どうにも、こういうのばかり書きすぎたせいで、原作ストーリーを根底から変えるのが苦手になってきた自覚がありますが……級には戻れそうもないので、昔の感覚を取り戻すため好き勝手にやって色々と台無しにする展開でリハビリしたい治療法な一作ッス(力技)
――【悪】とは、『正義』と『正しさ』を尊ぶための言葉であり、概念である。
その行為を【悪行】として否定し、禁止したい者たちが『正義』の対義語として生み出し、広く認識させるよう仕向けたのが【悪】という概念だからである。
それをする事は【悪いこと】であり、【悪いこと】とされる行為をしないことが『良いこと』となり。
【悪いこと】をするのは『劣った行為』であり、【劣った悪】を犯さぬことこそ『悪より優れた証』とする。
そのように解釈することが一般認識となった社会を築かんがためにこそ、『正義』と『正しさ』を信奉する者たちは【禁止すべき行為】を禁ずる手段として【否定されるべき悪】を作りだす。
それ故に、『正義』と『正しさ』に反発する者たちは【悪】こそ尊び、正義に貶められた【悪】にこそ『真の正しさ』はあるとして反主流派の大義となってきたのだろう。
『正義』と『正しさ』で生きて欲しいと願う者たちにとって、【悪】や【間違い】とは常に【劣ったもの】でなければならないのだから。
謂わば『正義』にとっての【悪】とは、存在そのものが嫌悪され、否定されるべきモノ――即ち、ゴキブリであり、毛虫であり、ゲジゲジであり、男女にとっての『あの日』である。
正義にとっての悪とは、ゴキブリなのだ。
それ故に『正義』は常に、あらゆる世界で【悪】を滅ぼすため戦い続けている・・・。
台所に潜み続ける黒いGを退治し尽くすため、倒し続ける駆除作業のように、正義の味方はゴキブリたる悪を絶滅させるためシューシューし続ける宿命を自らに課した存在なのだから・・・・・・。
だが――『正義』と『正しさ』を尊ばせるため【悪】を作り出した者たちの多くは忘れている。
【悪】として生まれた者たちは、決して【悪】を尊ばないという現実を。
『正義』を報ずる者たちが信ずる、【悪を誇って悪を成す巨悪】など、『正しさ』を広く知らしめるため作り出された幻想でしかないという事実を。・・・悪を作り出した者たちは忘れているのだ。
何故なら生まれながらの【悪】にとって【悪を成す】ことは、『普通のこと』でしかない。
自らの生まれ持った機能として【悪】を持つ者にとって、悪とは当たり前のことでしかなく、自らにとっての当たり前を誇りたがる物好きな趣味は【悪】にはない。
腹を下してトイレに駆け込むのを、『尊い』とか言い出すアホは現実にいないのである。
・・・・・・そんな風に、自らが禁じたいと願う行為を禁忌とする『正義たち』によって、【悪】にとっての「当たり前」を【悪行】として否定され、存在自体そのものが処断すべき【悪】とするレッテルを貼られた【悪たち】が存在する世界が、ここにもあった。
正しき神を崇める『教会』と、忌み嫌われる邪悪とされた【魔術師】たちとが啀み合い、敵対関係を続けながらも共に生き続けている世界の一つだ。
その世界にある【迷いの森】と呼ばれた深い深い森の中に、一人の男が住む廃城が存在していた。
これは―――その迷いの森の城に住む魔術師の男が、『教会から「悪」とされているだけの魔術師だった善人』ではなく、【生まれながらに悪の別人】だった異世界における、もう一つの恋物語。
トイレで大便するのを『汚い』とは思っても、【根絶すべき悪】とは全く考えていない、考えてみれば当たり前かもしれない美青年が、一人の美しすぎる少女に初恋してコジラセル物語である・・・・・・。
「・・・・・・ご主人様、一つだけ・・・質問をお許し頂けるでしょうか・・・?」
その場所は、愚かにして無知無能無力極まる弱き者らからは【迷いの森】と呼ばれている深い深い森の中にある荒れ果てた廃城。
その玉座の間で、一人の見目麗しい貴公子が、一人の少女と相見えていた。
「――許す。何なりと問うがいい」
冷たい瞳で見下ろしながら、応用に許可を与えた美貌の男の正体は、力なき民衆たちからは恐れられ、力あるが故に忌み嫌われる魔術師の中でさえ特に強大な力を持った【次期魔王の後継者】として畏怖される存在の一人。
―――その名は、『ジャガン』
冷酷非情にして、血も涙もない「吸血鬼」が如き男と呼ばれている魔術師だった。
今、その男の前に座した少女は、全てを諦めて諦観しきった瞳を無表情の中に映し出しながら、静かに人生最期の問いかけを発しようとしていた。
「はい・・・あの・・・・・・私はいったい、どのような殺され方をするので・・・しょうか・・・」
「―――」
透き通るような声と、透き通るような美貌で、少女から男が問われた時。
貴公子は即答しようとはしなかった。
思慮ありげな表情で、世界の全てを見通すかのような傲慢そのものの視線で少女の姿を一撫でしながら無言のまま、何かを思案するかのごとく考え込んでしまっていた。
そんな男を見つめ返す少女の姿は、美しかった。
纏う服も、靡く髪も、その身に漂わせたオーラでさえも、汚れもなく濁りもなく清廉なる純白としか思えぬほど白一色で包まれた美しすぎる少女の美貌。
結婚式の花嫁なのだろうか? ふわりと裾が広がったウェンドィングドレスを城の中でも纏った彼女の姿は、その清廉なる雰囲気と相まって場所とのミスマッチさなど気にならぬほど彼女の美しさを際立たせている。
・・・・・・ただ一点、奇妙なことに首にはウェンディングドレスという祝いの正装に似つかわしくない、ゴツい見た目の首飾りをはめていることだけは違和感があった。
否、正確には首飾りではない。祝いのための祝賀で用意された正装でもまたなく――相手の自由を奪い、支配して隷属させる手段として用いる道具・・・・・・。
即ち、【首輪】であった。
ウェディングドレスという最も晴れがましい日に纏うべき衣装を身につけながら、少女はその首に「自由なる生涯の終わり」を意味する奴隷の首輪をはめられた姿のまま、今この場で男と向かい合った場所に座していたのだった。
(――ちょっと待て――)
そんな少女に向かって、男は心の中で問い返していた。
少女の問いに対する答えを―――ではない。
男は黙したまま心の中だけで追い詰められ、自問自答を繰り返し続け、苦悩し続けていたのだから。
代わって、少女の座する前に置かれた玉座のような椅子に座ったまま見下ろしてきている貴公子は、声に出すことなき心の声によって、少女の問いかけに声なき答えを実は応じてやっていたのである。
(何故だ・・・? なぜ私が彼女を殺す(注「犯す」の隠語)こととして既に既定事実になっているのだ!?
私はまだ何もヤっていないし、手を出しても触ってもいないはずなのだが・・・ッ!?)
いきなり美しすぎる少女からレイプ犯扱いが確定されていると勘違いして追い詰められ、精神的に窮地に立たされていた貴公子は、だが少女に対して法に触れるような不埒なマネは一切した覚えはなく。
ただ、『闇オークションに人身売買で出品されてた商品の美少女』を『大枚はたいて自分の所有物として購入』その後で自分一人が住んでいる廃城へと持ち物認定して連れ帰ってきただけでしかない。
自分は彼女になにも疚しい事などしておらず、むしろ正規の手順を守ってやって奪うことも殺すことも攻め滅ぼすことも一切やっていない、全くの合法に基づくルール遵守の正しき真人間として模範的としか言いようのない誠実な対応オンリーだけで遇していたはず・・・・・・
それなのに何故!? まったく意味がわからず、理解もできん!!!
――現実を超越した未知なる現象を前にして、貴公子の心は完全に追い詰めらつつあった。
『彼にとっては理解不能』な話の流れだったため、どう対応していいのか分からなくなってしまい言葉を失い、返事のしようがなくなっていたのだった。
(と言うかこういう時、どのように女子に対して“プロポーズ”をすれば良いのだ・・・!?
やはり、永遠の伴侶として迎え入れる証として、『アンデット化』から始めるのが筋であろうか・・・・・・『ヴァンパイア・クィーン』などの上位種なら彼女に相応しく気に入ってもらえるはず!!)
・・・・・・という内容の苦悩と反問と自問自答とを、自分の頭の中だけでしてたからである。
心の中だけで相手に聞こえず、相手から好かれるための手段として、オイ馬鹿やめろ嫌われる一択しかありえねぇと、この場に第三者がいてくれて心の声を聞いてくれたら絶対言ってもらえそうな思考を。
ガチで大真面目に『善意』として考えていた。・・・考えちまう男がコイツだったのである。
「それとも・・・死んで楽になれるような終わりさえ与えてもらえることはない・・・・・・それが私の運命だと・・・・・・」
(いや、表情から察するに辛い過去を引きずっているような重苦しい雰囲気がある・・・未だ我に心を開いているとは言いがたい。
ならば、『50年ほど地下牢に閉じ込めて』自由なる生活と生の喜びを心から感じれるようになるまで待ってからの方が告白の成功率が上がる可能性が無きにしも非ず・・・・・・!!)
・・・・・・もはや、どうしようもないほどに相手の思いとすれ違いまくって、自分の気持ちしか考えていないゴーイウングマイウェイな魔術師の男と、《呪い子》として忌み嫌われ自分の存在価値を見いだせなくなった心優しきエルフ族の美しすぎる少女による、一方通行過ぎる男女間のやり取り。
だが、それは仕方のないことでもあった・・・・・・何しろこの男、魔術師として悪名高く、冷徹非常にして強大な魔力を操ることで知られている高名な存在ではある反面。
この少女との出会いが―――人生初めての、『初恋』だった男でもあるのだから・・・。
男の初恋に対する想いを侮ってはいけない。
結構しつこいし、結構グチグチ言い続けるし、嫉妬もすれば妬みもするし、逆恨みやらで友情崩壊もめずらしいこっちゃ全くない。
それ程までに、男の初恋は、こじらせた女の恋愛感情並みに厄介な代物なのである。
しかも、挙げ句の果てにこの男。
「あの・・・ご主人様。・・・どうかされたのでしょうか・・・? 先ほどから沈黙されたままなのですが・・・」
「―――」
「・・・ひょっとして私は、知らぬ間にご主人様の機嫌を損なうことを申してしまっていたのですね・・・分かりました、ではこの首は如何様にも使っていただいて構いませんので、どうかご自由に――」
「―――――はっ!?」
相手からの言葉にハッとなって我に返り、ようやく『相手を見るのに夢中で話をまったく聞いていなかった自分』という現実へと帰還してくる見た目だけいいダメ男。
しかも何やら悟ったような表情をされて、何事かを話しかけていたらしい。・・・そう言えば最初の頃に「質問していい」とか言ったような言わなかったような記憶がなくもない。
――もしかしてアレか? だとしたら拙いな・・・聞いていいと言っておきながら、聞いてませんでしたでは失礼すぎる。
と言って、「お前の美しさに見惚れていた・・・」と正直に答えるのは、なんかこう、アレだ。うむ、男として惚れた女の子の前で言う内容としてアレである。
「あの・・・・・・ご主人さ―――」
バンッ!!!
「余計なことを知る必要などない!!
お前は私のモノとして我に尽くし、我のために生きればそれで良いのだ!!
さすれば働き次第で、求める願いの一つや二つ程度は叶えてやってもよい!!」
「・・・・・・・・・・・・はい」
「それに、お前の存在は我にとっての、ほら、アレだ。うむ。――察するがよいッ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ」
見ての通り、恥ずかしさから強気な態度でごまかす「ツンデレ」だった。
男のツンデレである。いったい誰にどんな需要があるのか、異なる別世界の大きなオトモダチの間でさえ不可思議で、正直イラネェーこじらせ系の美形魔術師。
そんな誰得としか思いようがない、見た目だけは美形の男性魔術師『ジャガン』が、100年以上生きた人生ではじめての初恋を経験することになる少女とであう切っ掛けとなったのは、その日の朝方での出来事から始まっていた―――。
「きゃあッ!? マイアス、なぜこんな事を・・・っ!」
聖騎士長シャスティル・リルクビストは、剣を履かずに純白の長衣だけをまとった平服姿のまま、まるで暴漢に襲われた生娘の様にあられもない悲鳴を上げさせられていた。
いや、「まるで」ではない。
彼女は今、まぎれもなく暴漢の男に無防備な姿で襲われ、貞操の危機が迫ったことから本能的に女としての叫ばずにはいられなかったのである。
「ヘッ! へへハハハハハハッ!!!」
自分が突き飛ばした先で尻餅をついた相手の少女騎士を嘲笑いながら、覆い被さるように彼女の前へとひざまづくように歩み寄ってくるのは、純白の甲冑をまとって下卑た表情を浮かべる、妙にアンバランスな印象の青年騎士。
突然の奇襲であり、騙し討ちされた結果であった。
『若い娘ばかりを狙ってさらう卑劣な魔術師』を討伐するため隊を率いて出立していた彼女たちは、無事に任務を果たし終えて町へと帰還する途中、味方であるはずの聖騎士から急に襲いかかられて彼女を残し全滅させられてしまっていた。
装備している間は魔力を消耗する装備類を外して、運んでいる状態での裏切りであり奇襲だったことが彼女たちの命運を分けさせた要因となるものだった。
『聖剣の乙女』とまで称される12本ある聖剣の一つを授けられているシャスティルと言えども武器なしの状態で仲間から先にやられてしまってはどうしようもない。
なんとか一時撤退して体勢を立て直そうとしてみたものの、やがて追いつかれて地面に突き飛ばされ、覆い被さりながら組み敷いてくる相手に必死の抵抗を示し――その瞬間。
偶然にも、暴れる右手に相手の顔面が引っかかり。
「お願い! やめてマイアス! 正気に戻って・・・・・・ヒィッ!?」
ベリッ!!――と。
人体ではありえない音を響かせながら、相手の聖騎士の“顔が剥がれ”その顔の下に隠されていた醜い素顔が大気の中にさらされる。
「!? あ、あなたはマイアス・・・じゃ・・・・・・ないッ・・・!?」
「ハハ! なかなか、そそる顔してくれるねェ~★」
剥がされた自分の見知った仲間の顔が、マスクのように被っていた素顔との間を接着していたらしき鮮血が、ボタボタと地面に垂れ落ちて、若さ故にまだ惨殺死体を見た経験が多くない少女聖騎士シャスティルの精神をさらに萎縮させ、おびえる心は実力をより低下させる。
普段なら徒手空拳でも躱すことができたであろう、刃を振るうことが本職ではない相手が突き出してきたナイフの切っ先によってハラリと上衣を切り裂かれ。
ぴらり――プルンッ、と。
年相応と呼ぶにはやや小さめの、だが愛らしいサイズの乳房を包みこむ下着が、外気の風に剥き出しにされてしまった。
「きゃ、きゃあッ!?」
「ひゃッははは♪ 愉しんでくれてるみたいだなァ。だがガッカリさせるようで悪いが、期待してるような陵辱は、お前には体験させてやれねェのさ。
なにしろ処女ってのは、俺たち魔術師にとっちゃ結構価値があるもんなのよ」
見られてしまった下着を思わず両手で押さえて隠してしまって、戦うどころではない恥辱の姿まで晒してしまった己の無様さに赤面しながら、それでも負けん気だけで相手の顔を見上げて睨みつける。
――魔術師!!
その行動は、相手の素性と正体を知らされたからこその反射的な反発心と、怒りと憎しみと義憤が込められてのものでもあった。
力によって弱き者を虐げ、若い娘たちを生け贄として邪悪な儀式に用いて、神の教えを信じることなく、冒涜する行為に耽溺する・・・・・・存在そのものが【悪】なる者たち。
世の人々の平穏を守るため、処断すべき邪悪なる異端の最たる者だ。
――そのような者たちの一員に、仲間たちを殺された私が負けを認めるような無様を晒すわけにはいかない・・・!!
そういう義憤と反発心故に、相手の顔を睨み付けた。睨み付けたのだが――
「生きたまま剥がした処女の顔の皮ってのは、いい触媒になるのさ。・・・・・・だから簡単に死んでくれるなよ?
顔の皮さえ剥がし終わった後なら、身体も可愛がってやっていいんだからよォ~ヒャッハハハッ★★!!」
「~~~ッ!?」
見知った仲間の顔だった相手の身体を使って、見知った仲間の顔の下から現れた歪な顔を、彼女にとっては直視続けるだけでも精神的負担が大きかった。大きすぎたのだ。
そこに来て、この言い草と宣言を告げられてしまった瞬間。
聖剣《アズラエル》に選ばれた聖騎士長シャスティル・リルクヴィストは、ほんの一瞬。
『聖剣の乙女』である自分を忘れる。忘れてしまった――
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!??」
「ハーッハハハハ!! 安心しなァ♪ 顔を剥ぎ終わって体も可愛がった後は、今度は体も同じように使って有効利用してやるからs―――」
あられもなく、無力な生娘のように可憐な悲鳴を高々と上げてしまう『聖剣の乙女』
そんな彼女を組み敷きながら、無抵抗な弱者を一方的になぶるサディスティックな悦びの笑い声をけたたましく立てる『顔剥ぎの魔術師』
そして。
「おい、下郎」
「――ああァ?」
そうして殺されることなく、生きたまま顔の皮を剥がされそうになった瞬間。
相手の背後から声がかかった。静かな男の声だった。
上から目線で、居丈高で、生まれつき他人に対して命令することに慣れているような、そんな平たく言って―――なんかムカつかされる声での質問。
反射的に「イラッ」とさせられた男は、思わず柄の悪い声で反応を返して、いいところを邪魔しにきやがった気が利かねぇ虫けら野郎はどんな顔してんのかと、面だけでも一度拝んでから嬲り殺してやるつもりで顔だけ振り返り。・・・・・・そして。
ガシィィッ!!
「へぶッ!?」
「結界の張られた我が居城へ密かに入り込んでくるとは・・・・・・曲者め。どこの手の者かは知らんが、命が惜しくないと見えるな」
「ちょっ!? え、城って――い、イダダダダダァッ!? 頭痛い! 頭痛い!! 頭蓋骨が割れるように痛いから辞め・・・・・・死ぬ死ぬオレ死んじゃうってウギャァァァァッ!?」
背後から伸ばされた手で後頭部を鷲掴まれてしまった次の瞬間には、片腕一本だけで宙へと持ち上げられ、万力のような握力で頭を握る手のひらに力を込められた激痛により、手足をバタつかせまくって痛みを訴え、無視のようにジタバタして藻掻くことしかできない立場へと急転直下で転落してしまった『顔剥ぎの魔術師』
頭蓋を襲う激痛に意識を乱されまくりながら、それでも彼は助かるために頭と思考をフル回転させ、『相手が言った言葉』の中から自分が助かりそうなワードを見つけ出そうと懸命に考え―――そして、激しく絶望させられる。
(い、いいい痛い痛い痛いィッ!? まままマズい!マズすぎる!!
今コイツは『我の城』って言ったってことは、ここはコイツの領地ってことになる!
領地持ちの魔術師なんざ、今のオレにかなう相手じゃねェぞぉッ!?)
己の力を高めることだけに興味を持ち、他人の命も財産も必要とあらば奪い取り、時には友や肉親、家族同士であってさえ利害の対立から殺し合いにまで発展することも少なくはない―――それが一般的な魔術師たちの社会であり、殺すことに成功した側が裁かれることなど極少数。
勝った方が強いのだから、負けた弱い者の権利や自由など擁護して強者と敵対するメリットなど、魔術師たちの殆どから認められることなき些事でしかない。
全ては、実力主義と結果主義。
勝った方が全てを手にする権利を持ち、負けた方は全てを奪われるのは当然の義務。
それが当たり前の魔術師たちにとっての認識というものである。
だが、それ故にこそ明確に「領土」と認定された「自分の物としての土地」を有して、他の魔術師たちから奪われることなく保持し続けている者は、領土を他者から力ずくで奪うことが出来ていない魔術師たちと隔絶とした力の差を持つ証明にもなる要素にもなっていた。
(たしか、この辺りは《怨嗟のアンドラス》が治めていたが、怨嗟は10年ぐらい前に死んだはず・・・・・・だとしたらコイツが怨嗟を殺して領地を奪ったヤツだってことか!
冗談じゃねぇ! ま、まだ今のオレの力は怨嗟よりも下だってのに、怨嗟より上のヤツに勝てるわけが・・・・・・ッ!?)
一瞬を百年と感じさせられてしまうほどの痛みと苦しみに耐えながらも、《顔剥ぎ》は自分に苦痛と屈辱を与えてくる相手への報復や勝利を、今は完全に放棄して全てを差し出し命乞いするしかないと思い決める。
そう、“今は”他に手段がない。
それを手にするためにも今を生き延びなければならない理由が自分にはあるのだ。
この窮地を生き延び、確保した生け贄たちを用いた儀式で成功を収め、『彼ら』に認めてもらうことさえ出来れば、この程度のコッパ領地しか持たぬ魔術師へ報復する力など幾らでも・・・・・・っ!!
「ま、ままま待て! 待ってくれ! あんたもオレと同じ魔術師なんだろ!? だったら取引しようぜ! 見逃してくれたらオレの研究成果を全部あんたに譲渡してもいい!!」
「要らん。若く美しい女の顔の顔が生け贄として必要な魔術の研究成果など、もらったところで使い道がなく、利用価値もない。
美しき美女、美少女は愛でるか、愛人にしてハーレムに入れるべき存在だ。せっかくの奇麗どころから美しさを奪って何の意味がある?」
「う・・・そ、そういう趣味のヤツだったのか・・・・・・じゃ、じゃあオレの顔を! オレの顔の皮を剥いでくれてやるから、それで勘弁して欲し――」
「もっと要らんわ!! 大馬鹿ブサイク男がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
「ふぎゃぁぁぁぁぁッ!!!?? 痛い!痛い!マジで潰れる!壊れる飛び散るオレ死んじゃ――――ッ!!!」
グシャァァァァァッ!!!!
ブッシュぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!!!
・・・・・・そしてアホな提案したせいで怒り買って、頭部を握りつぶされて、脳髄とか血液とか脳内分泌液とか色々なものや液状のモノを周囲にぶちまけまくりながらブサイクな顔剥ぎの魔術師は顔失って死んで、顔なくなった体だけブッ倒れて。
ベチャっ、と。
男に殺されかかって追い詰められていた平服姿の少女騎士に頭の上へ、盛大に目の前で死んだ男の血液が飛んできて付着する。
目の前で、頭部を握り潰されながら、少しずつヒシャげていった苦痛に歪む顔から、鼻血とか血涙とか吐血とか、色々な赤い液体を色んな穴から出しまくった末に、脳味噌とか色々な内臓物と一緒になって命まで飛び散らせながら殺されてしまった男の血液が盛大に、若く清廉な少女聖騎士長の頭上へとバケツをひっくり返したような量が盛大にベチャアっと。
「う。・・・・・・・・・・・・・・・う~~~~ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガクシ」
そして、気絶。
目の前の現実を受け入れられて正気を保っていられるほどメンタル強くなってない年齢の若い娘さんらしい反応として、気を失って現実逃避である。
敵か味方か分からぬ相手が新たに現れた戦場において、あまりにも油断と言えば油断なのだが・・・・・・普通に育ってきた若い娘さんには耐えられることと耐えられないことも流石にあるので致し方なし。
そんなショッキング映像を目にして頽れた少女の姿を見つめながら。
メンタル的にはか弱き少女の危機を救った魔術師の男は、「ふむ・・・」と少しだけ困ったような声をこぼす。
「哀れだな・・・あのようにブサイクな男に襲われかかったことが、婦女子の精神的には余程に恐ろしかったと見える。
断片的に聞こえてきた話によれば、この娘は仲間たちをコイツに殺されたそうだからな。さらには自分をも手にかけようとした憎むべき男が死ぬのを目の当たりにして、張っていた機が切れたに違いない」
という、自分のやった事には一切なんの問題もなかったし、相手も気にしていない前提での感想を堂々と。
恥ずかしげも誤魔化すつもりも、罪悪感すら少しもないまま平然と、哀れみだけを抱きながら名も知らぬ娘さんへの慈愛を込めて―――。
「む・・・?」
だが、その感想を呟いた後。娘さんが首から下げている金属製の飾り物が視界に入る。
それは魔術に用いる紋章と同じではないが酷似している、祖は同じモノから発したとする説が語られている奇妙な印。
金属によって作られた、剣のようにも下方の一本のみが他より長い十字にも見える形の紋章。
「ほう、《十字架の紋章》―――キョウカイ、とやらに属する人間だったか」
貴公子は、その紋章を掲げて自分たち魔術師と敵対している組織のことを思い出しながら一人呟く。
《教会》とは、魔術師とほぼ時を同じくして誕生したとされている、魔術とは似て非なる神秘の力を行使する者たちの集まりであり、彼ら自身は自分たちのことを『神の使徒』と自称している。
魔術師を「処断すべき悪」と断じて存在そのものを否定し、勝てるはずもない力弱き者たちでありながら自分たちを滅ぼすと息巻いている、ヒマな人たちの集団であり。
自分たちより弱いザコ魔術師を、多人数で襲って殺しまくり、自分よりも強い強者には挑もうとしない、子悪党たちが寄せ集まった盗賊組織の名前でもある。
なんでも、世界を手中にせんと欲する『カミ』という総帥の命令を実行するため、世界を征服するため各地に戦を仕掛けている軍団の名前だとする噂も耳にしていた。
そこまで具体的に語られている噂を聞いたわけではなかったが、断片的に聞こえてくる噂の内容をつなぎ合わせて推測すると、大体そんな意味合いを持った理由で行動している者たちの集団のようで、本当にヒマな人たちとしか言いようのない変人たちの群れであるらしい。
「まぁ、このような時代だからな。彼女のように弱く、若く、胸はなくとも眉目は良い娘が、よく分からんことを言っている者たちの一員になってしまうことも止むなきことか・・・・・・まったく、寒い時代になったモノよ」
嘆かわしいとばかりに、他人事として首を振って割り切って、彼は別のことにも思いを巡らせ始める。
――この娘を、見た目がいいので見逃して村まで返してやるのは良いとしても、彼女がキョウカイに所属する信徒の一人である以上は、今回の一件が自分の手による犯行だったということにキョウカイからはされてしまう危険が存在していた。
では、どうすべきか? そう考えたジャガンは結論を出す。
「まぁ、そのような些事はどうでも良いことか。身の程知らずにも吠えかかってくる愚か者がいれば、どこの誰であろうと排除するまで。それがキョウカイか魔術師かなど些細な違いに過ぎまい。放っておくか」
と、一切全くこれっぽっちも気にすることなく少女を転移魔法で人里近い、肉食獣とかいない地域に送ってやるための魔法を展開するため魔法陣を作り出す。
魔法が発動して光を放ち始める魔法陣――だが、その光が突然に変色し始め、自分の物と異なる魔力の流れを感じさせられ、ジャガンは小さく眉をひそめる。
「いよう、ジャガン。相っ変わらず偉そうな顔と態度してやがるなァ、お前って」
「ふん、バルバドスか。お前の方も相変わらず女にモテなさそうな顔色をしているようで何よりだ」
振り返りながら相手の名を呼び、彼にとって数少ない旧知の相手と正面から向き合う。
青色のローブを纏った、顔色と肌の色が悪くて不健康そうな体つきの青年だった。
目の周りには巨大なクマがあり、もう何日も寝ることなく起き続けたままであることは事情を知らぬ初対面の人間でさえ一目瞭然な彼の特徴だった。
それでいて彼の態度や言動には不眠症の人間に起こりやすい症状である、意味のない苛立ちや、思考の乱れ、些細なことで激高しやすいテンションの浮き沈みなどの面は見受けられない。
怒りやすい部分ならあるものの、それはプライドが高いだけで別に身体的な理由は関係なく、健康でも普通にプライドが高めの男であることはジャガンもよく知る相手でもある。
そして、それは彼もまたジャガンと同じく魔術師であることを示す条件にもなる特徴でもあったのだ。
「うるせ、放っとけ。俺は女の好みには、こだわる男なんだよ。ところで、お前の方もご盛んみたいだな。なんだ? パーティーの最中だったのか?」
「フンッ、愚問だな。男を招いてパーティーなど催すはずがあるまい、男はいらん。
この少女だけなら我が眷属として、ハーレム加入を祝う式典ぐらいは開いてやっても良かったのだがな」
「・・・いや、そこで真面目に返されると俺の方が困るんだが・・・・・・っつか、あんま真面目でもなかったしな今の返事も。普通に外道の発言だったし」
肩をすくめてから思い直したのか、バルバドスと呼ばれた青年は不敵そうな笑みを――あるいは、邪悪そうにも見えるイヤらしい笑顔を浮かべると馴れ馴れしい態度と言動でジャガンに向けて語りかける。
「だが、お前らしい言い分ではあったわな。
――関心があるのは己の力を高めることだけ。他人の命にも財産にも価値を見いださず、欲しけりゃ力ずくで奪い取る。それが俺たち魔術師ってもんだが・・・・・・お前の場合は、もう一つ執着してるもんがあるからな。
“女”っていう、お前が関心がある存在がさ」
「下らん・・・・・・」
相手の戯れ言に付き合う気を見せることなく、先ほど使おうとした魔法陣を今度は“乗っ取られることなく”自分が作った魔法を使うための魔法陣として正しく機能させて転移させることに成功する。
そう、彼らは魔術師なのだ。彼も同じ魔術師なのである。
それも他人が作った魔法陣を、横から割って入って乗っ取ることを可能にした、転移系の魔術だけならジャガンでさえ及ばないことを認めざるを得ないほどの腕前を持った一流の魔術師。
「あーあ、送っちまったのか。もったいねぇなぁ~、要らねぇなら俺にくれよ。
あの娘、けっこうな魔力を持ってたみてぇだし、生け贄に使えば割と優秀な存在を呼び出す触媒として役立ちそうだったのによ」
「美しい乙女を生け贄に用いる魔術を、私の見える範囲内で使うのは許さんと言ったはずだぞバルバドス。男なら別に構わんし、美しくない女であってもOKだが、美しき美女・美少女はダメだ。
代わりと言ってはなんだが、そこに転がっているヘンタイ男の死体でよければ、くれてやって構わん」
「いるかよ、こんな気色悪い上に大した魔力も持ってねぇ三流魔術師なんざ、触媒に使ったところで何かの役に立つとも思えねぇし、捨てちまえ捨てちまえ面倒くせぇ」
「そうか。では、そうするとしよう」
カツン、と。バルバドスからも要らないから燃やせという返事をもらったところでジャガンは靴先で地面を蹴りつけ、音を鳴らす。
すると、ボッ!と音が聞こえたと思った瞬間には死体全体が燃え上がり、やがて最初から何もなかったかのように綺麗サッパリ消えてなくなる。
「まっ、そんな細かいことはどーでもいっか。んな事よりもさぁ、ジャガン。お前さん好みのいい話を持ってきてやったんだが一口乗らねぇか? 安くしといてやるぜぇ、俺とお前とのヨシミって奴でさぁ~。ヒャッハッハッハ!★!」
訪ねてきたと思えば、いきなり馬鹿笑いし始めるバルバドス。
まるで酔っ払っているような態度の奴だが、別に酔っているわけではなく素でこの性格なだけであって、魔法の操作も魔力調整も一般の魔術師たちより常日頃頃から大きく引き離している。
好みためとテンションの高さに惑わされ、侮って油断して殺された愚かな挑戦者や略奪者志望で終わった者達はそれなりの数に上ると聞いている。
そんな男が持ってきた「お前好みの話」というフレーズに、ジャガンは全く期待する気持ちを持てなかったが、語りたいだけの相手を黙らせたい気持ちにならない程度には彼ら二人は距離感が近い間柄ではあった。
「肉体操作は魔術師の基礎。眠気なんぞは、ちょいと脳内のアドレナリンを弄ってやれば関係なくなる。
おかげで病や寿命とも縁遠いってわけだが・・・・・・それでも一千年が限界ってのが通説じゃある。そいつに因んだことで、少しおもしれぇイベントが開かれるらしい」
「・・・・・・面白いイベントだと?」
そこまで聞いて、結局ジャガンは振り返って一応ながらバルバドスの話を聞いてやる姿勢を取ることにする。
あくまで前振りの話だけなら興味を引かされた、というだけに過ぎなかったものの、講壇としては悪くなかった。
道化師としてバルバドスも成長していると言うことだなと、悪意なく友人みたいな関係の相手を道化師認定して、相手の言葉を戯れ言だと見下す意思は一切無しの「事実」として受け入れてしまっている自己中美形の貴公子様であったが、幸いバルバドスは話し相手の内心に気付かなかったらしい。
元からそんなものに興味がないタイプなだけかもしれなかったが、とにかく話だけを先へ先へと進めようとしてくるのみだ。
「魔王の一人、マルコシアスが死んだことは知っているだろう?」
「知らん」
「・・・あ、あっそ・・・。えーとまぁ、とにかく死んだんだよ魔王の一人で最年長の爺さんが、この前にさ。――ほんっと相変わらず過ぎるにも程がある奴だな本当に・・・」
思わせぶりな含み笑いを浮かべながら投げ込んだ言葉の爆弾に、予想外な反応を返されて精神的に蹈鞴を踏まされながら、それでも流石に『魔王』という存在のことだけは確実に知っている友人みたいなモンの相手に事情説明の続きを付け足していく。
――《魔王》とは、伝承にある魔族たちを率いる王のことではなく、その名が示す称号を与えられた最強の力を持つ13人の魔術師たちのことだ。
称号と共に絶大な魔力を与えられ、下位の魔術師たちを僕として従えることができる魔術師たちの極地ともされている。
その13人の中で最高年齢1000才と呼ばれていたのが、魔王《マルコシアス》である。
彼が本当に1000才も生きている老魔術師だったのか、あるいは逆に1000才までしか生きていないと言うことにしている更なる長命の人物だったのかは定かではない。
最高年齢というだけあって、彼と同世代に生まれて今日まで生きてきた者は一人も生き残っていないのだから、本当なのか嘘なのか今となっては確かめる術は世界のどこにも存在していないのだろう。
そのマルコシアスが先日、死んだ。
老齢によって、息を引き取ったのだ。――だが、それはいい。
どのみち魔術師たちにとっては、死んだ相手が誰だろうと所詮は他人事。他人の命にも人生にも然したる興味は全くない。それが魔術師というものでもある。
だが、それはあくまで《魔王マルコシアス》の死についてだけの話でもある。
彼の死によって、他人たちに関係してくるメリットがあるとするならば、それは我が事の問題であって決して他人事ではなくなることを意味するものへと変貌する。
「そのことに因んでマルコシアスの領地、キュアノエイデスで大掛かりなオークションが開かれるって話を聞いたのさ。
真っ当な品から、俺たち好みの品まで。マルコシアスの資産として売れそうなものが大量に・・・・・・その中にとんでもない物が出品されるって噂をな・・・」
「我ら好みの品だと・・・? !! ま、まさかそれは・・・っ」
「そのまさかさ! 出るんだよ!! アレがッ!!!」
「そのオークションに――お前好みのスッゲー美人な、エルフ娘の嬢ちゃんがなぁ!!」
・・・・・・斯くして、新たに13人目の魔王として迎えられることになる男と、美しすぎるせいで変な男に惚れられてしまう羽目になったエルフ族の少女が出会う舞台は整うことになる。
普段からハーレムハーレム言ってきて、昔から女癖が悪いことで悪名高かった魔術師が、生まれて初めて人生初の一目惚れと初恋とを同時に経験することになる恋愛物語は、このようにして始まりを迎えてしまったのだった。
初恋とは、多くの者達にとって一度はかかる質の悪い病であると、世間では言う者もいる。
だがしかし、あえて断言しておくべき真理が、この言には一つだけ抜けてもいた。
初恋とは、確かに質の悪い病であり、多くの者が一度はかかる心の病なのも事実ではあるが―――ただし。
初恋よりも更に質が悪いものが、一つある。
それは、初恋をこじらせた男の感情だという事実こそ、この恋物語で語られる真理である。
*単なる練習で書いただけ作品のため、オリ主の設定とかは次があった場合に書く予定。
こういう原作キャラの立場で台無し人格に変貌するヤツを多く投入できれば、当初の感覚が取り戻せるかと期待中。