試作品集   作:ひきがやもとまち

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まずは謝罪いたします。どうやらネット回線が繋がり難くなってる時に投稿してたせいか、文章が削れた状態で出してたことが改めて確認し直して分かったので、最新話の1話前の話を再投稿させて頂きました。

また、保存するときに話数も数え間違えてたので直しといた次第。
正しくは、最新話が7話となります。ご迷惑をおかけして、すいません…


コードギアス英雄伝説~もしも仮面の男が黄金の獅子帝だったなら・・・~第6章(修正版)

 ブリタニア帝国は強力な階級国家であったが、征服された国家の元市民にも「皇帝に忠誠を誓うことを制約した者」には《名誉ブリタニア人》という称号を与えて三等国民として《租界》へ居住する権利と帝国資本への就職を許可していた。

 

 この資格を得るに当たっては特に規定は無く、望めば誰しもがブリタニアの三等市民となれる資格を保証されている。

 ブリタニアは非占領国の元国民たちに対して、奴隷となることや強制労働する義務を押しつけることはしていない。

 

 ――だが、それは反面《名誉ブリタニア人》になることを拒んだ者たちは、『帝国の民衆として皇帝に庇護される権利』を自らの意思で拒否することを行動によって示したものと解釈することができる。

 

 またブリタニア総督府は、帝国の三等国民になることを拒んだ旧住民たちには、《租界》の外側に広がる《ゲットー》と名付けられた征服前に都市部だった地域の廃墟に住まうことを黙認していた。

 この《ゲットー》に対して帝国総督府は、あまり干渉や弾圧をしてくることはなかったが、見方を変えれば『反帝国の不満分子』は確実にゲットーへと集中しやすい条件を課すことによって監視しやすい状況を作ったとも言えるのだ。

 それはゲリラ達にとって敵に近しい距離にアジトを築けるメリットになってはいたが、帝国軍にとっても不満分子への対処をやりやすくさせる条件にもなっていた。

 

 厄介な者達を分散させておくより、一箇所に集めさせていた方が見張りやすく。

 なにか事が起きた際には、“まとめて一網打尽にする”という対処法を取るにも適している。

 

 今、その占領地住民に対して課してきた《ゲットー政策》がもつ効果が、遺憾なく発揮されるときが訪れようとしていた。

 《エリア11》の総督クロヴィス第三皇子からの指示のもとで、《シンジュク・ゲットー》への殲滅作戦が実行に移されていたのである。

 

 作戦内容そのものは以前より「反帝国ゲリラ対策」の一環として、全てのゲットー用を想定したものが立案されていたことからマニュアルが存在し、兵たちは所定の予定に従って行動し、各方面の出入り口を封鎖したうえで全方面から虱潰しに各地区を皆殺しにしていきながら中心部へと着実に進軍し続けていく。

 いきなり選択肢を大きく削られてしまったゲットーに住まう元日本人の市民達には、なんの前触れもなく始められた殲滅戦に慌てふためくことしかできず、逃げ場を塞がれた状況で右往左往した末に追い詰められていき、次々と射殺されていく者が続出していた。 

 

 ブリタニアの一般兵や、ナイトメア乗りの騎士達も、この一方的な虐殺に嬉々として参加することを拒まなかった。

 彼らは彼らで先日来から日本ゲリラによるテロ攻撃で、何人もの同胞や味方の兵を失わされていることを恨みに思っており、死んでいった仲間の仇討ちとして『卑劣な手段で無用な人命を損なうテロリスト共』を殲滅していく正義感と暴力の快楽に酔い痴れていた。

 

 

 

 

 そんな戦況の中。

 ブリタニア帝国軍の女騎士ヴィレッタ・ヌゥは、他の同僚たちが非武装のゲリラであるイレヴンたちを一方的に殺戮している“主戦場”からは離れた場所にある倉庫の一角へと愛機を乗り込ませた時。

 手に入れたばかりの力で間接的な虐殺をおこなわせた直後だったルルーシュの姿は、当然ながら既に犯行現場から消えてなくなっていた。

 

「こ、これは一体どういうことだ・・・? なぜ、このような場所で親衛隊が・・・・・・」

 

 コクピット内のモニターに映し出された光景を一瞥したヴィレッタは、白人種が多いブリタニア軍内では珍しい小麦色の肌に玉のような汗を浮かべながら困惑したように独白する。

 いま彼女の目の前には、大して広くもない画面内にブリタニア軍親衛隊の軍服をまとった男たちが、死体となった姿で全滅している姿で映し出されていた。

 それら血塗れの死体は、体中に銃で撃たれたものと思しき傷が見受けられ、一目見ただけで全員が既に死んでいることは素人でも分かるほどの凄まじい状態で放置されている。

 

 一方で、彼女自身が知る限りでは親衛隊がなんらかの任務遂行のため、この辺りの地区に派遣されていたという話は聞かされておらず、上司であるジェレミアの態度からも、そのような件があったことを窺い知ることはできなかった。

 彼からは信頼を得ているという自信はあったし、《エリア11》内に限定してではあるが相応の影響力と権力を有している《純血派》のトップである彼に正規の任務内容が知らされていない可能性は低いと見ていい。

 

 ――となれば考えられるのは、親衛隊は何らかの極秘任務を遂行するため本作戦開始前にゲットー内にある日本側テロリストのアジトへと潜入を果たしていたが、敵に露呈して戦闘に陥り、多勢に無勢で戦った末に全滅させられた・・・・・・という辺りが妥当ということにはなる。

 

 実際、その場の周囲にはイレヴンたちの死体も散乱しており、銃で撃ち殺された後もある。

 壁にペイントされた『日本を解放せよ!』と殴り書きされた一文も、イレブン・ゲリラの好戦的で危険な思想がよく現れてはいた。

 

 ・・・・・・しかし。

 

「だが、それならば何故・・・・・・彼らは笑いながら死んでいる・・・?」

 

 そう。ヴィレッタが親衛隊の死体を発見した直後に冷や汗を流していた理由は、そこにあった。

 床に転がったまま放置されている親衛隊員たちの死体は、皆が一様に『笑いながら死んでいる』という異様な光景が広がっていたのである。

 

 体中を血塗れになるまで傷つきながら、心底から楽しそうに嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた表情のまま死んでいる死体、死体、死体・・・・・・。

 しかも、倒れた際に向きが変わってしまっただけとは思われるが・・・・・・あくまで発見した直後の位置関係だけで考えるなら、親衛隊の隊員たちは『互いに互いを撃ち合った状態』で死んでいったように見えなくもない・・・・・・。

 

 ――ブリタニア皇族直属の親衛隊員たちが、味方同士で銃口を向け合い、心の底から仲間と殺し合うのを楽しみながら射殺し合って、血塗れの死体として死んで逝ったと思しき死体の群れ・・・・・・。

 

 実力はあるとは言え、年齢的にはうら若い女性であるヴィレッタの心理としては、庶民が好む低俗なホラー映画のごとき光景を現実の戦場で目の当たりにさせられてしまえば、薄気味悪さを感じて冷や汗の一つも出るのは仕方がなかった。

 

「まったく・・・・・・手柄を求めてジェレミアにも告げずに動いた先で、まさかこんな光景に出くわしてしまうとはな・・・クソッ。

 集音マイクが銃撃戦の音を聞きつけた時には、しめたと思ったものだったが・・・不味いかもしれないな・・・」

 

 厄介な事案に巻き込まれたかもしれない不安感が、彼女の心中で急速に拡大していくのをヴィレッタは感じ取っていた。

 身分への憧れとコンプレックスを強くもつ彼女は、同僚たちや上司が非武装ゲリラの殲滅などという「勝って当然の一山幾らでしかない小さな手柄」に血道を上げている隙に、自分個人の手柄を求めて主戦場から離れ、独自に調査を行っている最中だったのだが、このような異常事態を目撃してしまった以上は報告責任を果たさない訳にはいかず、思案のしどころとなっていたが・・・・・・・・・そこへ不意に、声がかけられる。

 

『そ、そこに居るのはブリタニアの騎士、か・・・・・・?』

「!? ――誰だッ!」

 

 コクピット内に聞こえてきた弱々しい男の声に、ヴィレッタは即座にレバーを動かして機体がもつ銃口を声の発信源へと向け直す。

 そこは倉庫の奥近くにある、地下室へと続いているらしい階段がある辺りだった。あるいは地下通路が他の場所とも繋がっているのかもしれなかったが、彼女の位置からでは分かりようのない問題でもあったし、目下のところ重要な問題はそこにはない。

 

「何者だ? ここで何があったか知っているなら答えろ。両手を挙げて、十秒以内に姿を現して投降せよ。さもなくば射殺する」

『・・・・・・』

 

 脅しでは済まない凄みを込めて、ヴィレッタ・ヌゥは半ば以上本気で相手に警告を発していた言葉に、相手の方は逆に無言を返事として返してきた。

 ヴィレッタは目を細める。『事件の目撃者として』なら情報源として生かしておく価値があったが、言いたくないのであれば是非もなかった。 

 もともと、この地域一帯の住人に対して殲滅命令は出ているのだ。躊躇ってやる理由は彼女には些かもない。

 

 そう思ってトリガーに指をかけていた彼女だったが、送れて届いた相手からの反応は彼女をして意外なものだった。

 

『・・・・・・お主が本当にブリタニアの騎士であるという証は示すことができるのか・・・?』

「なんだと?」

 

 その言葉に、ヴィレッタは思わずトリガーに掛かっていた指を止めて、ポカンとした表情を浮かべてしまった。

 まさか、この状況下で自分の方が身の潔白と証明を求められるとは、彼女は想像もしていなかったし他の者でもそうだろう。

 まさに、『そのような状況だからこそ言った言葉』であったが、それ故にこそ言葉には続きがある。

 

『わ、私は見たのだ! 皇族親衛隊の軍服をまとっている者達が、イレブンの小僧に銃を突きつけながら顔を近づけた時、小僧が妙なことを口走ったと思ったら突然に狂ったように豹変して味方同士で殺し合いを始めおったのだ!

 あ、あれはきっとイレヴン共に伝わっているという、トーヨーの呪術とやらに違いない・・・・・・! わ、私は騙されんぞ! 貴様も術にかかって私を殺しに来たのだろう!? そうに違いない!

 違うというなら、そ、その銃を持った機体を降りて私の前に降り立ち、礼を示すのだ! 私の父は、スペンス侯爵閣下とも血の繋がりを持つ由緒ある家柄なのだぞ!?』

 

 喚くように言ってくる相手の言葉に、ヴィレッタは思わずウンザリした気持ちにさせられながら―――だが一方で、聞くべき価値ある情報を告げられて心の中で野心がもたげてくる想いを自覚せずにはいられなかった。

 

「・・・・・・失礼だが、貴様は―――いえ、貴公は何処の誰なのでありましょう? ブリタニア貴族の子息を名乗られる方が、何故このような場所においでになっているのか、それを証明して頂かないことには私の立場では武装を解除することはできかねます。ご了承頂きたい」

『こ、この私の言葉を信じられぬというのか!? 皇帝陛下からも直々にお声をかけて頂く栄誉を賜ったこともある、由緒正しき伯爵家の次期当主たる、この私の言葉を!』

「・・・・・・軍記であります。ご了承頂けねば応じかねますことをお許し頂きたい」

『この無礼者め! 身分卑しき帝国騎士如きの分際で、私の言葉に疑義を挟むとは・・・恥を知れ!』

 

 ――知るものか、苦労知らずな貴族のバカ息子が・・・・・・。

 心の中でヴィレッタはそう罵ったが、声に出しては証明を求める言葉を繰り返しただけだった。

 

 おそらく、危険なので護衛なしでの進入禁止と定められている《ゲットー》内にまで観光気分で入り込んでしまった挙げ句、ブリタニアに反感を持つイレヴンたちに拉致され、身代金目的での誘拐か暴行でも受けかかっていた、帝国本土からお越しの名門子息であるバカ息子さまが、殲滅作戦開始の混乱に紛れて逃げ出すことにでも成功したのだろう・・・・・・ヴィレッタはそう当たりを付けて脱力させられそうになる。

 

 ――これだから、占領地域の実情も苦労も知らぬ名門貴族のバカ息子は度しがたいのだ。

 帝国騎士として現場での実績によって今の地位を築き上げてきたヴィレッタはそう思い、逃走に成功したバカ息子の悪運にツバでも吐きかけたい想いに駆られたが・・・・・・彼が目撃したという情報如何では話は別になる。

 

 ただ、そのためにも相手の身分の証が欲しかった。

 男爵子息の証言と、子爵家次期当主の証言とでは重みが違えば、価値も変わる。無事に救出して生還させれば現当主殿とのコネも得られるかもしれない。

 

 それらの条件を叶えるためにも、ヴィレッタはまず身分の保障が欲しかったし、現実問題として罠の危険性も0ではなかった。

 とにかく今は相手の素性確認が最優先だった。他のことは・・・・・・後で考えれば済むことだ。

 

『・・・・・・イレヴンの野蛮人共に襲われた折に、由緒あるメダルも、我が栄誉ある家紋を縁取らせた金細工も、全て奪われてしまった・・・・・・奴らは凶暴で好戦的なだけでなく、生まれつき卑しい種族なのだから、仕方なかろう?』

「――では、身分の証を立てられるものは何も持っておられないと・・・?」

『う、うむ・・・・・・いや待て! だが我が身を保証してくれるお方なら心当たりがある! ルーベン・アッシュフォード閣下なら私のことをよく知っておられる!』

「アッシュフォード・・・?」

 

 呟いてから、しばし考え、そして思い出したヴィレッタは納得した。

 たしか、爵位を剥奪されて没落した元名家が『アッシュフォード家』という家名だったはずだ。

 今では家柄だけしか残っておらず、名家だった頃には引く手数多だった娘の結婚相手からも見放されて久しいと噂話で聞いたことがあったが・・・・・・そう言えば彼の一族が運営しているのが《エリア11》におけるブリタニアの名門子女たちが通っている学校の《アッシュフォード学園》だったなと、彼女は今更に名前つながりで思い出していた。

 

『か、彼のご息女であるミレイ殿も、私の身の保証は立ててくださるはずだ! なにしろ私と彼女は当時、婚約する予定だった者同士なのだからな! 彼女が私を忘れているはずがない!

 それに遊学中は、彼女が長を努めておる学園に厄介になる予定でおったのだからな! この制服こそ、その証であろう!?』

「・・・・・・分かりました」

 

 ヴィレッタは、相手の男の身勝手な言い分に『女として』本能的に嫌悪感を感じはしたものの、一定の整合性を相手の話に感じて妥協点とすべきところだなと己自身を納得させていた。

 

 どのみち今のままでは話は進まないままであったし、力尽くで引き出した情報がどこまで信憑性を認められるか心許ない。

 挙げ句このバカ貴族のご子息様が、本当に本国の名家出身者であった場合には、あとあと面倒にしかなりようがないだろう・・・・・・仕方ないかと割り切って、ヴィレッタはコクピットを開くと、生身で地面に降り立ち、自機のナイトメアを動かすために必要不可欠な《キー》を『左手で』掲げてながら、顔だけに穏やかな笑顔を浮かべて声の聞こえてきた方向へと示してみせる。

 

「ご覧ください。私は見ての通り、かよわき女性の身です。誇り高き伯爵位を継ぐ男児であられる貴方様にとっては、取るに足らぬ相手でございましょう?

 さぁ、ですからどうか安心して、そのお姿を帝国の忠臣たる私めにお見せ頂きますよう」

『う、うむ・・・・・・然様であるな。苦しゅうな、い・・・・・・』

 

 見え透いたお世辞を装わせた、プライドを刺激する挑発に刺激されたのか、ようやく今の今まで隠れ続けていた男が階段の下から姿を現すのを見て、ヴィレッタは心中で安堵の息を吐いていた。

 

 見え透いたお世辞を装わせた、プライドを刺激する挑発に刺激されたのか、ようやく今の今まで隠れ続けていた男が階段の下から姿を現すのを見て、ヴィレッタは心中で安堵の息を吐いていた。

 

 ――面倒なことになったが、これで得られた情報がカスのような代物だったら大損だな・・・・・・そう思いながらも、右手は腰の辺りに下ろしたまま動かすことなく、オドオドとした態度で俯きがちに近づいてきて、顔を上げた少年の、意外にハンサムな面立ちの中で冷たく輝く紫水晶のごとき瞳と見つめ合った、その瞬間。

 

 

 

「お前のナイトメアを寄越して、今あったことは全て忘れろ」

 

 

 

 ・・・・・・ブリタニア軍の女騎士ヴィレッタ・ヌゥは、この戦いから完全に除外された立場へと変えられてしまうことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場の片隅で、B級ホラー映画のような怪現象が発生しながらも、戦局全体という視点で見た場合には、クロヴィス・ブリタニアによる《シンジュク・ゲットー》壊滅による《証拠隠滅作戦》は問題なく順調に進行していた。

 

 それは軍事面だけに限った話ではない。情報面や流通の面も含めての全方位的な理由によってである。

 

 

 実際、ルルーシュが巻き込まれたトレーラーの移動範囲内にある《シンジュク・ゲットー》から30分と離れていない位置にある、ブリタニア名家の子女たちが通う《アッシュフォード学園》では、普段と変わらぬ穏やかな日常が謳歌されていた。

 

「えぇ? ルルーシュ君、まだ帰ってきてないの?」

「うん、リヴァルが連れてっちゃったまま。もう授業、終わっちゃったのに・・・」

 

 水泳部に所属する女子生徒の一人、シャーリー・フェネットは、自分と同じクラスの級友でもある問題児の問題行動について友人たちに愚痴を言っていた。

 

「二人とも、生徒会の自覚がないんだから・・・・・・お金かけてるんだよ? 頭いいし成績だっていいのに、あんな事やってたんじゃ全部無駄になっちゃうかもしれないじゃないの・・・・・・ルルは使い方おかしいのよ、ああいうところ」

「まぁ、確かにルルーシュ君、ちょっと陰があるって感じで、悪いことする所も持ってるみたいだしねぇ~」

 

 気楽な調子で友人たちはシャーリーの愚痴を笑い飛ばすが、それは友人が級友に向けている感情を知った上での好意であり、件の級友自身はその思いに全く無頓着で気付くことすら出来ていない鈍感さに呆れ混じりの苦笑で応じてやっている。・・・・・・そういう関係性の少女たちだった。

 

「先生たちからの評価だって悪くないのに、たまのサボりで留年しちゃったりしたら、どーする気なのかな全くもう・・・」

 

 シャーリーの愚痴は続いている。

 それを聞かされながら部活仲間の女子生徒たちは苦笑を交わし合っているが、その実ルルーシュという問題児であり優等生でもある同級生の問題行動に、ここまで「愚痴という形」で苦情を言い続けているのも彼女だけだという事実に、果たして本人は気付いているのか?という疑問は今のところ口にした者は誰もいない。

 

 ルルーシュ・ランペルージという名の男子生徒は、たしかに問題児でありながらも奇妙な優等生でもある少年だった。

 真面目に勉学に励んでいる、などという殊勝な態度は全く見せたことのない学生でありながらも、ほとんど全ての科目において優秀な成績を収め、音楽や芸術などセンスが重要視される分野でも評価そのものは悪くない。

 

 ただ反面、一部の美術教師や音楽教諭からは『技術的には優れているが、個性のきらめきも感受性の深みもない』とも評されており、『情熱に欠けている』と語った者も過去にはいた。

 

 それらの評価はおそらく正しいのだろう・・・と、シャーリーは級友のことを意識し始め、深く知っていく過程で理解するようになっていた少女だった。

 彼には常に「熱」がない。少なくとも「絵」や「音楽」といった分野への創造的作業では、彼が情熱や意欲を感じることは出来ないのだろうと。

 

 一方で彼は時おり気紛れのように、悪友リヴァルの誘いに応じてダーティーな副業や、インモラルなアルバイトに手を出すことが昔からあり続けてきてもいた。

 その行動に規則性はなく、経済的事情や成績不振によるストレスとも思えない行動内容には自棄的なものを感じさせられ、それは必然的に彼の背負っていると思しき重いものを周囲に意識させるようになってしまい、腫れ物に触れるように敢えて話題を逸らして当たり障りのない話題だけを彼との談笑時にもちこむ者ばかりになっているのが、現在のルルーシュ・ランペルージ学生が置かれている立ち位置に今日ではなっていた。

 

 だが、シャーリーだけは平然と、皆が避けている話題に踏み込んでいくことを躊躇わず、先生方でさえ動機の部分には目を向けないようになっていた部分へと、彼女は口と足を踏み込み続けている。

 

 そんな少女と少年だったからこそ、周囲からの生暖かいものでも見守るような視線を向けられる環境はシャーリーにとって不本意極まるものだったかもしれないが、それでも遠ざかろうとは決してしないところが彼女の思いを端的に現す一例となっている部分だったろう。

 

 そんな彼女の携帯に、着信音が鳴り響いたのは、部活用の競泳水着に着替え終えたばかりのときだった。

 画面を開いてみると、着信相手は噂の対象だった張本人―――シャーリーとしては口元をひくつかせながらも通話ボタンを押し、文句の一つや二つや三つぐらいは言わねば気が済まない少年相手からの連絡だった。

 

「ルル? なによ今更! さっき掛けた時は勝手に切ったくせに!」

『シャーリー、先程は電話に出られなくて、すまなかった。ちょうど集中が必要な作業をしている最中だったんだ』

「え? そ、そうなの・・・? で、でもサボったりしてたら留年しちゃうかもしれないんだから、今どこにいるかぐらいキチンと知らせて――」

『すまない、シャーリー。その近くにテレビはないか? あったらニュース映像を付けて欲しい。シンジュクの方の情報があったら教えて欲しいんだ』

「テレビ? まぁ、あるにはあるけど・・・・・・ちょっと待って」

 

 前触れもなく問われた話題に疑問符を感じながらも、いつもの事でもある部分だったため左程は気にせず、部活仲間の誰かが持ってきたまま置き去りにされている携帯用の小型テレビを見ていた友人の一人から借り受けてチャンネルを回し、一通りニュース番組を見回してみるが・・・・・・けっきょく級友が何を知りたがっているのかは分からずじまいだった。

 

「う~ん・・・・・・交通規制だけで、他には何もないみたいね。なんで規制してるかも、よく分かんないし」

『交通規制? 規制してる理由はなんと言っている?』

「特にな~んにも。なんか事故でもあったんじゃない?」

『なるほどな・・・・・・』

 

 シャーリーからの返答に、相手だけが何かしら納得したような声を発しているのが聞こえてしまい、思わず彼女としては「ムッ」とならざるを得ない不快感を刺激させられる。

 これだけ気を遣ってやって、頼まれた求めにも応じてやっているというのに、碌に感謝の言葉も誠意も示さず、訳の分からない言葉だけを告げてコッチには意味不明なままというのでは、彼女でなくとも気分を害するのは当然の反応ではあっただろう。

 

「・・・ねぇ、また変な賭け事やりに行ってるんでしょ? 前にも言ったけど、そういう危ない事やってると、その内――」

『ああ、分かっている。実はそれの帰り道で、その規制に捕まってしまったみたいでな。理由が分かればくぐり抜ける事も出来るかと思ったんだが・・・・・・どうやら無理そうだ。諦めるしかないか』

「ちょっ!? そうだったの!? ダメだよ、そんな危ない事しちゃ! ナナリーちゃんには私から「帰り送れる」って伝えておいてあげるから、キチンと待ってから安全に帰ってこなきゃダメ!」

『そうさせてもらうしかなさそうだな。すまない、シャーリー。いつも手間を掛ける、ありがとう』

「なっ!? あ、ありがとうって急に言われ――」

『――悪い、検問だ。切るな、また明日』

「え!? ちょ、ちょ待っ――」

 

 そしてブツンと音がして、相手の方から通話は一方的に断ち切られる。

 手にした携帯を睨み付けたまま、だが流石に折り返しで相手の携帯に掛けて、警官の見ている前で鳴らす危険を冒させるわけにもいかずに、しばらくの間「う~・・・、う~・・・」と唸っていた末に。

 

 

「あーもう! また、なんでいっつもいっつも一方的に私ばっかり~~~ッ!!」

 

 吠えるように部活の天井めがけて発する彼女の叫びを、部活仲間の少女たちは笑い声で応じる。

 なんだかんだ言いつつも、それがシャーリーという大人びた肉体と相反する恋愛感覚をもった少女と、ルルーシュ・ランペルージという不器用で恋愛感情という人として当たり前の心を置き忘れて生まれてきたような――それでいて妙に女のロマンチシズムを刺激してくる言動を自然にやってのけてしまう少年との関係性。

 

 やがてルルーシュという名の学生が、『とある人物』がもつ人格の一部であったことを知った者の多くが意外さを禁じ得ない未来が訪れる、そんな『英雄』の知られざる一面が、彼女と共に間違いなくこの場所には存在していたのだから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがルルーシュの人格には、シャーリーに示したように優しく不器用な少年という一面があったことは事実だったが、一方で『それだけ』が彼が持つ人格の全てではなかったことも否定しようのない事実だった。

 

 

「なるほどな。全てを終わらせた後で、軍にとって都合のいい報道を行わせる算段か。閉ざされた環境下で情報ソースの提供元が一つしかない状況では、隠蔽も辻褄合わせも簡単だからな」

 

 シャーリーとの通話を終えた後、ルルーシュは年頃の少女と平穏な日々を送っているアッシュフォード学園の生徒という顔から、冷徹な戦略家としての貌へと変貌した頭脳で現在の戦況を分析することに思考を完全に切り替えていた。

 

「そうなると、例の毒ガスもどきも、日本側ゲリラが造っていたことにでもして、自業自得で締めというところかな。

 ふんッ、ブリタニアのやりそうなことだ。都合の悪いことは全て他人がやっていたことにして、自分たちには失態など無かったことにして取り繕いたがる。愚かしい」

 

 その分析は正しく、ブリタニア側の戦略を読み切っていたものでもあった。

 クロヴィス皇子としては、『区画整理』として本国には説明をおこないながら、一般市民向けの説明には『シンジュク・ゲットー内での毒ガス発生で死傷者多数』という形で幕引きを狙うつもりではあったのだろう。

 

 だが一方で、それはロイド伯爵が戦闘開に先だって「やり過ぎ」と評されている杜撰すぎる隠蔽工作でもある作戦だった。

 

 もしその説明が正しいとするなら、毒ガスは日本側ゲリラが製造していたものが誤って自滅した――ということにでもするのだろうか?

 それほどの毒ガスを、碌な施設ももたないゲリラ風情に開発できるとは考えにくく、これほどの大兵力を投入して交通規制まで敷きながら、密かに行いたがったのは『区画整理だけ』・・・・・・果たしてこれで他のブリタニア上層部は納得してもらえるものか否か。

 

 クロヴィスは、やりすぎたのだ。

 密かに進めていたらしい計画でも、隠蔽のために投入された兵力でも、あまりに大袈裟にやり過ぎてアチラコチラに穴が開いてしまって、塞ぎきることが出来ない事態に陥ってしまいつつある。

 

 だが、それでも『勝つこと』さえ出来たなら、クロヴィスの計画は強引に成功させられるだろう。

 それを阻止できる脅威がなければ、穴を塞ぐのを邪魔してくる者がいなければ、時間はかかってもブリタニア一極体制にある世界の一部で起きたことなら、ブリタニアの都合で如何なる矛盾も弊害もなかったことにして『正しい手順を守った正しい結果』ということにすることが可能にできる。

 

 それが、ブリタニア帝国が掲げて推し進める『力の正義』なのだから―――。

 

「だが、情報を秘匿してしまえば大っぴらに援軍は呼び寄せづらくなり、兵たちの間にも情報量の差で混乱が生じやすくなるはずだ。付け入る隙は幾らでもあるし、無ければ作ればいいだけのこと。

 ・・・・・・だが、さすがに俺一人でできることなど限られている。組織がいる。

 脳が直接ものを持つわけにはいかない以上、俺の立案した作戦を実行に移し、戦術的勝利を戦略的勝利へと繋げていくことを可能としてくれるための組織が・・・・・・」

 

 

 ――誰を選ぶ? ブリタニア軍内に人材はいない。

 優れた者は皆、“あの”皇帝に確保されてしまっている可能性が高い。だとすれば、この《エリア11》の地で頼れる候補は他にいそうにない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「民間人でも関係なしか! ブリタニアめ! よくもッ!!」

 

 自分用に赤くカラーリングした中古の《グラスコー》を操って、ブリタニア軍の戦車を撃破しながら香月カレンは涙目を浮かべて、悔しさに歯がみしながら敵の非常識さを罵っていた。

 

 シンジュク・ゲットーに逃げ込んでしまったせいで、そこに住んでいる多くの住人たちを巻き込んでしまう羽目になったのは、自分たちレジスタンスの判断ミスによるものだったろう。

 犠牲になった人たちには、何と言って詫びたところで言い分けにしかなりようもない。その点においては全て自分たちが悪かったと、ブリタニア嫌いの彼女でさえ断言できる。

 

 ――だが! だけど! だったら、このザマはなんだ!?

 ブリタニア軍が密かに製造していた毒ガスを奪ったゲリラである自分たちを殲滅するため、大兵力で完全包囲して一斉砲撃を仕掛けてくる!

 

 明らかに攻撃による衝撃で、毒ガスが散布してしまう危険など気にもしていない対応だ。

 否、それどころか毒ガスごと消えてなくなれと、都合のいい証拠隠滅のため町ごと消し去ろうとしているだけではないか!

 

 もはやブリタニア軍にとって、あるいはクロヴィス皇子にとって、ゲリラたちが逃げ込んだ先がシンジュク・ゲットーだったかどうかなど些事でしかない違いとしか思ってはいないのだろう。

 極端なことを言ってしまえば、ブリタニア人の居住区である《祖界》の中であってさえ、同じことを命じたかもしれない・・・・・・

 

 

 たまたま毒ガスを盗んでしまった自分たちが逃げ込んだ先がシンジュク・ゲットーだったから、証拠隠滅のため住人たちごと皆殺しを命令しただけ。

 自分にとって『知られたくない秘密』が明るみに出る危険性が生じた場所ならば、駆除した方が『自分を守るために必要』だから。

 

 だから、やる。だから殺すよう命じて虐殺させる。

 守るためには必要だからだ。『自分自身を守るため』にはどうしても・・・・・・。

 

 その為に犠牲が必要だったから殺しているだけのクロヴィスにとって、生け贄となる羊の肌が「黄色か白色か?」など些細な違いに過ぎない。せいぜい駆除した後に慰霊祭で唱える単語が変わるだけ・・・・・・

 

 それがブリタニア帝国による、圧倒的な力の支配だった。

 たとえ占領国の民衆に自由や権利を保障したとしても、それらは支配者側の都合によって『与えてやっているだけ』のもの。

 

 自分たちの都合で与えているだけのモノは、自分たちの都合次第で取り上げることも、無かったことにすることも自由自在。全ては彼らの胸先三寸で決まるもの。

 奪われる側に罪があったか否かなど、奪う者の都合とは関係ない・・・・・・だから自分たちは戦わずにはいられなかったのだ。

 こんな悲劇を平然と起こせる連中の支配になど、永遠に置かれ続けるなんて真っ平ごめんだったから―――

 

 ・・・・・・だけど・・・・・・

 

 

『フッ! 見つけたぞ、例の赤いグラスコー!』

「!? ブリタニアの! エナジーピラーの容量が・・・・・・ッ!」

 

 背後から回り込まれた2機のサザーラントに追い立てられて、カレンは逃げ惑う人々の援護から、一方的に逃げまくることしか出来ない撤退行動へと急速に方針を変えざるを得ない窮状へと急転直下で立たされてしまう羽目になる。

 

 戦車戦だろうと戦闘機戦だろうと、背後を取った者の方が圧倒的に優位に立つ。それはナイトメア同士の戦いの時代になっても変わることなき戦いの摂理だった。

 したがって、背後をジェレミアの乗るサザーラントに取られてしまったカレンは、まず彼を引き剥がさなければ体制を整え直して迎撃することができず、背後を取ったジェレミアは自分が手にした優位性を手放さずに追い立てるため猛スピードで逃げる敵を追撃する図式となるのは当然の流れといえる。

 

 命がけの鬼ごっこではあったものの、この遊戯は最初から一方的な有利不利があるフェアなゲームではなく、戦争だった。

 元より新型のサザーラントの方が旧式のグラスコーより性能が高く、負傷して片腕を失っているカレンの機体はバランス維持を走る作業に必要としている。機体を動かすために必要なエネルギーであるエナジーピラーも残り僅か。

 

 一方のジェレミア機は無傷で補給も受け終わり、更には敵より数が多かった。

 途中で離れ離れになってしまったヴィレッタに代わって、別の部下がバディとして共に一機のグラスコーを追い立てる役を担わせている。

 

『たかが負傷したゲリラの操る旧式とは言え、獅子はウサギを狩るにも全力を尽くすもの・・・・・・これで終わりだな、不忠なるイレヴンの愚か者共よ! 皇帝陛下のお慈悲を拒絶した報い、地獄で受けるがいいッ!!』

「くぅっ!?」

 

 逃げ場所が思いつかず、万事休す――そう諦めかけた時。

 コクピットの一角にガムテープで止めていた旧式のトランシーバーから、“その声”が初めて自分たちの元へ届けられたのは・・・・・・っ

 

 

『西口だ! 線路を利用して西口方面に移動するんだ!』

「え!? だ、誰なのッ!? 何でこのコードを知っている!」

『誰でもいい! 今は逃げろ! “ブリタニアに勝ちたい”と願っているのなら!!』

「勝つ!?」

 

 カレンからの当然の詰問に対して、相手が言ってきた初めての言葉。

 それは個々の作戦内容は聞いた者ごとに違っていたが、通信を受け取ったレジスタンスたち全員に共通していた単語が一つだけ存在しているものだった。

 

 

 

『私は、ブリタニアを憎む者―――。

 ブリタニアの世界を壊し、ブリタニア無き世界を創造する、ブリタニアの敵となる男だッ!!!』

 

 

つづく

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