試作品集   作:ひきがやもとまち

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手の空いたときに少しずつ書き進めて、先頃やっと完成した『コードギアス英雄伝説』初の戦闘シーン回です。
本当は決着まで行きたかったんですけど、長くなりすぎましたのでランスロット出動までのルルーシュ出撃回だけですが。


コードギアス英雄伝説~もしも仮面の男が黄金の獅子帝だったなら・・・~第7章

 唐突に始まった虐殺作戦から逃れようと、シンジュク・ゲットーに居住するイレブンたち――日本人の“元”一般市民たちは安全な場所を求めて駆けずり回りながらも、どこへ逃げればいいか分からぬまま次々と殺戮されていった。

 かつて日本侵略作戦によって史上初めて実戦投入され、既存兵器しか持たぬ日本軍を圧倒したブリタニア軍の新型機動兵器《ナイトメア・フレーム》を擁する大部隊が、ろくな武器すら持たない敗戦国の民たちに襲いかかり、そして殺戮していく。

 

 戦闘とも呼べない殺戮劇を、むしろブリタニア軍の騎士たちは狩りとして愉しみながら実行し続けていた。

 それは、理性と自制心が欠落した軍隊という存在が、一国が有する最大最強の武装強盗団に過ぎないという生きた実例を額縁付きで人類史に飾り立てたようなものでもあった。

 

「ブリタニアめ! よくも・・・・・・よくも・・・ッ!!」

 

 逃げ惑う群衆に向かって、背中から機銃を撃ちかけていた装甲車を《スラッシュ・ハーケン》で破壊しながら、コクピットで紅月カレンは歯嚙みしながら、悔しさに涙を瞳いっぱいに讃えて恨みの言葉を呟き続けていた。

 

 軍需物資を奪った旧日本ゲリラである自分たちが、民間人の居住するエリアに逃げ込まなければ済んだ話――それも論として正しい理屈ではあったろう。

 だが結局それは作戦に参加しているブリタニア軍兵士の多くにとって『口実』以外の何物でも無くなってしまっていたのは、間違いようのない事実に今ではなってしまっていた。

 彼らは一方的な殺戮に酔い、力に酔い、暴力に酔っていただけの者が大半になっていたのだ。

 

 武器を持つ者が、持たない者に対して一方的に暴力を振るえる立場になった時、人間の心はどこまでも卑しく卑劣に、そして残虐になることが出来る。

 この作戦に参加している多くのブリタニア軍兵士たちにとって、この戦いは既に戦闘ではなく、『一方的な狩りを愉しむ狩猟パーティー』として認識されるようになってしまっていたのだから・・・・・・。

 

『カレン! 《グラスゴー》は、まだ動きそうか!?』

 

 そんな彼女の元へ届けられた、自分たちのリーダー『扇』からの通信にも焦りの色が濃く滲み出ている。

 先の戦闘で、《サザーラント》との戦闘で被った損傷のことを言っているのだ。

 実際、カレンとしては装甲車程度の敵なら堂々と立ち回って倒して回りたいほどの怒りに駆られていた程だったが、敵から逃れるため片腕を失い、エネルギー源であるエナジーピラーの残量的にもできるだけ無駄を省かざるを得ず、不意打ちで遊撃による奇襲をかけて回るのが精一杯の窮状だった。

 

「まだ大丈夫! それより私が囮になるから、扇さんはここの人達を逃がして! 捕まるのは私たちレジスタンスだけで十分なはずよ!」

『分かってる! だけど、これだけ囲まれていたら動くことすら出来やしない!

 クソッ、ブリタニアめ! なんだってこんな大部隊を俺たちレジスタンスの殲滅なんかに・・・・・・これじゃまるで、最初っから虐殺したがってたみたいじゃないか!』

 

 あまりに予想外すぎる戦況の不味さに、扇が思わず口走ってしまった言葉。

 彼としては特に意識していった言葉でもなければ、状況から推測した敵の読みというわけでもなかったものだったが、図らずも彼の罵倒は敵将クロヴィスの思惑を正確に看破するものだったことを、彼自身は自覚していなかった。

 

 彼が呟き捨てたとおり、クロヴィスは最初からゲリラ諸共ゲットーに済む住人全てを皆殺しにすることで、証拠の完全なる抹消を果たさせる算段で大兵力を投入してきていたのである。

 側近であるバトレーの思惑通り、目標が奪還できれば一番良いが、そうならなかった時には理由など関係なく全てを殺し尽くして無かったことにしてしまうため、『殺処分用』として出動を命じた兵力だったのである。

 ゲリラたちにも民間人にも、逃げられる道など一つも残されているはずがなかった。

 彼らに逃げ延びられてしまっては、クロヴィスの方が死を賜る危険性もある秘密を知ってしまった恐れがあるのだ。

 その危険性を根こそぎ排除するためにも、知っている『可能性がある存在』は一匹たりとも生き延びさせる訳にはいかないのが、彼の立場だったのだから・・・・・・。

 

 

 そして、そんなクロヴィスの思惑など知らず、気づかず、考えもしないまま、狙った獲物を仕留めるため、指揮を他の者に任せて一パイロットとして追撃任務に当たっていた者が一人いる。

 

「見つけたぞ、あの時の《グラスゴー》!」

「っ!? 後ろを取られたッ!?」

 

 ジェレミア・ゴッドバルトが駆る《サザーラント》が、瓦礫の陰に隠れ潜みながら陽動と脱出支援に努めていたカレンの《グラスゴー》を発見して背後に回り込まれてしまっていたことに彼女が気づいたのは、不覚にも背中を取られてしまった後のことだった。

 

 ダダダダダッ!!と、躊躇いなく発砲してきたマシンガンによる先制攻撃を、背後に回られたと気づいた時には既にレバーを切っていた機体はなんとか躱しきって、次の路地へと全速力で逃げ出すことはできたものの、敵も相当に腕がいい。

 食いついたまま全く距離を離されることなく追跡し続け、バディを組んでいる今一機の同型機も陣形が崩れる気配すら見いだせない。

 

「・・・このままじゃ、あと30分しか保たない・・・・・・ッ!」

 

 コクピット内に響きはじめた警告音のアラートを聞かされながら、モニターの一つに映し出されているエネルギー残量に目をやったカレンは正しく絶望することになる。

 この2機を振り切るだけでも相当量のエネルギーを消費しそうな強敵だというのに、それに成功したところで民間人脱出の作業がはかどる要素は一つも無い、無駄で無意味な逃避行のために貴重なエナジーを浪費しなければならないのである。

 

(もう無理なの・・・? 私たちには、ここで終わるしかなかったっていうこと・・・・・・?)

 

 心に絶望の暗い帳がおりはじめ、レバーを握る手のひらから思わず力が抜けそうになった、その瞬間。

 仲間との連絡用にガムテープで貼り付けたまま、スイッチを入れっぱなしにしてあったトランシーバーから“その人の声”が初めて自分たちに届けられたのは。

 

『そこの《真紅のグラスゴー》、西口だッ!』

「え? だ、誰? 誰からの通信が・・・ッ!?」

『線路を利用して西口方面まで移動しろ! そこまで行けば、後は任せろッ!』

「誰だ!? どうして、このコードを知っている!?」

 

 仲間同士の周波数だけにセットしてあるトランシーバーから聞こえてくる、若い男の声。

 どこかで聞き覚えのある声のような気もしたが――周囲に爆発音や悲鳴が入り乱れている現状では誰のものだったかなど思い出せる余裕はない。トランシーバー故に音声もくぐもっている。

 だが今は、そこは重要なポイントではなかった。

 相手が誰だろうと何であろうと、たとえ悪魔だったとしても、この窮地から拾い上げてくれるなら手を取ってしまう状況に陥っていたのが彼女たちの立場なのだから。

 

『誰でもいい! とにかく今は、私を信じろ! ブリタニアに勝つためにもッ!』

「――ッ! “勝つ”・・・!?」

 

 その一言は、まるで魔法のようにカレンの心の内に瞬時に染み渡り、催眠術にでもかかったかのように気づいた時には相手に指示されたとおり、進行方向横に伸びている列車用の線路へ飛び乗り、ローラーダッシュを全速力で西口へ向かって機体を走らせ始めてしまった後だった。

 

 当然ながら、ジェレミアと部下の一機も相手の動きに追随する。

 敵機の方向転換が急だったからと、反応が遅れるほどの無能さは自分にも部下とも無縁なものだと彼は自負していた。

 

「惰弱なイレブンめ、つまらん小細工をしおって・・・。逃げてばかりでは狩りにもならんではないか。

 もっとも、ある意味では亡き主君の教育が行き届いていると言えなくもないのだろうがな」

 

 皮肉気な笑みを口元に浮かべながら、ジェレミアが独白する。

 ブリタニア軍による日本侵攻の際、徹底抗戦を唱える軍部を抑えるため、当時の日本首相クルルギ・ゲンブは自らが自殺することによって諫めたと言われている。

 それによって日本は早期に降伏し、エリア11と名と国籍を改める切っ掛けとなった。それが公的には発表されている日本最後の王の死に様である。

 

 世間では美談と語る者もいるそうだが、ジェレミアに言わせればクルルギはただ勇敵を前にして勝ち目のない戦いから逃げただけであり、形を取り繕うことで名誉だけでも守ろうとした卑劣な男に過ぎなかった。

 

 武人であるなら、持ち場を死守するのは当然の責務であり、たとえ国が滅びようとも自らの任地を死守することさえ出来ればクルルギの武人としての名誉は守られただろう。

 それをする事なく、部下たちが各地で戦っている最中に、自らだけが死んで【敗軍の将という不名誉】から逃れようとしたクルルギ首相の“卑劣な行い”を、ジェレミアは全く評価していないタイプの人間だった。

 

 視野が戦場に限定されすぎている型の人間なのである。それは同時に彼の限界をも示すものだった。

 あるいは彼は大成する事によって、最高の親衛隊長になれる可能性はあったかもしれないが、全軍を指揮統率する大元帥になれる類いの器を持った人間ではなかったのである。

 

 人には持って生まれた器量というものがあり、それは努力や経験よりも人格や価値観、思考法といった面が大きく反映される分野の才能で、出来ない人間には努力の如何に関わらず決して出来ないままで終わる宿命にある分野だった。

 

「・・・ん? なんだ――ブリタニアの輸送車両がなぜ、このような戦場に・・・?」

 

 やがて機体を走らせていたジェレミアは、追撃する敵機の進行方向から自軍の輸送用の車両が線路を走りながら接近してきている姿を遠目に確認する。

 おそらく増援部隊である総督直属の部隊が、現場に急行するため使ったものだろうが・・・・・・そんなものが戦闘中の只中に必要とも思えずに首をかしげていると、目前を走っていた赤いゲリラたちの《グラスゴー》が近づいてくる列車の戦闘車両の飛び越えて背後に回ったことによって、必然的に残された自分たちへと列車は真っ直ぐ急接近してくることとなる。

 

「そういう事か・・・・・・つくづく、つまらん小細工をするものだ」

 

 迫り来る列車の巨大を前にして、ジェレミアはむしろ興ざめしたように呟き捨てると、一切慌てることなく落ち着いたまま、どこか面倒臭ささえ感じられる仕草で機体を操作して右腕を前に出させると、流れるような手つきで機体の速度を調整。

 

 キキキィィィィィッ!!と、嫌な音を響かせながらもジェレミアが乗る《サザーラント》に片手で押さえつけられながら、徐々に列車の速度を低下させていくことで見事に対処してしまっていく。

 

「新幹線やリニアモーターカーというならともかく、軍用の輸送列車の速度ではな。こんな作戦が通用すると思うとは、つくづくイレブンという連中は全く・・・」

 

 馬鹿馬鹿しい気持ちを抱かされ、ジェレミアはもう先程まで追っていた相手を、【自分が仕留めたい敵】と思う気持ちは完全に失ってしまっていた。

 そこまでして手ずから殺すほど大した相手ではない。どのみち列車は止めてやる必要がある程度には金がかかっている代物でもあることだし、ここは部下に小さな手柄は譲ってやるのが『派閥の長』となる際には必要となる指揮官の嗜みか・・・・・・彼はそう考え、逃げるテロリストの始末は随行している今一機のサザーラントに任せるのが良策と判断する。

 

「お前は、あのグラスゴーを追え。パイロットの生死は任せる」

『イエス・マイロード!』

 

 小気味よい返答を返しながら、自分の後ろから付いてきていた部下のサザーラントは、先程のテロリスト機がやったのと同じように戦闘車両を飛び越えるため、機体を跳躍させ、そして―――

 

 バキィン! バキィィッン!!

 横から飛来してきたスラッシューハーケンに直撃され、装甲がひしゃげて撃墜されることになる。

 

「なにっ!? まだ他に新手がいたのかッ!」

 

 逃げ場のない空中へと飛び上がった直後だったこともあり、良い的のような状態になってしまっていた僚機が呆気なく吹っ飛ばされてしまい、線路の下へと落下していく姿を見て驚かされたジェレミアは、飛来してきたスラッシュ・ハーケンが戻っていく先へとカメラアイを向け直し、そこに遊軍のサザーラントを見つけて目をむく。

 

 次いで彼が感じたのは、激しい怒りだった。

 “誤射”で味方を巻き込んで撃墜する間抜けが、誇り高きブリタニア軍にいたという事実に許しがたい思いを抱かされた故であった。

 

 仮にマシンガンで撃たれていたなら、さすがに彼も『裏切りの可能性』を疑うぐらいはしたが、スラッシュハーケンを飛び上がった直後に受けさせらたタイミングが判断を狂わす結果をもたらしてしまっていたのだ。

 もともと過去の経験から、味方の裏切りに対する嫌悪や仲間同士の絆をより信頼するようになっていたのが彼だったという事情もある。

 撃ってきた相手にとっては、まさに注文通りの思考であった。

 

「同士討ちだと!? 貴様、どこの部隊だ! この愚か者が――なにッ!?」

 

 叱責するつもりで通信回線に怒鳴りつけてやった返答として、今度は左手に構えるマシンガンを自分に向けて連射してくる友軍機のはずのサザーラント。

 今度ばかりは流石のジェレミアも、その行為を『誤って銃口を味方に向けて狙い撃ってしまっただけ』と解釈することはなかった。

 

 明らかにこれは、敵対行為――『攻撃されている』!?

 

「まさか!? テロリストがサザーラントに・・・!」

 

 叫びながらも、慌てて機体に全速力で急速後退させはじめるが――それが徒となる。

 マシンガンによる連射を上方から浴びせられかけている最中なのだ。前に進むよりも出足と速度が遅いバック移動では、ただ敵の攻撃を前にして当たり判定の中に全身を晒すだけでしかない。安全な距離まで移動するより先に、自機のいずこかに敵弾の直撃を何発か受けるのは避けられなくなるだけだ。

 

 案の定、そうなった。片足のローラージェットがやられ、その誘爆によって右足そのものを失ってしまう羽目になったのである。

 重量に耐えきれなくなった機体が片膝をつき、まるでテロリスト相手に忠誠を誓うかの如く跪いたようなポーズを強制されたことで、ジェレミアの頭はカッとなる。

 

「くぅッ!! この私に、“あの御方”以外の前で膝を屈しさせたな!! 貴様ァァァァッ!!」

 

 残された左腕で、懲罰の一撃を食らわせてやろうと腰だめに構え直すジェレミアだったが―――彼の敵は味方にフリをした卑劣な裏切り者だけではない。

 正面には、明確な『敵襲』が来ている最中だという事実を、このときの彼は失念していたらしい。

 

『はぁぁぁぁぁぁッ!!』

「なにっ!? テロリスト共のグラスゴーが・・・!」

 

 逃げたとばかり思っていた赤いグラスゴーが、線路の上を走りながら猛スピードで逆走しながら、拳を構えている姿を視界に収めたことで、さしものジェレミアも『たかがイレブン如きに敗北した』という事実を受け入れぬ訳にはいかない窮状に追い込まれた。

 

 ――帝室に弓引いた恩知らずなイレブン相手に、最期まで戦い抜いて一歩も引かず、敵との相打ちに持ち込むことで名誉を全うする道もあるたかもしれない・・・・・・だが自分には、まだやらねばならぬ事がある! ここで死ぬ訳には行かぬ使命がある!

 あの御方のため、まだ自分は死ぬ訳には行かぬのだから・・・・・・ッ!! 

 

「えぇい、これまでかッ!!」

 

 コクピットシートの左右にあるスイッチを押して、ジェレミアは脱出装置を起動させる。

 もし敵に飛び道具があれば、既に逃げられるタイミングではなくなっていた距離だったが・・・・・・生憎とカレンたち貧乏所帯のレジスタンスに、そこまでの資金的余裕は存在しなかった。

 

 ギリギリで到着した時からでもスラッシュハーケンぐらいは撃ち込めたかもしれなかったが、もともと投擲武装という訳でもない装備の一つだ。脱出装置相手に使って当たったとしても、より遠くへと弾き飛ばす程度の効果しかあるまい。

 

 カレンとしては、憎い敵にとどめを刺せなかったことに悔いは残るものの、深追いする手段をもたない現状では逃げる敵の姿を見送るしか選べる道は他になかった。

 だが、ともかくも絶体絶命の窮地を乗り越えることだけは成功したようだった。

 

「・・・ふぅー・・・・・・誰かは知らないけど助かったよ、ありがとう。でも、どうやってサザーラントを――あれ?」

 

 敵の名前は知らなかったものの、手強い敵パイロットを撃墜することができたカレンは安堵の吐息を吐きながら感謝の言葉と共に、自分を援護してくれた機体が隠れ潜んでいた廃墟ビルへと視線を向けたが、その時には先程まで存在していたサザーラントの姿はなく、反応も消えているようだった。

 

「アイツ・・・一体どこに・・・?」

「おぉーい! カレン!」

「あ、扇さんっ」

 

 線路を駆けながら自機へと近づいてくる一団を見つけて、カレンは一時的に正体不明の援軍のことを忘れて喜びの声を上げる。

 全員無事だったらしく、見た限りでは欠員はない。・・・だが、どうしてこの場所にいるのかという疑問がないこともなかった。

 避難する人達を守る必要もある。この場所に全員が集まって来れた理由と目的はいったい・・・・・・

 

 だが、思い悩むカレンの疑惑は扇からもたらされた一つの情報によって全て氷解することになる。

 

「カレン、今の通信は何だ!? お前の知ってる奴じゃないんだろ!?」

「え? ということは扇さんたちの方にも届いてたのね!?」

「ああ、たぶん他の奴らにもな。今さっき連絡が届いた、吉中たちももうすぐコッチに来るって――」

 

 そこまで言った時、不快な不協和音が機械の中から響いて鼓膜を叩き、手に持っていたトランシーバーが仲間の誰かからの通信を受信したことを持ち主であるレジスタンスリーダーの青年『扇』に告げる。

 

 ガチャッと音がして、無効と周波数が完全につながる。

 

『お前が、レジスタンスたちのリーダーだな?』

「あ、ああ・・・そうだ。先程は助けてくれたことに感謝してるけど、アンタいったい・・・」

『それに答えるより先に見てもらいたいものがある。そこに止まっている列車があるだろう? その車両に積んである積み荷をプレゼントしたいと思う。受け取ってほしい』

「プレゼントって言われたって・・・・・・いったい何を――」

『“君たちが勝つための道具”だよ。まずは、それを見てほしい。話はそれからで構わない』

「わ、分かった・・・・・・」

 

 よく分からない通信内容だったが、どちらにしろ車両の中身を確認する必要はあったので確認させてみたところ――――絶句させられることになる。

 

 

 

「こ、これは・・・・・・っ!!」

 

 車両のハッチを開けて中をのぞいた瞬間。カレンは思わず声を失ってしまった。

 新品のように磨き上げられたブリタニア軍の新型主力ナイトメアフレーム《サザーラント》が、人数分か少し余るぐらいの数が車両の中には積まれたままの状態で搭載されていたのである。

 

 それだけではない。起動に必要なキーも、認識番号のパスワードも、機体マニュアルの説明書も、武装としてのマシンガンまでもが全部セットで使える状態で、反ブリタニアを掲げるレジスタンスである自分たちの前に曝け出されていたのだ。これで驚かない方がおかしい。

 

「こっちにもあるわ・・・・・・コッチにも!」

「スゲぇ・・・スゲぇよこりゃあ! マジで凄い!凄すぎる!!」

「ああ! これは話だけでも聞いてみる価値あるんじゃ・・・!?」

 

 仲間たちの間からも、降ってわいた幸運に正体不明の人物からの提案に対してノリ気になった声が上がり始める。

 ――ただ、カレンと扇だけは喜びつつも、ただ『良かった良かった』と浮かれる気にはなれずに戸惑いも同時に感じていた。

 

(こんなにブリタニアの新型ナイトメアを手に入れるなんて・・・・・・一体どうやれば・・・)

 

『それらを君たちにプレゼントしよう。代わりとして、私の話を聞いてくれる気になってくれたか?』

「そ、それはいいが・・・・・・君はいったい何者なんだ? こんなの手に入れられるなんて普通じゃ考えられない・・・せめて名前だけでも――」

『それは意味がない。私が今この場で、その質問にどう答えたところで真実か否かを確認する術は、今の君たちには存在しないからだ。違うか?』

「それは・・・・・・確かに、その通りだが…」

『言葉や名前など所詮、どうとでも相手からの信頼を得るため偽れる程度のものだ。大した意味など存在しない。そんなもので私は君たちから信頼を得ようとは思わない。

 私は、私が与えられる最大のものによって、君たちの信頼を買おう』

「それは、一体―――」

 

 扇からの、どこか縋るような響きを持った疑問に対して、相手からの返答は簡をして要を得たものになっていた。

 

 

『勝利だ。それこそ君たちが最も欲して、最も与えられる価値あるものだと私は信じている』

 

 

 その断言に、扇は心の中で深く首肯させられる。

 相手の言うとおりだと思ったからだった。

 自分たちが相手を信じるのは、名前とか言葉とか、そういう誰でも言えて、誰でも持つことができるものを相手も有してるかどうかじゃなく、『信じて従えば勝たせてくれる奴なのか否か?』それこそ自分が正体不明の相手に求めている証明と、信じられる根拠。その全てだったと自分自身でも自覚したからだった。

 

 

『だが、私が何者かという疑問に対して、これだけは今この場で答えられる。

 私は、ブリタニアを憎む者―――。

 ブリタニアの世界を壊し、ブリタニア無き世界を創造する、ブリタニアの敵となる男だッ!!』

 

 

 

 その宣言には、明確すぎる敵意があり、憎しみがあり、憎悪があり、渇望があり、そして―――情熱があった。

 本来なら復讐心のように暗い炎のような情熱を感じさせるはずの、それらの言葉からはマイナスの印象がほとんど感じられず、前進にのみ価値を認めているような強い前向きな意思を宿すものに聞こえたことで、扇は彼を信じてみてもいいと思える気分になってきていた。

 

 どのみち今のままではジリ貧であり、現在のところ自分たちの中に挽回できる当てはない。

 結局は敵に追い込まれて全滅させられてしまう結果に変わりないなら、僅かでも可能性がある方に賭けた方が――

 

 

「・・・・・・わかった。君の提案に乗ろう。君が考えた作戦を聞かせてほしい。俺たちは今から、君の指揮下に入ってブリタニア軍と戦う。――勝つために!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――テロリストたちの抵抗によって、ジェレミアが撃墜されるなど多少の損害はあったものの、それらは全体の中では一部の『事故』でしかなく、戦場では流れ弾や誤射などで思いがけぬ被害を被ることはあるものに過ぎない。

 

 そんな極一部のミスがあっただけで、シンジュクゲットー殲滅作戦は問題なく順調に進められていた。

 

「一般のイレブンに混じって、テロリスト共が多少の抵抗を示しているようですが、我が軍の圧倒的優位に変わりようがあるわけも御座いません。作戦完了は時間の問題でしょう」

「当然だ。そんな些事など報告するまでもない」

 

 貴艦である地上戦艦のブリッジに置かれた玉座に座りながら、クロヴィス皇子はバトレーからの報告に対して尊大でありながら鷹揚でもある態度で応じて、気のない返答を返すのみ。

 

 彼にとって報告の内容は――いや、ブリタニア全軍に属する者たちにとって、それは当たり前すぎる認識であって、今さら聞く必要もなければ特に自慢や誇りに思うほどの価値ある結果という訳では全くない、流れ作業をこなしているだけに等しい日常茶飯事に過ぎぬものだった。

 

 一体どうして、栄光ある神聖ブリタニア帝国軍の大部隊が、たかが占領国の元市民やテロリストを相手に『圧倒的な有利な状況“以外の戦況”』になる可能性があるというのだろう?

 そんなことは有り得ない。不可能だ。

 科学的にも現実的にも、可能性すら得られることは万に一つさえ未来永劫に訪れることはあるまい。

 

 それほどに、『圧倒的な弱者』と『絶対的な強者』との間には、工夫だの努力だのといった凡人の足掻きで埋めることの出来ない差があるものなのだ。

 勝つためには、努力次第で勝てる程度には互いの差が少ない必要性が存在する。たとえば、『尚武の国』と言われている『ジルクニスタン』なら可能性も0ではないだろう。

 だが、たかが戦争に敗れてブリタニアのお情けで今日を生かしてもらっているだけのイレブン如きに『圧勝』以外のどんな結果がブリタニア軍にあると言うのか?

 

「そんな事より、例の件についてだ。・・・どうなっているか?」

「ハッ、分かっております。ご安心ください。ガスの入ったカプセルを――」

「表向きはな」

 

 殊更にクロヴィスは声に出して強調した。

 それは彼の心理が、焦りと不安を強く感じていることを証明するものでもあった。

 

 何としても、『表向きに発表される内容』として処理させねばならぬことだったからである。

 その為に、一度は許可した【特派】のワンオフ機にも戦場まで出張ってくるのを押さえつける方向へと方針転換していたほどに。

 

 軍が本格出動して、『殺処分』が開始される前までなら、ピンポイントで目的地まで直進することが可能で、敵部隊を各個撃破して大事にならぬ間に殲滅させ、目標物の回収を交渉材料として担わせるのにも、意味はあった。

 

 だがそれは、次善の策であり、他者に知られたくない秘密の抹消を目的として大部隊を投入したジェノサイドという道を選んでしまった今となっては正直、他の兄妹に借りなど作りたい状況では全くなってしまった後なのである。

 そこら辺は側近であり、計画の責任者でもあったバトレーも心得ており、主人の意を汲んで適切な対応をする準備をも同時に進めていたため抜かりはない。

 

「はい、勿論です。こういう時のために確保しておいた餌をマスコミ連中には、鼻薬と共に流しておきました。百害あって一理なき真実などを探りたがる物好きは、奴らの中にいません。

 彼女の方は引き続き、捜索と処置のための特別チームを急きょ新たに編成中であります」

「うむ、それでよい。惰弱なイレブン共の処刑はともかく、彼女の方は漏れがないよう留意せよ。――生死に関わらず、な」

「・・・はい」

 

 だが、その対応に対する熱意という話題に関しては、彼ら主従の間には微妙な意識の格差があるようでもあった。

 返答までに、一瞬だけ開いた間がバトレーの本心を物語っていたと言える。

 

 クロヴィスにとって“例の少女”は、既に処分することを確定事項として捉えていた存在となっており、『ことが露呈して廃嫡されるリスクを排除すること』に意識の大部分が裂かれた心理に陥っていることは誰の目にも明らかだった。

 

 一方のバトレーとしては、クロヴィスの決定に反対する意思など微塵もないものの、残念に思う気持ちを捨てきることまでは出来ずにいる。

 『彼女の能力』に関する研究が進めば、その功績は他の追随を許さないほどの偉業と称されるのは確実なのだ。それさえ得られれば今からでもクロヴィス殿下が次期皇帝陛下になるのも決して夢ではなくなるだろう。

 それは彼に仕える側近の身として、個人的な欲望の面でも貢献する価値のある野心だった。

 

 だが、ブリタニア皇族の一員として生まれ、しかも第三皇子という高位の地位を産まれながらに有していたクロヴィスにとって、地位の向上はそれほど切望するものではない。

 無論のこと手に入るなら欲しい。世界を支配する至尊の地位を欲しないのでは、権力者一族に生まれた甲斐がないとさえ思ってもいる。

 

 ただ、最初から自らの上に立つ者が、父である皇帝と長男、次男の男兄弟たちと、猛々しき姉君ぐらいしか存在しなかった彼にとって出世レースはあまり縁のある分野にはなれようもない。

 上級貴族とはいえ、家臣筋の家系でしかなかったバトレーとは、『地位身分』に対する認識が根本的な部分で共有できていないのが、彼らの関係性だったのである。

 

 そうこうしている間にも戦況は推移していく。

 ・・・・・・彼らの知らないところでルールが書き換えられたことに気付けないまま・・・・・・。

 

『ポイントF31に確認した敵機に、ラズロー隊がまもなく接敵します。ゲリラが保有するグラスゴーは位置そのまま、オイゲン機とヴァレリー機が敵後背に到着するまで残り約2分』

「フッ、陽動を見抜かれて手詰まりとなったか。猿知恵を発揮したのが徒となったようだな。

 自分たちの最高戦力であるナイトメアが姿をさらせば、我らが大部隊を向けて脱出が容易になるとでも思ったか? これだからイレヴンの猿共は度し難いのだ・・・・・・」

 

 先程ヘリが発見した、事件の発端となっていたトレーラーから飛び出してきたことが確認されているグラスゴーを撃墜するため、クロヴィスは最小限の兵力しか向かわせなかった。

 戦い続きでエナジーピラーも残り少ないであろうナイトメア一機を倒すため、地区全体を取り囲んでいる包囲網を崩すことによるリスクの方が遙かに大きいと判断したからだ。

 

 この判断は奇をてらったものではなく、軍事学の定石に則った真っ当なものだったが、結果として愚策となる。

 天頂方向から俯瞰した戦場を平面にして表示されている戦術モニターの中で、自軍のナイトメアを表す5つの光点が、ズームアップさせた戦場の一角で呆然と立ち尽くしたままの敵ナイトメアを前後から包囲するため時間差で近づいていく光景を、勝利の笑みと共に眺めやっていたクロヴィスたちの見ている前で―――いきなり味方の反応が消滅する。

 

「・・・なに?」

「オイゲン卿、ヴァレリー卿、共にロスト。パイロットは脱出した模様っ」

「まだ伏兵が隠れていたのか!? 状況は! 戦闘ヘリPⅦ、状況を報告しろ! 何があった!?」

『こ、こちら戦闘支援ヘリFB・・・オイゲン卿とヴァレリー卿は側面からの攻撃を受けて脱出されましたが、2機があっという間に――ゲリラたちの伏兵ではないかと思われま、う、ウワァァッ!?』

「おいっ!? どうした戦闘支援ヘリPⅦ! 何があったのだ!?」

 

 敵ナイトメアの背後に回って前方から攻撃をかける部隊と挟撃しようとしていた2機が奇襲を受け、その様子を視認して把握していたらしい戦闘ヘリも撃墜されたようだったが、それだけなら驚き慌てふためくほどの被害でもない。

 

 ローラージェットによって既存兵器を圧倒的に上回る機動性を発揮するナイトメア・フレームだが、内部構造とサイズの関係から装甲は通常の戦車より薄くならざるを得いという欠点を同時に有してもいる。

 普段は圧倒的な高機動によってデメリットとも呼べぬ些細な構造上の問題点に過ぎないことだが、足を止めての撃ち合いになりやすい建造物内に立てこもった都市ゲリラ相手には思わぬ不覚を取ることも珍しくはないのが現時点でのナイトメアという兵器だった。

 

 かつて日本侵攻の際にも、この弱点を突いて奇跡的な黒星を上げた日本側の将が一人いる。

 戦後に『奇跡』の名で呼ばれるようになった日本軍の小賢しい指揮官に味あわされた屈辱と比べれば、この程度の『不運な事故』など考慮するに値しない。

 

 それより今は、撃墜された2機によって開いた穴を早急に埋めることが最優先だった。

 正面から向かわせている4機の部隊と挟撃させるつもりで背後へと回り込ませている途中だったヴァレリーたちが落とされたことで、敵の後方は一時的にでも安全地帯になってしまい、脱出路が作られてしまった。

 包囲から脱して、再び位置が把握できなくなれば厄介になりかねない唯一の脅威が、あの赤いグラスゴーである以上、早く別の部隊を回して補足できている今の内に仕留めておきたかったのである。

 

 だが、しかし。

 

『こ、こちら戦闘支援ヘリFⅨ! 敵影を確認、DⅡA帯へ移動を開始っ』

「クソッ、増援を回せ! ヴェレリーたちが開いた穴を埋めさせるのだっ。

 先行した4機には敵を足止めさせ、後続部隊がついたら囲んで潰すのだ!」

『イエス・マイロー・・・・・・あっ!? グラウベ卿が脱出されました! 機体はロストっ!!』

「どういう事だ!? いったい何が起こっている!?」

 

 訳の分からない事態の急展開に、ブリタニア側の首脳陣は騒然となる。

 だが少なくとも、コチラの動きが筒抜けになっているとしか思えないような敵の先読みから見て、通信が傍受されていることは間違いはない。間違いないのだが、しかし・・・・・・

 

「通信モードを変更しろ! 通信が傍受されているのは明らかなのだ! このままでは我が軍は、いい的にされてしまう!」

「やっております! 先程から既に四回も! 専用回線に切り替えさせてまで! それなのに何故・・・ッ!?」

「もう一度だ! もう一度やれ! とにかく敵の知らない回線を探し出すのだ!」

 

 ことごとく敵に先読みされたあげく、自分から敵にやられてやるため突っ込んでいっているような自滅を続けている自軍のナイトメア・パイロットたち。

 無能な者がブリタニア軍の騎士になれる訳もないはずだというのに、一時の混乱というリスクを承知で回線を切り替えさせてまでの対応も、まるで効果無し。

 

 ここまでの条件はそろって、クロヴィスの脳裏にも危険信号が灯り始める。

 

 

 ―――まさか、我が軍の機体が敵に奪取されているのではないか?・・・・・・という危険信号が。

 

 

 もしそうだとしたら、味方機全てに届けられる軍の専用回線の変更命令もほとんど意味をなさないのは当然であり、事態の説明はつくことにはなる。

 だが思いついた推測を、クロヴィスは心の中で却下した。ありえないと。

 

(もし機体がテロリスト共に奪われているとすれば、私の元へ報告がもたらされているはず・・・・・・だが、そんな報告は届いていない。

 仮に処罰を恐れた責任者が報告義務を怠っていたとしても、ゲリラが我が軍の陣中にまで忍び込んで気付かれることなく機体を盗み出すなど不可能。いずこかのセクションから必ずや報告は上がってくるはずだが、それは無い。

 まさか、全てのセクションの責任者たちが示し合わせた訳でもなく、自主的に口を閉ざし合うなどという荒唐無稽なことが現実で起きうる訳がない・・・・・・っ)

 

 そう考え、現実的な整合性がとれない妄想として切って捨て、現在の状況を可能にするための方法論を脳内で再びシミュレートし始めるが、どう足掻いても理論を完成させることができない。確実にどこかで矛盾に直面する。

 現実に今の戦況を可能にする方法が思いつかない。だが実際に目の前の戦場で、それは起きてしまっている現実でもある。

 

 それを行った責任者自身が、瞳の中に赤い光を灯していた光景は、彼の与り知ることができた情報の中には含まれていない。

 

『ラズロー隊も全滅! 敵の火力を支えきれなくなりつつあります!』

「なに!? たかが携行火器による実弾の威力を弾き返せんのかっ!」

『将軍っ。ゲリラ共は、我が軍が知らない新型を隠し持っていたのではありませんか!? このような戦い方、私は初めて見ま――うわぁぁっ!?』

「おい、どうした!? おい! くそっ、戦闘支援ヘリFⅨもやられたか・・・ッ」

「なんたる失態か! これはッ!!」

 

 目の前で繰り広げられる醜態ぶりを見るに見かねて、クロヴィスは長靴の音高く立ち上がると、内心の混乱を押さえて表に出さず、戦術モニターの前へと堂々とした足取りで進み出る。

 

「使えん部下たちだ! たかがテロリスト如き、物量で押し潰すこともできんとはな」

「閣下・・・申し訳ございませんっ、すぐにでも対処を――」

「もういい! このままでは拉致があかん、私が直接指揮を執る。突撃してくる敵部隊を迎撃するためクインシーの部隊も上げるのだ」

「ですが閣下! それでは包囲網が・・・」

 

 内心に焦りを抱きながらも、クロヴィスは彼なりに合理的な分析によって現在の状況打開策を見いだすことには成功していた。

 未だに敵が自軍の動きを把握できている理由は分からないままだが、敵部隊がコチラの本陣へ向かって防備を突破しながら直進してきていることはロストしたばかりの味方機がいた位置から見て間違いはない。

 

 ならば、情報が漏れていようといまいと関係ないほどの物量でもって押し潰してしまえば済む話なのだ。

 下手に少数の部隊同士を連携させて倒そうとする、戦術レベルでの競い合いに終始するから情報の有無による勝敗の分け方に従わされる羽目になる。

 いると判明している場所に全方向から、投入できる限りの最大戦力を持って完全包囲下に置き、以て殲滅する。

 

「王道に奇策無く、大兵力による完全包囲と殲滅こそが戦略の真骨頂である!

 抜けた穴には本営の守備部隊を回して、一般イレブン共の逃避を阻止させればよい。

 とにかく、敵は今この場に来ていることは確実なのだッ! 奴らさえ位置を補足している今の内に倒してしまえば、他の者共など烏合の衆にすぎん・・・・・・!」

 

 やや引きつった笑みではあったものの、クロヴィスは未だに勝利の確信を崩すまでには至っていない自分の戦略に自身を有していた。

 戦術モニターに表示されているデータから見ても、図示されている平面上のマップ情報と併せて俯瞰した視点で眺めたとしても。

 

 どう考えたところで、もはや勝負は見えていた。

 直進してくるテロリストたちは確かに速いが、自分がいる本陣に切り込むまでには、まだ距離と間がある。

 到達するより先に、自分の大部隊に退路を閉ざされ、右も左も自軍の味方ばかりとなった状況では、今となっては脱出も不可能。

 ならば一気に揉み潰させるため、吝嗇はかえって損害を大きくしてしまい大魚を逃がす。

 

 持ちうる限りの大兵力を用いて、動員できる限りの最大兵数で完全包囲を完成させ、以て一人残らず殲滅させる。

 ここまでの事をやったのだ。どのみち生き延びる道はなく、口封じに殺される者たちの一人でしかない事は最初から確定してもいる相手。・・・・・・手加減は無用だった。

 

「よし、デズルたちも向かわせろッ。囲いつつ戦力を集中! テロリストの戦力は中心点にいる、遠慮はいらん。一機残らず、叩き潰せッ!!!」

 

 先程からの不安から解放され、勝利は確実となった戦況に嘘偽りなき満面の笑顔を浮かべて指示を出し続けた彼であったが・・・・・・その確信は最悪に近い形で裏切られることになる。

 

 

 

 

「なに!? 敵がいないだと!?」

『は、はい。どうやら地下に広がる旧地下鉄の線路を使って脱出したらしく、我々が到着した時には既に猫の子一匹いない状況でありまして・・・・・・』

「・・・・・・しまった・・・」

 

 思わずクロヴィスは呟いて、自分が部下の報告を聞くまで失念していた地理情報を遅まきながら頭の中に思い浮かべて歯嚙みする。

 元々この辺り一帯には旧日本時代に最大規模の地下鉄機関が発達していたことは、エリア11総督の義務として把握だけはして覚えてもいた。

 

 ・・・・・・だが、ゲリラたちがそれを使って逃げるという予測を、彼はまるで想定していなかった。

 天頂方向から見た俯瞰視点で描かれ、そうするよう操作しない限りは地下の情報が一緒に表示されることはなく造られているモニターばかり見ながら指揮を執っていたが故での失態だった。

 

「――ならば貴公は、何をしておる! 逃げた敵を追って仕留めずして何が帝国騎士か! どうやら敵もただのゲリラではなさそうだが、貴官には十分な戦力を与えておいたはずだぞ!」

『ご安心ください、閣下。既に手の者を追跡に向かわせ――うっ!? なんだ!』

「どうしたのだ!? おいッ! 何があったのか報告せよ!」

 

 通信を繋いでいた向こう側から、現場の総指揮を任せていたデズルの声が急に乱れ、背後からは何かが崩れる音や爆発音が相次いで聞こえ、その中に混じって多数の悲鳴も響いてくるのを聞かされ、モニターに映し出される光点が急速に減っていくのを目にした時。

 

「な、何なのだ・・・この敵は本当にイレブンでしかないのか・・・・・・?」

 

 クロヴィスの心に正体不明の敵に対する恐怖心が初めて芽生え、その得体の知れない力の脅威が彼の心を大きく揺さぶり出すのを実感せざるを得なくなる。

 もしこの時、モニターに映し出されていた敵ゲリラ共の突撃を逆用して囲い込むよう命じていた部隊の反応すべてが消滅していたら、クロヴィスは手段を選んでいる余裕すら失っていたかもしれなかったが・・・・・・消失する光点はの数は途中で止まり、見れば所々に散らばるように反応がロストしていない機体がちらほらと散見されている。

 

『た、隊長が負傷されましたので代わってご報告いたします。地下に逃げたゲリラを追跡に向かわせた者たちが全滅された模様です。

 敵はどうやら地下の天井を崩すことで追っ手を倒し、かつ自分たちの追跡も不可能にする手に出たとのことでして・・・・・・崩落に巻き込まれ、近くに立っていた機体は多くが大破もしくは中破しましたが、半数近くは健在なようです・・・・・・』

 

 その報告を受けてクロヴィスは思わず安堵の溜息をこぼす。

 ・・・・・・おそらく敵は、この崩落によって迎撃に向かわせた部隊の全てを壊滅させる腹づもりだったのだろうが、地形データの不足か誤りがあったのか、完全には目的を達することが出来なかったようだ。

 

 数は減らされたが・・・・・・まだやれる! 

 これだけの部隊を動かしながら、ゲリラ如きに敗れて他者に縋ったなどと、そんな恥をさらす訳にはいかなかった。

 

 クロヴィス・リ・ブリタニアが、たかがテロリスト如きに負けるはずがないのだから!!

 

 

『お忙しそうなところに、コンニチハ♪ ちょーと提案したいことがあるんですが、よろしいでしょうかネ~? クロヴィス殿下』

 

 ――そんな彼の決意に水を差すようにして、割り込むように通信がもたらされたのは、そんな戦況と心情にクロヴィスが立たされた直後のことであった。

 

 戦闘中であるにも関わらず間延びした声と、味方が多くイレブン如きの手にかかって死んでいるというのにニヤけ笑いを浮かべたまま悪意なく微笑んでいられる、ブリタニア人にあるまじき祖国愛の無さ。

 

 この状況下で、こんな反応を返してくるブリタニア人など一人しかいない。いるはずがない。

 ――またしても、プリン伯爵!

 兄上に失態を報告されかねない、第二皇子のヒモ付きの手駒!

 

「なんだ!? 今は作戦行動中だっ。技術屋ごときが、兄上の威光を笠に着るにも限度というものがあるぞ! 分際をわきまえよ!!」

『いやいや、この戦況だからこそ無礼を承知で割り込んできたモノでして。そろそろ特派との共同兵器の性能テストって名目で投入されてみては如何かと思われまして。

 きっと今の殿下にとって、役立つ存在になると思われますヨ~? 性能はボクが保証させて頂きますし』

「・・・・・・・・・む」

 

 その相手からの提案に、クロヴィスは一瞬考え込むような素振りを見せるが、結局は当初の決定を覆すほどの決意には至らなかったようである。

 彼にとって、この作戦は元々『極秘の計画が露呈する失態によって廃嫡されるのを避ける』というリスク回避を目的として強行させたものであって、敵は殲滅したが『少数のゲリラ如きに大敗した失態』を理由に責任問題を問われて左遷させられるなどという事態に陥ったのでは意味がない。

 

 戦力が残っている以上は、自分の領土内での問題として保有する兵力のみで解決すべきであり、本国からの増援の助けを借りてテロリストを処分したなどと他の兄妹たちや取り巻きの貴族共に知られたい醜聞ではなかったのである。

 

 

 

『――失礼した。実戦とゲームとの違いで少々気が立っていたようだ。

 だが、これは我が領土である《エリア11》内部において解決すべき問題であり、兄上直属の技術部隊の方々には過剰な干渉は控えてもらいたい。

 もし事態が私の指揮する直属部隊にも処理能力を超えるときには、私の方から当方へ協力を依頼するつもりでいる。その時まで戦争ゲームを見物しながら、特等席でごゆるりと待っていて欲しい。では・・・・・・』

 

 そう告げて、余裕を取り繕ったクロヴィスの映像が音声と共に通信画面から消えるのを見届けて、ロイド博士は心と体で同時に吐息する。

 傲岸不遜な上司のらしくない反応を気遣ってか、背後から女性技官のセシルが声をかけてきてくれる。

 

「あの様子では、ダメなようですわね・・・・・・」

「うん。戦術とか戦略はボクの専門外だから確かなことまでは分かりようがないけど、閣下のあの反応を見る限りでは、多分そういうことなんじゃないかな?」

「・・・・・・敵があえて、被らせる被害を減らことで、こちらの対応をコントロールしている・・・」

 

 畏怖と共にセシルが呟いた言葉こそ、日本側のゲリラである扇たちレジスタンス・グループ――ブリタニア帝国が定義するところのテロリストを率いて作戦を指揮する身となっていたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがおこなっている戦術を正しく論評した評価だった。

 

 『第一に騒ぎを大きくすること』そして『大きくした騒ぎを制御すること』・・・・・・この二つを戦術レベルの指揮として完全にやってのけた結果が、今のクロヴィスからの返答に現れていた。

 

 発端となったのが、秘密が漏れるのを恐れて開始させた証拠隠滅のための虐殺という、権力争いの謀略じみた戦闘なのが今回の戦闘であり、クロヴィスとしては自分の手駒以外の戦力に介入されて、『塞ぎたい口』を増やしたくはない。

 

 その事情を知るルルーシュとしては、騒ぎを拡大し過ぎれば帝国軍の対応が大規模にならざるを得ないことは把握できる、秘密保持のため殺されかかった立場であり、当初にクロヴィスが連れてきた兵力だけでの対応に固執してくれた方が都合が良かったのである。

 

 無論、部下たちが倒され続ければクロヴィスも、やがて形振り構わず助けの手を求めるようになるのは避けられないが、その時が遅ければ遅いほど味方の有利に作用するのが『ブリタニアという侵略国家からテロリスト扱いされた占領国のゲリラたち』という立場の違いというものでもある。

 

 このさい、敵の不幸は味方の幸福につながる。

 たまたまエリア11に訪れていただけの部外者でしかないロイド伯爵たちも、ブリタニアに属する一員である以上は、クロヴィスの不幸を共有させられるのは仕方がないと諦めてもらう他ない立場だった。

 

「と言っても、ボクたちはあくまで技術支援部隊だからねぇー・・・・・・殿下相手じゃゴリ押しするのも限界あるし。

 ――という訳だから、もう少し待っててくれるかな~? どーせ対応できなくなって泣きついてくるだろうから、それまでの辛抱ってことで☆」

「・・・・・・分かりました」

 

 

 生真面目な声でロイドが振り返りながら呼びかけた相手は、返事を返してくる。

 与えられたばかりの機体と同じく、純白のパイロットスーツに身を包んだ、茶褐色の髪と黄土色の肌をした、ブリタニア人ではあり得ない容姿を持つ少年。

 

 ブリタニア人しかなることを許されていない、ナイトメア・パイロットとしての資格を与えられたばかりのアジア人。

 辛くも命を取り留めたとは言え、負傷した身体は癒えておらず、ただ防護スーツ内での跳弾を防いだだけの負傷兵。

 

「君にとって、天国に行きそびれたのは残念だったかは別として、残念な出撃待ち待機は続くみたいだよ?

 まっ、それはそれでキミにとっては幸運につながる、他人の残念な不幸かもしれないけどネェ~?」

「・・・・・・・・・」

「オメデトウ! 世界でただ一つだけ君を待っているナイトメアのデビュー戦が、予想よりもっともっと派手になってくれそうだね☆

 これは変わるね、確実に。キミも、キミの世界も。

 さっきまで0に近かった可能性が、殿下の判断で1パーセント以上は上昇確実に! これを成し遂げたとき、誰もキミの功績を認めない訳にはいかなくなる!――かもしれないネェ~?」

「ロイドさん・・・・・・」

「・・・・・・大丈夫です。わかって・・・・・・いますから」

 

 気遣いというものを知らぬかのような上司のデリカシーのない言葉の羅列に、セシルが冷たい視線と声と言葉を短く投げかけ、一瞬だけ青ざめた表情を相手に浮かべさせるのを視界の隅に収めながら―――彼女の気遣いに感謝しながら、彼は言葉を遮っていた。

 

 分かっていたことだった。自分がやろうとしていることは、そういうことだと。

 自分が選んだ道は、そういうモノだと他の誰より自分が一番よく分かっていた事でしかない。

 

 大勢の他人を不幸にするため協力することによってこそ、自分の叶えたい目標は達成することが可能になる。

 決して許されることではないだろう。自分がやろうとしていることで傷つく人達も大勢いるはず。

 

 だがもう、自分は迷わない。

 あれだけの人に、『多くの痛みを与える切っ掛け』を作ってしまった自分だ。

 せめて、その犠牲の先に、より多くの人が幸せに暮らせる社会を築くために不幸をまき散らさなければ嘘ではないか・・・・・・

 

 

 

「自分は、名誉ブリタニア人として初めての、ブリタニア騎士になります。なって見せる。

 この《ランスロット》で、必ずや騎士に――」

 

 

 

 そう、騎士になるのだ。

 自分の力で戦いを終わらせ、その功績によって騎士爵を授かる。

 そしていずれは、騎士たち全ての頂点―――ナイト・オブ・ワンに!!!

 

 

 それが占領国エリア11の民として、名誉ブリタニア人として、ブリタニア軍人となることで祖国と人々を解放する道を選んだ少年。

 

 枢木スザクの『野心』であり。

 手にしたいと欲してやまぬ『自分の望む世界』の有り様。

 

 今の戦乱渦巻く『エリア11となっている日本』という世界を壊し、『ブリタニアから認められる形での独立』という結果を勝ち得た世界を創造するという野望を抱いた、若き自覚なき革命家の戦いは、無名の兵士だった今日この日の戦いから始まりを迎える。

 

 それは、二人の英雄の戦いが、二人の親友の戦いでもある悲劇の始まった日でもあった・・・・・・。

 

 

 

つづく

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