民族主義が横行しているようではあるが、自分たち上に立つ者にとっては然したる意味もなく、大した存在価値もまたない。

 臣民も兵士たちも、等しく支配者たちのため奉仕すべき存在であり、その点ではブリタニア人もイレヴンも同様に下々の者達の一人に過ぎないというのが彼らの認識だった。

 

 無論、帰属意識や同胞としての価値観は彼らの側に寄ってはいるものの、政治の都合で取引材料となる際においては、その限りではない。

 名誉ブリタニア人一人がシュナイゼル殿下直属部隊に移って出世するのを許すことで、クロヴィス殿下が至尊の地位に近づくことができるというなら許可すべき事柄だった。

 それでこそ、殿下にお仕えする自分の地位と安全も保証してもらえ続けるというものでもあるのだから――

 

「よかろう。その件は私から隊の責任者に通達しておくものとする。聞いておくことは他にないのだな?」

「ハイ☆ 将軍の寛大なハイリョに感謝を~」

 

 ニヤニヤと笑った笑顔のままで、深々と頭を垂れて例を示してみせるロイド伯爵。

 その姿に優越感をくすぐられたらしい将軍が、鼻息一つ残して背中を向けて去って行こうとしたところで―――思わぬ声が、再び彼女の口から発せられることとなる。

 

「それで、一体なんなのでしょう? 奪われた物資って・・・」

 

 ぎしり、と。思わず音が聞こえたと錯覚してしまうほど、将軍のゼンマイが切れかけたブリキ人形のような反応はぎこちないものだった。

 秘密裏に回収を依頼すると決めた以上は、伝えざるを得ない部分であり、ここまで状況を分析できている相手に半端な隠し事はかえって墓穴を掘りかねない恐れがある。

 

 将軍は悩み、額に脂汗を流しながら苦悩の末、《知られたくはないが致命傷にもならない程度の秘密》を、奪還を命じた親衛隊以外ではロイドたちだけに初めて明かす。

 

 

「・・・・・・大量破壊兵器。即ち、毒ガスだ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 一応は現地軍のトップである将軍から直々のお墨付きをもらって、武装した軍人たちがごった返す中を悠々と引き上げていくロイドたち。

 その姿を通りかかった兵士たちが、鬱陶しそうに横目で睨んで通り過ぎていく。

 

 これからゲリラたち相手とは言え、命がけの掃討作戦に出撃しようとしている彼らから見れば、ロイドたちは安全な場所から兵器の性能について『現場の扱い方が悪いせいで壊れるのだ』と責任を押しつけてくるだけの理屈屋たちとしか思うことは滅多にない。

 

 そういう視線に、ロイドたちは慣れていた。

 もともと他人の視線などは意に介さない性格のロイドは無論のこと、セシルの方も細やかな部分に気がつく繊細な女性でありながらも精神面はタフであり、だからこそロイドと行動を共にし続けられる唯一の部下になってもいる。

 

 そのセシルが、一応は上司と言うことになっている人物に後ろから話しかけたのは、兵士たちの列が横を通り去って距離が開いたのを見計らった時のことだった。

 

「ですが、本当なのでしょうか? その・・・・・・将軍とクロヴィス殿下が毒ガスを開発させて、テロリストに奪われたって言うのは・・・」

「まぁ、十中八九以上の確率でウソなんじゃない? 多分だけどね~」

 

 アッサリと相手が吐いてきて、自分が受け入れて見せたことの真実を否定して見せ、ロイドは平然と前を向きながら自分の推測を部下の女性下士官に向かって解説し始める。

 

「その程度のものを造ってたのがバレそうになったぐらいで、殿下たちが大騒ぎするほどのこととは思えないでしょ? いつも通り、批判する人がいたら力づくで黙らせて合法化。

 “敵に向かってだけ使うつもりで造った代物”っていうなら、本国も不問に付しちゃうだろうしねェ~。

 昔だったら、国際社会からの非難がどうとかって話になったかもしれないけど、今の世界に“社会”って呼べるほど国残ってたっけ?」

「それは・・・・・・まぁ、そうかもしれませんけど・・・」

 

 セシルとしては答えにくい、歯に衣を着せぬロイドの言い分に口を濁すのを見て相手は「ニヘラ」と笑って笑みを深め。

 

「“力ある者が全てを得る”――それがブリタニアにとっての正しいやり方ってヤツだからね。

 合法だろうと非合法だろうと、力ずくで押さえつけて合法だってことにしちゃえる強さこそが正しさで、悪いことしたからと裁かれちゃう弱さこそが悪で罪。

 弱肉強食、それが帝国が拡張主義を掲げて以来、ずっと続けてきた方針で価値基準になっちゃってる考え方でもある。

 そーいう国の皇族がクロヴィス殿下だからね。そんな方が無かったことにする為、ここまで大げさな事やらせるなんて、そーとースゴい秘密じゃないと有り得ないでしょ?

 毒ガス造ってた程度がバレても、継承順位に傷つくことがあるだけで致命傷になるとも思えないし、第一それぐらい“皆やっている”。大したことじゃない」

 

 ハッキリとそう言って、ロイドは将軍の説明を相手のいないところでブった切る。

 そう、大したことではないのだ。

 武勇で知られるコーネリア皇女などの例外は別としても、毒ガスの製造程度の些事なら、バレたら問題になる程度のことで、他の占領地区を統治する皇族たちも密かに似たようなことをやっている可能性が高いとロイドは考えていた。

 

 極端な話、自分たちにとって直属の上司であるシュナイゼル殿下でさえ、大量破壊兵器の一つや二つぐらい密かに造らせててもおかしくない人なんじゃないのかナ~?と、恩知らずで不敬なことまで可能性だけなら考えて計算しているのがロイド伯爵という人物だった。

 

 ――現実というものは数式や方程式と違って、唯一の矛盾なく正しい正解へと至れる計算式が存在している分野ではない。

 どれかにとっての正しい選択を選ぶことは、別の方程式だと間違った答えを選んだハズレになる。

 そして結局、どっちを選んだところで待っているのは『正しい答え同士の殺し合い』だ。実に非合理的極まりない生産性のない世の中こそが人の社会というものでもある。

 

「そんなご時世の世の中だからね~。いちいち気にしてても時間のム~ダ。それぐらいなら、政治の都合で殺されることが決まった人達の死を使って、優れたナニカを完成させるために有効利用した方が少しはマシってものなんだとボクだったら考えるけどね~」

 

 平然と言ってのけてロイド伯爵は、ブリタニアの拡張主義と差別政策に貢献しながらも肯定する意思を見せる訳でもなく、ただ寄生して利用するだけという己の立場をこそ肯定してみせる。

 

 ブリタニア帝国は、正しさを尊ばない。正しき結果さえ必ずしも尊んでいる訳ではない。

 彼らはただ、『力による勝利』という結果をこそ尊んでいる勢力だった。

 そのやり方で数百年の間、成功し続けてきた過去の実績が山のようにあるのだから、信仰するようにもなれば、驕り高ぶるようにもなるだろう。それが現在のブリタニア帝国を形作っているものでもある。

 

 

「正しいやり方とは所詮、勝者が敗者に敷いた、勝者にとっての都合がいい方法のことでしかない。

 それを決める権利を得られるのが、勝利というものなのだから」

 

 

 そういう理屈も、一面的に正しくはあるのだ。

 「正しいやり方とは何か」が決まっているとしたら、「それはこういう方法のことだ」と定めた者がいたという事になる。

 それは同時に、正しい方法とは何かを決めた者には、「今までの正しさは間違っていた。この方法こそ正しい」と正しいやり方を決め直す権利を有していることを証明するものでもある。

 

 だが、正しい方法を定めた者が、自らの正しさに反しなければならない事態に陥ったとき、自身の正しさに殉じるよりも、自らが間違いと定めた方法を使ってでも生き残る者は決して少ない数ではない。

 

 そして、自らが間違いを犯して生き延びる道を選んだ者が、自らが間違った方法を使ったと認めることは、ほとんどないのが人の歴史でもあった。

 

 今、その一例がグロテスクな形で廃墟と化した町を舞台に再現されようとしている―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げられただと!? バカ者共がッ! それでも親衛隊かッ!!」

『も、申し訳ありません、閣下・・・』

 

 ゲリラ討伐と奪われた物資奪還のため、総督府の主力を率いて出撃したブリタニア軍の旗艦である陸上戦艦の艦橋で、バトレー将軍の怒声が響き渡っていた。

 秘密裏に物資の捜索と奪還任務を与えていた親衛隊の部隊長から、任務失敗の報告がもたらされた直後のことである。

 

『一度は発見し、確保する寸前までいったのですが、ゲリラ共は往生際悪く抵抗を諦めようとせず、最後には自爆という非合理な手に打って出たため、隊の損害を抑えるためにもやむを得ず一時後退を命じまして、その・・・・・・』

「愚か者! 何故お前たちだけに教えたと思っているのだ!? いざという時には、お前たちも無事では済まぬ奪還任務だったのだぞ! 被害を気にして逃げられましたで済む程度と思っているのか!? バカが!!」

 

 額に青筋を浮かべながら罵声と怒号を繰り返す将軍。

 つい数分前に、「貴下の名誉ブリタニア人部隊が目標物を発見した」という報告を受けとって歓喜したときには隊長の昇進と勲章授与とを確約していたのと同じ人物とは思えぬほどの剣幕だったが、それ程までに急転直下した事態の悪さに激怒させられていたのだった。

 

 報告してきた隊長は隊長で、追い詰めて逃げ場を失った標的たちを前にして、無駄で無意味な“格好つけ”に時間を浪費してしまったことが任務失敗を招いた原因であったことを知られぬため、取り繕った報告内容しか語ろうとしなかったことが、より事態を悪化させてもいた。

 

 あるいは、この時。両者の間で正確な情報のやり取りが行われていたならば、歴史はまた別の歩み方を進んでいたのかも知れない。

 

 バトレー将軍は、奪われた物資発見と、その後の再逃亡という上下動の激しすぎる報告によって、最初の物資発見者である『名誉ブリタニア人兵士』の名前を聞くことを思いつけなかった。

 もし聞いていれば、ロイド伯爵から依頼されたパーツが、同じ名であったことを思い出し、彼と一緒に発見されていたアッシュフォード学園の男子生徒ともに保護を命じて事なきを得られたかも知れない。

 

 親衛隊の部隊長がもし、自分の出世欲のため「奪われた物資を発見した名誉ブリタニア人の一人」としての手柄ではなく、「貴下の名誉ブリタニア人部隊の手柄」とすることによって自分の手柄に加えようと欲を出さなければ。

 

 あるいは、奪われた物資の確保を何よりも優先させ、保護を名目として他者のいない安全な空間まで移動させてから処刑していたならば。

 

 後の歴史を左右することになる重要な可能性の二つ共が、このとき失わせることが可能だったかもしれない。

 そうなっていれば少なくとも、神聖ブリタニア帝国の未来にとって良い結果をもたらすことに繋がっていたかも知れなかったが・・・・・・そうなる可能性も既に潰えた後こそが現在でもあるのだ。

 

「何としても見つけ出して確保しろ! たとえお前たちが全滅したとしてもだ! このままおめおめと帰ってくれば、どのみちお前たちは口封じのため処分されることに変わりは無い! 自分たち自身のためにも絶対に発見するのだ! いいか!? 絶対にだ!!」

『りょ、了解しました。この身の一命に代えましても、探索を完遂いたします。オール・ハイル・ブリタニアッ!!』

 

 追従の叫びを最後に不愉快な通信は途切れ、荒々しく息を吐いたバトレー将軍が艦橋に設置された戦術モニターを睨み付けていたところ――

 

「・・・・・・作戦は次の段階にうつる時がきたようだな・・・」

「は・・・?」

 

 背後からボソリと、憂いを宿した声で呟かれるのが聞こえてきて、将軍は思わず振り返って声の先に座す一人の人物を見上げた。

 他の者達より高い位置に設置された玉座のような指揮官席に座って、憂い顔で片肘をついている貴公子―――奪われた物資奪還を直接指揮するため自ら前線まで出張ってきたエリア11総督クロヴィスの姿がそこにあった。

 

「し、しかし作戦と申されましても殿下・・・」

 

 困惑したように将軍は、上司からの指示に疑義を呈する。

 ―――次の作戦とは、一体何のことなのか・・・? そういう疑問が彼の声には透けて見えるようだった。

 

 もともとゲリラに物資を奪われたこと自体が、予定外のアクシデントとして始まっていた今回の事件。

 奪った者達を殲滅して口封じするため、敵を泳がせて逃げ込んだ先を確認次第一挙に叩く――その段取りでさえも即興で考えついた、いわば対処療法に近い偽装作戦であり、敵の根拠地はおろか規模さえも把握できていないまま、碌な作戦案など立てられるものではない。

 

 

 だからこそのロイド伯爵から「やり過ぎ」と指摘された現在の状況であり、少なくとも将軍自身には現状の戦況で、殿下にキズ少なく事なきを得るための作戦案などまったく思いつくことができていなかった。

 

 ――それとも自分と違って殿下には、なにか優れた腹案をお持ちなのだろうか・・・?

 そう考えて、期待を込めた視線で返答を待ちわびる将軍であったが、彼は間違っていた。

 

 クロヴィスは別に、自らのキズ少なく事を収める妙案を思いついた上で作戦といった訳ではなかったからだ。

 彼はただ、諦めただけだったのである。

 

 父上から後継者に指名されるという目標を。

 ブリタニア帝国の最高権力者になるという夢を。

 ブリタニア皇帝として来たるべき未来の新世界に君臨する可能性を。

 

 それらの未来を、クロヴィス・リ・ブリタニアは放棄して、いま現在の自分自身が生き残れることを確実にする道を選んだ。只それだけのことだった。

 

「アレが外に知られたら、私は廃嫡だよ。父上の後継者争いどころではない。

 そのような事態を招く恐れがあるなら、いっそ全てを無かったことにしてしまう方が安全というものだ。違うかね?」

「で、殿下・・・っ。それは・・・それではまさか・・・!」

「ああ、本国には演習も兼ねた区画整理とでも伝えておこう」

 

 愁いと苛立ち、今まで積み重ねてきた努力の成果が崩れ去るような損失感。

 様々な負の感情を静かな態度の内側に抱かされながら、クロヴィスは指揮官席からゆっくりと立ち上がって――その作戦を全軍に向かって命令する。

 

 

 

「第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアが命じる。

 ――シンジュク・ゲットーを壊滅せよッ!!」

 

 

 

 それは逃げ込んだテロリスト共々、秘密の計画を知る者達も、秘密の計画に用いた研究サンプルの少女も、そんな計画があったという事実さえ地上から抹消して塵一つ残させないため、完全なる証拠隠滅として全く別の問題によって塗りつぶしてしまおうという作戦。

 

 即ち、シンジュク・ゲットーに居住するイレヴンたちを、ゲリラ老人女子供に至るまで全て抹殺し、この地区そのものを無かったことにしてしまおうとする《ジェノサイド》を実行せよという狂気の偽装作戦。

 

 無論ここまでやってしまえば、クロヴィスとて無傷で済むとは思っていない。

 今まで着実に進めてきたエリア11の統治も、振り出しに戻ってしまうのは避けられないだろう。これだけの数の同胞をブリタニアに刃向かった訳でもないのに虐殺されて、イレヴンたちが激怒して各地で抵抗運動が勃発しないと思うほど、彼は無能な人間ではなかった。

 

 あるいはエリア11総督の地位にさえ、留まることは出来なくなるかも知れない。そうなれば父上の後継者として至尊の地位につく夢からは遠ざかってしまうしかない。

 

 それでも良い。廃嫡されれば全てを失う。

 エリア11統治の失敗についてだけ責任を取らされ、継承順位が大きく下がることにはなっても、命を失う恐れはないのだから。

 

 そこまで考えたとき、クロヴィスは急に腹立たしい思いを掻き立てられた。

 このような事態に陥ってしまったのも、元をただせばイレヴンたちが無意味な抵抗を諦めようとせず、今回の暴挙を引き起こすのを同胞の手で止めようとしなかったことが原因であり、クロヴィス自身の方からイレヴン共の命を欲してのことではなかったのだ。

 

 

「このやり方を私に教えてくれたのは、イレヴンたち自身の行動によってである。

 祖国を解放するだなんだと喚き立てながら、自分たちの行動が同胞の危機をもたらさないなどという考えは卑怯者の極みでしかない。私は彼らの傲慢と尊大さをこそ糾弾する。

 彼らが此度の如き暴挙を行わなければ、私も彼らを仲間たち諸共に殺めようとまでは考えなかったことだろう。

 したがって、これはあくまで自衛的手段であって、彼らの命を欲してのものではないことを、ここに明言しておくものである」

 

 

 ただただ、自分の身を政治的危機から守るために、自らの自業自得で招いた秘密計画露見の責任を取らされるのを避けるために、全ての責任を問題の時点から無かったことにしてしまえという、クロヴィス一人だけを守るために大勢の命を生け贄に捧げさせる大虐殺。

 

 彼にとって、真に守るべき価値あるものとは国家だった。個人でもなければ国民たちでもない。

 ブリタニアという国を守るため、命を捨ててでも国に尽くし、皇族を守る盾となり、皇族の命令に疑問や反発を抱くことなく従える精神的家畜こそ、皇室と帝国と軍隊にとって重用するべき有為の人材。

 自分一人のちっぽけな命や権利を守るために戦って、征服者である帝国に従うことを拒む者など帝国臣民としては必要なく、政治的理由から配慮こそしてやるものの、本来は排除されて然るべき社会の寄生虫。虫ケラの如き雲霞の群れでしかない。

 

 

 ―――だが、そんな国家すらも自分の命には代えられない。

 ブリタニアの支配全体にとっては、エリア11の統治失敗と、秘密計画を目論んだ自分の処断こそが有益かもしれなかったが・・・・・・だからこそ今回の一件は無かったことにする。

 

 全ての責任問題を、イレヴンたちの流す多量の血によって埋め尽くし、誰の目にも分からぬほど赤い赤い色で染め尽くす!!

 

 

「・・・・・・三等国民め、敗戦国の愚民どもめ。やはり奴らの如きサルども相手に、協力など求めるべきではなかったのだ。

 我ら選ばれし者達のために死ね、帝国に刃向かうゴミ共よ。それがブリタニアの正義というものだ」

 

 

 数時間ほど前には、テレビの前で『日本ゲリラたちの無差別テロ』を非難し、『テロに屈しない幸せを守るための正義の戦い』を訴えた総督の口から指令される、『テロリスト殲滅のために他者を巻き込む虐殺』という作戦内容。

 

 その命令を聞かされ、嬉々として愛機の銃口を武器も持たないイレヴンの民間人に向け、喜び勇んで発砲する栄誉あるブリタニア軍の兵士達。

 

 

 こうして、ブリタニア軍の正義により《仮面の簒奪者》が登場する土壌が育まれることになる。

 《エリア11》と名を変えた日本は今、再び戦乱と血に塗れようとしていた――

 

 

 

つづく

 

 

【作版での設定】

 今作内における、銀河英雄伝説キャラと近い設定を持ったコードギアスキャラとのコラボ設定紹介です。

 

 

【クロヴィス・ラ・ブリタニア第三皇子】

 

 原作においてブリタニア皇族で最初のルルーシュによる被害者になる皇子の心に、状況の激変によって【自由惑星同盟最後の統帥本部長ロックウェル大将】の魂が覚醒してしまった、最初に敗れる敵幹部ポジションのキャラクター。

 敵の立場は違うけど、驚くほど似ている状況にあるのが分かったため採用と相成った悲劇というか自業自得というべきかの人物。

 今作内でも最初に死ぬため出番はほとんどないのだが・・・・・・実は今作版独自の展開によって、「とある役割」を担って死ぬことになる予定だったりするのだが―――

 

 




*:久々にシッカリ書いたら、長くなり過ぎてました(;^ω^)
他の作品もこうならんよう気を付けます。
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