試作品集   作:ひきがやもとまち

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諸事情あって書ける時間が減っており、資料確認できる時間はもっと減ってる昨今ですけど、何とか書けた『モブセカ』二次作最新話を更新です。



この乙女ゲー世界は、女子でも引きます 7章

 

「俺にとって掛け替えのない女性はマリエだけだ。――お前ではない」」

 

 ユリウスが放った言葉によって、今学期最後の婚活パーティー会場は異様な熱気が立ちこめる場所へと様変わりするよう変化してしまったようだった。

 屈辱と怒りに身体をプルプルと震わせているアンジェリカさんの腕は、少しずつ手袋を外す仕草に近づいていきながら、原作ストーリーで自分が破滅へと至る切っ掛けになるイベントへと突き進もうとしてしまっていく。

 

 

『きゃー☆ これって婚約破棄じゃない?』

『王子様から見放されたんじゃ、侯爵令嬢様も終わりねぇ~』

『クスクス♪ 惨めすぎるわァ~。もっと無様を晒せば良いのに♡』

 

 

 周囲の性格悪そうな女子たちは、ことさらに声量押さえた小声で、だけど相手には確実に聞こえるよう陰口をたたき始めて、彼女を追い詰めてプライドを満たすのに利用してくる。

 一方の俺たち男子も似たようなもので、誰も王子たちと『王子ファンの女子たち』双方の機嫌を損ねてまでアンジェリカさんに味方しようなんて勇敢な物好きは一人もいない。

 

 絵に描いたような、本心隠して悪意隠さずの仮面舞踏会じみた会場へと一変してしまった今学期最後の婚活パーティー会場だった・・・・・・。

 正直言って、反吐が出る思いがするし、アイツら王子たちも王子に迎合する連中も大っ嫌いなイヤすぎる状況ではあったのだが・・・・・・俺自身、アンジェリカさんを助けたいほどの理由やメリットがある訳でもない。一応はジェナから言われた姉の要請も記憶には残ってもいる。

 あまり余計な動きをしたいと思える理由はなにもない・・・・・・。

 

 そんな状況に、先程までのパーティー会場はユリウスたちの言葉で一変させられていたのだから―――

 

「ふむ・・・何というか今となっては、会場の主役はユリウスたち攻略対象とアンジェリカ女史“だけ”になってしまっているな。

 マリエ女史君でさえ、攻略対象王子たちに愛されてるポジションだからの添え物扱いに変わってるし。

 生徒たちの大半は、王子たちと公爵令嬢しか見ておらず、一般生徒で子爵令嬢でしかない下級貴族はアウト・オブ眼中になってる感がスゴい状況だね」

「・・・・・・言うな、愚昧。そして空気読め。分かるだろ? 今そういうこと口出したらダメな状況だってことぐらい」

 

 そして、今までの真面目モノローグ調思考を台無しにするようなこと言ってくる、場の雰囲気に乗れないし乗らない我が性格悪き妹からの冷静な現状認識よ・・・。

 でも実際のところ、レインの言う通りの状況ではあるんだよなぁー。

 

 あくまで周囲の連中が注目してるのは『王子ユリウス』と『王子から婚約破棄された公爵令嬢』であって、マリエの事について語ってる話はさっきから全く聞こえてこねぇ。

 添え物扱いって言うより、いらん子扱いされてるよーな気がするレベルの待遇だった。

 

 百歩ゆずって、王子たちにとってマリエはメインヒロインなのかもしれんけど、その他のモブ男子や女子にとって重要なのは王子たちと悪役令嬢のアンジェリカさんであって、マリエの存在は『王子に惚れてる女の子A』ぐらいのモブとしか思われてねぇ。思える要素もどこにもねぇ。

 

 ・・・・・・ビミョーに悲しい生まれの格差社会が、それぞれの階層ごとで認識に影響与えてるみたいだった。

 だが、そんなモブ令嬢の一人としてマリエを無視できない大貴族令嬢も、今この場には確実に一人実在してるのも確かな訳で。

 

 ぺちッ!

 

「きゃッ!?」

「拾え、殿下を誑かした悪女め! 私はお前に決闘を申し込む!!」

 

 ザワワッ!?と、会場内が一挙にざわめきを増したのを俺は、そしておそらくレインやオリヴィアさんも肌で感じられたと思う。

 アンジェリカさんが自分のはめていた手袋をマリエに向かって投げつける・・・・・・これは、このゲームの設定として《オルファート王国》の貴族たちの間で『決闘を申し込む時の手順』ということになっている行為だ。

 正確には、手袋を投げつけられた時点では決闘は成立してなくて、投げつけられた側が手袋を拾うことで決闘は双方合意のもと成立する。・・・そういう仕組みという設定になっている。

 

 ・・・・・・とは言え、こんだけ大勢のギャラリーっていう野次馬たちが見ている前で決闘を申し込まれた側が、受けずに逃げるってのは事実上無理に近いとしか言いようがない。

 絶対に周囲からは敵前逃亡呼ばわりされた挙げ句、不戦敗扱いされる羽目になるだろうし、アンジェリカさんに代わって今度はマリエが性格悪い貴族女子たちからネチネチ嫌味と陰口言われまくる生活送る羽目になるのは明らかだ。

 

 今後の学園生活を送りつづける前提で考えるなら、決闘を受けずに逃げるって選択肢は事実上選びようがない。

 だがマリエは見た目の通り、自分が戦って勝てそうな実力持ってるヤツとは到底思えない。

 

 『決闘の申し込みイベント』それ自体はゲームでもあって、アンジェリカさんが悪役令嬢らしく破滅への第一歩を刻みはじめる最初のイベントにもなっていたシーンだ。

 その時には戦えない主人公の代理人として、その時点で一番好感度が高い攻略対象キャラが請け負う流れになってたけど・・・・・・。

 本来の主人公と攻略対象ほとんど面識すら持ってないっぽいからな、現状のこの乙女ゲー世界だと。好感度どころの域まで達してねぇ。

 

 そうなると、この状況下でありそうな展開としては――

 

「マリエ、拾え。大丈夫だ」

「え!? で、でも殿下・・・私は、その・・・」

「安心しろ。お前の代理人は俺が務めよう」

「な・・・っ!? 殿下っ、そんな・・・っ」

 

 ユリウスが後ろから「ポンッ」と肩叩きながら名乗り出て立候補。

 まぁ、こうなるとしか途中から思えなくなってた展開ではあった訳だけど、つくづくクズ王子だなコイツって。

 ふつう、自分の婚約者を自分でブチのめす役なんかに立候補するか? しかも自分との婚約者関係を維持するために申し込んできた決闘だってのに・・・・・・。

 

 ゲームの時は、ただただ『クリアの邪魔だ退け』って気持ちだけで頭一杯すぎて考えたことなかったけど・・・・・・もうこの時点で決闘の目的、破綻しちまってね?

 殴るの? 挑んだ本人が出る場合には、自分が婚約関係続けたい相手をボコリと。逆に相手の方は、自分の婚約者をボコリと。

 ・・・・・・どっちも破局待ったなしとしか思えない状態にしかなれそうにねぇんだけど・・・・・・本当に?

 

「ふむ。割とセリフそのものは、乙女的にイケメンから言われてみたい乙女心の夢的な定番内容ではあるのだがなぁ。

 言ってる動機的に考えると、『浮気ではなく本気も本気』で婚約破棄して現地妻とプラトニック以上の関係になりたいというクズ男みたいな言い分なのも事実ではある。

 ゲームでは有りな、言われてみたいセリフではあったが――逆の立場で言われるの聞かされたら、なんか後ろから刺したくなってきたな。

 ダンジョンに完全犯罪を求めるのは間違いになるのだろうか? 兄君くん」

「・・・・・・俺に賛成を求めてくるなよ。求めてる時点で完全じゃねぇし、許可出したら俺も共犯になっちまうし。

 あと、今の話聞かされてる途中で、なんとなく『浮気は文化』ってセリフ思い出したぞオイ・・・」

 

 そして相変わらず、夢があるようでゲームの中にしか夢求めてない妹からによる、夢のない『これが現実だったら話』を聞かされて更なるゲンナリ感を味あわされるしかなくなる俺の男心・・・。

 

 ゲームやってる最中は挑まれる側だったから、そこまでは考えたこと多くなかったけど・・・・・・改めて考えれば、やっぱこれってユリウスがやると『婚約者より浮気相手』を選んだ状態になるんだよなぁー・・・。

 婚約の段階だったからまだいいものの、これで結婚間近とかだったら事案イベントに一変しちまってたなオイ。

 決闘代理人じゃなく弁護士呼んできて、離婚調停と慰謝料の額についてテーブル上で戦わなきゃならん羽目になるところだった。

 そう考えると、婚約段階で決闘挑まれて決着できてたのは良かったのか? 悪かったのか? どっちだ?

 原作通りオリヴィアさんが挑まれた役で、婚約段階過ぎてた頃だと、またお金の問題で彼女が大変な状態になりかねないイベントだったんだな、コレって・・・・・・マジ引くわー・・・。

 

 しかも、既にしてプチドン引きしていた俺を、更にドン引かせる展開として。

 

「殿下ばかりに、いい格好はさせておけませんね。私も立候補します」

「面白そうだからオレも参加するぜ、誰でもいいから掛かってこいよッ」

「悪女とは聞き捨てならないな。僕も参加だ」

「剣の腕には自信がある。マリエの剣として戦って見せよう」

 

 何か知らんけど、次々と便乗してくる金魚のフンみたいな他攻略キャラ共なイケメン達。

 って言うか、多いだろ人数。多すぎるだろ。

 一人から挑まれた決闘に、いったい何人で応じるつもりでいるんだよコイツらは・・・。

 

「“殿下ばかりにいい格好はさせられない”、か・・・・・・楽して好感度上がりそうなイベントを、一人だけに独占させてやる気はライバル達にないということか。

 所詮は、一輪の花に五匹の蜜蜂・・・・・・男の友情とは、女の友情並みに脆いものだな。

 雄しべと雌しべを受粉させたい思春期リビドーに正直すぎるのは、男の子だから仕方がない事だからね」

「おい、止めろ下ネタ妹。親父みたいな親父ギャグを乙女ゲー世界で言うんじゃねぇ。オリヴィアさんが顔真っ赤にして返事に困ってるんだから察しろよ」

「い、いえ私はそのあの、え~とぉ・・・・・・な、なんの話をしてるのかよく分かりませんでしたけど、エッチなのは良くないと思います!

 いえ、エッチなのかどうかはよく分かりませんでしたけど、エッチだった場合は良くないと思います!!(赤~~////)」

 

 そして、こういう場面でもツッコむ妹(注:ボケ的な意味でだ。そーいう意味じゃないよ?ホントだよ?)

 とりあえず―――オリヴィアさんが恥ずかしがってる照れ姿が可愛いかったので、グッジョブだ賢妹ィ~♪♪

 

 

 ――ま、それはそれとして置いといて、だ。

 

「みんな・・・♡ 私、怖いけど――皆がいれば安心だね☆」

「ボクも忘れないでくださいね? 応援ぐらいなら出来ますよ」

「ありがと♪ カイルっ」

 

 俺たちモブの心情なんかお構いなしで、マリエたちはマリエ達の方でピンク色空間作り出しながら、♡マークでも飛び交いそうな甘ったるい声で返事している。

 あるいは、ハーレムを見る女子ってのは、今の俺みたいな気持ちになるものなのかもしれない・・・・・・なんっかムズ痒いって言うか、何というか・・・

 

 ――尚、後日レインに確認してみたところ「全然違う」と言われてしまったので、俺の想像は間違っていたらしいことが判明することになる。

 曰く、ハーレム自体はどうでもいいらしく、相手の男と女の顔と成績と身体とかの条件と設定次第だそうなのだが・・・・・・設定て。

 

「お、おい・・・こうなると公爵令嬢はどうなっちゃうんだ?」

「どうなるって・・・相手は殿下だよ? この国の王子だ。戦いたいヤツなんて誰もいる訳ないって・・・」

 

 そうこう考えてるところに後ろからヒソヒソ話が聞こえてきて、いつの間にか追いついてきてたらしいダニエルとレイモンドが、現在の状況を過不足なく解説してくれる。

 実際この二人の言う通りの状況で、王子たちから『敵になる宣言』をされてしまったアンジェリカさんは、完全に孤立させられてしまっていた。

 助けを求めようにも、この国の最高権力者の息子が真っ先に対戦相手として名乗り出てしまってるせいで、王子より下の身分の奴らには楯突くことなんて出来るわけがない。

 公爵令嬢でさえ勝てない相手に、取り巻きの令嬢達如きで及ぶわけもないし、この世界では立場の低い男子生徒達では言わずもがな。

 

 婚約者との関係維持のために、浮気相手に対して喧嘩を売ったはずが、婚約者自身が敵に味方すると宣言されちまう展開を予想できなかったらしいアンジェリカさんが(普通は予想できんと言うか、やる色ボケ馬鹿王子はどうかと思うけれども)思わぬ自体にオロオロして周囲を見渡し、どうすることも出来ずに立ちすくむ。

 

「おいおい、取り巻きにも見捨てられたのかぁ? ここまで人徳がないと同情したくなるぜぇ」

 

 そんな彼女を見て、攻略対象の一人《グレッグ・フォウ・セバーク》が、イヤな感じに唇を曲げながら追い打ちをかけるような言葉を吐きかける。

 

 グレッグは設定として、『能力が高い故にプライドが高く、実戦経験のない貴族を馬鹿にしている』って事になっているキャラで、実際に能力自体は高めなヤツなのだが、そのぶん機体に頼りたがらないせいで装備が弱いものばかりしか使用できなかった癖のあるキャラクター。

 

 ・・・・・・要するに、強さを笠に着て他人を見下す虐めキャラでしかなかったってことに、今よーやく気がついたは。

 思い出してみれば、コイツさっきから一番性格が悪そうな嫌味ったらしい皮肉しか言ってなかったし。

 性格悪いレインと十年以上兄妹やってからゲーム内だと始めて出会ったおかげで、やっとコイツのことが理解できた。コイツの性格、ぜんぜん武人っぽくなかったって事に。

 

「く・・・う・・・・・・だ、誰か・・・・・・誰か決闘を受けてくれる者は・・・・・・」

 

 そして、そんな嫌味な連中のために孤立無援にさせられて、このままだと恐らくゲームのシナリオ通り破滅への一直線を辿らされることになりそうなアンジェリカさん。

 主人公としてオリヴィアさんをプレイしてる時には気にもしない展開だったが、今この場で他人事として見ている俺の立場では、彼女の理不尽な状況は嫌すぎるぐらい理解しやすかった。

 

 ぶっちゃけ、周囲の連中も今のアンジェリカさんと同じぐらいに、『マリエが嫌い』と思ってはいるんだろう。

 出来れば王子たちを取り巻き代わりに独占してるマリエをぶっ潰して、痛い目を見せてやって欲しいと大半の奴らは思ってるのが本音だろうなってのは、他人の気持ちに鈍い俺でも分かる。

 

 だが、そのために王子を敵に回す気はない。

 だから、アンジェリカさんの敵になる。

 

 このイベントは既に、アンジェリカさんがマリエに挑んだ決闘の話ではなく、【王子様の身分と家臣の身分】という問題で語られる話になっちまっていて、【学園内に外の身分は持ち込むな】とか語っていた本人自身が他の誰より、自分の身分で他人たちの行動を制限しまくっちまっている歪な状況を形成しちまう羽目になってやがったのだ。

 

「アンジェリカ、覚悟は出来ているな? 俺たちと戦う覚悟が」

「・・・・・・っ。たとえ、代理人がいなく・・・ても・・・・・・」

 

 その王子様が、如何にもヒーローっぽく聞こえそうなセリフを、自分が一方的に婚約破棄した令嬢相手に、綺麗事で取り繕って「5対1でぶっ倒される覚悟があるか?」とか聞いてきやがる光景が目の前では展開されていた。

 

 表面だけ見れば、あるいはコイツらの頭の中で展開されている固有ヒーロー結界の中だけでは、自分たちがヒロインを守って悪と戦う正義のヒーロー戦隊になれてる幻想上の姿でも思い描けてでもいるんだろう。

 

「――さて、この状況を前にして、兄君くんだったら、どういう選択肢を選ぶのかな?」

「・・・・・・」

「別に兄君くんも我が輩たちも、アンジェリカ女史と親しいわけでもない。モブキャラとして普通でいれれば良いと言ってきた過去もある」

「・・・・・・・・・」

「彼女を助けることでメリットはなく、それどころか王子の取り巻きになりたがっている男子女子のほとんどから嫌われ者にさせられて、結婚できる可能性はますます遠ざかる危険性が高すぎる―――それが今の現状な訳だ。

 さて、それほどまでにリスキー過ぎて割に合わない選択肢と知りながら、なぜ兄君くんは“足を前に出し”、モブ男子の身で“決闘イベントに志願する”を選択しようとしているのか、その心は?」

「・・・・・・・・・・・・決まってるだろ?」

 

 俺は言わずもがなな状況説明を懇切丁寧にしてくれる、隣に立ってた性格悪い妹を“振り返り”ながら。

 思い切り、『にや~り』と悪どく見える笑顔を見せつけて、ダニエルたちを「うわぁ・・・」とドン引かせてやりながら。

 

 俺は、俺にとっての攻略対象たちと決闘してブッ倒してやりたい理由を宣言してやるのだった。

 

 

「俺―――アイツら嫌いなんだよねぇ~」

 

 

 そう言って笑う俺の顔を見つめ返すと、俺の妹は以心伝心。

 なにが楽しいのか「ニヤ~リ」と笑って嫌な笑顔を浮かべ返してきてくれながら。

 

 

「さすがは兄君くんだ。そういう理由でなら納得だ。

 いや、もっと真っ当な理由だったらどうしようかと、少しだけ思っていたのだけれど杞憂だったようだな。

 やはり、それどこそ兄君くん。サポートは私に任せて安心して進んでくれたまえ」

「・・・・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・頼りにはなりそうだったけど、ちょっとだけ後で家族会議が必要そうな返事を返して安心させてくれたのだった。

 

 コイツ、自分の兄のことを何だと思ってやがるんだ? と、別の方向での心配事を増やしてくれながらの安心セリフだったけれども。

 

 

 

つづく

 

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