試作品集   作:ひきがやもとまち

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諸事情あって、今月に入ってから迷走中。その結果として出来てしまったのを、とりあえず投稿。
コードギアス銀英伝コラボ最新話です。一応はですが…。


コードギアス英雄伝説~もしも仮面の男が黄金の獅子帝だったなら・・・~第9章

 生き残ったゲリラ側のナイトメアに守られながら逃げ延びてきたシンジュクゲットーの住人たちは、放棄された物資保管庫の一つに集まって身を寄せ合いながら避難してきていた。

 ブリタニア軍はゲリラ側のナイトメア部隊が死守せんとしていると目された倉庫を中心に全軍を集結させ、完全包囲下に置くことに成功する。

 皆殺しを目的とした、全方位からの攻撃開始は秒読み段階に入っており、あとは総督からの指示一つ下りさえすれば、日本人たち全ての命が奪われることは誰の目にも明らかであった。

 

 倉庫まで逃げ込んだとはいえ、進退窮まったことに変わりはないゲットー住人たちの不満と不安は暴発寸前であり、その激情の矛先が自分たちを守って逃げてきたレジスタンスたちに向けられていないのは絶望と悲しみに暮れていただけが理由であり、別に感謝の思いや同胞意識といったものが理由ではない。

 

「アンタらがブリタニアに刃向かったりするから、こんな事になるんだ!!」

 

 鳴き声と嗚咽と怒りや不満の声で満ちあふれていた倉庫内に、溜まりかねた一人が叫び声を発して各所から賛同の声が上がる。

 

「なんだと!? 刃向かう度胸もないヤツのくせにッ!!」

 

 それに対してレジスタンス側からも反論が返される。グループ内でも感情的で知られる無軌道な面もある玉城という青年の怒鳴り声だった。

 顎髭をまばらに生やした強面の青年で、野卑た言動からヤクザ者のようにも見える。だが顔立ちなどは意外に若く、怖そうに見える印象を意識してのものかもしれない。

 

 彼としても、計算違いから市民たちを巻き込んでしまったことに罪悪感を感じる想い自体はあり、元を正せば自分が毒ガス奪取の作戦中に勝手な行動を取ってしまったのが事の始まりにもなってしまったため、痛いところを突かれた形になってしまった故の感情的な反発でもある行為だった。

 

 最初の発言者である青年も、ある意味では玉城と似たタイプの人間だったのか、発作的に持っていたサブマシンガンの銃口を向けながら怒鳴り返してきた相手の反応の激しさに口籠もり、次の言葉をすぐには返すことができなくなってしまっていたが、代わって声を出す者が現れる。

 

「この戦闘で、いったい何人死んだと思ってるのよ!? 私のお父さんやお母さんも・・・ッ!!」

「う、うるせー! こっちだって仲間が捕まったりやられたりしてんだ! アンタたちだけじゃねぇ!」

 

 粗末な衣服に身を包んだ若い女性が、頭を抱えながら悲痛な叫び声を上げるのを聞かされ、流石に玉城も先ほどと同じ勢いで応じることは難しくなり、返す主張もどこか言い訳がましいものへと変化する。

 その乱暴な言い返しは、だが本人の意図しないところで一面的な真理を突くものでもあった。

 

 何故なら今ここにいる者達は皆、『名誉ブリタニア市民』になっていない。

 日本人であることを辞め、帝国臣民として侵略者ブリタニアに忠誠を誓い、皇帝に尻尾を振って生きていく道を選んで《トウキョウ租界》に住む権利を得ていたなら、彼らが今回の事件に巻き込まれている現在はなかった。

 

 それはブリタニア視点から見れば、『帝国の支配を認めない反政府勢力の一員』であることを行動によって示すものでもある。

 住人たちからすれば、『明確に刃向かって銃を撃ったわけではない自分たち』は玉城たちと別物だと思っていたかもしれないが・・・・・・逆にブリタニアからすれば『テロリスト』と『テロリスト志願者たち』という程度の違いしかない。

 

 あるいは彼らは、自分たちの尺度だけで物事を考えるのに慣れすぎていたかもしれない。

 それまでの日本では、その理屈で通用していたのだろうが、敗戦国である日本の理屈を征服国側のブリタニアが尊重してやるべき義理と理由はどこにもないことを彼らは忘れていた。

 そのツケを今、盛大に支払わされている。

 だからこそ玉城たちを責める。彼らが行った行為だけを責め立てて、名誉ブリタニア人になる道を選ばなかった今までの自分たちの行動から目を逸らすために・・・・・・

 

「う、うわぁぁぁッ! ウワァァァァァッン!!」

「うるせー! 泣くなッ! 泣くなーッ!! ――クソッ! こんな事なら、やっぱあそこで毒ガス使ってりゃよかったんだっ。そうしていれば今頃は・・・っ」

 

 さすがに最後の言葉だけは声量を落とし、周囲には聞こえぬよう小声でつぶやき捨てるに留める彼。

 普段から素行の悪い態度で有名な玉城であるから、いきりたって銃を発砲してもおかしくない状況だと仲間たちは思ったかもしれないが、彼は怒鳴るだけで撃とうとはしなかった。

 それが彼なりの誠実さなのか、あるいは単なる内弁慶な言動の持ち主でしかなかったからなのか、それは分からない。

 

 どちらにしろ、彼の行動が凶行へ変わってしまうことを、グループのリーダーである扇という青年が止めることはなかった。

 それは武力によってブリタニアの支配に抗う道を選んだレジスタンスリーダーとしての判断ではなく、倉庫の中に彼の姿がなかったため騒動を見聞きすることが出来なかったらである。

 

 彼は無事だった三機のナイトメア部隊を率いて倉庫を守っている者達の一員であり、武装のみならず四肢や胴体が健在なまま残されているサザーランド最後の一機のパイロットになってしまってもいた。

 

 

『扇さん、ブリタニアは攻めてくると思う・・・? ここまできて攻撃するのを躊躇ってるなら、あるいは倉庫を守ってる私たちが降伏して投降すれば住人たちだけでも――』

「・・・いいや。奴らが今攻めてこないのは、包囲を完全な状態にしてからアリの子も逃がさずに全滅させれるのを待ってるんだ・・・。奴らは、俺たちが動けないのを知ってる・・・だからだよ・・・今更どうしようもない」

 

 生き残っていたナイトメアの一機で、当初から自分たちの所属でもあった唯一の機体《グラスゴー》からの通信に、扇は自らの願望も重ね合わせつつも、リーダーとしての責任感から冷静に状況を判断して、そう答えざるをえなかった。

 

 ゲリラたちのリーダーという役職からは想像しづらい穏やかな表情と顔立ちをした青年で、リーゼントの髪型という少し古めかしいファッションをしているのも見た目に迫力が欠けるのを意識してのものだろう。

 

 彼の予想は正しく、ブリタニア軍の進軍停止は、ただ攻撃すべきタイミングを計っているだけの一時停止でしかなく、『一方的な攻撃で殲滅可能になるタイミング』が訪れるのを待っていたのである。

 

 それどころか、戦術的有効性で考えれば、民間人ともども倉庫の中に立てこもっているゲリラたちを殲滅するだけで良ければ、空軍の爆撃機でも呼んで空襲させた方が手っ取り早く確実なぐらいだったのだが、作戦の都合上これ以上の騒ぎが大きくなるのはクロヴィスとしては避けたいところで、出来るだけ現有戦力だけでの解決を彼は望んでいた。

 

 また、たかがレジスタンス相手にナイトメア部隊を失いすぎたことも、彼にとっては痛手であり、ゲリラ討伐のため空軍まで呼ばねば勝てない無能な指揮官として笑われるのは、何としても避けたかったという事情もある。

 

『――あの声の人は、本当にやってくれるのかしら・・・? 自分だけ逃げている可能性だって・・・』

「・・・正直言って、俺にも分からん。だが今は、彼を信じるしか俺たちに生き残れる可能性が他にない以上は、どうしようも――」

 

 不安げな声で、自分たちに『最後の作戦案』を授けてきた謎の声の主について語り合う二人。

 敵の残存戦力すべてを前線へと押し出させて、敵のいなくなった後方の本陣をガラ空きにさせることを目的とした民間人を守りながらの撤退戦。

 

 『本体を囮にして敵本陣に切り込む』という作戦案を聞かされたときは正気を疑った彼らであったが、この状況を打破するには他に手段がないのも確かであり、古い時代の『桶狭間』を再現してくれることを期待して耐え忍ぶより彼らには選べる選択肢がすでになくなってしまっていた・・・・・・。

 

 

 ――また、ここまでに辿り着くまでの撤退戦の最中、彼らの大部分があずかり知らない一つの悲喜劇が戦場の一部でおこなわれている。

 

「コイツら・・・・・・無駄に被害を増やしてッ!」

 

 ランスロットを超高速機動で操りながら、スザクはコクピット内のモニター正面に映し出されている数機のサザーラントを睨みつけ、吐き捨てるように呟いていた。

 ゲリラたちの一部が憎きブリタニアの新型機を撃破するため、未だ戦場にとどまって戦闘を継続する道を選んでいたのと対峙していたのである。

 

 実のところ、『敵主力を誘引するため民間人を守っての後退しろ』という謎の声からの命令を、ナイトメアを与えられたゲリラたちの全てが受け入れて、従っていたわけではなかった。

 一部には、自分たちが得られる寸前まで行った勝利を水疱に帰した諸悪の根源たる『ブリタニア軍の白い死神』に恨みを抱き、生き延びる道が断たれたかに見える自分たちの道連れとするため残された僅かな戦力を結集して最後の総反撃に打って出ていたのである。

 

 これに対してスザクは、彼らの抵抗力を完全に削ぎにかかってきていた。

 本陣からは、『戦果は十分、撤退せよ』という指示が出ていたがスザクは『敵指揮官の逃亡を許した汚名を返上したい』という理屈で妥協を求め、クロヴィスも勝敗が決まった戦場跡で敗残兵の掃討程度なら許してやれという寛容さを示して恩を売ることを優先したため、スザクはルルーシュが撤退し終えた戦場に未だ残って戦闘を継続していたのだった。

 

 だが本体から取り残され、残された戦力をさらに無意味な戦闘で目減りさせる道を選んだ者たちは、スザクの目から見ても度しがたいほどに見境がなかった。

 追い詰められて窮鼠と化したのであろう。未だ町中に留まっている者もいるであろう民間人を巻き込む戦い方を平然と取ってくるのである。

 

 ズガガガガガッ!!

 今また、サザーラントの1機が常識を越えた動きで空を舞うように機動するランスロットの足を止めるため、敵機ではなく敵の上方に位置するビル群を銃撃して倒壊させ、瓦礫の山に埋めてしまおうという手に出た。

 スザクから見れば、暴挙としか言い様がない。メチャクチャな戦い方だったが・・・・・・その原因が自分の操るランスロットの常識外な機動で、敵兵がパニックを起こして錯乱状態に陥っていたせいだったとは、当事者である彼自身にはなかなか思いつけぬものでもある。

 

 そんな時だった。

 

「――っ!? あれは・・・ッ!」

 

 微かに、ランスロットのモニター内の端に人影が映ったのを、スザクの常人離れした動体視力は見逃すことなく、瓦礫の雨を掻い潜りながら機動していたランスロットを更に移動方向を修正して空へと舞い上がらせる。

 

 彼が伸ばした右手の先にある空間には、子供を抱えて悲鳴を上げながら落下していた、一人の日本人女性の姿があったのだ。

 スザクは彼女たちの救出に成功したが、その隙に敵残存部隊は体勢を立て直すため更にスラム街の奥へと撤退を続けていき、本体から遠ざかっていく。

 もはや彼らに逃げ場など世界中のどこにもなかったが・・・・・・選んでしまった以上は進むしかない道が彼らの選んだ選択だった。巻き込まれた者としては堪ったものではなかったが・・・。 

 

「大丈夫ですか?」

『・・・・・・ヒッ!?』

 

 機体の中でだけ呟かれていた問いかけは、だが外部には聞こえるようにセットし忘れていたらしい。

 あるいは聞こえていても結果は変わらなかったかもしれない。

 スザクに助けられた女性は、自分が死ぬことなく地上に降りられたことを実感して、自分たち親子を助けてくれた白い巨人が体の一部を光らせたのを見ると、つんざくような悲鳴を上げながら必死に背を向けて逃げていってしまった。

 

「・・・・・・・・・」

 

 まるでスザクこそが、自分たちを殺そうとした張本人であるかのような反応は、スザクの心を消沈させたが・・・・・・一方で、こうも思う。『その通りかもしれない・・・』と・・・。

 たしかにシンジュクゲットーへと逃げ込んで市民を戦闘に巻き込んでしまったのは都市ゲリラたちだ。

 

 ・・・・・・だが、彼らの罪を裁くため、シンジュクゲットー全体への攻撃を指示したのは間違いなく自分たちブリタニアであり、犯人であるテロリストたち以外の日本人まで殺し尽くす作戦をおこなっていたのもまた、スザクたちブリタニア軍人たちに他ならない。

 彼自身が呟いた先頃の言葉を思い出し、スザクは我知らず奥歯を噛みしめる。

 

『コイツら・・・・・・無駄に被害を増やしてッ!』

 

 ――あの非難が当てはまるのが妥当だったのは一体誰だったのだろう・・・?

 敵を倒すため、周囲の建物を破壊して戦場を拡大するテロリストたちだろうか?

 

 それとも――テロリストに奪われた毒ガスを“奪い返す”ため、住人たち全員を巻き込むことを作戦を行った自分たちだったのか・・・・・・?

 

 

 

 

 そんな彼の苦悩する心理までは把握しようがなかったが、機体のガンカメラに撮影されていた映像は逐一データ転送されてきて検証できるよう設計されていたランスロットの母艦とも呼ぶべきトレーラーの中で。

 

 おそらくは相手の上司になることが許されるであろう男、ロイド・アスプルンド伯爵が珍獣でも目撃したと聞かされたような声音で、素っ頓狂な声を上げていた。

 

「はァ? 戦闘中に人助け?」

「・・・・・・の、ようです」

 

 データ検証を重視して、戦闘中の映像そのものは見ないことが多い上司に対して、報告役を担っていた部下もスザクの行動に理解しがたいものを感じさせられ、結果として感情を交えぬ棒読み口調で事実だけを伝える義務としての報告を果たすことを選ばせたようだった。

 そんな常識に縛られすぎて官僚的対応にも慣れすぎてしまっている、退屈気味な部下にこれ以上聞いても無意味かと判断して、ロイド伯爵はトレーラーの外へ出るため背を向ける。

 

「ふ~ン? 変わってるなぁ本当に彼。―――どーせ死ぬことには変わりないのに」

 

 そう最後にポツリと付け加える言葉を残してから。

 そう、スザクが戦闘に巻き込まれたイレブンの民間人を助ける人助けをしたところで、助けられた女性も子供も結局は死ぬ。殺されることは既に確定している。

 そうクロヴィスが決定を下して開始されたのが、この虐殺作戦であり、この攻撃だったのだから。

 助けたところで所詮、死ぬ。

 今、同胞のイレブンに殺されるか。後で自分たちブリタニア軍に殺されるか。その程度の違いしかないのが、彼女たち親子が現在置かれてしまった立場であった。

 

 言うなればスザクは、後で自らが殺すために、日本側ゲリラの攻撃から親子を救ってやっただけ・・・・・・そういう解釈も成立してしまうのが皮肉すぎるスザクの現状でもあるのだ。

 そうなるという結果をスザク自身が予測できていない――という訳では無論なく、承知していても尚、命の危機に居合わせて見殺しにすることができないのが、彼という人間の性でもある。

 

 だからこそロイドは、《ランスロット》のパイロット――《デバイサー》と彼らは呼んでいる役割として見た場合のスザクを、こう評するのだ。

 

「いやァ~、最高のパーツだなァ、彼♪」

 

 まるで待ち望んでいたオモチャを与えてもらった子供のように、無邪気な声と表情で悪意なく、スザクの矛盾に満ちた行動と至るべき結末とを『最高だ』と絶賛してやまない。

 

 ――本来なら必要のない、無用なリスクに自分から飛び込んでいって不可能を可能にするような行為のために《ランスロット》を用いてくれる枢木スザク・・・・・・機体の起動データをこそ欲する伯爵としては、まさにスザクは理想的な《ランスロットのパーツ》に思えたのである。

 

 たとえ、その行為が結果的に無意味に終わる行為であったとしても。

 たとえ、上の意向で下級兵士がやった行いを無にする命令が下されると解っていようと。

 

 そんなものは、自分たち科学者とランスロットと、機体を動かすデバイサーには関係がない。

 彼はただ、ランスロットを使って望むところを成せば良く、ブリタニアの上層部は彼の行為を無駄にしたければすればいい。

 自分はただ、それらの中で得られたものを使って最高の機体を造れさえすれば、それで良い立場なのだから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、世の中にはロイド伯爵ほど割り切りがよく、自らの掲げる正しさを絶対視せず、無意味な行動への否定を受け入れぬ者への寛容さを、理由はどうあれ持ち合わせている人間ばかりではないのが事実である。

 

 

『イレブン共のテロリストと、巻き込まれた一般市民たちに告ぐ!!』

 

 扇たちが立てこもる倉庫の完全包囲と、黄昏時が近くなったのを確認された頃合いでのことだ。

 彼らを取り囲むブリタニア軍の中から一輛の装甲車が進み出て、スピーカーを使った演説口調で、何かを語りかけるため大声で割り込んでくる。

 

『吾々は、真に国と平和を愛するブリタニア帝国第三皇子クロヴィス閣下直属の治安維持部隊である! 《エリア11》の平和と安寧を破壊するテロリストたちよ、吾々は諸君らを弾劾する!

 偽りの正義におごり高ぶり、秩序ある生活を取り戻さんとしていた大部分のイレブンたちとブリタニア政府との意思統一を阻害し、平和を乱し、秩序を損なう行動を貴様らは示した! 身に覚えがあるだろう!? 吾々ブリタニアは貴様らの、その倨傲を弾劾する!!』

「・・・何を言っている! 先に毒ガスを造っていたのはブリタニアの方じゃないか! それなのに・・・っ」

 

 あまりに一方的な言い分を聞かされ、グラスゴーのパイロットでもある少女カレンは歯ぎしりするが、どうすることも出来ない。

 既に先の戦闘中に片腕を失っていた機体で、資金不足故に武装もない愛機ではどうすることも出来なかったのだ。

 激情家な面のあるカレンと違って、人が良すぎるきらいはあっても慎重な性格の扇は相手の言っている言葉に惑わされることはなく、むしろ少し呆れ気味に首を振る。

 

 ・・・・・・演出過剰の度が過ぎるあまり、まるで演劇のセリフのような演説だと思わざるをえなかったからである。

 これはクロヴィスの癖のようなもので、昼間におこなっていた公式発表のときと同様、芝居がかって演出過剰な人目を引きやすいものを好む傾向があるようだった。

 

『だが、《エリア11》を統治する任を陛下から託されたクロヴィス殿下は寛大な御方だ。

 巻き込まれただけの一般市民たちまでテロリスト共と一緒に死なせるのは忍びないと仰られ、彼らには弁明の機会を与えられるとの有り難い仰せである。

 もし無実を主張したい者がいれば、我々の前に出てきたまえ! ブリタニアは刃向かう者には死を給わし、従う者には寛容さを以て遇する道を知るものである!』

 

 自分たちから始めさせた虐殺作戦の最終段階で言うセリフでもなかったが、クロヴィスは単なる過剰な演出を好むだけの古典好きな青年ではない。

 実利を計算した上で言わせている主張が、この警告で狙っている効果であった。

 

 むろん彼らの側に、自分たちが言ったとおりのことを有言実行する意思など微塵もない。

 だが、追い詰められて命が惜しい者の中には、藁にもすがる思いで飛び付いてくるバカが必ず何人かはいるはずだ。

 其奴らとゲリラたちとの間で衝突が起き、混乱が生じた瞬間こそ一斉攻撃のチャンスだった。

 ありもしない助かる可能性に手を伸ばし、敵同士がぶつかり合っているところへブリタニア軍がなだれ込めば、最初から勝負にもならない一方的な虐殺の末に目的が達成できるのは確実なのだから・・・・・・。

 

 そして彼らの予想したとおり、倉庫の中から先程までより大きい怒鳴り声や叫び声が轟き始め、自分たちが背後に守る倉庫内で生じたらしい騒動に表のナイトメア部隊にも動揺が走ったのを見て取った指揮官は、会心の笑みを浮かべていた。

 

 走行車両の天井から身を乗り出し、天に向かって右手を高々と掲げる。

 

「逃げようなどとしなければ楽に死ねたものを。こんな所まで逃げ込んでしまった、自分たちの愚かさを地獄で呪うがいいイレブン共よ。

 ――撃ち方用意・・・・・・撃てッ!!」

 

 そして、ハエでも払うかのように右手を下ろし、ゲリラたち共々イレブンの一般市民たち全ての命をクロヴィス殿下の隠したい秘密を隠すために捧げさせる決定を下す。その結果。

 

 ズガガガガガッ!!!

 

 と、激しい銃声が鳴り響き、周囲にいた兵士たちの鼓膜を圧して、戦場にさえなることが出来なかった空間に死と破壊と硝煙の匂いを充満させる。

 無数の火花が散りばめられ、花の一つ一つから実のような丸い物体がコロリと落ちて転がり、折られた枝のようにねじ曲がった人の一部が各所へ花弁のように落ちていく。

 

 赤い赤い、真紅の絨毯が敷き詰められたように、倉庫があった一帯は赤く血で塗装されることになる。

 

 

 ・・・・・・ブリタニア兵士たちの赤い血によって。

 

 

 

 

「な、何が・・・何が起こったのだ!? 誰か説明しろ! オイ!」

 

 混乱と衝撃から立ち直れぬ中、装甲車から上半身を出していた部隊長が周囲の味方に向かって怒鳴り散らすように詰問の声を叫び出していた。

 彼の周囲には多くの兵士たちが死体となって横たわり、ある者は車の窓から上半身だけ垂れ下がったまま動こうとせず、ある者は天を仰いだまま口をポカンと開けて訳も分からず命を奪われた理不尽を誰かに向かって問い詰めたがっている。

 

 それは何の前触れもなく急激に起きた変化であり、惨事だった。

 目の前のイレブンたちを攻撃しようとした直後に、彼らは突然に『背後から』機銃掃射を浴びて次々と殺されていってしまったのである。

 

 隊長自身も頭部を負傷して血を流していたが、そんなことを気にしている余裕は彼らになかった。

 来るはずのない背後からの攻撃。いるはずのない後背の敵。

 だとすれば、敵は相応な数の伏兵を伏せていたということだろうか? どちらにしろ状況を把握しなければ何も出来ない・・・・・・とにかく司令部との通信を・・・・・・そう思っていた。しかし――

 

「ほ、報告します! 背後から突然の砲火を浴びて、我が部隊は甚大な損害を受けた模様でして、その・・・・・・」

「そんなことは言われなくても分かっている! どこからだ!? どこから撃たれた!? 敵はどこに潜んでいる!? 今はそれだけが重要なのだ! 早く調べて報告しろ!」

「そ、それがその・・・・・・う、撃ってこられた場所は分かっているのですが・・・」

「ならそれを早く言わんかグズが! この状況で修正されねば気が済まんか!?」

「き、旗艦です・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・なん・・・だと・・・・・・?」

 

 部下からの報告に、一瞬隊長は呆けたような表情で相手を見つめて呆然とする。

 見ると周囲を固めていたナイトメア部隊も一様に唖然とした雰囲気に包まれており、彼らが信じられないものを見て動きと思考を止められていることが、ゲリラたちの真っ正面に立っていた隊長にもようやく理解することができるようになる。

 

 それはつまり・・・・・・嘘ではないという証明だった。

 

 隊長は呆然としたまま、戦況を督戦するため前線まで本陣を進めてきていた、クロヴィス閣下が座乗する陸上戦艦を見上げて声を失い、いったい何を言えばいいのか分からず数秒が過ぎた頃。

 ようやく何かを言おうと口を開き掛けた瞬間。

 

 ブリタニア皇族クロヴィス殿下が座乗する旗艦であるはずの陸上戦艦から、“その男の声”が聞こえて響き渡る―――

 

 

『臆病にして蒙昧なるテロ国家のブリタニア兵諸君。

 私は諸君らが定義するところの、不逞にして凶悪なるテロリストだ。

 吾々は、諸君らにとっては敬愛すべきブリタニアの第三皇子クロヴィス殿下を、素敵な人質の身分へとご招待させてもらった。

 ブリタニア軍の指揮官には、誠意と礼節を以て脅迫の文言を申しつける。心して聞くよう厳命する』

 

 

 その余りにも不遜不敬、無礼極まりない理不尽な言いように、ブリタニア軍の兵士たちは身分の上下に関係なく腹を立て、この無礼者の死を望んだが―――それを制止する声が入り、再び彼らの心は困惑の坩堝へ叩き落とされることになる。

 

 

『わ、私はエリア11総督にして第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアである・・・・・・た、ただちに戦闘を停止してイレブンを――い、いや日本人たちを逃がしてやるのだ。

 誰も撃ってはならんぞ? よいな? ブリタニア全軍よ、私を助けるのだ! わ、私は死にたくない・・・っ、私はまだ死にたくないのだッ! 死ぬのは嫌だー!! 助けてくれーッ!!!』

 

「で、殿下・・・・・・?」

 

 あまりに正直すぎる『自分たちの指導者一族の言葉』に隊長は、自分の頭がおかしくなってしまったのだと本気で思っていた。

 こんなはずはない。世界に覇を唱えるブリタニアの皇族が、このように浅ましく生にしがみついて死を恐れ、まるで凡人のような命乞いをするなど現実にあり得るはずはない。何かの間違いだ―――いや、そうではない。

 

 ――殿下は演技をしておられるのだ。本心では自分ごとテロリストを撃てと仰っておられる。敵の油断を誘うため、敢えて敵の策に乗って見せておいでなのだ。

 確かに敵がどうやって旗艦内へと侵入し、旗艦の砲手まで制圧してしまうほどの人数を入れてしまっていたか分からぬ以上、如何なる手を使おうと決して逃さず確実にブリタニア将来の禍根を断とうと思えば、こうもなろう。

 さすがは殿下だ。命を賭して帝国の未来の脅威を取り除かんとしておられる。そうだ。そうに違いない。それ以外の可能性などあるわけがない。

 だから吾々は殿下のご遺志を無駄にするようなことをしてはならない―――

 

「―――承知しました、殿下。しかし・・・・・・」

『黙れ! 貴様らは黙って私の命令に従い、全軍撤退せんか無能者が! 私の命令が聞こえないのか!? 口答えなど許さん! 身分卑しき帝国騎士風情が、何様のつもりだ無礼者めが!!』

「・・・・・・ですが殿下。テロリストの言うことに従ったところで殿下のお命が――」

『黙れ黙れ!指図するな! お前は私を殺したいのか!? ブリタニア帝国の第三皇子である、この私を!

 売国奴め! 非国民め! だから貴様のような低い身分に生まれた者など信用すべきではなかったのだ!

 もし貴様が彼奴めの要求を無視して私が殺されたとき、貴様は責任を取れると言うのか!? たかが帝国軍兵士でしかない貴様如き下っ端に! 出来んのだろう!? 出来んのなら大人しく引っ込んで軍を辞め、辺境で野菜作りでもしているがいい!!』

「・・・・・・・・・」

『貴様ら兵士たちは、自分で考えて動く必要などないのだ! 生きるために戦う兵士など我が偉大なるブリタニア帝国には必要ない!! 疑問や反発など抱かず命令のまま喜んで死んでいける者こそ、真に帝国が求める優秀なる兵士なのだ! 私の命令には全て、「サー」と答えろ無能者! 返事はどうした!? 早く行け! この愚図ッ!!

 この私を死なせたいのか!? 皇族殺しの反逆者めが―――ッ!!!』

 

 もはや隊長には返す言葉もなければ、言葉を返してやろうという意思すら残されてはいなかった。

 あるいは隊長以外すべての者達もそうだったかもしれない。

 紛れもなくクロヴィス自身の肉声で発せられ、戦場全てに轟き渡っていた大音量での命令内容は、ブリタニア帝国兵士たちの士気と忠誠心を完膚なきまでに損失させ、やってられるかという心理に陥らされ、本来ならば疑うべき部分ややるべき事を放棄したい気持ちを抑えさせる最後のブレーキを外すことを・・・・・・クロヴィス自身が舌でサインしてしまう結果となっていたのだから。

 

 

「・・・・・・・・・了解しました。これより殿下の御身を守るため、ご命令通り撤退いたしますサー」

 

 棒読み口調でそれだけ言って、隊長はさっさと生き残った部下たちを率いて撤退準備を始める作業へと没頭し始めてしまっていく。

 ジェレミアなど、一部の指揮官たちからは慎重論も出されていたのだが、

 

「どういう事だコレは!? 本当に先程の宣言は殿下ご自身の意思でなされたものなのか!?」

「お、音声などは殿下のもので間違いありません。脅されて仕方なく言っておられることは確実だと思われますが、証明する手段は吾々には・・・・・・」

「バトレー将軍は!? 殿下の側近であられる将軍は、どこにおられる! 参謀府の意見を聞きたい!」

「しょ、将軍は不在らしく連絡がつきません。参謀たちも退室している間に乗っ取られていたらしく、おそらく旗艦を占拠したテロリスト共に囚われているのではないかと・・・・・・」

「くぅ! それでは現在この場で、殿下からの命令を覆せる者は誰もおらんということになるではないかッ!」

 

 叱責に怯える下士官から話を聞かされたジェレミアは、心の中で歯噛みしながら声に出しては歯軋りした。

 階級国家であり、専制国家でもあり血統主義の皇帝一族による独裁国家ブリタニア帝国において、全ての法に優先されるのは皇帝からの勅命であり、それに次ぐ決定権を有しているのは皇族からの命令である。

 その皇族から直々に下された命令を、ジェレミアたち帝国騎士が独断だけで無視するのは不可能だった。

 

 たとえ、どれほど怪しく、信憑性がないものとしか思えぬものであろうと、遙か上の上層部が下した決定と命令を無視して動くには、未だジェレミアの地位身分は低く、このエリア11内限定でさえ政治面で影響力を行使できる存在と目されるまでに至っていない現段階の彼では、動きたくても動きようがない。

 

 無論、皇族をテロリストの人質に取られたまま、ただ撤退するなど有り得ない。

 人質奪還のための作戦立案と、その為の準備も含めて一時要求を聞いて見せてやるだけのこと―――そういう“口実が得られた”と感じている者が一定数以上いたとしても、それは個人個人の心がけ次第でしかない問題なのだから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 そして――――

 

 

 

 

 

「―――はっ! ・・・わ、私はいったい何を・・・・・・?」

 

 指揮官席に座ったまま、白昼夢から目覚めたばかりのような心地とともに、クロヴィス・ラ・ブリタニアは暗くなっている艦橋内をいぶかしげに見渡して、首をかしげる。

 

 妙な気分だった。なにやら先程までイヤな悪夢を見ていた気がする。最近の忙しさのせいで疲れが溜まり、僅かな時間うたた寝をしてしまっていたかもしれない。今日は早めに休んだ法が良さそうだった。

 

 しかし、そう言えば眠ってしまう寸前に、誰かが室内に入ってきていたような気がしていた。

 その人物が自分の前まで来るのを誰も止めようとはせず、目の前まで来てヘルメットを脱いだ人物が何かを呟いた時、その瞳が怪しく輝いたような幻覚を、自分は見てしまっていたかのような気色の悪い悪夢を・・・・・・

 

「――もういいだろう。三文芝居の悲劇を演じる役者としては、いい歌だったよクロヴィス兄さん」

「なっ!? 貴様・・・いったい何者だ! いつの間に私の傍らに――警備兵は! 部下の者はどうしたのだ!?」

「追い払いましたよ。あなた自身の命令でね」

「なん・・・だと・・・・・・?」

 

 相手の言ってる言葉の意味が分からなかった。

 相手の力に支配されている間の記憶を持たないクロヴィスには、自分が何を言わされ、何を部下たちに命じていたかなど何も覚えていないのだ。

 

 その間の記憶を持たないクロヴィスが、このブリタニア帝国軍の軍服をまとってはいるが、明らかに中身はブリタニア軍人ではない、皇族に向かって銃口を押しつけてきている無礼者のことで思い出せる記憶は一つだけ――

 

「貴様! いったい・・・・・・誰だ・・・?」

 

 明らかに日本人ではない髪と瞳の色。

 平民の生まれにしては整いすぎた、貴公子的な容貌。

 自分に近づいてくる時に示していた、一朝一夕には身につかぬ完璧な礼儀作法。

 そして―――ああ、今ようやく思い出した。

 

 幼い頃に自分が“彼”と遊んでいた場所の名を出され、一瞬の隙を突かれてしまった瞬間の出来事を・・・・・・

 

 そんな皇族の中ですら知っている者など一人しかいないはずの情報を。

 その人物亡き今、それを知ることが出来る者は生前の彼と近しい者しかいないはずの存在が――――ヘルメットを脱いで素顔をさらし、自分に・・・・・・顔を見せてくれる。

 

 

「お久しぶりでございます。

 今は亡き、故マリアンヌ后妃が長子、第17皇位継承者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。呼ばれもせぬのに戻って参りました。

 この帝国に振り回される馬鹿げた世界の歴史を終わらせるために―――」

 

 

 

つづく

 

 

オマケ【今話の中でルルーシュが使った《ギアス》の命令内容】

 

 

クロヴィス=『俺の脅迫に、三文芝居で合わせて演技をしろ』

旗艦の砲手たち=『合図があり次第、ブリタニア軍を背後から撃ち殺してから自殺しろ』

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