たぶん一番新しい作品だからなのでしょうね……ネタ多いですし。
古参のもちゃんと更新急ぐよう努力します。
魔術師とは、存在そのものが悪であると言われている者たち。
己の力を高めることのみに関心を持ち、他人の命にも財産にも価値を見出すことはなく、必要とあらば奪い取ることを由とする邪悪なる魔術に手を染めて悪へと墜ちた者たちの総称・・・・・・。
だが、そんな魔術師たちでさえ服従し、自ら進んで命に従う者共が存在している。
《魔王》
――その称号で呼ばれている13人の魔術師たち。
絶大なる魔力を有して、下位にある魔術師たちを下僕として従える、魔術の極致に達した最強の魔術師たち。
彼らの報復は単純な破滅に留まることなく、その者が関わった人、モノ、名前が残る全てのものを消し去り、刃向かった者が存在していたこと、その全てを『無かった事にしてしまう』・・・・・・それほどに圧倒的すぎる絶対なる最強の13人。
先日、その13人の1人が死んだ。
魔王たちの最年長者《魔王マルコシアス》――その彼が残した遺産を奪い合うため、多くの魔術師たちが亡きマルコシアスの領地であった街の一角で行われる・・・・・・。
「ウッフ~ン♡ そこのハンサムなお兄さんたち、ちょっと寄ってかなーい?
今がダメなら夜でもOKよ☆ 私だけの夜の魔王様になってアッハ~ン♪♪♪」
「おおぅ! いい胸してんじゃねぇか姉ちゃん♪ 後で寄らしてもらうから、また夜になぁ~☆」
「・・・・・・」
いかがわしいお店だけど朝は普通よウッフン♡な店舗の前で客引きをしていた、化粧は濃いが胸は大きい女性たちに声をかけられ、笑顔で手を振り替えしている古くからの知人の醜態に、思わず魔術師ジャガンは溜息を吐かずにはいられなくなっていた。
ここは亡き魔王マルコシアスの領地である街《キュアノエイデス》の一角にある、歓楽街にほど近い区画。
友人ではないが比較的親しい知り合いみたいなものである魔術師のバルバロスに誘われて、魔王の遺産が売りに出されるというオークションに参加するため彼らは遙々やってきたばかりであった。
「まったく・・・わざわざ我に話を伝えに来た理由は何かと思っていたが・・・・・・まさか《夜の魔王になれる遊び金》をたかりに来ていただけだったとはな。男として嘆かわしい、失望したぞ。
我が友人ではなく仲間でもないが、遺憾ながら知り合いではある魔術師バルバロスよ」
「違うよ!? 俺そんな理由でお前に話し持って行ってねぇって! 違うって! ただオークションに出品される品を買うため金貸してくれって頼みにいっただけだって!
あと、夜にお姉ちゃんと豪遊するための金も貸してくれ! 出世払いで!!」
「貸さぬわ愚か者。まったく見苦しい・・・・・・。
魔術師ならば、女の1人や2人や300人ぐらいハーレムに入れて囲える器量を持たずして何とする? つくづく同じ男として恥ずかしい奴よ」
「・・・・・・いや、お前にだけは女のことで説教されたくねぇんだけど俺。いやマジで本当に・・・」
相変わらずナチュラル外道で、300人ぐらいの愛人は浮気にならないから、ハーレム形成させちゃっても一切まったく問題なしと信じて疑わない、バルバロスにとっても数少ない友人じゃなくても知人みたいな奴の女癖の悪過ぎさには、流石の彼でさえ鼻白む。
そんな相手からの白い瞳と、見下しきったような視線を嫉妬と思って意に介せず、ジャガンは特に意図あってのことではなく周囲に目をやり、オークション会場へと続く道の左右に並ぶ店舗を眺めやっていた。
華やかな衣服を纏った背中に羽を持つ美女がおり、遠くの地から取り寄せられた果実を扱う店があり、色とりどりの軒並みに宝石を並べる露天商の男がいて、服を纏った二足歩行の獣人が客として人間の商人と交渉をしている。
・・・・・・一方で、そんな彼らが熱心に己の商売に精を出している路地の向かい側に広がる薄暗い空間の下には、首輪を付けられ鎖をはめられた様々な種族の幼子たちが、ボロを纏って暗い表情でそれらの光景を眺めている姿が視界に映っていた。
いずこの場所からか連れられてきて、売り飛ばされる商品となった奴隷たちだ。
親に売り飛ばされたのか、無理やり浚われたのか、あるいは国ごと滅ぼされて全てを奪われた者たちなのか・・・・・・それは分からない。
奴隷たち個人個人で奴隷となった理由は異なり、哀れな被害者もいれば、自業自得の者もいるのだろう。
そんな彼らの姿はジャガンにとって、己の過去を彷彿とさせるものがあり・・・・・・
「まっ、別に問題は無いことか。特に綺麗所もおらぬようだし、成長した後で生きておれば考えるとしよう」
アッサリ割り切って、さっさとオークション会場へ足を急ぐことにする。
確かに、力づくで全てを奪われ、他者に道具のように扱われる身分に堕とされるのは哀れなことではあるが、一方で別に珍しいことでもない。
この街だけに限って起きている事でもなければ、人間社会だけに起きていることですらない平々凡々な普通の日常風景の一つでしかないシロモノ。
動物たちなど、弱ければ命ごと食われて殺されてるし、幼くて弱い赤ん坊や雛が狙われやすいし、食い終わった残り滓は無価値として打ち捨てられる。情け容赦なき弱肉強食の動物ワールドが世界中の至るところで存在しまくってるのが、この世界である。
挙げ句の果てに、キョウカイが教えている『カミ総帥が支配するテン国』とやらいう国家では、総帥が定めた規則を破っただけで未来永劫に鎖に繋がれ拷問を受けさせられ続け、総帥に気に入られた者は永遠の豊かな生活を保障してもらえる、差別社会と階級支配が制度化されていると聞く・・・・・・。
そんな国家を尊いものとして、キョウカイは人々に教え広め、人々はその地に赴くことに憧れ、カミ総帥に気に入られることで特権階級に成り上がろうと日々努力し続けているものが多いのだと―――
世界とは、そういう風に出来ているものだった。少なくともジャガンはそう解釈している。
だから奴隷たちのことも哀れだとは思いはするが、思うだけで特に何もやろうとは思わず、無視したところで罪悪感はまったく感じる理由がない。美人だったら別だけれども。
・・・・・・ホントに屑な男で魔術師なヤツだった・・・。
あげく、本人の中では優しいつもりでいるんだから本気で性質が悪い。生まれながらの悪だった者にとっては、本気でその程度の事柄であり、一瞬後には大抵ぜんぶ忘れる。そんな感覚。
「とりあえず、そのような細かいことは良いとしてだ。・・・・・・この町、妙に警戒が厳しくはないか?
領主である魔王が死んだばかりとは言え、街の住人までもが緊張した顔をしている者が多いのは腑に落ちんが・・・」
「んん? ああ、そういやなんかピリピリしてんな。ひょっとして、アレの影響でも受けてんじゃねーの」
「・・・?? アレ、とは?」
曖昧な表現を聞かされ、ジャガンは首をかしげながら説明を求める。
普段から領地である居城に引きこもりがちで、魔王の遺産のオークションが開かれる話もバルバロスから聞かされるまで知らなかったような人物のため、情報には結構うとくて最新情報には知らない部分ことが多いヤツなのだ。
その点、バルバロスは逆に情報通だ。
知り合いや友達は少なく、情報を得られる伝手とかコネはほとんど持ってないような奴ではあったが、得意の《転移魔法》でどこにでも行けて、いつでも何でも見ようと思えば結界張られてたって見ることが出来るヤツなので、色々と知ろうと思えば知ることが出来る奴であり、教えさせることが可能に出来るヤツなのである。魔術師にとって奪うことは悪じゃないから合法OK。
「あ~、なんかどっかの馬鹿が、若い女ばっかり集めて魔術の実験やろうとしたらしいとかでな。なんかを召喚する生贄にでも使う気なんじゃねぇかって、まだ警戒続けてんだと」
「ふむ? キョウカイが嫌っている生贄に使うつもりで、若い女ばかりを・・・・・・か。
――で? その浚われた女たちは美人だったのか? 非美人だったのか? どっちだ?」
「・・・お前の場合は気にするとこ、やっぱそこだよな、絶対に・・・・・・。
んなもん俺は知らねぇし、分からねぇけど、生贄に使うつもりだったてんなら、顔やら胸のデカさより産まれた日とかで限定して選ぶからな。半々ぐらいなんじゃねぇーの?
誕生日が生贄に最適な若い女で、しかも美人って、そこまでコテコテの物語じみてる女なんて多くいる訳ねぇだろうしさ」
「ふむ・・・・・・」
話を聞いたジャガンは、顎に手を当てて深く考え込む。
もし・・・もしもだ。浚われた若い女性たちが皆、美人ばかりで生贄に利用され、ただ殺され無駄に命を散らされていたら・・・・・・そして、それをやった魔術師が男だったなら、余りにも哀れとしか言い様がない。ブスばかりだったら、どーでもいいけれども。
所詮そんな感じの基準が、男が女を浚ったヤツに抱く義憤という感情論だった・・・。
顔は重要ではないと言うヤツほど、見た目が好みの異性としか結ばれたがらないのが良い証拠。男でも女でも条件がいい方が悪いより良いのは当たり前のことなのだから。
「ちなみにだがなぁ、ジャガン。そんな性格のお前だから当然、その事件の犯人の一人として疑われてるみてぇだぜ? まぁお前の性癖知ってさえいりゃ当然だけどな、ヒャッハッハ!」
「フン。下々の者たちの下らぬ噂話だな。いざという時、生贄がなければ使えんような魔術を使うためなどに我が若い娘を浚うはずもなかろうに。
欲する時には、浚うなどと下劣なことはせず、正々堂々真っ向から奪いにいき、邪魔する者は気に入った娘の身内ということで半殺しで済ませてやる慈悲を与えてやるだけのこと・・・・・・それだけで済む些末時を、わざわざ隠れてコソコソ誘拐するはずはあるまい馬鹿馬鹿しい」
「・・・・・・お前の場合はホントにそうだから洒落にならねぇけどな・・・・・・つくづくお前に女のことでだけは言われたくねぇわ俺、本当に・・・」
思い切りゲンナリした顔をされてしまいながら、ジャガンたちはオークションが開催されている会場まで到着して、そこで―――――――運命と出会った。
一目惚れだった。初恋だった。
初めて見た瞬間に、今まで愛して関係を持ってきた女たちの大半を捨て去って、300人ぐらいしか愛人に残さなくて良いと思えるほどの強すぎる愛情を感じずにはいられなかった。
それ程までに彼女は――――美しすぎる少女だったのだから・・・・・・
『さぁ、次はいよいよ本日最後にして最大の商品でございます!
本来かの魔王マルコシアス様に納品される予定だったものの、逝去によって宙に浮いてしまった商品を取り寄せさせた特例の品・・・・・・。
《北の聖地》にて捕虜にされた伝説の種族、エルフでござ―――』
「キュリテオス金貨百万!!」
『――います。それでは一万から始めて参りま・・・・・・って、ウェェェッ!? ちょ、早っ!
まだ言い終わってすらいな・・・・・・じゃなくって、お買い上げ有り難うございました―――ッ!!』
・・・・・・こうしてメッチャ食い気味に買われて今に至っているのが、純白のウェディングドレスを纏ったエルフ族の美少女と、男のツンデレでナチュラル外道で初恋こじらせちまった魔術師ジャガンによる恋の始まりであり、運命の出会いでもあった。
この流れを『運命』と呼ぶのには色々と不満がある人が多そうだったけど、それでも運命は運命である。嘘なんか吐いていない。
だって、こんな男と恋愛できる美少女との出会いなんて運命の相手以外にありえないし、生理的に絶対無理な女性が大半だからね、絶対に。
「・・・申し遅れましたが、わたしの名前はネフェリアと申します」
ちょこんと玉座の前に女の子座りで腰掛けながら、銀髪のエルフ美少女は自分の名前を、そう名乗った。
ジャガンは相手の名を聞いた瞬間、素直な気持ちで『見た目に違わず綺麗な名だ・・・』と思った。
やはり美し過ぎる容姿を持って生まれた者には、その美貌に相応しい名が与えられる宿命にあるのだな・・・と、勝手にそこまで拡大解釈して美化しまくって。ジャガンは相手の名前を生涯忘れまいと心と記憶に深く刻み込む。
・・・・・・もっとも、ここまでベタ惚れしている相手の名前なので、たとえ変な名前だったとしても都合良く解釈して、いい名前だという事にしてしまってたのは確実なのだけれども。
好きになった相手に抱く感情なんて、そんなもんである。好きなものは全部肯定的に見たくなるから見るのが『好き』という感情というもの。理論はない。有っても無い。
「うむ、ネフェリアか・・・・・・悪くは無い名だ。して、ネフェリアなんというのだ? 姓は?」
「姓はありません。呼びにくければ、ネフィと呼んでいただければ・・・・・・」
「!? 良いのか!? 我も、あだ名で呼んでいいのだな!?」
「・・・・・・?? はい、構いませんが・・・?」
いいも何も、大金払って買われた身であり、鎖付きの首輪で繋がれた奴隷でしかない今の立場では、ネフィでもネフェリアでもなく『犬』でも『虫ケラ』でも『奴隷2号』でも相手が呼びたいように付けた名前に合わせることしか許されないはずなのだが・・・・・・
(・・・・・・何故この人は、私の名前で呼ぶことに意外そうな反応をするのでしょう・・・?
凄く冷たい態度で接してきて、私のことなど家来としか思っていないことは確実な人なのに何故・・・)
ネフィは心の中で相手の反応と、相手自身への評価と一緒に、そう思っていたけど、奴隷なので無礼な言葉は口にはしなかった。
・・・・・・今までの対応されれば、誰だってそう思うことしかやったこと一回も無いヤツなので当然の評価であり感想だったんだけど・・・・・・ここら辺が恋愛関係というヤツの厄介なところではあり。
(さ、早速あだ名で呼んでいいなどとは・・・・・・! これは少なからず我に好意を抱いているという証ッ。既に彼女――いや、ネフィの心は我を求めるようになっていると解釈して良いのだな! そうであろう!?
そうでなけば、出会って間もない男に、女がニックネームで呼ぶことなど許すはずが無いからな!うむ!)
と、如何にも初恋した男らしい拡大解釈を継続中。
二人の間に広がる温度差が凄まじく格差社会を築きまくってることに、お互いまったく気付く余地がございません。
ちょっとした対応で、すぐ勘違いして、自分への好意があるからじゃねぇかと思いたがるのが、思春期男子と初恋男子のダメな特徴の一つであり、それは魔術師であっても普通の人間であっても変わることが出来ない部分のようでもあった。
これで勘違い解釈に基づいて、相手が自分に好意あるものだとばかり思い込んだ対応してきた時には、通常社会ではセクハラ認定される世の中が、この世界でも未来にはあり得るのかもしれなかったけど生憎と今の世界にそーいうのはない。
付け加えると、この男に関していえば、そーいう心配は多分必要も無い。
何故ならば―――
「い、いや・・・・・・ゴッホン。――エルフでは姓を持たぬというのは、一般的な文化であったのか?
傲慢で愚かで魔力の高さと美貌しか取り柄のない野蛮な種族という伝説であるからな・・・・・・そのような下等民族であれば仕方の無いことと我は気にしておらぬのだが・・・」
「いいえ。私は・・・・・・“呪い子”でしたから・・・」
「ノロイゴ・・・・・・?」
聞き慣れない単語を答えられ、ジャガンは僅かに首をひねって考え出し、やがて答えに行き着き納得する。
例によって例の如く、『自分から見たネフィのイメージ基準で正しい答え』であったが、本人の中では正しき正解で間違いなかった。本人の中だけでしか考えてない質問への答えは、いつも自分の出した答えだけがファイナル正解になるに決まってる代物である。
――つまり彼女は、『美しすぎる美貌に嫉妬されて呪われた姫君』なのであろう。
多分エルフ国の野蛮なエルフ女王みたいな奴がいて、この世で一番美しいのは自分だと信じてたところに、自分より遙かに美しくて純粋無垢な心を持った娘が産まれてしまって嫉妬に狂い、娘に酷いことし続けてきたから彼女はこんなにも絶望して無気力になってしまったのだろう。
なんという酷い母親だろうか! こんなにも美しい少女に嫉妬してヒドい目に遭わせるなど人としてもエルフとしても決して許せぬ悪行の極み!
そいつが治める野蛮なエルフ国はどこにあるのか!? 今すぐ行って国ごと滅ぼし、女王に自らの犯した悪行に相応しい惨たらしい死に方をさせ、死体から流れ出る血でネフィと一緒に乾杯して喜ばせてやらなければ気が済まんほどに!!
その結果として、ネフィからの好感度が上がれば更に良し!!
・・・・・・なんの証拠ない妄想だけで、ここまでの復讐計画を考えて実行したくなれる男というのは、初恋男子としても流石に珍しい。
独りよがりで突っ走りすぎている上に、変なところでファンタジー入りまくってる男だから、あんまし現実的で性的な危険性とかは警戒しなくても多分大丈夫そうな男であり、恋愛に関して初恋ボケの男でもある。
挙げ句の果てに、彼には治すことの出来ない厄介な病気を患ってもいるため・・・・・・
「あの・・・・・・何故そのようなことを聞かれるのですか? ご主人様にとって興味の引かれる話題とは思えないのですが・・・」
「い、いや・・・それはだな・・・うむ、えぇと――」
「?? ――ああ、そういう事でしたか。気付くのが遅れてしまい申し訳ございません。それでしたら今すぐにでも証明を・・・」
――君のことなら何でも知りたいから教えて欲しい。名前でも名字でも、今まで過ごしてきた生活の中の出来事でも。
好きな食べ物は何ですか?とか。嫌いな食べ物は?とか。デートで行ってみたい場所とかありますか?とか。今度の日曜時はご予定あったりしますでしょうか?とか。
そういう色々なことを、知りたい聞きたい、聞きたいけど聞けない恥ずかしい。
それに、変な誤解されて嫌われてしまったら立ち直れないかも知れないし―――
そんな理由で口籠もったまま、テキトーな言い訳さがすため頭の中いっぱいになって集中する生まれながらに悪の魔術師。
・・・・・・生まれながらに悪の癖して、乙女な性格までしてるヤツだった。
本当にコイツはいったい、誰の得になる存在なんだろう・・・? 要らん要素ばかりしか持ってないようなヤツな気しかしない。
しかも結局、コイツの対応が行き着くところはコレになる。
コレしかないし、コレにしか行けない。
「ご安心ください。その過去のせいで、実験材料としての価値は損なわれていないと思われます。
なにしろ私は処女で―――」
バンッ!!!
その瞬間、手の平を叩きつけるように音を立てて立ち上がり、そして一喝。
「“そのようなモノ”などどうでもよい!! まして貴様の下らぬ生まれ故郷でなにがあったかなど、我には気にする価値などまるで無き下らぬ些事!!
そのような些末事など早く忘れ、明日より貴様が我に尽くすにはどうするべきかだけを考えればそれで良いのだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・そうですか。分かりました」
「そ、それにアレだ。お前は今日より我の物となったのだから、呪いがどうとか過去のことなどどうでも―――わ、我の物とはそういう意味では無いからな!? 所有物という意味でしか無い! 勘違いして自惚れるでないぞ! 分かったな!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ。心の底からよく理解しました。ご無礼をお許しください、ご主人サマ・・・」
またしても癒やせぬ不治の病ツンデレを発症して、オマケに乙女まで追加で発揮させ、相乗効果でもっと酷い返答にしかなってない言葉を返してしまってる自覚のないダメ魔術師ジャガン。
自分の処女を“そんなモノ”扱いされた美少女から、ゴミを見る視線から更にランクダウンして屑を見下す視線になってきていることにさえ気付けない、生まれついての悪で、生まれ持ったツンデレ属性で、オマケに乙女なイケメン男子という何十苦か分からん残念美形。
そんなクズ男と、クズ男に買われてクズのヒモ状態になってしまったエルフ美少女のもとへ静かに、だが確実に危機が訪れようとしている事実を・・・・・・この時の彼らはまだ、知るよしも無い・・・・・・。
それは、魔術師ジャガンが居城としている領地から、それほどは遠く離れすぎていない位置にある街で始まっていた危機。
教会支部の本部が置かれている建物の一角で、一人の少女が苦悩に思い悩みながら選ぶべき道を模索していたところへ突如として訪れようとしていた―――
「うぅ・・・・・・やはり、夢ではない・・・まだ記憶から消えてくれない・・・。
やはり私は、あろうことか魔術師によって、ううぐぅぅ・・・・・・ッ」
教会内にある一室で、机に突っ伏しながら鎧姿の少女が一人、唸り声を上げ続けていた。
赤い長めの髪をサイド・ポニーテールにしている、十代半ばで凜々しい美少女だ。
『シャスティル・リルクヴィスト』というのが彼女の姓名であった。
かつて魔族の王を滅ぼしたとされ、自らの意思で持ち主を選ぶ12本の聖剣の一つから、わずか13歳で担い手となることを許された現行で唯一の女性騎士長。
長く続いた事による弊害から形式主義に陥っている側面が現れはじめ、近年では内部での主導権争いも激化してきている教会内部において、若く清潔な彼女に期待する声もある新時代の逸材。
そして、先日ジャガンに救われて町の近くまで転移してもらった美少女でもある。
・・・・・・要するに、目の前で脳味噌グシャアー!で死んでく男の姿を間近で見せつけられ、そのままブッ倒れて気絶したまま移動させられた先で放置され、なんのフォローも誤魔化しもされてないまま記憶継続しちゃって忘れることが出来てない10代乙女の娘さんであった。
いくら騎士とはいえ、10代中盤の女の子が目の前で顔面握りつぶされてく男の顔を、正面から見られる位置でグシャァ!と潰されていくリアルなスプラッターシーンを見せつけられたら・・・・・・悪夢にうなされたり、嘔吐や頭痛に悩まされたり、フラッシュバックで苦しんだりぐらいはするだろう。普通に考えて。
そうなる可能性を全く考えてくれず、思いつくことすら出来なかった魔術師のクズっぷりには本当に彼女は泣いて良かったのだが・・・・・・実のところ彼女は、あの時の男のことを恨んでいたわけではなかった。
「・・・・・・やはり私は、聖騎士でありながら魔術師に命を救われたのか・・・・・・。
若い女たちを狙う卑劣な魔術師たちを討伐して帰還の途中に、聖騎士の一人に突然襲いかかられて、でも相手の正体は犯人たちの一味で、そしてあの男が・・・・・・ジャガンという者が現れて、そして・・・・・・うぇっぷ! お、思い出したら吐き気、が・・・・・・ッ」
自分が助けられた時のことを思いだし、助けてくれた男の、何の感情も映していないような瞳を――善も悪もなく、冷酷さも無情さすらもない、ただ当たり前のこととして相手を殺すことに何の感慨も抱く理由はないと思っているような恐ろしげな姿にゾクリとさせられ、そして。
・・・・・・その後に見てしまってた光景まで、続きで思いだしてしまい、青ざめた顔色で口元押さえて必死に色々と出しちゃいそうになるのを堪え抜く。
左右から押し潰されていく顔、徐々に飛び出してくる眼球、タコのように突き出された唇の中から飛び出してきた真っ赤な吐血―――何もかもが思い出すたびに、正直言って気持ち悪い。吐き気を催されてしまった仕方がない。
魔術師とは言え、剣で人を斬り殺している身として、些か繊細すぎる精神に問題を感じはするし、シッカリしろと叱咤する気持ちはあるのだが・・・・・・そんな感情論だけで吐き気が止まってくれるんだったら苦労はない。
「ぜぇ・・・、ぜぇ・・・、な、なんとか波は越せた・・・・・・しかし、あの男はなぜ聖騎士である私を殺さず見逃そうなどと・・・・・・魔術師を滅ぼすべき悪と見なす教会に属する私を・・・・・・」
「悩み事かね? 聖騎士長シャスティルよ」
「え? あ! こ、これはクラヴェル猊下ッ! ご無礼いたしまし――ウップ!?」
そんな所へ突然に背後から声をかけられ、振り返った先にいたのが自分の属する教区の責任者でもある上司《クラヴェル枢機卿》であることが分かった瞬間。
反射的に立ち上がって、騎士の礼を示そうとしたのだが、急激すぎる動きは今の彼女のグロッキーな身体には負担が大きかったのか、一度は退いていた波が再びブリ返してきて喉元まで迫り上がってきそうになるのを賢明に堪え、騎士の礼を途中停止させてでも無様と無礼を晒すのを阻止した女騎士。
そんな彼女の行動を、騎士らしくない、聖職者として修行不足―――などと詰るほどの狭量さも無能さも、クラヴェル枢機卿とは無縁な人物だった。
「よいよい、無理をして礼など返さず身体を労ることを優先しなさい。
いかに連続誘拐事件の犯人を討伐した英雄とはいえ、そなたが辛い経験をした一人なのも、また事実・・・。
仲間たちの死を悼んでくれているのであろう? 惜しい者たちであった・・・私からも深く彼らに感謝に、冥福を祈らせてもらいたい・・・」
「あ、有り難うございます猊下。ですが私が英雄などと・・・猊下から指揮を任されていた彼らの命を守ることも出来なかった私などが・・・」
「そなたのせいではない。見事に仲間たちの仇を討って帰還したのだ。
―――だが、この事件。まだ終わってはおらなんだらしい。魔術師のアジトを洗ったことで、他に真犯人がいることが分かったのだ」
「え!? そ、それは一体・・・いずこの何者が真犯人だったと仰るのですかっ!」
思いがけぬ情報を聞かされ、苦しみの残る身体を無理やり奮い立たせてでもシャスティルは聖剣を手に立ち上がる。
殺された仲間たちの死。それは仇を討ったところで帰ってくることは決して無い掛け替えのない命だが・・・・・・なればこそ、彼らのような犠牲者たちをこれ以上出さないためにも、あんな事をした連中を裏で操る者がいたとするなら必ず自分が討ち取る義務と責任がある!
シャスティルは、若く誠実で潔癖な社会的正義を実現する想いを込めて枢機卿の言葉に応じ、居場所さえ教えてくれれば今すぐに無理を押してでも『魔術師を倒してみせる!』という意気込みを示す。
その息上がる姿を見てグラヴェルは満足そうに、出来のいい弟子の成長ぶりを感心するように、あるいは――自分が作り上げた芸術品の完成度に満足するように満面の笑顔を浮かべて頷いた後。
・・・・・・一瞬前まで穏やかだった笑顔を一変させ、冷酷な瞳を見せつけながら、その言葉と名前をシャスティルに向かって開陳し、そして――
「《吸血鬼ジャガン》――。
迷いの森と呼ばれる深き森に立つ、荒れ果てた城に居を構える魔術師こそ、一連の誘拐事件の真犯に・・・・・・って、おおぉッ!?
ど、どうしたのかねシャスティル!? 何があったのだシャスティル! シャスティ―――ッル!?」
「~~~~~~~ッッ★×!☆△?■ !!!!!!~~~~~~ッ」
運命の出会いを果たした二人の元に訪れる、危機の予兆はこのとき既に始まっていた。
始まってはいたのだが・・・・・・実際に危機をもたらす現場責任者の実行係が体調不良によってドクターストップがかかり、もうしばらく危機を到来させに行くまでには時間が必要なようでもあった。
《教会から悪とされただけの善人だった魔術師》と異なり、《生まれながらに悪人だった魔術師》の恋と運命の出会いの物語は・・・・・・ちょっとだけ色々と汚かった。悪だけに。
悪者というのは汚いことをやるから、悪と呼ばれる存在である。
でも、こういう汚いまで悪と呼ぶかは、悪と呼ばれる側には分かりません。
それが、悪。(たぶん)
つづく